人工内耳友の会−東海−
各種情報


先天聾および高度難聴児のための 国際聴覚口話フォーラム
「未来に向けて聞く」

1999年10月8日〜9日 アメリカ・ジョージア州アトランタ市


国際聴覚口話会議レポート
報告者 大根田 芳浩

[はじめに]

アメリカ南東部5州を中心とした、先天聾および高度難聴児のための国際聴覚口話フォーラムが「未来に向けて聞く」と題してアトランタで開かれました。

30組のパネラーには、聴覚士(Audiologist)、ST(Speech Therapist)装用児のご両親、お医者様たちがいらっしゃり、USコクレア社、クラリオンのAdvanced Technology社、Med-EL社も参加するようで、2年に一度、アメリカ南東部のどこかで開かれているようです。

[序章]

行って参りました。国際聴覚口話会議。
2年に一度の国際会議で、金曜08:00から土曜の17:30まで、みっちりと2日間の会議(シンポジウムともフォーラムともいえる会議)で、10数年ぶりに大学の講義に出たような感じでした。
ホテルの宴会場を丸ごと借りきって行われまして、初日だけで1,000人を超える参加者があったそうです。セッションの行われる部屋のほかに、各人工内耳器機メーカーやFMシステムメーカーの展示ブース、子供の聞こえのトレーニングに使って効果のある玩具の展示ブースなどがありました。

今回の会議の目的は「未来に向けて聞く」と題してある通り、高度難聴及び先天聾の子供達に、どのように聞こえを与え、かつどのように効果的なハビリテーションを行って、聴覚口話を憶えさせるかということを、過去2年の実績や研究データなどを通して発表するものでした。
(ハビリテーション=もともと無い、または少ない機能を新たに開発し、延ばしていくことで、「リハビリテーション」の失われた機能を取り戻していくという意味と少し違います。私も最初はミスタイプかな、と思いましたが、会議中に良く使われる単語で、なるほどと思いました。)

特に焦点となっているのは、このハビリテーションでして、会議の対象となっているのがSTと聴覚士(Audiologist)が中心です。手術をされる医師の方々の新技術などについては、彼らの学会で研究発表された内容を、別のブースで掲示板形式(ポスター)で発表されていました。

難聴児のご両親として参加している方々もたくさんいまして、その方々の質問は「現場の声」として共感を得るものばかりです。

ただひとつ残念だったのは、30あるセッションが5つづつ同時に6時間帯に分けて行われたために、同じ時間帯に興味のあるセッションが2つ以上あった場合に、1つしか参加できないために6/30しかフルに参加できませんでした。

全体的な印象としては、アメリカには子供向けのSTの人達がこれだけ多数いると驚かされたこと、そのSTの方々の熱意がすごいこと、主催である聴覚口話団体が、きちっとターゲットを決めて積極的にFDA(アメリカの厚生省)や医師団体とスクラムを組んで、より早い発見、より早いハビリテーションのスタートができる環境作りへの取り組み姿勢に驚嘆したことなど、新米の私にとって驚かされることばかりでした。

次回開催時にも是非とも参加したいと思うと共に、せっかくの国際会議ですので、日本のSTや聴覚士の方々の参加があっても 良いように思いました。

この会議のレポートを作成していくにあたって、どのように簡潔要領よくまとめるか思案しましたが、とりあえず下記の様にしたいと思います。

1.序章 : 会議の意義とイメージの説明
2.第1章 : 参加者が前提として理解していること
3.第2章 : 補聴器 or人工内耳装用後の重要な1年間
4.第3章 : 聞こえと聞き分け(聞かせる姿勢)
5.第4章 : 補聴器と人工内耳器機の技術革新
6.最終章: その他と総評

なお、掲載にあたっては問題がないことを主催者に確認してあります。(問題無いどころか、日本の関係者の方々の参加を強く推奨して いました)

[第1章] 「参加者が前提として理解していること」

最初にこのことを書こうと思ったのは、日本とアメリカでは難聴児に対するインフラ(環境)において違う部分がありますので、会議の参加者が既得している知識や、その環境について知っていただくことで、より「ああそうなのか」と思って頂けると考えたためです。

1.聴覚口話法は高度難聴、全聾の子供にとってのひとつのコミュニケーションの手段であって、読話、手話、キューなどの手段、またはその組み合わせによるコミュニケーションの改善を否定するものではない。

これは、最初の会議に先立って行われた開催の辞の中で、主催者代表が話されたことです。ただ、この会議の参加者は、「聴覚口話のみでハビリテーションしていくことが一番良い」と信じている人達がほとんどです。

2.高度難聴の早期発見、ハビリテーションの早期開始が現時点では重要な課題である。

ターゲットは2010年までに、すべての新生児に機械的な聴力検査を行い、難聴児には2〜3ヶ月で補聴器をつけ、効果を見た上で6ヶ月目には人工内耳手術を行い、ハビリテーションを始めるという、具体的な数字が出来ています。このために必要な各器機も新生児用に改善されるべきとあります。このうち、新生児への聴力検査については、試験的にでも来年にはどこかで実施してその成果を見れないか、具体案について話し合われています。保険が民営化の米国では保険対象にどうしていくかも、関連した 課題です。現段階では難聴児の1/3が小学校に上がる際に、最低1学年の遅れを伴ってしまっているという統計もありますし、何より言葉を覚えるための「芽生え」が3歳までに始まってしまうからです。

3.現時点では、聞こえのレベルを数値で判断することは出来ても、聞き取り(聞き分け)の能力を数値化することはできない。

これがある程度のレベルで出来るならば、補聴器の調整や最初のマッピングなどで適切な環境を与えられるために、早期の聴覚口話法取得が容易なものとなりますが、数々のデータを見てみても、参考にはなりますが決定には至っておらず、この分野の研究はまだまだ必要であるという認識です。「聞こえ=Hear」は技術的なこと。「聞き取り=Listen」は態度(姿勢、しつけ)など知識的なことと 明確に定義分けされています。

4.聞き分け能力の向上には、その子の性格、家庭環境、器機の調整などの要素を見た上での総合的な判断が不可欠であり、STはそこまで突っ込んだ関わり方をする必要があり、特に親への指導教育は成功の可否を握るといっても過言ではないので、それなりの強い意思を持って望まなくてはならない。

「それは親の仕事」と片付けないこと。「親にその仕事をさせるのがあなたたちの仕事」と説いていました。分業化の米国ならではの問題として、人工内耳をして週1回、STに通っていれば、普通に会話が出来ると思っている人が多いそうです。

5.聴覚士とSTのコミュニケーションの改善が必要であり、先述のようにこれはSTがイニシアティブを取っていくべきではないか。

米国でこの2つの仕事を同時にこなす人は稀有な存在です。病院とハビリテーションが完全に別のものとなっているからでしょうか。STも、セラピストの専門学校を卒業しているだけの人と、大学の研究機関を経ている人、政府公認(だとおもうのですが)のST資格を 有する人とさまざまで、全国レベルで見たときにその絶対数がまだ不足しているので(日本もでしょうか?)両方の勉強をしていく時間が取れずに、「現場」にまわっているようです。この両方の資格を持っている人は、どちらかの仕事をしていて数年経ってから独立する際に、もう片方の資格を取るというケースが多く、まわりの方々からも高く評価されています。ちなみに、その方々のセッションは「立ち見」状態でした。

6.補聴器と人工内耳の「聞こえ」の比較において、現段階では人工内耳の方が総合的に「良い」と判断できるに十分な資料が そろってきている。

ご存知のように、同じ子供での比較が出来ませんので、多様な要素を総合的に判断するしかありませんが、こと米国に関しては補聴器での聞こえのレベルが一定以上(正確な数値はまだ調べてませんm(__)m) ある場合には、人工内耳を装用することができませんので、こういう結果になっていると思います。しかしこのことが医学的見地からも証明されると、聞こえのレベルにかかわらず、人工内耳の装用を選択できるようになる可能性はあります。参加者たちにとっては、どちらも聴覚口話法を身につけるための、単なる1プロセスであるという見方がされています。ちなみに、一卵性双生児の難聴児の1人に補聴器、もう1人に人工内耳を装用したようなケースの、その後の聞き取りの比較データはないものかと尋ねてみたところ、尋ねた方はその症例は聞いたことがないと言われてました。どこかでありそうな話だと思ったのですが...。

[第2章] 「補聴器、人工内耳装用後の重要な一年」

このセッションは Ms.Karen Rothwell-Vivianという方の発表で、彼女は聴覚士とSTの両方の資格を持つ数少ない方達の1人で、この組織の役員でもあります。現在はカリフォルニアで個人でハビリテーションの会社を設立し、「現場」と経営を両立されています。

最初の1年間を4半期毎に分けて、難聴児に身に付けさせたい技能を説明し、そのために効果的とされるハビリテーションをビデオを見ながら解説するというものでした。

ビデオに出てきた男の子は、二歳での人工内耳装用で、装用前の聞こえは両耳とも95db以上で、簡単なサイン(手話)を用いて両親とのコミュニケーションを取っていました。

この1年というのはHearing Age−聞くようになってからの1年を指していまして、生後1年とは区別します。話しの前提として、3歳までの間に補聴器なり人工内耳によって聴覚口話が可能な聞こえを取得した場合を想定しています。

また、このセッションは両親に特におすすめとあり、専門用語も少なく、わかりやすかったセッションです。

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1.なぜ最初の1年が大切なのか?

* 3歳までの間に言葉を覚える能力の「芽生え」が始まってしまうこと。
* 最初の1年間が今後の「聞く」経験への道しるべとなるから。
* 聴覚学的にも、この1年が会話を身に付けるための「聞くこと」の能力の開発期間であることが証明されている。

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2.最初の3ヶ月までに身に付けさせたい技能

* 音の存在を知り、知覚すること。
* 音を意識すること。
* 距離を変えて聞くこと。

効果的なトレーニング方法 として
・多くの語りかけ
・子供との行動を実況中継するように 話しかける。
・お母さんだけでなく、お父さんも、もしいれば兄弟も話しかける。

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3. 4〜6ヶ月までに身に付けさせたい技能

* この時期は「聞き分け」「聞き取り」に専念。

効果的なトレーニング方法として
・ いないいないばぁ(交替しながら)
・ おもちゃで一緒に遊ぶ際に、自分でやってやらせてみる(交替々々)
・ 子供が何かしようとしている時に、じっくり待ってやらせてあげる。
そしてできたときに多いに誉めてあげる -できるまで待つ事が大事。
(上記2点は単なる聞こえのトレーニングだけでなく、聞くための心構えを育てる意味や脳を活性化する意味でも大切である)

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4. 7〜9ヶ月までに身に付けさせたい技能

* どこから聞こえてくるのかを見つける。
* 喃語を話し始める。
* リピートをしようとする。
* 音と物を一致できるようになりはじめる。

効果的なトレーニング方法として
・ 犬と猫のおもちゃを置いて、「ワンワン」なら犬を、「ニャーニャー」なら猫を取るように指導する。
・ 電話が鳴ったときに、「あ、なんか聞こえるね」と耳を指差し、どこでなにが鳴っているのか探させる。
・ 何かを発声した時に、熱心に聞いて耳に手を当て「聞こえたよ」と誉めてあげる。

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5.10〜12ヶ月

* 聞いた事を憶えるようになる。
* 簡単な行動を聞いただけでできるようになる。
* 誰が話しているのかわかるようになる。
* リピートができるようになる。

効果的なトレーニングとして
・ 一日の中でいっしょにする簡単な決め事を、子供だけでするように言葉で伝え始める。
(例)ピアノを弾く→「ピアノを弾こうよ」と言葉で伝えて、 ピアノのところに行くように指導する。
(「ごちそうさま」でも「バイバイ」でも良いと思います)
・ 保育園や公園での遊びなどで、いろんなお友達の声を聞く

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どのトレーニング方法も、いわば「当たり前」のトレーニングですが、どの時期にどういうトレーニングをするかという観点で、これは両親達にとって良いガイドラインになると思われます。

パネラーの言わんとするところに、子供達の性格や環境によって聞き分けや聞き取りに差があるのは事実だが、それでもなおかつ一般的な時間と取得する技能の目標を決めて、家族や子供と関わっていかないと努力を怠ってしまう恐れがある、という懸念があります。(もっとも、順調に進んでいるがゆえに努力を怠る事もありますが..)

このセッションは大変な盛況で、いままでは各STの経験に全てが委ねられていて、こういった数値でない「聞こえ」のガイドライン作り の動きは今後、もっと本格化されそうです。

[第3章]「聞こえと聞き分け−聞かせる態度の確立」

このセッションの講師は、Ms. Judith(Judy) Simser という世界的に有名なSTの権威の方で、カナダのオンタリオで勉強と研究をされた後、現在は台湾の政府からの要請によって、台湾でSTを育てる仕事のかたわら、ご自身もSTとして10名の難聴児のハビリテーションに関わっておられます。
余談ですが、先回日本へ行って舩坂先生にお会いした際に、台湾に最新の人工内耳器機を良く理解された、カナダ出身の女性のSTがいる、という話しを聞いたことがありまして、セッションの後に個人的に話を聞いてみましたところ、舩坂先生とは一緒に人工内耳とハビリテーションについて勉強した仲で、良く憶えていますと言われまして嬉しかったです。気さくに話して下さって、名刺まで頂く事が出来ました。また、今回の台湾の大地震でハビリテーションに通えなくなった子供達のことをたいへん気遣っておられたことも印象的でした。

このセッションは補聴器、人工内耳などによって「聞こえ」を取り戻し、「聞き取り」「聞き分け」によって、聴覚口話法を身に付けていく、長いハビリテーションの道のりを歩み始める子供と「両親」達に、どのように指導、しつけをして「聞かせる態度,姿勢」を身に付けさせるか?という大きな課題に対して、彼女の経験を元に発表されたものです。ビデオが多いので情景描写を入れてみます。

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1.子供の前に両親と

「聞こえ」は取り戻せているが、子供がなかなか「聞くモード」に入ってくれず、「聞き取り」が思うように進まないために、親,ST共々イライラすることがよくあります。(例として、椅子に座ってトレーニングしているのに、おもちゃを投げてしまったり、自分の順番が待てなかったりしてテーブルを叩くビデオを上映。 参加者たちがうなづく。)

なぜなんでしょう?
(参加者から)
結果が出ない事にいらだつ。/ 時間が取られる。 /つまらない。/早く話せるようになって欲しいという焦りの裏返し/この方法で良いんだろうかという不安...。

その通りで、特に両親でハビリテーションのプロになろうと思っていた人はいないでしょうから、子供が高度難聴とわかった段階で大きな失望と、将来への不安でOh My God!どうすればいいんだろうとなってしまいますし、これは長い事引きずってしまうものです。STの中で自分の子供が高度難聴である人はほとんどいませんから、まずはSTが両親の精神状態、家族の環境などをできる限り把握し、両親の良い相談相手になれるように努力しなくてはなりません。

このSTと両親の信頼関係が築かれてこそ、子供に聴覚口話法をあきらめずに教えていく土台ができあがるので、まずはここです。

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2.前向きな姿勢☆ ☆ どんな子供も、特に小さい間はいろいろな態度の問題を持っています。我慢が出来ない、物事をすぐ忘れる、自分のしたいことを言わない、飽きっぽい、のんびりしすぎ、など子供によってさまざまです。

難聴児の場合はこれに耳が不自由というハンディを持っていますので2つのハンディを持っている事になります。しかし、これらはどちらも努力次第で解決できるハンディであって、その努力は、目が見えない子供や、重度の精神障害を持っている子供と比較して、はるかにやさしいものであると言えます。

これらを克服して行くに際してキーワードとしたいのが「前向きな姿勢」です。特に対象となる子供が小さく、自我の抑制ができない年齢の場合はこの前向きな姿勢で子供と接する事の効果が大きい事が経験から言えます。

(台湾での実例ビデオ: 対象児2歳10ヶ月、人工内耳装用後8ヶ月。性格的に甘えん坊で、飽きっぽいところがある女の子。中国語で言ってることはわからないが、やろうとしてる事はわかる)

子供が犬のおもちゃで遊んで「ワンワン」の勉強中。 机の上にはバケツが入っていてアヒルや猫などの動物がたくさん入っている。
 犬が終わったのでアヒルに移るが、この子はアヒルが嫌いで犬を持ったまま離さない。
 両親が手を掴んで厳しい口調で犬を戻すように命令している。でも言うことを聞かないので、とうとう手をピシャリと叩く。子供、泣く泣く元に戻すが、バケツをひっくり返す。
 両親怒る。泣きじゃくってトレーニングにならない。

(3週間後のビデオ)
例の動物バケツを出してくる→子供、犬だけを掴んで抱きしめて泣き出す。

この実例は、台湾というアジアの社会では、子供のしつけは厳しくするのがならわしで、親が子供をぶつ事は社会的に悪いことではなくむしろ厳しくて良い事だと捉えられることもある、という環境の中でのもので、アメリカの教育社会とは比較にならないが、ここに「前向きな姿勢」の要素を取り入れてみると、どうなったか...。

環境として変えてみた点は、
*バケツをやめて、知らないうちに好きな犬の犬小屋を作る。
*その中にお友達の猫や馬など、アヒル以外を入れておく。
*かわいいアヒルの本を別に読んで「クワックワッ」を別に指導。
*両親に何があっても怒らず我慢してもらい、時間が掛かってもできたら誉めてあげるように指導。

(ビデオ上演)
子供が座っているところにその犬小屋を持ってきて机に置く。まずは両親がドアを手前に向け、子供に見えないようにして「ワンワン」「ニャーニャー」といいながら、ドアを開けて中を覗く。
 子供、なんだろうとワクワクして椅子の上で座ったまま跳ねる。
 自分の番になった時に両親が「ワンワン」と繰り返す。当然子供は自分の好きな犬を掴む。その瞬間両親が誉める。
 子供、良くわからないが両親の笑顔を見てなんとなく楽しそう。

(3ヶ月後のビデオ)
両親が「バケツを持ってらっしゃい」というと、例の動物バケツを自分から持ってきて、まずは全部並べる。両親誉める。
 両親が口元を手で隠していろいろな鳴き声を出すと、その動物をバケツに戻す。アヒルも戻す。
 正解するたびに両親誉める。回答に時間が掛かっても両親は怒らず我慢している。子供は終始笑顔。

(1年後のビデオ)
母親がキッチンにいて料理を手伝っている。テーブルセットをしている様子で、親が4枚の皿を持たせて何か言っている。
 その皿をテーブルに並べるが、皿を置く場所を間違えたようで母親に大きな声で叱られる。 シュンとする。
 母親が一枚ずつ、置く場所と皿の柄を見せて話しかけながらテーブルにおいていく。 子供見ている。
 母親は全部並べたあと、一旦全部重ねてキッチンに運んでいってもう一度子供を呼んでやらせてみる。
 今度はうまくいく。声を出して母を呼ぶ。母、火を止めて駆けつけ喜ぶと同時に誉める。父親を呼んで父にも喜んでもらう。
 子供、満身の笑顔で喜ぶ。

小さな子供達の大半が「前向きな姿勢」で誉められる事が好きで両親から誉められる事が自信につながる事が良くあります。が、このように子供が精神的に成長して行く事で、あれほどに大声で叱られても泣きもせず、良くできたときに笑顔になれるようになることもわかっています。両親がこうして工夫をすることで、この女の子も台湾の事情に合ったしつけられ方をして行くものと思います。

これらの工夫として試してみて効果のあったのは、
* 好きな方を選ばせてあげる
* フェアに交替々々をして遊ぶ
* 生活の決め事を守る(お父さんが出掛ける時は必ずバイバイなど)
* 「ドアを開けちゃダメ」→「ドアを閉めてくれてありがとう」など、言い方を変えて「ダメダメ」を減らす。
* 微笑みながら「こんなことしちゃだめョ」など、中途半端な叱り方をしないようにして、叱る時はきちんと叱る。

何度も繰り返しますが、聴覚口話法を憶えていかせるにあたっては、子供の性格、家庭環境、さらにはその国の文化までを考慮に入れた密接なコミュニケーションと、信頼関係が必要であることは間違いありません。

今後は米国だけの症例を見て判断するのではなく、グローバルな視点で各国からの情報や症例などを見れるようなシステム作りが必要になります。

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この、各国の文化などを考慮に入れたハビリテーションを行っていくという点に興味を感じまして、特にビデオが印象的だったものですから描写してみました。

[第4章]「補聴器と人工内耳器機の技術革新」

実は...今回の会議では、人工内耳メーカー3社がそれぞれにセッションの時間を持っていたのですが、あいにく他の興味のあるセッションと重なってしまい、どれにも出れなかったんです。そこで、各社が別のブースで展示コーナーを持ってますので、そこに来ている方々と個別に話しをして、現物を見せてもらいながら説明をしてもらいましたので、その内容をお伝えします。

出れなかった各社のセッションでは、「いかに小さい子供達へも安全な器機を開発して行くか」というあたりに焦点を当てて、発表が行われていたそうです。現実的なターゲットである、「6ヶ月児への装用」に向けてかなりの上からの圧力もあるようです。こと米国の人工内耳に関しては、STと両親が強い権限とイニシアティブをもっていることに驚かされます。

さて、第4章はいくつかのテーマに分けてみようと思います。
1.補聴器
2.メッドエル社製人工内耳システム「コンビ40+」
3.アドバンストバイオニクス社製人工内耳システム「クラリオン」
4.コクレア社製「NC22システムの耳掛けタイプ開発状況」
5.簡単にできるSPEAK22のケーブルとマイクのチェック方法

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1.補聴器

今回ちょっと驚いたのは補聴器の技術が伸びてきていて、以前の「拡声器」的なものから、「デジタル補聴器」へとトレンドが変遷していて、これからは「プログラム可能なデジタル補聴器」へと進化していくということです。

しかも、「インプラント補聴器」なるものもあって、まさに人工内耳のように外科手術で埋めこんだデバイスに「耳掛け」のプロセッサーから信号を送る補聴器も開発されていまして、補聴器の難点のイアモールドを着けなくても良くなるみたいです。

現在市販のデジタル補聴器は、携帯電話とPHSの違いのように、補聴器のマイクから入ってくる音を、決められたプログラムによってデジタル信号化して拡声しているもので、以前の補聴器に比べて高音域の拡声に改善が見られるものの、大きな差は見られません。

しかし、プログラム可能な補聴器では声の音域(300〜3,000Hz)の拡声を充実させて、その他の周波数帯域を低減させるというようなことが可能になるようで、いわゆる「マッピング」ができるみたいです。

この開発のポイントは、電池の持ちとマッピングの数でして、耳掛けタイプとプロセッサーを別に持つタイプで開発が進んでいます。

製造メーカー、価格、日本での開発状況や販売予定などは残念ながらわかりませんが、アメリカでは来年にはどうも出てくるようです。(既に試験的に装用している難聴児もいるらしい)

この技術革新は、補聴器での聞こえのレベルがそこそこにあって、人工内耳をしたくても出来ない方々への朗報と捉えられています。(翔太パパのケースなどでは、また悩みが増えるかも...でも厚生省が絡んでくると、また時間が掛かるのかも知れませんね)

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2.メッドエル社「コンビ40+」人工内耳システム

メッドエル社はオーストリアの会社です。

私達もあまり見たことが無いメッドエル社のコンビ40+ですが、印象的なのは、アクセサリーが充実しているということです。

基本的な機能としては、
* 耳掛けタイプがあり、手術をした人には持ち歩きタイプと両方のプロセッサーが支給される。
* どちらのタイプのプロセッサーも3つまでマッピングが入る。
* 耳掛けタイプの場合、ボタン電池使用の一体型と、乾電池使用の電池別タイプ(耳掛けプロセッサーに電池箱がケーブルでつながっていて、洋服などにクリップできる)があって、使用目的に合わせて使い分けが可能。
* コイルが外れた時に音が鳴るようになっているので、小児が知らないうちに外しても(外れても)音でわかる。
* 箱型タイプのマイクにはインディケーターライトがついていて、音を拾っているかが見える(らしい。動いてるところが見れませんでした)
* 電池箱、ケーブル、マイク、コイルなどの色が豊富で好みで選べる。

所感を申しますと、白を基調としたデザインが「かっこいい」のですが耳掛けタイプはどうも電池を食うらしく、電池箱が大きいのが気になります。機能の難しいことはわかりませんが、デバイスを振動させるパルスは他社に比べて速いとのことです。個人的には大人に適しているのではないかと思いました。

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3.アドバンスト・バイオニクス社製「クラリオン」

愛国心の高い米国人に、最近人気のアドバンストバイオニクス社です。

既に日本にも入っていますし、装用者の方もいらっしゃいますのでAcitaにも詳細が掲載されていましたが、その後の大きな開発の進展は 無い様です。

挙げられる特徴としては
* コイルが外れた時に音が鳴るようになっているので、小児が知らないうちに外しても(外れても)音でわかる。
* 箱型プロセッサーは他の2社のものより小さい。
* マッピングは3つ入る。
* 耳掛けタイプはまだ開発の最終段階で、市場には出ていない。
* 開発中の耳掛けタイプではも、マッピングは3つ入る。
* 耳掛けタイプはコイルが小さいために見た目がスマート。
* 米国で人工内耳をつける難聴児の50%が、クラリオンを選んでいる。

所感を申しますと、難聴児への装用が多いことから、「より早い段階での手術」のための技術開発は一番進んでいるようです。現に、アド社のセッションは満員御礼だったとのこと。装用児のデータをもとに着々と力をつけてきている感触を受けました。

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4.NC22の耳掛けタイプ開発の進捗状況

日本コクレア社の方々からの掲載の許可は頂いていませんが、USコクレアの方々からは、「近々HPをアップデートする予定ですので問題ないと思います」と言われてますので、書こうと思います。(渡辺さん、問題あったらゴメンナサイ!)

ようやくオーストラリアで2名での装用実験が始まったそうです。以前にお伝えしたように実験は慎重に慎重を重ねて行われてまして、 結論からしますと、時期としてはどうしても来年の夏以降の登場になってしまうそうです。

必要とする電力が大きいために、電池の持ちをどうやって延ばすか、また、世界で22,000人以上が装用していてその各々が違うマッピングを使っているので、全てをカバーするためにはマッピングの情報集めも行う必要があり、時間が掛かると説明していました。

ちなみに、NC24についての新しい技術に関しては、何も発表されていませんでした。

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5.簡単にできるSPEAK22のケーブルとマイクのチェック方法

これはセッションではなく、展示ブースの脇に掲示する形で展示されていたもので、担当の方が不在だったために後日資料を送付してもらう方法を取ったのですが、10/14現在、資料がまだ来ていません。

A Phonic Ear461 Personal FM Receiver というアクセサリーを少し改造してマイクやケーブルの断線をチェックするというテクニックで、このFMレシーバーを持っている人にしか対応されませんが、中を開けて配線を足してハンダ付けしなおすという、比較的簡単な方法で、効果はほぼ完璧だそうです。

このFMレシーバーが日本にもあるものなのか?また、持っている方がいらっしゃるのかはわかりませんが、資料が来しだいに報告します。

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ヨーロッパのメッドエル、アメリカのアドバンスト・バイオニクス、オーストラリアのコクレアと世界の大きな地域で、人工内耳は研究、開発が進んでいます。

是非ともアジアの代表として日本でも人工内耳器機の研究、開発が始まって欲しいと思いました。

Sonyがもしも人工内耳を開発したら...ニュートラルマッピングとでも称して、周囲の環境などを自動的に判断して、プログラムそのものをスムーズに変えれて、コイルは耳にピアスするようなタイプになり、電源は携帯やポケベルのように装着して全てワイヤレスになる...くらいの技術は持っていると思うんですが。(テレビの電源コントローラーなどは、電池2本でかなりの距離からボタンを押してもTVは点きますし、コントローラーの電池もそれほどしょっちゅう交換しなくてもいいですからね)

[最終章]「その他と総評」

ここまでレポートしてきたセッションが、私にとっては大きな収穫と思えたものです。

その他のセッションで比較的多く議題になっていたのが、聞こえだけでなく、他の機能不全を持つ子供達についてで、その十分でない機能をどうやって見分けるか、また、どのようにしてまず聞こえのハビリテーションを行っていくか、などが話し合われました。具体的には、まっすぐ歩かせてみる、カメラのストロボを焚いてみる、などが挙げられていました。

また、聴覚士向けのセッションとして音響学の観点からの効果的なオーディオグラムの作成方法や、マッピングとdbの関係についてなどの、かなり技術的なセッションも数多くありました。(私には、なにがなんだかさっぱりわからず、30分で退出してしまったセッションもありました。)

ちょっと面白いと思ったのは、人間の脳の働きについてのセッションで脳生理学(?)の見地から、脳を活性化させるためにどんなことが良いのかについてのセッションがありました。

これによると、 前向きで楽しいと思うこと/規則正しい食生活と睡眠/たくさんの色を見る/たくさん運動をする/音楽などでリラックスする。などが脳を活性化させる要因となる反面、バランスの悪い食生活/不規則な睡眠/精神的なストレス/同じ動作の繰り返し/過去にこだわりすぎるなどが、脳の働きを鎮静化させる要因となるそうです。面白いことに、男性は女性よりも脳の質量が多いそうですが、女性の方が「話す」事に関して使われる脳の部分が多くデザインされているそうです。だから女性の方が一般的によくしゃべるというのではなく、女性の方がSTには向いているということが言えるそうです。

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2日間の会議に参加しましたが、どのセッションも充実したものでもう少し私に予備知識があったら、もっと良く理解できたのにと思うと残念ですが、再来年に場所は未定ですがまたありますので、それまでに勉強してまた参加したいと思います。

総じて私が思いましたのは、4章で話したような最新の器機の導入や、聴覚士、STのコミュニケーション作りなどを、これから日本も歩んで行く中で、厚生省の存在がネックになるのではなく、リーダーシップを持って取り組んで頂けるようになって欲しいと願ってやみません。

アメリカから日本を第三者的に見てみますと、日本という国は一度上から号令(圧力?)が掛かり、動き始めると、ものすごい速度でしかも徹底してシステム作りができるという行動力のある国だと思います。(2000年問題しかり...)どこかで何か、そういうきっかけができないものかと期待しています。

みなさん、長い間おつきあい頂きありがとうございました。




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