【 二十七の歌 】 

「 みかの原 わきて流るる いづみ川 いつみきとてか 恋しかるらむ


         みかの原・・・・・・・みかのはら
           わきて流るる・・・・・わきてながるる
             いづみ川・・・・・・・いづ(ず)みがは(わ)
               いつみきとてか・・・・・いつみきとてか
                 恋しかるらむ・・・・・・こいしかるらむ(ん)
    






     
  

  作者: 中納言兼輔(ちゅうなごんかねすけ)。877〜933年
        
      藤原兼輔(ふじわらのかねすけ)三十六歌仙の一人で、王朝初期の歌人として有名。
          紫式部の曾祖父とも言われる。
          立身出世して中納言に至り、加茂川の堤に住んだので、堤中納言と呼ばれた。
                         
     


   < 歌の意味 >
        
    ーーー 兼輔が宮中へ出仕しはじめてまだまもない若いころーーー
   
    (男たち)兵部卿宮の姫君は、とても美しいらしい・・・。
              まるでなでしこの花のようにやさしい方だそうだ。
              おまけに、和歌も琴もじょうずだといううわさだよ。
    (兼輔)あってみたいな。一度・・・。
            なんとかして逢いたいなあ。
            一度でいいから、逢いたい。
            ああ早く逢いたい・・・・。

       こうして、兼輔がまだ見たこともない人を恋してしまった苦しい気持ちをよんだのが、この歌です。

      「 みかの原を、ふたつに分けて流れる泉川よ。そのいずみ川の、いずみ(いつ見)のように、
    あなたをいつ見たというのか。まだ一度も逢ってやしない。それなのに、なんでこんなに
     恋しいのか。とにかく、あなたに逢いたいのです。 」
       


    ・「みかの原」・・・京都府相楽郡を流れる木津川の北岸あたり
    ・「わきて流るる」・・・みかの原が、泉川の両岸に二分して広がる
            状態。「分き」と「湧き」をかけ、「泉川」につなげている。
    ・「いつみきとてか」・・・いつ逢ったというのか。
           


        「逢わざる恋」の歌。
         当時の恋は、今のように知り合って恋におちるのではなく、まだ見ぬ人にあこがれ、恋文や歌を贈って求愛します。
         当時の男たちは、たくましい想像力をもっていたのでしょう。

         しかし噂通りの美人だったらいいが、そうでなかったら・・・・。
         それこそ「源氏物語」の末摘花のような例がよくあったのかも知れません。

         想像力ゆたかな源氏は、末摘花の弾く琴の音に惹かれて、彼女をたいそうな美人に空想し、邸に忍びこんで顔を
     見ることなしに一夜をともにします。
        
     朝の光でふと見ると、これがなんと激ブス。真っ赤な鼻がやたらに長く、垂れて馬面。
         しまった・・と思っても後の祭り。
         それでも優しい源氏は、純真な彼女に同情してあとあとの面倒を見ます。いい話ではありませんか。

    


        いまは、写真や映像がはんらんし、何でも目の前にバッチリあるので 「想像力」が減退してしまっているようです。
        もっと想像力を働かせ、心を刺激する必要があるとおもいませんか。