【 三十の歌 】  

「 有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり 憂きものはなし  」

    



         有明の・・・・・・・ありあけの
           つれなく見えし・・・つれなくみえし
             別れより・・・・・・・わかれより
               あかつきばかり・・・・・あかつきばかり
                 憂きものはなし・・・・・うきものはなし
   






 
  
作者: 壬生忠岑(みぶのただみね) 生没年不明
          
   二十九の歌の作者「凡河内躬恒」と同様に、官位は低かったが歌人として優れ、古今集撰者のひとりに任ぜられ、
   三十六歌仙のひとりです。
      四十一の歌の作者「壬生忠見」の父。
                              


   < 歌の意味 >
        
       ○  いつまでもこうしていたいが、もう有明の月がかかって夜が 明けてきた。もう帰らねば・・・・。

       ●  忠岑さま・・・ あの・・・・・

       ○  え?

       ●  いえ・・・・・
           ・・・・・・・・
           忠岑さま・・・お許し下さい。もうお会いできません・・・。

       ○  え?、なぜだ。ほかに好きな人ができたのか?・・・

       ●  いいえ、ちがいます。
           どうか、わけはお聞きにならないでくださいませ・・・。

       ○  ・・・なぜあの人は心がわりしたのだろうか・・・・・

        < それからまもなくして、その人は父のいいつけで、ほかの男と結婚し、地方へ下っていったという噂を
     忠岑は聞きました>

       ○  ・・・やっぱりそうだったのか・・・。

          それ以来、わたしには有明の月のかかる夜明けがつらいものになってしまった。
                          


    ・「有明」・・・有明の月。夜更けに出て夜が明けてもまだ空に残っている月。
    ・「別れより」・・・別れたあの日から
    ・「あかつき」・・・夜が明けようとする寸前
    ・「憂きものはなし」・・・つらく思われるものはない
            
     


       この歌については、「つれなく見えたのは、いったい何か・・・」 という点でいくつかの説があるようです。

       ひとつは、月も女もつれなく見えたとする説
       もうひとつは、つれなく見えたのは有明の月で、女がつれなかったのではないとする説。

       定家は、後の説を取ったようですが、ここでは、よりドラマティックに前の説をとりました。
 
       ただでさえ冷たく見える有明の月に、女の無情な心変わりが重なってそれ以来あかつきがつらく悲しいものに
    なってしまったという、女を怨む気持ちが込められています。