京葉線・武蔵野線
蘇我−南流山間貨物運転工事について
佐藤信之
記事:『鉄道ジャーナル』平成10年6月号掲載
注:入稿後の修正については反映しておりません。また、図・表も省略しています。
運輸省は,都心道路の混雑緩和と地球温暖化対策として,旅客専用である京葉線・武蔵野線蘇我−南流山間で貨物運転を行うための設備に対する補助事業を開始する。
・東京外環状貨物線構想
現在外房線の蘇我と東京を結ぶ京葉線は,総武線のバイパス旅客ルートとして重要な役割を担っているが,計画当初は,品川(現東京貨物ターミナル)−木更津間の貨物専用線として計画された。実際に稼動していた千葉貨物ターミナルの他に海浜幕張〜新習志野間,市川塩浜に貨物ヤードや貨物ターミナルを建設計画を持っていた。
京葉線の建設は,首都圏の貨物輸送ルートの改造を目指した一大プロジェクトの一環であった。首都圏の外郭環状ルートとして貨物専用の武蔵野線を建設。さらに鶴見から通称品鶴線を経由して汐留までの旧東海道貨物線ルートを,鶴見で海沿いに進路を変え,東京貨物ターミナルを経由して品川で旧線に繋がるルートに変更した。そして,京葉線は,東京湾沿いに西に進んで,新木場からさらに路線を伸ばして東京貨物ターミナルで東海道貨物線と接続する計画であった。
・貨物鉄道整備補助制度
運輸省は,平成9年8月「CO2削減運輸政策プログラム」をまとめた。同年末に京都で開かれた国連環境会議にむけて事前に国内の調整を済ませる必要があった。
この政策プログラムは,「環境にやさしい自動車の開発と普及促進」と「モーダルシフトの推進とトラック輸送の効率化」の二本柱で成り立っており,モーダルシフトでは,鉄道と海運がシフトの受け皿とされた。そして,鉄道側の取り組みとして,京葉線・武蔵野線ルートの貨物運転が計画された。まず1998年度から第1期工事として,蘇我−南流山間の貨物運転施設の整備に着手するというもので,将来は第2期として京葉線南船橋−新木場間・臨海副都心線新木場−東京貨物ターミナル間に拡大する構想も持っている。同年9月には国による助成策が運輸省からの予算概算要求に盛り込まれた。
そして,平成10年度予算で,運輸省の「貨物鉄道整備補助事業」が新規事業としてみとめられた。国が対象事業費の30%を補助するというもので,旅客路線の高速化に対する幹線活性化補助金(20%)に相当する制度である。活性化補助金では,補助金に見合う分として,自治体が総事業費の20%を出資金として負担して第三セクターを設立,建設主体とすることになっている。(ただし,平成9年度予算概算要求の段階では,宗谷本線と豊肥本線に対する活性化補助金の補助率を30%に引き上げることが見込みれていた。)
・京葉臨海鉄道
今回,京葉線と武蔵野線の貨物化の事業主体は,かつて国鉄が出資して設立した京葉臨海鉄道である。昭和38年に蘇我−浜五井・京葉市原間の最初の路線を開業した。現在は,JR東日本の蘇我駅から京葉久保田までの23.8kmの貨物鉄道を経営するが,その一方で,JR貨物から小名木川,新小岩(本年3月より),蘇我駅の貨物業務を受託し,また旧村田駅の千葉貨物駅構内の機関区,貨車区ではJR貨物の機関車,貨車の検修を実施している。この検修委託にともない,JR貨物は,佐倉機関区を蘇我駅に移転して千葉機関区とした。また,京葉線唯一の貨物扱い駅であった千葉貨物ターミナルは,現在では廃止されて,コンテナの取り扱い業務は京葉臨海鉄道の千葉貨物駅に変更している。
現在,JR貨物が筆頭株主として33.6%を出資。続いて千葉県が33.1%の株を保有する。JR貨物の関連会社であると同時に,公共部門の出資する第三セクターとしての性格も合わせ持っている。
そこで,今回の京葉線・武蔵野線の貨物化では,事業主体として抜擢された。当初は,第三セクターを新規に設立して建設に当たらせる方向で進んでいたが,結局,貨物鉄道として実績があり,運行主体であるJR貨物とも深い関係にある京葉臨海鉄道に白羽の矢が立てられた。
現在,国の補助金に見合う自治体の負担分として,従来の幹線活性化などの制度における第三セクター設立の出資金に相当する金額をどのような形で支出するのか,現在検討が進められている。一つは,増資により公共部門が出資を増額する方法が考えられるが,これに対しては筆頭株主の地位を奪われたくないJR貨物が難色を示しているという。代案としては,補助金や自治体からの無利子貸し付けが選択肢となるようである。具体的な議論は,国の平成10年度本予算が議会で承認されてからとなる。さらに自治体の負担については,秋口に予想される千葉県の補正予算で決定することになるのであろう。
・計画の概要
京葉臨海鉄道が施工する分の総事業費は42億円余りで。1998年度国による補助金5億円が予算に計上された。他にJR貨物独自の工事分として10億円が予定されている。
1998年度から2年間で待避線の新設,延伸,信号システムの整備を実施する計画である。まず本年度中に千葉貨物ターミナルと西船橋駅で待避線の建設に着手する。
現在,蘇我−越谷貨物ターミナル間を総武快速線・新金貨物線・常磐線・武蔵野線を経由しているが,蘇我−西船橋−越谷貨物ターミナル間を直行することで,約11kmのルートの短縮が図られ,2時間ほどの所要時間の短縮が実現する。この区間を現在1日33本運行して,年間約260万トンを輸送しているが,さらに1日8本増発が可能になるという。年間10トン・トラック約6万台の貨物が鉄道へ転換されると試算している。
ところで,埋立地に建設された京葉線が強風に弱いことが懸念されることから,異常時の対策として,現行の総武快速ルートも残したいという。しかし,JR東日本は,貨物列車の移転により輸送上のネックとなっている千葉駅と総武快速線に余裕が生まれることで,旅客列車の増発を図りたい意向を持つようである.とくに,千葉駅では外房線からの上り貨物はホームの無い貨物用の0番線を発着しているが,下り貨物は旅客ホームの6番線を通過している。また0番線も総武快速線へ入るには総武緩行線の上下線を渡らなければならないため,緩行線ダイヤにも影響している現状である。
開業後は,運行主体であるJR貨物は工事を担当する京葉臨海鉄道にリース料を支払って施設を使用することになる。さらに,JR貨物は京葉線・武蔵野線を所有するJR東日本に対して線路使用料を支払うが,京葉線は日本鉄道建設公団が建設してJR東日本に貸し付けられているため,JR東日本は日本鉄道建設公団に対して建設資金として借損料と呼ばれる線路施設のリース料を支払っている。
・将来構想
将来は,京葉線貨物ルートを東京貨物ターミナルまで延長する構想がある。千葉港のコンテナターミナルは東南アジア向けのみのため,他の地域向けのコンテナは東京港や横浜港のコンテナターミナルまでトラック輸送する必要がある。直通のコンテナ列車の運行が実現すると,1日数百台のコンテナ輸送トラックが不要となる計算という。