人工内耳友の会−東海−
文字情報 手元にすぐ

2010.05.29
文字情報 手元にすぐ
〜パソコン→無線LAN→小型端末〜

平成22年5月29日 朝日新聞大阪本社版掲載
新聞記事のPDFファイルは上記よりごらんいただけます。
尚、PDFファイルに一部読みにくい部分があるので、以下に文字版を掲載します。
(文責:東海支部 水口元一)

文字情報 手元にすぐ

 無線LANの通信機能がある小型情報端末を使って、聴覚障害者に文字情報を流す取り組みが始まっている。専用ソフトが開発された携帯ゲーム機やスマートフォン(多機能携帯電話)に、ボランティアらが講演内容や舞台公演のセリフをすばやく字幕表示させる仕組み。これから活用の場は広がりそうだ。(千葉雄高)

パソコン→無線LAN→小型端末
講演・舞台で聴覚障害者利用




 「今日は四字熟語の話です」。4月中旬、朝礼で校長が話を始めた。数人の生徒が、手にしている携帯ゲーム機「プレイステーション・ポータブル(PSP)」に目を落とす。東京都台東区の区立柏葉中学校は2007年から毎週月曜の朝礼で難聴の生徒にPSPを渡し、話の内容を伝える。教員が音声をパソコンで入力し、無線LANを通じて字幕をPSPに送る。難聴学級を担当する山口淳教諭は「クラスの友人と離れることなく、同じ場所で同じ情報に接することができ、生徒にも好評」と話す。

 神奈川県の会社員白石弘美さん(52)らは08年5月、ほかの聴覚障害者らと一緒に東京宝塚劇場で公演を見た。若いころ、漫画で「ベルサイユのぱら」を読んで以来のファン。「せりふが分からないのに劇場に行ってもつらいだけ」とためらっていたが、PSP字幕を知って劇場に相談し、持ち込みを許可された。支援者が台本をもとに、前もって字幕を作成。劇の進行に合わせ、スタッフルームのパソコンからPSPに発信した。「あきらめていた歌劇を見られ、感激でした」

 栃木県のパソコン要約筆記サークル「きぶな」は、メンバーの結婚披露宴でスピーチなどをPSPで表示した。以前、別の披露宴で新郎新婦席の近くにスクリーンを置いて字幕を表示させたことがあったが、両親への花束贈呈などハイライトの場面で、聴覚障害のある招待客はスクリーンに背を向けることに。PSPを使った際は、「好きな方向に向きながら字幕が見られる」と好評だった。

 大阪や京都でも、卒業式のほか、聴覚障害者同士の結婚式でも利用されている。大分県では、障害者を多く雇用する企業の研修に取り入れられている。

まずPSPで DS、iPadも可能

 PSP字幕が誕生したのは07年。東京都で要約筆記をしていた宮下あけみさんが、手軽に字幕を見る方法として、PSPに着目した。静岡県裾野市の会社員森直之さん(29)が、無線LANを使った字幕表示を研究していることを知って相談を持ちかけた。

 森さんも地元の要約筆記サークルで活動。有線でつないだパソコンに字幕を表示した際、配線が大変だった経験から、無線LANを使う方法を考えていた。宮下さんの提案を踏まえ、パソコンで作った字幕をPSPのウェプ閲覧ソフトで見るシステムを開発した。

 PSPを発売するソニー・コンピュータエンタテインメントは、森さんの取り組みに賛同し、技術者がアドバイスした。福永憲一渉外部長は「想定していなかったが、このような形で役立つのはうれしい。今後も協力したい」と話す。

 携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」は初め、文字が画面からはみ出てしまう難点があったが、森さんが改良。携帯電話端末のiPhone(アイフォーン)や携帯音楽端末のiPod(アイポッド)の一部など利用可能な機器は増えている。原理的には、無線LAN機能とWEB閲覧ソフトを持つ機器なら字幕に対応でき、日本で28日に発売された新型情報端末iPad(アイパッド)でも使えるようになる見込みだ。森さんは「新しい技術を取り込んでどんどん性能を高めていきたい」と話す。

要約筆記者の養成課題

 全国要約筆記問題研究会(名古屋市)の三宅初穂理事長は「技術や機器の進歩が、情報保障のレベルを上げるのは確かで歓迎したい。一方で、情報保障を担う要約筆記者の養成は地域によってばらつきがあり、機器を障害者が自ら用意しなければならない所もある。まだまだ社会全体で支える体制にはなっていない」と指摘する。



各種情報メニューへ