人工内耳友の会−東海−
各種情報

補聴援助システムとリハビリテーション(報告集より)
難聴を克服するために

(以下の講演の全文及び全容の冊子を入手したい方は、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会「補聴援助システムとリハビリテーション普及啓発」シンポジウム実行委員会 〒617−0823 京都府長岡京市3丁目19−32 山口武彦方 FAX:075−951−4982 へ、お問い合わせ下さい。)

なお、以下の京都大学医学部耳鼻咽喉科のホームページに、同様な論文が掲載されています。ご一読をお勧めします。
http://www.hs.m.kyoto-u.ac.jp/topics/ci/index.html

「小児人工内耳の聞こえと言葉の発達」
京都大学大学院医学研究科聴覚・言語病態学領域講師
              内藤  泰

本日はこのようなシンポジウムを開催された全難聴に厚く御礼を申し上げます。
子供の人工内耳の実際的な成績と言葉に関する脳の活動を大きな柱にします。
子供の人工内耳から。スライドをお願いします。
人工内耳は、10年少し前から実用化しましたが、子供に使われ始めたのは、最近で、まだ7、8年にしかなっていません。
当初は人工内耳をどのような子供に使うかハッキリしてませんでしたが、昨年、統一的なガイドラインが日本耳鼻咽喉科学会で作成されました。
これによると年齢は2歳以上であること、先天ろうの場合は早い方が良い。
アメリカの食品衛生局では1歳6カ月としてます。ヨーロッパでは、ドイツでは規制が緩く7カ月ぐらいから手術をしています。聴力では、純音聴力検査で100デシベル以上。
補聴器で言葉が分かれば問題ない。中耳炎などで黴菌がでている場合はそのままでは人工内耳を入れることは良くないので、治してから手術します。
第4は、リハビリなどの支援体制が無い時は手術しません。
このような体制ができたらします。
子供は放っておいて、後うまくゆくわけではありません。
手術だけなら誰でもできるが支援体制がきちっとしてないと出来ません。ここがとっても大切です。
次のスライドです。
現在まで、我々は子供の人工内耳を16名以上に実施しています。
これは、去年の秋で、当科で16名(18才未満)ですが今はもう少し増えています。
この時の子供の平均年齢が5歳半、今は、もっと低い年齢で確実な診断をして手術することを目指しています。その理由は、今回の講演を聞いていただければわかります。
子供の高度難聴のもっとも多い原因は、髄膜炎という病気です。これは脳の髄膜に炎症がおきてそれが内耳に伝わって聞こえなくなる。手術するまでに平均2年半位は、補聴器を使ってじっくりと言葉の発達状況を観ています。しかし、ここまで必要かどうかわからないです。少なくとも半年から1年は補聴器の効果をみて、子供さんに効果があるか確かめて、それで手術をするようにしています。
要約筆記に早すぎませんか?
では、次のスライド。
手術前の、両方の耳は同じように聞こえるわけではない。
よく聞こえていた方の平均の聴力110〜120デシベル程度です。
ここには、まったく聞こえないスケールアウトの人は含まれていません。音の感覚がない人も含まれています。
で、補聴器の効果があった子供が、16人中11人ですから、3分の2位は、何らかの音の感覚がわかっていたんですが、補聴器の装用域値、それがだいたい70、90デシベル位、特に4キロヘルツ、これが93デシベルですので高音になるほど、音が十分に入らないという状況でした。
それが人工内耳をつけますと、装用域値は、45デシベル程度です。域値が一定している特徴があります。補聴器では、どうしても高音部分が入りにくいのですが、人工内耳では平均的に入るようになっています。
スライドお願いします。
子供さんの場合、耳が聞こえない場合、言葉だけでなくて、それ以外の発達にもいろいろな影響が出て来ます。
これは津守式の発達輪郭表といいますが月齢に対してどの程度未熱かをみています。言語理解というのが、やはり悪いです。月齢が3歳でも言語理解は1歳半程度と相対的に遅れて来ます。言葉を聞けないので言語の発達が遅れるのです。それ以外に、例えば、社会性、人とのコミュニケーションが遅れたり、それから、一般の日常の生活習慣、食事排泄に影響がでてきます。それが難聴の子供の特徴です。
スライドをお願いします.
人工内耳の手術の前に、どういうことが必要か、我々は、医者だけではなくて、言語療法士や、看護婦や、ろう学校、通園施設の先生の資料から十分検討して、全体的な会議を行って手術するかどうか決めています。
しかも、子供は自分では判断できませんから、そのような資料に基づいて両親に充分に説明して、理解を得られたら手術します。子供は病院に馴染んでいただくことも大事です。
スタッフと遊んで心の交流をつけておきます。さきほどありましたように、心のリハビリテーションをしっかりしていただく。手術をしてサヨナラというわけにはゆきません。通園施設に、どのようにリハビリテーションしていただくか、体制と方針を手術前からきっちりつくっていく。
子どもの人工内耳のリハビリテーション
次のスライド。
リハビリテーションについては、後で、廣田栄子先生がシンポジウムで話されます。
ここでは詳しく言いませんが、原則で言いますと、非言語的コミュニケーションの確立、これは、我々が言葉を使うのは、何かを伝えたいということです。
心の交流が無いのに言葉の「あ」「か」とかをつんでも心のたしにはなりません。
ですから、まず、コミュニケーション、心と心のやりとり、それを作るのが大前提です。その上でいろんな遊びの中で言葉をとってもらう。これは、補聴器を使っている子供とまったく同じ。
ですから、一般の難聴児と人工内耳を使っている子供さんはリハビリテーションという点では、まったく同じ考えですすめてよいです。
一つだけ大きな違いは、補聴器は小さい時から使っているから少しずつ少しずつ慣れてゆくのです。人工内耳は今までほとんど聞こえなかった児に、非常に大量の情報が急に入ってきます。手術をすると急にです。このキャップが大きな違いです。
今まで、とっても静かな環境にいたのが、急にとっても騒がしいところに放りこまれる。そこの落差がとても大きいのが、補聴器と人工内耳の違いですが、それ以外は同じと考えて良いです。5、6歳すぎると母音、子音が何%分かるかを調べます。あまり小さい子はできません。
ある程度年齢が高くなった子供で調べると、母音は、いったん言葉を獲得してから聞こえなくなった子は、すぐに100%分かります。
点線は、言葉を獲得前に聞こえなくなった人です。5〜10年とたつと、じわじわ良くなる。
次は、子音の判別ですが、いったん言葉を獲得してから聞こえなくなった子は半年から1年位で良く分かるようになって、だいたい75%は分かる。大人の人エ内耳より成績が良いです。子供の方が医療に馴染むと思います。ただ、点線で示した、言語獲得前に失聴した人は子音の判別が難しい。この差が大きいということです。ことばの聞き取りの検査は1歳の赤ちやんに「あ」って聞こえましたかって聞いても、笑ってみているだけですね。
聞こえを評価する方法が必要です。それでないと、どれくらい発達しているか、評価できません。これには、今まで教育関係、医療関係の研究があります。
今日、お話くださる、廣田先生の著書にも、多くのことが書いてあります。我々は、それを点数化するということでIT−MASというのを使っています。
アメリカのオスバーガーが考えたもので、日常の音に対する反応を点数化する基準です。これは、アメリカの公式なものではなくインジアナ大字等で使っているものですが、補聴器をつけても、人工内耳をつけても聞こえると声を出すようになる。
耳から何かが聞こえている時、子供は声をよく出すようになります。
声を出しながら、何かしているというのは、聞こえているという一つの証拠である。
まず、発声が補聴器や人工内耳で変化するかどうか、これが大きなポイント。
2番目は、言語の音節を発する。ただ叫んでいるんではなく、言葉「あ」「ぱ」とかそういう言葉を発するかどうか。聞いたことがないと発声は出来ませんから聞いたことの証明になる。
それから、これも簡単な方法です。静かなところで呼びかけに応じるか。やかましいとこでは気が付かないけども静かなところで反応するか。それから、やかましいところで、同じようにできるか。これになれば、よく聞こえているということになります。やかましいところて名前に反応するか。それから、環境音に反応するか。食事にいったとかよそに行った時に、音が変わったということを認識するか。これもやはり音が聞こえているかどうかの評価のポイントになります。新しい環境に反応する、それから一定の日常音に反応するか。お父さんが帰ってきた時、子供は結構待ってますから、音だけで、「おかえり」と言うかどうか。
いつも近くの学校にチャイムがあるかとか、ものを落とした音や言葉の区別がつくかどうか(感情の区別)ができるかどうか。顔の表情でもわかります。声の調子で感情がわかるかどうか、こういう10項目で判断します。
10項目を設定して点数をつけます。この何%がつけられるかということでどの程度か判定する。
われわれが手術をする子供さんの場合ほとんど反応が無いか、手術前で10%位ときどきあるというお子さんです。
これは、青い棒が、一旦言葉を獲得してから聞こえなくなったお子さんです。
手術前はだいたい全体で点数は10%満たないが3ヶ月位するとものすごく良くなる。半年すれば半分位あがってきています。
一旦言葉を獲得してから聞こえなくなった人は、早く人工内耳で音を獲得すればその分早く聞き取れるようになる。
ところがこれは言語を習得する前に、聞こえなくなって、人工内耳で始めてコトバを獲得する人、その場合には、なかなか3ケ月くらいしてもはっきりしません。
当たり前のことですね。赤ちゃんにいきなりお話はできません.聴覚に開連する能力は少しずつ発達している。聞こえるようになれば瞬間的に分かるわけではない。
人工内耳を使い続けると2,3年たてばある程度の検査なら100%近く分かるようになってくる。
このような観察項目は、子供に聴力があるかどうかをみる非常に良い指標になると思います。
IT−MAISのスコアの推移ですが横軸が年齢です。
白いので示しているのが手術前から現察していますのでほとんどの場合この辺でとまっています。手術をすると、こういうふうにスコアがあがり、100%まであがります。このスコアは言葉を話せるようになる基礎ができあがっているかどうかを見るテストです。
言葉の弁別テストができるようになれば良いのですが、それまでの小さな子供の観察点としてつかっています。
以上が我々の、子供の人工内耳を示す例です。
現在何歳位の子どもさんに人工内耳を勤めるか、出来るだけ早い時期に勧めています。
しかし早ければ良いというものではありません。補聴器を使ってもうまく言葉がわからないということの確認は出来るだけ早い方がいいだろうということです。
脳に、可塑性、変わる力があるのですが、それが年齢がすすむにつれなくなっていく。新しいことを覚えるのは小さい子供の方がとても早い。一回言ったことを、小さな子供が完全に覚えていてぴっくりすることが多いですが、それだけ脳は柔軟な可塑性を持っています。変わる力、可塑性は年齢とともに失われていきます。脳の研究も大切なので研究を行っています。
これから脳の話です。これは大脳です。
これが我々の思考の源です。脳というのは大きく前頭葉という部分と横の側頭葉という部分、それから後ろ上の頭頂葉、そして後頭葉からなっています。
それぞれ違う働きを持っていますが、昔からそのように、脳のそれぞれの部分に違う働きがあるということが分かっていたわけではないんですね。
これは昔のお医者さんが大きな石が落ちて、怪我をした。側頭葉に石をうけると言葉がうまくしゃベれなかった。エジプトにも記録があります。どこが悪かったというのが分かった訳でないけど、記載は正確でした。
でも、脳のどの部分にどの働きがあるかは最近までわかってなかった。
1800年代にヨーロッパで流行った骨相学という学問からとってきたスライドですが、その考え方は、脳というのはよく使うと、特定の使った部分が大きくなる。
そうすると、脳が大きくなると、頭がい骨の内側がへこむ。死んだ人の骨をひっくりかえすとこの人は生前、そういう性格であったんでしょうと・・・。
これは、そっちから見られないと思いますが、区分けしていますね。
この部分は、理想主義の部分。理想が高いとこの部分が腫れて、頚がい骨がへこむ。
それから、どんなことがありますかね。ここは、hope希望に満ちている。これは全部嘘だったんですけど、占いのようなものですね。
このような考えに似て、脳の特定の部分に特定の動きがあると占いのようなものから、科学につながってきます。
1800年代、ほんの150年位前までは、そのような考えでありました。
これは、非常に有名な脳です。tan氏の脳です。フランス語なんですが、この患者さんは長生きしたんですがあるとき、脳梗塞を起こしてしゃべれなくなりました。お医者さんがどうですか?といっても「tan」としか言えなかった。死後、その脳を解剖したら、左半球の前頭葉の一番後ろの部分、そこに穴があいていました。
これは脳梗塞で、脳の組織が壊死していた。この脳を見た医者は、この部分が言葉の中枢であると発表しました。これが、1861年ですから、150年前位ですか。
当時、パリの医者、名前をブローカという医師ですが、そのブローカという医者は、学会の笑い物になったんです。でも、きちっと解剖学雑誌にのりました。それで、後々から見るとこれが一番確実に人間の脳のどこに言葉があるかの第一例になりました。前頭葉のこの部分はしゃべるのに大切です。
これはウィーンのお医者さんのウェルニッケルさん、これも脳の解剖を沢山しました。
側頭葉のこの辺が壊れると言葉を聞いても分からない。でもしゃべれる。聞いてわかるのは、側頭葉の上にある。これをウェルニッケといいます.喋る方はブローカ野といいます。
聞く方の中枢は、ウェルニッケ野といいます。失語症の本を書いたんですが、その時の年齢が26歳、洞察力のするどいお医者さんでした。それが、言語医療の基礎をきずく本を若い時に書いてぴっくりです。これが、歴史的に非常に重大な発見でした。
ところが、我々が生きている時の脳の動きはとっても知りたい、死んでから分かっても何も役に立たない。生きている間に脳をあけるという怖いことをせず見たい、それを可能にしてくれたのが、この機械、ポジトロン断層法です。
脳の血液の流れを正確に計測できます。ちょっと高い、3億円。ここで使う試薬はサイクロトロンという1つのビルくらいのものが必要なのでなかなか簡単には普及しませんが、非常に多くのことがわかります。脳の中で、放射性物質、すぐに消える安全なものですが、それがどのように分布しているかを、あの機械で調べる。脳というのは、神経活動が亢進すると活動部分に多くの血液が流れます。血液の流れをみると脳のどの部分が働いているかわかる。これがPETの原理で、京大に機械があり、人工内耳の患者さんの協力で検査しています。それから僕自身も検査を受けていますから、沢山の健聴者とか人工内耳利用者の脳の動きをみています。これがPEの生の結果です。血液の流れが多いと赤、血液の流れが少ないのが、青から黒。色の違いでかいています。なにも音を聞いてない時はこういう流れになっています。脳のふちに多くの血液が流れています。脳の真ん中はあまり動いていない部分です。実際に活動しているのは大脳皮質です。
これは、何も音を聞いてない時ですが、聞くと、こんなパターンになります。
何も聞いて無い時はこんな感じで、音を聞くとこうなります。
その他は非常によく似たパターンです。音をきいた時には、脳全体で血液の流れが増加するのでなく、特定の部分で増加します。
これとこれを比べるのは非常に難しいんですが、これは、コンピュータのデータとして出しますので、これを引き算することができます。
何も聞いていない時から、聞くようになった時に、脳の活動が増加した部分を割り出すことができます。
それがこれですね。そうすると、特にいろんなところがあります。脳といっても、無の境地ではありません。禅の境地ではないんですね。お腹減ったとか、此処と、此処で同じことを考えているわけではないですからいろんなとこで、差がでてきますが、もっとも大きな差は側頭葉にでてきます。ある精神活動をしている脳を、生きたまま、調べることができるようになりました。
これが150年前までは、その人が死んで脳を開けるまでは分からなかったんですが、今は生きているまま、脳のどこを使っているか、分かるようになりました。
そして、これは、僕を含めた医局の6人が言葉を開いている時に脳のどこを使っているかの図です。そうすると、脳全体の中で側頭葉という部分の上側頭回の真ん中から後ろ位を使っています。
これは、統計的な画像です。
色のついた部分が統計的に有意に、つまり確実に使っている部分です。個人差はありますが、共通して使っているのはこの部分です。
次のスライドをお願いします。
このような方法で脳の働きの地図の纏めをしてみますと、特に聞こえに関連する部分を纏めますと、上側頭回こういう所で行われています。しゃべるときには、作戦を立てているのは、ブローカ野。前頭葉の下の後ろのこの部分。この側頭葉と前頭葉の境目の溝の周囲に言葉の神経が密集しています。言葉を話すことと、開くことは、裏表ですから、まったく聞こえない人はうまく話せません。言葉は聞くだけでなく、本を読んでも分かるし、手話でも、視覚からも情報は送り込まれる。一般的には後頭葉に視覚の部分があります。途中で話言葉と合流して最後には一緒のところにでていきます。スタートポイントは違うけども、最終的には同じ経路を通ります。
脳の神経細胞の一例で、一杯の枝が出ており、他の神経細胞の連絡をしており、ひとつ何万ものシナプスといいますが、連絡を司っている。
次のスライドお願いします。
これは神経細胞を培養してるが、つながってない。それぞれの細胞は繋がってません。
ところが、外からの刺激がはいってくると連絡をとりあう。入力にたいして何等かの反応を、それに対して反応するという連絡網をつくる。これを神経回路網という。何も刺激がなければネットワークができない。外からの刺激に対して、視覚でも聴覚でもいいのですが、たとえばヘレンケラーなら触覚で得ます。
次お願いします。
そこで脳のネットワークについてもう1つ。
これが髄鞘といって神経繊維をくるむ絶縁体で、この図で示しているのはそれが生まれたときに完成している部分です。それ以外の白い部分を連合野といい、使い方が、生まれた時にはっきりしてない。その後に何をしてもよいようになってる。これが広いことが人間たらしめてる。つまり何に使ってもよい。言語、思考など勉強していって、人間として高いものになっていく。モルモットやネズミは連合野がないのです。あっても非常に狭い。この連合野が高い精神活動と結びついてる。
今日の最終的な話は、このあたりが視覚か聴覚、どちらで使われるかです。ある程度育ってしまうと神経のネットが硬直して後からではなおりにくい。
これは言葉を使う時の場所。この部分が側頭葉です。
これは言葉を獲得してからの人で、人工内耳で言葉を聞いてます。側頭連合野が活用されている。そして、人工内耳を装着した、音の感覚は無かった方です。19歳ではかなり遅いです。音をきいた時にここが少し働きます。同じ人工内耳でも、これほど劇的に差がある。
正常な人は言葉を聞くと側頭葉の血流が13、4%増加します。情報処理をしています。言葉を獲得してから人工内耳を受けた人もほぼ同じか、それくらい活動しています。
後天ろうの方は人工内耳の音は正常耳よりもよく使っている。
言語を習得する前に聴力を失った人は、つまりそこに、神経のネットワークがうまくできていない、ということがわかりました。我々が言葉を聞いた時に情報は一次側頭葉に入ってきて、前頭葉へ持っていきます。そして運動野から出力する。だからどんどん聴かないと、連合野はできないんだということがわかります。
子供さんの手術後のPETで見た一例です。10歳の時に人工内耳の手術をしました。そして、先天聾です。人工内耳をしても良くならないのてはないかと思われていましたが、必ず良くならないかというとそうではない。PETを計ってみると案の定少ししか活動していませんが、人工内耳を使い続け、学校にいっても、ずっと人工内耳は眼鏡のようであると、それがないと不便であると。5年5ヶ月後にもう1回PETの検査をすると、非常に強い血流増加が確認されました。
言葉だけ聞いている時としゃべっている時とを、さらにビデオでうつしたときの検査ですが視覚的な効果をどれだけ使っているか、音に加えて画像が入ると、側頭葉がより活動はしませんが、後頭葉が活動しています。聴くのは側頭葉で、10歳のときの手術でも見るのは後頭葉。見ることと聞くことのネットワークがつくられています。このあたりというのは、側頭葉のうしろのあたり、どっちからでも信号がいくといえます。ですから、聞こえないまま育つと視覚の情報処理のネットワークがこういうところにできるかもしれないということです。その結果を示します。
この子は髄膜炎で聞こえなくなった。1歳で髄膜炎、8歳で人工内耳の手術を行いました。側頭葉はちょっと活動しています。7年目、もういっペん検査をしましたが、ほとんど変わらない状況でした。ある程度言葉がわかるけど、この子供は、人工内耳を日ごろはずしていたり、視覚的な手段を主に使っていた。この状態でしゃべっている人の顔をビデオでつけた時に後頭粟でなく側頭葉の活動が促進されていました。
私の解釈は音声言語を処理すべき領域のネットワークが、視覚情報を処理している。視覚の情報をもとにコミュニケーション処理をしているだろうと思われるます。
聴くということを処理する神経回路になってしまうと視覚のほうはあまり処理しないし、視覚を処理するようになれば、聴覚はあまり処理しない。あるていど競合するのではないかと推測されます。
現在あるデータからはそう考えざるをえない。しかしこれには更に科学的な裏付けが必要です。これは、アメリカで去年発表された手話の脳機能画像です。手話は、視覚によって言語情報を伝えます。色が看いている部分、赤の色の部分は手話をみている時に活動している部分です。
これは、聴覚が正常の人の活動です。2番目は先天聾の人の、3番目は聞こえているけども活動、両親が聞こえないので小さい時から普通に手話を使っている、二つの言語を同時に使っている人。
それでみますと、聴力正常な人が手話をみても側頭葉が活動しないんですね。ところがぜんぜん聞こえない人が手話をみると側頭葉がよく活動します。ブローカ野も手話をみている時に活動しています。ここで1つ興味深いのは、赤いのが活動している部分ですが言葉というものは、通常左半球優位です。脳には優位半球というのがあるんですが、それが反転しています。右半球優位で、言葉を処理しています。それは5年位前からアメリカで研究していたんですが、纏まって発表されたのが去年で、大阪大学でも同じような結果がでています。
そこで、問題になるのが、聴覚をどのように活用していくかと言うことですが、特に子供の手術後の方針はまだ確定していません。
子供のコミュニケーションの能力を自由に発達させていこうとする観点にたつとキュウドスピーチ等、視覚的なものも取り入れることになりますが、自然のコミュニケーションで言語の脳をつくっていってあまり視覚的なものを取り入れて行くと、さきほどの結果からいくと側頭葉が視覚優位になってしまう可能性はある。
別にそうなって悪いということではないですけど、現在の我々の世界では音声言語をベースに成り立っている。良い悪いは別にして音声言語が分からないと不便である。そうだとすると、あまり視覚を強調した教育を行うとひょっとすると側頭葉が視覚優位になってしまう恐れはあります。
この結果をどう考えるかの判断は、みなさんに委ねますが、我々の脳機能の検査の結果からはそういう推論ができます。
いろんな考え方はありますが、今の我々の方針はトータルコミュニケーションのようにあらゆる手段を使ってコミュニケーションすることは、例えば、学童期後半ぐらいからにした方が大きな可能性を与えることができるんじゃないかと、またこれはまあ議論が必要ですが、出来るだけ早期に人工内耳の手術をするという事も考えています。ぐずぐずしていると、脳が固まります。視覚言語と音声言語を同じように処理できるのではないかということを示唆するような研究結果を一つ示します。
これは、あと2つで終わりますが
スライドお願いします。
これはファンクショナルMRIという脳の断面を見る機械です。これで、血液の成分が多いのと少ないので信号が違うんです。
この原理を利用してMRIで脳の機能を見られます。これは昨年のネイチヤーという雑誌にのった研究ですが、みなさんバイリンガル、二つの言葉をしやべる人の、日本人みたいな顔をしていて英語をしゃべる人がいますよね。
アメリカでパイリンガルな人の脳機能をみた。小さい頃にアメリカに渡った人、12歳とかの比較的高い年齢になってアメリカにいって英語あるいはその他の言葉を覚えた、言葉だけを聞いていると、ほとんど区別がつかない人たちです。
さきほどのブローカ野の活動をみると、これは、ある程度年齢が進んでから、大きくなってアメリカにいった人の、この赤いところが英語、黄色の部分はフランス語、フランス語と英語の両方をよく喋れるけれど、元々は片方しかしやべってない。
もともと英語で、フランス語は後から習得、同じ喋っていてもブローカ野の活動が違う言語によって、適う部位を使ってしゃべっています。
次のスライドをお願いします。
この人は、小さいときからトルコの人ですね、小さい時にアメリカにいって家ではトルコ語、外では英語。第2言語は英語ですけど、第一言語がターキッシュ、トルコ語ですね。ほぼオーバーラップしています。小さい時に二つの言語を叩き込まれた人は、同じ神経回路が、第一言語と第二言語が少なくとも領域としては重なっている。同じ領域で二つのことをしています。つまり人工内耳でも小さいときに手術した人は側頭葉を音声、視覚能力の競合を避けて、活用できるのではないか、これは、我々難聴の治療に携わる者にとっては非常に勇気つけられる結果だと思う。
早期に音声言語が入れば、視覚が邪魔しないかもしれません。
ある程度年齢があがってきたら、片方が優位になるのは避けられないだろう。
これが現在までの脳機能で得られた脳の発達の科学的な研究結果であります。今日は子供の人工内耳の研究結果と、京大での考え方を話しました。
以上です。



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