人工内耳友の会−東海−
16歳・難聴のボクサー

平成13年6月28日

【文字版】テレメンタリー2001 朝日放送
「 道の途中 〜 16歳・難聴のボクサー〜 」

【皆さまへ。】
こんにちは。☆宮下あけみ☆と申します。

関東地区では2001年6月28日(木)午前10時00分〜10時30分に放送されました、テレビ朝日(系列)『テレメンタリー2001 【 道の途中 〜 16歳・難聴のボクサー〜 】』の、【文字版】を作成いたしましたので配信させていただきます。(全国で放送されますが、日程が地域によって異なります。)

「聞こえてくる限りのもの」を「文字化」させていただきましたので、会話もそのままです。

また、聞き取りにくい声や音は、自分に聞こえたまま、打たせていただきました。不明な点は「+++」、補足解説は< >で記しております。

【制作・著作権】は【名古屋テレビ】様です。聴覚障害者の方々がこの番組を視聴なさる時は、ご活用下さいませ。

この文字版は、【名古屋テレビ】様、【テレビ朝日】様より、私、宮下が個人的に了解を得たものです。

この【文字版】の個人、団体等への【インターネットを利用しての転送・転記、ホームページや会報への掲載、及び、FAX・プリントアウトしての配信・配布】等、「自由」です。

最後になりましたが、【文字版】として文字化する事に対して、快くご了承して下さいました【名古屋テレビ】様に、心から御礼申し上げます。本当に、ありがとうございました。

尚、【文字版】に対するお問合せ、ご意見、ご感想がございましたなら、宮下まで、直接ご連絡下さいませ。

また、この【文字版】は、「Word」にて作成しております。プリントアウト、転送等のため、「Word」、又は「テキスト」のままでの配信をご希望される方は、宮下までD.M.にて、ご連絡下さいませ。

今後とも、宜しくお願い申し上げます。

【放送予定表】
◆ 全国で放送日時、時間帯が異なります。こちらで、ご確認下さいませ。
  http://www.tv-asahi.co.jp/telementary/

      <文字版制作&配信>  ☆宮下あけみ☆
           【E-mail】    akemizo@beige.ocn.ne.jp


平成13年6月28日
(映像:「テレメンタリー 2001」)
「 道の途中 〜 16歳・難聴のボクサー〜 」

(映像:ボクシングの練習をする、藤本君)
ナレーション 大沢たかお(以下、「ナ」と記す。) / 藤本貴昭(ふじもと たかあき)16歳。ボクシングに打ち込む彼の耳は、聞こえない。

藤本貴昭君 / どうすれば強くなれるか、毎日毎日、悩んでいました。

ナ / ロープが床を叩く音、パンチが空(くう)を切る音、そして、ゴング。ボクシングジムにあふれる音を、彼の耳は聞いた事がない。
<宮下→「なわとび」をしていて、その「なわとび=ロープ」が、床にあたる時の音だと思う。>
しかし、彼は、音のない静寂(せいじゃく)のリングの中で、多くの事を学び、つかみ取ってきた。

インタビュアー / ボクシングで一番変わったのは、何だろう?

藤本貴昭君 / 勇気を手に入れた事です。


【タイトル : 道の途中 〜 16歳・難聴のボクサー〜 】

(映像:愛知県豊橋聾学校 体育館でバスケットをしている。)
ナ / 愛知県豊橋(とよはし)聾学校。藤本貴昭(ふじもと たかあき 16歳)は、この春、高等部の2年生になった。貴昭が一番好きな体育の授業。耳の聞こえない彼らは、互いの身振りや口の動きを読む事で、ハンディーを補(おぎな)っている。貴昭はこの学校に、高校から通いはじめた。親元を離れ24時間、寄宿舎(きしゅくしゃ)での生活。それでも貴昭は、ここでの日常が気に入っている。

(映像:補聴器)
インタビュアー / (補聴器を)つけてたら、口を見なくてもわかる?

貴昭君 / 例えば(補聴器を)つけて、相手の口を見ないで、うしろから聞いたら、声は聞こえるけど、相手の言っている言葉は理解できない。

女性(寮母さんか、先生だと思う。) / 洗濯場、行きなさい!! 
「せ・ん・た・く」<宮下→キュード(キュー)スピーチ>。干して。

貴昭君 / まだ、時間、大丈夫。大丈夫です。

女性 / 大丈夫じゃない。

貴昭君 / 大丈夫です。

女性 / ダメです。早く。朝が起きれません。遅くなると。「あ・さ」<キュード>。「おはよう」<手話>っていった、挨拶(あいさつ)<手話>の時に。

貴昭君 / でも、最近、朝になる前に、干してますよ。

女性 / いいよ。このごろは良くなったけど、ね。うん。

貴昭君 / なったけど…?

女性 / けど。

貴昭君 / +++。

(映像:愛知県 名古屋市)
ナ / 週末、貴昭は名古屋に出かける。通いなれたいつもの道。貴昭は、自由な時間のほとんどを、このボクシングジムで過ごす。

(映像:ボクシングジム ボクシングチーム「ゼロ」)
貴昭君 / お願いしまーす。

ナ / ボクシングをはじめたのは、小学校5年生の時だった。ボクシングは貴昭に耳が聞こえない事を忘れさせた。

ボクシングチーム「ゼロ」中嶋健富コーチ / あの、「貴昭!!」って名前、呼んでね、こっち向かないだけでね。それで、「貴昭!!」って呼んでこっち向かなければ、誰かがこうやって、あの、合図、肩、叩(たた)いたりとかね、合図しますから。そう言った点では、ちょっとしか、そんな、不便(ふべん)な事ありません。

ナ / 貴昭がボクシングにのめりこんだ理由の一つ。「強くなりたい!!」 その一心(いっしん)だった。

ゴング / カーン!! <開始>

ナ / この日、スパーリングの相手は、プロの選手だった。夢に見るプロ選手。憧れ(あこが れ)だった。静寂なリングの中で、貴昭が見るのは、相手のアゴ。神経を研(と)ぎ澄(す)まし、集中すれば、相手の全体の動きが見えてくる。

ゴング / カーン!! <終了>

相手のプロ / +++。

貴昭君 / はい。

インタビュアー / 彼(貴昭君)のパンチは?

プロボクサー 小池孝治さん / あー、そうねぇ。速いし、キレがありますね。最初、当初に比べて、グングン成長してますんで、もう、今、相手するの、大変です。(笑)

チーム「ゼロ」トレーナー 棚橋幸弘さん / 小学校5〜6年の頃から知ってますけど、昔はあんな、かわいかったのにねぇ。いつのまにか、あんな、強くなったのか。きらいじゃないですけど。今でも。(笑)ちょっと、手ごわいです。

貴昭君 / (ボクシングには)自分との闘い(たたか い)が表れていて、かっこいいと思います。

インタビュアー / 夢は?

貴昭君 / プロボクサーになりたいです。

(映像:愛知県 春日井市)
ナ / 貴昭の家は、愛知県春日井(かすがい)市にある。両親と弟、妹の5人家族だ。

父 / 試合に、誰が行って? 選手は、誰? 今日、行ってる選手。 ん? “あーちゃん”と“のりちゃん”?

貴昭君 / 怖くはないけど。(笑) 母さんの言ってる言葉が、心にグサッとくる。

家族一同 / アハハハハハ!!!!!(大爆笑!!)

貴昭君 / グサッ!!ときて、言葉が出なくなる事もある。(笑)

母 / あんたなぁ〜。(家族一同、大爆笑!!)

貴昭君 / あたってるでしょう?(笑)

母 / まぁ、ねぇ。(笑)

貴昭君 / 「今のままじゃ、生きていけないわ。」って。

家族一同 / アハハハハハ!!!! (大爆笑!!)

インタビュアー / 貴昭君は、なんて、言い返した?

貴昭君 / 沈黙(ちんもく)していた。(笑)

母 / アハハハ。(笑)

貴昭君 / 「本当に、生きていけないのかなぁ。」って、思ってた。(笑)

インタビュアー / そうなんだ。

(映像:貴昭君、生まれたばかりの頃の写真。)
ナ / 貴昭が耳が聞こえない事を両親が知ったのは、貴昭、生後9ケ月の時だった。「先天性高度感音難聴」による、両耳全ろう。身体障害2級と判定された。

父 藤本正継さん / まぁ、当時、わりと、みんな、そうだと思うんですけど。あの、「補聴器つければ、みんなと同じに聞こえるんだろう。」と、わりと、そういう感覚があったんですよ。

母 梨江さん / 「マンマ」からはじまって、その言葉が出るまでが1年かかる。どんなに早くても、1年はかかる、って言って。で、それ、その言葉が出るまでに、「親は、忍耐と根性と努力だよ。」って言われて。(笑)

(映像:補聴器つけた貴昭君の写真とビデオ。3歳くらいだと思う。)
ナ / 難聴。音の全くない世界。それは聞こえないと同時に、言葉が学べない事を意味している。

(映像:ビデオ。2〜3歳くらいだと思う。以下、ビデオの声は、「 」で記す。)
貴昭君 / 「ままー」

母 / 「いかん、それ、つけとこ。貴昭。おいといて。おいといて。いやぁーん?」

ナ / まず、言葉自体の存在を理解する事。そして、声として自ら音を発する事。ハードルは高く、大きかった。

貴昭君 / 「あぁーあー。」 「うぅーうー。」

ナ / 貴昭、6歳。両親は、あえて、普通の小学校への入学を決めた。耳が聞こえない貴昭は、いじめられた。

父 / まさか、自分の子どもがいじめられる。まして、その、体…。ね。生まれ持った体の事で差別されるっていうのが、やっぱり…。

母 / 家でも泣いてました。もう、泣いて泣いて、物は(に)あたるし、物は投げるし、下の子にはあたるし。んー。補聴器、投げつけた事も何回かあって。で、「生まれてこなきゃよかったのに。」って。「産んでくれなきゃよかったんだ!!」って言われて。「普通に産んでくれてれば、何でもなかったのに。こんな思い、しなくて済んだのに。」って、毎日毎日、それ、言われましたよね…。

ナ / 16歳になった今も、それは、本棚に整然と並べられている。マンガを通してのボクシングとの出会いだった。

(映像:1995年 小学5年生)
ナ / 強くなる事を知った貴昭は、いじめに耐(た)えた。ケンカもしなくなった。

貴昭君 / 殴(なぐ)りたいと思ったけど、ガマンできました。普通の人のパンチと比べて、ボクシングをしている人のほうが、(パンチが強くて)危ないから。殴ったら、友達がケガをしてしまうかも知れないから。

ナ / 一番、変わったのは、何だろう?

貴昭君 / 勇気を手に入れた事です。

ナ / 「勇気」って、何だろう?

貴昭君 / 自分の闘いに勝つ、勇気です。いじめに立ち向かう事、殴ったらダメっていうガマンとか。それから、いろいろ、何かあっても、ガマンする事です。

ナ / 強く、大きくなった、貴昭。しかし、心の中で、何かがかわりはじめていた。

<C.M.>

(映像:ボクシングの練習をする、貴昭君。)
ゴング / カーン!! <開始>

ナ / 貴昭の変化はリングの中で確実にあらわれていた。一年目の練習生とのスパーリング。貴昭は見るも無残(むざん)に打ち込まれた。体が動かなかった。

レフリー / ストップ!! ストップ!!

ナ / ボクシングは危険なスポーツだ。選手を守るために、厳しいルールが定められている。難聴のプロボクサーは、過去に、たった4人。ゴングが聞こえない。レフリーの指示が聞こえない。今後、難聴のプロボクサーが誕生する可能性は、ゼロに等しい。

貴昭君 / ハァーッ ハァーッ ハァーッ… <荒れた息>

ナ / 貴昭は、目標を見失いかけていた。

貴昭君 / ありがとうございました。

(映像:寄宿舎)
ナ / 貴昭は寄宿舎に逃げ込んだ。仲間たちとの生活は、居心地(いごこち)が良かった。そこには、自分の居場所が容易に見出せた。しかし、ひとり、机に向かう時、自然と背中が丸くなった。

インタビュアー / 一番、考える事は、何?

貴昭君 / 悩んでる事? 考えてる事?

インタビュアー / うん。

貴昭君 / …<沈黙>。 学校の勉強を、もっと、勉強しなければならないなぁー、とか、ボクシングをやる時は、ボクシング(の事)を考えるけど、ボクシングから離れると、大学の進路の事で悩んで、ボクシングの事は忘れてしまいます。

ナ / ジムでは、熱い練習が続いていた。その中で、貴昭の姿を見る事はできなかった。4月の出席表。貴昭の欄(欄)には、空白が続いていた。

ゴング / カーン!! <開始>

ナ / この日、貴昭が久しぶりに姿を見せた。頭を坊主(ぼうず)にしても、その目に、かつての輝きは消えていた。

コーチ / <筆談で>『おまえは今、ボクシングを、あまり、やりたくないのではないか?』 やりたいの? 

貴昭君 / はっ?

コーチ / やりたいの?

貴昭君 / はっ?

コーチ / やりたいの?

貴昭君 / はい。

コーチ / 本当? 全然、見えん。全然、ヤル気が見えない。ヤル気、ある? ヤル気あるヤツが、な、こういう事<休み続ける事>には、な、ならない。あーんな、今の練習態度。おまえの練習態度。練習の態度。わかる? とてもなぁ、みなさんになぁ、「一生懸命やってる。」ってなぁ、よう、言わんわー。
<宮下→「一生懸命やってる。」とは言えない。>

誰がおまえを応援してくれるの? 誰がおまえをなぁ、応援するの? ただ、「耳が聞こえないから、かわいそうだなぁ。」って、おまえ、同情されるだけじゃないか。そうだろう? 違うか? そうだろう? おまえ、自分が言った事、責任持ってやらなー、あかんじゃないか。アホー。

(映像:一生懸命、サンドバッグにパンチをする、貴昭君。)


(映像:列車)
ナ / ゴールデンウィーク。貴昭は、四国、香川に向かう列車の中にいた。幼い頃過ごした町で、同窓会に出るためだ。

(映像:香川県 高松市)
貴昭君 / ただいま。 ただいま!!

家の中より女性の声(祖母) / おかえり。はい、おかえり。

貴昭君 / 前は古いテレビだった。(笑) 古くて小さいテレビで。

祖母 / 小さかった?

貴昭君 / 画像が悪かったから。

祖母 / 準決勝の。 結局、最後まで行ったん? な?

貴昭君 / ++。

(映像:ゲームセンターで、友達とパンチングゲームをする貴昭君。)

パンチの音 / バーン!!  バーン!!

女の子 / すっごぉーい!!

女の子たち / パチパチパチ!!! (拍手)

貴昭君 / イマイチですねぇ〜。


(映像:海)
ナ / 幼い頃、お父さんと遊んだ散歩コースを、貴昭は歩いた。考える…。思い出す…。11年の時が過ぎていた。

貴昭君 / 自分が、なんで弱気になって、パンチが怖いって思ったんだろうっていうことで、イライラしてた。 あんまりジムへ行ってないから、カンが鈍(にぶ)っているから、怖いなぁ〜っていうのが、あった。

インタビュアー / 貴昭君は、どんな大人になりたい?

貴昭君 / どんな大人か? んー。 …。 「あの人は耳が悪いけど、プロだ。」って言われる大人に。

インタビュアー / 「プロ」?

貴昭君 / 「耳が悪いけど、強い人。」って、言ってくれる(言われる)大人になりたいと思います。

インタビュアー / ボクシング以外でも、「強い大人」って、いるじゃん? いるよね?

貴昭君 / それは、わからないなぁ〜。 難しいなぁ〜。 まだまだ、わからないなぁ〜。もし、いつか、「強い」って意味がわかったらいいと思います。うん。

インタビュアー / んー、そうだね。難しいね。

貴昭君 / うん。難しいですね。今は…。今は、ボクシングをがんばります。

(映像:ボクシングジムで練習する、貴昭君。)
ナ / 貴昭は今、再び、ボクシングと向き合おうとしている。今度は、強くなるためではなく、強く、生きて行くために。
難聴の少年ボクサー、藤本貴昭(ふじもと たかあき)。今いる所は、道の途中。

平成13年6月28日(木)放送
【 道の途中 〜 16歳・難聴のボクサー〜 】
   制作・著作 : 名古屋テレビ

      <文字版制作&配信>  ☆宮下あけみ☆
            【E-mail】    akemizo@beige.ocn.ne.jp


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