2008年

6月15日 (土)  

セピア色した風の中で… 〜海援隊士物語〜
at SPACE107

 That's ENTERTAINMENT!!!!!
 これぞ、小劇場の舞台の醍醐味!!!!!

 オープニングから度肝を抜かれた。まさか、目の前に、立っている、とは。真っ暗 闇の中、物音ひとつ立てずに、いつの間にかそこに立っていた山本琢磨(河本龍 馬)、その姿に、いきなり圧倒される。天から舞い降りてくるかのような、坂本龍馬 の声(池田政典)。いくぶん、想像していたより、柔らかい印象。
 そして、剣舞。これがもう素晴らしく。舞う白いたすき、かける時のしぐさ、口の 動き、手の動き、目を見張る。ショーとしての見事な完成度をひしひしと感じなが ら。やはり“魅せ方”を心得ている。観客を一気に舞台へと引き込む力に満ちた、剣 舞。見応え、充分。ただ、これ、前方の席では全体を見渡すのが難しく、つい、1人 か2人かの姿にのみ釘付けになってしまっている自分がいて…。ケンケン(斎藤健二 くん)の鋭く凛々しい目に、特に…。あの眼差し、今も胸に焼き付いていて…。
 暗転。今度は一気に物語へと突入していく。
 陸奥陽ノ介(阿部真之介)の第一声が、響き、語る、まくし立てる。そう。この第 一声に、ぐっと引き込まれる重要な要素が詰まっていた。オカケン(岡本健三郎・渡 部龍平)の縫い物が素晴らしい。本当にそこに針と糸があるような。いや、ないはず の針と糸が見えるような。千屋寅ノ助(杉原勇武)の少し細めの声が、性格も表すよ うな細やかさを醸し出しつつ。しかし目元にしわをいっぱい作って笑う姿は、勇まし くもあり。そこへ帰ってくる長岡謙吉(斎藤健二)。…あ、長袖シャツ着てない。
(細かい?わし。)ケンカする陽ノ介と千屋を止めに入って、顔バッチンされるオカ ケン。その後ぐずぐず泣きながら裁縫の続きをする龍平ちゃんのぐずりっぷりがむ ちゃくちゃ可愛い。坂本さんから手紙が届いたと駆け込んでくる白峰駿馬(水出浩 子)。手紙の中に入っていた「船中八策」を皆で順に読み上げるのだが…。この「船 中八策」、実際に坂本龍馬らがまとめたもので起草したのは長岡謙吉だと言われてい る。舞台上で読まれるこの紙にも、最後にちゃんと「長岡謙吉」の署名があり、謙吉 演じるケンケンが本当に書いたといい、下手な字をごまかすために昔の字っぽくわざ と崩して書いたのだとか。しかーし。そのこと、つまり謙吉が書いたものであるとい うことには、セリフ上、誰も触れないので、まるでこれも龍馬が書いたような印象で 終わっていて。思わず終演後、ケンケンにツッコんだことは言うまでもなーく。で も、最前列で裏から見た「船中八策」の文字、なんだか可愛かったぞ。
 謙吉とオカケンが京の龍馬の元へ向かい、その間に、陽ノ介と千屋と駿馬は、龍馬 からの最後の手紙を受け取る。その直後、土砂降りの雨の中、謙吉とオカケンが戻 り、「坂本さんがやられた…。」「誰がやったかわからん…。」と…。「わからん …。」という謙吉のセリフには、もどかしさと悔しさが滲み出て、胸元を押されるよ うな苦しさが伝わる…。龍馬という拠り所を失くし打ちひしがれる面々に、謙吉は、 にぎり飯を作ってくる。左手についた米粒をなぶる謙吉の…。現実を見にゃいかんと 話す謙吉に、自分に言い聞かせとるだけじゃないかと言い寄る陽ノ介。顔を見ずに陽 ノ介の頬を打つ謙吉。絶妙のタイミング、絶妙のヒッティング。しまいに取っ組み合 いになる2人を、またも仲裁するオカケン。床に突っ伏して嘆くオカケン=龍平ちゃんの 足がセクシー。(どこ見とんねん。)龍馬の死が信じられないまま、外で手紙を 待つ駿馬に、にぎり飯を差し出す謙吉。このシーン、陽ノ介・千屋・オカケンは、崩 れ落ちたままの状態でスポットが当たらない。そう、龍平ちゃん、セクシーポーズな まま放置プレイ(違)。駿馬に傘を差してやり、土佐の昔話をする謙吉。その、駿馬 の頭をなでる手は、まさしく大好物のケンケンの手、だった。胸がきゅうんとくるよ うな、大好きな手、だった。
 船を出すことにする謙吉。歩く5人。足をゆっさゆっさと揺らしながら、そう、動 いてはいるが動いていない、歩いてはいないが歩いている。これこそ、舞台ならでは の演出方法。海に出る。帆を張る。やはりここでも、まるでそこに綱があるかのよう な、ないはずの綱が見えるような、素晴らしい動き。たとえ並んで立っていても、声 を掛け合う向きで、彼らが、甲板の上でどのような位置に立って何をしているのかが “見える”。更に、ただ立っているのではなく、体がゆっくりと揺れている。ただそ れだけで、彼らが船に乗って海上にいることがわかる。それもこれも、舞台の演出で は、ありふれた当然の手法だが、例のモノを観た後では、やたら新鮮に目に映る。そ んな気持ち良い航海の途中、謙吉は海援隊の解散を告げる。動揺する隊士たち。謙吉 の歌うよさこい節が、高らかに深く、響く。その喉仏が素晴らしく魅力的=エロい、 さすがミュージカル俳優。と、そこへ、海賊船がぶつかってくる。沈む船の暗がりの 中、手と手を取り合う隊士たち…誰も「うらめしやー」なんて言わないし。駿馬を抱 き寄せる謙吉の手、またあの大好きなケンケンの手、…エロい手。そこは、敵艦の 上。捕らえられた5人。海賊の名はBlack Seas、足元をガトリング砲でバチバチと撃 たれてバタバタとする陽ノ介、お見事。船長(河本龍馬)から「プレゼントだ。」と 言われて謙吉に差し出された風呂敷包みの中身は、女物の赤い肌襦袢。これを着ろと いうのは侮辱極まりないこと、でも、仲間が撃たれそうになるのを見て「待て、待 て!脱ぐき、脱ぐき!」と、急いでふんどし姿になったかと思うと赤い襦袢をくくりつ けるように羽織る。この時のケンケンの白い肌がまたなんとも…。頬に紅の筋がべっ たりと2本。更に、写真を撮ってばら撒いてやろうとすごむ船長に、止めてくれと懇 願する謙吉は、言われるがまま土下座、ためらいながらも「勘弁、してください!」 と床に頭を叩くようにすりつけて…。結局、4人とは別に連れて行かれた謙吉は、 「皆、すまん!」と言い残して、逃げるように走り去る。陽ノ介・オカケン・千屋・ 駿馬は、手を綱で縛られ繋がったまま。そこへ突如現れた影…。それは、坂本龍馬、 ではなく、刀姿も凛々しい、姉の坂本乙女(山口美砂)。縛られた4人ににぎり飯を 食わせてやるのだが、かじりつく陽ノ介とオカケンがチューしちゃった♪
 琢磨の、海賊になる前の姿。龍馬との約束を胸に、夢を語り、仲間を募り、大阪か ら上海へと…。琢磨だけでなはない。千屋の、間を置いて、オカケンの、陽ノ介の、 龍馬との思い出を一人芝居で。特筆すべきは、やはりオカケン。誕生日だというのに 床に臥せっている龍馬のために、南蛮渡りのカステイラにロウソクを1本立て「ハペ バースデー、デーア、坂本さん」と歌うオカケン。「坂本さんが吹き消してください ね。」と言うも、オカケンの息で吹き消されてしまうロウソク…。なのだが。14日は 消えそうで消えなかった。15日は「ふ」で消えて、「ほら、すきま風ですき。」とご まかす。実は、なかなか龍平ちゃんにスポットライトが当たらないのでおっかしー なぁと思っていたら、このロウソクが消えた時点でスポットが当たることになってい たらしく。しかも、本当は「坂本さん」の「さ」で消えなきゃいけなかったらしい。
…いや、それはちょっと、難しいちや。
 乙女に鍛え上げられる、陽ノ介ら4人。謙吉は、帰ってこない。乙女は、海賊の船 長が、かの琢磨だということに気付いている。それは琢磨とて同じこと。よさこい節 を、懐かしそうに、寂しそうに、切々と…。乙女は、龍馬からの手紙を琢磨に手渡 し、琢磨はそれを愛おしそうに…。謙吉が戻ってくる。江戸で、龍馬と同じ北辰一刀 流の道場に入門していたと…しかし途中で辞めてしもうたと…。この時、前髪をすべ て上げ、長袖シャツを中に着てきた姿、嬉しかった。そしていよいよ、決戦。乙女も また、よさこい節を高らかに歌い上げる。謙吉、琢磨、乙女、それぞれのよさこい 節、それぞれのシーン、それぞれの想い、それぞれに素敵だった。琢磨は、海援隊か ら奪ったピストルを、乙女に返す。それは、龍馬の言っていた「フェアプレイ」を自 らも実践するかのごとく…。舞台上手に海援隊、下手にBlack Seas、船を動かしなが ら、砲弾を打つ、打たれる。圧巻だけれど、若干長い…。(このレヴューも長い …。)立ち回りも、圧巻。アクション、アクロバット、飛ぶ、舞う、息を呑む。そ りゃ、ケンケンの左膝や、龍平ちゃんの右手首に、名誉の負傷も見られるはずだ。乙 女の放つピストルと「もう、ええちや、琢磨さん…!!」の言葉に、海賊は退却、海援 隊に敬礼…。この2日間で、何回敬礼を見ただろう…持つ意味は全く違うけれど。  ラスト。龍馬が常々言っていたという号令「In the gust of freedom,…FAIR PLAY!!」とともに、空に向けピストルを放つ5人。晴れ晴れとした気持ちで、龍馬へ の別れを告げる。…もう、もう。涙があふれて…涙があふれて。舞台の上に飾られ た、1枚の写真。それは、謙吉、オカケン、龍馬、陽ノ介、千屋、駿馬の並んだ、あ の写真…。

 さて、ここからが本題。
 自分のブログでもチラリと触れたのだが、この作品でRyomaさんが描きたかった想 いについて。それはつまり、坂本龍馬との決別。同時にそれは、“二代目龍馬”との 決別、でもあるのではないか、と、私は思ったのだ。Ryomaさんが15年も演じ続けて きた坂本龍馬の役を譲るというのは、年齢的な部分だけではなく、いわば家督を譲る というか、そういった意味合いを含んでいたのではと思うのだけれど、今はどうやら 違う方向をお互いに向かざるを得ないような状況にあるように思えて、それがすごく お互いに寂しく感じているようにも思えて、だからこそここで別れを告げようとして いるのではないかと思えて…。それを、14日の公演が終わった後にRyomaさんに思い 切って聞いてみたら、「そんなことないですよ、同じ事務所だし。」と苦笑いしてい たのだけれど…。けれど、15日の千穐楽公演を観た後、私の思いは逆だったことに気 付いた。つまり。龍馬は今も皆の心の中に、確かに生きている、ということだったの だ、と。乙女の「龍馬は生きちゅうがよ!!」というセリフ、そのものなのだ、と。… まだちゃんと、“二代目龍馬”は、生きているんですよ…ね…?
 陽ノ介役の阿部さんと駿馬役の浩子さんは、今回演出助手を務めた武末志朗氏率い る劇団Peek-a-Booの劇団員だそうで、やはり、声の張り具合など、目を見張るものが あった。浩子さんは、14日の公演で最前列にいた小僧を見て「目の前に少年がいて、 私が演じるのはキミだ、って思いました。」とおっしゃっていた。そんな浩子さん演 じる駿馬は、本当に純粋な少年で、心打たれた…。
 琢磨すなわち船長役の河本龍馬、そして乙女役の山口美砂の両氏は、さすがの貫禄 で、とりわけ2人が対峙するシーンはいずれも、それだけで見応えのある、素晴らし い一幕を体感することが出来た。

 実は、公演を観る直前、長岡謙吉のお墓参りをしてきた。予定にはなかったのだ が、偶然にも行った場所のすぐ近くにお墓があることに気付き、ケンケンのブログ記 事を頼りに、社務所で場所を聞き、お参りすることが出来た。花も何も飾られていな い、質素で静かなお墓。謙吉夫妻の他に、親族も一緒に奉られているもよう。そっ と、謙吉の名を手でさすると、なんだかとても心が落ち着くような気がした。舞台残 り2公演の成功はもちろんだが、誠に勝手ながら、発熱気味の小僧の熱が下がります ようにと拝んだ。そういえば、謙吉は医者でもあったのだ。そして、そう、ケンケン がブログに書いていたように、悲しみではない涙がこみ上げてくるような胸の締めつ けと、安堵の想いを感じた。…あなたに会えて良かった、と。

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