「あなたに不利な証拠として」 ローリー・リン・ドラモンド
よく"珠玉の短編集"なる謳い文句があるが、こういう作品のための言葉だ。 アメリカ探偵作家クラブ最優秀短編賞受賞。 5人の女性警官の人生の一断面を切り取って描いている。 警官を描いたハードボイルドではあるが、これはミステリーなのか? 小生はハードボイルドを文体とかでなく、描かれる人間の生き方と考えるので、ヘミングウェイの「老人と海」や曽野綾子の「神の汚れた手」をハードボイルドとして読んでいる。 小生にとってはハードボイルドはミステリーの枠内にはまりきらないものなのだ。 自らの神とただ一人対峙しながら生きるとでもいおうか。 自らの神とは、その者にとっては神無き生き方であったり、また武士道であったりもする。 この作品も警官を描き、事件を描いてはいるのだが、作者が描きたかったものは主人公たちの生き方そのものであり、見事にそれは描かれている。 刺激的な事件、緊迫した展開、意外な結末を優れたミステリーの条件と考えているが、この作品にそれをもとめてはならない。 あるのは主人公たちの心の深みを静かに描くこと。 時を経て、また読み返してみたい作品である。
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