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大阪外環状鉄道について

佐藤信之

 

記事:『鉄道ジャーナル』平成1110月号掲載

注:入稿後の修正については反映しておりません。また、図・表も省略しています。 

 平成3年5月27日,運輸政策審議会の地域交通部会から「大都市の鉄道整備の基本的方向と具体的方策について」と題する答申が提出された.大都市における鉄道整備のための運賃制度や助成策と経営主体について論じられている.運賃制度については,特定都市鉄道整備積立金制度の拡充とピークロードプライシングの導入.助成策については鉄道整備基金による補助金,無利子貸し付け制度の活用.また鉄道整備による,当事者以外のものに対する外部利益の鉄道整備への還元策の導入.さらに経営主体として,民間活力の導入による第三セクターの活用と,建設主体と運営主体の分離などが示された.いずれも現在までの大都市鉄道政策を支配しているテーマである.その文末に,貨物鉄道の旅客化が取り上げられた.しかし,国鉄時代に武蔵野線,山手貨物線,東海道貨物線で旅客列車の運転を開始して以降,新たな貨物線の旅客化はJR西日本の西九条〜梅田貨物駅〜新大阪間のほかは,本線の工事にともなう迂回運行や週末の行楽列車の運行などにとどまった.貨物線を現状の施設のままで都市交通に組み込むことはできないため,旅客化には1,000億円規模の投資を必要とすることになる.そのため,自治体主導で建設主体として第三セクターを設立したとしても,国による助成制度なしには事業化は難しかったということがいえる.

 大阪外環状線は,吹田−加美間のJR西日本の運営する城東貨物線を電化・複線化して旅客化を図るというプロジェクトである.昭和2712月に城東貨物線客車運行促進同盟会が結成されて以来の,沿線自治体にとっての長年の懸案となっていた.国鉄は,昭和56年4月3日運輸省に対して城東貨物線の旅客化と片福連絡線の建設についての工事施行認可申請を提出,16日には認可されることになる.片福連絡線の方は国鉄改革にともないJR西日本に事業が引き継がれて,JR東西線として一足先に実現した.いっぽう城東貨物線のプロジェクトについては昭和58年4月に連続立体交差について事業採択,昭和62年4月にはJR西日本に継承されたが,事業の進展はみられなかった.

 大阪外環状線プロジェクトは,具体的には,単線・非電化の城東貨物線を電化・複線化するものであるが,片町線と線路を併用する鴫野−放出間に複線を増設,東海道線吹田操車場に接続しているのを新大阪に乗り入れるために南吹田−新大阪間の新線を建設,また加美−久宝寺間の貨物ヤード内に複線の旅客線ルートを新設するというもの.それにより新大阪−久宝寺間の複線・旅客路線を構成させようという計画である.当時,一日利用者約30万人,最大混雑区間一日6万人を見込み,総工費は1,050億円とした.

 都心に新しい地下ルートを建設する片福連絡線とは違って,既存路線の改良であるので総事業費は小さいが,いっぽうでは,もともと都心をバイパスする貨物路線であることから十分な旅客需要の見込めないプロジェクトである.そのため,国鉄時代には財政難から事業着手が先延べにされ,JR西日本にとっても自前の資金で事業化するほどのメリットが見込めなかった.公的助成措置が待たれたのである.

 平成元年5月の運輸政策審議会10号答申で,大阪環状線新大阪−鴫野−放出−加美間が2005年までに整備することが適当である区間として指定される.大阪市外縁部の既存の放射状の鉄道路線を相互に連絡すること.JR関西線などの混雑緩和と都心ターミナルへの集中緩和に資することがその理由としてあげられた.ここで公に認知されたれたことにより,公的助成制度が適用されて,事業着手という手はずになるはずであったが,すぐには事業化には結びつかなかった.線路を保有するJR西日本は建設主体となる意思はなく,新たに建設にあたる事業体の設立が必要であった.一時,片福連絡線の建設主体である関西高速鉄道が検討対象となったが,出資自治体がかならずしも外環状線沿線に位置しないことから外された.平成5年11月に設けられた大阪外環状線鉄道建設連絡協議会による自治体間の調整での紆余曲折を経て,外環状線沿線自治体の出資による新たな第三セクターを設立することになった.

 平成8年1121日に第三セクター「大阪外環状線株式会社」が設立された.年度末現在払込資本1,790万円.事業の進捗に合わせて逐次増資して,最終的に240億円程度となる見込みである.出資比率(最終見込)は,公共部門が70%,民間が30%で,公共部門の内訳は,大阪府28.7%,大阪市28.7%,東大阪市8.4%,吹田市2.1%,八尾市2.1%のとおり.民間部門ではJR西日本が大阪市,大阪府に次ぐ20%となる予定とされたが,これに対してJR西日本は「出資は必要最小限とし,20%は論外」(『朝日新聞』1996.12.17朝刊)との意志を示して調整が難航した(現在なお結論は得られていないようである).現在調査,設計などが進められている段階で,今後工事施行認可申請,環境評価,都市計画決定などの手続きを済ませて,平成10年度には工事に着手して,17年度には完成を目指すことになるという.総事業費約1,200億円を見込む.完成後は,片福連絡線(現JR東西線)同様に,JR西日本が運営にあたる.平成8年12月大阪外環状鉄道は第3種鉄道事業者,西日本旅客鉄道が第2種鉄道事業者として鉄道事業免許が交付された.

 事業主体の設立に先立って,平成8年5月「幹線鉄道等活性化事業費」の補助対象に認定された.幹線鉄道等活性化事業費補助金とは,JR東日本の山形新幹線の建設にあたって設けられた補助金制度で,国は対象工事費の20%を補助するというもの.地方自治体は事業主体となる第三セクターへの出資金の形で,国の補助金とおなじく総事業費の20%を負担することになる.この制度は,平成9年度に採択されたJR北海道の宗谷本線の高速化とJR九州の豊肥本線の高速化・電化では,補助率が30%に引き上げられた.JR北海道とJR九州の経営支援の一貫として決定された.

 平成9年度には,大阪外環状線と西名古屋港線の旅客化が対象事業に採択されたが,これは従来の対象事業が地方の幹線に限定されていたのに対して,都市路線への初めての適用ケースとなった.また補助内容も,国の補助率が総事業費に対して12.96%となった.他の建設費補助金制度における対象事業費に対する補助率に換算すると,15%となるのであろう.また工事費に対する地方自治体などによる出資金の比率は20%でかわらないが,自治体はこのほかに国と同率の補助金を交付することになった.JR北海道,JR九州の事業に比べて国の負担が減り,その分自治体の負担が増加している.

 また建設財源のうち54.08%が借入金により調達されるが,その内7割が自治体が地方債を発行して第三セクターに転貸しする転貸債により手当てされる.現在のところこれに対する交付税措置は講じられないという(大阪府企画調整部企画課).

 現在,沿線では,加美〜久宝寺間の旧竜華操車場跡地,放出の貨物駅跡地の区画整理事業など大規模な開発が計画されており,また南吹田や淡路地区の,区画整理事業も進行中である.このような地域開発による沿線からの旅客需要の発生のみならず関西線や片町線との直通電車の運行を予定しており,既存路線をバイパスする新たな通勤・通学ルートとしても期待される.

 なお,同時に計画が発進したJR東西線は1997年3月8日に開業したが,建設費約3,400億円で,建設主体である第三セクター「関西高速鉄道」は,借入金の元利返済額は,最初の10年間が年に約200億円,その後年100億円となり,30年間は赤字経営が続くことになるという.また運行を担当するJR西日本は,関西高速鉄道に対して年138億円の線路使用料を支払うことになるが,3年ごとに10%ずつ引き上げられる(『朝日新聞』1997.2.25夕刊)ことになっており,今後の一層の需要喚起が必要となっている.

 なお,大阪外環状線とおなじく補助金の対象事業に採択された名古屋の西港貨物線については,いまだ建設主体・運営主体ともに未定という状況にあるようだ.また,名古屋には東海道線の客貨分離を目的とした南方貨物線がほぼ完成した状態で放置されている.名古屋周辺の東海道線の運行本数は大きく増加し,モーダルシフトの受け皿となるべき鉄道貨物の輸送力増強がままならない.平成10年度の概算要求ではJR東日本の京葉線蘇我〜南船橋間と武蔵野線南船橋〜南流山間の貨物化への補助金が取り上げられた.第三セクターの京葉臨海鉄道が事業主体となる.将来は南船橋から東京臨海高速鉄道を経由して東京貨物ターミナルまで貨物列車を運行する計画という.名古屋の南方貨物線についても名古屋臨海鉄道を事業主体にして開業させたらどうだろうか.


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