人工内耳友の会−東海−
FM補聴システムについて

平成15年8月24日
人工内耳友の会−東海−第2回勉強会 小児分科会講演
(ウィルあいち1階セミナールーム1、2)

FM補聴システムについて

日本コクレア社  清 水 裕 子



日本コクレアの清水裕子です。
本日は、FM補聴システムについてお話をさせて頂きたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。本日お話しさせて頂く内容は、次の通りです。



@FM補聴システムとは?
A何故、FMシステムが必要なのか?
BFMシステムを学校でより良くお使い頂くためのご注意
CFMシステムとスピーチプロセッサを結ぶ、ケーブルについて
DFMシステムを使用するにあたっての注意点
E公費助成の実態について



FM補聴システムとは、FMの送信機に入力された音声を、離れた場所にあるFM受信機が受信をし、その音声をケーブルを通して、スピーチプロセッサに入力し、人工内耳を使用した装用児の聞こえを補聴するものです。

つまり、FM補聴システムは、FMラジオ放送と同じ様な仕組みになっています。話し手の声(多くの場合は学校の先生の声)を送信機(放送局)からFM電波で飛ばし、それを受信機(FMラジオ)で受信し、話し手の声を聞き取りやすくするシステムです。



次に、なぜFM補聴システムを使用するのかを考えてみましょう。
学校などの集団授業の場面では、話し手である先生との、距離はいつも一定ではなく、しかも聴きたい音声(シグナル)の他に、いろいろな音(ノイズ)にあふれています。マイクロホンは聴きたい音(シグナル)以外の音(ノイズ)も同じように拾ってしまいます。そのため、聴きたい音がその他の音に、埋もれてしまう可能性があります。この時、シグナルとノイズの関係は等しくなっております。

そこで、FM補聴システムは、聴きたい音<シグナル>を、ノイズや、他の人の話し声、環境雑音よりも相対的に大きくし、シグナルの部分を聞こえやすくするシステムです。



FM補聴システムは、教室における、先生と生徒の「距離」を縮めます。
教室内では、生徒が足を動かす音や、椅子を引く音、おしゃべりの声など、様々な音にあふれ、先生の声が一番うしろの席にいる生徒まで充分に届くことはとても難しくなります。

つまり、話し手である先生と、聞き手である生徒の距離が離れるほど、聞こえる音声は小さくなります。よって、離れれば離れるほど、だんだん聞こえにくくなります。
FM補聴システムを使うと、遠くにいる先生との距離を、15pほどに縮めてくれます。
(つまり、FM補聴システムを使用すると、マイクロホンから15pの距離で話されていることと同じになります。)



話し手と聞き手の間にある、距離に左右されないために

このグラフは、縦軸の左が聴き取りの理解度を示し、右軸に騒音比が示されています。そして、横軸が聞き手と先生の距離の違いを表しています。
この、グラフから読み取れることは、距離が二倍になると、音の大きさは半分になり、聴き取りが難しくなります。
(例えば、2フィートの時には、10dBでありますが、4フィートの時には5dBとなります。)
音声からの距離と聴き取りの関係は、反比例の関係になっていることに注目してください。
つまり、シグナルとノイズの関係は、距離が離れていってしまうとそれだけ小さくなってしまい、シグナル(先生の声)が雑音(ノイズ)の中かから浮かび上がることが難しくなって来ます。



そこで、人工内耳とFM補聴システムを一緒に使用することによって、発話、言語、聴き取りの学習の為に教室場面において、話し言葉を、「はっきりと」 そして、「大きく」聞こえる環境を作ることが必要になってきます。



聴き取りを低下させる原因として、他にも理由があります。
「反響」や「残響」
この絵をご覧になっていただくと分かりますが、赤の線がちょくせつ、話し手から聞き手に伝わるシグナルの方向。そして、点線部分は、壁や天井などにシグナルが当たり、反響している様子を表しています。



以上の事から、子どもの周囲にはたくさんの騒音があふれています。
それらの騒音に左右されない、補聴環境を作るために、FM補聴システムは必要になってくるのです。



よくお母様などから、なぜ、人工内耳のスピーチプロセッサの調整だけでは聴き取りが良くならないの?との質問を頂きます。もちろん、マイクロホンの感度を調整したり、ノイズリダクションの機能をオンにして頂ければ、バックグランドノイズがあっても、ある程度の聴き取りの改善は見られます。



しかし、大きなバックグランドノイズ
(廊下での足音、話し声、階上の教室での机や椅子を引きずる音など)や、
話し手である、先生の場所が聞き手から遠くなってしまった場合、
そして、残響音があるような場合では、スピーチプロセッサの設定変更を、行っただけでは、対処しきれないことがあります。
そこで、FM補聴システムを使用すると、シグナルとノイズの関係の差が大きくなり、シグナルを聴き取りやすくなります。



騒音と音声の比率:S/N比(シグナルとノイズの比率)
健聴の子どもや成人の子どもの聴き取りに充分に必要なシグナルとノイズの比率は、5dB以上のS/N比が必要であり、健聴の小さな子どもに対しては、10dBの以上のS/N比が必要だと言われています。
年齢の低い聴覚障害児は5dB以上のS/N比が必要になると言われています。
つまり、FM補聴システムを使用することによって、充分なS/N比を確保し、シグナルを浮き上がらせることによって、聴こえやすくする措置をとるようにします。



FM補聴システムを学校でより良くお使い頂くために
FM補聴システムを学校でお使い頂く時に、少し注意して頂きたいことがあります。
充分にFM補聴システムを活用して頂くためには、保護者の理解と協力が大切になってきます。
装用児と一緒に使い方を覚えて頂き、それを学校の先生に伝えて頂くことになります。もちろん、 家庭でも同じように使うこともできます。
学校で実際に使う前に、ご家庭で練習してから学校で使い始めるようにすると、FM補聴システムにスムースに馴染めるようです。

先生と生徒の協力も、お教室では必要になってきます。先生に送信機を持って頂くことが大半を占めることになりますが、学年が進むにつれて、他の生徒さんの意見を聴く機会も増えてきます。
この時に、送信機を受け渡しながら授業を進めていくことも起こってくるでしょう。学級全体で、装用児の聴き取りに協力することも必要になってくることがあります。
担任の先生は、FM補聴システムを使用することが、装用児が授業を受けるために必要なものであることを説明します。
自分一人で、FM補聴システムを取り扱うことができるように、家庭と学校で練習する必要があります。
毎日、人工内耳の機器のチェックと同様に、FM補聴システムも行い、設定値を確認することが必要になります。



FM補聴システムと人工内耳の接続

FM補聴システムの受信機とSprintスピーチプロセッサは専用ケーブルで接続を行います。
このケーブルは、無線周波数からの干渉をできるだけ受けないものになっております。
(雑音が入りにくい構造になっております。)



FM補聴システム一式
こちらが、現行のパナソニック社製FM補聴システムになります。

受信機が29,800円、送信機が、38,000円になります。
接続ケーブルについては、次に、ご説明させて頂きます。



FMシステム接続ケーブルについて
ご覧頂いているように、FM補聴システムには携帯型スピーチプロセッサ用と耳掛け型スピーチプロセッサ用の2種類の接続ケーブルをご用意しております。
これは、日本コクレア社のみで販売させて頂いております。(一般に市販されているケーブルではありません。)
Sprint(SPECTRA)
FMシステム用接続ケーブルZ27659 \9,000
ESPrit
FMシステム用接続ケーブルZ77098 \6,000
FMシステム用送信ケーブルZ77088 \3,000
となります。



FMシステムの注意点
いくつか、FM補聴システムを使用して頂く際に、ご注意頂きたい事があります。

・FM補聴システムと人工内耳や補聴器との接続が多少、ややこしい。ケーブルで接続をするので、慣れるまでに少し時間がかかることがあります。
・無線の干渉を受けることがあります。雑音として、他の周波数帯域の音を拾うことがあります。
・校舎の構造によっては、FM電波が届かない距離があるかもしれません。
・FMの受信環境によっては、音が途切れたり、雑音を受信することがあります。
・FMのチャンネルを選択する時には、送信機のチャンネルと受信機のチャンネルを合わせる必要があります。
・他のFMシステムが30mから70m以内にある場合は、干渉が起こることがあります。
(同じFMのチャンネルを使用している場合には、混線してしまうことがあります。これは、階下、階上のお教室で使用している場合も含まれます。そのために、同一建物内でFM補聴システムを複数の装用児が使用する場合は、異なったチャンネルに合わせておく必要があります。)



音声伝送の障害について
こちらにあるように、FM補聴システムを使用するにあたって、音声を受信するときに障害を受けることがあります。

建物の構造によって、影響を受けることがあります。
テレビやラジオの送信塔の電波の影響を受ける可能性があります。
金属製の家具や棚、導管などの影響を受けることがあります。
コンピュータやプリンタ、無線ランなどからの雑音が聞こえることがあります。
送信機と受信機の距離によっても聞こえが変わってきます。
装用者の姿勢によっても、影響があります。
スピーチプロセッサとFM受信機の置く位置によっても干渉を受けることがあります。
同じ周波数帯(チャンネル)を使用している、FM補聴システムが近くにある場合に干渉を受けます。

以上のような障害を受けた時には、障害となる原因を見つけだし、そこからFM補聴システムを遠ざける配慮が必要になります。一人が受信機のマイクロホンに向かって話し、もう一人が受信機についているモニタイヤホンで、音をチェックすることで、スピーチプロセッサに入力する前の信号をチェックすることができます。



FM補聴システムの公費助成について

FM補聴システムは基本的に、基準外交付として、公費助成が行われております。
現在までに、全国でおよそ220件、公費助成を受けた実績があります。最近では、聾学校等で学校備品として購入し、装用児に貸与する方法をとる場合もあります。
最近過去3年間では、2000年には25件、2001年度は50件、2002年度は52件となっております。今年は、8月現在までに30件が成立しております。
内訳は、助成の多くが学齢期の児童となっております。小学校に上がる前に申請し、入学と同時に使用できるように準備をしておく例も増えてきております。



公費助成申請方法
方法としては、お住まいの市町村の役所の窓口(障害福祉課、児童福祉課等)へ申請を行います。業者契約を完了した市町村は、日本全国でおよそ、110市町村あります。

申請の流れとしては、保護者が、窓口に申請書を請求します。 次に、医師等に書いて頂く意見書、コクレア社からの見積もり書などを提出します。 書類一式が、受理されると、市町村が独自に審査を開始します。(この間、3−6ヶ月かかります。)審査の結果、交付が決定すると、市町村より交付券が発券されます。これをもとに、FM補聴システムをコクレア社からご自宅に発送させて頂くことになります。個人負担額等は、お住まいになっている市町村、家族構成等によって一律ではありません。



参考までに、接続の方法を記させて頂きました、実際に使用する際に参考にして頂ければ幸いです。



本日は、どうもありがとうございました。




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