人工内耳友の会−東海−
小学1年生へのパソコンノートテイク

平成14年9月

【観 劇 鑑 賞 会 (体育館での行事)】
小学1年生への「パソコン ノートテイク」

記/☆みやしたあけみ☆

この「パソコン要約筆記」の記録は、お子様の保護者の方にご了解を得て、掲載していただいております。Y君、ご両親様、ありがとうございました。

日 時 / 平成14年9月○日
場 所 / 都内 聞こえる小学校
内 容 / 体育館での観劇鑑賞会 1年生〜6年生まで合同
演 劇 / 役者6名
入力者 / 1名
利用者 / 1名(Y君 小学1年生) ここに通う難聴児童はY君1名。 人工内耳を装用。
ソフト / IPtalk
設 定 / 背景色:濃紺 文字:白 書体:MSPゴシック
使用文字/ 全て『ひらがな』
資 料 / 観劇用のチラシ
表示方法/ ノートパソコン表示
位 置 / 本人:自分のクラスの中で最前列 入力者:体育館の壁側
座り方 / 体育館の床に各自座布団を敷き、そこに座って見る。入力者も同様に座布団に座る。
舞 台 / いわゆる「体育館の舞台」ではなく、体育館の床に劇団持参の「舞台」を作る。
      高さ=30cm〜1m位の段状。


【経緯】

・保護者よりまず、「補聴システムを利用しての演劇鑑賞は、どのように工夫したら良いか?」と問いかけ。
・仲間によりいくつかの案が出されたが、「体育館」なので「補聴システムの利用」には限界がある。
・保護者、本人、学校との話し合いの結果、「パソコンノートテイク」を行ってみる事になる。


【保護者より、お子様について】

・人工内耳を装用。口話による会話はできる。
・小さい頃より、劇やコンサートが好きで、よく見に行っている。
・最近は、わからなかった時、「何て言ったの?」と、「セリフ・言葉」をとても聞きたがるようになった。
・わからなかった時、時々、「文字」で書いて伝えた経験はある。


【学校より】

・聴覚障害児の受け入れ事体、今年度はじめてだったので、サポートの仕方をあまり知らない状態だった。しかし、日頃から、FMマイクの使用等、担任の先生はとても協力的であった。
・今回の「パソコン文字表示」に関しても、学校としては、柔軟な対応をしてくださった。ただ、メインが「演劇」なので、「劇団の意向を聞いて欲しい。」と言う様子だった。


【劇団より】 (Q=劇団 A=宮下)

Q1/キーを叩く音は、うるさくありませんか?
A1/できるだけ気をつけます。

Q2/会場が暗くなる時があります。パソコンの液晶画面が明るく、目立つ事はありませんか?
A2/できるだけ、目障りにならないよう、色を設定しておきます。
★結果★背景色:濃紺、文字色:白

Q3/Y君は、クラスの友達の中で、みんなと一緒に見る事ができるようにして下さい。
A3/はい。そのようにします。

Q4/入力者は、はじっこで、床に座って打って下さい。イスに座ると、全体から見て、目立つので。
A4/了解しました。
★結果★劇団から座布団を借りて床に座り、ひざの上にP.C.を置いて入力。

Q4/Y君が見る表示用ノートP.C.は、台の上に置かず、床に直接置いてください。目立つので。
A4/それだけは、ゴメンなさい…。 床に置くと、視線が「下」に行ってしまいます。理想は、舞台を見る視界の中にP.C.があると良いのですが…。低めでも構いませんので、台の上に置かせてください。
★結果★体育館にあった2つの物を例示したが、却下された。しかし、学校の先生が3つ目に、体育館の倉庫から持って来てくれた低めの台を見て、やっと、OKしてもらえた。高さ15cm位。

●劇団側、学校の先生、保護者、入力者での上記のような打ち合わせが終わり、位置も確認して、「さぁ、セッティング!」と思った時、改めて劇団側より…

劇団 より=「やはり、文字がないと、ダメですか?」
保護者より=「最近、特にセリフを聞きたがるようになったので、聞かせてあげたい、伝えてあげたい。息子も、P.C.の利用ははじめてだし、楽しみにしている。」
入力者より=「わからなかった時、知りたいと思った時、P.C.を見れば、そこに文字がある…という安心感のためにも、今日はつけさせて下さい。Y君にも今日はP.C.がある事を伝えてあるので。」
劇団 より=「じゃ、わかりました。」


【文字表示】(保護者との事前連絡と、その結果&工夫について。Q=宮下 A=保護者)

Q1/文字はどうするか?
A1/全て『ひらがな』で。
 ↓
★結果★
・「変換モード」を『無変換』に設定。これにより、クセでスペースキーを押しても変換されず、万が一押してしまっても、「空マス」として1マスあくだけになる。
・しかし、そうすると、全く「変換」ができなくなるので、「先生/」「(^o^)丿」「/」等は、『Fキー登録』しておく。
・読みやすいように、要所要所に「空マス」を入れる。


Q2/表示方法は、「スクリーン」か? 「ノートパソコン」か?
@スクリーン表示の場合
・お子様が、「自分だけ、皆と違う…。」と気にされるようであれば、スクリーン表示が無難。
Aノートパソコン表示の場合
・個人に合わせた表出ができる。ノートパソコンを置く台をお願いしたい。

A2/『ノートパソコン』で。
 ↓
★結果★
・「ノートパソコン表示」で良かったと思う。会場には1年生〜6年生まで全員がいた。そこに、「1年生のY君」にあわせた「全部ひらがな」を表示した場合、高学年の児童にとっては、気になったかもしれない。
・「スクリーン表示」だと、どうしても、スクリーンを「舞台の横」に設置する事になるが、ノートパソコンだったので、Y君の目の前に置く事ができ、いつでも気軽に見る事ができたようである。


Q3/文字数や速さ等、どのように文字を表示するか?
A3/短めに、要約できる所は要約を。
 ↓
★結果★
・読みやすいよう、心がける。
・「歌」の中で繰り返しが多い所は、省略する。


【話者が居ない時の、声・音】

・劇なので、セリフは舞台の上の役者さんが話します。しかし、場面が変わる時、会場が真っ暗になり、「日にち」や「場面」が変わった事を表しました。その時は、舞台上は、全く見えなくなり、人も全く動きません。その時、「ナレーション」や「飛行機の飛ぶ音」が入りました。

・話者が見えれば、「あ、あの人が、話しているんだな。」と想像ができますし、大人であれば、「影マイクか、ナレーションがあるのだろう。」と、「経験からの想像」ができると思いますが、お子様には、そういう経験が少ない場合が多いと思います。そのような時、特に、“文字”を見ていたようだ…と、のちに、報告を受けました。

・何も動かない、真っ暗な中で、「とっかかり」や「きっかけ」、「ヒント」のないまま、突然、「音」が聞こえても、それが、「声=ナレーション」なのかどうなのか想像がつかないんだなぁ…と思いました。


【嬉しい驚き♪】

・今回、Y君の前に低めの台、その上に表示用ノートP.C.を置き、私は体育館の端で入力していました。ですから、Y君は、クラスの皆の中で、「位置」としては、とても自然な形で、劇を見る事ができました。と言う事は、表示用ノートP.C.の周りには、大人はいません。1年生ばかりです。

・しかし、他の児童が、全く、パソコンを触りませんでした。はじまる前、セッティングをしながら、「1年生なので、触るかな?」と、少し、思っていました。お子様が興味を持って触ってくださるのは構わないですし、万が一P.C.が壊れても、それは後に修理できますが、“本番中”、Y君へ文字が送れなくなったら困っちゃうな…と…。しかし、そんな心配は、全く、ありませんでした。

・それどころか、セッティングしてあるノートP.C.を見て、「Yくんは、これを みるんだね。」と言って、とても自然に、受け入れて下さいました。 とても嬉しかったです。


【安心のための、文字表示】

・今回は、Y君が、もともと、家族で劇や映画を“見に行く”という経験があった事。体育館内でも、補聴システム(人工内耳)の装用効果がある程度あった事。そして、わからない時、「文字でフォローしてもらう経験があった」事。これらが、私にとっても、とても助かり、役に立ちました。

・今回、Y君は、小学1年生。たとえ、平仮名だけで文字を出したとしても、どの程度、「通訳or情報保障」としての意味をなしたのか、わかりません。また、文字は読めた(追えた)としても、肝心な演劇が楽しめなかったのでは、全く意味がありません。

・しかし、上記のように、「真っ暗な中でのナレーション」のような、「この音、声、なんだろう?」と、疑問に思ったとき、ふと見れば、いつでもそこに【文字がある】と言う、安心感になっていれば、それで良かったと思っています。


【パソコンノートテイクで、良かったと思った所】

・今回、お母様との話しの中で、「手書きノートテイクにしましょうか?」と、途中で提案させていただきもしました。しかし、結果として、パソコンノートテイクで行ったわけですが、今回の情報保障で、「パソコンノートテイクの良い面」が発見できました。それは、<お子様が、友達の中で自然な形で参加しつつ、情報保障を得る事ができる。>と言う事です。

「手書きノートテイク」の場合、どうしても、本人の隣に座らなくてはなりません。勿論、これが「授業」であれば、きめ細かなサポートも含め、隣に座り、本をさしたり、図や矢印を書いたりと、「手書きならでわの良さ」を出しつつ、情報保障を行う事ができます。しかし、今回のような「観劇鑑賞会」の場合、小さな1年生のクラスの中、本人の隣に大人が座ったら、とても目立ってしまいますし、後ろの子供が見えません。(今回は、1年生は前列中央でした。)

その点、今回はノートパソコンを利用したため、小さな表示用ノートパソコンだけを、本人の前に置き、入力者は離れた所で入力していましたので、周囲に違和感なく、情報保障を行う事ができました。(あくまでも、これは、「一方通行の情報保障」であり、相互確認をしながらのものではありません。)

・また、スクリーン表示にしなかったため、“本人だけ”にあわせた、「全てひらがな表示」にする事もできました。


【最後に…】

・急遽、ポンポンポン…と決まり、お伺いしたわけですが、お母様がきちんと学校に説明し、私にも、今までのご家庭での様子、Y君との様子をお話して下さったのが、上記「劇団&学校側へのお話」の時の、「説得内容(?)」にも、とても助かりました。 本当に、ありがとうございました。

・上記にも書きましたが、小学1年生への文字による情報保障というのは、どの程度役に立つものなのか、また、本人は、内容をつかみながら演劇を楽しむ事ができたのか、その場では実感としてわかりません。

しかし、今回は、Y君は自宅に帰ってから、ご両親に、演劇の内容やお話をたくさんして下さり、劇中にあったゲームを家族でやったりと、覚えていて下さった事が多かった様なので、“楽しんでくれたんだな。”と、感じています。

・学校、興行者(劇団や講演会)が心配される事は、いつも同じです…。<たった一人のために、いつもとは違った状態になる。> これは、「主催者側」に立てば、“ごもっとも”で、わかる事でもあります。しかし、難聴の児童、生徒さんも、同じ学校に入学したら、他の聞こえる生徒さんと同じように教育を受け、同じように行事に参加する権利があると思います。

・お子様自身が周りの目を気にせず、「いつでもそこに、文字等の情報保障やサポートがある」ことが、当たり前になりますように…。

・最後になりましたが… 今回、貴重な現場を与えていただき、勉強させて下さいました、Y君、ご両親様。そして、多くのご意見、助言、応援をしてくださった、人工内耳友の会[ACITA]の皆様。本当にありがとうございました。今後とも、よろしくお願い申し上げます。

☆みやしたあけみ☆ 【E-mail】 akemizo@beige.ocn.ne.jp




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