人工内耳友の会−東海−
PHSを利用した遠隔字幕システム

2008.06 吉日
実証実験:ウィルコムのPHSを利用した遠隔字幕システム
〜文字通訳をお手軽に。(^_-)-☆〜

記:三田パソコン要約筆記勉強会「三田フレンズ」

【お手軽字幕受信(リアルタイム文字通訳)】

   

@ PHSに字幕表示
A 手に持って字幕を見る
B ベビーカーの上に「音声送信用PHS」を置き、会場の音声を入力者宅に送る
C 利用者は「黒PHS」に声で話す→入力者は「白PHS」に文字で返事をする


【きっかけ】

2000年10月、三田フレンズメンバーM夫妻の結婚披露宴で、パソコン+手話による情報保障を行った。
その準備等を記した「結婚式バリアフリー〜聴覚障害者のためのパソコンを使った情報保障〜(2000.09)」を作成し、当日の披露宴の様子は、NHK「聴覚障害者のみなさんへ(当時)」で放送された。

「結婚式バリアフリー〜聴覚障害者のためのパソコンを使った情報保障〜(2000.09)」 pdf
http://www006.upp.so-net.ne.jp/haruyasu/panphall.pdf

あれから8年…。
当時、新郎新婦だった二人が、今回2008年6月、親族の結婚披露宴に参列することになった。
8年前のM夫妻の披露宴では、聴覚障害のある参列者も多く、スクリーン(手話通訳との合成画面)+ノートパソコン表示を行ったため、情報保障者(手話+パソコン文字通訳者)も会場に入っていたが、今回は情報保障を必要とする聴覚障害がある参列者は、妻のみ。

そこで、M夫妻より、「2008年1月、三田フレンズ企画『PSP字幕』で行ったIPtalk broadcasterのシステムを使って遠隔通訳はできないだろうか? PHSを使ってお気軽に。(^_-)-☆」と、新しい企画が持ち込まれる。

ウィルコムのPHSを持っているM夫妻が自宅で実験し、以下の方法で“できる”ことを確認し、6月21日(土)、三田フレンズで発表。
その後、三田フレンズMLで協力者を募り、6月29日(日)、スタッフの自宅を通訳現場とする「遠隔通訳」の実証実験が行われた。


【ウィルコムのPHSを利用した遠隔字幕システム】



音声を送るための回線と字幕を受けるための回線を確保するために、利用者側、通訳者側それぞれ2台ずつ(計4台)のPHSを準備。

<音声を送る回線>
利用者側から通訳者のPHSに、音声通話(通常の通話)モードで接続。利用者側はハンズフリー機能で会場の音声を通訳者側に送る。

<字幕を受ける回線>
通訳者のPCをPHSのモデム機能を利用した“接続着信”の設定を事前に行う。
当日は、通訳者PCのIPtalk BroadcasterのIPアドレスに利用者側から通訳者のPHSからダイアルアップ接続(PIAFS)で接続する。


<2008.06.21 三田フレンズにて、PHSへの字幕表示の発表>

 

(方法1)
インターネットを使わない、PHS同志の字幕表示を確認。(=前述の説明と同じ方法、今回の結婚式で利用した方法)

(方法2)
IPtalk Broadcaster にグローバルIPアドレスを割り付けた場合は、当日、参加者が持っていた携帯電話の全ての機種(au、DoCoMo、SoftBank、PHS)のブラウザで、字幕を受信することができた。

※イー・モバイルのDATA CARDを利用してIPTalk BroadcasterにグローバルIPアドレスを割り付け。割り付けられたグローバルIPアドレスに、携帯電話やPHSのブラウザからアクセス。


【2008.06.29 披露宴当日 情報保障者側の様子】





<機材>
1.ITBC(IPtalk broadcaster)用パソコン → ITBCデータ送信用PHSを接続
2.音声通話PHS → アンプ → ヘッドフォン(4台)へ
3.入力用パソコン(リアルタイム入力者 2名)
4.レコーダー (録音)
5.ハブ
6.GW-US54Mini2 → 別途、情報保障者側へのPSPへ
7.状況連絡および予備パソコン

<ウィルコム関連機器>
@ RZ-J81
A DD(WS002IN)とRX420AL 
B WX321J
C WX331K

<スケジュール>
10:00〜11:30 集合・準備・テスト
11:30〜12:30 昼食
12:30〜13:00 準備・待機
13:00〜      披露宴(本番)開始
※披露宴前の「親族紹介・挙式」等は、夫婦間での手話通訳で対応。

<当日の基本的な進め方>
音声回線、ダイアルアップともに、利用者側から接続。
・音声回線…契約形式によりPHS同志の通話は無料
(1)接続テストのとき
(2)披露宴中原則的にずっとつなぎっぱなし
・字幕受信=ダイアルアップ…時間課金される
(1)接続テストのとき
(2)披露宴中の必要なとき(基本的に歓談時以外は全て)

<PHS 音声通話確認>



※主たる字幕利用者は難聴の妻だが、夫は聴者なので、事前に通話による互いの音声確認ができた。
※披露宴会場にいる利用者側のPHSは「字幕表示用」と「音声送信用」の2台。
※「字幕表示用」は、手に取ったりテーブルに置いたり、自由に動かしていた。
※「音声送信端末」は、前半はテーブル(8人がけの中央)の灰皿の上に、後半は会場の隅のベビーカーの上に置いていた。

<PHS IPtalk broadcaster文字データ送信確認>



 

※字幕を受信したいときは、披露宴会場にいる利用者よりダイアルアップ接続される。
※赤が点灯している時、披露宴会場のPHSに字幕が表示。
※字幕を受信するには「時間課金(おそらく1分間20円ぐらい)」される。

<IPtalk broadcaster(ITBC)→PHS用パソコン>



※IPtalk broadcasterを立ち上げる。
※PHS画面に合わせた表示設定を行う。
※今回は「1行の文字数全角10文字、行数10行」


<遠隔通訳風景>

 

※より鮮明に音を聞くため、スピーカーではなく4人ともヘッドフォンを使用。
※「拍手」等、極端に大きく聞こえる時は、手作業でボリュームを下げる。
※通常「録音」はしないが、今回はスタッフ間での実証実験であり、三田フレンズとして後に検証したいと思っていたため、録音した。


【感想・反省など】

★字幕利用者(難聴者)より★



●情報保障者が遠くにいることに、とても違和感を感じた。
聞こえない人は音声の通信が出来ないので、電話回線の向こう側の人の存在を感じることが出来ない。
なので、今日のような見えないところから情報保障を受けると、準備や片付けなどを行っている姿が見えないので、情報保障をしている人との距離をものすごく感じた。

●「要約筆記してくれてるからちゃんと見なきゃ!」というプレッシャーがなく、気楽だった。

●「携帯電話での文字通訳だから」という、通信によるタイムラグはあまり感じなかった。

●PHSの端末で見ていたが、画面(文字?)が小さいため、読み溜めして次に読み溜めしようと思ったときに、どこまで読んだか瞬時に解りにくかった。
(PSPで見たときはそんなに感じなかったが、PHSでは特に感じたような気がする)

●コンパクトなのはやっぱりお手軽!

●「字幕表示用PHS」は手に持ったり、いろいろな所に置くために動かしたので、「音声送信用PHS」とわけて良かったと思う。
(動かすたびに、不要な音を送らないで済むため)

★依頼者(聴者・字幕利用者の夫)より★

●情報保障者に対して、あえて事前情報を伝えていなかった。
「利用者も通訳者もお手軽に」を実現したかったため、情報保障者に、あえて事前情報は伝えていなかったし、自分としても積極的に情報を収集しようとは思わなかった。
利用者が事前に情報を集めるのもそれなりに大変なのと、事前に情報を送ってしまうと、情報保障者側に事前準備の負担をかけてしまうかもしれないと思ったからである。

●いろいろなところで簡単に通訳をうけられる可能性が・・・
今回、親族控え室&挙式会場は5階、披露宴会場は地下1階だった。
親族控え室では今回は通訳をお願いしていなかったが、PHSや携帯電話の回線を使った遠隔字幕であれば、建物内で離れていても情報保障ができるというのが便利なところだなと感じた。

●30分程度の通訳に便利かも・・・
今回は、3時間ものの結婚式で長丁場だったが、30分程度ですむ通訳で、通訳者が一人でよいような場合には、お手軽に通訳が受けられてよいと感じた。

●通訳者の顔が見えないこと・・・
通訳者の顔の見えないことの良し悪し両面あるように感じた。
今回は事前に4名の名前や顔がわかっていたが、誰がどんな状況でやっているのか分からないのは、不安になる人もいると思う。
互いを知らない場合は、自己紹介等をしたらよいかと思った。

●テーブルに音声を送るPHSがあること・・・
利用者より、「テーブルでの会話があまりできなかった」との声がありました。
テーブルに音声PHSがあったとき、雑談の声って拾えていました?

★情報保障者より★



○利用者/「情報保障者が遠くにいることに、とても違和感を感じた。」
  ↓
◆同じような感じはこちらにもあった。
部屋の広さ、人数、衣装など、どのようなのか想像していた。
始める前に、携帯で写真を交換するとかするとよいのでしょうか。
(情報保障者側からは送信した)

○利用者/「音声送信端末」は、前半はテーブル(8人がけの中央)の灰皿の上に、後半は会場の隅のベビーカーの上に置いていた。
  ↓
◆音声送信用PHSの置き場所について。
移動させることができたのであれば、会場PA(放送設備)のスピーカーのなるべく近くに置くと、司会者やスピーチ者の音声が、より鮮明に聞こえたかもしれない。
こういう状況では部屋の反響が音声の明瞭度を下げる主要因になるので、なるべくスピーカーからの直接音を拾えるところがよい。
また、スピーチとテーブルの会話,拍手など、複数の音源が重複した時に聞き取りにくくなる。
たぶんこれは人間の聴覚知覚が持っているカクテルパーティー効果(複数の音源の中から聞きたい音だけを選択的に聞く)というメカニズムが電気音響系を通したこういう状況では働かなくなるのが原因かと思われる。
そういう意味でも情報保障対象音源のなるべく近くにマイクをおくのが理想的だと思う。
但しそうすると、「テーブル内での雑談」の音声は拾えなくなるので、音声送信用PHSが1台の場合は、その都度移動させなくてはならない。

○利用者/情報保障者に対して、あえて事前情報を伝えていなかった。
  ↓
◆式次第程度は知らせておいていただけるとよいかと思った。

○利用者/「テーブルでの会話ができなかった」との声がありました。
テーブルに音声PHSがあったとき、雑談の声って拾えていました?
  ↓
◆テーブルでの会話は今回は情報保障対象外という認識だったので、聞こえていたけど打たなかったことが多かったかと思う。
ただ、ご歓談タイムは周囲がざわついているので、話が追えるほどは聞き取れなかった時も多かったが。

◆実際、司会の声が聞きづらかったこともあるが、やはり情報保障の現場で視覚に頼ることも多いのだと改めて気づかされた。
「・・・・」と聞こえた気がしても、目で確認できないため確信が持てずに表示を控えた場面がいくつかあった。
しかし逆に考えれば利用者は現場にいて直に見ているのだから、あえて入れる必要もなかったのかもしれないと、後から思った。
(ただ、必要もないだろうことが明確に聞こえなかったために入力者側が頭をひねっている時間がもったいないなとも思う)
やはり、式次第程度の情報があれば、見えていない現場の様子が多少は予測できたのではと思われる。

◆これからお手軽に「遠隔」を進めていこうとする際の、最大のネック、「会場の様子が分からない」、しかも「事前情報がほとんどない」状況で、どこまで情報保障が可能か?ということを知るためには絶好の現場だったと思う。

◆空間 に響いたマイク音を拾うと、かなり音が劣化する。
至近で拾っている生の音(話し声以外にも操作音など各種の環境音)で、耳がガンガンする割には、肝心の司会の話が聞こえない。ヘッドフォンで聞くのと、スピーカーで聞くのと、どっちがいいのかな?と感じた。
(テープ起こしなどをやっていると、ヘッドフォンで聞いた後にスピーカーで聞くと、案外、すっと「話」が聞こえたりすることがある)
音声情報だけが頼りになるので、音響環境の改善が少し必要と感じた。

◆お店の会話、携帯電話が使用できる範囲での病院の会話など、周囲の音響環境が比較的静かな場所での、パーソナルな会話には威力を発揮すると感じた。
また、将来的に病院内でも使用可能な携帯電話ができれば、急病で病院に行っても、医師の説明等の文字通訳ができるかもしれない。

◆情報保障者側は送られてくる音に集中し、パソコンで入力していくので、「情報保障者側の状況」も伝えやすいが、利用者側はその場での対応(行動)をしつつ情報保障を受けているので、「利用者側の状況」を情報保障者に伝えるのは、難しいと思う。
その場での対応をしている(=今回であれば「披露宴に出席」している)のに、携帯電話でメールをしだすというのも、周りから誤解をされるかもしれないし、その場の雰囲気をこわしかねない。
今回は夫が聴者だったのと、利用者が自分の声で話ができる難聴者であったため、「音声送信用PHS」を使い、音声で状況を伝えてもらったが、もし電話を通すと声が不明瞭になってしまう難聴者一人だけであったら、「1.音声送信用、2.字幕表示用、3.携帯メール用(情報保障者に状況報告用)」の3台が必要になるのだろうか。

◆今回はPHSを使ったが、視覚障害者の長谷川貞夫先生が「テレサポート」として研究実践されている「FOMA」を使ってみたらどうだろうかと思った。
FOMAのテレビ電話を使って、手話で会話をしたり、手話通訳をしている・受けている人がいる。
これであれば、相互に映像と音声を送り合うことができる。
利用者は必要に応じて会場全体を映したり、その時の話者を映す。(不要であれば隠す)
情報保障者は、こちら側が入力しているパソコン画面をずっと映していく。
ただ、別途、表示用パソコンを用意するのであればFOMAを固定させるのは簡単だが、入力者1名・パソコン1台で、入力者のパソコン画面を映すには、FOMAを固定する位置が問題になるが…。

|<参考>

|「視覚障害者がFOMA活用 全盲の長谷川さん、外出支援実験」
http://www.mainichi.co.jp/universalon/report/2002/0313.html

|「テレサポート報告:2004.09.27
| FOMAらくらくホンのスピーカーホン機能をテレサポートで応用」
http://www5d.biglobe.ne.jp/~sptnet/27159411/

◆ちょっとした遠隔通訳にも適していると思う。
利用者が「誰か入力(通訳)できる人、いる?」と発信。
情報保障者はPHSでの通信ができる状態であれば、公園のベンチでも、時間調整中の車の中でも可能。
互いに「お手軽に。(^_-)-☆」を理解しながら使い続け、実績が蓄積されているとよいと思った。
そしていつか、情報保障のない「避難所」や「緊急時への対応」にも使っていただけるようになったらよいと思う。

◆IPtalk broadcasterは多くの可能性を秘めたツールだと思います。
開発して下さった森さん、本当にありがとうございます。
そして今後ともよろしくお願い申し上げます。

三田パソコン要約筆記勉強会「三田フレンズ」企画



各種情報メニューへ