人工内耳友の会−東海−
学校でのパソコン要約筆記

「学校(義務教育内)でのパソコン要約筆記」について

【式典】(経験の中から)


宮下あけみ akemizo@beige.ocn.ne.jp


みなさん、【パソコン要約筆記】という言葉を聞かれた事があるかと思いますし、実際、ご覧になった方々も多いのではないかと思います。「人工内耳友の会:全国大会」でも、使われ始めている、パソコン入力による、リアルタイム文字情報保障です。現在、各地域の「文字情報保障」として、「手書き要約筆記:OHP、ノートテイク」と共に、ここ数年、多く、利用されてきています。

私は、この【パソコン要約筆記】のお手伝いをさせていただく事がありますので、今回は、「自分の経験から」という事で、【学校でのパソコン要約筆記/式典、他】について、記させていただきたいと思います。


学校で、「手話通訳や、要約筆記が付く。」というと、まず、「ろう学校」が思い浮かぶと思いますが、【文字通訳】は、「ろう学校だけ」ではありません。私がお伺いしたのは、「難聴学級がある、普通学校」です。(聞こえる子の学校ですが、ここでは普通学校と記させていただく事を、ご了承下さい。)勿論、特別にそういうクラスがなくとも、学校より、「難聴の生徒が在籍しておりますので。」とご連絡があれば、できる限りお伺いしたいと思っております。

現在、「パソコン要約筆記の公的派遣システム」が実施されているところは限定されていますので、ほとんどの地域では、パソコン要約筆記は、ある種のボランティア活動が中心となっている所が多いと思います。手書き要約筆記のサークル内や、小さなグループ、個人での活動が多いのではないでしょうか。私も、その一人です。


普通学校に通っている難聴の児童・生徒さんで、人工内耳や補聴器、骨伝導補聴器等、補聴システムを利用されている方々は、授業中はある程度、学校側の理解がある事も多く、教科ごとに、教師にマイクを付けていただくとか、板書を多めにしていただくなどの配慮をしていただいていると思います。

しかし、【体育館での行事】となると、なかなか、対応しきれない面が多いと言うのが現状です。いくら補聴システムを利用していても、「体育館」や「講堂」では、音の反響や様々な雑音により、聞き取りにくくなってしまいます。

そのような、【体育館での行事】の時に、全児童・生徒が見る事ができる、スクリーンによる文字表示(要約筆記)が必要になります。方法は、「手書きOHP」と「パソコン要約筆記」がありますが、ここでは、「パソコン要約筆記による情報保障」について、記させていただきます。


ある時、同じ学校の「3月:卒業式」、「4月:入学式」と、両方、お伺いさせていただきました。【体育館での行事】です。
ここには、難聴の生徒さんがいらっしゃると言う事で依頼を受け、お伺いさせていただきましたが、私は、どの生徒さんが難聴なのか?なども伺いませんし、学校側も説明しません。個人のノートテイクでない限り、「誰が」という事は、必要ないのです。スクリーン表示された文字情報は、その場にいる方全員への文字情報になるのです。しかし、会場が広かったり、光の加減等により、スクリーンを主に見せる方向や、表示される文字の大きさにも関係するため、「難聴の生徒さんは、だいたい、どのへんに座られますか?」「他の参加者(ご両親や来賓)で、文字情報を必要とされる方はいらっしゃいますか?」と言う事だけは、伺うようにしています。

このような理由で、私は、2回とも同じ学校に伺い、続けて私が担当し、学校側と連絡を取り、入力者を集めて伺いましたが、未だに、どなたが難聴の生徒さんだったのか、勿論、顔も名前も知りません。それで、いいのです。


繰り返しになりますが、【スクリーン表示された文字情報】は、聴覚障害者だけのものではありません。その場にいる、全ての方々の文字情報となります。

【式典】などの場合、「学校長の挨拶」など事前原稿がいただけるものは、事前に学校にお願いしていただいておきます。しかし、話者は、必ずしも事前原稿通りに話さなくても構いません。事前原稿をいただくと言う事は、当日、どのような内容で話をされるか予め教えていただければ、「単語登録」や流れを予想する事ができるためです。また、「事前原稿通り読む。」とわかっていれば、事前にパソコンに入力し、話者のスピードに合わせて文字を出して行く事もできます。

【卒業式】【入学式】では、必ず、「卒業生・新入生」の名前の読み上げ、「教職員紹介」がありますので、これだけは必ず、名簿をいただき、パソコンに入力しておきます。【入学式】では、「クラス発表」がありますので、「前日」に送られてくる事もあります。「名前の読み上げ」等は、事前に入力しておきませんと追いつきませんし、「漢字変換」ができません。氏名の間違いは失礼にあたりますから、事前入力に、特に気を使います。

また、式典には、【校歌】など、【歌】がいくつかあります。「事前原稿通りの挨拶」等は、話者のタイミングに合わせて出して文字を出して行きますが、【歌】は、少し早めに出すようにしています。ちょうど、【カラオケ】と同じ感じだと思って下さい。そうすると、聴覚障害者に限らず、会場にいる全員がその歌を、前を向いて、スクリーンを見ながら歌えるのです。


【入学式】では、学校側のご了解を得て、スクリーンの背景画に、ビットマップの【花見(桜の絵)】をつけて行いました。薄いピンク色の桜の背景画に、黒のゴシック太文字。体育館の一番後ろからも、きちんと文字を見る事ができました。

単なる、「聴覚障害児・者のための文字情報」ではなく、その場の雰囲気に合わせて、背景画をつけた事で、その場の雰囲気も明るくなりましたし、聴覚障害者・難聴の生徒だけでなく、その場に居合わせた全員の文字情報として、利用していただく事が出来ました。

反省は、多々ありますが、「こういう文字情報もある」という、一例として、お読みいただければ…と思います。                         
                  以上


【生徒総会(生徒会選挙)】(経験の中から)


宮下あけみ akemizo@beige.ocn.ne.jp


「学校(義務教育内)でのパソコン要約筆記」について【式典】(経験の中から)に引き続き、【生徒総会(生徒会選挙)】での、パソコン要約筆記について、記させていただきます。

【式典】の時にも書きましたが、【体育館での行事】というのは、難聴の児童・生徒さんにとって、聞き取りにくい事が多々あります。

その中の1つに、【生徒総会・生徒会選挙】があり、パソコン要約筆記による情報保障に伺った事があります。「生徒会選挙」とは、「生徒会」の会長や書記等を選ぶ時に、「立候補者自身の演説」や、「応援演説」を全校生徒に聞いてもらい、投票への判断基準にしていただく、大切なものです。この大切な【生徒会選挙】について、「候補者のプロフィール」や「立候補理由」はプリントして、事前に全校生徒に配ってあるのですが、肝心な、全校生徒を一同に集めての、「演説会」には、なんの【文字情報】もないのが通常だと思います。


ある時、この【生徒会選挙】の【パソコン要約筆記情報保障】にお伺いしました。「中学校」です。先ほどの【式典】で伺った学校とは別の学校ですが、やはり、普通学校です。この時は、普通学校の中に、難聴の生徒さんが、数名、いらっしゃいました。

全校生徒は、体育館の中央に並んで座っていたのですが、難聴の生徒さんはかたまって、少し端の所に席が設けられておりました。(位置は、学校側が指定した場所です。)そこに、一人一台のノートパソコンを並べ、それぞれ、生徒さんに、見ていただきました。(スクリーンに映し出さない場合、通常、「パソコン・ノートテイク」と呼んでいます。)

ここの学校では、【パソコン要約筆記情報保障】は、はじめての試みだったのですが、利用された生徒さんより、「はじめて、立候補者の話の内容がわかった。」と、後に、ご連絡をいただきました。この言葉の持つ意味の深さを、私も、そして多くの方々と考えていきたいと思います。


難聴の児童・生徒さんが、聞こえる社会で学び、生活していくためには、補聴システムの発達だけでなく、何らかのサポートが必要になる事があると思います。しかし、年齢が低いほど、「他の児童・生徒の目」を気にされます。

特に「パソコン・ノートテイク」の場合、「自分にだけ…。」という状況になります。高校生以上になれば、自分から、ノートテイクの必要性を感じ、それなりに行動を起こす方もいらっしゃいますが、小・中学生では、「ノートテイク」と言う存在さえも知らない(知る機会がない)でしょう。ですから、「自分だけ、みんなと違う。」、「あの子だけ、特別扱いされている。」という雰囲気にもなりかねないのです。


これは、「テレビ字幕(文字放送)」と同じです。以前にも書きましたが、NHK教育の「学年別授業テレビ番組」には、「文字放送」になっているものがあります。(普通学校で文字放送を見る事ができるようにセットしてある所はないかもしれませんが。)

しかし、何らかの補聴システムを利用して普通学校(聞こえる子の通う学校)に通っている難聴児の場合、
・自分たった一人のために、テレビ画面上に字幕を出す事に、抵抗はないか? 
・他のクラスメイトとの関係に、支障をきたさないか? 
・テレビの時間だけ、字幕が見える位置に席を替わってもらえるか?
など、難聴児本人の心理面にも気を遣う事が、とても大切になってきます。

これには、担任教師により、聞こえるクラスメイトに対し、難聴児への理解について、低学年にもわかるように説明・指導していただく事は、とても重要な事になると思います。言う(お願いする)のは簡単ですが、実際には、“改まって”理解させるのか、“自然と”理解・協力し合える方向にもって行くのか…。諸先生方のご努力には、本当に敬服いたします。


勿論、小学校低学年の場合、テレビにせよ、学校での授業や行事にせよ、「文字情報」がついたからと言って、「聞こえる子と同等の番組内容の理解ができるか? 」というと、それは定かではありません。「文字」を追っているだけで、大切な画面、その場の雰囲気を見落としてしまう事も考えられます。


この【ACITA会報】を読まれてる方の中には、人工内耳装用児の保護者の方、学校の先生ほか、お子様の教育や医療に関わっていらっしゃる方も多いと思います。

少しでも、難聴の児童・生徒さんへのサポート例としてご参考になればと思い、記させていただきました。責任のない立場であることより、理想論ばかりを記してしまった事をお詫び申し上げるとともに、諸先生方から、経験談等、アドバイスをいただければ幸いに存じます。

何卒、宜しくお願い申し上げます。

以上



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