人工内耳友の会−東海−
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人工内耳治療を始めていつのまにか7年目

名古屋大学大幸医療センター耳鼻咽喉科
服 部  琢

【ごあいさつ】

 人工内耳友の会−東海−会報「創刊号」おめでとうございます。東海支部の発足にあたっては会長さんや各県の代表世話人の方々の並々ならぬ努力があったことと想像します。会の設立のみならず、その後の懇親会兼勉強会の開催、Q & A 特集号の発刊など、東海支部の活動は順調かつ、活発なようです。さらにこの度会報「創刊号」が出されるとのこと、短期間でここまで成し遂げられたパワーに驚き、うれしく思うとともにさらなる発展を期待致しております。人工内耳を共通の友として暖かい交流の輪を広げて下さい。

【はじめに】

 さて、思い起こせば私たちの人工内耳合同治療チーム(名古屋大学、大幸医療センター、愛知県総合保健センター聴力音声言語診断部)の活動も6年以上を経過してやっと安定してきた感があり「人工内耳友の会−東海−」の順調さとはずいぶんペースが違いますが、今回はその6年を振り返って思いつくまま書いてみようと思います。

 耳鼻咽喉科医としての私は、失聴する経過の治療、もしくは高度難聴の診断(身体障害者意見書)を担当した時以外、人工内耳治療の対象となられるような高度難聴の方に接する機会はありませんでした。なぜなら、内耳がダメになってしまった以上、私たちには手助けする方法や手段がなく、いわゆるお手あげ状態で、皆さんのお役には立てなかったからです。そしてこれは一般的な耳鼻咽喉科医の殆どすべてにあてはまります。
 しかし、人工内耳が開発されたために様子は変わりました。人工内耳治療によって、聴覚の一部を回復するお手伝いをすることができるようになったのです。医学を含めて、科学は万能ではありませんので、人間の作った人工内耳には限界がありますし、どんなに改良がすすんでも完全なものにはなりません。もちろん、よりよい器械を求め続けることは必要ですが、その結果の多くの部分はご本人に残存する聴覚路の能力に左右されることは忘れるべきではないでしょう。私たちはお互いにこれを理解した上で、なるべくうまく利用することを考えるべきと思っています。
 私たちは人工内耳の限界の範囲内で、微力ではありますが高度難聴の方々に部分的な聴覚回復のお手伝いをすることができますし、皆様は私たちを利用することで不十分ながら聞き取りをよりよくすることができるはずです。

 さてもう一度、合同治療チームが立ち上がった時に話を戻しましょう。一般的な耳鼻咽喉科の治療を続けてきた大学病院と、難聴児の診断や補聴器等を活用して聴能訓練を行ってきた保健センターとの間の行き来は決して密なものではありませんでした。その業務内容があまりにも異なっていたからです。しかし、単独ではお互いに設備と人材が不足して人工内耳治療を始めることができません。そのため、何回も意見交換の場を設けて互いの意志の疎通を図りました。数か月以上に及ぶかなりの時間を要したと記憶していますが、おかげで互いの現場の理解が進みました。この期間に討論しあった経験は、以後の治療希望者についての率直な意見を述べあう時に役立っています。
 このような経過で合同治療チームとして活動していく合意ができ、平成4年9月に第1回の説明会を開いています。この後、半年ほど経過してから数人の候補者にプロモントリテストが行われ、最初の希望者に手術が行われたのはさらに1年後になりました。この時点ですでに2年の歳月がながれています。後はぼつぼつ希望者が増え、それにつれてペースがあがってきていますが、私たちのチームの置かれた環境では1か月に1人の手術が限界で今後もこれ以上にはならないと思います。それでも最初の方は装用を始めて4年半を過ぎ、私たちが準備を始めてからいつのまにか7年目になっているというわけです。

 私たちの合同治療チームは、大学施設(2か所)が手術・治療を、愛知県総合保健センター聴力音声言語診断部がリハビリを担当するという、他に例の少ない形で動いています。3施設は緊密に連絡をとりあい、各々の段階を分担しています。また、他の一般治療とは異なり、スクリーニング・治療期間中を通じてご本人・家族との連絡にはファックスが多用されています。これなしでは個々に異なる事情に合わせての相談や治療・リハビリの日程調整が進みません。
 治療・リハビリが3施設に分かれるため、その間での行き来が煩雑で皆さんに迷惑がかかっていることは申し訳なく思っています。しかし、そのおかげで私たちの合同治療チームでは、聴能訓練の経験が豊富な多くのスタッフの協力が得られます。これは条件のむつかしい方や、学童・小児が対象になった場合に特に必要となってきます。一つの病院だけでこのような内容に対応可能な十分な人材を確保することは通常無理と思われます。全国的にも、病院を核としてリハビリは複数の施設が支援する形態がいくつかできています。

 この文を書いている時点で、私たちがお世話した成人・学童の装用者の方は20名ほどになりました。それぞれの方はそれなりの結果を得られ、十分に満足かどうかは別にして、毎日人工内耳を使用しておられるようです。私たちの目的は一応、達成されているのだろうと考えています。
今後は中途失聴の方の治療を続けるのはもちろん、より適応のむつかしい先天聾の幼児にも対象を広げることが課題となります。幸い世界的に先天聾での例が増えてきたために、今までよりかなり具体的にその結果を予想することができるようになりましたので、近い将来、皆さんの新たな仲間が増えるかもしれません。リハビリの効果やその期間等で、皆さん方より苦労が多いことは確実です。今、会を持った皆さんが仲よく集っている輪の中にあたたかく迎え、励ましてあげて下さい。




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