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花村萬月 帚木蓬生 林泰広 はやみねかおる 原りょう 板東眞砂子 東野圭吾 氷川透 樋口有介 久生十蘭 平石貴樹 平岩弓枝 福井晴敏 藤岡真 藤沢周平 藤田宜永 藤野千夜 船戸与一 ベニー松山 本多孝好

花村萬月
『ブルース』

データ:

 発行年   1998.9初刷(ノベルズ:1992)
 発行所   角川書店(文庫)
 ISBN  4-04-189804-8
あっちゃんの感想:
 読むまでは喰わず嫌い的なところがありました。
多分自分のタイプじゃないなって、でも読んでみると大違い、過剰ではありましたが登場人物のそれぞれの生き様がこちらに迫ってきます。
特に徳山のアンバランスな設定がよかった。

04.5.8

帚木蓬生 三たびの海峡 白い夏の墓標
『三たびの海峡』

データ:

発行年  1995.8
単行本  1992.4
発行所  新潮社(文庫)
ISBN 4-10-128804-6 
あっちゃんの感想:
魂が揺さぶられた。非常に重い作品だった。ラストがちょっとどうかなという気もしたがそうせざるを得なかった主人公の心も伝わってくる。なぜここまでの作品を書くことができるのだろうか。エンターティメントではないと判断して感想をアップしなかったが「閉鎖病棟」もすごかった。僕は帚木蓬生という作家支持します。

04.8.14

『白い夏の墓標』

データ:

 発行年  1983.1
 単行本  1979.4
 発行所  新潮社
 ISBN 4-10-128801-1

あっちゃんの感想:
30年近い前の作品でありながら全然古びた感じがしない。極めて今日的なテーマでありしかもドラマがしっかりしているので読み応えも充分にある。ほとんどの場面が過去を扱っていながら緊迫感もあるし非常に優れた作品だった。

05.12.11

林泰広
『The unseen 見えない精霊』

データ:

 出版社:光文社(カッパノベルズ Kappa-One)
 出版日:02.4.20
 価 格:\781
  ISBN :4-334-07466-9

あらすじ:
 インドの森の奥深く、僕の目の前の老婆は突然語り始めた。その声と言葉は、自らの不可能な死を語るカメラマン「ウィザード」のものだった。飛行船の闇の中、彼(ウィザード)に死を与えるために来た美しい少女と、見えることしか信じない彼(ウィザード)の戦いが始まる。彼(ウィザード)の武器は鋭利な頭脳、巧妙な論理の罠、だが、彼(ウィザード)の罠を次々に突き破る少女の論理と見えない精霊の力。大胆に読者に突きつけられる質問状、あなたは解けるか?
(裏表紙より)
yobataさんの感想:
 光文社文庫「本格推理」出身者が書いた長編推理小説で、同時に刊行された4点のうちのひとつです。それぞれ著名な推理作家が推薦しており、この「見えない精霊」は泡坂妻夫が推薦文を寄せています。刊行されたなかでいちばん薄く、しかも泡坂妻夫に「久しぶりに活字による大マジックショーに出会った」と言わしめた作品に大いにそそられた次第です。
 230ページほどの本ですが、「読者への質問状」が挿されており、本格マインド溢れる作品です。勘のいい人ならば、「再び読者への質問状」で真相がわかると思いますが、よく考えられた良い作品だと感心しました。少々引っかかる点があることはあるのですが、かなり満足度の高いミステリです。

02.4.25
kikuchiさんの感想:
 トリック自体はというと、どう書いても絶対リアリティなんか持たせられないはずのものを幻想的な舞台と伏線でうまく書いた感じです。
 ただ、一番問題なのは、こういったトリックを弄するということは長老は精霊の存在を信じていないということになるわけで、さらに問題なのは、そういう精霊の存在を否定するトリックを弄する話を主人公に伝えているのが、老婆の口を借りた「精霊」だというところ。こういうところが、妙にねじれた感じで、読後感に独特の余韻を残しました。これも計算のうちなら凄いけどね。

 やたら分厚くて独りよがりで難解なメフィスト賞の一部作品よりはずっとストレートで好感が持てます。薄いし。ただ、メフィスト賞との比較をすると、どうしても小粒感が否めないというか、清涼院は出ないかわりに殊能も出せないだろうな、という気が。まあ一作読んだだけでこんなこと言うのもナニなので、今後も機会が有れば他の作品を読んでみようかな、と。

02.6.19

はやみねかおる 怪盗クイーンはサーカスがお好き そして五人がいなくなる 亡霊は夜歩く
『怪盗クイーンはサーカスがお好き』

データ:

 講談社青い鳥文庫
 2002/003/15
 ¥620
EGGさんの感想:
評価 80点

 松原秀行さんとの競作『いつも心に好奇心(ミステリー)!』(やはり青い鳥文庫)で初登場し、夢水探偵の目の前から人工知能RDを奪った(?)怪盗クイーンが、シリーズ化されたようです。いいですね、クイーン・ジョーカー・RDのトリオ。少年向けユーモアミステリとしては、テンポもよく、展開もなかなか胴に入っていて、大人が読んでも合格点をあげられる出来だと思います。逆に「このギャグ(水戸黄門ネタやシャボン玉ホリデーネタ)はオジさんにしか分からんだろう。本当にお子様向けなのか?」という意見もあり。

 はやみね作品は、アクや毒がないのが特徴で、犯罪(?)を描く夢水探偵シリーズ・虹北恭助シリーズ(新刊読んでません^^;)は、物語や謎の解決が中途半端になるきらいがあります。その点、怪盗を主人公にしたこのシリーズは、だまし合いとドタバタで話を引っ張っていけるわけですから、はやみねさんの作風に合っているのではないかと思います。というわけで、クイーンシリーズの次回作期待しています。

02.12.22
『そして五人がいなくなる』

データ:

 発行年   1994.2
 発行所   講談社(青い鳥文庫)
 ISBN  4-06-147-392-1
 シリーズ  名探偵夢水清志郎事件ノート
あっちゃんの感想:
 以前から読みたかったシリーズ、ちょっとトリックに弱さを感じたがこの作品の本格テイストは濃厚である。癖になってしまう。

04.9.20
『亡霊は夜歩く』

データ:

 発行年  1994.12
 発行所  講談社(青い鳥文庫)
 ISBN 4-06-148405-2
 シリーズ 名探偵夢水清志郎事件ノート
あっちゃんの感想:
菜の提示の仕方、動悸、そして推理、本格ミステリーのテイスト、たっぷり、しかも殺人事件は起きない、起きなくても中学校が舞台で先生や生徒が感化映写と言う制約付きでこの面白さ、出会うのが遅すぎたね

05.9.23

原りょう(「りょう」は僚のにんべん無し)
『さらば長き眠り』

データ:

 発行年  1995.2初刷
 発行所  早川書房(単行本)
 ISBN 4-15-207898-7
あっちゃんの感想:
評価:B+

今までの3作に比べちと落ちるかなあと思った。今まではあまり感じなかった沢崎のストイックな生き方があまりにも自分と距離がありすぎてちょっと入りこみにくかったという面があった。またミステリーとしてもほとんど歳後の辺りで事件の真相が明らかになるのだがちと唐突過ぎるというか急ぎすぎているという感じがした。こういう風に書いてしまうとおもしろくなかったかのように感じるかもしれないが僕が原の作品からこれまで受けたもの,そして求めているものが非常に高い位置になってその高い評価から見ると・・・ということだ。さて本書が出てから7年,遅筆な原とは言え,そろそろ新作を出してほしい。待っているよ。

02.9.28

板東眞砂子 山妣 屍の聲 旅涯ての地
『山妣』

データ:

 発行年   2000.1初刷り
 発行所   新潮社(文庫)
 ISBN  上:4-10-132322-4
       下:4-10-132323-2
 初出    単行本:1996.11
 備考    直木賞受賞作
あっちゃんの感想:
 今まで読んだ坂東眞砂子のホラーには2種類あると思います。一つは「蛇鏡」、「狗神」、「死国」のように明らかな超自然的な怪異が起こるもの、二つ目は本書や「桃色浄土」のように必ずしも超自然的な怪異とは断言できないものです。二つに共通するのは最後に大破局が起きるということです。最も前者にしても本当に怖いのは超自然的な怪異そのものではなくそれを結果的に招いてしまう人間の性(さが)なのだと思います。本書でも怖いのは破滅に向かってしまう人間そのものといえるでしょう。欲望や嫉妬心などに支配されてしまった人間の起こしてしまう悲劇、それが坂東眞砂子のホラーの中心といえるでしょう。本書では最後の最後で「ここまでやってしまうとは残酷すぎる」と思えるような展開がありました。善意の人間も死んでしまいます。怖くてしかも読ませてしまう傑作でした。

02.4.11

『屍の聲』

データ:

 発行年  1996.10初刷り
 発行所  集英社
 ISBN 4-08-774226-1

あっちゃんの感想:
怖い作品集だった。6作品とも派手さはない。あからさまな怪異現象も起こらない。ボタンのかけ違いと言うかいつのまにか破局が訪れたという感じのするものばかり、その全ての作品が家族が舞台というか関係してくる。「屍の聲」の祖母と孫、「猿祈願」の女性と女性の将来の義母、「残り火」、「盛夏の毒」、「正月女」の夫婦。「雪蒲団」の息子と母、日常の仲から湧き出る恐怖がよく描けていました。

03.1.22
『旅涯ての地』

データ:

 発行年  2001.6初刷(単行本:1998)
 発行所  角川書店(文庫)
あっちゃんの感想:
 坂東眞砂子の作品はいろいろと読んできたが海外が舞台になっているのはこれが初めて、しかも中世のイタリア、カタリ派と新約聖書外典がテーマ、これまでの作品ももちろん好きだが本書は自分の信仰であるキリスト教と深く関わっているので特に興味が持てた。正統と異端、異端審問という神の正義、多神教社会と一神教社会、信仰と性欲、罪など考えさせられるものが一杯詰まった作品だった。

04.5.8

東野圭吾 片想い 超・殺人事件 仮面山荘殺人事件 名探偵の掟 天使の耳 ある閉ざされた雪の山荘で 鳥人計画 嘘をもう一つだけ 天空の蜂 同級生 幻夜 ちゃれんじ? 名探偵の呪縛 白馬山荘殺人事件 容疑者Xの献身 11文字の殺人 ウィンクで乾杯 殺人現場は雲の上
『片想い』

データ:

 出版社:文藝春秋
 出版日:01.3.30
 価 格:\1714
 ISBN :4-16-319880-6
 初 出:週刊文春1999年8月26日号〜2000年11月23日号

あらすじ:
 旧友の美月と再会した哲朗は、彼女が性同一障害で現在は男として暮らしていると告白される。美月はさらに大きな秘密を抱えていた。
(折り込み新刊案内より)
kikuchiさんの感想:
 というわけで、東野圭吾の新刊です。最初の方は『秘密』『白夜行』のような感じのサスペンス色の強い作品かと思って読んでいましたが、佐伯香里の正体を追いだすあたりからはミステリとして引き込まれました。
 話の流れとしては、犯罪とからめてミステリ的興味を引きつつ、現代社会の抱える最新の問題(本作の場合は性同一障害)について問題提起する、というスタイルは宮部みゆき真保裕一が得意としているスタイルかもしれません。で、そういうミステリを週刊誌連載で書いたと言う点で、宮部『模倣犯』と比較してみると、『模倣犯』の方が週刊誌連載の「アラ」であるところの無駄なストーリー展開や細かい破綻が目に付くのに対し、この『片想い』はそういう点が一切なく、前半の展開や伏線を生かし切って矛盾無くラストへなだれ込んでいくあたりは東野のミステリ作家としての「貫禄」というか「格の違い」をまざまざと見せつけられた感じがします。あの賞ハンター・宮部みゆきと比較してすら「格の違い」を感じさせる東野圭吾の作家としての力量の凄さ、と言ったら褒めすぎでしょうか。

 アメフトという競技のポジションによる特性を生かしたキャラクター設定、性同一障害という社会問題と、それに関連する人たちの裏技的問題解決法、またお互いに仕事に打ち込む余り疎遠になっていく夫婦の問題など、読みどころの多い作品ですが、それらをさらに包括して二転三転する真相、友情と感動のエンディング、と、早くも本年のベスト候補と言える作品に出会えました。

01.5.24
『超・殺人事件 推理作家の苦悩』

データ:

 出版社:新潮社(新潮エンターテインメント倶楽部)
 出版日:01.6.20
 価 格:\1400
 ISBN :4-10-602649

収録作品:
 超税金対策殺人事件、超理系殺人事件、超犯人当て小説殺人事件(問題篇、解決篇)、超高齢化社会殺人事件、超予告小説殺人事件、超長編小説殺人事件、風魔館殺人事件(超最終回・ラスト五枚)、超読書機械殺人事件

初 出:
 小説新潮1997年12月号、1996年4月号、1997年4月号、5月号、1998年6月号、10月号、2000年1月号、1996年12月号、2000年8月号
kikuchiさんの感想:
 東野圭吾の多彩な作風の中の一つ、「お笑い系」の短編集です。いずれも極端に走りすぎているところが笑えるのですが、「超税金対策殺人事件」「超長編小説殺人事件」は、実際に作家や編集者の方々がこんな風に本作りをしているような気がして、笑っていいのか怒っていいのか迷います(笑)。まあ、これらは実際の作家や編集者に対する批判、もしくは当てこすりのようにも読めるのですが、そうすると「超読書機械殺人事件」は評論家に対する当てこすりか?(笑)。あるいは、読者や編集者も含めた「読書」を取り巻く環境そのものに対する批判なのかもしれません。

01.7.4
あっちゃんの感想:
 東野圭吾の最近の作品をほとんど読んでいない自分にとって東野圭吾新刊の感触は脱本格と言う気がしてならない。作品の面白さを謎解きにおいていないような気がしてならない。もちろん奇遇であってほしいと思うが・・・さて本書はミステリーをある意味パロっているわけだが他の人ならともかく東野圭吾が書いたことに一抹の危惧を感じる。作品としては面白かったのだが・・・

04.7.4
『仮面山荘殺人事件』

データ:
 出版社:講談社(講談社文庫)
あっちゃんの感想:
 やられてしまいました。なんかあの人物が怪しいとはは思ってはいましたがああいう手だったとはさすがです。

02.2.3
『名探偵の掟』

データ:

 発行年   1996.2初刷
 発行所   講談社
 ISBN  4-06-207400-1
あっちゃんの感想:
 少々くどさが目立ちましたがそれも作者の意図するところでしょう。いわゆる「本格推理」のお約束・暗黙の了解をパロるという自分の首を絞めかねない手法(シリーズ探偵の少ない東野圭吾としては「最後の選択」は当てはまらないが)は笑えましたけど作者の意図を考えると複雑なものはあります。最近の東野圭吾の作品は読んでいないので断定はできませんがどうもストレートな本格ものは書いていないような気がします。東野圭吾は最初からいろんなタイプの作品を書いていますが本格ものが主流だったように思います。それが今では逆転している感があります。もしかしたら本書はその境目に位置しているのかも知れません。そう考えるとこの作品、一種の脱「本格推理」宣言とも受け止められます。まあ僕の妄想かもしれませんけどね。作品としては「アンフェアの見本」。「禁句」、「最後の選択」が効いていました。

02.8.3
『天使の耳』

データ:

 発行年  1995.7初刷(1992.9実業之日本社刊)
 発行所  講談社(文庫)
 ISBN 4-06-263016-8
あっちゃんの感想:
最初の「天使の耳」、「中央分離帯」は後味がよくなかった。こんなのが続くのかなあと思っていたら「捨てないで」の被害者カップルのすがすがしさ(加害者の邪悪さと比較するといっそう)が気持ちよかったし「鏡の中で」の実際にはありえないような人情的な落ちもよかった。交通事故というある意味冷蔵庫の中の残り物のような食材を使ってそれなりのおいしい料理に仕立てる東野圭吾の手腕はすばらしい。
02.10.17
『ある閉ざされた雪の山荘で』

データ:

 発行年  1996.1初刷り
 発行所  講談社(文庫)
 ISBN 4-06-185909-9
あっちゃんの感想:
 東野圭吾って相当ひねくれていますね。こんなトリックありって思ってしまいました。しかしアンフェアじゃないしすごい離れ業ですね。また設定自体東野の某作品と似ていますので結末がどうなるかなって思っていたらやりましたね。こういう結末にするというのは根性もあります。恐るべし、東野圭吾

02.12.16
『鳥人計画』

データ:

 発行年   1996.8初刷(単行本:1989.5)
 発行所   新潮社(文庫)
 ISBN  4-10-139521-7
あっちゃんの感想:
 今年は結構東野圭吾の作品は読んだがこの作品,何となく雰囲気が違います。「まっとうなミステリー」ということです。ちゃんと殺人が起きて警察が捜査してトリックに挑むと言う形,話半ばで犯人が捕まりその犯人が見濃き密告者を推理すると言う新機軸はありましたが・・・それが最後になってああなるとはねえ。また後味がよかったのもプラスの評価です。

02.12.19
『嘘をもうひとつだけ』

データ:

 出版社:講談社文庫
 価格:495円

内容紹介:講談社BOOK倶楽部より
 嘘は必ず暴かれる 本格的謎解き小説
 バレエ団の事務員が自宅マンションのバルコニーから転落、死亡した。事件は自殺で処理の方向に向かっている。だが、同じマンションに住む元プリマ・バレリーナのもとに1人の刑事がやってきた。彼女には殺人動機はなく、疑わしい点はなにもないはずだ。ところが……。人間の悲哀を描く新しい形のミステリー。
yobataさんの感想:
 加賀恭一郎の登場する短編集。どれもこれも事実を隠すためについた嘘にまつわるストーリーで、悲しい話が多い。東野圭吾の引出しの多さを再確認できる作品集。

03.4.1
『天空の蜂』

データ:

 発行年   1997.11初刷り(単行本:1995.11)
 発行所   講談社(ノベルズ)
 ISBN  4-06-181989-5
あっちゃんの感想:
 本当に東野圭吾の引き出しの多さには驚かされる。ノベルズ版のブックカバー裏の内容紹介には「著者初の冒険小説」とあるが初めての試みとは思えないほどの完成度だ。作品の半ばまで行かないうちに最大の問題であった子どもの救出も終わるし主犯の名前も読者の前に明らかになる。それでも最後までだれることなく突き進んでしまうのは見事としか思えない。
 さて内容だが発表された1995年当時はまだ原発は重大な事故を起こしていなかった。が8年経った現在関東電力の保有している原発がどのような状況になっているか、あるいは本作品では原発に爆薬を積んだ最新軍用ヘリコプターを墜落させるという脅迫事件だが一昨年の9.11多発テロによって原発をテロのターゲットにされたらと言う恐怖を多くの人が抱いたであろう。そういう意味ではこの作品、現在においてより一層リアりティを感じる。東野圭吾は「ニュートラルな立場で書いた」よ述べているが反原発の立場である僕にとっては刺激的でかつ課題を突きつけられた作品だった。

03.7.2
『同級生』

データ:

 発行年  1996.8初刷り(単行本:1993.3)
 発行所  講談社(文庫)
 ISBN 4-06-263342-6
あっちゃんの感想:
 東野圭吾の学園ミステリーということで結構覚悟して読んだのだが後味がいいのに逆にびっくりした。ミステリーとしてもしっかりしているしドラマもいい。思わぬ収穫であった。

03.12.26
『幻夜』

データ:

 出版社:集英社

あらすじ:集英社HPより
 1995年、西宮。父の通夜の翌朝起きた未曾有の大地震。狂騒の中、男と女は出会った。美しく冷徹なヒロインと、彼女の意のままに動く男。女の過去に疑念を持つ刑事。あの『白夜行』の衝撃が蘇る!
yobataさんの感想:
ネタバレ気味なので未読の方は注意
装幀からも想像できるとおり、「白夜行」の続編を思わせる内容の作品。この作品単独でも楽しめるが、「白夜行」と併せて読めば面白さ倍増間違いなし。ただ、個人的に「白夜行」は「亮司と雪穂の恋愛小説」というとらえ方をしている(異論はあろうかと思いますが)ので、続編という位置づけであれば、美冬の己の栄達だけを追い求める行動は、私の「白夜行」観を少々損ねることになります。どちらにしろ、作中で美冬の正体が明かされることはないので、続編だったのかどうかはわからないままなのですが。そのあたりまで計算して書かれた作品なんでしょうね。

04.2.4
『ちゃれんじ?』

データ:

 出版社:実業之日本社
 出版日:04.5.25
 価 格:\950
  ISBN :4-408-53454-4
kikuchiさんの感想:
 「白夜行」で「ミステリの範囲を広げた」と言わしめた東野が、さらに範囲を広げたとでもいいましょうか。エッセイなのにちゃんとミステリしてる、というか、エッセイでなければ出来ない「ミステリ」をやってくれたと言うべきか。最後の「おっさんスノーボーダー殺人事件」も、単体ではありがちなお手軽ミステリですが、それまでのエッセイを伏線にするという技を見せたところに感心。
 にしても、ここのところ新作がずっと、アイディアやプロットより筆力で押し切る作品が多いのは、スノボに時間を取られているせいだったのか!
 あと、黒田研二の変態っぷりに引いたのは、私だけではあるまい。

04.6.8
『名探偵の呪縛』

データ:

 発行年  1996.10
 発行所  講談社(文庫)
 ISBN 4-06-263349-3
あっちゃんの感想:
 いずれ書きますが最近「白馬山荘殺人事件」を読みました。それと比べるとなんか感慨深いものがありますね。こうした作品を書かなければならなかった東野圭吾、どこへ行っちゃうんでしょうかねえ。

04.8.28
『白馬山荘殺人事件』

データ:

 発行年  1990.4
 発行所  光文社(文庫)
 ISBN 4-334-71122-7
あっちゃんの感想:
 いやー、久々にまっとうな東野圭吾ミステリーを読んだという気がしました。(^_^;)ちょっと暗号がわかり図らいという嫌いはありましたが楽しく読めました。

04.10.24
『容疑者Xの献身』

データ:

出版社:文藝春秋
 定価:1680円
 ISBN:4-16-323860-3
yobataさんの感想:
 最近は東野作品のハードカバーを手に取る気にはあまりならなくて、書店店頭で平積みになっているのを目にしたときにも、「新刊が出たんだ〜、指紋だらけになりそうなカバーだな〜」くらいにしか思っていませんでした。
 この作品を手にするきっかけは、週刊誌の書評で今年度のベスト1候補との評を見たことでした。そして、その書評は間違っていませんでした。私の評価も、東野作品のなかで3指に入る傑作だったからです。ミステリ作品に限定すればベストに推したい作品です。倒叙ものとして、本格として、高く評価したいです。

05.9.21

あっちゃんのres:
 そうですか、yobataさんにとってのベスト3内ですか、それじゃあ傑作間違いないですよね。東野圭吾は全作品読もうと思っている作家の1人です。基本的にはずっと講談社文庫の刊行順に読んできましたが最近になって作品の古い作品から順につぶして行っています。つい最近「11文字の殺人」読んだところです。次に読んでいない古い作品は「ウインクに乾杯」ですね。年に2,3作読めればいい状態なので追いつくのは厳しいですね。でも諦めずに読んでいきます。

05.9.23
『11文字の殺人』

データ:

発行年  1990.12
ノベルズ 1987.12
ISBN 4-334-71254-1
あっちゃんの感想:
主人公が事件とかかわっていくプロセスがちょっと強引かなという気はしましたがなかなか読ませる内容でした。真犯人はいろいろと僕も推理しましたが間違っていました。結構重い内容でしたがそれでも楽しく読めました。

05.12.11
『ウィンクで乾杯』

データ:

発行年   1992.6
発行所   祥伝社(文庫)
ノベルズ  1988.10「香子の夢」改題
ISBN  4-396-32263-1
あっちゃんの感想:
 主人公のコンビが明るくて他の東野作品にはない読後感がいい。
このコンビ、1作で終わってしまうのは惜しい気もする。 

06.3.12
『殺人現場は雲の上』

データ:

発行年  1992.8
発行所  光文社(文庫)
単行本  実業之日本社1989年刊
ISBN 4-334-71563−X
あっちゃんの感想:
書名と違って全7編殺人現場が飛行中の機内であったものはない。これが唯一のミスで内容的には満足できた。殺人事件を扱ったものもあるがいずれも後味はいい、初期の作品としては珍しい作品であった。僕が気に入ったものは「忘れ物にご注意ください」と「お見合いシートのシンデレラ」、「とても大事な落し物」でした。

06.4.8

氷川透 真っ暗な夜明け 最後から二番めの真実 人魚とミノタウロス 追いし者追われし者 密室ロジック
『真っ暗な夜明け』

データ:
 出版社:講談社(講談社ノベルズ)
 出版日:00.5.5
 価 格:\900
 ISBN :4-06-182129-6
 備 考:第15回メフィスト賞受賞作

あらすじ:
 推理小説家志望の氷川透は久々にバンド仲間と再会した。が、散会後に外で別れたはずのリーダーが地下鉄の駅構内で撲殺された。現場/人の出入りなし閉鎖空間。容疑者/メンバー全員。新展開/仲間の自殺!?非情の理論が唸りをあげ華麗な捻り技が立て続けに炸裂する。(裏表紙より抜粋)

kikuchiさんの感想:
 というわけで、EGGさんご推薦の作品です。凶器としてふさわしいブロンズ像が使用されずに、その台座の方が使用されたのは何故か、というなかなかに魅力的な謎をめぐって二転三転の推理が一番の読みどころで、最終的な回答が他を圧倒して説得力があるという意味でも優れています。
 エラリイ・クイーンにこだわっている作家は有栖川有栖、山口雅也、法月綸太郎、依井貴裕など多く居ますが、その中でもロジックの精度にこだわっているという意味ではこの人が一番の正統派エラリアンといえるかもしれません。
 これは作者のお遊びだと思いますが、登場人物のほとんどの名前が京王井の頭線の駅名から取られています。ちなみに、渋谷(渋谷果寿美)、神泉(和泉五朗)、駒場東大前(高麗美咲)、池ノ上(池上紳一)、下北沢(北沢文孝)、新代田(代田淳一)、東松原(松原俊太郎)、浜田山(浜田辰悟)、高井戸(高井戸豪)、富士見ヶ丘(藤雅樹)、久我山(久我宏介)、三鷹台(三鷹義輝)、井の頭公園(井頭政登志)、吉祥寺(吉寺優子)となり、登場人物表の中では氷川透の他に堀池冴子と早野詩緒里が余っちゃってますが、何か意味があるのかな?
 で、新作『最後から二番めの真実』の登場人物表を見ると、こちらはどうやら東急東横線から取られているようです。どちらも渋谷始発ですね。

01.2.12

あっちゃんの感想:
 何て言うかのかあ、視点がころころ変わるのでちょっと読みにくかったかなあ。

05.11.10
『最後から二番めの真実』

データ:
 出版社:講談社(講談社ノベルズ)
 出版日:01.2.5
 価 格:\980
 ISBN :4-06-182170-9

あらすじ:
 女子大のゼミ室から学生が消え、代わりに警備員の死体が。当の女子大生は屋上から逆さ吊りに。居合わせた氷川透はじめ目撃者は多数。建物の出入り口はヴィデオで、すべてのドアは開閉記録で見張られている万全の管理体制を、犯人と 被害者はいかにかいくぐったか? 奇抜な女子大生と氷川が究極の推理合戦でしのぎを削る! (裏表紙より)

kikuchiさんの感想:
 氷川透の新作です。『真っ黒な夜明け』の凶器の謎は、解決編も含めてすばらしかったのですが、今回の「犯人は何故、被害者を屋上から逆さ吊りにしなけれ ばならなかったのか」という謎は、それに比べるといまいちの感はあります。ん で、人の出入りがすべてヴィデオで記録され、ドアの開閉が記録されているとい う設定もなかなかにわくわくさせられるものであったわけですが、使われ方がそれほどでもなかったような気も。まあ、作中で氷川透本人が「美しくない」と言 ってはばからない解決が真相だったということなので〜(じゃ、何でもっと「美しい」とされた回答の方を真相にしなかったのか、という非常に興味深い問題は残り、これは考えてみる価値があると思われます)。で、私が一番興味を惹かれたのは法月綸太郎が過去に発表した論文「初期クイーン論」について解説した場面で、「読者への挑戦」は騎士道精神などとは無関 係に純粋に論理的な要請によって生まれたとか、作品内世界には、論理的に唯一 ありうる犯人、という存在は論理的に言ってありえない、とか、なんか凄いこと になってます。で、一番笑えたのは作中の氷川透が時々何の前触れもなくメタレヴェルにあがってきて、すぐ「ああ、ちがうちがう」とかいって作中に戻っていってしまうと ころでした。まじで、本当に笑えます。こんなところを一番気に入られても作者は困るんだろうけど、でも一番気に入ったところです。

01.3.5

『人魚とミノタウロス』

データ:
 出版社:講談社(講談社ノベルズ)
 価 格:¥800
 出版日:2002/02/05(第1刷)
EGGさんの感想:
 すばらしい。すべてが程よく控えめで、そのバランス感覚に品の良さを感じます。

 ミステリとしては小粒になるかもしれません。(論理の饒舌さでは、第1作の『真っ暗な夜明け』が圧倒的で(あれの上を行くのは、鮎川哲也の『黒いトランク』ぐらいなのでは?と思うほど、私のお気に入りなのですが、それはさておき)

でもそれは、主人公の氷川探偵が思考機械になり切れないせいで、なぜなり切れないかというと、くろ焦げの死体は自分の親友かも知れず、まかり間違えば、親友こそ犯人かもしれないというジレンマがあるからです。って、しっかり小説をしてるじゃないですか。
3作目の『最後から二番目の真実』では、萌絵さんのおばさま的お嬢さんが好い味を出していましたが、小説にはほど遠い代物でした。

今回は違います。だってラストがあれですもの。(きっぱり)高井戸警部が紙の中のキャラだと自覚していようが、千歳良美刑事がどれだけ素っ頓狂なドタバタを演じようが、本題は氷川探偵のコンプレックスからの開放であり、彼のなしてきた人間関係の肯定なのです。高校生の操クンは、だから、立派に存在意義がある。

同じ性人格性障害というものを持ち出すにしても、去年すこし話題になった『片想い』(東野圭吾作品)は、彼らの苦悩をもろに描いていて、私は少し鼻につきました。取材したんだろうなあ、きっと一生懸命。でもその中に入ったまま小説を書いてしまったという感じなので、こっちが退いてしまいました。そこへ行くと、氷川作品はいいよねえ。さらっとしていて。

ああ、いい話でした。こんな上手なの読まされちゃったら、次回作も期待してしまうではないですか。(大丈夫か?ほんとに(笑))

02.4.2
『追いし者 追われし者』

データ:

 原書房
 \1600
 2002/07/10

内容:
 ストーカーの俺、誰かに見られているわたし、が偶然遭遇したS市の殺人事件。
EGGさんの感想:
 (78点)
 非常に変わった構成です。しかも**トリックであることを本人が途中でばらしています。
(それでも引っかかるのが私の単純さを証明。悔しい)
その割に、結末がはっきりしないのが痛いところですね。
期待を裏切られてもいいや、ファンだから、という人以外にはお勧めできません

03.7.24
『密室ロジック』

データ:

 発行:講談社(講談社ノベルス)
 ISBN:4-06-182310-8
kamanoeさんの感想:
 一作毎に期待の裏切り度合い(?)が大きくなっているような気が。
 「確信犯」というものだとは思うけど、あまりにも不自然な結論を吐くし、ちょっと不自然さが露骨では。

03.12.31

樋口有介 木野塚佐平の挑戦 ぼくと、ぼくらの夏 雨の匂い 彼女はたぶん魔法を使う

『木野塚佐平の挑戦』

データ:

 出版社:実業之日本社
 出版日:02.2.25
 価 格:\1600
  ISBN :4-408-53411-0

あらすじ:
 国民的な人気をほこる村本啓太郎総理が57歳の若さで急死した。
日本の今後を憂える私立探偵・木野塚氏の周辺に、総理が推進する政策を阻止したい勢力による暗殺らしい、という不隠な噂が駆けめぐる。気がつくと、こんな重大事件の真相調査に巻き込まれていた木野塚氏の運命や如何に!
(帯より)

kikuchiさんの感想:
 というわけで、木野塚氏のン年ぶりの帰還です。っつーか梅谷桃世の帰還といった方が正しいのかな? 実は桃世が帰ってくるのかどうかが読む前は一番の懸案だったわけですが、序盤であっさり帰還してくれますので、ご安心を。
 ところがいきなり総理暗殺疑惑とか、政界、マスコミ界を巻き込んで木野塚探偵事務所にはふさわしくない大げさすぎる展開で、しかも結末はさらにらしくない大がかりなことになっていて、はっきりいって最後はひいてしまいました。
 やっぱり木野塚氏はご近所の金魚がからんだくらいの小市民的事件を扱っていて欲しいと思います。

02.4.11
『ぼくと、ぼくらの夏』

データ:

発行年    1991.4初刷(単行本:1988.7)
発行所    文藝春秋(文庫)
ISBN   4-16-753101-1
備考     サントリーミステリー大賞受賞
       「このミス ’88」国内編17位
あっちゃんの感想:
評価:B−

初めての樋口有介です。いわゆる青春ミステリーと言うのでしょうか。テンポは軽快だし登場人物の会話も面白かったです。但し僕にはそれが引っかかってしまいました。こんな高校生いるのかなという思いがどうしても頭から離れませんでした。主人公は誰とでも対等以上のやり取りをします。会話がとてもうまいのです。僕はそれが鼻についてしまったのです。またミステリーとしてはいかにもという事件で新鮮さがなかったのが残念です。

02.7.26
『雨の匂い』

データ:

 発行:中央公論社
 ISBN:4-12-003420-8
kamanoeさんの感想:
 これはきつかった、読んだのは秋だったんですが、その後ずっと暗い気分を引きずってしまいました。そのせいで、秋以降は赤川次郎やディック・フランシスの再読、樋口さんの以前の本の再読でリハビリ(笑)に努めてました。
 どうにも周囲との距離感をつかめない、絶望してはいないけど茫洋とした不安の中で日々を送っているような男性を描いてきた著者ですが、物語の先に快復の予感・明るい期待を持っても良いという楽観を抱かせてくれて、そこが好きだった気がします。しかし本作は、その先に破綻しか描き得ない、非常にショッキングな結末が待っている。「どこで穏やかな気分に転換するのか」と思い続けて読み進み、暗い絶望的な行動を最後まで描く。一度はこういうのを書きたかったんだろうか、一度だけで終わってくれるのだろうかと、不安になる今日この頃です。

03.12.31
『彼女はたぶん魔法を使う』

データ:

 発行年   1993.6初刷(単行本:1990.4)
 発行所   講談社(文庫)
 ISBN  4-06-185419-4
あっちゃんの感想:
 主人公である袖木草平は好きになれそうもない設定だった。しかし読んでいくうちに何て言うのかな好感が持てた。不思議なキャラクターであった。

04.2.17

久生十蘭
『久生十蘭集』

データ:

 発行年    1986.10初刷
 発行所    東京創元社(文庫)
 ISBN   4-488-40008-6
あっちゃんの感想:
 何と言っても「顎十郎捕物帳」でしょう。短い話の中に暗号、アリバイ、人間消失等の謎を織り込み江戸時代という時代設定を生かし見事に決める野は技ありといったところか、他には「骨仏」がよかった。

03.8.16

平石貴樹
『サロメの夢は血の夢』

データ:

 出版社:南雲堂
 出版日:02.4.25
 価 格:\1600
 ISBN :4-523-29275-2
kikuchiさんの感想:
 お久しぶりの平石貴樹です。『スラムダンクマーダー その他』の山崎千鶴弁護士が再登場するとは思っても見ませんでしたが、相変わらずのいい女っぷりでした。というか悪女ぶりというのかな(笑)。正統派エラリイ・クイーン後継者としては少々物足りない気もしましたが。

02.6.21

平岩弓枝 御宿かわせみ5〜幽霊殺し 狐の嫁入り〜御宿かわせみ6 酸漿は殺しの口笛〜御宿かわせみ(7) 白萩屋敷の月 御宿かわせみ8
『御宿かわせみ5〜幽霊殺し』
くれい爺さんの感想:
 文学系の読書が主である婆さんとの少ない接点が平岩弓枝の「御宿かわせみ」シリーズ。
といっても、あちらはさきにほとんど読んでいるはずで、忘れたころに小生が読んでいるわけで、あまり話が合うということはないのだが。

このシリーズ、読むたびに思うのですよ、「東吾のように生きられたらなあ」と。で、そのオチは。「いい女がそばにいて、勝手気ままに生きてれば十分、東吾みたいでしょ」

池波正太郎の「剣客商売」シリーズにしろ、このシリーズにしろ、なにがいいかというと、「情と粋」だと思っている。人々の情をさまざまな話に形を変えて読ませてくれる。そして秋山小兵衛の人生に達観した生きかたの粋さや、東吾やるいのお互いに思い合う心の粋さ。

「御宿かわせみ」としての5巻目であるこの本。「三つ橋渡った」と題された一編。「親の心が、親を呼んだのかもしれない」と締める著者の情を表す筆力に魅せられる。

02.5.12
『狐の嫁入り〜御宿かわせみ6』
くれい爺さんの感想:
 どうというふうに言葉で説明することは難しいのだが、作品の表現や描写を“濃密型”と“濃縮型”というふうに分けている。
例えば、翻訳作品には“濃密型”が多いと思っているが、ゴダードなどがその典型で、逆にブロックなどは“濃縮型”で、彼の場合は特に会話に濃縮されていると感じている。
歴史・時代小説でいえば、司馬遼太郎などは“濃密型”で、池波正太郎やこの平岩弓絵は“濃縮型”といえようか。
もちろん作家でわけることはできない。
同じ作家でも作品によって違うからだ。
また、どちらが優れているということでもない。
ただ“濃密型”は読むのに忍耐力を要するので、それだけにストーリーの面白さや描写力が必要だと考えるし、“濃密型”は読みやすいかもしれないが、逆に読者のほうに作者の意図を読み解く読解力や作者の言葉を自らの心の中に広げてゆく想像力が必要かもしれない。
近年の推理作家では京極などは“濃密型”といえよう。
が、中途半端な作家が多いということはいえよう。
大沢在昌が「作家には二種類ある。宮部みゆきとそれ以外だ」と言ったとか言わなかったとか。
宮部みゆきの社会派ミステリーは“濃密型”で、世話物時代小説などは“濃縮型”といえる彼女は万能型で、いまの彼女の作家としての頭はドラエモンのポケット状態かもしれぬ。
さて、この平岩弓絵の「御宿かわせみ」シリーズにしろ、池波正太郎の「剣客商売」シリーズにしろ、季節感、風情、人情など、一つ一つの言葉が心の中に広がっていくのを楽しめる。

03.6.1
酸漿は殺しの口笛 〜御宿かわせみ(7)
くれい爺さんの感想:
 読んでいるシリーズものの一つ。
このシリーズの良さの一つに、季節の描写、季節感というのがある。
植物しかり、江戸の行事しかり、その描写が実に心地よい。
話の中には陰惨な事件も多く登場するが、そういうところが救いになっているようだ。
まだやっとシリーズ全部(まだ書き継がれているが)の4分の1ほど、ずっと読んでいきたい作品である。

04.8.30

EGGさんのres:
以前、広告批評の島森路子が、「御宿かわせみの奇数巻と偶数巻は別の物語である。」と毎日新聞の書評に書いたのを読んだ事があります。
間取りとか人間関係とか全部メモして行ったら、そうだということに気づいたんだそうです。(ほんとにそうなら、面白いですね)

04.9.3

くれい爺さんのres:
気がつきませんでした。
シリーズを追っかけててはいても、続けて読むことはなく、年に2冊ほどしか読まないので。
今度から気をつけて読んでみましょう。

04.9.4
『白萩屋敷の月 御宿かわせみ8』
くれい爺さんの感想:
 表題作「白萩屋敷の月」はその情緒といい、叙情といい珠玉の一編。

05.5.22

福井晴敏 終戦のローレライ 亡国のイージス
『終戦のローレライ(上・下)』

データ:
 出版社:講談社
 価格:上巻1700円、下巻1900円

内容紹介:講談社BOOKCLUBより

1945年8月。日本。
敗け方を知らなかった国。

3賞制覇の傑作『亡国のイージス』から3年余、この沈黙は本作のためにあった。

戦争。
もはや原因も定かではなく、誰ひとり自信も確信も持てないまま、行われている戦争。
あらかじめ敗北という選択肢を持てなかった戦争。
茶番と括るには、あまりにも重すぎる戦争。

――その潜水艦は、あてどない航海に出た。太平洋の魔女と恐れられた兵器“ローレライ”を求めて。「彼女」の歌声がもたらすものは、破滅か、それとも――
yobataさんの感想:
 2700枚に及ぶ超大作。著者自ら「人生を削って書いた」と言い、読む者にもそれだけの覚悟が必要な作品。

 海中に没したドイツの索敵兵器「ローレライ」を、極秘に回収する部隊が招集されるところから物語は始まるのですが、その兵器の正体は、上巻の途中で明らかとなります。潜水艦のしつこいほどに丁寧な描写や、不利な戦いを叡智で乗り越える戦闘シーン、陰影に富んだ登場人物たちなど、読みどころは数多いのですが、この作品の本質は、やはり「終戦」ということなのでしょう。終章で描かれる終戦から現在までの俯瞰図は、読む者の人生をも振り返させる力を持っています。涙なしには読めない傑作。

03.1.31
EGGさんの感想:
評価 92点

大・大力作。個人的には傑作とまでは言い切れないけれど、ローレライというありえないシステムを搭載した潜水艦とその秘密作戦に巻き込まれた人々を通して、もう一つの終戦を描いたこの物語は、日本の冒険小説、戦争ファンタジーの金字塔になるだろうことは間違いないと思います。

前作以上に情報がみっしり詰まっている文章で、そのうえ人間関係(潜水艦の乗員たちだけでなく、軍上層部の確執、ナチスSS将校の過去、南方戦線の地獄、米軍の艦長と情報部の対立などなど)もこれでもかというほど書き込んであって、読み進めるのにもエネルギーが必要でした。実際のところ、これを読み応えがあると評価するか、読みにくいと言い切るかは微妙なところなのですが、作者の「書かねばならない」という強い思いだけはひしひしと伝わってくるので、すごい!!と唸るしかありません。

03.12.6
『亡国のイージス』

データ:

 講談社文庫 上・下 各695円 2002/7/15初版
内容:
(カバーあらすじより)
(上)在日米軍基地で発生した未曾有(みぞう)の惨事。最新のシステム護衛艦《いそかぜ》は、真相をめぐる国家間の策謀にまきこまれ暴走を始める。交わるはずのない男たちの人生が交錯し、ついに守るべき国の形を見失った《楯(イージス)》が、日本にもたらす恐怖とは。日本推理作家協会賞を含む三賞を受賞した長編海洋冒険小説の傑作。
(下)「現在、本艦の全ミサイルの照準は東京首都圏内に設定されている。その弾頭は通常に非(あら)ず」ついに始まった戦後日本最大の悪夢。戦争を忘れた国家がなす術もなく立ちつくす時、運命の男たちが立ち上がる。自らの誇りと信念を守るために――。すべての日本人に覚醒を促す魂の航路、圧倒的クライマックスへ!
EGGさんの感想:

評価88点

乱歩賞受賞の『12Y.O.』がきっかけとなり、なんだかんだ言いながら、福井さんの4作品を読み終わりました。
ノベライズ『ターンAガンダム』はアニメを見ていないこともあり、手を出しませんでした。

「川の深さは」(82点)「12YO」(80点)(ともに感想は省略)「亡国の・・」は、作者自ら「おじさんと少年三部作」と命名しているようですが、確かにそんな感じのシリーズです。
登場人物はほとんど重なりませんが、自衛隊の特務機関(通称ダイス)の任務(陰謀とも言う)が物語の重要な背景にあるので、この順に読むと前の事件の結果こんなことが連鎖して起こってくるとか、あのダイスならこんなことにも手を染めるだろう、というのが理解できるような仕組みになっています。

福井さんの特色は、物語のディテールや登場人物の設定が異常に細かいことで、「そんなに教えてくれなくてもいいよ(^^;」というくらい書き込んであることです。
そのおかげで物語を読むスピードが落ち、ちょっと閉口しました。(大長編の「イージス」と「ローレライ」は特にそうなので)
2年ほど前の活字倶楽部に載っていたインタビューを読むと、どうやらそういうことが趣味のかたのようで、文句を言っても始まりません。
(映画化やアニメ化された場合、俳優さんたちは重宝するでしょうが、小説としてはどうかな。詳細なメモともいえる登場人物の過去や、解説のような心理描写のかわりに、情景やせりふでそれを表現してくれるのなら、読む者としては至福の時を味わえるのですがね。)

というわけでイージスですが、どんでん返しに次ぐどんでん返しであらすじがかけません。物語的にもキャラ的にもちょっと内容に触れただけで、ねたばらしの危険が…。

前半は、日本の軍備とイージス艦・および海自隊員の日常に関する情報が多く、北鮮のテロリストの陰謀が着々と進んでいるらしいのですが、登場人物の解説に追われ、物語は遅遅として進みません。けれど、がまんしましょう(笑)。
後半になればいろいろな意味で目の覚めるような展開が待っていますので。
(政治的には『沈黙の艦隊』、アクションとしては『ホワイトアウト』だ、くらいは言ってもいいかな)
多くの命が失われますが、「お人好しの日本人」として彼らがどんな道を選んだのか。その経過と結論は十分に堪能できます。
おっさん仙石と怪しい任務をおびた少年・行(こう)との間に、絵という絶妙な小道具を配したのは、賞賛に値します。それは、仙石が自分を取り戻し、直視することを避けてきた理不尽なものに反撃を始めるきっかけとなるエピソードにも効果的に使われていて、物語に芯が一本通りました。(ここからやっと面白くなる(^^;) エピローグも感動的。欠陥は多いけれど大満足な作品。

03.12.6

藤岡真 ゲッベルスの贈り物 六色金神殺人事件
『ゲッベルスの贈り物』

データ:

 東京創元社(創元推理文庫)
yobataさんの感想:
 第二長編の「六色金神殺人事件」(私は未読)がネット上でちょっと話題になり、再刊の運びとなった作品(初出は角川書店)だそうです。著者あとがきに「意外な結末に総毛立ち」「思わず長い溜め息を漏らす」作品とかなんとか書いていましたが、読みやすくそれなりにおもしろかったものの、総毛立ちもしなければ、溜め息も漏れませんでした。
 埋もれた作品にしておくには惜しいということなのだろうが、この本を出すならカーの「殺人者と恐喝者」とかヘレン・マクロイ「殺す者と殺される者」、パトリック・クェンティンの「俳優パズル」なんかを復刊した方が喜ぶ人は多いと思うよ。

02.5.6
『六色金神殺人事件』

データ:

発行年   2000.12
発行所   徳間書店(文庫)
ISBN  4-19-891425-7
あっちゃんの感想:
 ブックカバーの紹介文などを読むと僕向けの作品かなって思ってずっと読んでみたかった。実際読んでいくと不可能犯罪が次から次へと起きて最後には島田荘司の諸作品のように合理的にトリックが明らかにされるのかなあって思っていたらああいうオチだったんである意味びっくり、こういうのもありなんだなと感心した。

05.7.17

藤沢周平 暗殺の年輪 用心棒日月抄 孤剣〜用心棒日月抄〜
『暗殺の年輪』
くれい爺さんの感想:
映画「たそがれ清兵衛」が話題の藤沢周平だが、この短編集は初期のもの。
初期の藤沢作品はたいへん暗い。
江戸時代の下層に生きる者たちを描いて、きわめて救いのない話を作り上げている。
後の「蝉しぐれ」や「三屋清左衛門残日録」などの読後感のさわやかさなどは期待できない。
それでも懸命に生きる者たちの姿は心に強く訴えかけるものがある。
「冥い海」のなかで安藤広重の「東海道五十三次」と葛飾北斎の「富嶽三十六景」との対比で“広重と風景との格闘は、多分切りとるときに演じられるのだ。そこで広重は、無数にある風景の中から、人間の哀歓が息づく風景を、つまり人生の一部をもぎとる。”といい、北斎のそれはあくまで画材として風景を切りとるといっている。
そのとき小生は先日見に行ったレンブラントとフェルメールの絵を思い浮かべた。

03.2.11
『用心棒日月抄』
くれい爺さんの感想:
藤沢周平のシリーズもので、ドラマ化もされた。
用心棒稼業とその後ろに赤穂浪士討ち入り事件を絡めた話の筋も無理がなく、面白く読めた。
藤沢周平がそれまでの暗いイメージの作品から、脱皮しはじめた転機の頃の作品とあとがきにあるが、後の傑作「蝉しぐれ」や「三谷清左衛門残日録」などの清々しいような爽やかさに比べるとまだ暗さを残している。
テレビドラマで古谷一行主演で「江戸の用心棒」というのがあったが、内容がこの作品の内容と同じだったかどうかは記憶にないが、主人公の名前などはこの作品からのものだったと思う。
そのドラマの主題歌をフォーク歌手が歌っていて、なかなかいい曲だと思っていたが、今ではどんな曲だったか、誰が歌っていたのか、すっかり忘れてしまっている。

03.10.5
『孤剣 〜用心棒日月抄〜』
くれい爺さんの感想:
「用心棒日月抄」シリーズの2作目。
1作目は“忠臣蔵”の話を織り交ぜて組み立てていたが、今回は“お家騒動”。
1作目ほどの派手さはないが、ユーモアや女隠密との交情などを交えて、余裕の境地。
「たそがれ清兵衛」に「隠し剣 鬼の爪」と山田洋次に人気の藤沢周平だが、まあ、どちらも庶民を描くことには達人なので相通じるものがあるのかも。
安心して読め、楽しめる一篇。

04.11.1

藤田宜永 ダブル・スチール 還らざるサハラ 奇妙な果実殺人事件
『ダブル・スチール』

データ:
 発行年   1995.7初刷り
 発行所   光文社(文庫)
 ISBN  4-334-72082-X
 備考    1988.8月初出
あっちゃんの感想:
 このミス国内ベスト20未読図書読破計画の第2弾です。藤田宜永を読むのはこれが初めてでしたが何故もっと早くに出会っていなかったのかと悔やまれます。甘さはあるしご都合主義的な展開もあります。でもそれらは全然気になりません。煮えたぎっているお風呂の中にコップ一杯の冷水を入れたところでその熱さはほとんど変化しないでしょう。いささか気恥ずかしくなるような作品ですがそれを読ませてしまうのは何なのでしょうかねえ。予想を裏切られたのはラストでした。せっかくの「いい物語」なんだから・・・という気がしないでもありません。しかしもしラストが違っていたら「いい話」だけでの作品になっていたかもしれません。あのラストだったからこそ物語が生きてくるのかもしれません。

02.2.22

『還らざるサハラ』

データ:

 発行年   2001.2初刷(単行本:講談社 1990.1)
 発行所   徳間書店(文庫)
 ISBN  4-19-891460-5 

あっちゃんの感想:
 こう書くと両者に失礼だとは思うが「ソフトタッチの船戸与一」という気がしないでもないが同じような設定でこうも違ってくるのかなと思った。
これはこれなりにおもしろかった。特にラストをああいう風にするとは意表を突かれた感じがした。

03.8.16
『奇妙な果実殺人事件』

データ:

 発行年   1990.1
 発行所   新潮社(文庫)
 ISBN  4-10-119711-3
あっちゃんの感想:
 過剰までに本格ミステリーを意識している作品でした。いろんなミステリーの趣向を盛り込み最後には解き明かしの醍醐味をちゃんと味わえる。書き手の藤田宜永は本格ミステリーを殆んど書いていないが見劣りはしない。

06.5.1

藤野千夜
『おしゃべり怪談』

くれい爺さんの感想:
 錯覚を利用した遊びに直線の横に曲線を何本か書き入れると直線が曲がって見えたり、またその逆のものなどがある。
藤野千夜の短編集はそれを文章で試みたような作品である。
「BJ」は新婚で引っ越してきた部屋に霊のようなものを感じる女。
夫のほうは何も感じないようで、相手にしてくれない。
で、女はその霊に“BJ(ベビー・ジェーン)”と名づけてしまう。
「おしゃべり怪談」は乱入男に包丁を突きつけられながら麻雀を続けさせられる女たち。
「女性徒の友」は離婚した両親と新しい父親という関係の中で生活する中学三年生の女性徒。
「ラブリー・プラネット」は性転換して女になった兄を持つ女子大生。
で、「BJ」は霊に名前をつける女と、それにとくに相手にしない夫。
つまり相手にしない夫婦関係と霊に名前をつける女が...
「おしゃべり怪談」は麻雀の点数の計算を満貫以上が出来なくて、満貫にならないからと包丁を突きつけられながらリーチをかけてしまう女。
そういう心理は麻雀の初心者にありがち(小生もそうだった)なのだが、それを包丁を突きつけられている状況でやってしまうおかしさ。
「女学生の友」は母親と新しい父と暮らしながら、母親の嫌なところを感じる女学生。
離婚、再婚といった社会の状況なかで感じる女学生の心理。
「ラブリー・プラネット」は自分の電話の留守電に「バーカ」とかを入れる女。
これは女が恋人の男の指の付け根を舐めるシーンがあるが、解説すれば女になった兄の男根への願望みたいなふうにいえるのかもしれないが...
そんな中で、夫婦の関係が歪んでいるのか妻の心が歪んでいるのか、包丁を突きつけられながら麻雀をしている状況が歪んでいるのか、リーチをかけてしまう女の心が歪んでいるのか、女学生の心が歪んでいるのか、彼女をとりまく過程環境が歪んでいるのか、自分の留守電に自分で「バーカ」と入れる女が歪んでいるのか、性転換をしてしまった兄を持つ環境が歪んでいるのか、そういう歪みの中でいったい本当に歪んでいるものは何か、まっすぐなものは何かを描いているような作品群。
ブラックユーモアにあふれていてなかなか面白い。
「ラブリー・プラネット」の女が恋人に「お前、歪んでないか」といわれるのだけれど、僕にはそれが歪みに思えない。
小生も歪んでいるのだろうか。

03.2.11

船戸与一 蝦夷地別件 炎流れる彼方 流砂の塔 かくも短き眠り 蟹喰い猿フーガ
『蝦夷地別件』 上・中・下

データ:

 発行年   1998.7初刷り
 発行所   新潮社(文庫)
 初出    単行本:1995.5
 備考    日本冒険小説協会大賞受賞、このミステリーがすごい’96 国内編3位
あっちゃんの感想:
 評価    特A
 ひたすら厚く熱い作品でした。僕が読んだ船戸与一の作品は「山猫の夏」を除くと全てぶ厚いものばかりですが読むのにいくら時間がかかってもそれが全然苦になりません。中身が濃いのです。本書も同様です。しかも本書にはこれまで読んできたほかの作品にはない特色があります。言うまでもなくそれは今までの作品が外国が舞台だったということです。だから日本人が主人公であってもどこかしら第3者的な目で読むことができました。しかし本書は違います。時代が18世紀とは言え舞台は「日本」(「」を付けた意味は察してもらえるでしょう。)です。読む僕たちは決して第3者とは言えないのです。この物語の背景が現在アイヌの人たちが置かれている状況につながっている以上この物語は決して過去の物語とは言えないのです。
また同時にこの物語はアイヌ民族の苦難の物語というだけでなくパレスチナ人やクルド人、バスクの人たちの物語でもあります。18世紀の蝦夷地の物語でありながら同時に現在の物語であり世界各地の少数民族、被抑圧者たちをめぐる物語でもあるのです。船戸は清澄の手紙を通して読む者に「お前は観察者に留まるのか、それとも行動する者になるのか、」という問いを突きつけてきます。

 さて本書が刊行された時にこの物語の終わり方が旧エンターティメント交差点で話題になりました。本書を読み終えた今、僕も自分の考えを述べることができます。まず史実と違っているのはどうかということに関しては全く問題がないと考えています。この歴史的事件の史実が知りたければ下巻に載っている参考文献などを読めばいいのです。歴史小説は歴史をどう見るか」を考えるものではあっても正確な歴史を知るためのものではありません。最後の章「風の譜」がそれまでのものがそれまでの物語の流れとマッチしていないことに関しては「風の譜」こそこの物語が船戸の物語になったと思います。船戸はこういうラストにせざるをえなかったのです。こういうラストにしなければこの物語は終結しなかったのです。確かに史実としては彼のような行動を取ったアイヌ人はいなかったでしょう。しかしあのようなことを和人から受けたアイヌ人の中に彼のような行動をしたいという思いを持ったものは何人もいたのではないでしょうか。その怨念、情念を船戸は強く感じたからこそあのような施術から大きく外れまたミスマッチな内容にせざるをえなかったのではないでしょうか。彼の行動は「猛き箱舟」の主人公に似ています。僕はこれでよかったと思います。アイヌ人の敗北と文化の変貌出終わる終わり方ももちろんあります。しかしそのような終わり方は船戸らしくないと思います。繰り返しになりますがこのようなラストによって船戸の物語として完結したということです。さて次には何を読みましょうかねえ。

02.4.27
『炎流れる彼方』

データ:

 発行年  1987.11初刷(単行本:1990.7)
 発行所  集英社(文庫)
 ISBN 4-08-748707-5
あっちゃんの感想:
 始めての政治闘争(内乱も含む)が背景になっていない船戸の作品,ボクサーとその友人が主人公と言うことでどんな作品になるのかなあと思っていたがやはり船戸の作品でした。あまりこういう表現は好ましくないのかもしれませんが男くさかったです。女性も出てくるし重要な役割のキャラクターのいますがいずれもすごい。特にダイアンの変貌はすごかった。そして最後には主人公と子どもたちを除いてみんな死んでしまうのはこれもまた船戸らしいと言うべきか,前半のボクシングストーリーもよかったし満足の作品です。1度紛失してもう1度新刊を買っただけのことはありました。

03.4.4
『流砂の塔』上・下

データ:

 発行年  2002.12初刷り(単行本:朝日新聞社刊 1998.5)
 発行所  新潮社(文庫)
あっちゃんの感想:
 相変わらずハードでやりきれない作品でした。国家も団体も個人を押しつぶしていく、本当は個人の為に国家があり団体が存在するのに、流沙の地に登場人物達建てようとした塔は崩れそうなものだった。実際崩れたかのように見える。しかし彼らの生き様は決して流沙の塔じゃない。そう思いたくなる作品だった。に見える。でも・・・

03.5.19
『かくも短き眠り』

データ:

 発行年  2000.4(単行本毎日新聞社1996年刊)
 発行所  角川書店(文庫)
 ISBN 4-04-163804-6
あっちゃんの感想:
 いつもながらの船戸節だったが今回は東欧解放後のルーマニアが舞台、主人公は以前工作員だったという保険外交員というのがちょっと新味、ほとんど最後まで自分の職務をまっとうしようと言うのが面白かった。もちろん、人間の暗部、社会の暗部を描写する迫力はすごい。主人公が死なないのも珍しいといえば珍しい。分量に負けないパワーを持った本書はやはり船戸の作品と言うしかないものだった。

04.5.8
『蟹喰い猿フーガ』

データ:

発行年  1999.4
単行本  1996.1
発行所  徳間書店(文庫)
ISBN 4-19-89-1090-1
あっちゃんの感想:
 多くの人が死ぬのは他の船戸の作品と同様だが本書は明るさがある。飄々として憎めないエル・ドゥロの造詣がよかった。こういう作品もまた読んでみたい。

05.6.19

ベニー松山
『隣り合わせの灰と青春』

データ:

 集英社スーパーファンタジー文庫
 ¥562 1998/12/10 第1刷
EGGさんの感想:
 評価 85点(ただしウィザードリーにハマった経験者に)
 昨年11月にアップしたものに加筆。

 FF10のアルテマニア(攻略本)におまけでついていた十篇ほどのショートストーリー、これの出来がとても良く大変に感銘を受けました。FF10の世界を作者が十分楽しみ、その世界のルールを自分なりにきちんと再構築し、その上登場人物それぞれが、ゲーム以上に格好よく鮮やかに切り取られていたからです。
これはただ者ではないと感じ、作者のことを調べ、いろいろあってこの本にたどり着きました。

さて、本題の灰と青春です。題名にある「灰」、ウィザードリーというゲームでは「死」を意味します。(復活の呪文を唱えても、失敗すれば死体は灰と化してしまうので)

ウィザードリーというゲームそのものには、決まった登場人物も、決められたシナリオ(ストーリー)も存在しません。ただひたすら迷宮をさまよい魔物を倒し、貴重なアイテムを罠のかかった宝箱から取り、キャラクターを強くすることが目的となるのです。ダンジョンの最下層に住む大魔導師ワードナーを倒すというゴール以上に、妖刀ムラマサを何万分の一の確率で手に入れることのほうがはるかに楽しく充実感があるという不思議なゲームなのです。

これをノベライズするのは難しいのではないか、と疑いながらも「傑作!」との熱心なファンの声に探して読んでみました。その結果は、いい意味で裏切られました。先ほど話題に出したFFはこの作品と同質の部分を持ちながら、文章力も上がったせいもあり、人物の魅力や心の綾までも充分描くことが出来ていたようです。

『灰と青春』のほうは、処女作ということもあり、そういった情の部分はまだ未完成でした。(さわやかな青春ファンタジーといえるほどの出来にはなっている)が、その世界の設定には深く踏み込んでいて、プレイ中にはほとんど気にもしていなかった多くの矛盾にも、理屈のとおった説明をつけてあるのです。これはミステリーの謎解きのような快感。

それからこのゲームは、初めこそちょっとのミスで屍の山が詰まれるRPG屈指のシビアなゲームなのですが、ある程度レベルがあがってくると、ぐっと危険度が下がってしまう。
それを小説では、まず冒頭で熟練の魔法使いが灰となり、その穴を補うためリーダーの戦士(主人公)がサムライに転職、宝箱の罠はずしに欠かせないシーフが貴重な短剣をゲットしたせいで、忍者に転職。ほんの肩慣らしのつもりで城を出たはいいが、ライバルに先を越されそうになって(大魔導師をだれが先に倒すかが問題)、慌てて後を追い気がついたら最下層近くに…、という展開なのです。やったことある人なら「恐いよ〜!」と震えるのが必至の設定(笑)。ゲームを知り尽くした人ならではのシナリオです。

ライバルである悪のパーティと三つ巴の争いになった後も、ヴァンパイヤロード、ワードナー、グレーターデーモンとこっちの呪文がもうないのに次々と襲ってくるモンスター。そして明かされる迷宮の秘密…。アイディアてんこ盛の冒険ファンタジーでした。

02.6.5

本田孝好 Missing ALONE TOGETHER
『Missing』

データ:

 出版社:双葉文庫
 価格:600円

あらすじ:双葉社のHPより
瞼を開けると、背後には飛び降りたはずの崖がそびえ立っていた。少年に助けられた私は、自分の過去を語り始める。「わたしは人を死なせました」。しかし、私は唐突にこの少年の眼差しを思い出した……。彼は20年前に死んだはずの……。「このミステリーがすごい!2000年版」第10位! 第16回小説推理新人賞受賞作「眠りの海」を含む処女短編集、待望の文庫化!
yobataさんの感想:
 書店で平積みになっているのを見て、どこかで聞いたことのある名前の作品だと思い、手に取ってみると、「このミス」でベスト10に入ったと書いてあったので買う気になりました。ついでにその隣に平積みされていた「ALONE TOGETHER」も買っちゃいました。
 「眠りの海」は結構良い出来で、気に入りました。文体は透明感があるというか、静謐を感じさせるものです。でも、その分印象は薄く、正直言って「眠りの海」以外はほとんど覚えてません。

02.12.23
『ALONE TOGETHER』

データ:

 出版社:双葉文庫
 価格:552円

あらすじ:双葉社のHPより
絶賛を浴びた『MISSING』はデビュー作にして2000年版「このミステリーがすごい!」のトップ10にランクイン。今もっとも注目を集める作家がおくる初の長編。人間の心の襞を丁寧に描いた、その完成された文体、対象に向けられた真摯な眼差し……。著者の煌めく才能が溢れ出た傑作である。
yobataさんの感想:
 双葉社のHPの内容紹介を読んでも何が何だかわかりませんが、特殊な能力を持った主人公が、かつての恩師に頼まれ一人の少女と関わりをもつ、といった話でした。ミステリではないですが、本質をズバズバと言ってのける主人公は結構スゴイです。

02.12.23

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