人工内耳友の会−東海−
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聞こえのしくみ・聞こえなくなる理由

名古屋大学大幸医療センター耳鼻咽喉科
服 部  琢

今回はリクエストに基づき『聞こえのしくみ・聞こえなくなる理由』について話してみます。

T.聞こえのしくみ

 音の振動は鼓膜から3つの小さな耳小骨を経て、内耳(蝸牛)に伝わります。
内耳の中ではこの振動が頭に毛の生えた毛細胞(内・外有毛細胞)によって電気の信号に変わり、蝸牛神経(聞こえの神経)に伝えられます。
 これは毛細胞の表面の毛を電子顕微鏡で拡大してみたものです。
 さらに電気の信号が脳に到達すると、音や言葉を感じることができます。
 いわば内耳(蝸牛)はマイクロフォンとこれをうごかす電池(電源)に、蝸牛神経は電線にたとえることができます。
 脳が受け取る音や言葉の情報は、人の頭の中でも電気の信号で伝えられるわけです。

U.聞こえなくなる理由

 難聴(感音難聴)は、
@有毛細胞が痛み数が減る、Aその電源が故障する、Bその双方がおきる、
ため、音の振動を電気の信号に変える機能が低下しておこります。
 難聴が進行し、“ろう”となるのはこのような内耳の障害が高度となり、電気の信号を送り出すことができなくなるからです。
 この場合、病気の範囲が内耳の中にとどまって、以降の蝸牛神経が生き残っていれば、これを利用して情報を伝える事により音や言葉の感覚が得られるわけです。
 すなわち、マイクロフォン(内耳)がこわれても、残っている電線(蝸牛神経)が使えれば、電気の信号で直接情報を送りこむことができます。
 これが人工内耳の原理です。
 電線(蝸牛神経)が使えるかどうか諷べる検査が“プロモントリテスト”です。
 さて、私たちがいままでに相談した44名の方たちが具体的にはどのような病気がもとで失聴されたかを調べてみました。
 その結果は、
  外傷、中耳炎によると思われる方が
               各1名、計2名( 4.5%)、
  結核等の治療に使用したストマイの注射によると思われる方が
                     2名( 4.5%)、
  髄膜炎で高熱を出した後からの方が
                     7名(16.0%)、
  特に原因をつきとめることができない方が
                    33名(75.0%)
 原因不明の割合が3/4と高いことがわかります。つまり、今のところ予防のしようがない、ということにもなります。

V.人工内耳の適応

 両側高度感音難聴では、まず補聴器を用いて聴覚の改善をはかります。
 多くの場合、聴力レベルが90から100db(デシベル)以上になると、補聴器では言葉の聞き取りに十分な効果が得られなくなり、人工内耳の適応になります。
 人工内耳も“高”高度難聴用の補聴器の一種と考えられますので、双方の適応範囲は、きっちり分けられるものではなく、当然重なりあっている部分があります。
 ただし最近では聴力レベルからみた補聴器と人工内耳の項界線は、80db程度との意見が多くなっています。
 つまり、ある程度きびしい条件では、補聴器でがんばるよりも人工内耳の方がよい結果を出しているようです。
 しかし、個人差は極めて大きく、100dB以上の高度難聴でも、補聴器と読話の併用でほば十分な聞き取りが得られる方もあり、難聴の数字だけで決めることはできません。基準はその人その人によって異なります。
 人工内耳の手術をすれば難聴のすべてが解決するわけではありませんから、何を目的にするのかをはっきりさせ、過度の期待をすることなく、医療側もご本人も時間をかけてじっくり検討しながら治療を進める必要があると考えています。
 しかし、限界を理解した上でなら、ご本人の状態の範囲内で、かなりの望みをかなえてくれていると(私たちは)思っています。

 装用者の皆さん、使い心地はいかがですか?

 以上で私の話を終わります。

名古屋大学大幸医療センター耳鼻咽喉科 服 部  琢




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