人工内耳友の会−東海−
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平成13年4月29日:人工内耳友の会−東海−勉強会

クラリオン人工内耳の解説

名古屋市立大学医学部耳鼻咽喉科講師 宮 本 直 哉




はじめまして。私は名古屋市立大学の耳鼻科の宮本と申します。私は名古屋市立大学の耳鼻科でもっぱら中耳炎とか耳の手術を中心にやっております。昨年クラリオン人工内耳が発売になりまして、ここにあります村上教授・関谷耳鼻咽喉科の関谷先生から話がありまして始めました。もともと名古屋の方は大津日赤病院で伊藤先生(現在京都大教授)・名古屋大学の服部先生のところで手術を受けていると思います。また、これまでほとんどがコクレア社の人工内耳でありまして経済的原理からしても、他のメーカーがあってもいいかと思い、クラリオンを導入しました。私が人工内耳の手術をし、後のリハビリを「さかえ聞こえの相談室」井上先生・谷口先生がリハビリをやっています。

今日お話する内容は、この4つです。
1:開発の経緯
2:人工内耳システム
3:プログラミング
4:音声処理


クラリオン人工内耳はカリフォルニア大学サンフランシスコ校で開発されました。製造元はアドバンスドバイオニクス社です。クラリオンというのは会社の名前ではなくて、アドバンスドバイオニクス社が作っている人工内耳シリーズの名前です。


この器機は、1991年にアメリカで臨床試験が始まり、95年には子供、96年に承認を受けて、97年には子供の承認も受けた。そして日本ではまだ新しくて、97年に厚生省に申請して、去年の4月保健適応になって実際使われるようになりました。


まず、構成です。インプラントというのは耳に埋めるもの(本体)。ポジショナーはクラリオンの特許です。後で説明します。それと、音を処理するスピーチプロセッサ・ヘッドピースからなっています。音声処理方式にはSASとCISがあります。


これ(図の説明)が、クラリオンのインプラントです。この先端の部分が聞こえの神経・蝸牛に入ります。


これが埋め込む本体です。埋め込む本体は、このような部品で出来ています。16個のコンデンサ、8個のパルスジェネレータ。


これ(図の説明)がクラリオン人工内耳を聞こえの神経蝸牛に埋め込んだところです。蝸牛にアナをあけまして、電極をずーっと奥に入れています。この小さい丸がそれぞれ蝸牛を刺激する電極です。


先ほどいいましたポジショナーの説明です。普通に電極を入れますと、一回転半約530度までしか入りません。ところが、ポジショナーを入れますと、実際蝸牛はずいぶん電極より広いので、このポジショナーというものをさらに電極に沿わせて挿入すると電極はぐっと中に押されてどんどん中に入っていき、約630度入ります。こうすると蝸牛の奥の低い音を担当している細胞にまでしっかり電気が届きます。また、この電極がぴったり神経にあたるようになります。


これ(図の説明)がスピーチプロセッサとヘッドピースです。これがスピーチプロセッサでタバコぐらいの大きさ、これがヘッドピースです。マイクと送信機が一体となっています。そして、これも一つの特徴なんですが、スピーチプロセッサがしっかり金属で覆われており、ケーブルも同軸ケーブルを使ってますので、いろんなノイズに強いです。


これ(図の説明)は、皆さんに直接関係関係ないですが、手術の時にしっかり人工内耳が入ったかどうか、また手術の後に音入れまでのしっかり動いているかどうか確かめる機械です。入院中、わたしたちがこれで時々機械のチェックをします。(PCITテスタ)


これ(図の説明)は、プログラミングシステムです。普通のコンピュータにこの専用インターフェースとケーブルでプロセッサを接続して、皆さんに一番いいプログラムを作ります。


プログラミングの手順は、後で言いますどちらの音声処理方式がいいか決めて、音として認識できるレベルを決めます、次にちょうどいいレベルを設定します。そして全てのチャンネルがバランスよくなってるかを確かめて、実際に音を聞いてもらって何回もこれを繰り返して、一番いいプログラムを作ります。


クラリオン人工内耳には2つの音声処理方式があります。ひとつはCIS、もうひとつはSAS。これはどちらがいいかなかなか決めれません。皆さんがつかってみて一番いいほうを選べは言い訳です。2つのうち1つを選択できるというメリットはあります。簡単に言いますと、CISはデジタル。SASはアナログ的な刺激方法です。


このようにCISですと、低い音から高い音にかけてパルス信号を送ります。SASですと、低い音は低い音、高い音は高い音でこのようにアナログ的に信号を同時に送ります。さきほども言いましたように、使ってみえる方が選んで決めることが多いです。


CISです。クラリオン人工内耳の場合はチャンネル数は8チャンネルです。それぞれのチャンネルから別のところにあります、アースに向かって電気は流れます。一番奥で出した電気が一番奥を刺激するんですけれども、別のところもアースに向かっていく途中で刺激してしまうという欠点はあります。




もう一つはSASです。これは、先ほどとは全く違って、8つ電極があるうちのそれぞれの隣同士を結んで電気が流れます。ですから、チャンネルの数としては7チャンネルになります。しかし、このチャンネル間でさらに別の信号のやり取りをするので、実際7チャンネルしか使いませんが、聞いた感じは7チャンネルをはるかに上回ると言われています。
この特徴としては、すぐ近くの電極の間でしか電気が流れないので、先ほどのCISはアースに向かって全部流れましたけれども、すぐ隣の電極同士だけですので、その刺激した電気が別のところに流れていく事が非常に少ないので、お互いの電極が干渉しあうことがありません。
また、CISと違って常に同時にしかも高い頻度で1秒間に13000回の刺激頻度で同時に刺激します。



今までが、ポジショナーの説明、ポジショナーとはさらに電極をぐっと奥に押し込んで、効率よく刺激するもの。そして音声処理方式に2つあるということをいいました。


次の特徴は広域IDRです。広域インプットダイナミックレンジ、つまり色んな音の大きさに対応できるということです。


IDRとはインプットダイナミックレンジ、聞こえの幅、人工内耳が拾える音の大きさの幅のことを言います。つまり、みなさんが生活している中で、大きな音を聞くことも小さな音を聞くこともあります。もちろんその時々でゲインを調整すればいいのですが、なかなかそう言うわけにも行きません。そこで最初からいろんな幅の広い小さい音から大きい音まで拾えることはかなりのメリットだと思います。
大体、普通の健康な方の耳ですと0から120dBまで聞くことが出来ます。従来の人工内耳ですとその幅が約30dBといわれています。ところがクラリオン人工内耳の幅は60dBあります。日常会話でも約50dBの幅がありますので、それを上回る60dBあることはよいことです。広い入力幅で聞けることは非常に重要です。


これ(図の説明)が、従来のIDRの説明です。下が一番小さい音から色んな音の大きさがあります。会話音が大体このくらいの幅であるとして、これくらいの幅で人工内耳をセットすると大体聴くことが出来ます。それを処理して、蝸牛に電気を送って皆さんは聞きます。例えばあまりにも大きな音がきた場合には自動的に音を絞るオートゲインコントロールという仕組みが働いて、ぐっとここまで下げます。


ところが、大きな音がきてしまうと、この飛び出した音はオートゲインコントロールで圧縮されてしまって、本当の音では入ってきません。


また、逆にこのような幅に設定しておいて、急に小さい音が入ってくると、このIDRの下側の方は無視されて、この部分だけが処理されて蝸牛に入ってきます。そうすると実際の声とはずいぶん違って、蝸牛に音がきてしまいます。


ところが、IDRを60dBと大きくとることができれば、大きな音が入ってきても、その大きな音をしっかり捉えて蝸牛まで入っていきます。

たとえ小さい音が入ってきても、もしダイナミックレンジがここまでしかなかったら、今まででした無視されていたんですが、広いダイナミックレンジがあれば処理されて蝸牛に入ってきます。


もちろん、それよりもさらに小さい音が入ってきてもそれは聞えません。それまで拾ってしまうと、かえって色んな雑音がやかましくなってしまうので、このあたりで聞けるようにしています。


これが、普通の会話の時に入ってくる色んな言葉声の周波数を示した絵です。例えば、母音でしたら、結構低い250−500Hzでこのあたりであります。子音ですと、結構高い、その幅としては30から70ぐらいとなっています。

いままで、3つの特徴を説明しました。
1. ポジショナーの存在
2. 音声処理方式に2つあり、一長一短で選べる。
3. インプットダイナミックレンジが非常に広い
ということです。


クラリオン人工内耳の会社はアドバンスドバイオニクス社です。会社が出来たのが今から15年程前、新しい会社です。カリフォルニア州にあります。クラリオンは会社の名前ではなくアドバンスドバイオニクス社が作っている人工内耳シリーズをクラリオンといいます。皆さんクラリオンといえば、カーステレオやオーディオを思い出しますが、全く関係ありません。カーステレオのメーカーがクラリオン人工内耳を始めたと思わないで下さい。


日本でクラリオン人工内耳を扱っているのが、ゲッツブラザーズという会社です。色んな医療器具を大正時代から取り扱っております。


このゲッツブラザーズが取り扱っている商品はクラリオン人工内耳/ペースメーカー/人工心臓弁/人工血管/携帯型インシュリンポンプなどの医療器具を取り扱っています。

このように私たちは、先ほど言いましたように、去年の4月にクラリオン人工内耳が適応になりまして、大学及び愛知県に申請しまして、関谷耳鼻咽喉科/さかえ聞えの相談室の協力の元に認可を得ました。そして昨年の秋から大体月に1人の方に人工内耳の手術を行っています。今日もその方たちに来ていただいております。もし、興味がありましたら使い心地に関してはきいていただいたらいいと思います。

あとは、何か質問がありましたら受けたいと思いますので、どうぞご遠慮なく聞
いてください。

<質疑応答>
――――――――――――――――――
Q:クラリオン人工内耳の適応で子供への適応状況、リハビリはどのようにされておりますか?

A:適応というのは、私が子供の適応に関してどう考えているかということですか?それとも保険的に認可が下りているということですか?

Q:子供の手術は何例ありますか?

A:大人の方は4例です。子供に関しては、検討している子が約3名いますが、まだリハビリの体制が確立されていないので残念ですが0です。但し、今名古屋市の児童福祉相談所杉の子学園から、小児の人工内耳のリハビリをやらせて欲しいという話が来ています。それが、手続きが済み次第小児にもやる予定です。先ほど言いました「さかえ聞えの相談室」でもそれに向けて準備を進行中です。
リハビリに関しての準備は進行中です。埋め込み手術の技術的なことに関しては、子供の体は小さいですが、耳は大人とそれほど変わりませんので、問題なく出来ます。
――――――――――――――――――
Q:最初に宮本先生は経済的な理由でとおっしゃったが、他の会社から見て安いのか、競争の原理が主体かちょっとハッキリしない。

A:値段に関しましては、保険適応となっておりますので、保険価格ということで、患者さんに対しての負担は同じです。ただし、選択肢があったほうがいいと思いますので、こういった意味で経済的という言葉を使いましたけれども、誤解があったら申し訳ございません。

Q:患者負担が変わらないのであれば、経済的ということにならないと思います。むしろ競争の原理だと思います。

A:確かに、色んな会社があってお互いに刺激して、より良いものを作っていってくれれば、難聴の方にとってもいいことだと思います。ですから、いい意味での競争と私は捕らえています。

Q:どうしても患者の意向を引こうという意図がありやしないかという点で、その発言に異議を感じる。我々は耳が遠い、とにかく耳が聞えるようになればいいと切実な願いです。そういった問題は聞いていないということです。
――――――――――――――――――
Q:インプットダイナミックレンジが広いというお話でしたが、普通大きすぎる音はカットされると思います。大きすぎる音が入ってきてビックリすることがあるので、カットされると思うのですが・・・

A:大きすぎる音は小さめに、小さすぎる音はある程度大きめに入ってくると考えてください。カットしてしまうと全く聞えなくなってしまうと困るので、ガンと大きい音が入ってきても、中くらいの音よりは大きく入るんですけれども、大きすぎる音は入らない。大きすぎる音、小さすぎる音もある程度の大きさにして入ってきます。
――――――――――――――――――
Q:クラリオン人工内耳の耳かけ式はないんですか?これからでてきますか?

A:アメリカでは認可がおりています。日本では、申請するのに時間がかかるので1年ほどかかります。

Q:今のインプラントに対していますか?

A:はい

Q:今クラリオンを使っておられる方は、比較検討されてクラリオンをえらばれたのですか?

A:うちに来ていただいた時点でクラリオンしかありませんが、他でいろいろ話を聞かれているかもしれません。
――――――――――――――――――
Q:クラリオンの手術時間と入院期間は?

A:基本的に手術でやることは同じですので、時間も期間もほぼ同じです。あえて言えば、電極を入れるときに特別な便利な道具がありますので、比較的早く電極を挿入することができます。ほとんど手術時間に影響しません。クラリオンだからといって手術時間、入院期間が大きく変わる事はありません。同じと考えてください。
――――――――――――――――――
Q:専門的だったの理解できていないかもしれないのでうまく質問できるかわかりませんが、今教えていただいた中に、音声処理方式が2種類あって、その人の耳にあったほうを選べるとおっしゃっていただきました。音入れで選んだ後、IDRで音域幅が広いですよね。そうすると、大きな音がそのまま入ってくるとかなりの騒音になると思います。感度調節で調節することはできるのですか?

A:IDRは機械自体の性能だと思ってください。機械自体が60という幅の音を取り込めます。コクレア社製の器械でマッピングする時に聞え始めの音と、聞き苦しい音を測定すると思います。クラリオンでもおなじです。聞え始めの音から、クラリオンの場合は心地よく聞える音を測定します。機械自体は60の幅の音を取り込んでいますが、皆さんの聞えはじめから心地よい音の幅は違いますよね。ここで、60の幅でとってきた音を一度皆さんの聞えに合わせて的を絞ります。ですので、60というのは機械の性能で、それを使って皆さんの聞えの幅に合わせます。大きすぎる音が入ってくることはありません。
従来の人工内耳と違うところはもともと器械が取り込む幅が広いので、機械の中に入ってくる音が自然です。
従来の人工内耳だと機械に入ってくる時点である程度のひずみが生じているのですが、クラリオンの場合はできるだけ自然な音を使って、皆様の聞えのレベルに合わせることができるということです。



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