人工内耳友の会−東海−
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第4回 県民・市民・聴覚障害者のつどい

☆ と き:平成12年9月17日(日曜日)午後1時〜4時30分
☆ ところ:愛知県医師会館
      ◎福祉大会:9階大講堂、午後1時〜3時

人工内耳について

愛知県総合保健センター聴力音声言語診断部
部 長 別府玲子(ベップレイコ)


【はじめに】

 人工内耳の医療は、20年ほど前にアメリカではじまり、わが国においては1985年に第1例目の手術が行われました。現在国内では約1800症例程度、世界では約30000症例の手術が行われています。人工内耳は補聴器を用いても《ことば》を聞き取ることができない難聴者(児)が聞こえを取り戻すことを可能にする最先端の治療法ですが、手術を受ければすぐ聞き取りが可能になるわけではなく、失われた機能を回復させるための(リ)ハビリテーションが必要です。愛知県では名古屋大学(手術)と愛知県総合保健センター(リハビリ)が合同チームを組み、人工内耳治療を行ってきました。

【手術適応・手術】

 人工内耳適応に関しては、1998年4月に日本耳鼻咽喉科学会によって「適応基準」が発表され、それにそって検討しています。
[小児]
*2歳以上18歳末満。言語習得期前に失聴の場合、就学期までの手術が望ましい。
*純音聴力が両側とも100デシベル以上の高度難聴で、補聴器の装用効果が少ない場合。補聴器装用効果の判定には十分な判定期間が必要であり、音声による言語聴取及び言語表出の面でその効果が全く、あるいはほとんど見られない場合。
*両親、家族の理解と同意が必須。
*リハビリテーション、教育のための専門の組織スタッフ(言語聴覚士)と施設が必要。
[成人]
*18歳以上。
*純音聴力が両側とも90デシベル以上の高度難聴者で、補聴器の装用効果が少ない場合。
*補聴器の装用効果の判定にあたっては、通常の人工内耳装用者の語音弁別成績を参考にして慎重に判定。
*本人及び家族の意欲と理解が必要。
[小児及び成人の禁忌]
*画像(CT・MRI)で蝸牛に人工内耳が挿入できるスペースが確認できない場合。
*活動性の中耳炎、重度の精神発達遅滞、聴覚中枢の障害がある場合。
 上記基準に加え、術後のリハビリを円滑に行うためには、小児であれば養育者及び教育機関と医療機関、成人であれば人工内耳希望者本人とその家族と医療機関が連携をとり、信頼関係を築くことが必要です。過度の期待は持たせず、しかも最大限の活用をしてもらうためには、まず人工内耳を利用してコミュニケーションをしたい、あるいはさせたいという強い意欲と、積極的に人工内耳に対する理解を深めるよう努力することが必要です。勧められるままに人工内耳というコミュニケーション手段を選択されても成功はほど遠いものと考えます。
 また、言語習得前の小児に対しては、音が入るようになっても、《ことば》が聞き取れて会話ができるようになるかどうかは、手術を受ける年齢、本人の学習能力、家族の訓練態勢によって効果はかなり違うことを十分に理解してもらうよう努めています。
 手術は全身麻酔で行われ、一般的には3〜4時間で終了します。術後約2週間で術後の(リ)ハビリが開始されます。術前の準備としては、少しでも手術に対する心理的不安を軽減させるために、医師、言語聴覚士、臨床心理士が対応し意志の疎通を図ります。
(リ)ハビリにおいても、術前から、小児であれば聴覚活用や言語の訓練の態勢が整っていることが必要ですし、成人であれば読話の訓練を開始します。すなわち、この時期から既に(リ)ハビリは開始されていると考えて下さい。

【マッピング・音入れ】

 人工内耳は、装着すればすぐ聞こえるようになるわけではありません。まず、人工内耳の各電極の最適な電流量を測定し、個々の装用者にとって最も聞き取りやすい状態のプログラムを設定する作業から始まります。これをマッピングといいます。具体的には、各電極に対して電流を流して、まず一番小さく音が聞こえ始める電流量(Tレベル:最小可聴域値)を測定し、次に聞きやすい一番大きい音の電流量(Cレベル:最大快適値)を測定します。各電極の設定が終了し、そのプログラムをスピーチプロセッサに記憶させ、そのマップを用いて始めて肉声を聞いてもらうことを“音入れ”といいます。通常成人であれば、約2〜3時間ぐらいで第1回目の音入れは終了します。初回の音入れでは、音の認知のみの人から、少数ですが《ことば》を聞き取ることのできる人まで結果はさまざまです。音の感想としては、ロボットやドナルドダツクのような機械的な音と表現される場合が多いようです。これに対して、これまで音らしき音を聴いたことのない小児では、音のオン、オフも解らない状態であったり、始めて聞く音が怖くて泣き出す場合もあり、初回に全ての電極の測定ができない場合もあります。

【音入れ後の(リ)ハビリテーション】

 ひとくちに(リ)ハビリテーションと言っても、言語習得後の中途失聴である成人と言語習得前あるいは習得途中の小児とでは、(リ)ハビリに要する時間、装用効果など異なる点が少なからずあります。この点に留意して(リ)ハビリテーションについて述べてみます。
 マッピングは、成人も、小児も安定するまで週に1回程度行います。成人の場合はこれに並行して《ことば》の聞き取りの訓練を1か月〜3か月程度、1〜2週に1回行い、その後は状態に応じて訓練します。最初から良好な聞こえの人も中にはいますが、元のように聞こえる場合は少なく、訓練をしたり、日常生活で活用することで、失聴前の聞こえに近づきます。小児の場合もマッピングに並行して週1回の割合で聞き取りの訓練を行います。成人と異なる点は、この《ことば》の聞き取りの訓練です。まず音の存在を知り、音があるか無いかを認知することから始まります。次に、音の長さ、調子を弁別し、《ことば》の聞き取り、文章の聞き取りに進みます。成人が3か月〜6か月ぐらいで大体落ち着くのに対して、小児の場合はすぐには結果がでないため長い目で取り組む必要があります。
 人工内耳は夢のような器械ではありません。しかし、補聴器の効果が期待できない重度難聴の場合は予想以上の成果が期待できる結果もでていますので、一度検討されてもよいかと思われます。




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