人工内耳友の会−東海−
各種情報

平成13年10月13日
全難聴全国大会(蒲郡市)第3分科会講演

先天性(言語獲得前)重度難聴児の人工内耳について

あいち小児保健医療総合センター 言語聴覚科  中山博之
         〒474-0031 愛知県大府市森岡町尾坂田1-2

1. 人工内耳と補聴器の違い

ご存知の方も多いとは思いますが、「人工内耳と補聴器の違い」について、最初に簡単に説明します。

@ 人工内耳は、その体内部分を挿入する手術が必要です。
あたりまえのことですが、やはりなんと言ってもこれが、当事者に取ってみれば補聴器との最も大きな違いではないでしょうか。小児の場合、親御さんは我が子に手術を受けさせようと決めるまでに、相当悩まれることと思います。

A人工内耳と補聴器では音の伝わる経路が違います。
補聴器の場合は、マイクから取り込んだ音を個々の聴力の程度に応じて加工し、スピーカから出た音が、外耳道→鼓膜→耳小骨→蝸牛内の有毛細胞(音を感じる細胞)→聴神経→大脳と伝わります。ここで大切なことは、蝸牛内の有毛細胞を刺激するところまでは音の機械的な振動が伝わって行くのですが、有毛細胞から先は電気刺激が伝わって行くということです。

一方人工内耳も、マイクで音を取り込むところまでは補聴器と同じですが、取り込んだ音は体外装置(箱形や耳掛け形)であるスピーチプロセッサ(SP)に送られます。SPでは、「コード化」と呼ばれる音声処理を行います。コード化された音声情報は、耳の後ろに磁石で付着した送信コイルから、体内装置であるインプラントに向けて、頭皮を介して無線信号として送られます。体内に埋め込まれたインプラントは信号を受信すると、それを解析し、蝸牛内の電極から決められた数値の電流を流し、この電気刺激が有毛細胞を介さずに聴神経を直接刺激し、その刺激が大脳に伝わり音を感じます。

B 音の情報を耳の中で、最初に分析する場所が違います。
補聴器の場合は、たとえば最近のデジタル補聴器のように、会話音が聞き易すくなるよう様々な工夫がなされていますが、本質的には音を大きくする機器であり、音の分析は、ダメージを受けてはいますがある程度は機能している有毛細胞が行っているのです。
一方人工内耳の場合は、電極がカタツムリにたとえられる蝸牛の底のところに置かれていて、ここの近くの聴神経を直接刺激します。コクレア社の人工内耳には20の電極対があり、おおよそ100Hzから8000Hzの音を20に分割して分担しており、蝸牛入り口近くに挿入された電極から電流を流せば高い音感覚が発生し、尖端部の電極であれば低い音感覚が発生します。また、大きい音は電流量が大きく、長い音は電流を流している時間が長くなります。このように、人工内耳は有毛細胞の機能の一部を肩代りしているのです。

2.小児への人工内耳の適応

当診断部では、名古屋大学で人工内耳埋込術を受けられた方に対して、平成6年から人工内耳のリハビリを行っています。当初は中途失聴成人が中心でした。しかしここ数年、全国的に、先天性重度難聴児に対する人工内耳埋込術が主流になってきています。

1998年に日本耳鼻咽喉科学会からでた、人工内耳が小児に適用される基準をあげます。

1) 年齢
適応の年齢は2歳以上、18歳末満とする。ただし先天聾(言語習得期前失聴者)の小児の場合、就学期までの手術が望ましい。

2)聴力および補聴器の装用効果
純音聴力は原則として両側とも100デシベル以上の高度難聴者で、かつ補聴器の装用効果の少ないもの。補聴器の装用効果の判定にあたっては十分な観察期間で、音声による言語聴取および言語表出の面でその効果が全く、あるいはほとんどみられない場合。

3)禁忌
画像(CT,MRI)で蝸牛に人工内耳が挿入できるスペースが確認できない場合。ただし奇形や骨化は必ずしも禁忌とはならない。そのほか、活動性の中耳炎、重度の精神発達遅滞、聴覚中枢の障害、その他重篤な合併症など。

4)リハビリテーションおよび教育支援態勢
両親、家族の理解と同意が必須である。また、リハビリテーション、教育のための専門の組織的スタッフ(言語聴覚士)と施設が必要。さらに通園施設、聴覚教育施設などの理解と協力が得られることが望ましい。
となっています。

小児については、平成10年に先天性重度難聴児(当時6歳)の人工内耳埋込術後のリハビリを開始して以来、先天性重度難聴児の比率が年々増加し、低年齢化してきています。因みに、平成12年度の1年間に人工内耳埋込術を受けられた方は25名でした。その年齢別の内訳は、2歳が5名、3歳が6名、4歳が2名、10歳台が1名、30歳台以上が11名となっています。半数以上を小児が占め、なかでも2・3歳が多くなっています。より早期に手術を受けたほうが人工内耳の効果も高いことが、我が国でも明らかになってきていますので、今後はますますその傾向が強まることと思います。

では、先天性重度難聴児の場合には、4・5歳はもう手遅れなのかといえば、決してそうではありません。その子にとって、補聴器よりも人工内耳の方が明らかに言葉の聞き取りが良くなる可能性が高いと予測されるのであれば、人工内耳の手術を受けたほうがきっと聞こえの喜びも大きいと思います。ただ一般的に、手術は早い方が得られる効果がより大きいということです。しかし、就学期以降の手術だと、音は良く聞こえても会話の聞き取りには役立たず、最終的に人工内耳を使用しなくなる可能性が高くなります。

ただし、今まで補聴器で言葉の聞き取りが十分できていたけれど、就学後に聞こえが悪化し、以前のように言葉が聞き取りにくくなってきたといった場合には、たとえ就学後であっても、人工内耳にすることによって、以前の聞こえを取り戻している方もいらっしゃいます。大切なことは、聴力が悪化して言葉の聞き取りができなくなってから、1年も2年も放置しておかず、できるだけ早期に適切な医療機関を受診することです。

次に、先天性難聴児の場合どの程度の難聴から人工内耳の適応となるのかということについて、昨年、難聴の程度と言葉の聴取能力との関係について検討しましたので、結果の一部をお話したいと思います。

ここに示しました2枚の絵シートですが、1枚は「頭・シャワー・パジャマ・サラダ・魚・バナナ」の3モーラ(拍)6単語、もう1枚は「かば・皿・花・傘・ママ・山」の2モーラ(拍)6単語です。すべて後ろの母音が/あ/になっていますので、子音がある程度聞き取れないと正しい絵を指差せません。6歳から17歳の補聴器装用児61名に対する、この2枚の絵シートの聞き取り検査の正答率と0.5・1・2・4kHzの平均聴力レベルとの関係を下図に示します。

○印の補聴器装用児の場合、平均聴力が80デシベル台の正答率は80%以上が多く、100デシベル台の正答率は60%以下が多く、90デシベル台の正答率は個人差が大きいという結果が得られました。言換えれば、平均聴力が80デシベル台のものは、視覚と聴覚とどちらが得意かといった個人の能力や家族の努力、教育方法に関わらず、比較的聴覚を使えるようになることが多く、一方、平均聴力が100デシベル台のものは、個人の能力と家族のたゆまぬ努力で聴覚を中心にした教育を行ってきた場合に限り、聴覚が使えるようになるようです。しかし正答率が100%となることはありませんでした。平均聴力が90デシベル台のものは、個人の能力の違いや家族の努力、聴覚を中心にした教育を行ってきたかどうかで、聴覚を使えるかどうかに大きな差が生じたものと思われます。

▲印は、人工内耳を装用している先天性重度難聴児6名の成績です。人工内耳の装用期間は半年から2年未満、手術年齢も2歳から6歳と幅があり、症例数も少ないので、補聴器装用児との厳密な比較はできません。しかし、先ほどの日本耳鼻咽喉科学会の人工内耳が小児に適用される基準にもありましたが、この図からも、0.5・1・2・4kHzの平均聴力レベルが100デシベル以上の場合は、補聴器装用児よりも人工内耳装用児の方が、言葉の聞き取りが良いと考えます。

数年前までは、補聴器で音声がほとんど聞えないとか、母音すら満足に聞き分けることができないといった極めて重度の難聴児が人工内耳の適応になるといわれていました。でも現在はそうではありません。この100デシベル台の子供たちは、5母音や単語の聞き分けもある程度は可能であり、補聴器と視覚メディアで言葉をかなり習得している子供たちです。しかし、人工内耳と補聴器では言葉の聞き取りにかなりの差があり、その差が情報量の差となり、それが積もり積もって、言葉の発達ばかりでなく子供の人生そのものに、大きな違いを生じさせることになるのではないでしょうか。

最近では、平均聴力レベルが90デシベル台の子どもに人工内耳を装用したという報告も出てきており、我々も今後検討していく必要があると思います。

3.小児人工内耳の効果と限界

人工内耳の効果は、ほとんど聴こえないほどの重度の難聴であっても、内耳性の難聴であれば、人工内耳を装用した状態での聴こえのレベルが125Hzから8000 Hzまで、ほぼフラットに40デシベルの音が聞こえるようになるということです。この40デシベルというのは、会話音が聴こえるレベルであるわけですが、補聴器ではなかなか入らなかった高周波の音、たとえば、サ行の子音部分/s/のような音も、聞こえるようになったわけです。その結果、補聴器では言葉を聞き取ることがほとんどあるいはまったくできなかったのに、人工内耳を装用し、実際に言葉の聞き取りがよくなったり、電話ができるようになる場合もあるので、人工内耳は補聴器よりも優れた装置、言葉が良く聞こえるようになる魔法の補聴器のように思われがちです。

でも、これまでの話からもわかるように、人工内耳は有毛細胞の機能のほんの一部を肩代りしているに過ぎないのです。音の高さもわずか20の範囲で振り分けるだけなので、たとえば、ピアノの隣り合った鍵盤をたたいても、音の高さの違いはわからないのです。言葉でいえば、母音の聞き分けはほぼできるけれど、「ぱ」と「た」と「か」のちがいや、「ま」と「な」、「さ」と「しゃ」などの違いを聞き分けることは困難な方が多いのです。

また、手術年齢が低いほど人工内耳の効果は大きいといわれていますが、2歳台で手術を受けたにもかかわらず、聞き取りがあまり良くない場合もあり、個人差はどうしても生じます。

4.小児人工内耳のリハビリの必要性

会話音がまったく、あるいはほとんど聴こえないほどの重度の難聴であったことからすれば、40デシベルの音が聞こえることの効果は図り知れません。しかし、40デシベル未満の音は聞こえないのですから、人工内耳を装用しても、いまだに40デシベルの難聴であるわけです。
ところが、この40デシベルの難聴というのは、普通の大きさの声での1対1の会話なら、それほど不自由なく言葉を聞き取ることができるのに、補聴器を付けないでいると言語発達に支障が出始めるレベルなのです。ましてや、言葉の聞き取りに限界のある人工内耳を装用した状態が40デシベルなのですから、人工内耳を装用したから後は何もしなくてもよいということはなく、言葉を学習していくためのリハビリが必要になります。

手術前の言語発達が進んでいるものほど、人工内耳の効果がより早期に現われ、かつその効果も大きいことが、臨床的にも明らかになってきています。したがって、リハビリは手術前の補聴器装用時から継続して行っていくことがとても大切なのです。

お子さんが難聴であることを宣告された時は、ショックで何も手がつかないことでしょう。でも、どんなに重い難聴であっても、今は人工内耳という選択ができます。少しでも早く立ち直られて、リハビリが行われるよう、我々も協力していきたいと思います。




メールはこちらへ

各種情報メニューへ