浅田次郎

王妃の館 プリズン・ホテル1(夏) 天切り松闇語り1 五郎治殿御始末 天切り松闇語り3 プリズンホテル2秋 壬生義士伝 プリズン・ホテル3 プリズンホテル4

『王妃の館』上・下

データ:

 集英社
 ¥各1600
 2001/07/30
 評価 82点

内容:
 ルイ十四世ゆかりの「王妃の館」スィートルームに十日間の宿泊!と銘打った光ツアー(200万円)は、なんと影ツアー(20万円)とのダブルブッキングだった。不幸にも(?)ツアーに参加する羽目になったメンバーには、不倫を清算されヤケになったOLや無骨な退職警官、心中するつもりの老夫婦、逃げた彼氏を追いかけてきたオカマ、書下ろしを目論む超人気作家と女編集者などなど…
EGGさんの感想:
 いかにも浅田さんらしいキャラたちが、プリズンホテル並みのドタバタを演じます。

 ただ、『きんぴか』などに比べると小説が雑に感じます。泣きも笑いもストレート。女性誌連載というハンディもあるのでしょうか、登場人物が説教たれちゃうんですよ(苦笑)。いや、これは去年読んだ『天切り松2』でもそうだったから、浅田さん自身の問題かも。娯楽小説(映画なんかも)って、そこを避けるから価値があるし、感動も増すと思うんです。
 ここに出てくる人気作家って、ドラマにするなら田村正和しか思い当たらない、気障な奴なんだけど、モデルは浅田さん自身なのかも。(同じくらい疲れているなら気の毒というか、もっとセーブして質の高い作品を出してくださいな。お願い。)
 ついでに言うと作中小説「ベルサイユの百合」(ぷぷっ)にギャグを入れる(特に地の文で)ってどういうことですか?あれは徹頭徹尾高尚な文体でないと、この物語りそのものがおちゃらけてしまうんではないかと。

02.4.12
『プリズン・ホテル1(夏)』

データ:

 発行年  2001.6初刷り(単行本:1993.2 徳間書店)
 発行所  集英社(文庫)
 ISBN 4-08-747329-5
あっちゃんの感想:
評価:A

主人公の作家のあまりの設定にどう終わらすのかと思っていたが見事な着地、次巻に当たる「プリズンホテル 秋」が「このミス’95」の国内7位に選ばれた時にははっきり言って浅田次郎に偏見持っていました。後年「地下鉄に乗って」、「日輪の遺産」を読んでまるっきし誤解していたことを思い知りましたがこの作品でもそのすごさは既にありました。こんなめちゃくちゃな設定と展開を感動で終わらせてしまう。もうすごいと言うしかありません。特に親として前支配人一家の幽霊が一家心中の当日を再現する場面は涙なしでは読めませんでした。

『天切り松闇語り1 闇の花道』

データ:

 出版社:集英社文庫
 価格:514円

あらすじ:集英社のHPより
 冬の留置場で、その老人は不思議な声色で遙かな昔を語り始めた……。時は大正ロマンの時代。帝都に名を馳せた義賊がいた。粋でいなせな怪盗たちの大活躍を描く傑作連作第一弾。 (解説・降旗康男)

02.12.23
yobataさんの感想:
 きっぷの良い登場人物、歯切れ良い語り口、泣かせるストーリー、どれをとっても浅田次郎って感じ。まぎれもなく浅田作品の代表作の一つ。2巻以降も楽しみ。まだ読まないけど。
『五郎治殿御始末』

データ:

くれい爺さんの感想:
 そんなにたくさんの浅田作品を読んでいるわけではないが小生にとっての浅田作品の魅力というと、歌舞伎の見栄を切る場面のような劇的な場面への盛り上げ方とその描写力ということになるか。「蒼穹の昴」しかり「天切り松」しかり。
その面ではこの短編集は比較的おとなしめな印象だが、泣かせるところはきっちりと押さえているところは職人肌の著者の力量。

03.4.22

『天切り松 闇語り 第三巻 初湯千両』

データ:

 集英社
 ¥1500
 2002/02/28

EGGさんの感想:
収録されている6編のなかでは「大楠公の太刀」が最もよい。第一巻の凛とした佇まい、金では買えない大切なものを伝えようと、祈るようにして書いたであろうあの傑作に迫る勢い。刀鍛冶名人の啖呵が痛快。

「道化の恋文」も、あるサーカスの親子の情愛を描いて秀逸。

「銀次蔭盃」親分の誤解を解きに網走へ行く目細の安。これは第一巻の補完となるエピソードなので、ファンは読んでおくべきかな。(別の意味で、ショタ萌え同人女性たちも読むべし!・・・最近そういうことを自然に思いついてしまう自分がイヤ(核爆))

03.7.31
『プリズンホテル 2秋』

データ:

 発行年  2001.7初刷(単行本:徳間書店1994.8)
 発行所  集英社(文庫)
 ISBN 4-08-747339-2
あっちゃんの感想:
 「このミス’95」でこの作品が国内編第7位となったが色物としか思えなかった。後に浅田の他の作品を読みそのすばらしさを知ってからもこの初期のシリーズには期待していなかった。しかし昨年、「夏」を読み僕の浅はかさを知った。さて本書も前作にひけを取らないすばらしい作品だった。どうしてこんなとんでもない設定でこんなすばらしい作品に仕上げることができるのだろうか、と思ったが実はこの設定だからこそ読者に対してこれだけのものを与えることができるんだなと思い返した。陳腐な表現だがまさに「癒しの文学」、読み終わった後本当に心が癒される。もちろん残りの2作品も楽しみにしている。

03.10.6
『壬生義士伝』
くれい爺さんの感想:
神学者バロンは「キリスト教における神と個人の関係は、神が垂直に個人を串刺しにしているのだ」といい、司馬遼太郎はこの言葉を引いて「誰も見ていなくても神は見ている。つねに神が個人を串刺しする。こういう厳しさが『愛』を生み、『倫理』を育てます。」と言っている。
小生はこの神と個人の関係が欧米におけるハードボイルドの精神的な柱の一つと思っている。
翻って日本の場合を考えると、この欧米における神と個人の関係に最も似た精神は「武士道と武士」の関係だと思う。
歴史・時代小説がハードボイルド的な雰囲気を持っているのはそのためでもあろう。
人によっては「ハードボイルドの極北は、山本周五郎の『樅の木は残った』だ」という人もあるらしい。
小生は未読なので近々にも読んでみたいと思っているのだが、周五郎自身、弱い者や不当な評価をされている者に対して慈愛のまなざしで見つめ、賞は辞退すると、ハードボイルド的な生き方をしているのではないかとも思える。
武士道と武士の関係を見るとき、分かりやすいのは新撰組だと思う。
新撰組がハードボイルドかどうかは別にしても、「士道にそむかざること」という抽象的な概念を精神的な柱に外には不逞浪士の暗殺、内には規律違反隊員の処罰と、狂気そのものの行動を行っている。
これは形としてはハードボイルド的なものであると思う。
ただ、浅田次郎はこの作品で、「義」こそが大事であって、武士の考えた武士道はその「義」を「忠義」にすり替えてしまっている、本当の「義」はそんなものではない、と言っている。
日本には北方謙三や原りょう、志水辰夫などのハードボイルド書きがいるし、古くは生島二郎や大藪春彦、稲見一良といった作家もいた。
船戸与一などもハードボイルド書きだろう。
作品というなら小生は曽野綾子の「神の汚れた手」もハードボイルドと読んだほどなので、あまたの作品があるだろう。
浅田次郎の「壬生義士伝」は正真正銘のハードボイルドで、「鉄道員(ぽっぽや)」なども含めた、浅田ハードボイルドの一つの頂点かもしれない。
作品の中の言葉「あの人、誰よりも強かったもの。それに、誰よりもやさしかったですよ。強くてやさしいのって男の値打ちじゃないですか。ほかに何があるってんです。
あの人はね、まちがいだらけの世の中に向かって、いつもきっかりと正眼に構えていたんです。その構えだけが、正しい姿勢だと信じてね。
曲がっていたのは世の中のほうです。むろん、あたしも含めて。」はその象徴であろう。
小生は浅田次郎は物語の語り部という印象を強く持っている。
「作家には二種類ある。宮部みゆきとそれ以外だ」という評があったが、宮部みゆきにもそう感じていて、女性では宮部、男性ではこの浅田次郎が最高の語り部ではなかろうか。
そういう浅田次郎の特徴がたっぷり味わえる作品で、池田七三郎の章の、子猫との別れの場面など、いかにも浅田節という感じで泣かせます。
下巻に入ると、さまざまな別れの場面で、もう泣かせまくります。
「義」という言葉がたくさん出てきます。
浅田次郎はこの壮大なドラマで「義」を書ききったと思う。
先に武士は「義」を「忠義」にすり替えたと書いたが、「義」の本来は「人道正義」、「人の踏むべき正しい道」だと言う。
では「人の踏むべき正しい道」とは?
それは読者それぞれがこの作品から読み取り、感じ取るしかないだろう。
小生は、佐助の章に出てくる佐助の言葉にそれを感じたのだが、ここには書かない。

来年のNHK大河ドラマは「新撰組」でスマなんとかというグループのかとりせんごとかいうものが近藤勇をやるらしい。
小生も新撰組について詳しいわけではない。
なんせ、三番隊隊長、斎藤一の名を知ったのは「るろうに剣心」だったくらいなので。
脚本は三谷幸喜で、三谷はもちろん才能ある脚本家なのだが、才気走るところがあって、舞台や映画などではそれもいいのだが、大河ドラマという保守的な視聴者にはどうだろうか。
「武蔵」の二の舞にならねばよいが。

03.12.23
『プリズン・ホテル3』

データ:

 発行年  2001.9
 発行所  集英社(文庫)
 ISBN 4-08-747358-9
 備考   1995.9
あっちゃんの感想:
 起承転結の転に当る作品だけに前2作とは少し趣が違ってしっとりした作品になっている。その代わりインパクトが減っているのは仕方ないとは言え少し残念、最後の作品に期待しよう。

04.8.28
『プリズンホテル4』

データ:

 発行年  2001.11
 出版社  集英社(文庫)
 単行本  徳間書店:1997.7
 ISBN 4-08-747378-3 
あっちゃんの感想:
 ここまで盛り上げる課という形のラストでした。最高の形のハッピーエンドでしたね。プリズンホテルに4年間付き合ったけど本当によかったです。

05.5.21

←戻る