人工内耳友の会−東海−
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人工内耳シンポジウム 平成10年10月18日

人工内耳の適応と術前検査

岐阜大学医学部耳鼻咽喉科 講師 伊 藤 八 次

スライド1 タイトル
岐阜大学の伊藤です。
本日は、人工内耳の適応(手術の対象となる条件)と、それを検討するために必要な手術前の検査について、お話させていただきます。

スライド2
はじめに、聞こえのしくみについて、振り返ってみたいと思います。空気中を進んだ音は、外耳道を通って鼓膜を振動させます。鼓膜の振動は中耳の3つの耳小骨を介して蝸牛(内耳)に伝わります。ここまでの障害でおこる難聴を伝音難聴と言います。蝸牛に伝わった振動は、ここで電気信号に変換されます。電気信号は聴神経を介して脳に伝わり、脳で音として感じます。蝸牛よりも中枢側(脳に近い)の障害による難聴を感音難聴と言います。

スライド3
人工内耳の基本となる原理は内耳の聴神経を電気的に刺激し、これによって中枢で音あるいはことばの感覚を得させようとするものです。図は蝸牛内に挿入された人工内耳の模式図です。
人工内耳の詳細については、本日すでにお話とビデオがありましたので省略させていただきます。

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1990年、厚生省は日本耳鼻咽喉科学会に人工内耳に対する意見聴取を行い、1991年人工内耳に対して高度先進医療として承認しました。この時点での適応基準は「使用上の注意」という形式で、スライドのような項目が示されました。それは
1. 高度感音難聴であること
2. 補聴器の装用効果がほとんどないこと
3. 言語習得後の聾であること
4. 18歳以上であること
5. 心理的又は動機的に適切であること
でした。
その後、1994年、施設基準を満たす施設における人工内耳手術の保険適用が認められ今日に至っています。この間に人工内耳装用の適応の拡大がおこり、1998年日本耳鼻咽喉科学会は新しい人工内耳の適応基準を設けました。

スライド5
新しい適応基準は小児と成人に分けて示されています。まず、小児の基準について述べさせていただきます。
1.年齢は2歳以上18歳未満です。ただし、先天聾の小児の場合、就学期までの手術が望ましい。
2.純音聴力は原則として両側とも100デシベル以上の高度難聴者で、かつ補聴器の装用効果の少ないもの。判定にあたっては十分な観察期間で、音声による言語聴取および言語表出の面でその効果が全く、あるいはほとんど見られない場合。
3.禁忌とは手術をしてはいけない場合です。画像(CT,MRI)で蝸牛に人工内耳が挿入でスペースが確認できない場合。ただし、奇形や骨化は必ずしも禁忌とはならない。そのほか、活動性中耳炎、重度の精神発達遅滞、聴覚中枢の障害など。その他重篤な合併症など。とされています。
4.リハビリテーションおよび教育支援態勢。両親、家族の理解と同意が必須である。また、リハビリテーション、教育のための専門の組織的スタッフ(言語聴覚士)と施設が必要。さらに通園施設、聴覚教育施設などの理解と協力が得られることが望ましい。

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同じく成人の基準です。
1. 年齢は18歳以上です。
2.純音音聴力は両側とも90デシベル以上の高度難聴者で、かつ補聴器の装用効果の少ないもの。補聴器の装用効果の判定にあたっては、通常の人工内耳装用者の語音弁別成績を参考にして慎重に判定することが望ましい。(具体的には子音弁別テスト、57語表の単音節検査、単語や文章復唱テストなどの成績を参考にする。
3.禁忌は小児の場合と同様。
4.本人および家族の意欲と理解が必要。

スライド7
人工内耳適応基準(1998)に附記されていることがあります。
それは
1.岬角電気刺激検査の成績は参考資料にとどめる。この検査については、後で述べます。
また、
2.先天聾の成人例では、言語理解の面での効果が乏しく、非使用者となる可能性があることを十分理解させておく。また、本人の人工内耳装用に対する十分な意欲があることが必要。とされています。

以上で、人工内耳の適応基準のお話を終わり、次に手術前に必要な諸検査について、お話します。

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手術前の諸検査の一覧です。
1. 聴覚検査
2. 補聴器装用効果の検査
3. 岬角電気刺激検査
4. 蝸牛の画像診断
5. 読話(唇)能力検査
6. 一般の全身検査
などです。

聴覚検査としては純音聴力検査、語音聴力検査を行います。また、聴性脳幹反応(ABR), 平衡機能検査も行い、聴力の正確な判断と難聴の部位診断を行います。
以下、項目毎にお話します。

スライド9
純音聴力検査結果は通常スライドのような図に結果を表示します。会場にはこの図を見たことがある方が多いと思います。
縦軸が音の大きさで数字が大きい方が、大きな音です。単位はデシベルです。したがって、グラフが下の方にあるほど高度難聴になります。横軸は周波数を示し、左のほうが低音、右の方が高音です。

この検査における人工内耳の適応基準では、小児は100デシベル以上、成人は90デシベル以上の高度難聴とされています。

スライド10
補聴器でどれぐらいことばの聞き取りが良くなるかを調べる検査です。高度難聴者の中には、補聴器の適正装用(フィティング)を長年行っていない方もあるので、人工内耳の適応を決めるのに、不可欠の検査です。
スライドのように
1. 母音弁別検査
2. 子音弁別検査
3. 単語理解力検査
4. 文章復唱検査
などの諸検査があります。検査は1度だけではなく、適切に補聴器を2-3か月使用します。その結果人工内耳装用を上回ると考えられる場合は、人工内耳手術の適応とはならず、補聴器の使用を勧めます。補聴器では、まったく音感が得られない、また音感が得られてもことばとして、理解できない患者に対してのみ人工内耳の適応となります。

スライド11
聴力検査で得られた感音難聴の原因が内耳に由来するもので、内耳よりも中枢側に障害がないことを確かめる検査です。中枢側に障害があれば人工内耳の効果が期待しにくいからです。実際には、スライドのように、細い針電極を鼓膜を通して蝸牛岬角(骨壁)にあて、電気刺激をします。このとき音感が得られるかどうかを検査します。しかし、この検査の結果がよくても、必ずしも人工内耳の装用後の聞き取りがいいとは限らず、逆に検査結果が悪くても手術後の聞き取りがいい例もあることがわかってきました。従って、現在は前に述べたようにこの検査結果を参考にはしますが、これで適応を決めることはできないと考えられています。

スライド12
手術の時に人工内耳の電極を正しく挿入するために、蝸牛の形態を把握しておく必要があります。そのために、CT,MRIなどの画像検査は必須の検査です。
とくに
1. 蝸牛回転が開存しており、人工内耳の電極挿入に支障がないこと
2. 正円窓から蝸牛の基底回転起始部にかけて、人工内耳挿入に問題となるような異常所見が認められないこと
をチェックします。
スライドは正常の蝸牛周囲のCT像です。蝸牛は開存し、電極挿入部に異常は見られません。

スライド13
人工内耳装用患者は人工内耳からの音だけでことばを聞き取る場合はむしろ少なく、読話を併用して初めてことばの理解が得られることが多いです。そのため読話の上手な人はことばの聞き取りも良いということになります。手術前に読話の能力を調べることは、手術後のことばの聞き取りを予測する一つの資料となります。

スライド14
手術に必要な一般の全身検査を示します。
1. 血液検査
2. 尿検査
3. 心電図
4. 呼吸機能検査
5. 胸部レントゲン
などで、これらは全身麻酔の手術を施行するための諸検査です。全身的に重大な疾患があり、全身麻酔下の手術に問題がある場合は、残念ながら手術はできません。

以上、簡単ですが人工内耳の適応と手術前に必要な諸検査についてお話いたしました。




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