人工内耳友の会−東海−
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人工内耳友の会−東海−懇談会 平成13年1月28日

小児人工内耳のリハビリテーション

愛知県総合保健センター 聴力音声言語診断部 別府玲子



人工内耳も広まってきますと、リハビリの方法は基本的には同じでも、各施設で特徴があると思います。
 今日は、現在愛知県総合保健センターで行われている、小児人工内耳のリハビリテーションについてお話させていただきます。

 愛知県総合保健センターでは、難聴の診断および難聴児に対して訓練を行っておりますが、最近、人工内耳治療が知られるようになってきますと、高度難聴と診断されると、すぐ、“人工内耳をお願いします。”といわれるご両親が増えてきました。しかし、人工内耳の適応を検討する前に、まず、難聴の医学的知職、難聴児への対応及び訓練方法など、理解して、実践していただくことがたくさんありますし、人工内耳についても、基本的な知識は最小限理解していただかなければならないと考えております。どういうところに入れるか、維持管理の方法など最小限理解しなければいけません。

このため、本日は、@人工内耳を進める前のリハビリテーション、A術後のマッピング、音入れ、B術後のりハビリテーションの3つの段階でのそれぞれの留意点について述べてみたいと思います。

 では、@の人工内耳術前のリハビリですが、当然人工内耳の適応に入るような重度難聴のお子さんは、聴覚刺激のみでのコミュニケーションは困難な場合が多いと考えます。もちろん、聴覚活用のみで訓練できるのが理想的ですが、センターでの訓練児も様々です。
 特に、最近は手術年齢が小さくなってきておりますので、センターでの訓練児も聴覚活用だけでコミュニケーションできない場合がほとんどです。このため、サイン、ジェスチャー、手話等、視覚的な情報でもどんどん理解できるものは取り入れていっていただくよう指導しています。



 こういう聴覚活用だけで進めていく上でどうしても親御さんが焦ってしまってコミュニケーションがとれないというのは、親御さんの精神的な不安定さを招くので、どんどんいろんな情報を取り入れて行っていただくという方法をセンターではとっています。

 なぜなら、人工内耳を挿入すれば、もちろん、聴覚活用が主体となりますが、術前のいかなる刺激によっても、促進された言語発達は、術後の聴覚活用には役立つからです。サイン、ジェスチャー、手話で得られたものも、比較的スムーズに聴覚活用に移行することが可能という事例も持ち合わせておりますので、できるだけいろんな刺激をしていきたい。

“人工内耳をしてからしか訓練できない”と考える親御さんも多いようですが、そうではなく、術前からこどもが受け入れやすいあらゆるコミュニケーションモードを活用することが大切と考えます。また、人工内耳についても、どこに、何を入れて、どういうものを装着するか、人工内耳の聴覚活用をするにあたっての利点、弱点などは、最低限理解していただきたいと思います。

 次に、Aの術後のマッピング、音入れについてですが、みなさん手術を受けられている方も多いと思います。ご存じの方も多いと思いますが、成人とは少し違う形を取っています。センターで小児の人工内耳が開始された当初は、我々自身も、初めてのことで、マッピングや音入れ時に、お子さんに不快な思いをさせたり、泣かせてしまったり、ということがありました。どういうことかと説明しますと、重度の難聴のお子さんは、これまで、音らしい音を開いたことが無く、実際は小さな音刺激でも、音を感じると恐怖感がまず先立ってしまうということを我々は、頭の中では理解していても、やはり、少し、音を余計にいれすぎて、泣かせてしまうということがありました。小児の症例数が増えてきた現在は、方法も確立してきて、訓練方法など試行錯誤しまして、泣かすことも少なくなり、2〜8時間で、初回のマッピング、音入れを終了することができるようになっております。

スライドに示したように、実際には、センターでは、行動観察法と、Peep show法を使い分けています。センターの訓練児は術前、難聴の閾値確認の目的もあり、Peep show testを行い、条件付けができるように訓練しています。マッピング時、このPeep show test時と同じように、聞こえたらボタンを押すことが可能であれば、Peep show法を使います。ここで得た値は、大体Tレベルに近いと考えています。





これが実際のpeep-showの機械です。聞こえたらここのボタンを押すという形で閾値を決めます。センターの訓練にきているお子さんは、術前、どのくらいの難聴かという閾値の確認のためもあって、このように聞こえたらおすという検査を定期的に行っております。人工内耳を入れても、この方法が可能であれば、はじめから聞こえたら一つづつの電極に電流を流して閾値を決めていきます。

 Peep show法ができなければ、行動観察法を行います。低年齢での手術が効果的と言うことがわかってきたので、これができなければ人工内耳ができないということではありません。
どういう方法かといいますと、装用児は、音が入ると、遊んでいた手が止まったり、近くにある器械のボタンに触ったり、母親の胸に顔をうずめる等反応はさまざまですが、何らかの反応を起こします。とても小さな反応ですので、しっかり見ていないと見逃してしまう。しかし、音が入ってくると何らかの反応がわかるので、大体この値をTレベルとCレベルの間にあると考えて測定します。Tレベルより少し大きい場合もありますし、真ん中くらいの場合もあるようです。





1回目のマッピングで全電極を測定することは難しいことですが、数カ所の電極を測定して測定できていないところは、測定できているところを参考にして設定します。さて、マップが一応決まったら、音を入れ標準値まで徐々に、感度をあげていきます。その後Cレベルの刺激量を増やしていって反応を見ます。小児の場合、最初は音の刺激が怖くても、順応性が良いので、小さな刺激にはすぐ慣れるようです。

このようにしてマップが決定しますと次からは訓練とマップの調整も並行して行っていくことになります。これは行動観察法でお子さんがここでいろいろ遊んでいる状況ですね。何らかのボタンに手をやったり、お母さんに顔をうずめたりとか、いろんなリアクションをするという、こんな形でマップを設定しているところです。

 最後にBの術後のリハビリテーションについて、詳細な訓練方法ではなく、症例数の多い海外の研究データも参考にしてお話いたします。
今のところプログラムについては日本耳鼻科学会で作成中と報告を受けております。海外では人工内耳のプラグラムが確立されているようですし、人工内耳の装用児専門の訓練施設もあるようですが、日本ではそこまで至っていないのが実際です。ただ、そういうこともありますので、海外の研究データも参考にしてお話ししたいと思います。

まず術後1年間は、徹底したトレーニングが必要であり、音を感じるとか、いろいろ変化があるようです。長期的な効果としては術後3年を要すると考えられています。術後3年といっても、その効果は手術時年齢に大きく左右され、手術時年齢だけではなく、家族の理解及訓練体制、これも非常にリハビリを左右します。それからやはり、先ほども発達の問題が出ていましたが、ご本人の学習能力、こういうこともリハビリを左右する。ただ、考え方として学習能力の個人差に関しては、その子にとってどのくらいしっかりやれるかということなので、単純に数値だけでいいから悪いからというような評価はしていません。年齢に関しては先ほどお話があったように2、3歳台前くらいにするのが望ましいとされています。

先に述べたような術前の準備ができていれば、年齢はより小さい年齢(日本における適応年齢のガイドラインは最小年齢が2歳となっております。)のほうが望ましいとされています。これも今後もう少し低年齢化すると考えております。
人工内耳は聴覚活用を目的としたものですから、当然、聴覚のみでコミュニケーションができることが望ましいと考えます。まず、個々のケースで順番としてはまず音の存在を知ることですから、音のオンオフから始まると考えてください。そして、音の長さ、調子を聞き分ける、言葉の聞き取り、文章の聞き取りという段階を踏んでいきます。しかし、これも皆さんスムーズにとんとんと行くわけではない。海外の報告では一定のプログラムがあるが個人差があって、目的とするプログラムを1年で終了できる方から、2年3年、長期にかかるという場合もあるようです。
しかし、海外の報告では、5歳以上で人工内耳を装用した揚合、聴覚活用のみでのコミュニケーションが難しいケースがあり、サイン言語など他のコミュニケーションモードを必要とする場合があるようです。

ですから、本来の目的としては聴覚活用。しかし、どうしても難しい場合には、少し、他のモードも併用した方が言語発達には有利だというような報告があります。ですから、この辺が非常に難しいところだと思う。言語発達を促進させると言うことと、聴覚活用で会話をスムーズにさせるということが同じようで、実際には全く同じではないので、その辺との兼ね合いで私たちもまだこれからいろいろ経験を積んでいかないといけないと考えています。

日常生活で、訓練を担当するのはほとんどお母さんが多いが、女性達の注意点としては、言葉をシャワーのように浴びせることが必要ですので、おしゃべりなお母さんになっていただきたい。どうしても、個人の性格として、物静かなお母さんも見えて、お話しするのが苦痛な場合もあるかもしれないが、やはり聴覚活用を目的とする意味では、どんどんしゃべっていただきたい。しかも、お子さんの状況を見ながらたくさんしゃべっていただきたい。
ご家庭での訓練ですが、環境を整えてあげることが必要になってきますし、実際に我が子と自分が対話をしているところを少しビデオなども撮っていただけると、いい点悪い点が客観的に見えてきますので、おうちでの工夫と言うこともしていただきたいと思います。



先ほど、弱点というような事を言いましたが、人工内耳自体は40〜50dbでの反応がほとんどですので、たとえば、学校生活、幼稚園での生活でもそうなんですけど、健聴のお子さんの中に入った場合、やはり先生の話がよく聞けるような場所を選んでいただいて、よく黒板が見える位置に座るということが必要だと思います。また、どうしても、1回だけの聞き取りでは難しい場合もあるのでお子さん同士での、連携・・小さなお子さんでは難しい場合もありますけど、小学校に入る状況では先生が言ったことが聞き取れなければ隣に座ったお子さんが、「何々ちゃん、こういうこといったんだよ」といってあげるように、お友達同士助け合える環境を作るのが必要。



そして、どうしても動きが激しいですね。小さいお子さんも、大きくなればスポーツなども積極的にやりたいですが、やはり機械ですので、体内部分に直接ダメージを加えた場合、当然、故障する場合もあります。また対外装置についても、機械的にショックを与えるのは良くない。どうしてもマイクロホンに汗が入らないような工夫、特に夏場などはスポーツで汗をかく。湿気には弱いです。
 どうしてもサッカーのヘディングは、やはりやらない方がいいと思いますし、スポーツの場合も予期せぬことが起こり得ますので、できれば、ヘッドギアをするということは必要だと思います。静電気もダイレクトに機械に入ってしまうと、マップが一度にトンでしまう場合があるし、機械自体も壊れてしまうことがありますので、静電気もさける工夫をしていただきたいと思います。

最後になりますが、いずれにしても、人工内耳を装用しても、中等度難聴のこどもたちと同様に、ハンディがゼロになるのは難しい。幼稚園、学校での生活も、聞こえの質や、聞こえの量の不足の問題は依然としてあるため、こどもの状況の把握をしっかりしていただくことが必要と考えます。
何かおこる前には必ずお子さんから何らかのサインが出ている。そのサインを見逃さないようにやっていただきたいと思います。難しいことではなくて、実際によくお子さんの状況を見て親子関係がしっかりしていれば、おのずと、今までとちょっと違うなと反応がわかりますので、何かお子さんから発せられたサインを見逃さないでいただきたいと思います。

いいことも悪いこともお話ししましたが、発達の問題に関わらず、もちろん重複障害があって重いお子さんで、補聴器を装用することもできないとなるとこれはなかなか難しいですが、人工内耳は、発達の問題に関わらず、こどもたちに恩恵をもたらすものと考えますので、是非リハビリに励んでください。

非常に聞き取りにとっては有効な機械と考えておりますので、是非リハビリに励んでいただきたいと考えています。
簡単ですけど、以上で終わらせていただきます。ご静聴ありがとうございました。
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(ボランティアルームのこどもたち)

落ーちた、落ちたゲーム。うちわに稲妻の絵が書いてありみんなはへそを押さえています。


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