ニュース解説  抗インフルエンザ剤の現状について    2017/12/01

厚労省は 2017/11/27 に抗インフル剤服用時の “異常行動” めぐり、防止策を啓発する文書を公表しました。 同夜には主要 TV が報道、翌日には全国紙で報道されました。

要約すれば 『小児にタミフルやリレンザなどを服用させた場合には充分な監視をおこない、監視が出来ない時には部屋には施錠をするように』 との告知です。 

 厚生労働省によると、タミフルやリレンザなどのインフルエンザ治療薬を飲んだあと、急に走り出した、部屋から飛び出そうとしたといった異常行動の報告は、最近の五シーズン( 2009冬 ~ 2017 春)で患者数は 404 例、この内で死亡例は 8 例が報告されていました。 昨シーズンには 54 例ありました。 未成年者では、患者数は 317 例、死亡例は 5 例でした。  一シーズンでの抗インフル剤の服用者数は明確ではありませんが、昨シーズンでは約 1012 万人と推計されています(製薬会社からの出荷数 廃棄等の未使用分も含まれます)。 厚労省は、異常行動と薬との因果関係は不明との説明を加えています(注-1参照)。 

抗インフル剤と異常行動の因果関係がなければ、この様な警告は必要ありません。 因果関係が疑われるから警告を出す方針が決められたのです。

医療・公害で人体に悪影響を及ぼす事象が起こった時、医師・研究者から原因物質の可能性が指摘された場合に、行政は常に 『因果関係は確実に証明されていない』 や 『因果関係は不明』 との逃げ口上で企業を養護する側に沿った説明を行います。 ここまで “行政” と書きましたが、関連する学会からも同様の見解が公表されます。

一例を書きます。 小児に処方される解熱剤と感染症罹患児の発熱時に発症するライ症候群と言われる状況との関連です。 (注-2参照

1970年代後半に小児用解熱剤としてよく投薬されていた薬剤の中にライ症候群発症との因果関係が疑われるとアメリカの小児科学会で指摘が出されました。 “疑い” の報告ですから、当初は 「因果関係は証明されていない」 との意見もありました。 それでもアメリカでは多くの医師が処方を止めました。 投与が止められて、1980年代に入り、ライ症候群の発症が激減したことも証明されました。 この動きを知った日本の小児科医 (一部の) は投薬を止め、日本小児科学会・厚労省にも同様の処置を提言しました。 紆余曲折があり、日本で投薬を止める勧告が出されたのは2000年代に入ってからでした。 約20年を越える遅れでした。 学会・厚労省の説明は 『因果関係は確実に証明されていない』 や 『因果関係は不明』 の連続でした。

ライ症候群の発症では死亡に至ることも多く、多くの患児を亡くしました。 20年以上の遅れが無ければ、救命できた小さな命は多かったはずです。

“疑い” の段階で処方が敬遠され、後に発症の激減が結果となったアメリカと、長く 『因果関係は確実に証明されていない』 で対策が遅れた日本の違いを知ってください。 

抗インフル剤と関連した小児科学会・厚労省の態度と解熱剤の説明に類似・一致を疑いませんか。

もう一例の追加です。 副作用患者を多く出している子宮頸ガンワクチンについても同様の対応が見られます。 こちらは “ワクチン接種の勧奨中止” が実行されているので、副作用患者の増加が阻止されているのが不幸中の幸いです。

ここで類似していると指摘しているのは、薬剤の効果・副作用に新たな見解・反対意見が出されても、容易に受け入れない事態です。 新たな見解・反対意見が正しいと受け入れるのに、長期間を要した事実です。

抗インフル剤と異常行動の発症には因果関係が疑われると理解しても間違いは無いでしょう。 “確実に証明されていない” を “因果関係が疑われる” と読み替えても、学術的にも・一般常識としても通用します。

この場で、抗インフル剤の効果を討論する場での意見も紹介しておきます。
一般の人には 「抗インフル剤はインフル治療に有効な薬剤である」 と説明されています。 「重症化を防止できる唯一の薬剤」 とも説明されています。
反対意見も多く出されています。 「抗インフル剤は単に解熱効果がある薬剤にすぎない」 との意見があります。

抗インフル剤の治療効果が低いと指摘する小児科学会々員からの、外国の研究文献を添えた質問状に、日本小児科学会からは下記の様な見解が公表されています。

抗インフルエンザ薬の「効果は有熱期間の短縮のみであり、肺炎などの合併症予防効果や入院予防効果は明らかにされませんでした。逆に嘔吐などの副作用が増加することも示されています。 すなわち季節性インフルエンザ患者、軽症患者全例を対象とした、抗インフルエンザ薬の積極的推奨は当学会としても支持されないと考えます。」と明言しています。

この意見と共に 「一部の患者では重症化を防いでいるとの報告もあるので、重症患者には投与を推奨します。」 ・ 「基礎疾患を有さない患者であっても、症状出現から48時間以内にインフルエンザと診断された場合は各医師の判断で投与を考慮する」 と 「一方で多くは自然軽快する疾患でもあり、抗インフル剤の投与は必須でない」 も併記してあります。

小児科学会は抗インフル剤について、

  ① 有熱期間の短縮(解熱効果)のみで、合併症の予防効果・重症化の予防効果は認められない。 

  ② 多くのインフルエンザは自然軽快する疾患で抗インフル剤の投与の必要はない。全感染児に投与するようには推奨しない。

  ③ 入院治療した患者では、重症化を防止する効果があったとの報告があった。

  ④ 重症患者への投与と、発症から48時間内であれば投与は医師の判断に任せる。

との見解を併記しています。

四項目として説明されていますが、薬剤としての医学的評価は ① ② ③ だけです。
この ① ② 二つの見解を読み比べて抗インフル剤の有効性が高く評価できていると読み取れますか。 ③ 入院治療が必要と判断された患者での効果に限っての評価です。   積極的に高評価は出来ないとの見解と読み取れませんか。 学会として明確な評価を避けて、投与を診察医に委ねるとして消極性を ④ に追加しているのです。

現在、大多数(全員と書き換えられるほどに)の小児科医は抗インフル剤を投与しています。 患者・保護者へ ① ② を説明することなく、積極的に投与しています。

当 HP は ① ② の説明を強く支持します。 ① ② を厳守すれば、“ほぼ全員への投与” は無いはずです。

 

投与した小児科医、クスリを手渡した薬剤師から、この四つの説明を聞いた保護者はおられますか。 皆無と考えます。 必要事項の説明を欠いて手渡しているのが現状です。

万一、異常行動の発症から重大な事故に至った場合でも、刑事事件としての究明はなされません。 民事訴訟でも、上記の見解-④ が投与医師を強く守るはずです。 公的な救済も不可能に近いと予想できます。

患者・保護者には投与薬剤を変更してもらう様に訴える権利は残されています。 



補注-1 多くの薬剤では副反応・副作用の起こる事が警告され、起こる症状・病名は自然発症 (薬剤服用と関連無く発症するとの意) する症状名・病名が説明書に記載されています。 医師は薬剤服用と関連無く発症する病気と副作用として起こる病気を同じ意識で受け取り、同じ方策で治療します。 言い換えれば同じ状況が自然にも、薬剤との関連でも起こります。

厚労省・医療関係者は、副作用を 「同様の症状・病気は該当する薬剤を服用しなくても起こる」 として小さく見せる画策をします。  下欄から、添付書を閲覧出来ます。

異常の状況が発症していることを重く受け入れることが肝要です。 今回の厚労省説明でも「抗インフル剤の服用が無い時にも同様の状況が発症しているので、全てに因果関係があるとは考えない」 と補足されています。 概観として正しい記述にも相当しますが、副作用として率直に認める姿勢も必要です。

朝日新聞の記事には 「発症のうち、10 ~ 数十% は抗インフル剤は未使用」 と解説されていました。 厚労省ではもう少し正確な数値での集計がされているはずです。 “10 ~ 数十%” の表現はあまりにも雑です。 因果関係を少なく見せるための詭弁と評しておきます。 発症数・死亡数を正確な数値で集計していますから、正確な数値が記録されているはずです。 製剤メーカーへのソンタクでしょうか。   元に戻る

補注-2 “ライ症候群” ・ “急性脳症” 等々、近似の状況が存在します。 専門科間ではこれらの概念を明確に分類して討論されますが、1970・1980・1990年代当時は “ライ症候群” の用語で解説される場合が多くありました。 今回は皆さんに理解を容易にして欲しいとして “ライ症候群” の用語を使用しています。   元に戻る

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  厚労省発表資料  http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000185998.html 

  タミフル添付書  

  小児科学会・抗インフル剤の治療効果に関する見解 

        上記から見解を閲覧出来ます。 当 HP に戻る為には、プラウザの戻るボタンを利用して下さい。 赤の下線は当 HP で書き込みました。

 

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