【 乳幼児の運動発達 6】 手の機能発達

      ①  “握る” ・ “把握” ・ “Grasp” を分析  把握反射から摘みまでを説明します

 握りの発達 sp           起稿中  記述は不完全

 お断り 説明に使用している画像は全て成人の手で、似せて撮影しました。 細部では異なる形になりますが、乳児の手を想像して見直してください。 読者は実際に我が手で実演して、事実を確認してください。

 違う角度から手の機能の発達を観察します。 

 

 最終目的はエンピツ・ベンを美しく持ってきれいな書字が、箸をきれいに持って器用に扱える様な育児の方法を探ることです。

 粗大運動の発達が自然に進むと説明される一方で、微細運動では知能の発達が大きく影響して学習と習熟が成熟・発達を促進すると説明されます。

 他でも説明をしていますが、粗大運動と微細運動の発達は車の両輪の如くに連携しています。 粗大運動の発達で大きな違いが発生していると、微細運動の発達も影響を受けて正常とは異なる動きが発生します。

 微細運動の発達は手の機能発達として現れます。 ヒトの特性です。 形は似ていても、サルには出来ない機能がヒトには可能です。 サル・チンパンジーの道具を使用するチエは深く研究されて、その研究項目には驚かされますが、巧みさではヒトには及びません。 やはり進化が影響している一面でしょうか。

 “手の機能” との用語を使っていますが意味としては手関節から先に位置する手掌と指の機能と受け取れます。 手関節から先の運動は前腕部の運動、更に上位の上腕の運動、更には肩胛骨の運動が関係しています。  肩胛骨の運動は脊柱の状態にも左右されています。

 手の機能の発達を説明する時、手掌・指の運動に焦点を当てていますが、背後には体幹・上肢の関連もあることを忘れないでください。

 先ず基礎的な事項から説明しておきます。

手の発達と機能の獲得・成熟について考えます。 初歩的な “握り” まで

 手の発達の最終目的は道具を手で持って作業を能率的に実行することです。

 手を使うためには、腕を動かし・伸ばして物に近づけることから始まります。 次には手で触れて物体の形状・堅さを認知する必要があります。 次には脳からの指令を受けて、触れるだけが目的なのか、物体を支点に身体を動かすのか、物体を移動させるのかが問われます。

 乳児の手は、 1触れる 2認知(触知)する 3握る(持つ) 4運動の支点 に利用されます。 

 1 原始反射が強く働いている時代で説明します。 この時代に手指・手掌に物が触れると握るような行動(無意識な把握)が見えますが、これは “握る” ではなくて把握反射の結果です。 “触れる” と書きますと目的意識を持って手を物に近づける意味が含まれますが、実際は無意識に手を動かしていて物に接したとの意味です。 接した物を反射的に握ります。 この “握る” の細部は母指は役割が少なく、他の四指と同じ方向にあります。 スプーンは四指と手掌の間に挟まれている状態です。

 原始反射が消失した頃には母指は反対側からの形になります。

 原始反射が消えた後も、“触れる” は大きな役割を果たします。 

 2 哺乳の時には、ママのオッパイを両手で触れることが起こりました。 哺乳びんからの授乳なら手が自然に・偶然に哺乳びんに触れることが起こります。 偶然の接触が原始反射を誘発して触っているように見えるでしょう。 初期には “触知する” と表現出来る行為ではありませんが、反射が消失に向かう末期には “触れる” から “触知” の段階へ移行すると考えられます。 

 3 原始反射の消失期になると原始反射ではない未熟な把握が観察されます。 乳児を柔らかい布・シーツ・薄いタオルケットにうつ伏せで寝かしておくと、手掌に布のシワをたぐり寄せる動きが観察されます。 熊手でかき寄せる運動に似ています。 原始反射でも同様な仕草は見られます。

 4 移動運動が始まる時期には、腕は支持器官としての役割も担う事になります。 手掌から手指には、支持機能の中で支点となる役割を担います。 寝返り・手支持・四つ這い姿勢の支点、四つ這い運動の際の支点、つかまり立ちの支点 に手を利用します。 

 手掌・手指を運動の支点として利用するには床の形状と硬度を認知して安定して利用できる判断が必要となります。 凹凸が強くて痛さを感じる場所は不向きです。 フワフワな場所も利用できません。 触覚の成熟が必要になります。

 臥位で寝ころんで生活する時期には、手は “触れる” だけの機能で十分でしたが、次の発達段階では、うつ伏せ位で身体を持ち上げるための運動が必要となります。 手には “触知” の機能が必要となります。

 成長すれば視覚による認知で床の性状は判断出来ますが、乳児では触知による認知に頼ります。

 寝返りの月齢期になると、仰向け位で手は物を持つ道具としての利用が始まります。 

 手支持が完成すると、仰向け位の時間には上肢は支持の目的外に利用できます。 物を持つ興味も起こります。

 手が触覚の機能を欠くなら移動の始まりである寝返りは不可能です。 このことから寝返りが始まる月齢前に触覚は働き始めると考えられます。

 つかまり立ちには、手には支点として利用する条件と “把握・握る” 機能が要求されます。

 座位が獲得できた時代には物を持つだけの興味から利用する(オモチャで遊ぶ)欲求も増してきます。
 ここから “把握” が必要な年代に進みます。

 手支持には手を支点として利用するために安定した・動かない支点が必要となります。 支点が固定されない限り、安心した姿勢保持は不可能です。 手掌を床に置いただけでは固定したとは云えません。 床は広い平面ですが手掌には “キャッチしている” との認識が脳に伝わらないと不安感は残ります。 手支持は手の把握機能が備わったと判断出来た時に可能となるのです。(注-1) 成人がテーブルに手を置いて軽くもたれかかる時、手掌からはテーブルに手を載せテーブル面をキャッチしているとの意識が能には伝わっているのです。 滑る面に手を置けば 「キャッチ出来ない」 との情報が伝わってもたれかかりはしません。

 手支持が獲得できると、一時的に肘支持の姿勢に戻り片手を自由にする事が出来ます。 手支持が未完の時には肘から手掌までの広範囲が支持面として使用され、手を他の運動には利用できません。 手支持が完成後に肘支持の姿勢になる時には肘関節部と前腕の上部(肘関節に近い部分)だけが支持面として利用され、手は他の運動のために開放されます。 この姿勢では “両手持ち” は不可能で “片手持ち” が出来るだけです。 上の説明にある肘支持に姿勢を戻している時に両手が開放されても物の持ち上げは殆ど出来ません。 仰向け位の時に “両手持ち” は可能です。 小さくて軽いオモチャが利用できる月齢です。

注-1 “キャッチ” との用語を使用しました。 この “キャッチ” には握るの意ではなく、接着の意として受け止めてください。

 完全な把握機能でなくとも可能です。 支持姿勢の進行に伴った成熟度で充分です。 手支持の姿勢では腹部から下肢全体の広い面積が一方の支持役を果たしますから、手掌の担う役割は少なくて済みます。 初期のつかまり立ちの時期にると、他方は膝であり足底で、手は家具のコーナーを利用する事になります。 手にはキャッチが多く担わされますます。 シッカリと握れない場所を利用して、つかまり立ちをしている光景はよく見られます。

参考事項 1 握りの分類 形    を説明してあります。 クリックで移動 

参考事項 2 握りの分類 機能  を説明してあります。 クリックで移動

参考事項  サル手 クマ手    を説明してあります。 クリックで移動


  手支持を獲得する月齢では、体幹の成熟は腰部を越えて下肢に届いていると判断出来ます。 上半身・肩胛と上肢のスムーズな動きも会得出来ています。 自力での座位獲得は少し先になります。 保護者が補助具を添えて座位の姿勢にさせると短時間の座位保持は可能になっています。

 座位の姿勢にすると両手は完全に開放されて、物を持つ・持ち上げる作業が可能となります。 この月齢からヒトとして必要な手の機能の獲得と習熟が始まります。 

 ヒトの手には “握り” と “摘み” の機能が必要になります。 成人として仕事を持つ時には両者の応用形として種々の形が存在しますが、殆どの人に共通に必要とされる “エンピツを持つ” と “箸を持つ” に焦点を当てて説明を続けます。 

  エンピツを巧く持つ・箸を巧みにあやつることが出来るなら、種々の道具を使いこなす素地は出来ていると判断出来ます。

 握りから三指握りへの移行を観察します。 

 “握り” から “三指握り” への変化を知ってください。 

 最初は握った五指が開くことから始まります。

  次には、“握り” に参加していた外側二指が役割を離れます。 これと同時に、母指は人差し指・中指と対向する位置に移動します。 

 写真-2 では、第二・三指は母指の方に移動しています。 第四指・五指は把握の力を弱めて、解放へ向かっています。 

 写真-3 では、第二・三指は母指に近づき、第四指・五指は把握の作業からは離れています。 写真では判然としませんが、実際には母指は方向転換を始め、第二指・第三指の先端部へ移行しています。 

 母指の方向転換が終わり、第二指・第三指の先端部へ移行した時点が “静的三指握り” です。

 指の役割と移動を観察しましたが、握ったペンの位置と手掌の関係にも注目します。  ***

 上の説明で 「第四指・五指は把握の作業からは離れ」 と書きました。 写真A では第四指・五指は手掌から離して撮影しました。 棒を握った状態で観察するとこの二指は棒を手掌に固定する役割を続けています。 棒を手掌の母指反対側・下部に押さえています。

 五指を使っての “握り” から “三指握り” への移行では、「外側側の指は握りの役割を解かれ、道具を固定する役割に代わる」 との説明が正しいのです。

  “静的三指握り” は三才半頃に獲得出来るとされています。  “動的三指握り” は四才以降です。 書字が始まる時期です。 

補注 “三点握り” ・ “三指握り” ・ “三面握り” は同じ状態を示す用語です。 そして成熟の度合いを含めて、 “静的三点握り” ・ “静的三指握り” ・ “静的三面握り” から始まり、 “動的三点握り” ・ “動的三指握り” ・ “動的三面握り” の用語が使用されます。

 指が道具を握る時、接着部位は点ではなく面です。 正確な説明のためには “三面握り” が適していると考えますが、印象を強くさせるために “三指握り” を主に使用します。

参考事項 4 日本と欧米の食事マナー を説明してあります。 クリックで移動


 道具により、道具の作業ポイントを母指に近い側か、反対側にするかは変わります。

 幼児・子供は作法に気は遣わないとしても、一連の動作には自然と風習が伝わっています。 スプーンは近い側、箸は反対側になります。

  スプーンの目的は凹み部分ですくう、箸は先端で挟む、エンピツは先端で文字を書くことです。 凹み部分等は作業の主目的を果たす場所です。 この後の説明では、この様な箇所を道具の作業ポイントと表現しています。

 握りから三指握りへの移行は長時間を要します。 原始反射による握りが消失して真の “握り” は生後半年頃から観察出来ます。 座位の月齢で両手遊びの時間も多くなり “把握” と “離す” が明確に始まります。 

 “静的三指握り” は三歳頃には可能になるでしょう。 “動的三指握り” は四歳以降です。

 “握り” が始まって三年・五年の長期間を要するのは、難しい運動を意味していると考えます。

 “動的三指握り” が可能になってこそペンで書字を、箸で食事を出来るのです。

 道具の作業ポイントを母指の側に置いて握るか、逆に握るかの違いは理解出来たでしょう。

 箸・スプーンは日常の食事に必ず必要な道具です。 この道具の持ち方は逆になります。

 スプーンが主になる欧米と箸が主となる日本では育児の配慮が異なります。 欧米では幼児期からの持ち方が続けられますが、日本では逆方向の持ち方に換える必要が生じます。

 持ち替えを実行する方法は後に回します。 

 ペン・エンピツはスプーンと同じ方向ではなく、箸と同じ方向になります。

 欧米では、ペン・エンピツの持ち替えを訓練させる必要があります。 本来なら同じ苦労が両方の保護者に課せられているのです。 神様は平等です。

 日本には以前から 「子供には箸を上手に、きれいに持たせる指導が必要」 との意見が強くありました。 強い指導が必要とされ、家庭内では強制に近い指導を受けた経験者が多いはずです。

 一方で、欧米では自由と自主が優先されて、強い指導はされないようです。 テーブル・マナーは守られても、みにくいペンの持ち方で書字をする光景をしばしば眼にします。 テーブル・マナーでのナイフ・フォーク・スプーンの持ち方は “順手握り” で、ペンは “逆手握り” です。 この変換時期での指導がなされていない結果です。 「みにくいペンの持ち方」 は言い過ぎでしょうか。 「多種多様の持ち方」 と言い換えましょう。

 当HP では、『箸・ペン・エンピツはきれいに持って欲しい』 と考えています。 “きれいに持つ” は “器用な子供” と同意義とも考えています。

 「日本人は器用、欧米人は不器用」 とよく云われます。 この伝統を続ける事に少しの努力を重ねても良いと考えます。 強制を感じさせない配慮は保護者に任せます。 

 “静的三指握り” までの説明は終えています。 道具の作業ポイントを母指の反対側に置いて握らせる練習の必要性も説明は終えています。

 持ち替えの指導は “動的三指握り” の獲得後にする事を勧める意見があります。 間違ったアドバイスとは考えません。 しかし、小児に急の変更を指導するのには賛成しません。

 当HP からは 『誕生日を過ぎれは、時々スプーンを逆に持たせる機会を作りましょう』 ・ 『二歳代の時期には、時々砂場でスコップを逆さ握りで遊ぶ機会を作りましょう 』 ・ 『時々 “動的三指握り” が観察出来るようになれば、積極的にスプーンを逆に持つ機会を多くして、このスタイルで食事をする様に仕向けましょう』 を提案します。

  スコップは “順手握り” でも “逆手握り” でも遊べます。 後者は砂場に土を盛った小山を壊すのに適した握りです。 手前に掻き出す動作で使用出来る持ち方です。

 “動的三指握り” を獲得するまでを “逆手握り” の準備期間とし、獲得後は “逆手握り” の確実な習得時期としてください。 この様に準備期間を長期に設定すれば、子供に強制しているとのマイナス・イメージは抱かないでしょう。 工夫なくして、短期間の目的達成を急ぐなら、強制になります。

 “静的三指にぎり” から “動的三指握り” はほぼ日常の遊び行動から自然に習得して進むはずです。 

 五才頃になるとエンピツを持って書くことが可能となります。 橈骨側三指でエンピツを保持し、尺骨側二指は台の上で手の支えを担っています。 橈骨側三指でエンピツの先端を動かして書字や作画が出来ます。 研究者は 『動的三指握り』 と表現しています。 

 具体的に説明するとペン先の運動の大半は橈骨側三指でコントロールされ、関連する中手骨と手根骨の動きと手関節のわずかな動きで十分です。 薬指と小指、この二指に関連する中手骨・手根骨は支持の役割を担っています。

 ここまでで “摘む” に触れませんでしたが、“動的三指握り” の一種と考えて良いでしょう。 

 手指の運動には “握る” と共に “摘む” があります。 “握る” は原始反射にある似たうごきが消失した後に始まりますが、“摘む” も生後五ヶ月頃から始まると考えられます。

 “握る” が五指と手掌を利用して物を移動させる行動ですが、“摘む” は指だけで物を移動させる行動です。

 “摘む” は “握る” の効率をさらに高めた進化形とも考えられます。 物を移動させる事が目的ですから、物の大きさと重さで適した方を採用する判断も必要になります。 乳児にとっては、初期は全ては保護者の介助で始まるので原始反射の結果としての把握で間に合っていましたが、原始反射の消失期になると自意識による把握が会得できはじめて “意志” ・ “欲求・願望” も起こり始めて “摘む” も必要になります。

 初期ではほぼ平行位にある母指と人差し指の側腹面を利用した挟む行動です。 母指が人差し指の側面に向かって動き、母指の先端と人差し指の側面での挟みが見られます。 意志を持っての “掴む” ではありませんが、類似行動は生後半年頃に観察出来ます。

 母指の動きが他の四指と対向する位置での動きとして成熟するのに合わせて、母指は側方からの挟みではなく対向からの挟みに変化します。

 初期の “母指と他の四指で挟む” から、四指が外方から使用されずに “母指と三指” ・ “母指と二指” ・ “母指と人差し指” に変わります。  “母指と中指” による摘みも観察しますが、亜形です。

 途中の過程として 物の大きさと形状によっては “母指と人差し指の両先端を利用しての摘み” ・ “母指と人差し指・中指の三指先端を利用しての摘み” を使い分ける知能の関与を受けての機能に成熟します。

 意志を持っての二指保持は “静的三指握り” の後に表現されると考えられます。 活発な動きを伴う “二指摘み” も “動的三指握り” の延長線と考えられます。

  “母指と人差し指の両先端を利用しての摘み” はピンチ pinch です。 ピンチは職業訓練の場で器用さを習熟させる・器用さを計測する手段として利用されています。 

 粗大運動はモチベーションと云われる意識が作用していると説明しましたが、微細運動(指の運動)はより強い・より具体的な意識を満たす運動と考えられます。

 粗大運動は微細運動と比較して動物の進化の結果として、当然の行程を当然のスケジュールで進むと考えられ、 微細運動は環境・意識・努力が強く働くと考えられます。 習熟も機能の発展に不可欠となります。


 発達の過程・成熟の過程で説明した手の動き・形は経験として消失することはありません。 後に現れる機能に便利さはありますが、途中に経験した動き・方法も日常生活では必要な時もあります。 “回内握り” から “三点握り” ・ “動的三点握り” へと進んだコースはエンピツ・箸を持つに進みました。 “回外握り” は体操に利用されます。 “猿手にぎり” はボルダリング(壁に突起を埋め込み、この突起を握って壁を登るスポーツ)に使用されます。 一方で悪い形も残ります。 

 説明の中で書きましたマイナーな方法も無視は出来ませんが、メインな方法(握力把握 (power grip)) と精密把握を習熟することなく年を重ねて不器用・変な箸の持ち方は困ります。 変なエンピツの持ち方・変な箸の持ち方を評して、「原始的な猿手の握りが残存している」 との酷評を受け止めてください。

まとめ 

 乳児は初期 (原始反射の存在した月齢) では手掌と五指で包み込んでいます。  写真-1

 原始的把握では五指が同じ運動をしています。  

 この段階でスプーンを持たせました。 保護者が乳児の手にスプーンを持たせる (押し込む) ことになりますから、大半が “回内握り” となります。 新生児期には腕の回旋運動 (回内と回外を交互に回す) は不充分です。 

 次には母指(第一指)と他の四指が違う動きが可能になります。 

 回旋運動での回転量が増すと “順手握り” でスプーンを握らせても使える機会は増してきます。 誕生日以降でしょう。 離乳食も進み、イスに一人で座らせても安定する時期と重なり、わずかな量の食物はスプーンを使って一人で口に運びます。 実用ではなく、マネ事ですが。

 “順手握り” の方が本人には楽に作業を行えますが、“逆手握り” の時間も多くしてください。  “三指握り” へは “逆手握り” から進行するように仕向けます。

 写真 2 → 写真 3 → 写真 4 へ変化します。 Fig-11 の続きは Fig-15 です。 

 写真を観察する時、指の役割変更とスプーンの手掌に接する部位が中節骨と基節骨の関節側面から基節骨母指と人差し指の分かれ目 (最も深い場所) に移動していることも見逃さないでください。

 

意 見  “回内握り” でスプーンを使って自力で食事が出来るのは二才以降でしょう。 箸の持ち方を解説される意見では、“回内握り” から “回外握り” に持ち替えさせる時期はスプーンの使用が完成した後と説明される意見があります。 主旨には大きな異論を出しません。 このコーナーからは、完成する時期以前にも “回外握り” を予備練習として採り入れておくのが最善との提案です。 固まった手技の完全転換より、以前から素地を用意して緩やかに変換を促す方が容易との意見です。

 その次には橈骨側三指(親指、人差し指、中指)と尺骨側二指の機能が分離します。 橈骨側三指が “摘む” と “握る” の主動作を行い、他の二指は補助動作を行います。(→精密把握)

 研究者は 『静的三指握り』 と表現しています。 形としてはエンピツの持ち方と同じです。

 

 箸の文化を持つ日本人には、ふさわしい箸の持ち方があります。

 箸を美しく持てる人はエンピツ・ペンも巧く持てます。

 箸・ペン・エンピツを美しく持てることは、器用に箸を動かして箸さばきを上手に、きれいな文字を描くことに繋がります。

 このコーナーで指摘したいのが、次に書く結論です。

 1 乳児期・新生児期から粗大発達コースを順当に順序よく進む育児に努めてください。

 2 発達に沿って上肢の機能を最大限に引き出す配慮もしてください。

 3 月齢に合わせた握り物を用意してください。  堅さ・大きさに注意

 4 月齢に合わせて、オモチャに換えてください。

 5 離乳食の後期からはスプーンを持たしてください。 握らすだけで十分です。

 6 誕生日を過ぎれば、スプーンを握る時には、“回内握り” と “回外握り” の機会も多くしてください。 使用が目的でなく、遊びとして。

 7 “三点握り” → “静的三点握り” → “動的三点握り” の進行を見守ってください。

 このコーナーの記述・作成には、霊長類の研究成果として発表されている事実を参考資料として活用しています。

 このコーナーで取り上げています “乳児・幼児・小児の手の機能発達” ・ “握りの分析” 等の分析研究・調査報告は、作業療法士・養護教育の関係者等から業績報告として多くが出されています。 参考として読ませていただきました。

このコーナーで取り上げた [手の機能発達] が養護教育の関係者が深く研究されている事実を知ってください。 その意味は、発達障害児の教育と指導に必要とされている事です。

 保護者の皆さんは、“手の機能発達” を理解し、何らかの不安を感じたら早く専門機関に相談される必要があります。

手指の機能発達の説明 目次

 ① “握り” の発達と成熟    ② 手の機能開発 1 腕の屈 伸と手の開閉    ③ 手の機能開発 2 ‘摘む’ 機能   

 ④ 自然な ‘摘み運動’    ⑤ ‘ねじる’運動も重要    ⑥ 手・手指の機能を成熟させる努力

   上の解説を実践する方法は [ 育児で活用できるアイデア ] で説明しています。

 

参考事項 1 握りの分類

 ここで “握る” ・ “握り” の研究の一端を紹介しておきます。 後の説明の予備知識です。

 “握り” には “回内握り” と “回外握り” の二群で説明されています。 腕は内側にねじる、外側にねじる運動として回旋運動があります。 横棒を握る時、腕を内側に回内させての握りを “回内握り” 外側に回外運動して握ると “回外握り” となります。  顔の前にある横棒を顔の前の部分で握る(A) 時に腕は内側にねじれています。 側方で握る(B) 時には外側にねじれています。 主に医療関係者が使用する用語です。

 これに該当する用語として、  “回内握り” には “上握り” ・ “順手握り” と “回外握り” には “下握り” ・ “逆手握り” と呼ばれることもあります。

 日常の場合、道具として道具・棒が置かれている時には大半で “回内握り” が使用されます。 道具の使用目的で握り方は選ばれます。 長い棒が固定されている時、握ることが必要になった場合は両者は目的で使い分けされます。 例えば、体操選手が懸垂運動をするときには両方が使い分けられます。

 画像の左が “回内握り” 、右が “回外握り” と呼ばれます。 水平に固定された棒を握っています。

 “回内握り” は乳児期に、“回外握り” は誕生日以降に可能とされます。 後で説明する “三点握り” は二才以降とされます。

 下図の説明をしておきます。 下中央の画像(Aa) は左画像の裏返しです。 右画像は “回外握り” を撮影してあります。 短い道具を握る時には “回内握り” も “回外握り” も形 (指の配置場所) の違いはありません。  握った後で、腕の回旋運動で変換が可能です。 しかし、長い棒 (回旋運動が困難)・固定されている棒では、最初の握り形で作業を続けるだけです。

 微妙な問題ですが、発達を考える時には重要な問題になります。

 回旋運動には、骨・筋肉・靱帯等が関連して、内側回内・外側回外で異なる状況を伴いますが、ここでは簡略のために細部の違いは無視して話を進めます。

 

 

 

 

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参考事項 2 握りの分類-2

 研究者は “握り” の主要な手段として握力把握(power grip) と精密把握(precision grip) を取り上げています。 補助的な手段としてと引っかけ把握 (hook grip) とはさみつけつまみと取り上げています。

 日常生活では握力把握と精密把握が多用されます。 道具をしっかりと固定できる握力把握は、家事で鍋を持つ・大工仕事でカナヅチを持つ場合です。 

 持った道具を自由自在に動かす時には,精密把握が利用されます。 エンピツや箸を使う時です。

 握力把握では主要な役割を五指と手掌が担い、精密把握では母指・人差し指・中指の三指が関与します。 後で説明する “三指握り” です。

 引っかけ把握では母指は使わずに四指を鈎状にして文字通り引っかけている状態です。 

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 日常の動作では “回内握り” ・ “回外握り” の用語は無視してください。 

 道具には使用目的のポイントが片方にある事です。 例えばスプーン・ベンを見れば判るでしょう。

  スプーンの目的は凹み部分ですくう、箸は先端で挟む、エンピツは先端で文字を書くことです。 凹み部分等は作業の主目的を果たす場所です。 この後の説明では、この様な箇所を道具の作業ポイントと表現します。

 道具を握った時に作業ポイントを母指側にして握るか、母指の反対側にするかの違いです。 成人なら道具を見て、どちらの握り方が適しているかを即座に判断出来ますが、幼児には判断出来ません。 保護者が適した握り方で持たせる事になります。      

参考事項   サル手 クマ手
  霊長類の最も重要な特殊化として,視覚認知の発達と拇指対向性があります。 ヒトを初めとして,真の拇指対向性を獲得した霊長類では,拇指の中手骨と手根骨との間の関節が可動性に富み,拇指を長軸周りに回転させることが可能です。 それに対して,新世界ザルや原猿類では拇指を掌に平行に動かせるだけで,長軸周りの回転はなく,これは偽の対向性と呼ばれています。 偽の対向性しかない新世界ザルや原猿類では,拇指と他の指の指先の膨らみ同士をうまく接触させることができません。

 ヒトの進化の内で象徴となるのは手の機能です。 ヒトの母指の可動性が特徴です。 母指は他の四指と異なり単独で多方向に動かすことが可能です。 多方向に動かせた結果として、母指と他の四指との対向が可能となりました。 この対向が不可能なのでサルの握り形を “サル手” と評されます。 枝にぶら下がる時には母指を除いた四指を引っかけるようにして握ります。 小さな物を持つ光景が見られますが,母指は手掌の側方に近づけての “挟み” が主となります。

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参考事項 4 日本と欧米の食事マナー

   

 箸を持つ、ペンを持つ、スプーンを持つ、三種の道具で握る・持つを説明します。

 幼児に食事の正式マナーを教える・強制する意向はありませんが、幼児期でも日常の食生活の中には欧米との差は現れています。

 欧米ではスプーンを皿の右側に置ます。 和食なら鉢の手前に箸を置きます。

 欧米なら、スプーンは直接に右手で取り上げて握ります。 この時、スプーンの凹み部分は母指の先方にあります。

 日常生活で和食が多い日本人の食事では、何気なく箸は手前に置くでしょう。 この配置で幼児が握ると箸は逆方向 (箸の作業ポイントが母指の側) になります。 日本人の感覚でスプーンを鉢の手前に置くと作業ポイントは左側になります。 スプーンならその握りで食事は進みます。 

 箸を使うときには両手を使って箸を取り上げ、右手に使い勝手の良いように持ち替えます。 この時、箸の先端は母指の逆方にあります。

 最初に説明した “順手握り” と “逆手握り” です。 “逆手握り” は作業ポイントを母指の反対側にする握り方です。

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