人工内耳友の会−東海−
人工内耳の最新情報

人工内耳の最新情報

鞄本コクレア 副社長  渡 辺 真 一



人工内耳の最新情報についてこのような項目でお話をさせていただきます。



皆様、この方をご存じでしょうか?生まれつきの難聴でありながら1995年のミスアメリカに選ばれたフェザーホワイトストーンさんです。この方は長年補聴器のユーザーでしたが、昨年、人工内耳の手術を受けられ人工内耳装用者となりました。自分の子どもの声を聞きたいという理由で手術を決心されたそうです。 



もう3年近く前になりますが、5万人目の人工内耳装用者が日本で生まれ、その記念式典が昨年東京で開かれました。そのとき来日中だったオーストラリアのハワード首相も招待されました。



昨年は愛知万博が開かれました。その入り口にはこのように「人工内耳‥」という文字が表示されていました。



7月16日にはイベントがあり、オーストラリアで子どもで初めて人工内耳を装用したホリー・マグドネルさんの講演が行われました。



東京から来た装用者と装用児によるトークショーも行われました。



昨年11月にNHKスペシャルという有名な番組の中で「人工内耳」が取り上げられ、東京の装用児の一人が紹介されました。あまりに自然に話をしバイオリンを弾いているので、難聴児と気付く人も少なかったのではないでしょうか?ご覧になった方はいらっしゃいますか?



さらにその1カ月後にはNHK衛星第2放送で、その続編が放映されました。



さて、これは日本における人工内耳全部の年間手術数を表しています。最近では年間450人ほどの方が人工内耳を装用しておられます。



人工内耳全体の成人と小児の比率です。日本では小児が1/3強と言う比率です。



人工内耳全体の男性と女性の比率です。多少女性の方が多いという結果になっております。



世界におけるコクレア社の人工内耳の年間装用者数を表しています。最近では成人、小児とも年間およそ4,000人〜5,000人の方が人工内耳を装用しています。



人工内耳全体の成人と小児の比率です。日本では小児が1/3と言う比率ですが世界では小児の方が成人よりも高い比率となっています。



世界の小児比率のグラフです。小児比率はアジア、ヨーロッパで高く、アメリカ、オーストラリアがそれに続きます。日本は世界で最も小児の装用比率が低い国です。



人工内耳の手術を受けた方の年齢分布を示します。小児では2〜4歳が群を抜いて多く、次いで4〜6歳です。一方、成人の手術年齢は50歳代と60歳代が最も多い結果が出ております。なお、70歳以上も多く最高齢は89歳の方が2名おられます。



年齢65歳以上で手術を受けた方の装用者数の経緯を示しています。最近では年間70人ほどの方が装用されておられます。



小児について少し詳しく見ていただきたいと思います。小児ではこのように年々成長が著しいのですが、中でも年齢の若年化にご注目ください。



小児全体の平均手術年齢は当初、10歳以上であったのが現在では5歳以下となりました。一般的に低年齢で手術を受けた方が好成績が得られるという結果がこのような低年齢化を生んでいると思われます。



4歳以下で手術を受けた小児の数を表すこのデータでも、同様に低年齢化を示すものです。



平成13年に行われた調査によると、聴覚・言語障害者数は成人が35万人、小児が1万5千人とのことです。聴力レベルだけで判断するとこの半数が人工内耳の適用となります。



最近各地で、新生児聴覚スクリーニングのプロジェクトが稼働し始めています。生まれつきの両側高度難聴児は全体の0.1〜0.2%と言われており、毎年2000人の難聴児が生まれてくることになりますが、早く発見ができれば、適切な療育が早期から可能になると言えます。これは後の言語性IQに大きく影響し、就学時の言語性IQ は0歳発見で健聴児と変わらない結果が出ています。さらに重度難聴と診断された児では補聴器に比べ人工内耳を受けた児の方が聴覚認知力、発語明瞭度が良好と言う結果も得られました。



これはコクレア社の人工内耳手術施設です。全国90施設で手術が可能となっています。



横軸は装用者数の多い順に13位までが並んでいます。日本は装用者数では世界4位ですが、普及率はオーストラリアの1/6、アメリカの1/3、ヨーロッパの半分に過ぎず下位から2番目です。



日本における普及率ですが、中部、北陸地区では成人、小児とも県により大きくばらつきがあります。愛知県は小児の普及率は高いのですが、成人が低いです。



私どもでは、全面的に全難聴の加盟協会様やACITA友の会のご協力と病院の先生方のご協力をいただきながら、2〜3年前より説明会・相談会を推進してまいりました。



これは、その相談会を通して手術を決心された方々の数を表すグラフです。平成15年から現在まで100名以上の方がこのような説明会にご参加になり手術を受けておられます。



これは、世界で2年以上にわたり行われたすべての植え込み手術4,800例において実際に生じた取り出し例と、副作用・不具合の集計結果です。この副作用・不具合のうち電極の不具合は小児で多く、次の顔面神経刺激は成人で多く見られました。



これは先ほどの表の最初の部分:N24の取り出し症例です。装置の故障が0.88%と高い数値が出ていますが、感染は0.2〜0.3%と低い値となっています。他に電極の不具合や電極の移動などもあります。全体からみれば少ないですがこう言ったデータが出ています。 



一方、これは日本において厚生労働省にデータ提出が義務づけられている3年間の使用成績調査におけるデータです。3年間で全体ののべ15%において何らかの副作用・不具合が生じました。



こちらをグラフにしてみますと、このように医学的問題、重度のものと軽度のもの、内部装置の不具合、外部装置の不具合に分けられます。特に重度の医学的問題と一部の内部装置の不具合が、次にお話しする再手術の問題に関わってきます。



不幸にして再手術になった方々の年齢分布を取ってみましたが、特にこの年齢層が高い・・・と言うことはありません。



再手術の原因です。小児の場合は成人に比べ頭をぶつけたことによる再手術が多くなっています。気をつけていただきたいと思います。



何年使用して再手術となったかを調べてみました。これは原因が医学的問題の場合の使用年数です。2年以内が目立っております。



その後、長く使用すると増える・・と言うことはありません。したがって、手術の直後から2年間くらいは「何か異常が感じられた場合には、なるべく早めにかかりつけ医か手術病院で見ていただくこと」をお守りください。
植え込んだインプラントが何らかの異常を起こしたと言う場合、もっと顕著です。1年以内の初期トラブルがありますが、2年以降に生じた問題は非常に少ないことがわかります。したがって、装用期間が長くなると器械が壊れやすくなる・・・と言った心配は、データを見る限り不要だと思います。ご安心ください。



人工内耳の費用はこのようになっています。ただし、障害者自立支援法が成立したことで助成制度がなくなることが予定されています。



この様に人工内耳の問題点は現在では多くが解決しております。手術に関しては、最近の人工内耳では、手術時間が短縮され安全性が増しています。また、騒音下では聞き取りが困難であるという問題点についても最近は、新しい音声処理法の開発で騒音下の聞き取りが大幅に改善されました。さらにMRI検査を受けられない、と言うことについても最近の人工内耳は、MRI検査が可能になっています。 器械の方では、ケーブルが煩わしいことは、ケーブルのない耳掛け型スピーチプロセッサが出てきたことで解決しましたし、年少児のマッピングが困難、と言う問題はNRTソフトウェアがマッピングの手助けをすることで解決できました。



将来の人工内耳はこのようにさらに高性能・高機能なものになっていくと思います。そして、10年以内には全植え込み型という人工内耳も登場する予定です。そうなれば汗の心配もいりませんね。



技術情報をいろいろお話しします。まず、携帯型スピーチプロセッサ用の単三電池からお話ししたいと思います。単三電池と聞いてまず思い浮かべるのがアルカリ電池ではないかと思うくらい一般的になっており、コンビニでも駅でも手に入りやすい一次電池です。一次電池というのはアルカリやマンガンなどの材料を使った乾電池のことで、充電式の二次電池と区別されています。一方、電気店などでまとめて販売されているものにマンガン電池があります。ラベルに「アルカリ電池」と書いていないものはマンガン電池と考えていただいて良いかと思います。安価ですがこの図でおわかりのように性能的にはアルカリよりはるかに低レベルなので、お勧めしません。



このような新しい性能を持つニッケル水素電池も現れました。このようにニッケル水素電池の欠点が改善されています。



次は耳掛け型スピーチプロセッサ用のボタン電池についてです。これには空気亜鉛電池が使われます。残念ながら充電式の二次電池はありません。東芝電池とコクレア社とで共同開発した空気亜鉛電池が発売となりました。さらには、ドイツのバータ社で製造されている空気亜鉛電池もその後取扱いを始めました。音切れなどのトラブルを極力少なくするために、是非これらの高出力型の空気電池を使っていただきたいと思います。



耳掛け型スピーチプロセッサをうまく使いこなすコツは、空気電池の性質をよく知ることです。有効な電池の使い方を知らないと音切れなどのトラブルの元になるからです。まず、温度の影響ですが、空気電池は凍るような温度ではわずかな性能しか発揮できません。少なくとも室温程度の温度が必要であることがおわかりかと思います。真冬のうんと寒い屋外では毛糸の帽子を頭にすっぽり被るようなことが対策として考えられます。電池が電圧を発生するのは化学反応ですから、温度は高い程有利と言うことになります。また、湿度に対する影響も大きく、高湿度や低湿度では性能が低下しますのでそう言う場所に行かれたときには、寿命が短くなることを覚えておいてください。



このグラフでは電流と刺激レートの関係を表しています。SPEAKコード化法の 2000 Hzでは 5 mAですが、ACEやCISの最高値である14 kHz では6倍の 30 mAに達します。すなわち、刺激レートは電池の寿命に深く関係してきます。



これは空気亜鉛電池ではなく、酸化銀電池での刺激レートと電池寿命の関係です。ご覧のように個人差がありますが、4000Hzで7時間〜12時間持っていたものが、9000Hzになると急に4時間〜6時間へと、 4000Hzの時の約半分の寿命となってしまいます。



新しい空気亜鉛電池での刺激レートと電池寿命の関係です。先ほどと同じく個人差がありますが、4000Hzで30時間〜60時間と酸化銀電池の数倍の能力を持っています。しかしこれでも、9000Hzになると10時間〜18時間へと 大きく寿命が減少してしまいます。2個の新しい電池が丸1日持つか持たないか・・と言うことになってしまいます。



高レート刺激を行った場合、その消費電力の7割までが信号送信に使われます。皮弁の厚さが影響するのはそのためです。実際の機器そのものを動かすパワーはそのごく一部にしか過ぎません。



電力消費に影響する因子はこのようなものです。パルス幅以外の全ての要因で個人差が大きいことに気が付かれると思います。



少し話が変わりますが、2種類の電池を紹介します。PR44が一般の空気電池、PR44Pや675SPが高出力型です。このように一般型のPR44の方がPR44Pや675SPよりも寿命が長いように見えます。これは少ない電流をゆっくり流したときの特性です。



しかし、パルス放電特性と言って大きな電流を流すには、PR44ではパワーがありません。音切れなどの症状が出てしまいます。PR44Pや新しい675SPはもともと大電流を流せるように設計されたものです。電池はその用途によっていくつかの種類があるので、きちんと目的に合った電池を使用する必要があると言うことです。異なる種類の電池では、形状が同じでも性能が発揮できません。



しかし、パルス放電特性と言って大きな電流を流すには、PR44ではパワーがありません。音切れなどの症状が出てしまいます。PR44Pや新しい675SPはもともと大電流を流せるように設計されたものです。電池はその用途によっていくつかの種類があるので、きちんと目的に合った電池を使用する必要があると言うことです。異なる種類の電池では、形状が同じでも性能が発揮できません。



空気電池は動作する際、空気と反応して性能を発揮しますが、完全に空気と反応するのに多少時間を要します。この図を見ていただいてもおわかりのように5分間待つ必要があります。シールをはがしてから使用するまでの時間が短いと、音切れなどの障害を起こすことがあります。これは時間が経てば解決する問題でありませんので、必ず最初に5分おいてください。



最後に電池の一般的な注意をお話ししておきたいと思います。電池は必ず、特性の合ったものを同時に使ってください。もったいないからと言って古いものと新しいものを併用するとかえって不経済ですし危険です。違うメーカや違う種類の電池も同様に混ぜることは不経済ですし危険です。一次電池は充電できません。その様な充電器を販売していますが危険です。小さなお子さまがおられるところは是非注意していただきたいのですが、必ず手の届かないところに保管すると言うことです。誤って飲み込んでしまった場合、手術で取り除かなければならないこともあります。



人工内耳と電磁波についてお話しします。



携帯電話の影響について調査したところこのようなことがわかりました。



盗難防止ゲートや空港のセキュリティでは、装用者にとっては雑音が聞こえる可能性がありますし、場合によっては体内のインプラントに反応してアラームが鳴る可能性があります。装用者カードを用意しておいてください。



病院内には強い電磁波を出す医療機器があります。人工内耳に大きな影響を与える可能性がありますので、これらの医学療法は受けないように気をつけてください。



最近では手術に必ず電気メスが使われます。人工内耳装用者はこれらの制限がありますので、手術の予定がある場合事前にお話ししておいてください。バイポーラ電気メスは電極から1cm離れていれば使用できますし、モノポーラ電気メスの場合は頭頸部は使用できませんが、首から下であれば大丈夫です。



一般的な医療機器ではどうでしょうか。高周波・低周波治療器、通電(ハリ)治療器等がありますが、頭部での使用は避けてください。首から下であればこれらの機器も問題ありません。体脂肪計も大丈夫です。



家庭で使う高周波を使った電子機器も電磁波を発生しますが、いずれも出力が小さいため問題ありません。



装用者の方に対して一生涯サポートを続けていきたいとコクレア社では願っております。



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