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舞城王太郎 松尾詩朗 松尾由美 松岡圭祐 松本清張 麻耶雄嵩 丸谷才一 光原百合 三波春夫 宮城谷昌光 宮部みゆき 物集高音 森青花
 森博嗣 森田駿輔

舞城王太郎 世界は密室でできている 煙か土か食い物

『世界は密室でできている。』

データ:

 講談社ノベルス
 \760
 2002/4/5 第一刷
 ISBN 4-06-182246-2

参浄さんの感想:
 例の「密室本」なわけですけど、あいかわらずの暴走舞城節。前2作よりはさすがに多少上品になってるとは思いますが、どうでもいいトリックと即効のネタばらしはいつも通り。「密室本」であってもやっぱり本格をおちょくってますなあ。

 主人公が10代ということもあって、えらく青春小説してます。舞城王太郎の作品はどれもそういった面はあるにせよ、今回はかなり直球。
 これが普通に書かれていたなら、青くて青くて恥ずかしすぎて読めないようなシロモノなんですけども、暴走した文体とグロでバカな事件でほどよく中和されてイイ感じ。

02.4.29
『煙か土か食い物』

データ:

 発行年  2001.3
 発行所  講談社(ノベルズ)
 ISBN 4-06-182172-5
 備考   第19回メフィスト賞受賞作
あっちゃんの感想:
ずっと読んでみたかった作品だったけど評価難しいですね。はっきり行って無茶な話です。でも読ませていく勢いがありました。

05.9.19

松尾詩朗
『彼は残業だったので』

データ:

 出版社:光文社(カッパノベルズ)
あっちゃんの感想:
 決してつまらなくはないのですが何か物足りなさを感じました。

02.2.3


松尾由美
『バルーンタウンの殺人』

データ:

 発行年   2003.12
 発行所   東京創元社(文庫)
 ISBN  4-488-43902-0
あっちゃんの感想:
 実は本書、随分敬遠していた。フェミニズムを前面に出されちゃうとそれだけで勘弁して欲しいと思っていたのだ。しかし読んでみて随分ぜ先入観を抱いていたなと思い直した。どの作品も本格テイストに満ちているしユーモアもある。よかったです。

05.6.14

松岡圭祐 後催眠 千里眼 運命の暗示
『後催眠』

データ:
 出版社:小学館
 出版日:00.10.20
 価 格:\1400
  ISBN :4-09-386063-7

あらすじ:
 嵯峨敏也は謎の女からの電話を受けた。嵯峨にとって、かつて催眠療法の教師でもあった精神科医・深崎透の失踪を、木村絵美子という患者に伝えろ。女の声は一方的にそう指示し、電話は切れた。
 癌に冒され、余命いくばくもない深崎と、絵美子のあいだに芽生えた医師と患者の垣根を越えた愛。だがそこには驚くべき真実が隠されていた――。
(裏表紙より)
kikuchiさんの感想:
 『催眠』より数年前の数年前のお話だそうです。『催眠』ではすっごく颯爽としていて格好良かった嵯峨敏也ですが、『千里眼 ミドリの猿』ではすっかり情けなくなってしまいました。んで、この『後催眠』では、『ミドリの猿』ほどではないにせよ、なんかただの脇役になってます。
 松岡佳祐は、こういう超常的な謎に合理的な説得力ある解決をつけるのが非常にうまくて、毎回感心させられます。今回も、その目的はともかくとして、謎の女の電話のミステリーについて、「なるほど」と思わせる解決をつけてくれています。で、ラストは、深崎の優しさというか、思いやりの深さに感動したんだろうなあ、やっぱり。

01.3.8
『千里眼 運命の暗示』

データ:

 出版社:小学館
 出版日:01.1.1
 価 格:\1600
  ISBN :4-09-386066-1

あらすじ:
 捕らわれた岬美由紀を救い出すため、嵯峨敏也と蒲生誠は東京湾唯一の無人島・猿島に向かう。しかしそこには既に、メフィスト・コンサルティングの罠が張り巡らされていた。中国15億人を一斉に操り日本侵攻に向かわせるメフィストの集団マインドコントロールのからくりとは?残された猶予はわずか24時間。そこにはオカルトや超常現象ではない、科学的”催眠暗示”の巧妙なトリックが隠されていた――――。
 岬美由紀と友里佐知子、二人の運命の行方は?「催眠」の入江由香が見たミドリの猿の正体とは?そして日本を襲う未曾有の危機の結末は?
(裏表紙より)
kikuchiさんの感想:
 ぜんぜんだめでした。『千里眼 ミドリの猿』では自分が自分の意志で決めていると思っていることが、実は巧妙にコントロールされている、という怖さをリアルに描けていたと思うのですが、今回の中国15億人を操ったマインドコントロールのからくりは、あまりにも「それだけ?」なもので、とうてい納得するわけには行きません。それにこのからくりでは、憎悪の対象が岬美由紀に向かう説明がついていません。
 あと、「ミドリの猿」の正体は、本当に無理矢理すぎて笑えます。たぶん『催眠』ではたんなる錯乱者のうわごととしての意味以上のものは無かった「ミドリの猿」に、何らかの実体を後付けしようとした結果なんでしょうけど。冗談ならともかく、本気でこんなこと書いちゃあ。
 エピローグもだらだらと無意味に長いし、この中での岬美由紀の行動はやっぱり無茶苦茶を極めているし、で、本来シリーズの総決算であるはずの本書後半は結局すべて駄目です。なんか、シリーズ化すると駄目になる見本のような話ですね(笑)。

 私は松岡圭祐という作家自体は買っているので、今後も『煙』とかは読んでみようと思うのですが、この千里眼シリーズはもう駄目でしょう。『洗脳試験』は読むべきかどうか。

01.7.25

松本清張
『天保図録』
くれい爺さんの感想:
このところ「黒皮の手帳」のテレビドラマ化での好評や宮部みゆき編の短編選集の発行と松本清張作品が話題にのぼってました。
これは文庫本で上・中・下の全三巻、約1500頁ということで、読み終えるのにそうとう時間がかかりました。
それにこれはミステリーでなく歴史小説、もちろん清張は歴史小説も多く書いているし、その面でもエンタテインメントとして一流ではあるのだが。
この作品は1962年から約二年半にわたって「週刊朝日」に連載されたものだが、著者があとがきで“一年くらいの予定で”と考えていたものが大幅に伸びたということで、これも著者が“歴史的史実にほぼ忠実に”というように歴史的な出来事を相当細かい部分にまで言及していて、その部分で少々書き込みすぎで、読者としてはテンポよく読めなかった。

04.12.25

麻耶雄嵩 木製の王子 名探偵木更津悠也 神様ゲーム

『木製の王子』

データ:

 発行年  2000.8初刷り
 発行所  講談社(ノベルズ)
 ISBN   4-06-182141-5
 備考   「このミス’2000」国内編12位

あっちゃんの感想:
 評価:A
 リアリティのなさ、精緻すぎて挑戦する気にもなれないアリバイ、これらが最後になって見事に結集していく見事さ、麻耶雄嵩以外の誰にもかけないであろう作品でしょう。

02.6.5
くれい爺さんの感想:
面白いといえば面白いのだが、ちょっとというところもある。
で、ネタばれです。

まず、登場人物の家のなかでの移動タイムテーブルによるアリバイくずしだが、いちいち検証はしなかったが、方法としてそういう方法もあるとは思っていた。
つまりAがBへ行ったのでなく、BがAに行ったのではないかということ。
そのタイムテーブルだが、犯行のためのものではないことはたしかだろう。
ならば犯人は犯行後にそのタイムテーブルから短時間にアリバイ(人と出会わずに犯行をすること)を完成させることが出来るだろうか。
もっとも、家族のなかでは出会ってもかまわなかったのではないかとも思うのだが、その場合にはタイムテーブルも必要ないし、そもそもなぜそのときに犯行が行われたのか、
という疑問は残る。
などといっても、読んでない人にはわからないだろうなあ。
この喉につっかえたようなわだかまりを、言葉にして説明するのは難しい。
読んだ人と語りながらなら伝わるかもしれないが。
各章の冒頭に出てくる話が、最後に「なるほど」と気づいた。

05.9.2
『名探偵木更津悠也』

データ:

 発行年   2004.5
 発行所   光文社(ノベルズ)
 ISBN  4-334-07564-9
あっちゃんの感想:
 前回木更津悠也が出てくる作品を読んだのはいつだったろうか、麻耶雄嵩の作品はいずれも一筋縄ではいかないものばかりなので今回も覚悟して読んだ。しかし収録されている4作品とも非常にストレートな本格でおもしろかった。僕は「交換殺人」が結構気に入った。他の三作もよかった。

05.12.28
『神様ゲーム』

データ:

 出版社:講談社(ミステリーランド)
 出版日:05.7.6
 価 格:\2100
  ISBN :4-06-270576-1

あらすじ:
 小学4年生の芳雄の住む神降市で、連続して残酷で意味ありげな猫殺害事件が発生。芳雄は同級生と結成した探偵団で犯人捜しをはじめることにした。そんな時、転校してきたばかりのクラスメイト鈴木君に、「ぼくは神様なんだ。猫殺しの犯人も知っているよ。」と明かされる。大嘘つき?それとも何かのゲーム?数日後、芳雄たちは探偵団の本部として使っていた古い屋敷で死体を発見する。猫殺し犯がついに殺人を?芳雄は「神様」に真実を教えてほしいと頼むのだが……。
(amazon.co.jpより転載)
kikuchiさんの感想:
 昨年のベストテン企画で軒並み好評だったので読んでみました。が・・・。
 なにこれ?
 悪口を言うのはあまり好きではないのですが、いくらお子様向けとはいえやっつけ仕事が過ぎやしないか? 本格としても、サスペンスとしても、ジュヴナイルとしても、あるいは不条理ミステリとして頑張って読もうとしても、とても評価できるような代物ではない、全てにおいて中途半端で宙ぶらりんな話でした。
 これを評価している人たちがいったい何をどのように評価したのか、そっちの方が非常に気になります。

06.2.21

丸谷才一
『輝く日の宮』

データ:
 講談社
 ¥1800
 2003/06/10 第一刷
EGGさんの感想:
奥泉光や石川淳の小説群(つまり文学的・刺戟的な文章で、奔放なストーリーを語る)にひっくるめることが出来る、知的エンターテイメント。
私・個人的には、三大奇書といわれる『黒死館』『ドグラマグラ』『虚無』も、ここかそれに非常に近い場所に、位置する。

というわけで、この手の小説はめったに読まないけれど、結構好きなジャンルなので評価点は高い(90点)。

杉安佐子という国文科の助教授の身の回りの出来事を語っているのだが、あらすじを言うのは至難。そこで印象に残ったことにコメントをつけます。

1.プロローグの短編は、ぜったい作者自慢のできばえ。もっともっと読みたい。
2.芭蕉が奥の細道を旅した目的は、目からうろこ。何で気がつかなかったのだろう。
説得力があるというより、これが事実に違いない、うん。
3.タイトルの「輝く日の宮」とは源氏物語の幻の一帖で、ただの言い伝えなのか、実在するのか、そうならばなぜ表に出なかったのか、というなぞを追求している。
この小説での解決は、「かなり正解に近いがまだ修正できそう」という印象だが、源氏をあらすじでしか知らない私でも十分楽しめた。
でもきっちり知っていたら、きっとのけぞったに違いない。それが残念。

03.7.24
くれい爺さんの感想:
 丸谷才一を描写するなら“才人”という言葉がぴったりではないかと思っている。
この「輝く日の宮」はその才人ぶりが見事に出た作品といってよいのではないか。

“学ぶ”という言葉は“問う”とか“究ねる”といった言葉と相性がよいように疑問を解決するという意味も含まれているように思える。
昔、小生の師は「習うというのは形を覚えることで、学ぶというのはその意味を知ること、そして修めるというのはその意味を知った上で自在に使えること」と言われたことを思い出した。

作品の中で、芭蕉の「奥の細道」の中の“百代”を“はくたい”と読むことについて書かれているが、そこに疑問を持ち、それを解決することの面白さ、そこに学ぶことの面白さがあり、教育というのはその学ぶことの面白さを知ってもらうことではないかといっているようだ。
疑問を持たずに“百代”を“はくたい”と読んでしまえば、それは学んだことではなく、習ったことにしかならない。

学問の中でも“歴史”というのは特に相性がよいらしく、ミステリーの一分野においても“歴史ミステリー”というものが存在し、数多くの傑作があるのもその証明であろう。
それは文学史という、古典を振り返ることにも通じるようだ。
EGGさんがこの作品をミステリーとして読んだというのもそこらあたりにあるのかなと思った。
「源氏物語」における「輝く日の宮」の章の存在への考察も推理といってもよいほどに面白い。

それにしても、こういう助手や助教授がいると、世の大学教授たちがセクハラや猥褻行為に走りたくなるのも分かるような気がする。(^^;

04.4.25

光原百合
『遠い約束』

データ:

 出版社:東京創元社(創元推理文庫)
 出版日:01.3.30
 価 格:\560
  ISBN :4-488-43201-8
 解 説:西澤保彦
 備 考:表紙と挿絵は「パズルゲーム☆はいすくーる」の作者で西澤保彦ファンサイトの主催者でもある野間美由紀

収録作品:
 消えた指環、遠い約束T、「無理」な事件――関ミス連始末記、遠い約束U、忘レナイデ…、遠い約束V

あらすじ:
 駅からキャンパスまでの通学途上にあるミステリの始祖に関係した名前の喫茶店で、毎週土曜日午後二時から例会――謎かけ風のポスターに導かれて浪速大学ミステリ研究会の一員となった吉野桜子。三者三様の個性を誇る先輩たちとの出会い、新刊の品定めや読書会をする例会、合宿、関ミス連、遺言捜し……多事多端なキャンパスライフを謳歌する桜子が語り手を務める、文庫オリジナル作品集。
(裏表紙より)
kikuchiさんの感想:
 というわけで、光原百合の新作です。「人が死なないミステリ」の書き手としては北村薫、加納朋子以上に徹底していて、本作でも殺人事件は一件も起きません。そんなわけで、ミステリとしては謎解きにもトリックにも「小粒」感がどうしても否めません。

 消えた指輪(ミッシング・リング)は、タイトルの通り消えた指輪の謎、です。ハウダニットではなくホワイダニットが中心のストーリーなので、そのトリックの出来映えについて云々してもしょうがないんですけど、でも指輪程度の小さいものだしなあ、その気になればいくらでも隠し場所はあるよなあ・・・。
 遠い約束はT、U、Vともミステリが大好きだった大叔父さんの遺言状(暗号)を探し出して解く話です。この暗号が全然ひねりのない易しいものなのはご愛敬として、そのひねりのないミステリを一生懸命ひねろうとして3話になった、という感じ。
 忘レナイデ…は、「大阪府」と宛名しか書いていない手紙が九年の時を越えて届いた謎、ということで、謎としては一番魅力的かもしれませんが、作者が書きたかったのはこちらもハウダニットではなくホワイダニットなので、謎の解決はさらっと流されてしまっています。ま、その「ホワイ」の方はジュブナイルな感じがよく出ていて、悪くはないですけどね。

 総合的に評して、やっぱりミステリとしてはかなり弱い感じがしましたが、まあ、こういう作風の人がいてもかまわないし、たまに読む分にはよろしいのではないか、と。

01.4.26

三波春夫
『真髄三波忠臣蔵』

データ:
 出版社:小学館(小学館文庫)

くれい爺さんの感想:
 「かかる折りしも、一人の浪士が雪を蹴立てて
 サク、サク、サク、サク、サク、サク、
 『先生』
 『おうっ、蕎麦屋か』」

 知る人ぞ知る、三波春夫の名作「俵星玄蕃」のクライマックス。
 「先生」とは槍の達人、俵星玄蕃。
 「蕎麦屋」は赤穂浪士の一人、杉野十平次。

 三波春夫は昭和30年代後半から40年代において、まさしく国民歌手であったろう。
 「東京五輪音頭」や「エキスポ’70」のテーマソング「世界の国からこんにちは」などを歌ってましたからね。(笑)

 その三波春夫が「忠臣蔵」のことを書いた。
 浪曲、歌舞伎、映画、ドラマなどで誇張されたエピソードなどを、史実はこうだったとよく調べられて、面白く読ませてもらった。

 現代の若者がどうとか、政治や社会がどうとかというのは、三波が書こうと考えた理由ではあったかもしれないが、蛇足であろう。

 それよりも、もっとエピソードを取り上げて、それに対しての三波が調べたことや、そこから推測される実際にどうだったであろうかということなども掘り進めてほしかった。

 「赤埴源蔵の兄との別れ」や松の廊下で浅野内匠頭を止めた梶川与惣兵衛が「武士の情け、止めて下さるな」という内匠頭の言葉に苦悩するという浪曲もあったような気がする。
 そんなさまざな「忠臣蔵」周辺のエピソードをいろいろと集めたものを読んでみたいものだ。

 NHK大河の長谷川一夫が大石内蔵助を演じた「忠臣蔵」は知らないけれど、記憶しているのは山村聡が演じた「ああ忠臣蔵」、三船敏郎の「大忠臣蔵」、読売テレビ系の年末時代劇「忠臣蔵」では里見浩太郎、NHKの大河では他に「元禄太平記」では江守徹、「元禄繚乱」では中村勘九郎、映画では「赤穂城断絶」で萬屋錦之助、「四十七人の刺客」で高倉健など。

 雪を蹴立ててサク、サク、サク、サク、サク
「先生っ」
「そ、ば、や、か〜っ」

 聞きなおしてみたい。

02.8.21

宮城谷昌光 奇貨居くべし 管仲 歴史のしずく 香乱記
『奇貨居くべし』(全5巻)

データ:

 出版社:中央公論新社
くれい爺さんの感想:
 このところ人物の評価で意外と感じたことが二つ。
 一人は、柴田勝家で、NHK大河ドラマ「利家とまつ」で松平健が演じているのだが、豊臣秀吉の出世譚からみると敵役のこの人物に武士の美意識的なものを与えていて、松平健のよい演技もあって、ちょっと人物感が変わった。
 逆に豊臣秀吉を出世欲に固まったこずるい男のような印象に描いていて、こちらも香川照之の熱演もあって、その印象を強く感じさせている。
 豊臣秀吉に関しては、安部龍太郎が「関ヶ原連判状」で、「所詮は運と要領が良かっただけの男だ」と細川幽斎に語らせたり、「太閤殿下には天下を統べる器量はなかった」「おのれの器量を超えた地位につけば、我が身を滅ぼすばかり」とか、「力で押さえつけた大名や将兵の不満を己の最も得意な合戦によってそらすために朝鮮や明国に攻め込もうとした」、結局秀吉は出世が目標であり、最高の権力者になって何をするかという目標に欠けていた人物として描いており、なるほどと思わせていた。

 もう一人の人物は、この作品の主人公の呂不葦である。
 商人から中国の戦国時代の秦の宰相にまでのぼりつめ、中国統一を果たした秦の始皇帝の父ともいわれる人物で、どちらかというと奸物という印象を持っていたのだが、その人物に宮城谷は徳の光を当てて描いている。
 作品としては権謀術数の面白さというのは最後のほうだけで、盛り上がりに欠ける印象もあるが、宮城谷が彼の作品群を通じて描こうとしている「徳」というものは、ここでは案外わかりやすく描かれていると感じた。

02.8.11
『管仲』

データ:

くれい爺さんの感想:
「管鮑の交わり」の故事で有名な、中国の春秋時代の管仲と鮑叔の友情の話。
いつもながら宮城谷の文章、使われる言葉、とくに漢字から発せられる濃密な表現が心に広がるさまが心地よい。
もちろん漢字にうとい小生としては、作者の思いほどそれを味わってはいないだろうが。
故事から、人と人との出会いとは何か、友情とは何か、その友情を持続させるためにはどうあるべきか、という主題を問いかける。
小生自身は斉の桓公を中国の春秋時代最初の覇者にした管仲の才能よりも鮑叔の大きさに魅力を感じるのだが。

03.6.23
「歴史のしずく−宮城谷昌光名言集」
くれい爺さんの感想:
まだ三分の一ほどしか読んでいないが、とりあえず本を置くことにした。

「ー天を仰がないからだ。
 うつむいてばかりいては一生天をみることができない。ときには身をそらし目をあげてみなければ、人は頭上にあるものがみえぬであろう。たしかに天は遠い。人のいとなみにはかかわりがないほど遠い。」(「奇貨居くべし」)

こういう言葉を、その言葉のみで真に理解するのは難しい。
作品の中で読んでいるときは、主人公の目で見るという、いわゆるバーチャルの中にいるので、まだその意味を理解しやすいが、言葉だけで理解しようとするとよほどの人生経験が必要かもしれぬ。

宮城谷は40代になってから認められた作家で、その前は貧乏をしていたというのはよく知られているが、その宮城谷ももう全集が発行されるほどの大作家。
それにしても自選の言葉に「名言集」とは、ちとおこがましいような気もする。
もちろん出版者の意向なのだろうけど。

宮城谷作品のファンであるので、こういうのも読んでおきたいが、小生のような人生を半分捨てた人間にはあまり意味を持たないのかもしれない。
人生これからという若い人に読んでもらいたいが、さきに述べたように、これらを言葉のみで理解するにはよほどの人生経験が必要で、ちょっと矛盾してしまうんだよな。

というわけで、こういう本は本棚に置いておいて、折に触れて読んでみる程度が小生のような人間にはいいかもしれぬ。

03.7.27
『香乱記』
くれい爺さんの感想:
 秦末から楚漢戦争の時代、中国に斉(山東地方)の国を復興させた田横という人物を描く。
司馬遼太郎に「項羽と劉邦」という作品があるように、楚漢戦争を描いた作品はいろいろある。
「香乱記」は宮城谷の描く楚漢戦争で、宮城谷が誰を主人公に置いたかということで、楚漢戦争というものをどうとらえているかを知ることができよう。
宮城谷は主人公に劉邦でもなく、項羽でもなく、田横という人物を置いた。
田横は人を欺いて天下を得る劉邦にも、残虐な項羽にも与せずに斉という国を復興させようとした。
それは成らなかったが、その生き方の清々しさ、正義を貫く精神の高潔さが、宮城谷をして主人公とさせたのだろう。
このところの「奇貨居くべし」といい、宮城谷は成功者を主人公に置かない。
いや、それはこのところでなく、ずっとそうだったのかもしれない。
宮城谷の作品の主人公は覇者や王侯でなく、それを補佐するものが多い。
田横の生き方を描く話は面白く読めたのだが、最後に劉邦の詐謀によって多くの家臣や兵を死なせてしまうのは、一国平和主義の限界のようにも感じた。
個人が正しく生きることは尊いが、為政者がそれを求めすぎたときは臣民に悲劇を生むことになりかねないのではないか。
あるいは、あえて汚れること、恥を忍んで生きることも必要ではないか、そんなことも感じさせられた。
勝ち続けた項羽が最後に破れ、負け続けた劉邦が最後に勝ったというのがどうも分かりにくかった楚漢戦争だったが、それをこの作品は分かりやすく描いていて納得できた。

04.9.18

宮部みゆき 模倣犯 R.P.G. 今夜は眠れない ドリームバスター 火車 長い長い殺人 震える岩 地下街の雨 あかんべえ 夢にも思わない ぼんくら 幻色江戸ごよみ 日暮らし
『模倣犯(上・下)』

データ:

 出版社:小学館
 出版日:01.4.20
 価 格:各\1900
 ISBN :4-09-379264-X(上)
      4-09-379265-8(下)
 初 出:週刊ポスト1995年11月10日号〜1999年10月15日号

あらすじ:
 公園のゴミ箱から発見された女性の右腕。それは「人間狩り」という快楽に憑かれた犯人からの宣戦布告だった。
(帯より)
kikuchiさんの感想:
 宮部みゆきの描く悪人というのは非常に典型的で、同情の余地がひとつも無いような人物が多いのですが、今回の「悪人」はさらにひとまわりグレードアップしていて、もの凄い悪いことをしていながら回りからは立派な人物と思われていて信望も厚いという奴。んで、こともあろうに本当は自分が犯人の事件で、えん罪の容疑者の弁護役を買って出て一躍マスコミの寵児になってしまうという・・・。

 被害者への視点が欠けていると被害者の身内から言われたライター・前畑滋子が、結局最後まで高井家という一番の被害者に対してなんにもフォローしてないというのはいかがなものか。最後に真犯人をハメる引っかけだって、結局自分が溜飲を下げただけの話しだし。その前にワビの一つも入れに墓参りに行けよ。
 それと、これだけ物証がなくて状況証拠が1つ2つあるだけの人がこんな簡単に犯人と誤認されるものか? ワイドショーがゴシップ的に騒ぐのはありそうな話だけど、警察でも、というのはいくらなんでも・・・。だいたい複数犯だといって、犯人グループが2人だけとは思わないでしょう。警察が他に共犯者がいる可能性を最初から考えていないというのはウソっぽいなあ。

 現代ものをしばらく書きたくないと言っている宮部ですが、もしかしたらこんな話を書いて自家中毒を起こしたのが原因かもしれません。それくらいヤな話です。

01.4.10
『R.P.G』

データ:

 出版社:集英社(集英社文庫)
 出版日:01.8.25
 価 格:\476
 ISBN :4-08-747349-X

あらすじ:
 ネット上の疑似家族の「お父さん」が刺殺された。その3日前に絞殺された女性と遺留品が共通している。合同捜査の過程で、「模倣犯」の武上刑事と「クロスファイア」の石津刑事が再会し、2つの事件の謎に迫る。家族の絆とは、癒しなのか? 呪縛なのか? 舞台劇のように、時間と空間を限定した長編現代ミステリー。宮部みゆきが初めて挑んだ文庫書き下ろし。
(裏表紙より)
kikuchiさんの感想:
 適当な長さで非常に読みやすくて、値段も安いので、それだけで『模倣犯』より評価できちゃいます(笑)。ま、途中でいかにも怪しい動きが出てきたところで真犯人はだいたい分かる思いますけど、その後の犯人の行動まで読み切った武上の戦術にはちょっと感心しました。
 最後の方で犯人が自分の犯行を「正義」のためと言うのを窘める石津刑事が青木淳子の例を引き合いに出しています。でも、青木淳子の場合は放っておくと快楽殺人を繰り返すであろう極悪人を「処分」しているわけだから、今回の犯人とは明らかに犯行の「質」が違うはずで、それを同列に言ってしまっているところに非常に違和感がありました。もしかしたらこの辺に『模倣犯』以前と以降、「現代もの封印宣言」以前と以降の宮部の変節があるのかもしれません。このあたりはもうちょっと考察してみたいと思っています。

 ところで、先日TVで放映された映画「クロスファイア」を見ました。監督が金子修介ということで、迫力ある特撮映像に関しては申し分ないと思うのですが、特撮に重点が置かれ過ぎてしまい、等身大の人間ドラマが宮部の小説からするとかなり物足りない出来のものでした。また、ガメラ関連の俳優&女優がちょろちょろと顔を出すのはちょっとね。

01.9.7
EGGさんの感想:評価84点
 『クロスファイア』も『模倣犯』も未読です。「一幕もの」推理劇、に無理やりまとめようとしたためか、はじめの100ページほどが、とても読みにくかった。状況を把握するため、何回も読み返したりしているうちに、鈍い私にも仕掛けの見当がついてしまいました。

うーん、このスタイルを選ぶ必要は無かったのではないでしょうか。私の好みでいうなら、ピンチヒッターで尋問をした武上刑事を主人公に、全部ネタ割ってでもいいから、犯人をどう落とすかというサスペンス小説にしてくれた方がよかったかな。

宮部さんの思いついた仕掛けは面白いと思うけど、それって「やられた!」と、読者が快感をおぼえて初めて価値があるわけで、そのためには、疑問を持たせないほどずんずん読み進められるようなそんな語り口がほしいのです。それと、一幕物にするなら、やっぱり登場人物の会話だけで知らせるべきでしょう。

それがそうならなかったのは、作品のテーマが、犯人の心(動機)にあったからだと思います。仕掛けは仕掛けとして、つい人物造形に力を入れてしまう。本質的に宮部さんはミステリアンではなく、小説家なのだと思います。

最近なんでだか、先ほど書いた感想以外にも、島田荘司の吉敷刑事シリーズを初期のものから何冊か読み返しています。(御手洗はボリュームがあって…(笑))で、島田はどうかと言うと、ある意味小説的には無理だったり唐突だったりしても、ミステリーを読んでいるという満足感やゾクゾク感は、遥かに大きい。20年前のものを再読しても、それは失せないのです。かえって講談社ノベルズの新本格が、あまりに脆弱で霞んで見えるほどです。(島田と宮部を比べてどうする、って分かってはいるんですが、つい)

宮部がうまい(筆力がある)というのは、もうはっきりしているわけで、それは本格じゃないからって価値が下がるわけも無いのです。こんな感想を書いていて、「だめじゃないか、宮部にミステリーを期待しちゃあ」と、私が自分を納得させるための文章なんですね。(すみません、変に自己完結してしまって)

私もみーまーさんと同じで、『火車』のような傑作を再び堪能したいと思っているクチなので、つい出てしまった愚痴なのでした。

02.4.26
『今夜は眠れない』

データ:
 出版社:中央公論新社(中公文庫)
あっちゃんの感想:
 今や東野圭吾と並ぶミステリー界の大御所になった感のある宮部ですがこんな作品もいいですね。こういうタッチの作品はもうかけないかもしれませんが・・・・

02.2.3
『ドリームバスター』

データ:

 徳間書店
 2001/11 発行
 評価 82点
EGGさんの感想:
SFファンタジーになっても宮部は宮部です。なんとも言えないゆったり感と、さりげないユーモア。特に第1話の母親(悪い夢を見ている)とマエストロ(他人の夢に入り込んだ凶悪犯を捕獲する)との会話には、にやにや。当たり前過ぎる箇所なので、誰にでも書けそうですが、書けないんじゃないのかなあ、おそらく。
2人の間(沈黙)や、表情まで浮かぶっていうのは、会話がよっぽど自然じゃないとできないことで、宮部が天性の書き手であることの証左であると思います。

1,2話で(何だファンタジーとか言って結局は人情話じゃんか、それも軽めの)、なんて思ったら、3話が意外に硬質のファンタジー。
アニメ「カウボーイ・ビバップ」みたいな、乾いた空気と賞金稼ぎしか来ない「穴」の町がよく描けています。
(穴とは、次元の裂け目のようなもので、爆発事故により犯罪者たちが逃げたため政府が懸賞金をかけている)
やっと設定が飲み込めたところで、to be continued…・
主人公の少年の母も、犯罪者として逃亡中なので、話はいくらでも伸ばせそう。本当の評価は二巻が出てからですかね。

02.4.12
『火車』

データ:

 発行年   1998.2初刷(単行本1992.4双葉社刊)
 発行所   新潮社(文庫)
 ISBN  4-10-136918-6
 備考    山本周五郎賞受賞作
あっちゃんの感想:
 10年前の作品なのに背景となっているものはほとんど変わっていません。そこにこの問題の深刻さがあるのではと思いました。実は自己破産した友人がいまして僕の彼には1万円弱のお金を貸していましたがある日弁護士から手紙が来ました。ですから余計この作品は身近に感じられました。この作品に登場する人物はほとんどが好感の持てる人間です。シリアスな展開なのにほっとする、いかにも宮部らしい・・・違うんですね。登場人物を好人物に描けば描くほど一歩間違えたら彰子と同じことになってしまう怖さを知ってしまったのでリアルに受け止めることが出来ました。

02.10.31
『長い長い殺人』

データ:

 発行年   1997.5初刷り(単行本:1992.9)
あっちゃんの感想:
 複数の財布による一人称連作ミステリーというのは意欲的な試みだったと思います。当初一つの財布の持ち主が変わっていくのかと思いましたがそれ以上に難しい手法でした。随所に宮部らしい人情あふれる登場人物を配しながら犯罪自体は4人の連続殺人ですし動機も犯人もぞぞっとするものでした。それがちょっと現実味が薄いかなとも感じましたがそれをカバーするだけのものはあったように思います。

02.12.11
『震える岩』

データ:

 発行年     1997.9初刷(単行本:1993.9)
 発行所     講談社(文庫)
 ISBN    4-06-263590-9
あっちゃんの感想:
もう少しミステリーサイドの作品かなと思っていたがむしろ怪異談の方に力点があった。もちろんミステリーとしてのツボは踏まえているしおもしろい作品だった。お初と右京之介のコンビもいいしヒューマンな視点もいい。ただ構成にもう少し緻密さがあったらなと(これは贅沢か)
 宮部の作品は慣行順に読んでいるがこの刊行が1993年、現在まで10年の開きがある。この開きを狭めていくことができるかなあ

03.12.15
『地下街の雨』

データ:

発行年  1998.10
発行所  集英社(文庫)
ISBN 4−08―748864―0
備考   1994.4単行本刊行
あっちゃんの感想:
 表題作を読むと宮部らしい読後感のよい作品だなあと思ったが続く「決して見えない」は一転してブラックな味わい、「不文律」はある種身につまされた。「混線」はちょっと無茶な設定だが結構描写が怖かった。「勝ち逃げ」はドラマという点では秀逸。「ムクロバラ」は犯罪解明と刑事の家庭のドラマがきちんと調和していた。「さよなら、キリハラさん」は落ちが見事だった。
 この作品集、単行本の刊行が1994年、宮部の作品は基本的には刊行順に読んでいってるのでまだ最新作までは10年のブランクがある。何とかその差を少しでもちじめたい。

04.8.28
『あかんべえ』

データ:

 PHP研究所
 2002/03/29発行
 ¥1890

内容:
 江戸・深川の料理屋に化け物が現われた。
娘・りんがその騒動の真相を探るうち恐ろしい過去の事件が浮かび上がる!
長編時代ミステリー。
『歴史街道』連載に加筆・訂正を加えて単行本化。
EGGさんの感想:
 宮部はホントに語り口がいい。情景描写なら、他に上手いと思う作家さんが幾人もいるのだけれど、エッセイのように自在に語る筋立ての部分と、キャラが鮮明に浮かぶようなせりふに関しては、名人芸だろう。(特に玄之介、おみつ)
本格ミステリーではないけれど、お化けたちが成仏できない理由、寺で何があったのかなど、程よく伏線が張られていて、収束が非常に腑に落ちます。(うちのめれんげは泣けたそうです。わたしはそういうことはなかったので、WEBを検索したら、泣いている人多かった。なぜだろう...) 十分楽しめましたけどね。

04.9.12
『夢にも思わない』

データ:

 発行年  2002.11
 発行所  角川書店(文庫)
 ISBN 4-04-361102-1
あっちゃんの感想:
 ちょっとラストがねえ、後味悪かったです。まあ宮部の意図もわからんではないのですが・・・

05.6.19
『ぼんくら』
 くれい爺さんの感想:
評価の高い作品ではあるが、最初は少々展開が遅いかなと感じていたのだが、本編、「長い影」の章に入ってからはもう一気に読ませます。
ユニークな人物造詣、軽妙な語り口、巧妙な言葉遣い、そしてなんといっても展開の面白さ、宮部みゆきの才能全開の一編。

05.7.14
『幻色江戸ごよみ』

データ:

発行年  1998.9
発行所  新潮社(文庫)
単行本  1994.7新人物往来社
ISBN 4-10-136919-4
あっちゃんの感想:
特にミステリーということではないがいずれの作品も味わい深い作品である。悲しいがゆえに美しい人生ドラマをどうして講もうまく描くことができるのだろうか、「まひごのしるべ」なんか特にいいですね。そういう悲しい話ばかりではなく「器量のぞみ」や「首吊り御本尊」のようにホッとするような話もある。時代小説はあまり読まないが、宮部は別ですね。

06.3.12
『日暮らし』

データ:

くれい爺さんの感想:
 あの「ぼんくら」の続編。
宮部みゆきの作品を読むたびに、その読み易さに感心させられるのだが、この作品もそう。
それとユニークなキャラクターの設定にも感心させられる。
そして、その一人一人がキャラ立ちしているんだよね。

06.5.5

物集高音 冥都七事件 赤きマント
『大東京三十五区 冥都七事件』

データ:

 著 者:物集 高音
 出版社:祥伝社
 出版日:H13.2.20(第1刷)
 価 格:\1800
  ISBN :4-396-63184-7
 初 出:小説non1999年9月号、12月号、小説NON2000年5月号、7月号、9月号、11月号、書き下ろし

収録作品:
 老松ヲ揉ムル按摩,天狗礫、雨リ来ル,暗夜ニ咽ブ祟リ石,花ノ堤ノ迷途ニテ,橋ヲ墜セル小サ子,偽電車、イザ参ル,天ニ凶、寿グベシ

あらすじ:
 未だ闇深き「冥都東京」に現れる七ツの謎、謎、謎――血を吐く松、石雨れる家、夜泣きする石、迷路の人間消失、予言なす小さ子、消える幽霊電車、天に浮かぶ文字――
これら奇々怪々、不思議千万の事件を取材するは、早稲田の芋ッ書生にして、雑誌の種とり記者の阿閉万。
かたや、その綾を解いて見せるは、下宿屋の家主で、「玄翁先生」こと間直瀬玄蕃。
この大家と店子の珍妙なる問答の末に、明かされる意外な真相とは? 安楽椅子ならぬ”縁側探偵”の名推理とは?
面妖な謎、洒脱な文体、怜悧な論理! 探偵小説の真骨頂がここにある! 瞠目の奇才、ついに本領を現す!
(表紙折り返しより)
kikuchiさんの感想:
 前作『血食』は、文体は凄いものの内容的にはいまいちパッとしないというか、ミステリとしてはあまり面白くない出来だったのですが、本作の方は内容的にもなかなか良かったと思います。巷ではびこる怪談・奇談とその合理的解釈、さらにその動機に至るまでちゃんと辻褄が合っていて説得力がありました。特に、「天狗礫、雨リ来ル」「暗夜ニ咽ブ祟リ石」「天ニ凶、寿グベシ」での怪現象の解釈(トリック)はいずれもなかなか良くできていたと思います。
 「天に・・」の最後でそれまでの話をすべて括ろうとした力業も、それなりにちゃんと伏線を生かした作りになっていて感心する一方、「そういうラストにしなくても・・・」という気も。
 全体として、物集高音を見直した一作です。

01.9.30
『赤きマント【第四赤口の会】』

データ:
 出版社:講談社(講談社ノベルス)
 価 格:\740
 出版日:2001/10/5 第一刷
 ISBN:4-06-182203-9
 収録作品:「赤きマント」「肉付きの面」「歌い骸骨」「魔女の箒」
参浄さんの感想:
 まず、一読気になるのが文体。短いセンテンスに、「〜だった。」が続く文末。どういった効果を狙ったのかさっぱりわからない。人それぞれだろうけど、私は乗れなかったなあ。田口トモロヲばっかりが頭に浮かんで。

 どの短篇も、昔話や伝承の背後にある真相を語る、といった歴史ミステリ的な構成。カバーのあらすじにいわせると民俗学ミステリだそうですが。
 ただ、その伝承と真相の落差があまり無いというか、むしろ伝承それ自体の方が面白かったりするわけで、その試みが成功してるとは言いがたい。

 やはりこういった作品は、学説的に無理があっても大風呂敷をひろげてくれる方が楽しめますね。

02.4.10

森青花
『BH85』

データ:

 出版社:新潮社
 出版日:99.12.15
 価 格:\1300
  ISBN :4-10-433901-6
 備 考:第11回日本ファンタジーノベル大賞優秀作受賞作

あらすじ:
 毛精本舗の研究者・毛利は自分の研究を認めてもらうために、開発した髪状生命体BH85を自社製品とすり替えて出荷した。ところが、BH85は、突然変異を遂げ、あらゆる生物の皮膚上で増殖しながらそれらの生物を融合し始めた。地球の生物はすべてBH85に取り込まれ、BH85が地球を包み込み始める。
kikuchiさんの感想:
 吾妻ひでおの表紙に誘われて読んでみました。日本ファンタジーノベル大賞の優秀作受賞作品だそうですが、ストーリーからするとファンタジーというよりむしろホラーです。
 大筋は、なんかキング『ザ・スタンド』をおちゃらけて書いたような感じの話です。ある「人工物」が人類を絶滅の危機に追い込み、その「人工物」に免疫な人たちが新たな世界を築いていく、と。で、その過程で人間が開発したはずのその「人工物」が、実は神の意志みたいなものと繋がっていく、なんていうところが。

 しかし、体中黒緑の毛で覆われた怪物が次々と人や動物を「融合」していくシーンは本当にキモチワルいもので、読みながら体が痒くなるような恐怖を感じたのは『天使の囀り』(貴志祐介)以来のことです。ただ、登場人物がみんなあんまり恐怖を感じていないで妙に呑気なところとか、恐怖の対象であるはずのBH85も至って呑気に会話しているところ、またイラストが吾妻ひでおということで漫画チックな雰囲気になっているところで、そういう不快感が帳消しにされており、不思議な雰囲気のホラーになっているような気がします。

01.4.26

森博嗣 黒猫の三角 人形式モナリザ 月は幽咽のデバイス 夢・出会い・魔性 魔剣天翔 恋恋蓮歩の演習 六人の超音波科学者 捻れ屋敷の利鈍 朽ちる散る落ちる 赤緑黒白 幻惑の死と使途 夏のレプリカ 今はもうない 四季 秋 φは壊れたね 数奇にして模型 有限と微小のパン
『黒猫の三角』

データ:

 講談社ノベルズ
 ¥880
 1999/05/05第一刷
EGGさんの感想:評価 79点
 ううっ、遂に手をつけてしまいました。事の起こりは『捩れ屋敷の利鈍』。その先月の新刊が、西之園萌絵・保呂草潤平の競演だったため、つい買って読んでしまったのが運の尽きでした。(感想は保留(苦笑))

保呂草はいかんぞ、いつもこんなことやっているのか?(ネタばれにつき、何やってるか書けません)
おまけに紅子サンも得体が知れないし……仕方がない初めから読んでみよう。
そんなわけで、黒猫読んでみました。

で、第1話の犯人は私の一番嫌いなパターンでした。(やめてくれ〜!)フェアじゃないとは言わないけど、このトリック(?)は、多くの作家が使っているわけだし、もういい加減やらなくてもいいんじゃない?って言うところです。

ある錯覚に陥って読んでいただけに、探偵が犯人を指摘してからの20ページは非常に怖かった(気持ちが悪かった)ですね。『すべてはFになる』の犯人と同じ、冷徹な超然とした論理(動機が)なのに、変に生々しく、ささくれ立った背中(なんだそりゃ)を撫でられているような不快感。おそらく天才になりきれなかった犯人の、精いっぱいの理論武装だったのでしょう。偽ものの下品さですね。(ここは作者を誉めているつもり)

納得いかなかったのは終わりのほうの殺人に関して。(はじめの犯罪で、家政婦が見た幽霊も噴飯ものだが)
犯人の計画が杜撰なのは、一応「はやくバレてつかまりたかった」と言わせているので、気に入らないけどパスします。問題は警察の動きで、犯人のバッグに入っていたはずの凶器や、犯人の衣服に付着しているはずの化学物質、被害者の*を拭ったティッシュなどを見逃しているのはお粗末。

02.4.16
『人形式モナリザ』

データ:

 講談社ノベルズ
 ¥800
 1999/09/05第一刷
EGGさんの感想:評価 84点
 3巻まで読んだ限りでは、これが一番ミステリとしての出来がよい。舞台上での盲点を突いた殺人。トリックがとても意味深。『封印再度』の壷と鍵のメカニズムのように哲学的で、逆説的。また最後に明かされる人形たちの謎(本物はどれだっ?てヤツ)も美しい。

でも、小説は楽しめない。キャラクターがつまらないんだよ。ぜんぜん魅力的じゃない。
小鳥遊(たかなし)という、女装趣味の青年がやっとこ理解可能なキャラで、自称探偵の保呂草は意外に悪党だし、香具山紫子はただの酔っ払い(素面でも酔ってるな、こいつ)。そして、たぶん主人公であろう瀬在丸紅子に至っては、タカビーな多重人格者(いくら美人だからといって、こんな迷惑千万な奴…)以外の何物でもない。

紅子の元亭主・林刑事と別れたはずの紅子がいまだにできている気配なのも、よく分からない。林は彼の部下・祖父江七夏を愛人としていて、向こうにもこっちにも子供がいるし、保呂草あたりが隙を狙って紅子にちょっかいかけそうにしてるし。何なんだこいつ等??

七夏刑事と紅子の修羅場なんか、別に読みたくはないですよ。美しくないもの。

思わせぶりなセリフや内面描写があって、(このシリーズ、保呂草の回想録というスタイルになっているが、彼がそこまで彼女たちの心に立ち入れるわけがない。これもおかしな話。)この連中もしかすると行動・言動と心の中は別?とチラッと思ったりもするのだが「聞きたい?でも教えないよ〜」って、なんか作者(森さん)が言ってる気がして愉快じゃない。

ああ、そうか。犀川・萌絵のシリーズが嫌いな人は、こういう所もイヤだったのねなどと今ごろ納得している自分。(笑)

と、不満たらたらですが、トリックがかなり気に入ったので、この点数です。

02.4.16
『月は幽咽(ゆうえつ)のデバイス』

データ:

 講談社ノベルズ
 ¥800
 2000/01/05第一刷
EGGさんの感想:評価 79点
 完全防音室の密室事件。ネタが割れてみるといかにも森さんらしいトリックです。伏線は上手に張ってあるので、狼男が出てこようが、機械的な仕掛けがあろうが(20%くらいネタバレかも)、別に文句はありません。ミステリとしては、まあまあの出来です。

やはり問題は、連中です。紫子さん相変わらずうるさいし、保呂草は自分のことしか考えてないし、紅子も林・七夏コンビにいらいらしてるし…。
西澤さんのタックシリーズは、同じ酔っ払いでも(読んでて)あんなに楽しいのにね。こっちの連中に付き合っていると、なんかストレスがどんどん溜まっていく感じなんですよ。三角関係の行く末だけは気になるので、仕方がない、新刊は買わないけど、図書館で続き読むか、そのうち。

02.4.16
『夢・出逢い・魔性』

データ:
 講談社ノベルズ
 ¥820
 2000/05/05
EGGさんの感想:
評価 77点
ドタバタ3人組がクイズ番組に出演しようと上京し、テレビ局で殺人事件に出っくわすという、2時間サスペンスにでもありそうなお話です。

こういうシチュエーションにした意味が判りません。森さんは読者に何を読んでもらいたがっているのでしょうか。(謎)
密室とはいえ、始めから不完全と解っているし、章ごとに入る犯人らしき人物の独白文も現実と矛盾が生じた時から、何らかのミスディレクションだとしか思えないわけで、こちらとしては思考の混乱も意外性もないのです。
(なんだか冷静な奴←自分)

犯人がそう言うことをした動機が、ゆいいつ、ぞくっときました。けれど、これが作品全体のテーマになっていないところが、この物語の弱い所。

02.5.17
『魔剣天翔』

データ:

 講談社ノベルズ
 ¥840
 2000/09/05

内容:
 航空ショーで演技中のパイロットが射殺された事件を、紅子が解き明かします。また、保呂草は関根朔太という画家が日本に持ち帰ったという宝剣、エンジェル・マヌーヴァの所在を探る仕事を引き受けます。
EGGさんの感想:
 評価 77点
 シリーズの最新作『捻れ屋敷の理鈍』とつながる話がやっと出てきました。これで、捻れ屋敷で保呂草がしたことを理解できました。(ちょっとだけ嬉しい)

で、関根画伯がらみの話はまあいいとして、空中密室は納得行かんです。

(管理人註:以下ネタバラにより隠蔽します。マウスでドラッグしてお読み下さい)

まず、西崎翔平が偽装工作に荷担していたのが人間の情として理解しにくい。
伏線がまったく張られていないため、ひどく唐突に感じる。エピローグで、西崎勇輝も知っていたかもしれないと、森さんは逃げ道を作っているが、それならば、勇輝がダイイングメッセージを残すはずもないので、やはり翔平と布施の共犯。さらに安奈に殺されたのが布施だけだったことから、計画立案者も布施だった可能性が大きい。しかし、息子の翔平が布施の計画にやすやすと乗るなんて、いったいこの二人どういう関係なんだ?

計画そのものも、見た目は派手だが相当な綱渡り。トリックに酔っているとしか思えない。(彼らがというよりは森さんが)
まず被害者の西崎は、ヒューズを抜いて飲み込むひまがあったら、一言マイクで「布施に撃たれた」って言うべきでしょう。(曲乗り飛行機の構造って良く分からないけど)
それと、解剖の結果、後ろから撃たれたのが分かったら、いずれ1番機4番機の関根安奈、倉田芳正のふたりのどちらかは、「西崎勇樹が前の座席に載っていた場合がある。」という自分の知っている事実から真相にたどり着くかもしれないし、2番3番機から脱出した際にどちらから二人飛び降りたのかを目撃していないとも限らない。(そうでなくても、紅子や保呂草だけでなく、林刑事もその線で飛行機から証拠を探そうとしていた-ばればれもいいとこ) 

もうひとつ、保険金目当てというが、布施にその金が入るわけもなく、貴重な曲乗り機を2機もつぶしてまでやる意味があったのかも疑問。殺すだけなら他でやればいいじゃないか。

不満は以上です。

というわけで、これはミステリーというよりは人間がそういう行動をとるかどうかを無視した、クイズ(あるいは手品)です。
確かに犀川先生のシリーズでも『冷たい密室』なんかは、パズル(でもかなり上等だとおもうが)といえます。でも、あれは犀川・萌絵コンビのやり取りや、犀川先生の姿勢が魅力的だったので、個人的には非常に満足度が高い。

それに比べてどうもこっちのシリーズのキャラたちは、どの人も魅力が感じられない。一作ごとに微妙に性格違うし、保呂草はいつでも怪しげだし…。とりあえず次の作品いきます。

02.5.17
『恋恋蓮歩の演習』

データ:

 講談社ノベルズ
 ¥840
 2001/05/05

内容:
 保呂草は前作の腐れ縁で、引き続き関根朔太の自画像に関する調査を依頼されています。その絵の取引場所である豪華客船に、紫子を妻と偽って乗り込みます。見送りに来たはずの紅子と練無は、なぜか下船せず、おりしも起こった男性客転落事件(殺人?)に首を突っ込むことに…
EGGさんの感想:
 評価 78点
 この紅子シリーズでは、保呂草が三人称体で事件を回想(改装かも)しているという設定の上、なぜか叙述系トリックが多いように感じます。読み終わって、裏切られたという印象が強いせいでしょうか。森さんは読者に知られたくないことを隠しているときの描写が、とたんに寡黙になるので、何かやっていることは分かります。情景が浮かびにくくなるのです。(つまり、あまりお上手ではない)

 この作品も、いくつかそういう箇所があって、時間や場所がなんとなくわかりにくいと思ったら、ああいうことだったと。このシリーズのファンの方たちは、本書の最後を読んでうまくやられたと喜ぶのでしょうか、それともショックを覚えるのでしょうか。私はあまり愉快には、なれませんでした。

 ただ、今そんなことを書きながら浮かんできたのは、シリーズ全体を通して、たとえば保呂草の本当の正体を、森さんは読者に与えていないのではないか、ということです。どうも思わせぶりな記述がありすぎる。まあそれが最後に明かされたとしても、このシリーズの評価を上げることにはならないような気はしますが。

02.5.17
『六人の超音波科学者』

データ:
 講談社ノベルズ 2001.9 ¥820
内容:
 6人の科学者が集う土井超音波研究所。そこへ通じる唯一の橋が爆破され、山中深くに築かれた研究所は陸の孤島に。仮面の博士が主催する所内でのパーティの最中に死体が発見される。怜悧なロジックが冴えるVシリーズ第7弾。
EGGさんの感想:
今回は、絞殺死体と首切り死体のロジックです。
読み直したのだけれど、犯人の計画が未だによくわかりません。第1の死体発見の後、紅子たちが探偵まがいの行動をしたことによって、犯人は計画を修正・変更せざるを得なくなった。で、こんな変なことになった、というのは判るんだけど、そういう邪魔や発覚の危険がなかったら、どうやってこの事件をうやむやにしてしまえるのか、わたしには見当がつきません。
森さんは敢えて書かなかったか、無頓着で気付いてもいなかったのか、なんとなく前者のような気がします(このシリーズは好きになれなくとも、森さんそのものは一応信頼しているので)が、5冊目の『魔剣天翔』といい、少なくとも、不親切というマイナス評価は下さないわけには行かないでしょう。

首切りの理由はわかったような判らないような。というより、こういう形のセキュリティって普通ないでしょ。まあ科学者の、子供のような冗談といってしまえば文句も言えませんが。ああ、手首切断の理由の方はけっこうお上手。

珍しく一晩で解決してしまった事件のわりに、話がごちゃごちゃして読みにくい印象でした。

02.10.11
『捩れ屋敷の利鈍』

データ:

 講談社 2002.1 \700

内容:
秘宝が眠る「メビウスの帯」構造の捩れ屋敷。密室状態の建物の内部で死体が発見され、秘宝も消えた。さらに、第二の死体が。招待客は保呂草潤平、西之園萌絵。講談社ノベルス創刊20周年記念、本編が封印された「密室本」。
EGGさんの感想:
 評価 80点
そもそもこの本を読んでしまったせいで、Vシリーズ10冊に付き合う羽目になったのです。初めて読んだときは、保呂草探偵の悪党振りが災いし、評価点が75点くらいのつもりでした。ただそれは、1冊目から順に読んでいなかった自分が悪いわけで、なつかしく萌絵さんと国枝女史が登場し、電話の声だけですが犀川先生もゲスト出演していることもあり、内容的に不満はありますがこの点数にしました。犀川・萌絵コンビのパワーと安定感は不滅です。

捩れ屋敷の密室事件と宝石盗難事件が今回の中心になる謎です。正直なところ、捩れ屋敷のロジックが未だに理解できません。前作から連続して、わたしのアホさ加減を露呈させるような発言ですがやむを得ません。(^^;
前の扉をロックしないと次の鍵が開かない。つまり屋敷の中をぐるっと一回りしている間、常に一つだけしか開くドアがないといっておきながら、萌絵のたどり着いた結論はそうじゃないんだよね。壊れた鍵っていうのが味噌らしいのだけれど、ルールの変更が知らされていない状態で、彼女だけが正解って言うのはありかい?それで、こいつがあそこにいたと特定されてもねえ…。

最後に最大の謎について。エピローグで、紅子が保呂草に語った内容。これはむちゃくちゃ意味深で、絶対何かあると思って、私は10冊全部読むことにしたのです。1から9まで読んでまだ気付かずに、ネット検索をしてある場所で見つけました。それはもう、がーーーーんって衝撃。なんでも1月ころ某BBSで話題になったとか。この時点では、単なる想像だったようですが、10巻まで読み終わっている今現在では、私もそうとしか考えようがないです。うーん、先に判った人は凄い!

まだご存知ない方へ。
出来ることなら、10巻の最終ページ読むまで、ネットの答え探しに歩き回らない方が良いと思います。自分で読んで、そうだったのかって身もだえした方が絶対に快感度が大きいと思います。
私は10巻目も図書館で貸し出し予約していたのですが、ネットで8巻のネタばれをたまたま見つけてしまい、その衝撃から覚めた後、あわてて本屋まで走りました。図書館から未だに連絡が来ないので、多分選択は正しかったと思います。

02.10.11
『朽ちる散る落ちる』

データ:
 講談社ノベルズ 2002.5 \840

内容:
土井超音波研究所の地下、出入り不可能な完全密室で奇妙な状態の死体が発見される。数学者小田原長治の示唆で事件の謎に迫る瀬在丸紅子は、正体不明の男たちに襲われ…。前人未踏の宇宙密室。Vシリーズ第9弾
EGGさんの感想:
 評価 80点
第7巻の事件の1週間後、問題の地下室で新たな死体が発見されるというお話です。続編ではありますが、犯罪としての関連性はありません。女装好きの練無君のファーストエピソード(地球儀のスライス)について、あの老人との関係が明かされます。

宇宙密室は落ちにもならない他愛なさで、問題外でした。(少しは残念ですが、まあどうと言うことはないか)
地下室の方は、物理ネタであってトリックとは言えないと思うのですが、一見不思議な現象を道理のとおった説明で納得させる、という意味では、ミステリーっぽいかなと。つまり個人的にOK(それなりに満足)なのでした。

物語の骨格は、種を割ってみるとレトロな人情話というのが、なんだか森さんらしくないです。テロに対しての紅子の所信表明もあるのですが、それは逆に、どう考えても、去年のテロ事件と報復を照準に話している(つまり今)。で、そういう激しさもまた森さんらしくないのでは?
これを森さん流に言うと、デザインがよくない、ってやつになるのではないでしょうか。
今回は小鳥遊がメインキャラかもしれないのですが、ちらりと見せる本心も、彼の全体像がわかっているわけではないので、せいぜい隠し味程度のスパイスにしかなっていません。(そのスタイルだけは森さんらしい(^^;;;)

内容のない感想で申し訳ありません。例のことが防波堤になって、書くに書けないのです。

02.10.11
『赤緑黒白』

データ:

 講談社ノベルズ 2002.9 \980

内容:
全身を真っ赤に塗装された死体が発見された。数日後、保呂草は、被害者の恋人と名乗る女性から、事件の調査を依頼される。解明の糸口が掴めないまま発生した第2の事件では、色鮮やかな緑の死体が…! Vシリーズ第10弾。
EGGさんの感想:
 評価 80点
先ほど書いたように、最終ページは衝撃でありました。某所のネタばらし(←あくまで予想)を読んでしまったとはいえ、本当にそうなのか、もしそうだとしても、どうやってそれを読者に知らすのか、ということが判らなかったので、最後までどきどき。
いやあ、見事なエピソードで幕を閉じましたね。

事件そのものについても、ミッシングリンクについても触れたいのですが、上のネタばらしと境界すれすれなので、恐くて話せません。
kikuchiさんが読了なさっているなら、改めてネタばらし感想をアップするという手もありますが、今は無理かも。

シリーズを総括してみると、その仕掛けには確かに一本とられました。ほんと脱帽なのですが、だからといってこのキャラクター達にはハマれなかった、というのが私の感想です。二度と使えない手なので、このシリーズでやってしまったのは残念でなりません。
実は今までの全作の評価点や感想も、微調整せざるを得ない状態となっているのですが、そんなことを知らずに読んでいたわけですから、点数も作品に対する不満もそのままにしておきます。その上で、このシリーズの致命的な欠点を言わせていただくなら、何度も言うようですがやはり、保呂草がこのシリーズを語っているということではないでしょうか。これが最大の不合理です。

02.10.11
EGGさんの「本気でネタバラシVシリーズ」

ではお言葉に甘えて。

一時、まともにシリーズの考察のようなことをしようなんて思ったのですが、めんどくさいのと、自分にガス抜きが必要だったのとで、気がついたら以下のような独り言になっていました。珍しく、文章が五月蝿(うるさ)いです。(苦笑)

なるべくなら、2つのシリーズ(20冊すべてとはいわぬが)を読み終わった方に、「そう、そう!」って言う感じで読んでいただきたいのですが、kikuchiさんのように、Vシリーズは絶対に読まん、と決心なさった方も、あとで「なんでこれ読んじゃったんだろう」と後悔されないなら、どうぞ読んでやってくださいませ。


私がもし何も知らずに読んでいたとしたら、つぎのようなりアクションが想定されます。以下はEGGの心の中に走った衝撃(8割は事実を元にしている)を、時間を差し替え分かりやすく修正したものです。

**********************************************************************

<10巻の最終ページ、紅子は図書館である天才少女と出会います。
名前を聞かれて彼女は「栗本其志雄」と名乗ります。男の子の名前だわ、と呟く紅子に彼女は「あなたが今見ているのは私の妹です。春夏秋冬が私の妹の名前です」と語るのです。(以下赤緑黒白の4色に塗られた死体は犯人が彼女にささげたものだという説明が続く)>

 うー、なんだ? この子、四季博士じゃないか。もうこのときから多重人格だったのか。  あれぇ??なんで子供なんだよ、8才って言ったぞ。  えぇぇぇぇぇ!昔の話だったの????  そう言えば…・数ページ前に、林刑事(紅子の元の夫)の事が書いてあった。

<練無と紫子は、林刑事から紅子へ渡すように頼まれた水引(紅子の息子 愛称へっくん=ずーっとへっくんとしか記されていなかった=の小学校卒業祝)の字が読めません。「んー、川と、林」「え? 誰の名前? どうして林さんが下に書いてあるのかなあ。」「こんな字、見たことないで。日本の字とちゃうな。」(後略)>

林さんは名前で、*川が苗字。……犀川。あ〜っ、へっ君って創平なんじゃないの!!うわーむちゃくちゃだよ、そんなの。(それにしても林刑事って、犀川はやし、または犀川リンってか、森さん、そ〜れはいくらなんでも強引だぞ…)(ここでしばらくツッコミを入れ続けるが省略)

じゃあ、じゃあさ、第8巻で、保呂草と萌絵が出会ったのはどういうこと? …………わかった、ここだけ今なのね。このときの保呂草は爺さん。エピローグで西之園さんには一切手を出すな、といった紅子も、相当、歳が行っている。だから、息子の彼女に手を出すな、彼女(萌絵)はあなた(保呂草)が盗っ人だと見ぬいてしまったので、絶対に近寄るなと釘をさしたんだ。あれ?20年〜30年違うって、前シリーズの『今はもうない』に似ている。ちょうど逆にずらしているんだよ。もしかしてあれも8巻で番外だったんじゃないの?そう、8巻だ。なんとまあ…。

くっそー!このシリーズは今から25年ぐらい(←それなりに妥当な計算を繰り返し、導いた数字。精度はプラスマイナス5年)も前の話だったんだ。ずーっと変だと思ってたんだ、なんか、科学が遅れてるぞって。携帯もないし、アパートはおんぼろだし……  何だ当然じゃないか、昔なんだから。トリックも変だったけど、当時では最先端だったのかも、そうなると考証的には文句も言えないわ、いや言っちゃうけど。だって読んでる人には分からないじゃないか、そんなこと。悔しいなぁ、絶対、森さんほくそえんでるよ。

犯人も、他の人たちも、何か考え方が今とずれてる気がしたんだ。そう、古いの、価値観とか信念とか。25年前っていうと、俺が大学出たくらいの時代だから、ああ、そんな感じだったかもしれない……。(なぜか遠くを見つめてしまっている)

紅子と林刑事、祖父江刑事の修羅場も、スマートじゃないって感じたけど昔ってけっこう修羅場があったかもしれない。回りのこと思い返しても、思い当たるもんなあ。今みたいにサッとくっついたり別れたりっていう時代ではなかった。不器用だったり、思い込みが激しくて、いろいろ傷ついてさぁ…(また遠くを見つめてしまう)

ああ、儀同世津子が祖父江刑事の娘か。林さんとは別れて、儀同っていう人と結婚したんだな。でも、紅子は瀬在丸のままだったはずだから、へっ君だけ林さんが引き取ったか、籍だけはもともと犀川だったか。親はいろいろあっても、息子と娘は行き来しているから、まあよかったということだよね。ふうん。

それはそれとして、次のシリーズが第三世代だなんていやだぞ。それじゃあまるでスターウォーズだよ。森さんはそんな陳腐なことはしないはず。しないと思う。(したりして) いやそれだけは勘弁。しないでください、お願いします(自爆)。

…さらにかなたを見つめながらさまざまな思いが去来するEGGなのでした。
『幻惑の死と使途』

データ:

発行年   1997.10初刷り
発行所   講談社(ノベルズ)
ISBN  4-06-181987-9
あっちゃんの感想:
謎は一級品でした。マジシャンが殺され死体が焼失したのですからどんなすごいトリックだろうと思っていたらああ言うことだったんですね。いい意味で肩透かしくらいました。それよりも読んでいて思ったのは犀川と西之園、結婚したらどんな夫婦生活(2重の意味あり)になるんだろうかと、いやどんな家庭を作ろうが生活を送ろうがそれは個人の自由ですからいいですけどね。自分とこれほどかけ離れたキャラクターは総ざらにいない。だからこそ自分も共感できる言動を見せた時に非常に新鮮さを感じる。なんだかんだと言いながらここまでこのシリーズに付き合ってきた。それだけの魅力はあるんだろう。今は「夏のレプリカ」を読んでいます。

03.2.13
『夏のレプリカ』

データ:

 発行年  1998.1初刷
 発行所  講談社(ノベルズ)
 ISBN 4-06-182000-1
あっちゃんの感想:
感想のアップは前後してしまいましたが本書はもちろん,「幻惑の死と使途」に続いて読んでいます。さてネエ,あんまり「フェアかアンフェアか」といったたぐいのことは言いたくはないんですがやっぱり本書はその点で引っかかりますね。またラストで萌絵が東京駅で某人物と出くわしますがこれもやりすぎだと感じました。全体として物語としてのインパクトも弱いしちょっと評価は厳しくなってしまいます。

03.2.27
『今はもうない』

データ:

 発行年  1998.4初刷
 発行所  講談社(ノベルズ)
 ISBN 4-06-182016-8
あっちゃんの感想:
 森があのトリックをメインに使うとはねえ。いや本当にわかりませんでした。あの人の変化がちょっとおかしいなとは思ったのです。しかしその原因はあのためだろうと思い込まされました。上手かったです。

04.1.31
『四季 秋』

データ:

 講談社ノベルズ \800  2004/01発売
EGGさんの感想:
 四季博士・4部作の3作目です。『春』で少女時代の彼女および志其雄の関係を描き、『夏』で島に閉じ込められる原因となった両親殺害事件のいきさつを明らかにした森博嗣は、この『秋』でついに『F』の事件の動機に触れています。犀川・萌絵が中心となって四季が残したメッセージを読み解くという形になっているので、第一シリーズの番外編といってもよいでしょう。(Vとも関連していて保呂草のその後にも触れていますが、今となってはどうでもいいかも)

 この動機については、ああそうか、なるほど、という程度のもので、『F』の推理がひっくり返るわけではありませんが、私は少しほっとしました。犀川・萌絵のその後が知りたい方は、春・夏はとばしても、これを読んでおかれるといいかも。(彼らのことですから、劇的な変化はありませんが)

04.2.17
『φは壊れたね』

データ:

 講談社ノベルズ
 2004/09/05
 ¥820 

内容説明:
 おもちゃ箱のように過剰に装飾された密室で発見された宙吊り死体。死体発見の一部始終は室内に仕掛けられたビデオで録画されていた。D2大学院生、西之園萌絵らの推理は? 森ミステリィ新シリーズ
EGGさんの感想:
 うう、残念。 萌絵・犀川コンビ復活かと思ったのに....
新シリーズの探偵は、どうやら海月及介(くらげ・きゅうすけ)というC大学2年生らしい。キャラはきわめて犀川に近い、不必要なことには寡黙な青年。国枝研究室の生徒なので、萌絵とも顔見知りであり、彼女は刑事たちから相変わらず情報を仕入れてきて、海月たちにもそれを提供するという設定のようです。

今回の密室は、個人的には短編ネタだと思うので、やや不発と言いたい。問題はキャラですが、まだぴんとこないなあ。っていいながら全部読んでしまいそうですが。

04.9.22
『数奇にして模型』

データ:

発行年  1998.7
発行所  講談社(ノベルズ)
ISBN 4-06-182031-1
あっちゃんの感想:
 いや見事なミステリーでした。以前このシリーズに感じていた違和感はあまり感じなくなりました。今回は犀川先生のアクションシーン(?)もあったしタカピーの権化のように感じていた萌絵にも親しみを感じた。

04.11.14
『有限と微小のパン』

データ:

 発行年  1998.10
 発行所  講談社(ノベルズ)
 ISBN 4-06-182043-5
あっちゃんの感想:
「すべてがFになる」を読んでからどれぐらい時間が経ったでしょうか。
僕は「F」に最低の評価を与えました。文章力0とも書いたような記憶
があります。しかしその後9作、読むに連れ僕の評価はだんだんと上がってきました。この作品、真相を知った後では「何これ」って感じのものですがそこに至るまでの物語性というか持って行きかたには感心した。

05.11.2

森田駿輔
『殴る騎手』

くれい爺さんの感想:
 栗東トレーニングセンターの厩務員による競馬界の暴露本的エッセイ。
これみよがしにイニシャルで表記してあるが、そこそこ競馬をかじったことのある人にはだいたい見当がついてしまう。
 それで結構笑えるのである。
 “あの騎手がねえ〜”なんてね。

03.1.26

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