人工内耳友の会−東海−
村議委員会を見学して

2003.10.

村議委員会を見学して

こんにちは。☆宮下あけみ☆ akemizo@beige.ocn.ne.jp です。

2003年9月、とてもお天気がよい“秋晴れ”の日…。
ある聴覚障害者の議員さんが出席される、「村議会の委員会」を見学させていただきました。
以下、そのご報告と感想です。

このレポートは、桜井村議と、桜井村議が議員になられた時からずっとパソコンによる文字通訳をされているW澤さん、当日、W澤さんと一緒に入力を担当されたK林さん、一緒に見学に行って下さったT澤さんのご協力とご了解を得て、この「人工内耳友の会:東海」のホームページに掲載していただいているものです。
桜井様はじめ、議会の皆様、本当にありがとうございました。

入力者W澤さんとの出会い
・桜井村議と出会う前に、桜井村議の主たる情報保障を担当しているW澤さんと出会いました。

・しかしそれは、「議会の情報保障」としてではなく、私がおこなっている、「お子様対象の字幕や情報保障についての話」が、きっかけでした。その後、W澤さんと連絡を取り合う中で、W澤さんが、桜井村議のパソコンでの情報保障を担当していることを知りました。

桜井村議との出会い
・桜井村議が、聴覚障害者として議員になられたことは、聴覚障害者関係のニュースによって知ってはおりましたが、だからといって、個人的にコンタクトを取るわけでもなく、「聴覚障害者の議員さんがいるんだ。」いうことで、普通に(?)、受け止めていました。

・その後、平成14年、桜井村議が都内での研修会に参加されたとき、パソコンノートテイクとして担当させていただく機会がありました。その時、議員になられた経過や活動していく中でのご苦労、支えてくださる方々のお話などをお伺いし、「いつか、見学させていただきたいと思います。」、「どうぞ、是非、来てくださいね。」という話になり…。

・そして約一年後の平成15年9月、W澤さんに連絡を取っていただき、桜井村議が所属する「委員会」を見学させていただけることになりました。

○○村 村議会 「委員会」 配置図

(桃色:桜井村議、 黄緑:入力者、 グレー:村議、 水色:行政。)

桜井村議
・現在、まったく聴力はないとのことですが、発言はご自身の声でなさいます。
・1対1であれば、読唇で相手とのお話ができます。
・聾学校での経験もあり、手話もお使いになられます。手話通訳を利用されることもあります。
・通常の生活では、地域に聴覚障害者もいないことから、手話を使う機会はないとのことです。

情報保障について
・「本会議」では、「手話通訳と手書き要約筆記」が、公費派遣で認められている。(一般傍聴できるもの。)基本的には手話通訳。手話通訳者の手配ができない時に限り、手書き要約筆記者2名が認められている。
・「委員会」では、「手話通訳と手書き要約筆記」が、公費派遣で認められている。(今回のような委員会。)
・どちらも「パソコンによる情報保障」は、公費派遣としては認められていない。
・「委員会」では、「パソコンによる情報保障を利用すること」は認められているが、費用は、公費として認められていない。「本会議」でのパソコン利用については、まだ、桜井村議自身より提案したことはない。
・今現在、入力者への通訳料は、桜井村議のポケットマネーにより、入力者に支払われている。これは、議員手当ての中で、「情報保障費・通訳料」としては計上せず、あくまでも桜井氏個人のポケットマネーとして支払われているとのこと。額は、長野市公的派遣の金額に準じている。

パソコンによる情報保障が、公費で認められない理由
・公的な認定資格ではないため。(他にもいろいろあったが、ここでは割愛する。)

見学当日の委員会の進み方について (見ていて感じたこと)
・桜井村議の発言が聞き取りにくいときは、司会が桜井村議の意見を復唱しなおすかたちで言い直し、確認を取っているときもあった。
・資料の読み上げや、資料を照らし合わせながら進むものが多かったが、説明者(行政側)は、桜井村議が、その資料を見つけたかどうかを確認することなく、説明を進めていた。
・今回は人数も少なかったせいか、「決」をとるときには、「桜井さんも良いと言ってくれているので。」というように、確認をしているときもあった。
・質問への回答に対して、行政の人は、「○○さんのご質問にありましたように…。」と簡単に名前と内容を復唱されていた。

パソコン入力者の様子
・メイン入力は、「入力者2」(W澤さん)。基本的には2人で入力するのだが、「入力者2」が聞こえたことを入力し続け、「入力者1」は、資料をさしたり、その他、細かい桜井村議へのケアーを担当。話し合いが続くときは、2人で入力し続ける。
・担当入力者はほぼ決まっている。また、この日は、人数が少なかったため、名前を言わないまま発言があっても、入力者は参加者の名前、全てをわかっていた。
・この日は、午前10時から午後4時50分まで、2人の入力者だけで情報保障。

「委員会」で認められているパソコンによる情報保障について
・桜井村議が入力者を連れてくることは認められている。
・通訳料は公費では認められていないので、桜井村議が負担している。
・委員会の部屋に入室できる入力者は2名まで。
・スクリーン表示は認められていない。ノート表示のみ。


桜井村議への質問。
Q/どうして、パソコンによる情報保障では入力者に対する通訳料が公費では支払われないのか?
   ↓
A/「公的な登録や認定資格ではないから。」と言われている。しかし、自分としては、パソコン情報保障の入力者は、「資格」ではなく、「個人の経験」によるものが多いので、「資格ではなく経験を優先してほしい。」と言い続けているのだが、なかなか受け入れてもらえない。

Q/今日は朝10時〜午後4時50分まで、2人の入力者だった。部屋には2人の情報保障者しか入室できないとのことだが、午前と午後で交代することはできないのか?
   ↓
A/委員会は平日の昼間、開かれるのと、議会関係の入力を担当する入力者がいない。現在、メインのW澤さんが入り、もう1名を、数名が担当するような感じである。

Q/今日は朝10:00から委員会がはじまっており、午後は1:00〜2:45、3:00〜4:50と続き、午後の休憩は間に「15分間」しかなかった。後半、特に発言が飛び交っていたため、は入力者もかなり疲れているようだった。入室できる入力が2名と決められている上に、入力者が他にいないのであれば、桜井さんから委員の皆さんに、「休憩」などをリクエストできないものか?
   ↓
A/自分もパソコンの文字を見続けることは目が疲れるし、入力者の皆さんにも申し訳ないので、以前は、「1時間ごとの休憩」を申し入れたことはあった。しかし、いつしか…。残念ながら現在では、お願いできる雰囲気ではなくなっている。
※その後、10月半ばごろ、桜井村議より、文書にて、「休憩時間確保のお願い」を申し入れたそうである。

Q/桜井さんは、自ら「議員になろう!」と思って立候補したわけではなく、「村民有志のネットワーク団体」を通して推薦され立候補し、当選したとのことであるが、そのとき、桜井さんをおしていた「村民有志のネットワーク団体」の方たちは、当選後、どんなフォローをしてくれているのか? 関係は?
   ↓
A/「村民有志のネットワーク団体」は任意のグループで、いわゆる「後援会」ではない「自由な活動グループ」である。これは、自由な情報交換の場、活動をする考え、実行するグループとして継続している。
「そのグループの中の有志」が、桜井の通訳をどうするか?ということで動いてくれた。
その結果、地域を越えての通訳者の派遣について、通訳費用について、「半分は“県”が負担すべき」と提言し、“特例”として認められた。(初年度)
その後、村内での通訳者を確保するために、村に働きかけ、「要約筆記講座」を開催した。これは現在も継続している。

よって、立候補時に桜井を推薦した「村民有志のネットワーク団体そのもの」が、当選後もフォローし続けてくれているというわけではないが、「その中の個々の人たち」で、今も応援し続けてくれている人もいるし、「要約筆記講座」を受講し、「視察・委員会」などの「手書き要約筆記」として来てくれた人もいる。

Q/「パソコンによる情報保障」を使ってみて、どうか?
  ↓
A/会議中は資料を見たり、いろいろなことに気を遣わなくてはいけないのだが、パソコンでの情報保障を利用することにより、タイミングよく、意見が言えるようになった。手話だけでは、どうしても、手話を見ていないと話の筋がわからなくなるが、パソコンだと、ある程度文字が残っているので資料にも目をやることができる。ただ、どちらにしても、事前に資料に、よく、目を通しておくことが大切である。

Q/今後について考えていることは?
  ↓
A/「休憩時間の確保」は、やはり強く要請すべきことと思っている。(10月半ばに申し入れはした。)
「パソコン要約筆記」については、私自身、「早く取り入れたい。」という気持ちは山々なのだが、その前に、「人」が育っていなければどうにもならない。来年は「村の講座」に「パソコン要約筆記部門」を入れたいと考えている。いずれにせよ、障害者にかかわることは時間がかかることを覚悟して、かからなければならないと思っている。

桜井村議より…
・私はよく言うのですが、聞こえる人が持っている情報に比べると、聴覚障害者の情報は、パズルのように、時折、こぼれていることがある…。それに加え、私は議員になるまで、全く『通訳』というものを利用したこともなかった。世間的にも、いわゆる“箱入り”だった。だから、わからないことだらけでした。
・しかし、“知らなかった”ことが幸いしてか、議員になってから、何か疑問に感じると、素直に、『どうして?』と聞きながら、活動をしてくることができました。
・この村は、聴覚障害者の数も少なく、まだまだ私自身も歯がゆい面もありますが、これらも行事に『手話通訳』や『要約筆記』をつけることにより、難聴者・聴覚障害者への理解が広まっていけばよいと思っています。」

メイン入力者:W澤さんより…
・最初にパソコン要約筆記が委員会に入ったときは、「ログをどう処理するか、外に発言を漏らされるのではないか、桜井さんのパソコンから情報が盗まれるのではないか…」等など、とにかく「はじめてのこと」ですので、かなり議員皆様の中に、警戒心があったように思います。
・「入力者」について、最初の頃は、資格うんぬんも言われましたが、今それをまた持ち出されることはなくなりました。ある意味、桜井さんに任せていると言えるかもしれません。
・委員会の進め方に関して。時々委員長が「桜井さんいい?」と聞くこともありますが、特別に桜井さんを配慮して進められるということはなく、ごくごく普通の聞こえる人同士の会議と同じだと思います。
・桜井さんの質問に対して、ゆっくり話してくれる人も、時々います。また、休憩時間に補足している人もいます。
・桜井さんが議会に入ったことで、要約筆記の存在自体は認められたと思います。専門職だという認識も持っていただいており、「大変だね」「ごくろうさま」と声をかけられることも多くなりました。しかし、「同じ空間に障害を持っている人がいる」という認識、「いるから配慮して進める」という認識はないように感じます。  
・最初はパソコン要約筆記に対して否定的な見方だったのですが、「利用者本人の声」と「利用者の力」によって、徐々に段階を踏んで認知されてきたという実績はとても大きいと思いますし、本来の福祉を進めるかたちでは理想的なかたちであると思っています。

入力者:K林さんより…(桜井さんのパソコン入力は2回目)
・私は、白馬村への通訳は2度目でしたが、いつも緊張しています。「メイン入力」をW澤さんがしてくださるので、私はおんぶに抱っこという感じです。
・しかし、資料指しや議長の問いかけに対する桜井さんへの呼びかけ、そして入力と、かなりハードだと思っています。入力者とは別に資料指しなどのメンバーがいればなぁ…と思います。
・私は活動の経験自体がまだ浅いので、とにかくいつも、「今日は役に立てただろうか」と、そのことばかりが気になります。どんな通訳でも、聴覚障害者の方が「ありがとう」といってくださると、とても嬉しい気持ちになります。そして、ちゃんと通訳しなくては、と引き締まる思いもします。

見学者:T澤さんより…(関東で入力者として活動されていますが、今回は見学だけです。)
・委員会での現場を見せていただき、いつも自分たちの参加している現場と比べてずいぶん待遇の違うことに驚きました。そもそも、自分が出ている現場のほとんどは主催者側の依頼で行っているものなので、地域性もあると思いますが、もっと周りの人の理解があればなぁと思いました。
・桜井さんの参加する委員会の見学後も、都内で、いくつかの会議の情報保障に行きました。その中で、議長が冒頭に今日の議事進行予定を言うとき、「途中で休憩を入れます」の前に、「要約筆記者の疲労度を考えて、途中で休憩を入れます。」と言ったのですが、いつもは何とも思わずに聞いているこの一言ですが、さすがに見学をした後だったので、グッとくるものがありました。
・「村議会の委員会での情報保障」は、厳しい環境でこなす作業なので、余計に人材も増えないかもしれませんが、一日も早く、一人でも多くの理解者が増えることを信じて、これからも活動していってください。


感想…
・「理想と現実は、こうも違うものだ」と感じました。午前10時から夕方4:50まで。休憩は、昼休みの1時間と、3時少し前の15分間だけ。入力者はたったの2名。交代要員もいない。「通訳環境」とか「通訳者への理解」、「聴覚障害者を含めた会議の進め方」…。そして、「そういうことは言い出せない雰囲気…」と…。入力者の話によると、「数ヶ月に2日程度なので。」と、今のところ、「丸々1日を2人体制」で行っているとのことですが、やはりキツそうでした。(「特に夕方は思考能力が…。」と…。)

・桜井村議は、手話通訳も利用されます。手書き要約筆記も利用されます。しかし、「委員会」では、パソコンによる情報保障が利用しやすいということで、まず、パソコンを希望されるそうです。「パソコン」という手段があり、利用者が選べるのは、とてもうれしいことですが、その「入力者の人数」が少ないので、特定の入力者に負担がかかってしまう。それに対して桜井さん自身が、「申し訳ないと思っているの…。」と気兼ねをしてしまう…。それが悲しいことだと思いました。

・今回、つくづく、「地域差」を感じました。関東では、東京、神奈川、千葉、埼玉と、地域を越えての連絡や助け合いができ、学生さんの授業にもコンスタントに情報保障に出かけている例があります。しかし、長野県は、いかんせん、広い!! 今回、入力を担当されていたK林さんは、白馬村まで来るまで片道2時間かかると…。メイン入力者のW澤さんも、片道1時間以上はかかります。県内でさえ、片道2時間かかるのであれば、入力者が足りないからといって、安易に県外の入力者に応援を頼むのも難しいと思いました。(入力者の交通費も桜井村議のポケットマネーで支払われています。)

・また、都内では会議のとき、たとえ文字利用者が1名でもスクリーン表示をし、参加者全員が、今、どこまで伝わっているか、文字化されているかを確認しながら進められる会議もあります。(見る、見ないは別にして、聞こえる人も文字表出の具合を確認する術がある…という意味です。)しかし、この村では、村内に、桜井村議以外、情報保障を必要とする人がいない(「目に見えて、いない。」「“例”を見たことがない。」)ためか、委員会内でのスクリーン表示は認められていないとのことでした。

・以前より、折に触れ、お話は伺っておりましたが、今回、本当に丸々1日を2人の入力者だけで情報保障を行っている様子を目の当たりにし、とても驚きました。今、できることは、とにかく、「休憩時間の確保」からでしょうか。入力者にとっても、より良い情報保障のためには、「適度な休憩」は必要ですし、パソコン画面を見ている利用者にとっても、目が疲れますので、「適度な休憩」は必要だと思いました。

・「参政権」「選挙への情報保障」「政見放送での情報保障」というような、「聴覚障害者に情報を与えるための運動」は各地で行われていますが、聴覚障害者自身が立候補し、当選し、議員になられたあと、その「議員活動の中」で通訳(手話&文字)を利用するとき、そこでまた大きな壁にぶつかることを実感しました。費用だけの問題ではありません。「手話&文字通訳者」という人材の問題。そして、これら「通訳=情報保障(手話&文字)」を付けることへの、周りの理解…。議事進行への配慮等など…。

「議員さん」の中には、立候補時の公約の中に、「福祉」に関するものを掲げている人が多数います。しかし、現実に、自分たちの地域で議員として、障害のある人が入ってきたとき、身近に接するようになったとき、どの程度理解し、どのように配慮してくれるかは、実際、はじまってみないとわからないものだのだなぁ…と感じました。


★最後に・・・★
・桜井村議に、「あとで感想を聞かせてくださいね。」とご連絡をいただきましたのをきっかけに、思うまま打ち、まず、桜井さんに送信。その後、改めてご意見をお伺いし、「今後、立候補しようと思っている聴覚障害者のためにも…。」ということで、今回の掲載となりました。

・今も、桜井さんは、情報保障者(手書き&パソコン文字通訳、手話通訳など)を中心とする方々の暖かい支援を受けて、議員活動を続けてしていらっしゃいます。また、桜井さんが議員になられて以降、「多くの方々に与えた影響」は大きいと思います。勿論、私自身にも、「考えるきっかけ」を与えてくださいました。心より感謝いたします。

・この文章は、「桜井村議側に立った見方」でしか打っていません。“村”として、その他の“議員さん”としてのご意見、お考えは、別途あることと思いますが、今回はお伺いすることができませんでした。その点をご了解くださいませ。

♪改めて御礼を…。♪
桜井様、入力者のW澤様&K林様、一緒に見学に行ってくださったT澤様、本当にありがとうございました。今後とも、よろしくお願い申し上げます。

    ☆宮下あけみ☆ 【E-mail】akemizo@beige.ocn.ne.jp



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