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人工内耳友の会−東海−懇談会 平成13年1月28日 人工内耳の歴史と今後の展望
名古屋大学大幸医療センター 耳鼻咽喉科 服部 琢 みなさん、こんにちわ。名古屋大学大幸医療センター、耳鼻咽喉科の服部です。本日は人工内耳が開発されてきた経過(歴史)と、これからどのように変わっていきそうか、という話しをしてみます。 1800年 電池を発明したボルタが、耳に通電すると“ごぼごぼ”と聞こえる事を報告。今からなんと200年前のことですが、これが人工内耳に関係する最初の報告かと思われます。これから150年ほどたった 1950年ころに再度電気刺激が試みられ、いよいよ人工内耳の研究のスタートとなりますが、ご覧のようにたてこみ過ぎて書ききれません。 そこで、次の図には(少し広げてみました。1950年から2000年です。)1950年以降の、主な開発国であるオーストラリアとアメリカでの経過を示しています。 1957年〜1960年代後半 蝸牛神経の電気刺激の試みが、フランス、アメリカ、オーストラリアなどで行なわれ、報告されています。(Djourno,Doyle,House,Simmons) 1960年代は、House Ear Implantと呼ばれる、アメリカ製のシングルチャンネル(刺激電極が一組しかないもの)が主流でした。 1967年 オーストラリアのメルボルン大学で、Clark教授らによって、蝸牛(聴)神経刺激についての基礎研究が始まります。 1971年 人工内耳の試作品を植え込む、動物実験が始まりました。 1978年 メルボルン大学で10チャンネル人工内耳の試作品が人に植え込まれています。 右がメルボルン大学のClark教授です。飛行機嫌いだそうで、日本にみえたことはありません。 第一例目の手術を受けられた方です。大きなスピーチプロセッサ(15×15×6,1.25) を肩から下げ、歌手が使うようなマイクロフォンから話しかけられています。 これは改良型のスピーチプロセッサですが、まだタバコの箱を二つつないだくらいの大きさがあるようです。 これは製品化された段階のコクレア社の22チャンネル人工内耳(N-22)です。(皆さんの中にもこれをお使いの方が、たくさん見えると思います。) 1982年 22チャンネル人工内耳の試作品が人に植え込まれています。 1980年代は、多チャンネル人工内耳、マルチチャンネルともいいますが、(刺激電極が複数あるもの)での聞き取りの優位性が明らかとなった時期です。 1983年 アメリカでFDA(食品薬品衛生局)の22チャンネル人工内耳(N-22)に関する、治療実験が開始されました。FDAは世界的に権威のある機関で、その認可は他の国での認可に影響します。 1984年 FDAが、ハウス・シングルチャンネルを認可しました。 1985年 その翌年、22チャンネル人工内耳の18歳以上の大人に対しての試験的販売を認可しました。 同 年 東京医科大学の舩坂教授が日本初の22チャンネル人工内耳の植え込み手術をされました。 1990年 アメリカでFDA(食品薬品衛生局)が22チャンネル人工内耳の適応範囲を子供の先天聾にまで拡大しています。 1991年 日本でも厚生省より22チャンネル人工内耳の輸入販売の許可がおりました。 1994年 日本で人工内耳に対する健康保険の適応が認められました。 1996年 アメリカでFDAが、クラリオンを認可しました。また、N-24の臨床治験が開始されています。 2000年 日本でも、N-24人工内耳に対する健康保険の適応が認められました。 これは現在もっとも用いられている、コクレア社のN-24人工内耳、スプリントです。 その体内部分と、耳掛け式のエスプリを示します。(電極としっぽがあります。) 同時期に国内認可された、アメリカ、アドバンスト・バイオニクス社のクラリオン人工内耳です。 オーストリア、メドエル社のコンビ 40(フォーティ)+(プラス) 人工内耳です。これはまだ国内認可されていませんが、将来輸入されて用いられる可能性があります。 また、今回は人工内耳の体外部分のスピーチプロセッサを中心に話しましたが、音声処理プログラムの改良が何回も行われ、その結果として聞き取りの成績がかなり向上したことは、皆様がよくご存じの通りです。 なお、各機種間での成績には殆ど差がないことは、それぞれの方式の中である程度熟成した域に達しているためと理解しています。 簡単ですが、皆様が使用していらっしゃる人工内耳がどのくらいの年数で開発され、発達してきたかを紹介させて頂きました。実際の研究が始まってまだ30年と少し、最初の手術からは20数年しかたっていないのです。 さて、この右の方に見覚えがありませんか?1978年に最初の10チャンネルの手術を受けられた方です。その後、再手術で22チャンネルに入れ替えたと聞いています。真中はN-24の手術を受けられた先天聾のお子さんです。一度登場されましたが、左がメルボルン大学のクラーク教授で、現在主流の人工内耳の生みの親とも言える方です。 人工内耳の今後の展望 では、話を人工内耳の今後の展望に移します。どのようなことが研究されているか、考えられているかを解説します。主に三つの項目があげられます。 (1). 電極の改良 (2). 見えない人工内耳 (3). 神経に作用する薬の利用 それぞれについて、説明していきます。 (1). 電極の改良 新しい考え方によっています。これまで以上に良好な聞き取りを得るために、蝸牛の中心軸(聴神経が通っている)に巻きつく形の電極が開発されています。 例えば、手術で蝸牛に挿入するときは操作がしやすいようにまっすぐだが、いったん入ってしまった後はカーブして蝸牛の中心軸近くに巻きつくような電極。これまでより蝸牛の限られた部分を刺激するので、聞き分け・聞き取りが向上すると共に消費電力が低下する(電池が長持ちする)ことが期待されています。 拡大して示します。 (2). 見えない人工内耳 外からは使用しているのがわからない、完全埋込型の人工内耳が計画されていますが、体の中に埋め込むマイクロフォンの開発がむつかしそうです。ただし、充電式の電池を使用するようですが、数年に1回の入替え手術が必要のようで、どのくらい長持ちするのかが問題と思われます。 (3). 神経に作用する薬の利用 神経成長因子/神経栄養因子といった、神経の状態を改善させるような薬を併用することによって、神経が電極の近くに伸びてきたり、機能が改善することによって、信号の伝わり方や処理が向上する結果、聞き取りが改善することが期待されています。またこれらの利用に加え、今話題の遺伝子治療を組み合わせることも考えられています。 なお、これらの技術が実際に応用されるには、比較的見通しのついているカーブ電極でも早くて数年はかかると思われます。最近は私が知らないことを教えてもらう機会も多いようです。進行状況に関しては皆さんも情報を集めてぜひ私に教えて下さい。 以上で私の話しを終わります。ご静聴ありがとうございました。 (オーストラリア メルボルン市風景) |
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