人工内耳友の会−東海−
人工内耳10年の経過と将来

平成15年2月2日
人工内耳友の会−東海−総会兼懇談会講演
(愛知県産業貿易西館9F大会議室)

人工内耳10年の経過と将来

大阪大学大学院耳鼻咽喉科学教室 教授 久 保  武



皆さん、こんにちは。東海の人工内耳の会に呼んでいただいて、ありがとうございます。わざわざ大阪までこられて人工内耳をされた方も何人か今日はおみえだと思います。名古屋は学会で何回も来ています。しかし、大体は駅前の栄の辺をうろうろするだけでこちらの方へは今日初めて出てきました。

去年の10月に関西は10周年となり、そのときに本日と同じテーマで話をしました。それに今日は少し内容を加えて、お話しをさせていただきます。



10年間で人工内耳は大いに発展してきました。10年間で適応が全く聞こえない人から高度の難聴の方、それから大人の方から子どもに変わりましたね。音声コード化法も、最初はMPEAKだけでしたが、今はたくさんできました。また、もう一つはハード。電極、スピーチプロセッサの進歩があります。これを順番に紹介して行きたいと思います。



大阪大学では91年から大人の方に人工内耳を始めました。18歳以下の子どもさんは92年が1人。その後2人、5人と増えてきて、2001年では20人、約6割の方が子どもになってきました。



こちらは年齢。だんだん小さくなってきて平均3歳から4歳になってきました。この中には中途失聴の子どもさんもおられるので、生まれつき聞こえない先天ろうの子供さんに限ればだいたいは2歳台です。

難聴の原因ですが、大人の方は原因不明の進行性が一番多いですね。それから、髄膜炎、中耳炎から内耳炎、薬剤性などが多いですね。
しかし子どもさんが増えてくると、原因もこのように遺伝性のものあるいは、風疹の感染、サイトメガロの感染。それから出産の時の低体重、未熟児、あるいは原因不明。このように原因も多様になってきました。



人工内耳装用の子供さんでは、補聴器をしても60から50デシベルでしたが、人工内耳で35デシベルぐらいになりました。人工内耳を1年半したときの聞き取りですけれど、

<ビデオ映像>
注:口を手で隠して話している。
先生(幼稚園では何を見たの)
子供(うんと、じどうしゃと、しろくまちゃんと)
先生(そうね)
先生(みんなで鬼ごっこをした)
子供(みんなでおにごっこをした)
先生(ズボンを脱ぐ)
子供(ズボンをぬぐ)
先生(友達に泣かされた)
子供(ともだちになかされた)
先生(赤ちゃんがミルクを飲む)
子供(あかちゃんがみるくをのむ)
先生(クレヨンでおじいちゃんとおばあちゃんを描いたよ)
子供(くれよんで、おじいちゃんとおばあちゃん、かいたよ)
先生(うん、つぎはね)

井脇先生の口を見ないでも耳だけで質問の内容を聞き取って答えるようになっています。生まれつき聞こえない場合はできるだけ早くされた方が成績もよくなります。



これは、米国のアイオワ大学の成績です。4歳以下、4歳から5歳まで。5歳から8歳まで、8歳以上と手術をした年齢で分けています。4歳以下は、1年、2年、4年、5年と、この赤ですけど、途中で止まらずにどんどん、聞き取りがよくなっています。しかし、8歳以上になると2年のところでとどまってしまっています。8歳以上ですとどうしても限界が出てきます。4歳代5歳代は、この中間で聞き取りが推移しています。



子供さんの聞き取りの能力には年齢が影響しますが、もう一つ、コミュニケーションモードも影響します。これは、人工内耳前の成績ですが、口話法(補聴器と口の形)でコミュニケーションしていた子、それから、手振りとかを混ぜたトータルコミュニケーションの子供の2群です。こうみていきますと、口話法の子がどんどん聞き取りはよくなっています。トータルコミュニケーションの子は少し成長が遅い。そういう結果も出ています。ですから子どもさんの人工内耳の場合は、年齢とコミュニケーションモードが大きな影響を持つという結果が出ています。



次に、音声コード化法の話にうつります。今のコクレア社の人工内耳では、MPEAK(マルチピーク)からSPEAK(スピーク)になって、去年からACE(エース)も使えます。
AB(アドバンストバイオニクス)社、クラリオンですが、今120人ぐらい日本でおられますけど、アナログのSAS(サス)、それからPPS(ピーピーエス)、CIS(シス)と3つ選べますね。それから、メドエル。Conbi 40(コンビフォーティー)というものですが、日本ではまだ認められていません。ここでは、CIS(シス)のパルス頻度の高いものが採用されています。あまりたくさんあって、頭が混乱しますね。



さて、人工内耳はマイクがあってスピーチプロセッサがあって、ヘッドセットに送信機があります。これが体内の受信機で受信をして内耳が刺激されます。ここでスピーチコード化法が働いて、言葉をパルス信号に変換します。
これは今皆さんが一番使っておられるSPEAK(スピーク)ですね。200から8キロヘルツを22分割してそのときどきの信号の強いものを8つまで拾って電極の刺激をします。これはご存じの通りですね。
クラリオンでは言葉の信号を8つに分けてアナログ波形の刺激、同時アナログ刺激をするもの、それから2チャンネルずつペアで刺激していくもの。それから順次一つずつ刺激していくCISがあります。これらが選べるようになっています。



さて、どれが一番よく聞こえるかですけれど・・。例えばコクレア社ではSPEAK、CIS、ACEがあります。これは正答率ですね。静かなときのヒントという文章課題と雑音下の文章聞き取りがあります。SPEAK、CIS、ACEでは、ACEがいいですね。
だけど、もっと一番いいのがあります。さて、これは何でしょう。平均的にはACEが一番いいんですけど、もっといいのがある。答えはそれぞれの人が自分で聞きやすいのを選んだとき、ある人はCIS、ある人はSPEAK、ある人はACE。好きなものを選んだときの成績が平均的には一番です。皆さんそれぞれ耳の状態が違うので、どれが一番いいと言うことは一人一人ですべて異なります。ですから、たくさんある中から一番聞きやすいのを選んだ場合に一番よく聞こえます。1つだけの時は60%にしかなりませんが、たくさんあって選ぶと80%まで聞き取れます。10年間の進歩で、たくさんある中から選べるようになったわけですね。



また、最初の頃は電話で会話できる人は10人に1人くらいしかおられませんでした。しかし、最近では半分以上の人が電話を使っています。携帯も使っておられます。CDMAのシステムですね。電話での聞き取りを一度やってみましょう。

電話の成績です。時間とか日にちは電話で非常によくわかります。物の名前は少し聞き取りにくいです。これは、会話の内容です。平均が66%ですね。
私たちの話し言葉は冗長性があります。特に年をいくと何回も同じ話をします。ですから、話の70%が聞き取れると十分ついていけます。



さて、子供の話とコード化法の話をしましたが、あと、ハード面の進歩を紹介しましょう。

耳の中はだいたい30,000個の神経があります。これはクラリオンですが、ここからここまでここまで入りますね。1回転半。コクレアのコントゥアーもそうです。最初の直線型電極では神経の50%しか刺激できませんが、それが75%に増えてきました。あと残りの25%がどうなるかですね。



幸い、この1番先は500ヘルツ以下の低い音で、言葉にはあまり関係無い音です。ですから、言葉の聞き取りには75%刺激できれば十分だと思われます。これは電極の進歩ですね。それと、スピーチプロセッサは耳かけ型が出てきましたね。耳かけ型に音声コード化法もいろいろ選べるようになってきました。



それでは、10年の過去から、ここ4、5年の将来展望を考えてみたいと思います。新しいものを再埋め込みされる方も出て来るかもと思います。さらにどんどん小型化してきますね。今は磁石があって、MRIができません。金属探知器も通れない、そういった問題が解決しています。

それから両耳装用。両方の人工内耳は保険の問題がありますね。しかし90デシベルで補聴器を使える人は、反対の悪い方に人工内耳をすると、両方で聞くことができます。以外と成績がいいです。

これは、耳慣れない言葉ですね。ハイブリッド。トヨタ、ホンダはガソリンと電池と両方で走るハイブリッド車がありますね。人工内耳もハイブリッドに
なる可能性もあります。



まず、小型化ですね。耳かけ型がどんどん出てきてる。メドエルは子どもも全て耳かけ型です。

それからスピーチプロセッサも手術で耳の後に入れてしまう。全埋め込み。ペースメーカーがそうですね。ペースメーカーはしかし、今、7年ごとに電池を交換しないといけません。人工内耳では少なくとも15年間もつ電池が出てくるとこれが実現してきますね。磁石がないのでMRIもできます。金属は全てチタンで作れば全く制限がなくなります。

小さくなると入院せずに1時間ほどで日帰り外来手術ができてくる可能性もあります。小型化によっていろいろなメリットがあります。



体内のマグネットがなくなれば、MRIができるようになって生体適合性がよくなります。空港での金属探知器も問題ありません。新幹線がリニアモーターカーになり、名古屋、東京間が1時間でいけるようになればそれも大丈夫ですね。



さて、次は両方で聞いた場合ですね。両方の耳で聞いた場合、雑音の中で相手の言葉が聞きやすくなります。両方で聞いた時のメリットは3つです。両方できいた場合、音の方向感覚ができます。それから、静かな時に、片側の時より両方では5デシベル小さい音を聞くことができる。もっと大きなメリットは、少々雑音があっても、聞き取りが可能になります。特に子どもさんとかでは大きなメリットになるかもわかりません。



言葉の聞き取りを補聴器だけ、人工内耳だけ、両方つけたときで比較しています。単音節、単語、文章です。補聴器での正答率は、チャンスレベルですね。人工内耳はさすがによく聞き取れます。しかし、両方ではさらに10%以上よく聞き取れています。今、両方で聞いておられる方は8人ぐらいでして、それぞれで統計的に差もでています。



これは耳鼻科の先生の書いた漫画です。これが蝸牛で電極が蝸牛に入ると内耳のところで電気がついて震災復興、電灯がついたというわけです。人工内耳で初めて音を聞いたらこんな感じですね。震災で電気が来てなかったのが、ぱっと電気がつくと。

アンケートでは聞こえないとどうしても家族、知人とのコミュニケーションが少なくなってきて、心理的にも孤独感とか疎外感が生じるわけです。しかし、人工内耳で・・。親密になれたと。疎外感、孤独感、あるいは学校で劣等感もあるかもわかりませんね。人工内耳をされると、外向的、あるいは社交的になって外へ出てみなさんと交わるようになっていく。また、環境音、アラーム音が聞こえるようになる事で生活の質(QOL)もよくなっています。今までの十年間の人工内耳の進歩でたくさんの方が満足されています。

さて、ご静聴どうもありがとうございました。丁度時間ですので、ここで終わらせて頂きます。
(拍手)





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