人工内耳友の会−東海−
各種情報

朝日新聞 2002年(平成14年)12月18日(東海版夕刊)

文字情報化に
法のバリア


聴覚障害者向け パソコンで字幕を…



 耳が不自由な人のためにテレビ番組や講演をパソコンなどで文字化して伝える活動に、放送局や行政から「待った」がかかっている。訓練が必要な手話などより「情報バリアフリー」を容易にすると聴覚障害者に期待されているが、著作権法や公職選挙法が新たな「段差」となっている。

 人工内耳を使う障害者らの「人工内耳友の会」東海支部(岐阜市吹上町・事務局=水口元一さん)では、一昨年から、メンバーの要望をもとにテレビやラジオの番組を台本のように文章で再現した「文字版」をホームページで公開している。

 同ホームページによると、きっかけは、同会が取材協力した「人工内耳の子どもたち」をテーマにした民放のドキュメンタリー番組が字幕なしで放映されたこと。「これでは肝心の聴覚障害者が番組を楽しめない」と、制作した放送局に許可を求め「営利目的ではないこと」などの条件で文字化した。現在、ドキュメンタリーやバラエティーなど30番組以上を公開中だ。



 しかし、番組ごとに放送局に文字化の可否をたずねると、NHKは許可しないという。

 著作権法では、著作権者が許せば著作物の複写や配布ができるが、NHKの担当者は「著作権はNHKにあるが、制作段階で出演者や取材対象に許可を得ていない。文字化された内容が間違った場合にこちらで責任も負えない」と説明する。

 一方で民放の多くは事実上、黙認している。あるキー局の担当者は「著作権上、認められないと説明するが、障害者向けの非営利活動に強くは言いにくい」と話す。

 00年には、障害者からの要望で、主な障害者団体が放送中の番組に限って字幕をインターネット上に流せるよう著作権法が改正された。

 だが同時通訳に人手がかかることや、放送後に文字化情報を残すことが認められないなど実用には課題が多い。

 聴覚障害者の山田裕明弁護士は「公共放送が自らの著作権を優先するあまり、視聴者の知る権利に平等にこたえる使命を果たしていない。そのうえ障害者側の自助努力まで妨げるのはおかしい」と反発している。

 07年前後までにテレビ番組の完全字幕化を目指す総務省の指針を受けて、各局は番組の完全字幕化を進めているが、昨年放映された番組の字幕化率はNHKが約18.2%、民放キー5局の平均は6.3%にとどまる。



 文字化情報は、選挙でも法律に突き当たった。

 9月に投票された長野県塩尻市長選。市民グループ主催の候補者演説会で、聴覚障害者向けに候補者の発言をパソコンで文字にし、会場の大型スクリーンに映し出す予定だった。

 しかし市選挙管理委員会に問い合わせたところ、公選法が選挙運動に使うことを禁じている「電光による表示、スライドその他の方法による映写など」にあたるおそれがあるとされ、手話通訳などに切り替えた。

 主催者の一人の小笠原恵美子さんは「文字化は高齢者にも必要。ぜひ認めてほしい」と選挙で使えるよう国に働きかける請願を市議会に提出。市議会総務委員会は16日、全会一致で採択した。

 総務省選挙課は「現行法では難しいが、障害者が選挙に参加できる環境の整備は重要。候補者間の公平性などを含めて検討したい」と言う。

 中途失聴者の立場から選挙参加への配慮を訴える国家公務員の田中邦夫さんは「公選法についての行政の解釈が実情に合っていないと思う。選挙民の公平性を、候補者と同じように考えてほしい」と話している。





メールはこちらへ

各種情報メニューへ