1 企画段階
世の中に間の悪い場所や物という物はあるらしい。朱雀にとっての『カムイワッカの滝』。私にとっての『カメンライダーV3の最終回』等々。何故か手に触れることすら出来ない物がままあるのだ。
道の駅『望羊中山』。そして、『くろまつない』。これもまた、年の道の駅攻略戦においてはアンタッチャブルな存在である。
一度は『銭湯戦闘』の旅で通過したものの、参加者が朱雀と冴速さんであったので、スタンプラリーの旅にならなかった『望羊中山』。
花見の『三馬かが往く』の際に、その前を通過しながら、その時点ではまだスタンプラリーなど考えてもいなかったため通過してしまった『くろまつない』。
おくびにも出していないが、前回の『二莫迦が往く』で『よってけ島牧』から『くろまつない』へ行くルートを武田は断腸の思いで断念したに違いないと想像する。でなければ、Cルートでぽっかりと空いた白丸が(前回地図参照)気にならないはずがないのだ。あそこまで『てっくいらんど 大成』に固執した男がである。無視できる物ではない。
ともかく、『二莫迦の旅』から帰ってきた朱雀は無謀にも、突然久部さんに電話。
「美味な噴火湾の蒲鉾があるんですけど」
と誘った挙げ句、休日をまったりと過ごしていた私を急襲したのである。
どうせなら、自分の部屋で酒盛りをしろというのだが、朱雀曰く。
「だって、お前の部屋より汚いからな」
変なことを自慢するではない。
ともかく、『一之蔵純米超辛口』を探し求め、何軒か酒屋を廻り、結局見つからずに『一之蔵純米辛口』を購入。つまみを買いに入った私の家の近所で『一之蔵純米超辛口』を見つけたのだそうだ。積年の悪行、ここに極まれりなのだ。朱雀。
「僕も悪行あるのかな」
うげ、いや、久部さんの威徳を持ってしても朱雀の悪行は雪げなかったと。あわあわ。
ともかく、酒盛り、酒盛り。朱雀は『二莫迦』で購入したお猪口がお気に入りだが、四合瓶から直接注ぐのはお間抜けである。
『ヘルシング』などを見ながら飲んだり話していたら、突然、久部さんが言われた。
「しかし、前回の牛タンは面白かったね」
「あれは無茶苦茶でしたからね」
なんか、面白くないのだ。
「明日は日曜日ですし、また一寸、行ってみますか?」
をいをい。朱雀、貴様まさか『スタンプラリー』に汚染されたのではないだろうな。
「いや、たぶん『くろまつない』に行けなかったことを理由に、CブロックだけでなくDブロックも攻略しろなんて無理を言われる前に、ちゃっちゃと片づけたいんだが」
「面白そうだね」
うわあ、そんな、久部さん。
2 作戦開始
「天は正しい物に味方するニャ」
はあ。調子に乗ってしまっているのだ。しかも、貴様は物か。物なのか?
翌朝、武田に『望羊中山』と『くろまつない』の攻略を伝えたところ、二つ返事で応じたどころか、調子に乗りまくっているのだ。結局、朱雀が自宅に戻って、『さっちゃん』と武田を迎えに来て、私の家にて全員集合の図である。
「で、今日の予定はどうなっているのかな」
久部さん。予定としましては、『望羊中山』を経由して、『ニセコビュープラザ』。『くろまつない』の3点攻略。これでCブロックが全部埋まります。
「わははははは。うれしいニャ。うれしいニャ」
はははは、笑うが良い。武田。これでCブロックは完全制覇。そして、もはや、行けなかっただのなんだのの屁理屈は存在しないのだ。これが最後の道の駅スタンプラリーだと心得よ。あとは、レンタカーでも借りて勝手にやればいいのだ。
「それはそれで怖くないか?」
朱雀、お前は良い奴だなあ。私のボロが通勤にしか使えない現状で、貴様が常に交通手段となるのだぞ。それでもそんなことを言っていられるのか?
「それは、嫌かも知れない」
そうだろう。そうだろう。前席でそういう話がなされているとも知らず後席では久部さんと武田が話し込んでいる。
「で、中山峠の『望羊中山』はわかるんだけど、『ニセコ』と『くろまつない』の特徴は何なの?」
「『ニセコ』は美味しい鶏があるニャ。『くろまつない』はパンが美味しいという話ニャ」
完全に舞い上がっている武田である。
「じゃあ、お昼は『くろまつない』でパンにしよう」
そんなこんなで、8時に朱雀宅を出発。一路『望羊中山』へと向かう。途中コンビニによって各種物資補給。本格的に出発だが。
札幌は広い。
走っても走っても走っても札幌である。しかも車の数が多い。
「いやあ、札幌は広いねえ。これだけ走ってもまだビルがあるよ」
久部さんが言われる。
「だいたい、『旅する奇怪』で訪れる街は一寸走るともう、道だけってところが多いでしょう」
そりゃあ、札幌は一応170万都市ですし。しかも、東にある私の家から町中抜けて南下するのだから距離はあります。
「本屋も電機屋もたくさん。ここでなかったら僕は生きていけないニャ」
はははは。だから生きていけなくて転職したのだ。私は。
3 高速移動
さて、中山峠だが、幸いなことに、何も起きなかった。久部さんの手前か、朱雀の第二人格は発動しなかったのである。結局『レオちゃん』時のように軽自動車に煽られ、抜かれるような感じで『望羊中山』到着。時間は9時14分。結構かかったなと言うのが感想である。札幌は広いのだ。きっと。
道の駅 望羊中山 |
で、中山峠でマグネットとスタンプ購入。
しっかりあげ薯をくわえているのは武田だけである。良く喰う奴だ。
そのまま、するするとニセコへと向かう。珍しく朱雀の運転に隙がない。迷いもない。うーむ。一皮剥けたか?
「いや、この道、前回冴速さんと来たんだよ」
なんだ、貴様カンニングか。
「カンニングは非道いなあ」
ま、それはどうでもいい話である。
「だからね、ハマーン様は、ララァのいるシャアには手が出せないんだよ」
後ろでは例のガンダム談義がなされているらしい。しかし、異様な話ではある。たった一つの食い違いで話がころっと変わるのだ。
「じゃあ、どうするニャ」
「やっぱり、ジュドーとくっついてもらうのはどうだろう」
「ハマーン様って、掃除洗濯料理はどうなのかニャ」
「何か不器用そうだよね」
「その点リィナは万能ニャ」
「セリオとマルチぐらい違うかも知れない」
「小姑リィナにいびられるハマーン様ニャ」
ぐぉ・・・。想像しただけでも笑えるシチュエーション。
『ハマーンさん。窓の桟にこんなに埃が』
『ハマーンさん。こんなにしょっぱい料理作って私を殺す気ですか』
こら、運転手が大笑いするな朱雀。
「でね、ダイクン家がしっかりしているならロナ家は成り上がるチャンスがない」
「ふむふむニャ」
「だから、仕方がないんであの夫婦がパン屋やっている。で、シーブックは入り婿」
「どうするニャ」
「で、鉄仮面が、鉄仮面被ってないけど変なパン作ってる」
「例えばニャ」
「バグパンだとかラフレシアパンだとか」
「食えないニャ」
「で、奥さんと娘のセシリーに虐められるわけだよ」
「そして『男の尊厳が、プライドがぁ』って入り婿のシーブックに愚痴るわけニャ」
何か凄まじく情けないのだが、そんな鉄仮面。一応
『私を殺しに来るのはいい!私は逃げも隠れもしない!』
って見栄を張った男だろうに
とか言っている間に『ニセコ』到着。
4 齟齬発生
『ニセコ ビュープラザ』到着。10時27分。早速マグネットとスタンプ購入。
道の駅 |
でもってあははは。気づいてしまったのだ。
私は偶然にも気づいてしまったのだ。ある事実をである。
「マグネットのシール。『2001』って書いてないか」
「嘘ニャ」
武田の顔から血の気が引く。
あわててバックのポケットから今まで購入したマグネットを引き出す。ああ、なんたることか。半分近くが『2001』である。
端から見れば笑い事だが、当人にしてみればショックはでかかったらしい。いや、当人よりも顔面蒼白だったのは朱雀である。彼の場合は、それをネタにまた道の駅スタンプラリーを一からやり直しかねない一大事である。
『もう一度やるニャ。僕が気づかなかったのも悪いけれど、朱雀もこんだけ一緒に旅行して気がつかなかったのは共同責任ニャ』
くらいは言いかねない男なのである。武田という男は。
しかし、今の武田にはそんな余裕もないらしい。
「ぐをおおおニャ」
絶叫して転げ回る武田を横に、唇を青くした朱雀が店のお姉さんに聞く。
「すみません、このシール『2001』年なんですが、今年のスタンプラリーに使えるんでしょうか」
「え?」
店のお姉さんは驚いたのだった。売っている側も気がついていなかったのか? 何と言うことであろう。
「すみません」
奥に声をかける。奥から店のおばさんが出てきた。事態は拡大の一途を計りつつあるようであった。
「ええと。お客さん。少し待っていただけますか」
朱雀にそう言うとおばさんはわざわざマグネットの製造元へ電話をかけて下さった。
待つことしばし。
「お客さん。去年のでもOKだそうです。」
一件落着。朱雀があからさまに溜息をつく。
しかし、もう少しひっぱても良かったかも知れない。部外者だから言えることだが。
ともかくそうやって今までのマグネットが使える事が解って一件落着。早速ソフトクリームを舐めている武田である。
ホッとして僕達は車に乗り込む。いよいよ僕達は『くろまつない』へと、向かうことになるのだ。
果たして何度も前だけ通った『くろまつない』の道の駅にたどり着くことが出来るのか。
この『旅する奇怪』で、そんな事態できちんとたどり着けた事態はあまりにも少ない。
果たして我々は無事にたどり着くことができるのだろうか。
5 重要目標
でもって、我々はあっさりたどり着いてしまった。10時53分。道の駅『くろまつない』到着。あっさりした物だった。なんだか拍子抜けする。
道の駅 くろまつない |
そこで、少し遅い朝食、もしくは少し早い昼食を取ることにする。
さすがはパンが売り物の『くろまつない』。道の駅の内部はパンの甘い匂いに満ちていた。
さあ、どれにしようか。
しかし、久部さん。いきなり『焼きそばパン』ですか?
「だって、どうせ、この旅行も『旅する奇怪』に記載されるんでしょう。こういった状況で一番笑えるのは基幹通貨になったこともある『焼きそばパン』でしょう」
う、そこまで、考えておられての行動とは。
「昔、そんな銀河帝国がありましたっけ」
と、朱雀、貴様もヨリにもよって自動販売機で『リアルゴールド』買うんじゃない。
「これがある以上受けを狙わないでどうする。『受』の精神だぞ」
「『芸をすれども統治せず』だね」
二人で笑う。
このあたり、深すぎて訳わからないのであるが。解る人ご教授願いたい。
こら、武田、他人の振りをするな。
ある時代の某本屋には、この二人ともう一人、ビデオに無茶苦茶詳しいO君という青年がいたのだそうだが。濃すぎる。そのカウンターの中、濃すぎる。
「社員のI井さんやI田さん、引いてたもんなあ」
朱雀が遠い目をして言う。あはははは。それが正常な反応ではないだろうか。
ともかく、昼食を終えて我々は再び車中の人となる。
あとはのんびり来た道を帰るだけだ。拍子抜けだが、明日は月曜日、明日のことも考えると無理はしないが吉である。
のんびりと来た道を帰る。春の道はぽかぽかと暖かい。と、一転俄に掻き曇り、豪雨が振ってきた。
「なんだい、これは」
「徐行するぞ。ポテンザはドライには凄まじく踏ん張るが、ウェットにはちょい弱い」
ドライバーの朱雀がそう言うほどの雨だった。しかし、軽自動車にも抜かれるというのは少し情けないのではないだろうか。
凄まじい雨が降り続く。
「外に出て濡れたら気持ちいいだろうな」
ふと、そんなことを口走る。いや、思っただけなのだが。朱雀の返答はシビアだった。
「ああ、しかし濡れ鼠になった貴様を乗せるシートはこの新車にはないぞ」
何を言うか。緑のオールウェザーシートである。少々濡れたのが何だというのだ。このイケズ。
ともかく私たちは再びのんびりと札幌に帰りつつあった。
6 英雄行為
そんなこんなで、中山峠に近づく。車内に流れているのは『小田和正自己ベスト』。しかし、個人的に言わせてもらうと、『オフ・コース』時代の曲のアレンジが非道すぎて聞いていられない。そこでブレスするな。そこはもっと伸ばしてくれ。うがあ。
「いやあ、小田和正さんも肺活量がなくなってしまったのかなあ。もう、年だものね」
久部さんがしんみり言う。
「オリジナルでこれ作った方が古くから聞いてる方としてはよかったのにね」
「版権問題とかいろいろあるんでしょうね。きっと」
朱雀が言うのは常識論。
いつしか車は『望羊中山』を通り抜ける。
「これやめて、違うの聞くニャ。」
武田がそう言って一枚のMDを差し出した。相変わらずラベルを貼らない奴だ。
何の気なしにかけてみる。
流れ出したのは、あの迷曲、『メイドさんロックンロール』ではないか。
やばすぎないか・・・。
「この前、冴速さんと温泉行った時にな・・・これ、持ってきててさ」
虚ろな視線で朱雀が言う。
「こいつを大音量で流している最中に、コンビニの駐車場に停めてドアを開けて、買い物をする。それこそ勇者! ということで意見が一致したんだが」
そんなことで意見一致しなくて良い!
「でも、今、トンネル通ったよね」
はい、久部さん。
「こんな凄い歌流して、トンネル通ったのは。どうしたもんだろうね」
は。やばいんですか?
「質の悪いのがいた場合少々ね。ま、大丈夫だとは思うけど」
と『さっちゃん』は札幌のカントリーサインの横を走りすぎる。
「個人的には、この曲で札幌に帰ってきてしまった事に、深い脱力感を感じるけど」
確かに、確かに、それは言えるかも知れない。
そんなこんなことしているうちに、中山峠の下。道の駅総本山『交通情報センター』に到着。せっかく『スタンプラリー』をやっているのだ。時間もあるし覗いてみようということで意見は一致。
駐車場に入ってすぐに勢いよく武田がドアを開ける。
をい。まだ『メイドさんレゲエ』がかかっているのだぞ。
辺りに響く『ららららららら〜』という間奏部分。顔面引きつらせて、朱雀がカーステレオのスイッチを切る。
大丈夫のはずだ。間奏部分では何がなんだかわからないはずだ。
「いやあ、勇者になりそこなったね」
そんな勇者、ならなくても良いです。
7 古書探索
交通情報センターで時間を潰して、札幌縦断。再び東区へと戻ってくる。
「悪いんだけど、本屋に寄ってくれないかな。新刊が出ているかも知れないんだ」
久部さんが言われる。 そこで、石狩街道沿いの本屋へと突入。
しかし、残念ながら発売はなし。
「遅れるのかなあ。出ないって事はないと思うんだけど。あの人だからなあ」
ははは。私と朱雀が乾いた笑いをあげる。 我々にとっての佐藤大輔御大は常にそうである。予告は常に裏切られ、我々は常に新作に飢えている。はああ。
「しかし、今回、古本屋見ませんでしたね」
朱雀が言うが、そういえばそうだ。
「久部さん。久部さんをお招きした『旅する奇怪』で、こんな事があってはなりません。どっか『BOOK OFF』か『GEO』に寄りましょう」
というわけで石狩街道沿いの看板を見つけて『BOOK OFF』を探す。
しかし、見つかったのは『GEO』だった。
なんでGEOが? |
「一体これは何なんだ」
「これこそ『旅する奇怪』だね」
「訳が分からないニャ」
適当なことを言いつつ楽しく店内を漁るが戦果なし。
そのまま暫く行くと、漸く『BOOK OFF』があった。
BOOK OFF |
「さっきの看板はこっちだったんだね」
思わず感心してしまうが、商売旨いぞ『GEO』。看板出さないでお客をGETである。
しかし、ここの駐車場の『お客様以外の車は撤去します』の張り紙。これはどういう意味なのだろうか。誰か見ているのだろうか。
「妖精さんが見ているのかも知れないね」
久部さんが言われるが、妖精さんがそんな仕事をするなんて、世知辛い世の中になった物である。
結局、そこでは所持していなかったので先が気になって仕方がなかった、古い漫画の完結巻を購入。ようやく長い間の謎に決着がついたのだ。予想通りであったが。
そうして、勢いに乗った我々は、もう一軒。『BOOK MARKET』を強襲。たちまちのうちに3軒の古本屋を攻略したのだった。
BOOK MARKET |
「やっぱり、『旅する奇怪』はこうでなければいけないニャ」
ええ、勝手に『道の駅、スタンプラリー』の要素を入れた人間がそんなことを言うか? そんなことを。
などと突っ込んだりしながら。久部さん、武田を自宅に送る。
「終わったな」
「ああ、終わった」
朱雀が応じる。僕達にとっての『道の駅、スタンプラリー』は、これで終わったはずだった。そう。そのはずだったのだ。
だが・・・。終わってはいなかったのである。
今回の道の駅スタンプ&マグネットget数
3今までの道の駅スタンプ&マグネットget数
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