人工内耳友の会−東海−
義務教育現場での要約筆記

人工内耳友の会神奈川会報より転載

   小児部講演会
  「難聴生の情報保障」

義務教育現場での要約筆記

世田谷区立駒沢中学校「聞こえの学級」下島かほる先生
平成15年7月5日

 本校で要約筆記による情報保障をはじめて、今年で3年目になります。私どもは、この環境を整えれば整えるほど、情報保障のない授業は、聞こえにくい子ども達にあってはならないと感じています。聞こえない子供たち自身も、「これは救世主だ」と思っています。
 要約筆記の有用性を実感していますので、要約筆記をうけていない子どもたちがどんな思いでいるのか、と心配になります。この思いは、本校の学校長も同じです。このような場でお話しすることで、授業がわかる難聴生が一人でも増え、また学校が楽しいと思ってくれればうれしいと、学校長も私もそんな気持ちでいます。  また、人工内耳を装用しているお子さんに、お会いしたりしたことがないので、私も勉強になると思ってきました。よろしくお願いします。
 
 最初に、本校の生徒の実態と難聴学級について、ご説明させて頂きます。本校の難聴生はほとんどが、高度難聴です。100デシベル以上の生徒が多くいます。要約筆記をはじめた平成13年度は7名在籍し、要約筆記の支援を受けた生徒は6名いました。14年度は8名。今年度は3名です。全員が100デシベル以上のお子さんです。小学校から、通常学級で学んでいます。一名は、小学校の時に手書きの要約筆記を経験しておりますが、他の生徒は、中学になって初めて経験しました。
 東京都の難聴学級は、通級制です。在籍は通常学級で、週のうち数時間だけ私たちの所に来ます。英語、国語、場合によっては数学、音楽といったところを通常の学級ではなくて、難聴学級に来て、個別に勉強します。難聴学級では個別なので、授業はよく分かると思うのですが、通常学級では、聴覚も活用していますが、先生の口を読むことも多いので大変です。小学校までは、まだ、対応できているようですが、中学になると内容が専門的、抽象的になりますので、対応がむずかしくなります。読話では十分な対応は不可能です。
 ですから、お母さんと一緒に家庭で予習をして、授業に臨み、1時間わからない時間を過ごす。ある時、難聴生から、英語や国語だけでなく社会も指導して欲しいと言われました。しかし、私たちの専門が社会ではありませんでしたし、当時の難聴学級の考え方では、授業が分からないのであれば、聾学校を勧めざるを得ない状況もありました。だた、社会もやってと言われて「できないよ」と答える自分の中に、何かが変だという解消できない思いもありました。
 
 次に、本校の情報保障の実態についてお話しします。これ(スクリーンの写真)は、パソコンで情報保障をしている所です。この時には聞こえない生徒が二人いましたので、要約の方が二人います。情報保障は本校では要約筆記です。手話で情報保障をしている学校もありますが、本校の生徒には、手話はやっていません。要約筆記は、手書きとパソコン両方です。理科と社会がそれぞれ週3時間、その他、総合的学習や学活等も保障しています。
 要約筆記の方々は、地域のボランティアです。手書きにするか、パソコンにするかは、基本的には生徒の意志を尊重し、教科によって、本人の希望になるべく添うように配慮しています。教科書のない総合的学習は、聞こえないお子さんにはとてもつらい時間ですが、難聴学級の担任が入って情報保障しています。音楽も私が情報保障にはいっています。
 ボランティアの数は、今年は20名前後で、去年は25名でした。この20名というのは校内のPTAのおかあさんが多くいらっしゃいます。それから、地域の方々や、聞こえの学級の保護者の方、そしてその保護者のお知り合いの方などですが、校内のPTAが中心です。そのうちの3分の2が手書きの要約筆記者です。
 世田谷区には、要約筆記のサークルがあるのでその方々にも、ご協力を頂いています。後でも話しますが、無償です。交通費もない、無償です。

 次に情報保障導入の経緯ですが、良く聞かれるので話します。
 2年前の4月に、中学2年生に5人の難聴生が在籍していました。1学年3クラスでしたので、その5人を、2、2、1とわけるのが、通常のやりかたです。ところが新年度が始まる前の学級編成の時に、その2年の学年主任の教員が、5人は一緒にするべきとおしゃってくれた。2、2、1とわけると、クラスのなかで弱い立場になるが、5人集まれば、自分のクラスが「母港」という気持ちで過ごせる。だから5人一緒にすべきだとおっしゃった。
 しかし私ども難聴学級の担任は、ちょっと違う立場でした。聞こえない生徒は、聞こえない生徒で集まりがちで、どうしても交友関係が狭まる傾向があります。聞こえる人とも話をするようにしようと、日頃から言っていたので、「交友関係が広がらないから、どうかな。」と話しました。すると学年主任は、「それはそうだが、成長段階で自然に変わるものだ。今この5人が一緒に育って、十分に自分の気持ちが満たされれば、いずれ自分から外に出ていく。成長段階で変わっていくだろうから、今は、5人でまとめることが必要なんだ。」とおっしゃいました。それは確かにそうだなと思いました。逆にこちらから、5人を一緒にしてくださいとは、言いにくいことなので、了承しました。
 その時に、ある教員から「わたしは困る。」と言われた。どうして困るかというと「難聴の生徒さんは、勉強が熱心で、休み時間にすぐ質問に来る。それが5人いっぺんに来られたら、10分休みがつぶれて、とても対応しきれない。」とおっしゃるんですね。「それでは、要約筆記をつけましょうか。」ときりこんだんです。「社会も要約筆記をやって欲しい。」という難聴生からの要望もありましたから、これはチャンス。いつか、要約筆記を授業に入れたいと思っていましたので、提案すると『それはいい考えね』ということで、他の先生からも反発はなく、即決しました。
 ついては、その担い手は、介助員が良いということになりました。そしてその日のうちに、学年主任・生活指導主任・校長に「下島、教育委員会に行くぞ。」と言われ、私は先生方についていくような格好で、教育委員会にお願いしますと、言いにいきました。そのくらい学年の先生方の理解があったわけです。逆に言えば、教員の理解がないところに要約筆記を入れるのは難しい、不可能だということです。以上が、要約筆記導入の経緯です。
 今年から、駒沢中学校以外に在籍している校外通級の生徒にも、ほんの2時間ずつですが、情報保障をつけることができるようになりました。このご時世ですから、外部の人が学校に入ることについて、どうしても慎重にならざるをえませんが、その学校の校長先生や担任の先生は理解があって、「それはいいわ、やろう。」とおっしゃってくれました。要するに、教員の理解と協力が必要ということです。

 さて、情報保障の意義についてお話します。意義は大きく二つあると、考えています。第一に、これはすぐお分かりになると思いますが「授業内容の保障」ということが挙げられます。教科書の内容は教科書を読めば分かるかといえば、そうでもなく、教員はかみ砕いたりエピソードを交えて話したりして、分かりやすく話すわけです。ちょっと例に挙げてみます。社会科の授業で、ヒトラーの話です。教科書の記述ではこうなっています。
 『ヒトラーは、また、ドイツ民族は世界でもっとも優秀な民族であり、ドイツを混乱させているのはユダヤ人であるといって、ユダヤ人を迫害した。』そして欄外にこうあります。『第二次世界大戦がはじまると、婦人や子供をふくむ数百万のユダヤ人がアウシュビッツなどの強制収容所で銃や毒ガスなどの残虐な方法で殺された。』
 これは読めばわかります。しかし、教員はこういうふうに話しています。パソコン要約筆記のログを読んでみます。『ユダヤ人はヒトラーにねらわれてしまった。見つかりしだい、収容所につかまっていれられた。有名なのはアウシュビッツという収容所。覚えて。何百とあった収容所の中でも特におそれられていたのがアウシュビッツ。ガス室の話、したっけ? 捕まえ次第、全員収容所におくられ、強制労働。そして最後はガス室だ。一度吸えば、意識がなくなる。転がっている死体を大きな穴に投げ込んだんだ。なかには頭を銃で撃ち抜いたりした。』
 こう話されると、非常に怖い感じで、自然に体に入るじゃないですか。教科書の内容をかみ砕いて、胸にすとんと落ちる感じで学べます。それに「覚えて」とも言われて、重要なところがわかります。
 この教員は、授業の最初に、新聞やテレビでどんなことが話題になっているかと、時事問題を確認するんです。あるときには、新聞をもってきて『女性の医者が患者に筋弛緩剤という、打てば、心臓が止まる注射をしたんだ。患者は激しいぜんそくで意識がなかったのだ、家族に確認したといっているけど』という話をするのですね。でもこれは、絶対に情報保障無しでは難聴生たちには解りません。とても口は読めませんし、筋弛緩剤という言葉は難しい。時事問題を捨てるしかないのです。でも時事問題も教科書以外の内容も試験に出るんです。
 さて、情報保障の意義の二つ目ですが、私たちは「参加の保障」と呼んでいます。実は、授業というのは、知識を伝えるだけではなくて、その他のことが含まれています。そしてそれが、人格が成長する義務教育段階には、大切なことなのです。
 具体的に挙げると、まず、クラスとの一体感。もっとも顕著なのが、笑いです。わーとどよめく。聞こえない生徒には、その理由が分からない。でも、いちいち「何で笑ったの?」とは悪いと思って聞けない。実は、それは、凄く寂しいことです。まあ、いいやと、あきらめるのです。孤独感とか疎外感を味わう。
 この要約筆記を始めてからは、テンポは遅れますが、パソコンの画面を指さして笑うんです。さっきのように二人いると、お互い顔を見合わせて、画面を指さして笑う。それが大事です。みんなと一緒。自分も分かる、自分もクラスの一員なんだと感じることができる。このことは、非常に意味が大きいです。
 「参加の保障」として次に考えることは、自主性です。
 ある理科の授業で、その日は実験でした。私がパソコン要約筆記で入りました。先生が、最初に実験の準備の説明をします。たとえば『ビーカー大きいのを3個、小さいのを2個、試験管を5本もってきてね。後ろの棚にあるから。それをグループの席に置いたら、大きいビーカーだけを一個、先生の所に持ってきてね。それに薬を入れるから。』と。板書はありません。私は、それはもう必死に打ちます。画面を見ていた難聴生は「よーい、始め。」の声がかかると、グループの誰よりも早く動いて、器具をそろえ、薬をもらってきました。これは、凄い事だと思いませんか。
 聞こえないお子さんは、周りを見て、何をするのかなと様子をうかがって、後からあわせて動くことが多いものです。何を取りに行くか良く分からないし、他の人が取ってくれるからいいかと、任せてしまうこともある。これが積み重なると、消極的な人間を作ります。しかし、情報保障があれば自分から動けます。これが、性格とか人格を作っている義務教育段階です。要約筆記があれば、一番最初に動くことが出来るんです。だからこそ義務教育段階には、必要だと思っています。
 次に、視野の広がりが挙げられます。授業中に話しをしているのは、先生だけではありません。他の生徒の発言もあります。でもそれは、なかなか耳に入ってきません。

先生/世界で一番広い海はどこ?
生徒/太平洋。
先生/どんな字を書くの?
生徒/「太子堂」の「たい」
先生/そうだね。

 こういうやりとりが頻繁に行われますが、生徒の声は耳にはいってこないわけです。
また、授業と関係ない話をする生徒もいます。大きな声で、「おまえ、昨日何時に寝たのかよ?」とか「何とかのテレビを見てから○○だよ。」といった内容です。このような話を、私は、なるべく入力するようにしています。それは、授業中にこんな話をする生徒がいることを知って、そのことについて考えてほしいからです。こういうことが世の中にはあるのだと気づくことが、大事だと思います。
 様々な意味で、他の生徒の発言は重要だと考えます。「Aさんは、僕と考えが似ているな。ああ、B君の考えはもっともだ、そういう考えもあるのか。」と他の人の考えを知り、そして自分の考え方を修正していく。それを重ねることで、視野が広がっていくのだと思います。また、発言内容から、他の生徒の性格も分かるようになります。性格は見ているだけでは分かりません。ちょっと見ただけでは分からないんです。様々なものを他の生徒の発言から知ることができるので、難聴生はどの子もみな、他の生徒の発言を伝えることを希望します。かなり聞こえる生徒でも、入れてくれといいます。このように要約筆記により、視野が広がる。人格が成長段階にあるこの時期だからこそ、大事なことです。

 それから、4つ目の意義としては、「教師のキャラクターの理解」があげられます。先程の社会科の教員は、よく冗談を言います。だから生徒は、その先生の社会科の授業が大好きです。小学校、中学校の時期は、『あの先生が好きだから、私は社会好き』というのがありますよね?『あの先生は嫌いだから、数学は嫌い。』というのもありますよね。その教師のキャラクターが伝わることで、教科の好き嫌いにまで影響があって、教科の好き嫌いは、先をいうと進路にまで関わってくるんです。『あの先生おもしろい、だから社会をもっと勉強したい。じゃあ、この学校。』と進路にまで関わってくることになるわけです。

 以上のように、「参加の保障」についてご説明しました。情報保障による「授業内容の保障」は第一に意味があります。この「参加の保障」が充実することで、より学校が楽しくなるのだと思います。そしてその二つが合わさって初めて聞こえない子の教育権が保障されるのだと思います。大学生や成人にとっては、話し手の内容を伝えるという意味で必要ですが、義務教育段階の情報保障は、人間性に関わるという意味で不可欠なものと考えています。
 
 さて、別の話題に移りましょう。要約筆記と国語力について、私の仮説をちょっと述べたいと思います。
 時々、難聴生にアンケートをとってみますが、「要約筆記と語彙の獲得」について聞いてみたことがあります。身の回りには、聞き逃したり、読みとれない言葉があふれているわけですが、そのような言葉が要約筆記に出てくることもあるでしょう。ですから、「要約筆記により、今までに知らなかった言葉を、知るようになりましたか?」というアンケートを取ってみました。
 『知るようになった』というお子さんが、6名の生徒の中で5名います。具体的にどんな言葉かというと、「有頂天」などだそうです。このように、新しい言葉を要約筆記で知ることがあるようです。
 次に、「要約筆記と漢字の読み方」について聞きました。設問は「要約筆記により、今まで知らなかった漢字の読み方を知るようになったと思いますか?」。難しい漢字にはルビを振りますので、そんなこともあり、半数の生徒が、「読めるようになった。」と答えています。後の半分は、「もともと全部読めるから、特に変わりなし。」と答えています(笑い)。要するに、ほとんどの生徒が漢字の読み方を知るようになったと解釈できると思います。
 「要約筆記の読み取り」についても答えてもらいました。保護者の方の中には、「うちの子は全部読みきれるか不安だ。」と感じているお母さんもいらっしゃいます。特にパソコンの場合には、文字数が多くて、読んではいるが内容がわかっていないという状況も十分考えられます。「あなたは、要約筆記の内容を、全部読んでいますか? それとも途中であきらめて、読んでないことがありますか?」という設問に対し4名は、「全部読んでいるし、全部分かる。」と答えています。1名は、「一応は全部、読んでいる。」。残り1名は、「良く解らないこともあり、時々読んでいない。」と答えています。結局1名を抜かして、ほとんどの生徒が一応、読んではいる。これはですね、読書と同じだと思います。読書が読み書きの力をつけるということは、周知のことですが、読書において、漢字の読み方がわからなかったり、内容がよくわからなくとも、とにかく読み進むと、国語の力がつくものです。毎日要約筆記を読むと言うことは、読書をしている状況を、毎日、設定しているということにもならないでしょうか。授業の要約筆記がわからなくても、とにかく毎日読むことで、国語力が上がるのではないかと仮説を立てているわけです。これは、あくまでも仮説ですよ?でも、まんざら、はずれていないかな?とも思っています。
 最近テレビにも字幕がつくようになりましたね。2007年までには、生放送を除く全ての番組に字幕をつけるようにと、総務省からお達しがあったようですが、どんどんお子さんに、テレビを見させてあげたいと思います。「読ませる。見せる。」それによって力がつくのではないでしょうか?
 とくに、聞こえないお子さんは、流行っている言葉を知らないのですね。今、子供たちの間では「ビミョー」という言葉が流行っている。何かはっきり表現できないことがあると、「ビミョー」と言うのですね。他に、語尾に「し」をつけたりもします。『先生、うるせっし!』と使います。その「し」はなんだ?と私などは、思ってしまいますが。テレビのバラエティー番組で使われるものが多いようですが、世間一般で子供たちが使っている言葉を、自分も知っているということは、非常に大事なのではないでしょうか。
 国語の授業に、「若者言葉」という単元があります。授業の中で「最近の若者言葉を、知っている限りあげなさい。」という課題が出されたことがあります。聞こえる生徒は、10も20も一杯書きます。でも聞こえない生徒は、その「ビミョー」とか、「いけめん」とかいう若者言葉は、ほとんど知らない。知っていますか?でもこういう内容の授業が、実際にあるんです。やはり、テレビなどで世間一般に広まっている情報を仕入れるのも重要なことですね。

 さて、ここで「聴覚障害者のみなさんへ」のビデオをみて頂き、授業風景をご覧頂きたいと思います。
 ♪〜
 聴覚障害者のみなさんへ。

司会/今日は、東京の駒沢中学校で行っている普通の学級に学ぶ難聴の子供たちの要約筆記の試みをお伝えします。ゲストをご紹介します。駒沢中学校で、担任の下島かほるさんです。下島さんは、ボランティアの募集から、運営を担当しています大学でのノートテイクがふえてきましたが、中学校での要約筆記は珍しいですね。驚きました。

下島/難聴生は、通常学級では、残存聴力を生かし、先生の口を読んでいます。推測して読んでいます。しかし中学校では、内容が専門的、抽象的になりますので、口の読みとりだけでは対応しきれない。そこで本校では要約筆記を取り入れ、聞こえる生徒と同じ条件で学べる環境を設定しました。

司会/駒沢中学校では要約筆記をどのように、授業で取り入れているか、ご覧下さい。

先生/よく、みてごらん。堆積岩は、どこで、・・・そうすると、図の下のところで、・・・

生徒1/小学校の時は、要約筆記がなくて、先生の話がわからなかったけど、まあいいやと思っていましたが、中学校になって、要約筆記がついて良くわかるようになりました。

生徒2/要約筆記があると、良くわかります。

 最後まで見て頂きたかったのですが、時間の関係があるので、途中で終わりますが、子供たちの実際の声が伝わったと思います。
 
 さて、次に要約筆記の担い手についてお話しします。全員ボランティアの方で、要約筆記は初めてという方が多くいます。どんな風にボランティアを募ったかと言いますと、まず学校でPTAの方々にプリントを配布しました。近隣の大学にも配りました。学生課に電話をして、ボランティアとか手話サークルとかそのようなところに、配りました。
 そのようにして集まってくださった方々に、最初2回講習会を催しました。みなさん、何かできそうだと思っていらっしゃるのですが、中には「来てみたけど、要約筆記ってなに?」とおっしゃる方もいます。そこでまず、要約筆記とはこういうものだと説明するところから始めます。それから、「聞こえない」ということについても説明します。その後、授業のテープを使ったり、教員に協力してもらって模擬授業をやるなどして、要約する練習をするのです。
さて、要約筆記者の定例の集まりについてお話しします。要約筆記者をつけたら、それで終わりではないです。大学生や成人の方なら、それで良いかもしれませんが、義務教育の現場では色々なことが起こります。
 例えば、前の休み時間に要約のセッティングをしていたところ、難聴の生徒も含めて、けんかが起こってしまった。自分は止めるべきだろうか?でも部外者だ。それでも大人が見ているだけではいけないのではと、悩んだわけです。他には、難聴の生徒が教科書を忘れた。要約筆記者用の教科書を貸そうかどうか。貸してあげたいけど、他の生徒は借りられないのだから、えこひいきかとも思うし。でも、他の要約の人が貸しているなら、貸さない自分がいじわるなおばさんだと思われるのもいやだし。と、色々と悩みが出るわけです。そういうことを定例の集まりの時にもちこむんです。みんなで話し合って、「教科書は貸さない。筆記具も貸さないように。」とうルールを作る。また先ほどのような目の前でのトラブルについては、「その方の判断でお願いします。でも最終的には、学校側で責任を持ちます。」と学校側で決めてさしあげ、安心して支援していただく。そういう場がないと要約筆記者は悩みます。難聴生のことも含めて、よく話をする場を設けることが必要だと思います。

 謝礼ですが、本校ではお出ししていません。他の自治体、例えば松山市は学校支援員として、確か1時間1050円、つくば市では介助員として950円をお支払いする制度があります。世田谷区では、制度化されていません。せめて、交通費だけでもお払いできたらと思います。
 個人的に保護者の方がお支払いする考えもあります。でも、1時間千円前後を毎回負担するのは大変です。交通費だけでもお支払いしたいという方もいるし、それをお断りになるボランティアの方もいらっしゃいます。

 次に、コーディネーターについてです。本校の場合のように、複数の難聴生と要約筆記者が関わるときには、コーディネーターが必要です。学校の授業はかなり変更があります。定期試験前で自習にするから、要約筆記は必要ないという場合もあります。そのような調整を、コーディネーターの方にして頂くと、本当に助かります。今は、難聴生の保護者の方に、調整を全てしていただいています。

 それでは、手書きとパソコン要約筆記のそれぞれの長所と短所について、お話ししましょう。以下は難聴生が実際に言っていることです。
 手書きの長所は、絵や図を入れられるので分かりやすい、ということがまず挙げられます。特に理科は絵や矢印が入ると分かりやすいものです。それから、文章がまとめられているので、見てすぐ頭に入るためわかりやすい、ということも挙げられます。パソコンの場合は、字が多く入るので意外と読みにくいんですね。手書きだと、要点がまとめてあるので、内容が理解しやすいわけです。それから、紙を戻せば前に戻ってみることが簡単にできる。これが手書きの長所です。
 パソコンの長所は、情報量が多いことがまず挙げられます。そのため、他の生徒の発言が入れやすい。また、話にあまり遅れないので、一緒に笑ったりすることができる。それから、文字がきれいということです。
 聞こえる人から考えると、パソコンの方が情報量が多くていいように思えますが、手書きの方がわかりやすいという生徒も多いです。お子さんに『パソコンの方が情報が多いからパソコンにしなさい。』というのは、やめて下さいね。
 手書きの短所としては、話しに遅れることを挙げています。字が汚い人もいる。達筆というのですかね。それから、パソコンの短所として字が多くて読みきれない。目が疲れる。と言っています。
 いずれにしても、どちらがいいかは本人が決めることですので、保護者の方がこうしなさいというのは、避けた方がいいと思います。

 難聴生の感想をご紹介したいと思います。
 「要約筆記があると、友達の話が分かるし、笑えるようになるから、学校の雰囲気が明るくなった。」
 「A先生の授業がとってもおもしろい。A先生って、こんなにおもしろい先生だったのかと思いました。」
 要約筆記の必要性についても聞いてみました。必要ない、やや必要ない、どちらとも言えない、やや必要、絶対必要の中から選んでもらったところ、全員が「絶対必要」と答えています。

 次に、「個に応じた情報保障」についてお話したいと思います。自分は手書きがいいのか、パソコンがいいのか。要約筆記者はどの方が、自分に合っているか。どの教科につけてほしいのか。他にも、例えば「あなたが板書をノートに写していない時、要約筆記者に写しなさいと言われるのは良いか悪いか。」と聞くと、「言われて当たりまえだ。」と思う生徒と、「いちいち言ってほしくない。」と思う生徒がいるわけです。また、要約筆記を見ていない時、トントンと肩を叩いたりするじゃないですか?でも、相手は思春期の男の子です。女の人が、トントンとやるのはどうなのかな?とも思います。本人の意向をなるべく取り入れ、望む要約筆記にしてあげたいと思います。
 今は制度化されていませんし、ボランティアなので、終わればありがとうございましたと生徒は言います。もちろん、人間関係ですから、感謝は必要ですが、「していただく」のではなく「当然あるべきもの」として要約筆記があることが望ましいと思います。自分に合った情報保障を選べる環境を作っていかなければと、考えています。補聴器は、聞こえない子には、耳代わりで、自分に合った補聴器を買い、フィッティングして自分に合わせるわけですよね。情報保障も、彼らの耳代わりです。自分に合う情報保障を要求してもいいのではないでしょうか?どんな情報保障が自分に合うのかということを考え、大学へ行って「自分は、こういう情報保障をつけていきたい。」と言えるようになるまで、育てていけたらと思います。

 次に、周囲の理解についてお話しします。
 最初に教員の理解が重要と言いましたが、本校では、職員会議で話をしたり、当事者や専門の先生をお呼びしてお話を聞くことなどして研修しています。昨年度は、先生方に要約筆記をやって頂きました。授業中、早く質問すると要約者は書けないんだというようなことに、初めて気付くんです。でその次の授業から、もっとゆっくりになるかと思うと、まあそうでもないのですが。
 生徒には、障害の理解授業を行います。聴覚障害だけでなく、視覚障害など別の障害についても行います。その障害理解授業のなかで、要約筆記を体験してもらいます。そして、全校から、要約筆記のボランティアを募集します。今、全校朝会など集会場面で、6名ぐらいのボランティアの生徒が、交替で書いてくれています。それまでは、私がパソコンで打っていたんです。もちろん、生徒が書くよりも、何倍も情報が入りますよね?ところが、難聴の生徒は、生徒が書いてくれた方がいいと言うのです。自分達の障害を理解しようとしてくれている人がいる、「僕、しあわせだ。」というのです。
 人工内耳のお子さんでも、卒業式など集会場面では、聞き取りにくいと思います。本校では、式の際には壇上にスクリーンを置いて、情報保障しています。入学式と卒業式には当然あるものになりました。
 後、生徒総会などでは、事前に全部原稿をもらいます。当日、難聴生に渡して、ボランティアの生徒がここを読んでいるよと教えますまた、体育館で、演劇などの鑑賞教室も行います。そのときは、予め劇団の方から台本を貸していただいて、パソコンに全部台本を入れて、画面に文字化して見てもらいます。プラネタリウムもありますが、情報保障がなければ、星と矢印を見るだけになってしまいますよね。事前にプラネタリウムに私が行って、打ち合わせをして、内容を同じようにパソコンで映しました。難聴生たちは、「プラネタリウムって、こんなに面白かったんだ。」「理科が好きになった。」と言ってくれました。それから、冬には体育館で百人一首大会をやります。マイクで句を読み上げるので、聞き取れません。そのことを、私たちが気づく前に国語の教員が「どうしようか?」と相談に来てくれました。そしてその会話をそばで聞いていた別の教員が、「ソフトを作ってあげようか。」と申し出てくれました。それでできたのが、これ(写真)です。読み上げた札の後ろについている番号を入力すると、上の句がスクリーンに映し出され、もう一度改行を押すと、下の句がでます。こちらから頼まなくても、心配する教員、ソフトを作ってくれる教員がいるのです。
 運動会や修学旅行などでも、困る場面があります。これ(写真)は東京駅での集合場面です。こちらが聞こえない生徒で、隣の生徒が書いてくれている。修学旅行のタクシー行動の時の運転手の話とか、運動会の開会式や閉会式などは、聞こえる生徒が書いてくれます。教員も生徒も自主的に支援する環境をもっと、作らなければと思っています。

 それから、ビデオ教材について。やはり聞こえませんので、授業でビデオを見ることが予め分かっている場合は、教員がそのビデオを私に渡してくれます。それを私が字幕起こしします。20分ものだと2時間、5倍の時間がかかるので、ちょっと大変ですが、生徒が「良くわかった。」と言ってくれると、疲れもふっとびます。突然ビデオを見るという時には、パソコンで即時入力して見せます。手書きの時もありますが、とにかくどんな方法でも保障するようにしています。

 次、音声認識ソフトを見て頂きましょう。最近は、いくつかソフトが出ていますが、認識率が格段に向上してきています。このソフトは、マイクつきのヘッドホンをこうかぶって話します。
ちょっと、読んでやってみますね。
 『主人も仕事の都合をつけては、勉強会。その他の用事にも積極的に活動してくれました。私は利用料を娘がうまれて1年後に始めました。』
 話し方もゆっくりしなくてもいい。心持ちはっきり話すとこの位は正確に認識します。ただ、修正に時間がかかります。この場合も利用料でなく、理容業ですが、修正に時間がかかります。私の勉強不足でまだ使いこなしていませんが。授業場面での問題点は、話し手のことばしか入らないので、他の生徒の発言が入らないことでしょうか?他の生徒の発言を入れようとすると、私が言い換えてあげるしかないです。また、授業中教員がこれをつけて話しても、あまりきれいには出ないようです。ある程度画面を見て、はっきり話さないと出てこないので、使おうとしたら、通訳者が必要でしょう。これは無線でも出来ます。別室でモニターを見ながら入れるようですが、試験的に行っている大学もあるようです。
 それから、ルビ付きのソフトも開発されているようです。筑波技短では、使っているようですね。このように、要約筆記の情報保障もどんどん進んでいくと、実感しています。

 最後になりますが、良く聞かれる質問についてお答えしたいと思います。

1.本人が情報保障はいらないと言う場合:
 本校の通級生でも同じ様なケースがあります。100デシベルを超えている生徒さんですが、『僕は、聞こえるからいらない。』と言っています。ですから、その生徒にはつけていません。本人がいらないと言っているところに要約筆記をつけて、失敗している例も聞いています。その代わり、こういう講演会に来て、要約筆記というものを知ったり、1、2回試して見ることは、必要かなと思います。そういうものが世の中にあるんだということがわかっていれば、いずれ、本人から言ってくる時期もあるのではと思います。

2.本人が要約筆記をみない場合:
 おかあさんが焦る気持ちもわかります。授業参観にいって、いたずらばかりしていて、「うちの子は、全然見ないのよー。」と嘆く場合もあります。小さいころから曖昧な環境のなかで育って来て、それが当たり前になってしまっている。見る姿勢、聞く姿勢が十分に育っていないお子さんもいます。でも、そのようなお子さんも、他の生徒の発言だけは見るものです。先生の冗談だけは見逃さないんです。不思議ですよね。集中して見てはいなくとも、世の中にはこんなに情報があるんだということを解ることが、長い目で見て必要なことではないでしょうか。

3.小学校における情報保障の在り方:
 私は小学校に入っていないので、良く分からないのですが、単に、書けばいい、打てばいいではなく、「あの女の人が来ると、結構楽しい。」と周りの子供にも思ってもらえることも大事ではないでしょうか。聞こえない子どもも、みんながいいと思っている人が自分の隣に来てくれることは、嬉しいはずです。そういう雰囲気を作ることも、長続きさせるためには必要だと思います。
 難しい漢字は使わないとか、細かいことはたくさんあるでしょう。でも、小学校のときは、ただ書けばよいのでなく、子どもとの信頼関係をまず基本にすえることが必要という研究を、松山市の原田さんがしていらっしゃいます。

4.中等度のお子さんには必要でしょうか?:
 本校に通級する他校の生徒で80デシベルぐらいのお子さんがいます。一体一なら話が十分可能ですが、その生徒も、要約筆記を見ています。先生の話していることはほとんど聞こえているようですが、自分が聞こえたことが正しいか、見て確認するというように利用しているようです。また、他の生徒の発言は、要約筆記を通して理解しているようです。

5.親が情報保障に入りたい:
 親御さんは、わが子のことだから良くニーズがわかるし、親が入れば授業の内容がわかった後でフォローできるし・・ということで希望があるようです。ただ、小学校高学年くらいから本人が嫌がりますね。中学校では、もちろんです。同様に、他の生徒も嫌がりますね。特に中学校では、なんとかちゃんのおかあさんが入っていて、「監視されているみたいだ。」と感じる生徒もいます。PTAの方が要約筆記者として入る場合でも、ご自分のお子さんがいるクラスに入るのは、やめた方がいいと思います本校でも、PTAの方に入って頂く場合には、お子さんがいる学年の保護者の方は入らないと決めています。

6.周りの生徒の援助がなくなるのではないか:
 本校では、そのようなことはないです。「難聴生には要約筆記が必要なんだ。自分も書いてみようかな。」といく気持ちが、生徒の中に育つようです。しかし、やはりほっとけば難しいかも知れません。本校のように、障害の理解授業をするとか、ボランティアを募集するなどの他、学級担任がちょっと他の生徒に筆記を頼むなど、教員側からの働きかけが必要だとも思います。

7.書いたノートはどうするのか:
 ノートやパソコンのログは本人にお返ししていません。板書と要約のノートと同時に両方は見ることができないので、大学等ではノートやログは本人に渡すものだと聞いています。しかし本校では、渡していません。他の学校でも、渡ししていないということを聞きます。
 理由はいくつかありますが、書いたノートやログを渡していることを、他の生徒が知ったとき、「なんであいつだけ。」という不公平感が生じることを懸念するからです。必要性を説明して、わかる生徒もいますが、中学校段階ではわからない生徒もいます。それから、プライバシーの問題もあります。生徒が、先生に怒られている場面等も入るわけです。それを、例えば親御さんが、時間が経って、書いた文字で見た場合に、ニュアンスが変わって伝わる場合もあるわけです。このようにプライバシーの問題も生じるので、渡したくないという学校もあるようです。

8.読む力が不十分な生徒の場合:
 「うちの子は国語の力が弱くて、読みきれないわ。」と心配する保護者もいるでしょう。もしくは、国語力がないのに、要約筆記をつけても無駄だという声を聞いたこともあります。
 しかしこんな考えもあるのではないでしょうか。要約筆記は、視覚障害の方にとっての白杖と似た役割を果たしているのではないでしょうか。白杖があると、何となく行き先が分かる。白杖があっても、はっきり先が見えるわけではない。でも、もし白杖をはずしたら、全く先がわからなくなってどこにも行けない。全部は読みとれない難聴生もいるでしょう。でも、そのような生徒にとっての要約筆記は白杖と同じではないか。全部の内容はわからないけど、なんとなくこんな話をしていると、わかる。話の方向性がわかる。そのような意味で、たとえ読むことが苦手な生徒だとしても、要約筆記は必要だと思います。

 以上で私の話を終わりにさせて頂きます。参考になるような話だったか自信はありませんが、一人でも多くのお子さんに、要約筆記がつけられるようと願って、今日は話をさせて頂きました。ご静聴、ありがとうございました。

以下、質問タイム

質問者/一つ伺いたいのですが、5人の難聴生を一緒のクラスにいれるというお話がありました。子供達には同障の友達が大事だと思いますが、最近は、子供たちの自由なつきあいも必要だと思います。一緒のクラスにまとめることの、メリットとデメリットをお願いします。また、周りには健聴の学生がいて、グループダイナミックスは、どのようにおこなわれているのかということをお聞きしたいのですが?

下島/5人を一緒にしたメリットとしては、やっぱり「たのしい。」ということでしょうか。移動教室では、部屋がその5人と聞こえる2人との計7人だったんですよ。二日目の朝、そのうちの聞こえる生徒から「先生、あいつらうるさくて眠れなかったよ。」とグチを聞かされました。聞こえない生徒は、夜は見えないから普通は話せないじゃないですか。ひとりで、先に寝ますよ。聞こえる生徒の方がうるさくて眠れなかったなんて、それだけ5人は盛り上がったわけで、痛快でした。移動教室が終わった後、5人に「先生、あと1週間くらいいたかった。」と言われました。それくらい楽しかったんですね。これは5人一緒だったからで、その1年間で5人の中には通じ合うものがたくさんできたと思います。
デメリットもいっぱいありますね。そうですね・・「なぜあいつらだけ一緒なの。」という周りの反応などはそうでしょう。自分たちだって仲のいい子と一緒になりたいですよね・「なんであいつらだけ」というのはありましたね。障害上、そのようは配慮が必要なんだということは、中学生くらいだと、なかなか理解しがたいと思います。わかっている生徒もいますが。他のデメリットとしては、5人だけで固まってしまったというのはあります。でも、それは、個人差だと思います。中には聞こえる生徒と交流があった生徒いましたので、5人固めたら5人が固まるかは、人によると思います。
次のご質問のグループダイナミックスのこと、聞こえる生徒と聞こえない生徒を、どのように交流させるかということですね。これについては、京都の二条中学校の高井先生がすばらしい実践をされています。難聴学級の方に、聞こえる生徒を取り込んで行くという実践をされています。本校でもそれをここ1年進めていて、難聴学級のグループ授業に、聞こえる生徒を呼んでいます。3、4人ですが、聞こえる生徒が入ることで、自然にお互い友達になっていきます。来週、難聴学級の劇の発表会があるのですが、聞こえる生徒が4名はいっています。練習を積んでいく中で、障害など関係ない関わりが生まれます。
先程、障害理解授業のことを話しましたが、机のうえで勉強しても、なかなか本当にはわからないのですよ。「聞こえないって大変だね」で終わってしまうんです。特に中学生になると、「僕はたくさん友達いるし、別に難聴生と友達になる必要もない。関係ない。」になってしまう。それを、難聴学級に呼んで一緒に活動を共にすることで、同じ人間として対等に交われるようになります。

司会/ありがとうございました。

質問者/横浜の公立中学の校長をしています、川口です。本校には難聴生が2名います。要約筆記をいれることが、世田谷区では介助員制度として、適用されているのでしょうか。横浜は、要約筆記者を制度的に入れるということはない。それから、PTAのボランティアをいれているということですが、本校では呼びかけに失敗をしたということがわかりました。2回の講習会で現場にはいっているということですが、その辺の経過をお話してください。また、指定地区外で、下島先生がいるということで、難聴生が多く集まっているのか?

下島/1点目は、介助員制度のことですね。世田谷区では、適用されていません。介助員制度はあり、私どもも申請はしましたが、「ひとりで排便できますか?ひとりで食事ができますか?」というような基準で判定されるので、無理でした。聞こえないという障害は、見えにくく、なかなか理解してもらえません。必要性はわかるが、まずは、もっと必要な子供がいると、切られてしまうんです。私どものアピールが足りず、適用されていない。
次に講習会のことですが、2回で現場に出ていると言いましたが、本当は2回では無理です。東京都では、認定講習というのもありますが、本当はそのくらい練習が必要なものです。でも、PTAの方には、2回で入って頂いています。それでは十分な情報保障は期待できません。でも、要約筆記がなければ、彼らにとっては情報はゼロなのです。0よりは20〜30%でもいい。最初から100を求めていたら、人は集まりません。そういう気持ちで始めています。      
次のご質問の難聴生が集まるかということ。始めた当時、2年前は、今のように、要約筆記が広まっていなかったので、非常に話題を呼びました。でも、だからといって、難聴生徒が集まるわけではありません。保護者としては、情報保障がある駒沢中学校に通わせたいけど、やはり子どもは地元の学校へ行きたいものです。聴覚障害のあるお子さんはコミュニケーションの問題が大きくありますので、地元の人間関係を大事にすることは必要だと思います。ですから、情報保障があるからと言って、駒沢中学校に集まることはないです。

会場/わかりました。

司会/ありがとうございました。他にないようでしたら、私も、1点聞いてよいでしょうか?8歳の装用児の母です。「僕は全部聞こえているからいらない。」というタイプなんです。人工内耳をつけています。FMマイクもつけたがらないのです。いろんな方に聞いて、無理に進めてはよくないとも思って、私も反省しているのですが、本人の姿勢は放っておいて、いつかは変わるものなのでしょうか?

下島/私も始めて2年ですから、劇的に変わった例は見ていないのでわかりませんが、先程申しあげた、体験は、結構いいと思います。福岡の「難聴児を持つ親の会」ですが、あそこも活動が盛んで、子どもたちに要約筆記を体験させるということをしています。要約筆記の方を呼んで、先生に模擬授業をしてもらい、その要約を見ながら授業を受けるということを、体験させています。
でも、なかなか気付くには時間がかかるのではないでしょうか。本校でも中学2年生の生徒で、入学当初から、いらないと言っている生徒がいますが、本人の意思を尊重しています。ただ、授業中板書しない先生や口形のわかりにくい先生の場合は、どうしているの?ときくと、返事につまる。ですから、「君に必要なのは、そういう時どうするかを考えること。自分から、先生の話し方は僕にはわからない、もっとはっきり話してよ、と言うことは恥ずかしいことでも、わがままでもない。君が、自分でわかってもらいに行く姿勢を身につける必要があるんだよ。」と話します。その生徒は、幸いにも自分から先生に言ってくれました。情報保障をつけないなら、自分がどう生きていくか、対処するか、その方策を考えて実行する力をつける必要があると思います。

参加者感想文

「下島かほる先生の講演会に参加して」
滝本彩翔(執筆:弘恵 母)
7月6日(日)、 東海大学で行われた世田谷区立駒沢中学校の下島かほる先生の講演会に参加させて頂きました。講演会のテーマは義務教育での情報保障との事で私自身、子供の成長と共に今、一番関心のあるテーマでもありました。駒沢中学では難聴児のために、下島先生が3年前から情報保障を推進し作りあげてきました。それは、難聴の子供たちがとても勉強熱心であり10分休みもつぶれるほどの取り組み方であったからだそうです。そして、要約筆記はどうか?などの意見が出てその日のうちに教育委員会へ行き、『決定』と、なったそうです。私はこの話を聞き、なんて行動力・理解力のある先生!と感激しました。でもこの背景には、担任、学年の先生はもちろんの事、教職員の理解、協力があったからこそ出来たとのお話でした。なぜ要約筆記が必要なのか?という下島先生のお話の中で、中学になると授業の内容が専門的、抽象的になり教科書以外の内容(時事問題など)も取り入れ、授業を進めて行くそうです。読話だけでは、ついていけないそうです。それから難聴児には、知識を伝える事のみではなく、授業中での笑い、どよめき、なんで笑ったのか?流行語など、子供にとってはこれが何よりも一番大切なのだと感じたからだと、下島先生は、おっしゃっていました。子供たちはなんで笑ったのか?などとは聞けずにまた、聞いているうちに次の話題へ入ってしまいそれですごく淋しい思いをして孤独感を味わうのだそうです。その結果、後から周りの様子を見てついて行く・・などと繰り返していくうちに、消極的な子になる傾向があるのだそうです。確かに今、私の娘(小三)も友達の話が聞こえないと、分らないから、「まあいいか」とあきらめる時と、「今の話しは何」とすごく不安になる時があると言っています。でも、要約筆記があればその場の状況がすぐに把握でき、クラスの中に入っていけ自主性にもつながり、充実した学校生活が送れるのではないのか、そして次へのステップへ自信が持て積極的に取り組む姿勢が出てくる様に思います。娘も四年もすれば中一になりその時に、下島先生の貴重なお話をいかしながら、情報保障の確保への道を、作って行きたいと思っています。

アンケート結果

平成15年7月6日「教育現場における情報バリアフリー」参加人数 約70名
アンケート集計結果
回収枚数       22枚
難聴児の親       11名
要約筆記関係者        7名
教育関係者       2名
難聴者本人        1名
難聴者本人および難聴児の親  1名

問1 講演会の感想
◆情報保障の重要性を感じた。
◆もっと多くの学校に導入して欲しい
◆小学校高学年になったら自分の子供にもつけたい
◆熱意のある先生が自分の子供の学校にいてくれたらいい
◆今後の活動にとても参考になった
◆周りの理解が必要
◆難聴児本人や周りの生徒の様子がよくわかった
◆会費が高い
◆会員のみの資料があるのは不公平

問2 下島先生への質問
◆他の先生からの協力を得るにはどうしたらいいの?
◆全校で難聴児が一人の場合、今回のように理解が得られるのか?
◆学校や教員に理解と協力を得るために一個人の保護者として何ができるの?
◆学校生活において、健聴児が難聴児にどんな働きかけをすればいいのか?
◆ホームページはありますか?
◆他の学校への影響は(飛び火)はありますか?
◆獲得した権利を持続するためにはどうしたらいいのか?校長先生や担当先生の異動される場合など
◆このシステムを親→学校→地域→区→市へと広げていくためには具体的にどうしたらいいの?
◆ 講習会について
二回の講習会で現場で活動する事に危険性はないのか?PTAが要約筆記に入る事も不安がある。弊害はないの?
講習会は休みの日もやっているの?先生方も参加されるの?
◆音声認識ソフトについてもっと具体的に知りたい

問3 何かをしてみようと思いましたか?
◆親の立場から
自分も要約筆記の勉強をしてみたい
講演の内容をできるだけ多くの人に伝え協力者を得られるようにしたい
小学校にも要約筆記を導入したい
やりたいけど学校に協力を得られなかったら自分に何ができるの?
◆要約筆記者の立場から
情報保障を受ける生徒さんの気持ちを大事にしたい
中学生の情報保障もやってみたくなった
難聴児の親とともに導入に向けて学校と話し合っていきたい
「その人にあった保障」を目指し双方向で意見を言い合える場を作る
◆教育関係者の立場から
情報保障について、各学校や教育委員会に働きかけてみる
◆ 難聴者本人の立場から          
本日の内容を友の会神奈川の会報に掲載し情報を広める

まとめ  

 講演の内容は各立場の人たちに(難聴者本人、親、教育関係者、要約筆記関係者)にとって、さまざまな影響を与えたように感じます。
 親の立場として最も多かった意見は、実際自分が自分の子供に対して情報保障を導入していくにあたり、具体的にどのように働きかけていけばよいのかまだ、漠然としていて不安であるという事でした。
 人工内耳友の会神奈川小児部としては、駒沢中学校のようなシステムを神奈川の中学校にも導入していける事を目標にして、各立場の方の協力を得ながらできる事から始めていけたらと思っています。





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