人工内耳友の会−東海−
高木明先生ご講演

平成16年2月29日(日)
愛知県産業貿易会館西館9階第3会議室
人工内耳友の会−東海−総会兼懇談会ご講演

中途失聴者の人工内耳装用効果を決める要因
小児人工内耳の言語発達について


静岡県立総合病院 高 木  明



本日は人工内耳友の会、東海支部の総会の講演会にお招きにあずかり、有り難うございました。皆さん、難聴のこと、人工内耳のこと既によく勉強されて、改めて、お話しするようなこともないのですが、一応、ここに掲げました2つのことについて、簡単にお話させていただきます。どちらも人工内耳を同じようにつけても、言葉の聞き取りには様々な個人差があるのはなんでだろうかというあたりを考えてみたいと思います



紙芝居的に実際の人の耳の構造をこれから2,3示します。鼓膜はこのように薄い緊張した膜からなっています。大きさは9mm前後です。鼓膜には耳小骨がくっついています。



これは解剖で耳の骨を削ったところで、右耳をみています。鼓膜と中耳腔に繋がる耳管がわかります。
この鼓膜をはずすと、



このように3つの耳小骨が見えます。これらの骨は音を効率良く伝えるためのものです。一番奥のアブミ骨が内耳の液を振動させます。



内耳の構造を示します。左に3つの輪が見えますが、これが体のバランスをとる半規管です。右下に見えるカタツムリのような回転を示すのが蝸牛です。蝸牛の管は2階建てになっていて、そのしきりのところに音の振動を電気に変えるコルチ器がのっかています。アブミ骨の底板の位置と蝸牛の形をよく理解してください。人工内耳は正円窓膜の前方から入ります。また、アブミ骨の直上を走るのが顔面神経です。人工内耳で顔面が痙攣する症例がありますが、蝸牛の上部の回転が顔面神経と接しているためです。



結局、聞こえの仕組みとして、これらの段階を考える事ができるのですが、難聴の方は往々にして、耳がどの程度の大きさの音を感じることができるかという点にほとんどの関心がいってしまって、その後の脳幹、大脳の存在を忘れがちです。つまり、純音聴力検査の際、小さな音でも感知できれば、よい耳、さらには言葉もよくとれる耳というように考えがちです。今日のテーマはしつこいですが、それだけではないのですよ、ということをお話したいわけです。脳幹は・・・の役割を持ちますし、大脳は・・・という大事な役割を果たします。健聴のひとであっても、フランス語の辞書を大脳に持たない人がフランス語を聞いても理解はもちろんできませんし、その音を反復することも難しいというのは、大脳の備えがないためです。英語の発音を自分はちゃんと発音しているつもりなのになんども直されるのは幼小児期に習得される英語の音韻体系の辞書が脳に書き込まれていないからです。この音韻の習得には臨界期があって小児期までに完成してしまいます。人工内耳が先天聾の成人に難しいのはこれらの中枢の要因があります。また、多くの高度難聴の方は内耳の電気変換器が壊れています。ただし、中途半端にこわれていますので、何かしら音はわかるのですが、もとの音とは別の音として感じていることが多くなります。いわゆる歪むわけです。音声は極めて複雑な波形ですので、歪めばことばとして聞くことができません。ただし、聴力検査で用いる純音は単純な一定の強さを持つ音ですので ともかく、なにかしら、音としては感じます。これによってオージオグラムが作られるのですが、その結果、○○Hzで何db聞こえているので補聴器が使えるはずだ、とかまだ、人工内耳には早い、と言った議論は聞こえている音の質を無視した根拠のない判断です。本日はこの辺りのお話をすこしできればと思います。



先ほどの聞こえのそれぞれの段階での障害でいろんな段階での難聴が考えられますが、大きく2つに分けられます。・・・・・・・・・・・・・・・



では語音聴取に関係する聴覚能として、純音聴力検査以外にどんなものが考えられるかということについて述べます。ヒトの聴覚の最も大切な役割は「ことば」を聴取することです。一般に聞こえの善し悪しは純音聴力検査による聴力レベル(聞こえる音の大きさ)で代表されますが、必ずしも聴力レベルと語音聴取能は比例するわけではありません。語音の聴取にはスライドに示すような様々な聞こえの能力が関連しています。オージオグラムでは聴力レベル(大きさ)しかみないが周波数選択能、時間分解能も極めて重要な聴覚能です。本日はこれについて検討してみました。



まず、補聴器を使えるような中等度難聴者について調べました。対象は11歳から75歳までの感音難聴者51名、102耳です。検査の性格上、おおよそ、水平型の中等度感音難聴を対象とし、その難聴の原因は様々です。
 検査項目は純音聴力検査、最高語音明瞭度検査、心理物理学的同調曲線、ギャップ検知域値検査の4種です。
純音聴力検査はオ−ジオメ−タ(リオン)を用い、今回はその1000Hz,2000Hz、4000Hz,8000Hzの域値を解析対象としました。
最高語音明瞭度は日本聴覚医学会の単音節語表を用いて測定しています。
周波数選択能の検査として、心理物理学的同調曲線(以下PTCと略す) を求めました。周波数選択性というのは不要な音、雑音の排除能力と考えてもらってよいと思います。今回は1000HzにおけるPTCを求めました。具体的にはオ−ジオメ−タから1000Hzの断続音を域値上5dBのレベルでプロ−ブト−ンとして聞かせながら、もう一台のオ−ジオメ−タを用いて400Hzから1500Hzまで持続音で連続的にマスクを行い、マスクに必要なレベルを自記オ−ジオメ−タに記録しています。
時間分解能の評価のためにギャップ検知域値検査を行ないました。時間分解能は早い音の変化への神経の追従性に関係すると思ってください。これが悪いと一定の音の純音ならよく分かるけれども、ことばは不明瞭になってしまうなどの現象が起こります。100Hzから8000Hzまでのブロ−ドバンドノイズ一秒間中に30msec.から2msec.まで2msec.間隔で変化させた無音部を一つ置き、どの程度までの短い無音部に対して、ギャップとして感じられるかを答えてもらいました。なお、この方法による健常人のギャップ検知域値は2msec.です。   


周波数選択性の健常人の一例を示します。1000Hzに急峻な周波数選択性が見られます。1000Hz25dBの音を遮蔽するのに500Hzでは80dBの音圧が必要なのに対して、1500Hzの音でしゃへいしようとすると110dBの音圧がいることを示しています。この例では1000Hz 付近で強い雑音があってもかなりよく元々の1000Hzの音を聞き分けることができることを示しています。耳の悪い人であれば、500Hz、40dB程度の音でも元々の音が弁別できなくなります。そして、尖端の角度が拡がります。このPTCのtipの鋭さが周波数選択能の指標となります。



 代表的症例(変動する感音難聴例):
 変動する感音難聴症例において上記の聴覚パラメータがどう変動するかをみた。症例は53歳女性で血清梅毒反応から内耳梅毒と診断され、内リンパ水腫によると思われる聴力変動を認める。聴力悪化時、及び2ヵ月後の比較的聴力改善時の二つの時期にそれぞれ検査を行なった。純音聴力は4分法で寛解時(@)には38dBであったが悪化時(A)には61dBと23dBの聴力域値の上昇を主に低音部域に認めている(上段)。この聴力悪化時には患者は声が割れて聞き取りにくいと訴えている。この時、ギャップ検知域値は寛解時には4msで悪化時には10msと不良であった。PTCの鋭さはそれぞれ57度、及び108度の角度と周波数選択性の大きな低下を認めた(下段)。そして、最高語音明瞭度はそれぞれ80dBで85%および100dBで80%となっている。これらの結果からは聴力悪化時にはいずれの検査項目とも悪化しているので、語音明瞭度に最も影響を与える項目は何かについて、議論はできないが、少なくとも、域値上昇に見合う音圧レベルを補償しても最高語音明瞭度はむしろ低下しているので、ラウドネス以外の要因である時間分解能、周波数選択能などの悪化が影響していることがこの例からも十分伺える。



純音聴力域値と語音明瞭度。 
 横軸に聴力レベル、縦軸に最高語音明瞭度を示す。どの周波数が語音明瞭度に影響を及ぼし易いかを知るために、1kHz,2kHz,4kHz,8kHzそれぞれの域値との関連で調べた。いずれの周波数においても域値の上昇とともに語音明瞭度の低下を認めるが、 1000Hz、2000Hzでの負の相関が強く、語音聴取に影響する周波数といえる。ここで、各周波数で50dB前後の聴力域値における明瞭度を見てみるとどの周波数においても100%から0%に近いものまで、かなりのバラツキがあることが判る。これは、語音弁別能が、純音聴力域値のみに依存するのでもないことを示している。 つまり、純音聴力検査では中等度難聴に過ぎなくても、語音明瞭度に関しては大きなバラツキがあるので、補聴器による聴覚補償をオージオグラムの域値から機械的に行なっても語音明瞭度までの改善が困難なことがあることを示している。



周波数選択能と各周波数の聴力レベル。
 次に、周波数選択能と各周波数の聴力レベルとの関連を調べた。縦軸にPTCの角度(周波数選択性の鋭さ)と横軸に聴力レベルを示す。聴力レベルが悪化するにつれ、いずれの周波数においても周波数選択性が悪化することが分かる。今回はその指標として1000HzでのPTCを計測したので当然ながら1000Hzの純音域値とPTCの鋭さは良い相関を示す。周波数が1000Hzより遠ざかるにつれ、相関が悪くなっているが、8000Hzにおいてもまだ聴力域値とは比較的よい相関が保たれている。
つまり、周波数選択能は純音聴力域値と比較的良い相関を示す。しかしながら、やはり、50dB前後の中等度の難聴であっても、PTCの角度が150度以上という全く周波数選択性が無い症例が散見されることは注目されて良い。これらの症例では当然、語音明瞭度が悪いことが予想される。



周波数選択能と各周波数の聴力レベル。
 次に、周波数選択能と各周波数の聴力レベルとの関連を調べた。縦軸にPTCの角度(周波数選択性の鋭さ)と横軸に聴力レベルを示す。聴力レベルが悪化するにつれ、いずれの周波数においても周波数選択性が悪化することが分かる。今回はその指標として1000HzでのPTCを計測したので当然ながら1000Hzの純音域値とPTCの鋭さは良い相関を示す。周波数が1000Hzより遠ざかるにつれ、相関が悪くなっているが、8000Hzにおいてもまだ聴力域値とは比較的よい相関が保たれている。
つまり、周波数選択能は純音聴力域値と比較的良い相関を示す。しかしながら、やはり、50dB前後の中等度の難聴であっても、PTCの角度が150度以上という全く周波数選択性が無い症例が散見されることは注目されて良い。これらの症例では当然、語音明瞭度が悪いことが予想される。



時間分解能と各周波数の聴力レベル
次に、ギャップ検知域値検査による時間分解能と各周波数の聴力レベルとの関連を調べた。周波数選択能の場合と同様に、やはり、どの周波数においても聴力レベルの域値上昇と共に時間分解能が悪くなる傾向を認めるが、その相関は高い周波数のもの程、良い相関を示した。つまり、時間分解能の低下は高い周波数における聴力低下と関連が深いことが示唆された。しかし、その相関の度合いは周波数選択能のそれに比べて低い値を示した。実際の臨床面においては高音急墜型の感音難聴で語音明瞭度が悪く、補聴器装用のフィッティングが困難例はこの結果から見るように時間分解能の悪化がその背景にあるものと思われる。



最高語音明瞭度と時間分解能、周波数選択性
  縦軸に最高語音明瞭度をとって横軸の時間分解能、周波数選択性とどのように関連するかを見た。時間分解能に関してはその低下と共に著しく明瞭度が低下することが判る。一方、周波数選択能の悪化はさほど、明瞭度に影響せず、また、相関も認められなかった。この実験系からは語音明瞭度には時間分解能の方が周波数選択性より重要であることが明らかになったが、これらの検査が防音室内で行われたことを考慮すべきと思われる。また、注目すべきは時間分解能と語音明瞭度の相関が1000Hzの純音と語音明瞭度との相関より高い値を示していることである。つまり、時間分解能の方が、ことばの聞き取りに関して純音域値より重要であることが示唆される。



時間分解能と周波数選択性
最後に聴覚において時間分解能と周波数選択性がどのような関連あるかを調べた。回帰直線はほぼ水平であり、周波数選択性の悪化と時間分解能の間にほとんど関連が無いことが判る。一般に工学分野で周波数分析の際、時間分解能と周波数選択性は反比例することが知られているが、聴覚系においてはこの2つの要素は独立したもののように思われる。これはとりもなおさず、聴覚系において能動的な聞き取りの調節機構(遠心路)があることが示唆される。



 対象は22個の電極全て使用可能な人工内耳装用者、8名である。年齢は18才から65才まで、失調原因は様々であり、失聴期間は1年半から30年までとなっている。



主な検討項目は時間分解能の指標としてのギャップ検知域値検査と語音の聞き取り検査である。聞き取りは5母音、13子音の正答率でみた。あわせて、T−レベル、C−レベル、ダイナミックレンジ、失聴期間と時間分解能の関係を検討した。



時間分解能の検査として 人工内耳のハードウェア構成はそのままで、ソフトウェア的にスピーチプロセッサーを制御し、刺激頻度を1000Hzに高め、4つの1000msのバーストのいずれかに最小1msの無刺激部をおけるようにした。その上で被験者に何番目のバーストに無音部があったかを答えさせた。正解が得られない場合、ギャップ(無音部)を長くし、安定した正答が得られたギャップの長さを時間分解能とした。



実験に先立ち、刺激の強度がどのようにギャップ検知域値に影響するかを調べた。刺激の強さが大きくなるにつれ、検知域値が大きく変化して、小さくなることがわかった。そこで今回、被験者に一番、聞き易い音の大きさで検知域値を調べることとした。また、刺激電極の部位は最も高い周波数を受け持つ部分(電極1,3)、中間(電極10,12)、最も低い部分(電極20,22)の3カ所とした。



結果:
 時間分解能は最高1.31msから 116.34msまでの幅広い分布を示した。つまり同じ高度難聴(聾)であってもその残った聴神経の能力には大きな差がある。 母音弁別は36%から100%までであり、子音弁別は19%から53%までであった。
子音弁別の良好なものは比較的時間分解能が良いように思われ、子音弁別が20%前後の不良はものは時間分解能もほぼ10ms以上と悪い例であった。 さらに詳細にみるためこれらにつき、統計学的検討を試みた。



各パラメータの相関を調べた。母音弁別、子音弁別は失聴期間が長くなると悪い。子音弁別は、T-レベルが低いほど良好であり、ダイナミックレンジとの相関は低い。
さらに、子音弁別は高い周波数を受け持つ電極の時間分解能とよく相関する。これは音響刺激においても高い周波数の純音域値が低いほど時間分解能が良好であったことと関連して興味深い。つまり、子音弁別にはより高い周波数領域の時間分解能が保たれていることとその部分に適切な信号が送られることが重要である。また、失聴期間が長くなると高い周波数領域の時間分解能も落ちることが判る。 つまり、この結果からは人工内耳での聞き取りを左右するものとして聴神経(ラセン神経節)の残存状況が最も重要であると考えられる。失聴期間が長いとラセン神経節を始め、聴神経の数の減少を来すことは知られている。また、当然、脳幹のシナプスを介した聴覚路の劣化も考えられる。これらは、T−レベルを上昇させ、さらに時間分解能を悪化させる要因となる。





ここで 改めて人工内耳と補聴器の違いを考えてみる。
多くの感音難聴者では高音部の障害を示す。このことを蝸牛に当てはめて考えるとすなわち基底板の進行波の始まる部分が障害されていることになる。つまり、いかに工夫をした良質の音響刺激を補聴器で加えたとしても、入り口の基底板の進行波の始まるところでの振動が大きく歪むのでそれ以降、中・低音部領域もたとえその部分の基底板の状態が良いものであっても歪んだ音しか伝われないこととなる。このことはとりもなおさず、時間分解能の低下をもたらす訳であるが、一般に高音急墜型感音難聴で語音明瞭度が悪いことの説明の一つとなる。さらにここで忘れてはならないのは、実際はこのような症例の場合、高い音はいくら音圧を上げてもその高さで音を聞いていないのではあるが、基底板自身は全体が大きく振動するので結果として中・低音領域での基底板の振動を音として聞くこととなることである。言い換えると例えば補聴器装用により、裸耳で4000Hz、110dBの域値が装用で60dBに低下したとしてもそれは必ずしも4000Hzという高い音を感知できているわけではない。低い周波数領域で歪んだ音を聞いていると考えるべきであって、この結果をもって子音領域の高い周波数部分が補聴できたと考えるべきではない。
 人工内耳が低音三角部のみの残聴のある高度感音難聴者に対して補聴器に比べて有利である理由はこの図に示すように基底板の振動によらず、直接基底板付近の聴神経、ラセン神経節を直接に刺激することができるからである。つまり、加工した音はほぼ、そのまま形で高い周波数領域から低い周波数領域まで直接に神経を刺激できることとなる。高い周波数領域の神経を刺激できれば時間分解能の改善と共に子音の聴取の改善が図れることとなる。



次に当院で経験した先天聾の小児の2年間の聴取能力の変化を示す。
縦軸は下段の単に「音の存在に気づく」から上段の「多語文の聴取理解」までの成長の度合いを示す。折れ線グラフ中の数字は手術時の年齢を示す。また、「*」は後天聾の症例である。2,3歳台で手術を受けた症例は順調に成長しておおよそ、1年半ぐらいで2語文の聴取理解が可能となる。その伸び方には個人差が大きいが(4:10、4歳10ヶ月)、(3:3、3歳3か月)のように概して術前残存聴力があって補聴器の装用域値も比較的良好な何らかの形で補聴器を活用できていた症例に確実な成長がみられることがわかる。一方、この図の9歳以上の学童期に手術を受けた3症例(9:8、13:3、9:0)では環境音の聴取、あるいは名前が分かる程度にとどまり、成長が見られない。後天聾の5:10症例では5歳10ヶ月時の遅い年齢の手術であっても半年で多語文の聴取、理解が早期に可能になっている。なお、折れ線グラフ下段の2:9症例(症例16、2歳9ヶ月)は精神発達遅滞のある重複障害児であり、成長の評価は困難であった。
結局 2,3歳台に手術を受けた症例は1年半程度で個人差はあるものの2語文の理解程度まで達する。一方、9歳以降の学童期に手術を受けた症例は聴取の伸びに限界があって、環境音、あるいは名前が分かる程度に止まっていることが再確認され、学童期の人工内耳の実施に関しては術前の慎重な説明が必要であろう。



次に発語に関する発達の経過の結果を示した。縦軸に「声が出始める」から「単語の使用」、「多語文の使用」と発語に関する指標をとって2年間の変化をみた。グラフには発達の条件をそろえるために術前に発語のなかった症例のみを記載した。つまり、術前に補聴器を使用して何らかの発語のみられていた症例は今回の検討から除いた。症例によるばらつきが大きいものの、概して聞こえの発達に比べて発語の伸びは緩徐であり、術後2年程度で多語文の使用が可能となっている。これらの発達の様式は健聴児の乳幼児期からの音声言語発達に類似するものといえる。



結局、先天聾であっても人工内耳術後は健聴の乳幼児がのびるように音声言語をのばし始めるが、その出発点の遅れはそのまま残しながら成長することが多いので、その遅れの差の小さい2歳、3歳までに手術を受ける方が成績が良いと考えられる。また、音韻に関しては胎生時期からのことばの入力が大きく関与している可能性があるので、きれいな発声、発音を期待するためにも2歳前後の早期の人工内耳手術が望ましいといえる。   




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