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中島敦 中町信 西風隆介 二階堂黎人 西澤保彦
 西村健 新田一実 貫井徳郎 法月綸太郎

中島敦
『李陵』
くれい爺さんの感想:
 小生の漢詩の先生は中島敦を高く評価しているが、その判断基準は「中島敦は漢文が読める」ということに尽きるようだ。
この作品、かつてBOOKSカフェの課題図書にも取り上げられた記憶があるのだが、はっきりしない。
この作品、1週間ほどの旅行中に読むつもりにしていたが、二日ほどで読めてしまった。
「李陵」「悟浄出世」「牛人」「名人傳」「弟子」「盈虚」「山月記」の7編。
どれも心理に深く分け入って、考えさせずにいない作品ばかり。

03.9.18

中町信 模倣の殺意 天啓の殺意
『模倣の殺意』

データ:

発行年   2004.8
単行本   1971
発行所   東京創元社(文庫)
ISBN  4-488-44901-8
あっちゃんの感想:
 中町信は以前数冊読んで気に入っていた作家だったが最近はご無沙汰していた。久しぶりの作品でありしかもデビュー作ということもあって期待して読んだ。読んでみて随分強引で不自然なトリックという感じは受けます。しかしそれは僕が結構多くの叙述んミステリーを読んでいるからでありこの作品が叙述ミステリーの先駆者的な作品であることを鑑みればそれは致し方ない面もあるでしょう。この作品は紛れもなく叙述ミステリーの傑作です。

05.12.11
『天啓の殺意』

データ:

発行年  2005.9
発行所  東京創元社(文庫)
ISBN 4-488-44902-6
備考   「散歩する死者」(徳間書店1982年刊)の改題加筆 
あっちゃんの感想:
この作品もまた凝っていましたねえ。当然この種の作品はどこかで作者が読者に対してミスディレクションを仕掛けているわけだがそれが見事なできばえだった。「模倣の殺意」よりも納得度は高かった。続く「空白の殺意」も期待大である。

06.5.1

西風隆介
「神の系譜シリーズ」
1.『龍の封印』
2.『真なる豹』
3.『幽霊の国』
4.『幽霊の国・解』
5.『龍の時間 亡国』


データ:
 徳間書房(トクマノベルズ)
EGGさんの感想:
そのうち紹介しなければ、と思っているうちに5冊にもなってしまいました。簡単な紹介しか出来ませんが、あしからず。
大脳生理学者(脳の情報科学)火鳥竜介がオカルト的な不思議を一刀両断し、その妹まな美たち歴史部のメンバーが、歴史に潜むミステリを解明します。

そして、物語の中心に座るのが、まな美の親友である天目(アマノメ)マサト。
彼を頭目と戴く龍の一族と、それの抹殺を狙う謎のトマス教団。というスケールが大きいんだか小さいんだかよくわからない伝奇小説。

ミステリファンには1.2.あたりがお勧め。
霊感、予知の脳内メカニズム(仮説)と、天海が仕掛けた東照宮の魔方陣は、読み応えあり。(高田崇史Q.E.D.の東照宮論より驚きがいっぱいです)
3以降は、伝奇小説のほうの比重が大きくなり、歴史解釈も脳の話も繰り返しが多く満足度が低いです。気になるのでもう少し読み続けますが。

03.7.24


二階堂黎人 ユリ迷宮 バラ迷宮 私が探した少年 名探偵水乃サトルの大冒険
『ユリ迷宮』

データ:

 発行年  1998.3初刷(ノベルズ:1992.4)
 発行所  講談社(文庫)
 ISBN 4-06-263728-6
あっちゃんの感想:
 二階堂黎人の作品といえば長編というイメージがあるが短編もいい味出している。「消える家」テーマの「ロシア館の謎」のあっというトリック、「密室のユリ」のテクニックの鮮やかさ、「劇薬」のクリスティ的なテイスト、いずれもすばらしい出来だった。

03.9.16
『バラ迷宮』

データ:

 発行年  2000.1
 ノベルズ 1997.1
 発行所  講談社(ノベルズ)
 ISBN 4-06-264717-6
あっちゃんの感想:
 メカニカルなトリック物の「サーカスの怪人」、「喰顔鬼」、ちょっとわかりBにくかった「変装の家」、ダイイングメッセージが面白い「ある募集家の死」不気味な「火炎の魔」、クリスティを彷彿とさせる「薔薇の家
の殺人」の6作、いずれも高水準で楽しめた。

04.6.30
『私が探した少年』

データ:

 発行年  2000.7
 単行本  1996.4
 発行所  講談社(文庫)
 ISBN 4-06-264908-X
あっちゃんの感想:
 傑作、幼稚園児ハードボイルド系探偵という設定もおもしろいしミステリーとしてもちゃんとしている。二階堂蘭子シリーズ以外の作品はこれが初めてであるが他のシリーズやノンシリーズも期待できそうだ。

05.1.23
『名探偵水乃サトルの大冒険』

データ:

 発行年  2002.2
 単行本  2000.2
 発行所  講談社(文庫)
 ISBN 4-06-273372-2
あっちゃんの感想:
 4編とも本格マインドくすぐられる作品でしたね。水乃サトルシリーズを読むのは初めてでしたがなかなかなものです。この中では「空より来たる怪物」がもっともまとまっていたかなと思いました。

05.10.30

西澤保彦 彼女が死んだ夜 麦酒の家の冒険 瞬間移動死体 謎亭論処  夏の夜会  異邦人fusion 両性具有迷宮 聯愁殺 殺意の集う夜 人形幻戯 ファンタズム リドル・ロマンス 笑う怪獣 人格転移の殺人 いつか、二人は二匹 方舟は冬の国へ 死者は黄泉が得る 腕貫探偵 フェティッシュ

『彼女が死んだ夜』

データ:

 出版社:角川書店(カドカワノベルズ)
 出版日:96.8.25.
 価 格:\840
 ISBN :04-787301-2
  帯 :秋風が吹く頃
     友はいない、
     永遠に

あらすじ:
 門限は6時という超厳格な家庭に育てられた箱入り娘、通称ハコちゃんこと浜口美緒がやっと勝ち取ったアメリカ旅行。その出発前夜、壮行会を終えて家に帰ってみると、部屋に見知らぬ女性が倒れていた。そして傍らにはパンティストッキングに詰められた長い髪束が。これをどこかへ捨ててきてくれなければ死ぬ、と、ハコちゃんに泣きつかれた男性陣は、「これでこの事件が迷宮入りしてしまったら、代わりに僕が解決します」というタック(匠千暁)の言葉に、なんとかこの女の体を運びだし、埠頭の公園まで捨ててきたのだが・・・。
 「解体諸因」匠千暁辺見祐輔の最初の事件。
kikuchiさんの感想:
 面白かった〜。『人格転移の殺人』からわずか1ヶ月やそこらで、なんでここまで面白い話を書けてしまうのか? 一見軽佻浮薄のユーモアミステリ風に見えて、その実アクロバティックなロジックや、どんでん返しの強力なやつががっちり作品を支えています。西澤保彦って、もしかして我々の予想を遥かに上回る、もの凄い才能のミステリ作家なのかもしれない。『解体諸因』の時もそうだった、タックの「推理」というよりは「妄想」が相変わらず冴えているし、主題の事件とは直接関係ない「乗杉氏の財布消失事件」など、1つの短編に仕上げてもいいような、ボーナスにしては嬉しすぎる挿話でした。
 最後の「ひねり」は、心情的には不要のような気がするのですが、論理的には必要なんでしょうね。これは言わずもがなのことかもしれませんが。

 登場人物の中で、私がガンタに感情移入してしまうのは、私が明らかに彼のようなタイプの人間だからです。他の人なら「なんだ、こいつ」と思うかもしれない。まあ、それは人それぞれということで・・・。

 これを読んだ後、あらためて『解体諸因』を読み直してみたのですが、タックの「妄想」をまた楽しめました。もしかしたら、著者の頭の中には島田荘司顔負けの「西澤ワールド」が出来上がっているのかもしれません。タカチ「アイ・エル」も既に登場していたとは・・・気付かなかった(私が鈍感なだけか)。

 と、いうわけで、京極夏彦も早く新作を出さないと、忘れられちゃうよ(笑)

96.8.26
あっちゃんの感想:
 どうなっていくかなあって思っていたら見事に着地しましたね。西澤はSF的な設定の物もおもしろいがこのようなストレートなものも上手い。いや、本当にこれからも期待しています。 

03.9.7
『麦酒の家の冒険』

データ:
 出版社:講談社(講談社ノベルズ)
 出版日:96.11.5
 価 格:\780
 ISBN :06-181938-0

あらすじ:
 匠千暁達が迷い込んだ無人の山荘。家具も内装もないからっぽの室内にあったのは、一台のベッドと、なぜかクローゼットに隠された冷蔵庫の中にある、冷えたビールのロング缶96本とジョッキ13個だけ。誰が何の目的で? 匠千暁と仲間達はビールを飲みつづけ、推理に推理を重ねる。果たして真実に辿り着けるか?
(裏表紙より)
kikuchiさんの感想:
 ハリイ・ケメルマンの名作『九マイルは遠すぎる』をモチーフにしたというアームチェア・ディテクティヴ・ストーリーですが、仮説を重ね、こねくり回す姿勢はデクスターにも通じるところがあるのかもしれません(あ、私はデクスターはあまり読んでない不良読者ですけど)。長編ではありますが、あらすじで紹介した「謎」がこの物語のメインであり、全てです。出てくる仮説がどれもけっこういい線の、面白い仮説だけに、最終的な推理が他の没になった仮説より抜きんでて優れているわけではありませんでした。そこがこの作品のインパクトを弱くしているという気もするのですが、それにしても、よくもまあ、こんなに短期間でこんなに複雑な仮説がいくつも登場する込み入った話を作れるものだと感心してしまいます。

 タックを始め、ボアン先輩タカチウサココイケさん、と、お馴染みのキャラクターが多数登場し、それぞれ個性を発揮しています。特にタカチの活躍はめざましく、彼女自身の謎が深まったのが、実は一番気になることだったりします。

 西澤作品は、共通する主人公がいない、というのが『人格転移の殺人』までの流れでしたが、ここへきて『彼女が死んだ夜』、本作、と、『解体諸因』匠千暁&辺見祐輔のシリーズが相次ぎました。結構キャラクターの性格付けにも馴染んできたことだし、西澤がこのシリーズを続けるつもりがあるのかどうかも、気になるところですね。

96.11.7
あっちゃんの感想:
 人を食った設定だがおもしろかった。前作「彼女が死んだ夜」がラスト近くから異様に深刻になるのに比べ明るさがあってよかった。

04.7.5
『瞬間移動死体』

データ:
 出版社:講談社(講談社ノベルズ)
 出版日:97.4.5
 価 格:\800
 ISBN :06-181958-5

あらすじ:
 俺にとって殺意を実行に移し、完全犯罪とすることは簡単だ。ロサンゼルスにいる妻を、日本にいる俺が殺したなどとは誰も思わないだろう。だって俺は、「テレポーテーション」が使えるのだ! だがこの超能力の欠点が様々な事件を巻き起こし……。トリックの可能性を極限まで追求する西澤保彦の新たな挑戦作!
(裏表紙より)
kikuchiさんの感想:
 本作は、『7回死んだ男』『人格転移の殺人』と同じ系統の作品と分類できます。いずれもSF的設定を最大限に生かし、なおかつどんでん返しを決めてくれる作品です。私も西澤とは波長が合うので、手口はある程度読めたのですが、全部は読み切れませんでした。そっか〜、そういう仕掛けだったのか〜。この人のミスディレクションのうまさにしてやられたとも言えるでしょうけど、あんなところに伏線が張ってあるとは・・・。

 ところで、この主人公のコイケさんが、匠千暁シリーズに登場するコイケさんと同一人物かどうか、皆さん気になりませんか? 私は気になります。が、匠千暁シリーズのコイケさんは本名が「コイケ」ではないらしいこと、下の名前も和義とヤスヒコと、違っていること(『彼女が死んだ夜』p.115より)などから、残念ながら別人なのではないかと考えられます。実は同一人物だったりしたら面白かったのにね。

97.4.8
あっちゃんの感想:
 設定も論理は相変わらずおもしろいがどうも主人公が軽薄と言うか共感できないし文章も悪い意味で軽いので何ともはやと言ったところ、

05.12.28
『謎亭論処(めいていろんど)』

データ:
 出版社:祥伝社(NONノベル)
 出版日:01.4.10
 価 格:\857
 ISBN :4-396-20713-1

収録作品:
 盗まれる答案用紙の問題、見知らぬ督促状の問題、消えた上履きの問題、呼び出された婚約者の問題、懲りない無礼者の問題、閉じこめられる容疑者の問題、印字された不幸の手紙の問題、新・麦酒の家の問題
kikuchiさんの感想
 というわけで、『依存』で行くとこまで行ってしまったタックシリーズの短編集です。重苦しかった最近の長編群とは違い、短編では無責任かつお気楽な酩酊推理が楽しめます。どこら辺が無責任かというと、たとえ教え子が被害者であろうと、同僚の子供が殺されていようと、元恋人が殺人犯であろうと、あっけらかんとしているところがなんとも無責任な感じでいいです。
 こういう場合はあくまで酔っぱらいの無責任な思いつきのはずが意外にもつじつまがあっちゃった、というのがミソであって、それが本当に真実かどうかというのは実はどうでもいいことです。だから、後から実は真相はその通りで、というような解説は必要ないんですけどね。ま、人が死なない「盗まれる答案用紙の問題」だからいいか。

 これまでのレギュラーはほぼ全出演なんですが、コイケさんは残念ながら登場しません。あと、ウサコファンにはちょっとショックな出来事があるかも(笑)。

01.4.4
『夏の夜会』

データ:
 出版社:光文社(カッパノベルズ)
 出版日:01.9.25
 価 格:\800
 ISBN :4-334-07440-5
 初 出:季刊『GIALLO』2000年秋号〜2001年夏号

あらすじ:
 かつての同級生の結婚式に出席した見元は、元同級生たちとの昔話に花を咲かせるうち、かつての担任だった「鬼ババア」井口加奈子が小学校内の旧校舎で死亡した事件を思い出し、推理を戦わせることになった。そして、三十年前のうろ覚えの記憶を掘り起こすうち、いままでそうと思いこんでいた事柄が次々とひっくり返り、そして真実の記憶が徐々によみがえり始める。
kikuchiさんの感想
 というわけで、西澤保彦の新作です。あの「メフィスト」より面白いという噂もあるGIALLO<ジャーロ>に連載されてた作品なんですね。
 で、感想ですが、非常に西澤的な作品だと思いました。基本は匠千暁シリーズの酩酊推理だし、スリーピング・マーダーという意味では『黄金色の祈り』、登場人物の過去のトラウマという意味では『依存』と相通じるものがあると思います。さらに登場人物はの名字は包市(かねつつみ)、北朴木(きたほうき)、任美(たらみ)、紅白(いりまざり)、仮(おく)、佐向(そむき)、指弘(いいず)、鬼無(けなし)と、珍名さんのオンパレード。見元(みもと)埴野(はにの)といった名字が普通すぎて変に見えるほどです。

 最後に明らかにされる真相がそれほどインパクトのある衝撃的なものというわけではないのですが、それまでの伏線がきちんと生かされてきれいに解決されているし、そこに至るまで各章ごとに前章をひっくり返し続けてくれるのが、やはり西澤保彦西澤保彦たる所以です。

 んで、酩酊推理なので当然最後にたどり着いた結論が本当に真実かどうかは必ずしもはっきりしません。それどころか、今回は、これまでの酩酊推理では特に問題とはされれいなかった証言者の「記憶」自体が不確かなものとして次々とひっくり返ってしまい、何を信用していいか分からなくなってしまうところが新しいというか、グレードアップしており、今後の酩酊推理のさらなる発展が期待されます。
 さあ、次は『異邦人 fusion』だ。

 ところで、カッパノベルズはいつの間に天を裁断するようになったんでしょう?

01.10.4
『異邦人 fusion』

データ:
 出版社:集英社
 出版日:01.10.10
 価 格:\1600
 ISBN :4-08-775293-3
  帯 :父が殺される。
     23年前にタイムスリップした「わたし」に父を助けることはできるのか?

あらすじ:
 あ。思わず低く呻いた。なんということだ。迂闊にも、すっかり失念していた。
真っ先に思い当たらなければいけなかったのに。
ここは一九七七年の世界。昭和五十二年といえば、あの年。
父の永広啓介が、何者かに殺害された年だ。しかも、事件が起こったのは八月。
今月のことではないか。
(中略)いまから四日後に、さっき会ってきたばかりの父の遺体が発見されることになるのだ。
(帯より)
kikuchiさんの感想:
 SF的設定のミステリでは定評のある西澤ですが、タイムトラベルものは初めてでしょうか。まあ、『七回死んだ男』がその一面を持った作品といえなくもないですが、生粋のタイムトラベルものというのは初めてと言っていいでしょう。
 で、その出来はというと、うーん、うーーーーん、どうなんだろう。
 結局、父の事件の犯人と足跡のないトリックは一応解明されたものの、細かな殺害方法とか動機とか、当時の状況については何にも解決されないというのはいかがなものか。
 で、それは今回の主題ではないと無理に納得するとしても、じゃあなんで主人公がタイムトラベルしたのかという根本の問題が、あの説明では納得出来ない、というか、説明自体が自己矛盾してるんじゃないのかと思うんですね。

 タイムトラベル時に過去に持ち込めるものについての細かいルール設定とか、事件前夜に姉が失踪した原因の推理などに西澤らしさが生きている作品ではあるのですが、やはりタイムトラベルという設定そのものと父の殺害事件という2つのメインディッシュの調理がちゃんとされていないのでは、残念ながら評価は低くならざるを得ません。

01.10.18
EGGさんの感想:
 (kikutiさんの感想を受けて)途中から作者の書き方で、私の場合、「ああ、ミステリはどうでもいいのね」って思ってしまったので、kikutiさんのような不満はありませんでした。
ネットをうろついていたら、季里子=森奈津子として(西澤さんが森さんの影響を受けすぎたという)散々な論評を目にしましたが、いいじゃないか、変態にだって幸せになる権利はあるんだから。(反論になっていないけど)あの三人の中途半端にエロチックな三角関係はかなり気に入ったんですけど。(笑)
(ミステリ--あるいは仮説につぐ仮説のロジック小説--としたら81点)
(小説としてみたら85点)

03.7.24
『両性具有迷宮』

データ:

 出版社:双葉社
 出版日:02.1.10
 価 格:\1900
 ISBN :4-575-23429-X
 初 出:小説推理2000年11月号〜2001年10月号に掲載のものに加筆・訂正

あらすじ:
 帰宅途中のコンビニで謎の爆発事故に遭ったお笑い百合小説作家、森奈津子。この事故は実はシロクマ宇宙人の手によるもので、おかげでこのコンビニに居合わせた女性十数名には”疑似ペニス”が生えてしまうことになった。しかも、この”アンドロギュノス”達を狙ったと思われる連続虐殺事件が発生して・・・。
kikuchiさんの感想:
 うーん、うーーーん、どうなんだろう、この作品は(なんか最近唸ってばっかりいるような気がする(笑))。ミステリとしては謎や動機が薄いし、西澤的ホワイダニットの妙もない、官能小説としては、ちょくちょく顔を出すジェンダー論が邪魔くさいので立たないし抜けないです。可能性としてはジェンダー論がやりたかったか、森奈津子の文体模写がやりたかったかどちらかなんでしょう。
 もしジェンダー論だとすると、こういう主張は、女性側からしてこそ意味があるのであって、男性作家が想像でこういうことを書いても卑屈な迎合としか見えないので逆効果です。というわけで、多分森奈津子の文体模写がしたかった、というのが正解かと。だとすると、森奈津子ファンが文体模写を楽しむ、という非常に限られた人たちに向けられた内輪受け小説ということになるわけで、森奈津子を読んだことのない人には、読む価値のある本とは言えないです。
 で、こういうのが森奈津子の小説なのだとしたら、男性論はうざいし、ギャグは寒いし、で、とてもじゃないけど今後読んでみようとも思えないです。

 西澤ファンの私としては、同姓同名の別人が書いた作品と思いたい、さもなくば今すぐ絶版にして著作リストから抹消して欲しい、というのが正直なところ。

02.1.9
『聯愁殺』

データ:
 
題 名:聯愁殺
 著 者:西澤 保彦
 出版社:原書房
 出版日:02.3.22
 価 格:\1700
  ISBN :4-562-03491-2

あらすじ:
 医師、小学生、老人、OL――
 連続無差別殺人の容疑者は失踪中の少年だという。
 なぜ彼らは狙われたのか、そして少年はいまどこにいるのか
 ――推理集団《恋謎会》がミッシング・リンクに挑むのだが……
(帯より)
Kikuchiさんの感想:
 なんか、3月下旬には発売されていたらしいのですが、西澤MLでも音沙汰無し、ブックススケジューラーでも引っかかってきませんで、先日東京に出た際に新宿紀ノ国屋で発見して買ってきました。
 西澤がミッシング・リンク好きなのは周知のことですが、実際ものになったのは『猟死の果て』くらいでしょうか。語り口のタッチはちょっと似てます。タイトル『聯愁殺』は鮎川賞候補作となった『聯殺』に酷似していますが、これは後に『仔羊たちの聖夜』の原型となったはずなので、おそらくそれとは別物と思います。
 ミッシング・リンク自体は半分くらいで明らかになりますが、その後もなぜその「リンク」が殺される原因になるのか、という興味で引っ張ってくれます。で、最後のどんでん返しは充分意外性があり、トリックとしても良かったんではないかと思います。ただエピローグは余計なような気も・・・。

 最近の西澤作品は不満の残るものが多かったのですが、まあ、これは満足できる作品だったかな、と。

02.4.11
EGGさんの感想:
(kikutiさんの感想を受けて)連続殺人犯の動機がすごいですね、というより、作者はそのアイディアから出発してこの作品を組み立てたのだろうと思われます。
途中の推理合戦がもう少し整理されてたり、ユニークな推理だったら楽しめたんだけど、最後のドンデンに重ならないように配慮しすぎだったのか、いまいちでしたね。
昔の映画『名探偵登場』のような、どたばたパロディな推理かとも思ったのですが、これって結局データーを小出しにしていただけなんじゃないのかなあ。それがちょっと不満。
それとこういう毒のある終わり方、私にはつらいんですけど。
まあ構成上仕方ないかとも思いますが。(82点)

03.7.24
『殺意の集う夜』

データ:

 発行年     1999.11初刷り(ノベルズ:1996.3)
 発行所     講談社(文庫)
 ISBN    4-06-264719-2
あっちゃんの感想:
評価:A
 一応推理しながら読んだんですよ。園子を殺したのは誰なんだろう、九十瀬智恵殺しとの接点はどこだろうとか、登場人物の苗字に全て一から十漢数字が含まれているのには深い意味があるのだろうとか、でも結局著者の仕掛けには敗れてしまいました。はっきり言って最後のあのトリックはちょっとアンフェア気味、誰がどう読もうと***が**であったというのを推理するのは無理だと思います。そう勝手に思い込んだ方が悪いといわれればそれまでですがスマートな引っかけじゃないことは確かですね。でもそのマイナス点をさっぴいてもこの作品、あまりあります。こんなばかげた設定と展開の話を一気に読ませたのですから・・・「解体諸因」、「完全無欠の名探偵」、「七回死んだ男」、そして本書、毎回違った手法で読者をあっと言われてくれる驚くべき作家です。

 と以上が感想です。
西澤保彦は多作作家というイメージがあってこんなとろとろした読み方じゃ全然追いつけないだろうと思っていました。しかし角川文庫「スコッチゲーム」の巻末を見ると2002.3までの著作数は28冊、いやそれでも多いですけど絶望するのにはまだ早いかな、と少しばかし希望も持ちました。講談社文庫から読んでいって追いついたら他社刊行のものをと考えていましたが以後は「スコッチゲーム」の著作リストに従って刊行順に読んでいくことにします。次回は「人格転移の殺人」です。

02.7.6
『人形幻戯』

データ:

 出版社:講談社(講談社ノベルズ)
 出版日:02.8.5
 価 格:\880
 ISBN :4-06-182264-0
 収録作品:不測の死体、墜落する思慕、おもいでの行方、彼女が輪廻を止めた理由、人形幻戯、怨の駆動隊
 初 出:小説現代増刊メフィスト2001年1月号、5月号、9月号、2002年1月号、5月号、書き下ろし
yobataさんの感想:
 「人形幻戯」は西澤保彦の最新短編集。メフィストに掲載されたものに書き下ろし作品を加えたもの。著者本人のあとがきによれば、SFの設定を借りてはいるが、中身は本格パズラーとか何とか。でも、登場人物の不可解な行動に、いちばんスッキリと納得できる理由付けをしているだけで、パズラーしかも本格とはとても思えない。伏線はあっても手がかりがない、というかな...

02.9.16
『ファンタズム』

データ:

 出版社:講談社(講談社ノベルス)
 価格:760円

あらすじ:講談社BOOK倶楽部より
 騙されるな!よく出来た物語に。
 燃やせ!!今ある自分の地図を。

 講談社ノベルス20周年の掉尾を飾る野心作!

 「この世界のルールを理解しよう、なんて無駄な努力は諦めた……」。印南野市で発生した連続女性殺人事件。遺体の口には必ずある紙片が、現場には犯人の指紋がべったりと遺される。殺ったのは“ファントム”……まるで実体のない幻のようなやつ。「ここにいる自分とは、その存在とは、いったい誰のものなのだろう」。彼の自問は、谺(こだま)せず、ひとり美しい構図を描き切る!
yobataさんの感想:
 まっとうなサイコミステリのつもりで読んでいたんですが....最後に来て、なんだこりゃ?でした。
 犯人は最初からわかっていて、連続殺人鬼である、なんていうときっと大どんでん返しがあるに違いない....と過剰な期待をしていた私も悪いんでしょうが、ちょっとこのトリック(?)は寂しいです。

 あんなことができるならば、警察にマークされることなく犯行を行うこともできたはず。作品を成立させるために作り上げられた犯罪者心理は、やはり作り物めいて見えるってことですかねー。

02.12.29
『リドル・ロマンス』

データ:

 出版社:集英社
 価格:1700円

内容紹介:集英社のHPより
 きらめく夜景を望む高層ビルの1室。何でも願いを叶えてくれるという謎の人物〈ハーレクイン〉を訪ねる老若男女。絡み合った謎が解かれ、明らかになる人々の真実とは? ファンタジック・ミステリ連作。
yobataさんの感想:
 何ともいえない味わいの作品集。探偵?のハーレクインが相談者の願いを叶えるといいながら、ズバズバと真実を突きつけ心の闇を白日の下にさらす様はなかなかにスゴイ。ただ、コイツは何でそんなことまで知ってんだ?っていう感じで、手がかりもへったくれもない。ハーレクインは最初からお見通しってんじゃあ、謎解きを期待する向きには非常に勧めにくい。でも、ある意味手の込んだトリックを考える必要も無いし、ミステリの書き手として開き直ったとも思えるこの設定は、西澤保彦向きなのかも。人の心はミステリって感じで、個人的には結構楽しめた。

03.3.23
『笑う怪獣 ミステリ劇場』

データ:
 出版社:新潮社
 出版日:03.6.20
 価 格:\1300
  ISBN :4-10-460801-7

収録作品:
 怪獣は孤島に笑う,怪獣は高原を転ぶ,聖夜の宇宙人,通りすがりの改造人間,怪獣は密室に踊る,書店、ときどき怪人,女子高生幽霊綺譚

初 出:
 小説新潮平成十年6月号、11月号、平成十一年1月号、平成十三年3月号、『大密室』平成十四年2月刊、小説新潮平成十四年5月号、12月号

あらすじ:
 巨大怪獣とともに孤島に閉じ込められたアタル、正太郎、京介の悪友三人組と美女(?)三人。逃げる手立てもなく密室と化した孤島から、闇を切り裂く悲鳴を残し、ひとり、またひとりと消えていく……。地球侵略を企む凶悪宇宙人、殺人を繰り返す悪の組織の改造人間、暗闇に響く巨大怪獣の雄叫び。一読驚愕、驚天動地の特撮+ミステリの合体小説。
(帯より)
Kikuchiさんの感想:
 怪獣やら宇宙人やら幽霊やら妖怪やら超常的なモノが出ては来るが、その設定とシチュエーションの特性を生かして謎解き推理は合理的に展開される、というかつての西澤得意のパターンの短編集かと思いきや……。
 「怪獣は高原を転ぶ」、「通りすがりの改造人間」、「怪獣は密室に踊る」、「女子高生幽霊綺譚」の4話は確かにそういう話で、西澤らしい酩酊推理っぽい展開が楽しめます。特に「怪獣は密室に踊る」は、被害者の体験した不可思議な事件と犯人が仕掛けたトリックのぶっ飛び方、さらに怪獣を登場させる意味付けが絶妙の配合で融合した佳作だと思います。
 一方、「怪獣は孤島に笑う」、「聖夜の宇宙人」、「書店、ときどき怪人」の3話ははっきり言って読むだけ無駄。何をやりたいのか作者の意図が分からない話です。まあ、「孤島」は登場人物の紹介ってことで我慢するとしても、「聖夜」はいくらなんでもそれはないだろ?
 という玉石混淆の不思議な短編連作集、西澤ファンとしては、買っておかなくては仕方がないでしょう。

03.7.20
『人格転移の殺人』

データ:

 発行年   2000.2初刷(ノベルズ:1996.7)
 発行所   講談社(文庫)
 ISBN  4-06-264793-1
あっちゃんの感想:
 何ともユニークな設定、噂には聞いていたがこれほどのものとは・・・もう少し読者が推理に参加する余裕があればよかったのだが望みすぎか、とにかくもっともっと読んでいきたい。

03.8.16
『いつか、ふたりは二匹』

データ:

 出版社:講談社(ミステリーランド)
 出版日:04.4.27
 価 格:\2000
  ISBN :4-06-270571-0
 備 考:トリイツカサキノ/絵

あらすじ:
 菅野智己は母が再婚した四年生の頃、突然、眠りに就くことで猫の身体に乗り移れるという不思議な能力を持った。身体を借りている猫にジェニイという名前をつけ、巨大なセントバーナード犬のピーターと友達になった智己が六年生のとき、クラスメイトを含め三人の女子児童が襲撃されるという事件が発生し、一人が重態に。昨年秋に、同じく町内で起きた女子児童誘拐未遂事件の犯人と同一人物の仕業のようだ。被害者の共通点は、智己の義理の姉久美子さんが家庭教師だということ!智己はジェニイになって、ピーターとともに事件を調べることにした。
(ケース裏より)
kikuchiさんの感想:
 ひさびさに西澤らしい設定、論理展開、動機、そして設定を生かしたクライマックスとエンディングを満喫しました。「彼」の正体については、エグいのとエグくないのと二通りを予想していて、「西澤ならエグイほうだろうなあ」と思っていたのですが、まあ、そこはジュニア向けということで。あと、展開のひねりが物足りないような気もしましたがが、それもまあ、ジュニア向けということで。

04.6.10
『方舟は冬の国へ』

データ:

 光文社カッパノベルス
 2004/08/25
 ¥857+税

内容:
失業中の和人は、ふしぎなアルバイトをある男から持ちかけられる。
盗聴機と監視カメラが仕掛けられている別荘で、主人を装って一ヶ月暮らさないか、というのだ。報酬が莫大であることもさることながら理由を聞かないという条件に好奇心をそそられ、承知する。しかし別荘に行くのは彼一人ではなかった。母親と娘も同伴するというのだ。
そして別荘滞在の第一日目から不思議なことが起こり始めた。

EGGさんの感想:
 ロジックぎんぎんのパズラーを望むと肩透かしでしょう。SFの枠組みだけ使っているので、ご本人の言うとおり大人のおとぎ話っつうところが妥当だと思います。読後感よかったし主人公にも共感できるから、満足ではあるのですが。

04.9.10
『死者は黄泉が得る』

データ:

発行年  2001.2
ノベルズ 1997.1
発行所  講談社(文庫)
ISBN 4-06-273089-8

あっちゃんの感想:
 引っかかってしまった。てっきり浩話の構造はこうだろうと思っていたら全然違っていた。うまいテクニックだ。最後の最後が少し分かりにくかったがなかなかのものだった。

05.2.8
『腕貫探偵』

データ:

 出版社:実業之日本社
 出版日:05.7.25
 価 格:\1600
  ISBN :4-408-53477-3
 収録作品:腕抜探偵登場,恋よりほかに死するものなし,化かし合い、愛し合い,喪失の扉,すべてひとりで死ぬ女,スクランブル・カンパニイ,明日を覗く窓
 初 出:月刊ジェイ・ノベル2002年7月号、12月号、2003年5月号、11月号、2004年9月号、2005年1月号、6月号

あらすじ:
 ひとりで悩んでないで、窓口にお並びください。
 殺人?詐欺?行方不明?
 悩める市民の相談事を解決するのは腕貫をはめた出張所の職員。
 ユーモア溢れる痛快ミステリー連作短編集!
(帯より)
kikuchiさんの感想:
 腕貫探偵登場…多分これが白眉。事件の不可思議さ、結末の意外性と合理性、腕貫探偵の謎の解き方ともに、こういうシリーズにしたいという作者の意図がよく表れています。
 恋よりほかに死するものなし…事件解決へのヒントありすぎ
 化かし合い、愛し合い…事件解決へのヒントなさすぎ。これではただの憶測。
 喪失の扉…西澤的ミステリとしてはいい感じだが、腕貫探偵が喋りすぎ、謎解き過ぎ、というわけでこれではただの酩酊推理。
 すべてひとりで死ぬ女…同上
 スクランブル・カンパニイ…同上
 明日を覗く窓…これも・・・結局同上。西澤的ミステリとしてはいい感じではあるが、シリーズのラストを飾るにはちょっと地味か。

 総じて、第一話での設定、腕貫探偵は重要なヒントだけ指摘して後は相談者が勝手に推理して解決してしまうという『完全無欠の名探偵』っぽいテイストが二話くらいまでしか続かなかった点がちょっと不満です。新シリーズにもかかわらずこれまでのシリーズとの違い、というか、特徴があまりはっきりせず、結局酩酊推理の亜流になっているような気がしました。とはいえ西澤保彦のテイストは満喫できる作品集ではあったような気がします。

05.11.9
『フェティッシュ』

データ:

 出版社:集英社
 出版日:05.10.30
 価 格:\1900
  ISBN :4-08-775353-0
 備 考:書き下ろし

あらすじ:
 秘めた欲望が蠢きだす…鬼才のミステリ長編!
 触れれば死ぬ。悲惨な死を遂げた女性たちの葬儀に現れた、謎めいた美少年の正体は――? 人々の秘められた欲望と謎と血が渦巻く、めくるめく迷宮世界。書き下ろし長編ミステリ。
(集英社HPより)
kikuchiさんの感想:
 SF的設定のミステリかと思いきや、登場人物の特異体質だけはSF的であるものの、ストーリーの結末はちっとも超常的でなくて、何か無理矢理な感じで拍子抜けという感じでした。結末を考えずに設定だけで雑誌に連載していたら、だんだん破綻していって何がなんだか分からなくなる、ということはまあ、よくあることとは思いますが、これは書き下ろしですからねえ・・・。

05.11.9

西村健 ビンゴ 脱出
『ビンゴ』

データ:

 講談社ノベルズ(文庫あり)
 1996/08/05
 ¥932 

内容:
 新宿ゴールデン街、「オダケン」のマスター小田健は、わがまま放題で、店には閑古鳥が鳴いている。副業の事件屋稼業でなんとか口を凌いでいたが、たまたま4件の依頼が飛び込んだ。「借家人の素性調べ」「公園を作って」「空きボトル盗難」「猫探し」。勝手知ったる路地の何でもない調査のはずが、いつの間にやらありとあらゆる火器が咆哮するマンハントの標的になっていた。戦場、暴力、疾走、爆破−−−−エンターテインメントのすべてを叩き込んだ痛快デビュー作。(カバー折り返しをもとに)
EGGさんの感想:
評価 82点
うはは。こういう話だったのか。いつか読もうと思っていた本の一つですが、面白いっすね、これは。おもいっきり派手なB級アクション、つーか、ここまで行っちゃうと、爆弾入り戦闘小説とでもいわないと、作品に負けそう。

文章はコミックの原作・あらすじ風の、ストーリーを追うだけっていう感じで、おせじにも上手とはいえませんが、筆の勢いだけはスゴイ(笑)。登場人物たちもデタラメで、悪役たちの野望も冗談としか思えない。いやきっと冗談なのだろう。でも、そんなの関係なしです。面白ければいいので、思う通り好きにやってくださいと、お願いするしかありません。痛快痛快。
(でもひとつだけ突っ込ませてもらうなら、「おまえら、ここ日本じゃねえだろう?」)

02.12.24
『脱出』

データ:

 講談社ノベルズ(文庫もあり)
 ¥1400
 1997/09/05

内容:
チンピラの志波銀次は、惚れた女の仇を討った。ただそれだけのことだったはずが。射殺されたのが警察官僚で、政府のある密謀に関与していた男だったため、疑心暗鬼に駆られた政治家たちは、機動隊及び自衛隊特殊部隊を投入し、彼を抹殺にかかった。
しかし、なぜか銀次は強い!上野の銃撃戦をかいくぐり数名を戦闘不能に陥れ、谷中墓地では、連れの勘太郎を失った怒りに任せ、5人をあっさりと屠ったのちどこかへ消えうせた。
業を煮やした政府は、ついに世界最強の傭兵「片目」を招聘した。
EGGさんの感想:
評価 83点
前作の2倍の分量で、スケールも4・5倍あるかな。何せたった一人を始末するのに、戦車の砲弾やらミサイルが飛び交っているものね。というわけで、ますますはったりだけの馬鹿話になっていて、よくこれだけ作者のエネルギーが続くと感心してしまいます。(さすがに3作目『突破』は、面白くなかったぞ、アクションじゃないし)

と、誉めておいて(誉めたんかい!)、注文を二つほど。

いろいろ調べて、頑張って書いてるのはよく分かるのですが、1400枚はさすがに厚い。もう3分の1くらい刈り込んだら、息も付かせぬアクションに継ぐアクション小説として、勇名を馳せたかもしれません。それにしても、何というでたらめな危機の切り抜け方の数々!(ネタバラでいえません)
あと、執筆当時、作者が30歳足らずということもあり、どうしても主人公が軽い。もう5年か10年後に、あらためてこの人に書いたものを読んでみたいと思います。


こういう話を書く人は、少ない。桑原穣太郎を懐かしく思い出すくらいです。(『新宿純愛物語』は面白かったな)
ああ、初期の山田正紀や都筑さんにも何作かありましたね。もっと読みたいんだけどな。

02.12.24

新田一実 花を愛でる人 美食ゲーム 海神祭 死者の恋唄 夢に彷徨す
『花を愛でる人』

データ:
 発行年  2002.1初刷り
 発行所  講談社(文庫)
 ISBN 4-06-255594-8
 シリーズ 姉崎探偵事務所 1
あっちゃんの感想:
 「姉崎探偵事務所」の第1巻だがその前に「霊感探偵倶楽部」全12巻、「新・霊感探偵倶楽部」全12巻、「真・霊感探偵倶楽部」12巻がある。つまりこの作品は通しで37巻目にあたる。初めてこのシリーズを読んだのが今から6年ほど前、妻が好きなシリーズということで読み始めた。(まだその頃は結婚はしていなかったが)だが第1巻からの評価はほとんど変わっていない。それは「素材はいいのに料理が下手」というものです。新田一実のほかのシリーズは読んでいませんがはっきり言って文章が下手、構成力が弱い。だから魅力的な題材が台無しになってしまう。ただそれでも読んでいるのは化ける可能性を感じているからです。37巻も続いているのに全体を通じての物語はほとんど進展していない。それはなぜか、この作品がキャラクターに依存しているからです。
それなりにこのシリーズは人気があるのでしょう。だからその人気がある限りは物語を終わらせるわけには行かないのです。その結果ただだらだらと続けていかざるをえない。これキャラクターが活躍すればそれで満足というファンにとっては喜ばしいことでしょうが物語を読みたいという読者にとっては物足りなさを感じます。いっそうのこと、キャラクターに依存しきるのなら時間を止めたほうがすっきりするのですが・・・・ただ本書はその今までのだらだらとした展開にちょっと変化をつけました。これが成功するかどうかそれは次巻以降にかかっています。

 もう一つ問題があるとすれば一つ一つの話としては1巻で完結という体裁なのですが1冊のページ数には収めにくい分量なのです。ですからどうして最後が駆け足になってしまうのですね。いっそうのこと上・下本にすればいいのにそれもしない。本当にそういった意味では惜しい作家です。自らの首w絞めているとしか思えません。

 とここまでかなりきついことを書いてしまいました。もしこのシリーズのファンの方が読んでおられたらごめんなさい。これはあくまでも僕の読み方ですのでそれを他の人に押し付ける気は毛頭ございません。キャラクター中心の作品移管して僕は否定的に書きましたがキャラクターを読むという読み方もあるでしょうしそれを否定するものではありません。どうかご容赦ください。

02.4.1
『美食ゲーム』

データ:

 発行年    2002.4
 発行所    講談社(文庫)
 ISBN   4-06-255608-1
 シリーズ   姉崎探偵事務所
あっちゃんの感想:
少々硝化不良気味、もう少しまとめればそれなりに面白かったのに、このシリーズ、だらだらとは続けてもらいたくないし。

02.7.31
『海神祭』

データ:

 発行年  2002.7初刷
 発行所  講談社(文庫)
 ISBN 4-06-255619-7
あっちゃんの感想:
物語の導入部分がちょっと強引、伊豆半島沖の無人島という設定のためにかなり無理をしている。そういうところが低い評価につながっていくのだ。また修一がどうやって天島から脱出したのかという説明もなかったような気がする。作品としての出来不出来は実はそういった些細な個所にあるのかもしれな。

03.3.5
『死者の恋唄』

データ:

 発行年  2002.10初刷り
 発行所  講談社(文庫)
 ISBN 4-06-255635-9
 シリーズ 姉崎探偵事務所
あっちゃんの感想:
このシリーズどうしてこんなに読みにくいのか、その大きな理由は地の文章に作者の感想が頻繁に現れるからだ。どのページでもいい、開くと「****であろう」とか「****らしい」とかね。
だから非常にわずらわしいのだ。まあそれがジュブナイルの読者には受けるのかもしれないが

03.12.26
『夢に彷徨す』

データ:

 発行年  2003.1
 発行所  講談社(文庫)
 シリーズ 4-06-255652-9
あっちゃんの感想:
 いつものように最後のほうでわけがわからなくなった。どうもこの作家、最後のつめが弱いような気がする。

04.11.14

貫井徳郎 光と陰の誘惑 プリズム 被害者は誰? 慟哭 迷宮遡行 妖奇切断譜 失踪症候群 天使の屍
『光と影の誘惑』

データ:

 集英社文庫

内容:
 表題作他、「長く孤独な誘拐」「二十四羽の目撃者」「我が母の教えたまいし歌」の4編を収録した短編集。
yobataさんの感想:
 「光と影の誘惑」は作者のとある作品と同じような仕掛けで、目新しさがない。「我が母の教えたまいし歌」もありふれた主題だけに、もうちょっと書き方を工夫した方が良いのでは?「長く孤独な誘拐」は良かったけれど、リアルすぎて読後感が悪いな。「二十四羽の目撃者」は著者にしては珍しく、コミカルなアメリカンハードボイルド?風な作品。よくまとまった作品集ではあるな。
『プリズム』

データ:

出版社:東京創元社(創元推理文庫)
 価格:640円

あらすじ:東京創元社HPより
 小学校の女性教師が自宅で死体となって発見された。傍らには彼女の命を奪ったアンティーク時計が。事故の線も考えられたが、状況は殺人を物語っていた。ガラス切りを使って外された窓の鍵、睡眠薬が混入された箱詰めのチョコレート。彼女の同僚が容疑者として浮かび上がり、事件は容易に解決を迎えるかと思われたが……『慟哭』の作者が本格ミステリの極限に挑んだ衝撃の問題作。
yobataさんの感想:
 4章からなり、章ごとに主人公が変わる凝った構成の野心作。バークリーの「毒入りチョコレート事件」に触発されて書かれた作品のようで、作中で数々の推理が語られては否定されています。作者のあとがきにもあるように、真の解決に主眼をおいた作品ではなく、推理の過程を楽しむ作品で、最終的にはあらら?という感じで終わってしまいます。そこで満足できるかどうかがこの作品への評価の分かれ目でしょうか。各章の語り手たちが、事件にどう折り合いをつけるかは、真犯人を知ることではない、という点はうなずけますが、読者はそうではないとも思うし、確かに問題作ではあるな。

03.2.20
EGGさんの感想:
 自ら解説で、ポー「マリーロジェ」→バークリー『毒入りチョコレート』→デクスター『モース警部シリーズ』と位置づけているのですが、なるほど、それが貫井さんのミステリー観の一部なのですね。
証拠をある程度無視して、とにかく推理をこねくりまわす。そこにマニアックな、推理に淫した部分があって、クイーンの明快なパズルと一線を画す、イギリスのねちっこい感じ(論理より人間の業を抽出しようとしている感じ)がよく出ています。
明快な解決が無いのは、確かに落ち着きませんが、実験作という意味では、これはこれでいいと思います。(82点)

03.7.24
『被害者は誰?』

データ:

 講談社ノベルズ
 \820
 2003-05-07出版

内容:
 豪邸の庭に埋められていた白骨死体は誰なのか?黙秘する犯人。
押収された手記から被害者を特定する表題作の他、本格の粋を極めた全4編。
頭脳も美貌も態度もスーパーな安楽椅子探偵、吉祥院慶彦の名推理。

EGGさんの感想:
 新たな迷惑探偵の登場です。
はじめは吉祥院先輩と、後輩のダメ刑事の会話、ちょっといやだったんですけど、途中から慣れてきてとっても笑えるようになっちゃいました。
お笑いだけでなくミステリーの面でも、貫井さんがパターンものに挑戦。どの作品も半分は仕掛けを見抜けたんだけど、うまく手玉に取られたかな。(82点)

03.7.24
kamanoeさんの感想:
 これは酷くないか、と強く不満を抱いた本。(笑)
 貫井さんの本は初読で、だから本書は異色作だと思いたいのですが。まぁ、もともと叙述ミステリって、好きじゃない、というのが、あるんですが。

03.12.31
『慟哭』

データ:

 発行年  1999.3
発行所  東京創元社(文庫)
ISBN 4-488-42501-1
あっちゃんの感想:
 本作品を読むのは2度目、最初に読んだ時はそのトリックに唖然としてしまったが今回がそのトリックを知った上での読書、それで作者が実に見事に作品を構築しているなと改めて感心した。この種の作品はフェアに徹することによって生じる作者が隠しきれなかった箇所を見つける事ができるかどうかにかかっているのだがまずそのようなほつれは見つけることはできなかった。本書がデビュー作とは貫井恐るべしだと思った。また最初読んだ時は独身だったが結婚して子どもがいる現在、身につまされる内容でもあった。

04.5.8
『迷宮遡行』

データ:

発行年   2000.11
発行所   新潮社(文庫)
ISBN  4-10-1499411-X
備考    『烙印』(1994年刊)を元に書き下ろし
あっちゃんの感想:
 『烙印』を読んでいないのでどう変ったのか分からないがずっとユーモラスな雰囲気で楽しく読めていたのにラストがああいうのでは裏切られたという思いが強くした。裏切りも阿多味のいいものと悪いものがあるが本書に関しては明らかに後者となってしまった。おもしろかっただけに僕としては残念。 

05.2.27
『妖奇切断譜』

データ:

発行年  2003.4
ノベルズ 1999.12
発行所  講談社(ノベルズ)
ISBN 4-06-273-727-2
あっちゃんの感想:
 なかなか凝っていた作品でした。殺人現場の法則にはあっと思いましたし展開もなかなかのものでした。後味はよくありませんがそれでも傑作です。

05.12.4
『失踪症候群』

データ:

発行年  1998.3
単行本  1995.11
発行所  双葉社(文庫)
あっちゃんの感想:
 最後よかったですね。やりきれない内容だったが最後にホッとする場面があってよかった。

05.12.26
『天使の屍』

データ:

発行年  2000.5
単行本  1996.11
発行所  角川書店(文庫)
ISBN 4-04-354101-5
あっちゃんの感想:
 読むのがつらかった。冒頭主人公が息子の死体を発見するまでのシーン、迫真に迫りもう涙なしには読めなかった。貫井旗の作品でもそうだけどどうしてこんなリアリティのあるつらい作品を書くことが出来るのか、しかもミステリーとしても一級品、ラストもこれ以外にないだろうというもので満足できた。 

06.6.11

法月綸太郎 法月綸太郎の功績 生首に聞いてみろ
『法月綸太郎の功績』

データ:

 出版社:講談社(講談社ノベルズ)
yobataさんの感想:
法月綸太郎の最新短編集。「イコールYの悲劇」「中国蝸牛の謎」「都市伝説パズル」「ABCD包囲網」「縊心伝心」の5編を収録。雑誌メフィストに発表された作品と、文庫オリジナルのアンソロジーに収録された作品で構成されています。推理作家協会賞を受賞した「都市伝説〜」が出色の出来。それ以外の作品も、多少の不満はあるものの、楽しめました。でも、長編も読みたいですよね〜。

 初期の作品には、あまり年代の特定が出来そうな記述はなかったように思うのですが、この作品集ではすぐに陳腐化しそうな芸能人の名前や、現代風俗が結構登場してるんですよね。法月綸太郎(探偵の方ね)が登場してから10年以上経過しているわけで、父親の法月警視なんざとっくに退職しててもおかしくないような気もするが、世間は時が流れ、登場人物はトシを取らないなんて、サザエさん状態にならなけりゃいいがな。もしや、すでに開き直っているのか?

02.6.21
あっちゃんの感想:
5作品のうち一番面白かったのは「都市伝説パズル」でした。「都市伝説」とミステリーをうまく組み合わせていました。
「イコールYの悲劇」、「ABCD包囲網」もよく考えられていたと思います。欲を言えば図書館シリーズも含まれていればもっとよかったです。

03.1.10
『生首に聞いてみろ』

データ:

 出版社:角川書店
 価格:1890円

 あらすじは下記URLを参照してね
http://www.kadokawa.co.jp/book/200000000181/index.html
yobataさんの感想:
 えーと、記憶が確かなら、長篇は「二の悲劇」以来だから、10年ぶりくらいでしょうか?構想15年、法月綸太郎待望の新作長篇。
 二転三転ストーリー、嘘つきばかりの登場人物、これぞ法月綸太郎!というお話でした。心理的に納得できない部分があって、ひざを打つ、というほどは感心できませんでしたが、これまた謎解きが美しく、ラストも心に残る1作でした。
 個人的には、読者への挑戦状を期待していたのですが...

04.10.4

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