家庭の医学  K-004   お風呂について  入浴について  家庭医学Top へ戻る
 
 病気になると入浴は止めるように指示されることが多いようです。 入浴が病気の治療に、回復にさしつかえる事があるのでしょうか。 科学的に病気に入浴が悪い影響をもたらすかどうかを検討したとは考えられません。 医者も科学的な根拠もなく、自分の小さな時から教えられてきた先入観で入浴は体に疲労をもたらすものと考え、この疲労は病気の治療にじゃますると判断して入浴を止めていたと思います。
 
 子供の高熱を下げるために外国ではぬるま湯につけるように指導されることを聞かれたり、海外で居住して経験された方は大勢おられると思います。 アメリカの育児書にも解説されているのは見かけますし、WHOの監修で発行されている小児の救急時の対処法を解説している教科書にも熱を下げる方法としてぬるま湯を高熱の子供にかけることを薦めています。 子供が高熱になっている時はぐったりして消耗している状態です。 この時に入浴やぬるま湯をかけることを薦めるのは、入浴が体に疲労をもたらし病気の治療に悪い影響をもたらさないと判断しているからでしょう。
 
 日本でも外国でも病気と入浴との関連を科学的に検討されたことは少なく、長い期間の生活風習のなかから経験的に考えられる知恵の違いが現れているだけだと考えています。
 
 しかし、生活風習や住居施設の違いもありますから無批判に取り入れることも問題を残すと思います。 日本で入浴について良しとされていることでも間違いではないかと考えられる事もあります。長いあいだの小児科医の経験として入浴についての考え方をまとめてみました。
 
 まず秋の終わり、少し寒くなってきたころから温かくなる四月ころまでの注意を書いてみましょう。
 
 これから書くことについて自分の経験も加えて考えて下さい。 皆さんは体を温めるのにはぬるいお湯は良くないと考えていませんか。 子供を湯ぶねに入れるときも長くお湯につからせたいと考えて50勘定したら出ても良いとか、数字をかぞえさせた経験はありませんか。 最近は浴槽にためるお湯も器械で調節できるような形式のものも使われ、この時期には41-42℃程度で入浴させているでしょう。
 
 直径20p もある大きな大根を想像して下さい。 大きななべに入れてあたためる時に50℃のお湯で2分間あたためるのと40℃で5分あたためた時に内の方のあたたまりかたとしてはどちらが良いでしょうか。 料理をする時には低い温度でもゆっくりと熱するほうが内のほうまで熱はよく伝わります。 100を数えても時間にすれば一分半程度です。 子供は長い時間お湯につかることを嫌います。 42℃で一分半お湯につからせるより、40℃で3分以上つからせるほうが体の中心まであたためられます。 一分前後では体の表面をあたためているだけになっています。 今40℃と書きましたが、子供の年齢、寒い時期といっても月々で気温もかわり適温は変わります。 適温は子供が3分間ぐらいは嫌がらないで湯ぶねにつかれる温度にして下さい。
 
 話は余談になりますが、内科の先生は老人の入浴中の急激な血圧の変動で事故が多くなっているのを予防するためにお湯の温度は38-41℃が適温と薦めておられました。 子供には38〜39℃が奨められる温度です。 ゆっくりとつからせれば38℃は体を冷やす温度ではありません。一度お母さんが39℃位のお湯で3分以上つかって下さい。 お湯から出たときは寒く感じるでしょう。 しかしすぐにタオルで拭くと寒さは感じなくなります。 付け加えるなら、子供が5分程度喜んでつかっている温度より低くすることはありません。
 
 次に入浴の後は早くパジャマを着て早くふとんに入ることが良いと考えていませんか。 「入浴の後に長い時間ふとんに入らずに遊んでいて湯冷めしてかぜをひきました。」 とよく聞かされました。 これは間違ったことを子供に強いているのです。 入浴後着ていたパジャマが体のほてりで少し湿ったことを経験したことはありませんか。 この湿りが深夜に気温が最も低くなる時間に子供のお腹を冷やすのです。 お腹を冷やすと子供は腹痛を訴え、吐くこともあります。 毎年のインフルエンザの流行時期になると、腹痛と吐くことの伴ったタイプのウィルスが流行しているとの話が多くなりますが、もちろんこの様な症状を伴うウィルス感染症はありますが、上に書いたことが原因になること、両方が原因になることもあります。
 
 入浴の後はまずシャツと薄いものを着せて下さい。 20分ぐらいは入浴前よりは少し室温を下げて静かに遊ばせて下さい。 その後にシャツが湿っているようでしたら乾いたタオルで体を拭いて乾いたパジャマを着せて寝かせて下さい。 これだけの注意をすれば湯冷めをする事はありません。
 これだけの注意をせずに誤った方法で入浴させてかぜをひくと、「お風呂に入れて風邪を引かせた 」 と云うなら風呂は怒っているでしょう。 
 
 次に発熱時の解熱に入浴させることについて書きます。 もちろん読後の決心ですが、熱をだしている病気の時にも入浴させるのですから、注意事項は守って積極的に入浴させて下さい。
 
 次に解熱を目的にした入浴、水浴びの問題です。 入浴という言葉は体をきれいにする目的を含みますので、ここでは適切な表現ではありませんが意味を理解して読んで下さい。 ここに紹介しているのはアメリカの育児書を翻訳し日本で発行された本より引用しましたものです。 高い熱を出した子供を、ぬるま湯を底に少し入れた浴槽に寝かせて繰り返しお湯を体にかけて熱を下げています。 日本の家屋の構造で浴室の保温が充分でないことも多くありますので、私はこの点に配慮して少し違う方法を指導してきました。
 
 高熱を下げる目的ならば冬の時期なら38、39℃程のお湯にゆっくりつからせて下さい。 お湯の量は外国のように少なくせずに肩までつかる位が適当です。 5分程つからせばよいでしょう。
 
 ここでは入浴を薦める目的に限って書きました。 熱をさげるためにはこの方法をやる前に、水分の補給、室温をさげるとか色々な努力を先にすることは当然です。
 
 風呂湯の温度は地域によっても大きく変わっているようです。 寒冷の厳しい東北・北海道地方では42度を超す高温の入浴が多いようです。 高温の為に長時間に湯に浸かることは少ないようです。 子供の 高温入浴には賛成できません。  
 

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(朝日新聞 1999.1.18 朝刊家庭欄、近畿版)