ライン
いんぷらきっずのQ&A
〜人工内耳装用児のパパ、ママ達の知恵袋〜

第三章:成人の方より

<人工内耳の聞こえについて>

我が子が聞こえていないと知った時の両親の思い、それを乗り越えてたくましく歩んでいるパパママ、そして「聞こえとは何か」を知らない子ども達の成長を、人工内耳装用者として心よりエールを送り、いんぷらきっずを共に見守っていきたい願いを込めて、子ども達のため何かをしたいと思う私達がいるということを知っていただき、これから装用する子ども達に1つの参考として体験を話したいと思います。

"人工内耳ってどんな風に聞こえるの?"手術を受けて、両親の気がかりの1つだと思います。人工内耳は皆同じ聞こえをもたらせてくれませんが、難聴、失聴期間が短かく、聞こえていないのにまるで聞いているように声がよみがえる時期に手術を受けたので健聴の聞こえと比べることができる立場でキッズに読んでもらえる言葉で思い出してみたいと思います。

音入れして初めて聞く声は、自分の場合機械的な音声でなくそのままの感じで、しわがれた声は高音低音2つに分かれて聞こえるということが初めの日だけありました。それと自分の声が1秒遅れて脳に届くということも一週間あり、どもりそうで困りました。音入れの翌朝、外へ出ると明るくなったはるか向こうの上空をカラスが鳴きながら飛んでいました。健耳と少しも変わりなくそれぞれの声音でカーカー、クワ―クワ―、アーアーと遠くてもはっきりと聞こえてきます。餌を求めてくる鳩のおねだりの声もけんかの声も警戒する声も分かるのです。

それほどぴったり合ったマップだったので、庭木にとまる雀までの距離とさえずりの声も距離的に実際と同じ大きさと同じ声でしたが、マップを少し変えると実際にその距離で聞く小鳥の鳴き声より大きく、声もいくらか太めに聞こえます。このマップで環境音を聞くと家庭のレンジ、洗濯機、炊飯器の電子音、ベルは少し太めの音になります。反対にマップですべての音が高めの細い音にもなります(この時は自分の話し方までいつもより高くなってしまいます)が、身近であれば環境音はすべて聞こえています。雨が土にシュワーとしみ込む音も分かります。

普段SPを話し声を聞く音量にしていると、足音など自分の出す音は実際よりずっと大きい音を聞いています。マイクが拾う距離もありますが、今この音がしている筈なのに人工内耳には届いていないことによく気づきます。音が遮られると、健耳の何分の1も聞こえてきません。二重サッシの部屋から外の物音などは、ほとんどダメです。外の気配を耳で感じ取ることは、無理なのです。けれども、高台に立ち、遮る物もない静かな環境であれば直線空間1Km向こうの救急車のサイレンを聞きます。

聞き取ろうとSPの音量を上げると、健聴者が補聴器をしたように時計のチクタクや冷蔵庫、ヒーターなどのモーター音が驚くほど大きく聞こえます。いつも気を配り聞き耳を立て、注意し、音に集中する心構えは聞き取りを高めますが、結構疲れることなのです。ガレージから7mほどの距離にいて何かに気をとられていると、車がガレージに入った音をさまざまな雑音から、それと認識できないで「あら!いつ帰ったの?」と聞いてどちらもびっくりする場面などあるのが人工内耳なのです。

環境音はパワーのある音(紙やビニールをクチャクチャする、カーテンを引く音など)が実際よりうるさいですが、マップでおさえることができます。言葉は明瞭さに欠け、カはヵアと母音が強く聞こえるので健聴者に聞き間違いと受け取られますが、声のトーンでカもタも同じように聞こえることもあるのです。初めてのカタカナ語を聞くように、子どもは、文字と一致できるまで違うというのが分からないかもしれません。「往復航空」のようにウが6つも重なると、何度も聞きなおしをします。ある人の声だけは、特にだみ声の人は言葉にならないということもありますが、最初は20%しか聞き取れなくても聞き重ねているうちに、40%、80%とだんだん会話に不自由なく聞こえてきます。片耳なので、音源までの距離を音の大きさで測ろうとしますが、遠くでも大きく聞こえる音があり、音の大小、高低はまちまちということから、音楽の歌詞でメロディをつかむことは難しいかもしれません。
手術を受けて、嬉しかったのは足代わりの車から情報、カーステレオが聞けることでした。人工内耳は音質、音響設備により、聞き取りに大きな差がでます。車のオーディオを高度な設備に変えると、健耳に戻ったと錯覚するほどCDから流れる重低音の美しさに感動したものでした。カーナビも聞きなれると突然の案内音声も自然に聞き取れる様になっていきます。

健耳ならば、教室の大勢の人の声を1人1人聞き分けられますが、雑談や普通に声を落として話している状態での聞き取りは部分的にしか分からず、皆の会話の中に入っていくのは大変です。1対1では問題なく見えても、誰がどこから、誰に話し、他の誰が会話に割り込んできているか、その場を把握しながら、
しかも顔を上げずに話している状態では、気が休まりません。大事な打ち合わせが途中入った時など、とても神経を使います。「聞き取れなかった言葉がある」というのを分からないこともあるのが、装用者なのです。身辺のあらゆる音の記憶を持ち、マップにより多少変化しても状況を判断できる中途失聴者と違い、時々変わり、どれが本当なのか、音を一致させながら記憶していく子ども達を思うと、装用児に優しい環境、周辺の整備を心より願います。


<私の人工内耳の聞こえ方>

私はこの原稿を書いている時点で53才になります。5才のときストマイの副作用のため失聴してから、およそ43年間を音のない世界で過ごしました。5才のときまで聞こえていたとはいうものの、その後の長い失聴期間の間に幼いときに音を聞いた記憶は薄れていき、思い出せないほどになっていました。

それと、発音もだんだんと崩れていき、自分の声が聞こえないため、大変甲高い発声をしていたようです。ただ、私の場合、周囲の友人は全て普通の健聴の人ばかりで、普通の学校を通ってきたため、同じ聴覚障害者と交わることは人工内耳をするまでほとんどありませんでした。

補聴器も役に立たず、手話も口話も知らず、筆談一本槍で過ごしてきて、音は聞こえないながら、私の頭のなかでは、日本語のボキャブラリで理解し、言葉や文章で表現するという文字言語の獲得が問題なく行われていました。むしろ、聞こえないが故に、文字や文章に依存する傾向が強く、通常の人よりボキャブラリや文章表現力は大きいとひそかに自負さえしています。

しかし、人工内耳を手術して、はじめて音入れをしたときの聞こえは惨憺たるものでした。「音が聞こえる」というような、なまやさしいものではなく、まるで、耳の中をハンマーで叩かれるような物理的な刺激でしかなかったからです。高い音はきんきんとした刺激、低い音は圧迫するような刺激というもので、私が幼年期に聞いた記憶のあの柔らかく懐かしく優しい「音」とは全く違っていました。しばらくつけているうちに、その物理的な荒々しい刺激で気持ちが悪くなり、吐き気がこみ上げてきたほどでした。私の聴神経は43年間の音の空白の間にすっかり麻痺して「音」を忘れてしまっていたのです。

おそらく、生まれつきの難聴で音を聞いたことがない幼児がはじめて人工内耳で「音」を聞いたときも、これと同じなのではないかと私は想像しています。中途失聴の大人はそれでも音を聞いた経験があるので、パニックにならなくても済みますが、生まれつきの重度難聴幼児にとって、未知の刺激ですから、得体が知れず恐ろしいものに思えるのは無理もないことでしょう。

その後、私の聞こえは一進一退という具合で少しづつ進んでいきました。ひどい刺激を我慢をしているうちに、少しづつ聴神経が刺激に慣れていき、それとともに、刺激が「音」らしくなっていきました。1週間もたつと、うるささに慣れていき、それらしく感じるようになりました。1ヶ月たつと、ワイフのしゃべる言葉が、ところどころ理解できるようになりました。しかし、その後の聞こえがなかなか伸びず、環境音はよくわかるものの、ワイフ以外の人との会話はなかなか聞き取れない状態が2年ほど続きました。

人工内耳友の会に入会して、同じ人工内耳の仲間と知り合い、いろいろと話してみると、自分よりよく聞こえる人が多く、内心では羨ましく思ったものです。しかし、「よく聞こえる」という方は、ほとんどがかなりの大人になってから失聴された方や、失聴期間が短い方が多いというのは事実のようです。私のように幼児期に長期間の失聴のものは、だいたい似たり寄ったりの聞こえの悪さなのです。

私は「とにかく聞きまくろう」と考え、カセットテープの童話や、CDの童謡や、「冠婚葬祭スピーチ集」などをかたっぱしから毎日聞いていきました。テレビやカーラジオもできるだけ、集中して聞くように努めました。最初の2年間ほどは、あまり目立った変化はなく、何をいっているかさっぱりわからないといった状況が続きました。しかし、執念深く続けているうちに、2年を過ぎたあたりから徐々に変化があらわれだしました。テレビやラジオの定型的な放送がところどころ聞き取れるようになり、4年を経過した頃には、天気予報などはほとんどを聞き取れるようになってきました。アナウンサーの早口でも、聞き落としは多いものの、だんだんと聞き取れる部分が増えてきています。

また、自分の声がハッキリと聞こえるため、発音に関しては大変改善され、落ち着いた声で話せるようになりました。ただし、歌を上手に歌うのまでは無理なようです。

ここで大事なのは、漫然と聞き流しているのではなく、音に集中して聞き取ろうと「耳をすませる」という態度です。集中しなければ聞き取れないし、言葉のパターンを覚えられません。逆にいったん覚えた言葉のパターンはその次からはあまり意識しないでも聞き取れるのです。ただし、「集中して聞く」というのは、非常に疲れます。大人でも難しいので、幼い子どもが集中して音を聞くというのは大変な困難を伴うことかもしれません。

現在手術後5年を経過しましたが、私の今の聞こえは「静かなところで」「1対1で」「ゆっくりはっきり」と話してもらえば、ほぼ会話としてはすべて理解できます。ただし、この条件がひとつでも欠けると、とたんにてきめんに聞こえにくくなります。たとえば、静かなビルから道路にでたとたん、車の騒音で話が分からなくなりますし、3人以上でいっぺんに話しているような場合は話についていくことが難しいです。また、人によっては不明瞭な発声をする人もおり、ぼそぼそとした話し方でしかも口を動かさずにしゃべるような人とはまったくお手上げです。

ここで「聞こえ」という場合は環境音ではなく、「音声」や「会話」の聞こえのことを言っています。環境音の聞こえは、人工内耳装用者は皆ほとんど同じで差はあまりないはずです。環境音はかなり微妙な音までそれなりに聞き取れます。しかし、「音」を「音声」として聞き取れるかどうかについての個人差が非常に大きいのです。

わたしは、これは要するに「外国語をはじめて習うようなもの」だと考えています。はじめてアメリカへ行ってはじめて英語を聞く人は、相手がなにかしゃべっていて、音は聞こえるけど、なにを話しているか、さっぱりわからないでしょう。長く住んでいて、だんだん慣れてくると、そのうち発音も聞き取れるようになります。文法やボキャブラリが理解できれば、話の内容も理解できるようになります。つまり、これは全く、脳の中での「音を言葉として理解する」という作業の問題であるところが大変大きいのです。もちろん、そもそもの物理的な音の明瞭さが足りないという人もいるでしょうが、環境音がはっきり聞こえる位の装用者であれば、訓練次第でかなりのところまで「言葉を聞き取ること」が可能になるはずです。

英語を語学として、ヒアリングで聞いて覚えるという学習法があるように、人工内耳装用者向けに、日本語を体系的に聞いて覚えるような教材があれば、ずいぶんと役にたつのではないかと思われます。今の人工内耳の医療機関は、人工内耳の手術で精一杯で、その後のリハビリはほとんど装用者の個人的な努力にゆだねているのが実情のようです。私は、集中的に聞こえの猛特訓をすればかなりの効果が有るのではないかという夢を捨てきれないでいます。

人工内耳装用者や装用児のために、体系的かつ効果的な訓練方法が早急に確立され、関係者の努力によって広く普及することを強く望みます。



巻末付録

「難聴児の聴覚活用」(日本コクレア社提供)

ジュディ・シムサ先生が1996年7月19.20.21日の3日間、新大阪、三和化学研究所・大阪メディカルホールに於いて「難聴児の聴覚活用」という演題で講演されました。今回は質疑応答を中心に、ワークショップの記録をご報告させていただきたいと存じます。

この大阪でのワークショップには、人工内耳を装用している子どもを持つご両親、病院のSTの先生など、またたくさんのろう学校の先生を含め、初日からおよそ120人の方々、他に20人程の子どもさんが参加されました。

聴覚活用の原理、方法、人工内耳装用直後・初期・中期の聴覚学習、聴覚活用長期計画、難聴児の幼稚園・小学校等への統合、などの項目に従いデモンストレーションを織りまぜながら講演が進められていきました。聴覚学習を効果的に進めていくためのおもちゃや教材も台湾から多数持参され、展示をおこないました。講演の中で、それらの教材を制作するポイントなどの指導もありました。

聴覚活用法とは、聴覚刺激を強調し訓練を行い、言葉を学習していく方法です。すなわち視覚刺激、手話等を聞き取りにおける補助刺激を使用することを最小限にして、聴覚つまり人工内耳や補聴器等から得られる聴覚情報を最大限に活用して言語・スピーチを獲得する訓練法です。

この聴覚活用法によって、超文節的な要素、例えば音の長さ、音の高低、抑揚などを知覚することが容易になり、自然な発話を獲得しやすくなると講演されました。

この訓練の実際の方法としては、親や訓練士による個別指導が基本です。第一段階は、聞くことを子どもに学習してもらうことです。次に聞いた音を弁別・同定・理解できるようにします。そして聞くことに注意を引き重要な音を強調して訓練者が強く何回も繰り返し発音することによって、聴覚のフィードバック回路を子どもの脳にインプットし、正確な発音ができるような訓練を行います。この聴覚記銘訓練をすることによって、正確な音声模倣や発音ができるようになります。最初は、簡単な子どもの興味のある擬音語、擬態語などから訓練を始めます。聞き取りのテストも、最初はクローズドセットから始め、だんだんオープンセットへと移行していきます。

すべての言語的な特徴の側面について、段階的に訓練を進めて行きます。例えば訓練状況では最初は静かな場所での訓練から、そして慣れてきたら周囲雑音のある場所での訓練を行います。また話す速度もゆっくりから普通の速度に変えていきます。このように訓練環境から日常生活に段階的に近づけていくことが大切であると強調されていました。

また子どもに対する接しかたについては、前向きな言葉掛けを多くしながら訓練を行います。そして理由説明をきちんとするしつけを行うことも大切であるとお話されました。例えば子どもには「子どもはなぜ〜をしてはいけないのか」等をきちんと説明することが大切です、としています。

講演会の参加者の方々からの質問を以下にまとめてみました。

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Q1:日常の生活の中での言葉例えば「痛い」とか「きゃー」などは、親子の感情の共有があるという経験をする。その後ハンドキューを用いながら、訓練のなかで言葉を覚えていくという順序でよいのでしょうか?

A1:聞くということの1番の手がかりが、ハンドキューです。また子どもが聞く前に視覚的な情報が子どもに入ってしまったら、どうやってその子どもは「きく」ということを学習するのでしょうか?視覚的な情報が先に入ってしまうと、子どもは進んでは聞かないようになってしまうでしょう。
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Q2:擬音語や擬態語などを使って言葉を覚える訓練をするときに、擬音語の名称は使わないのでしょうか? つまり「うし」について言葉を覚える時に、「モウ」という擬音語だけを使用するのか?それとも「モウ」と「うし」という言葉を一緒に練習する方がよいのですか?

A2:訓練の基本は繰り返し行う、またある部分を強調するということです。私(ジュティ・シムサ先生)のやり方は、例えばポケットの中におもちゃを入れておきます。その時に「私のポケットの中にモウモウって鳴くものが入っているのよ」と言いながら「モウモウ」を強調し、それを繰り返し教え、子どもが「モウモウ」という音が分かった時点で、それが「うし」に置き換えて今度は「うし」を理解させます。最初の「モウモウ」の時は「うし」を教えてはいけません。言葉を教える子どもに「聞いて」と言う言葉で注意を集めることです。また大切なことは、子どもにとっての聞き取り易さです。「モウ」と「うし」のどちらが聞き取りが容易であるかを段階を追っていきます。つまり「モウモウ」という擬音語から「うし」という名詞への聞き取り、そして、発話へとつなげていくことです。指導者(親・学校の先生等)には段階を踏まえて、知っていることから知らないことへと進めていくことが大切ということです。そして知っていることを増やしていくことが大切です。
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Q3:ハンドキューを使用している時に、アイコンタクトはどのようにすればよいのですか?ハンドキューを用いるとアイコンタクトが取れなくなるのではありませんか?

A3:ハンドキューを使用してもアイコンタクトを取ることができます。大切なことはハンドキューを使用して、語を強調することです。
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Q4:日本語では使用しないような発音を練習することは、必要ないのではないでしょうか?

A4:英語や中国語の場合でも、その言語では使わないような子音も訓練します。そのような子音がないからといって練習をしなくて良いということはありません。
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Q5:話言葉の発達を促す方法は知っていますが、言語の発達を促す方法は知りません。

A5:この質問は実際には反対です。まず言語の発達が行われてから、話言葉が発達します。言語を聞くことを通して学ぶことが大切です。それがいちばん早く言語を獲得する方法です。
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Q6:難聴児の教育には9歳の壁とよく言いますがどうお考えですか?

A6:テクノロジーが進化したのだから、我々(教育者)も変わらなければいけないと思います。聴覚活用法はとても優れていると思いますが、日本ではうまくいっていないと思われます。早期に聴覚活用法で教育することによって、補聴器より人工内耳の可能性があると思います。
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Q7:これまで、指示法(手話やキュード)で訓練をしてきました。人工内耳を装用したらすぐに聴覚活用法で訓練をしなければならないのですか?

A7:徐々に変えていくことが大切です。手話で教育を行ってきた子どもに手術3ヵ月前から聴覚活用法で訓練を行い、手話を減らすことにより聴覚情報を減らし口話だけで指導を行います。手術後6ヵ月ではハンドキューを使用するように家族に指示をしますが、分からない言語については口話法を導入します。手術後、突然口を隠して訓練するのではなく情報に応じて口話を使用します。もちろん一日中口を隠して生活をするわけではありません。短い時間にクローズドセットの訓練をするようにします。最初は訓練者の口を隠すことに子どもは抵抗するでしょう。そして子どもが聴覚を活用できるようになるのには、手術後およそ4ヵ月から6ヵ月後です。子どもは24時間口を隠されているとイライラしてきます。また言語を聴覚によって獲得するにはおよそ2年ぐらいかかります。人工内耳の手術をすることによって奇跡がおこるわけではありません。
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Q8:子どもの感覚は色々な事象経験し発達するものですが、ハンドキューを使用することによって偏ってしまわないのですか?

A8:例えば、聴こえる赤ちゃんはお母さんに抱かれていたり、おんぶされていたりしているときは、お母さんが話していてもお母さんの口の形を見ながらいつも聞いているわけではありません。ただ赤ちゃんはお母さんのそばにいるので、赤ちゃんは良い音響条件に恵まれていることになります。つまり聾の子がすべて情緒的な問題をもつことはないと思います。
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Q9:多動の子どもが多いということについてどうお考えですか?

A9:聴覚の障害を持った子供に多動児が多いのは、聴覚を通した行動規制ができないために無目的な多動傾向が見られるのでしょう。
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Q10:人工内耳のマッピングについて。大きさの概念がない子どもにマップを作成するには、どうすればいいのですか?

A10:聴性行動反応を見ながら行います。子どもが大きい音に不快感を示したり、ヘッドセットを外したりして嫌がります。マッピングも、補聴器のフィッティングと同じように、何回もセッションをして行います。
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Q11:子どもの言葉は母親だけにはわかるけれども、他の人には通じないということを子ども自身に理解させるのにはどのようにしたらよいのでしょうか?

A11:これは子どもに他の人には自分の言っていることが通じないという経験をさせる必要があります。私は子どもにマクドナルドへ行って他の人と話す訓練をさせました。マクドナルドですとだいたいの言葉の見当がつくからです(使用する語彙が狭く限られているから相手も子どもの発音から言葉を想像しやすい)。もしダメなときにはもう一度やってみなさいと激励することが大切です。例えば何人かで話をしているときに子どもの言ったことが相手に通じなくて話の内容を親に聞いてきても、親が代わりに答えるのではなくもう一度本人(子ども)に聞くように相手に促してやることが大切です。
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Q12:聴覚活用法は、補聴器を装用している重度の子どもにも有効ですか?

A12:装用閾値が40dBに近いのならば、言語獲得ができます。
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Q13:一部の人たちは、先天聾の子どもに人工内耳を適用するのは「子どもの人権を無視するものだ」と主張しておりますが、障害を持つ人の親としてはどのように考えておられるのでしょうか?

A13:両親は、親として子どもに最高のことをしてやらなければならないという責任があります。しかしそれが正しいかどうかで悩むことは苦しい所です。ヘレンケラーは話すことは人間の生まれながら持つ権利であるとしています。それを子どもに与えないということは親が子どもに生まれながらの権利を奪うことになります。最近私の息子が手紙をくれました。それには「僕に話す力を与えてくれてありがとう」とあり、大変に感動をしました。
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Q14:ハンドキューを使用すると、音声が不明瞭になるのではないのですか?

A14:先天聾の子どもに対しては、最初からハンドキューの音声でかまわないと思います。またこの様に単感覚法で指導を行うことが大切です。発音の明瞭度は言語が先に発達し、その後で話言葉の改善が見られます。
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Q15:補聴器の効果があるないはどのように見極めるのですか?

A15:聴覚活用法訓練を行って効果がないときは、人工内耳やその他のことを考えるのが良いでしょう。補聴器と人工内耳を比較しても、聴覚活用法においてはほとんど差はありません。人工内耳は高周波数帯域が入るのことぐらいです。
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Q16:聾の両親を持つ子供が人工内耳をした場合にはどうなりますか?

A16:子どもが聴覚活用法で訓練を行うのならば話せるようにもなるし、手話もできるようになります。祖父・祖母等の健聴者の協力や普通学級での教育など周囲の教育が必要です。
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Q17:手術前はサインで言語力があった子どもと、全く言語力が無かった子どもの術後の成績の比較はどうですか?

A17:サインでも他のモードでも、言語があらかじめ学習されている子どもの方が訓練は進みやすいでしょう。全く言語力が無い状態から訓練を始める場合は大変です。2歳ぐらいであれば人工内耳の手術後に聴覚活用訓練によって言語力を発達させることができます。
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Q18:文字の導入はいつ頃からしたらいいでしょうか?

A18:日本ではわかりませんが、カナダと台湾では4〜5歳からです。この頃に健聴児も文字に興味を示すからです。基本的には聴覚活用法を通して言語を覚えてからの方がいいでしょう。
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Q19:電話の練習はいつから始めればよいですか?

A19:その子どもの能力に合わせて始めれば良いと思います。2〜3項目の聴覚記銘ができるようになった段階でテープレコーダーを用いて聞き取りの練習をします。
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Q20:補聴器と人工内耳を装用した子どもの違いについてはどうでしょうか?

A20:これらの子どもを直接比較して欲しくはありません。補聴器は残聴能力を活用するものであり、補聴器を早期に付けることによって聞き取り能力を良くするものであります。聴覚障害児の脳の可塑性によって、音が聴こえれば、言語を早く覚えられます。人工内耳を早く装用すれば効果も高くなります。ここにいらっしゃる中で5歳以上で手術をなされた子どもさんもいるそうですが、聴覚活用法で訓練を行えば必ず訓練の効果がありそれなりに伸びます。人工内耳の良い点は補聴器の様にハウリングがないこと・イヤーモールドが必要ないこと・高周波数帯の情報が入ることがあげられるでしょう。多くの補聴器は、音響障害を気にして十分に補聴器を活用をしていないことが多いようです。人工内耳も補聴器も早期に装用することの重要性をここでは強調します。
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Q21:難聴児同士の交流はどう思いますか?

A21:近所の健聴の友人と仲良くすることが大切です。また他の難聴児に興味をもって話かけることはよいことです。息子の話になりますが、通っていた高校では難聴の生徒5人が学校での生活に困っている事柄について話し合う機会を設けてくれました。
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Q22:重複障害の子どもに対して、聴覚活用法はどのように使用されますか?

A22:ダウン症児に対しては早期発見が可能なので、生後6ヵ月くらいから訓練が始められます。自閉症児に関して重い子に対しては、必要であったら他の方法も取り入れていくのがよいと思います。軽い子に対しては聴覚活用法で訓練をすることができます。



身の回りにある電磁波発生源とその安全性

身の回りにある様々な電磁波発生源について、その安全性を以下に示すような4段階の評価でまとめてみました。
<凡例>
◎:全く問題ありません
○:問題はありません。ただし、近づいた時に身体や聞こえに異常が感じられた場合には、そのものから遠ざかるか、スイッチを切るようにして下さい。
△:雑音が聞こえる場合があります。極力近づくのを避けるか、ご使用をお控え下さい。
×:インプラントや内耳組織を破壊する恐れがあります。安全のためにご使用はお控えください。

身の回りにあるもの

磁気を利用して情報を記録するもの
◎クレジットカード
◎テレホンカード
◎オレンジカード
◎切符(磁気記録式)
◎ビデオテープ
◎録音テープ
◎フロッピーディスク
◎キャッシュカード(デビットカード)

通常の家電機器(ある程度の電磁波を発生する)
○蛍光灯
○冷蔵庫
○洗濯機
○電気毛布
○日曜大工の電気工具(モーター類)
○テレビ、ステレオ(スピーカー類)
○コンピューター
○ゲーム機

電磁波を利用した家電調理器
○電子レンジ
○電磁調理器
○IHジャー・炊飯器
○高周波調理器

無線信号を利用した通信機器
△携帯電話
○トランシーバー

体に電流を流す家庭用治療器
○家庭用低周波・高周波治療器
(首から下であれば問題はない。しかし、万一異常が認められたらすぐに使用を中止すること)

磁石を利用した家庭用健康器具
◎磁気サンダル
◎磁気バンド(足首、関節)
◎磁気はらまき
◎磁気ネックレス
◎磁気ブレスレット
◎ピップエレキバン
◎磁気マットレス
◎磁気クッション
△磁気まくら
(磁気まくらは頭部にちかいため、念のためご利用を控え下さい)

電磁波を利用した金属探知器
△空港の金属探知システム
(人工内耳の材質自体が金属探知器に反応する場合もあります。その際には、係員に「人工内耳装用者カード」をご提示下さい。)
△店舗の盗難防止システム

病院・医院・歯科医院・治療院などの医用機器
◎X線、CT
◎心電図
◎超音波診断装置
◎歯科治療器
○バイポーラ電気メス(蝸牛外電極から1cm以上離して使用すること)
○体脂肪計
○低周波・高周波治療器
○通電(ハリ)治療器
(以上3つは首から下であれば問題はない。しかし、万一異常が認められたらすぐに使用を中止すること)
○モノポーラ電気メス(蝸牛外電極から3cm以上離して使用すること)
○磁気共鳴画像診断装置(MRI)(磁石を取り外せば可能、1997年冬以降手術の方)
×神経刺激療法
×イオン放射線療法
×電気ショック療法
×磁気温熱治療器(ハイパーサーミア)
*診療を受ける際には必ず「人工内耳装用者カード」をご提示下さい。




鞄本コクレアからのお知らせ

重要

必ずお読みください

マップコラプションとスピーチプロセッサ(MSP、SPECTRA)の内部電池

聞こえに異常が発生した場合、いろいろな原因が考えられますがマップコラプションが原因で問こえなくなる場合があります。

マップコラプションとは:
マップはスピーチプロセッサ内のRAMと呼ばれるメモリに保存され、スピーチプロセッサ内部のリチウム電池で保持されています。何らかの原因で内部電池とRAMとの接続が断たれたり静電気によって高い電圧が加わるようなことが起きると、保存しておいたマップが消えたり壊れたりしてしまうことがあります。これをマップコラプションと呼びます。この場合、音が聞こえなくなり、通常はMランプが周囲の音に関係なく点滅を繰り返すようになります。マップコラプションは多くの場合、再度病院でマップを書き込んでもらえば解決しますが、電池が原因の場合は頻発することになります。

スピーチプロセッサ(MSP、SPECTRA)の内部電池とは:
内部電池はスピーチプロセッサ内部の回路基板上にあり、マップを正しくメモリ内に保持するという機能を持っています。内部電池の消耗により、スピーチプロセッサ内のRAMが十分な電圧を維持できなくなると、マップが保持できなくなりマップコラプションが発生します。
<内部電池の消耗が一因と考えられるマップコラプションの事例>
「夕方電池を交換しました。夜10時頃テレビを見ている時にまた電池が切れてしまい、別の新品の電池にしても『Mランプが点滅』し、そのまま使用できなくなってしまいました。念のためにマイクやケーブルを全て交換しても結果は同じでした」

スピーチプロセッサ(MSP、SPECTRA)の内部電池の寿命はご使用状況により個人差はありますが基本的には数年(注1)です。マップコラプションが頻発する場合には病院の先生とご相談の上、点検・修理にお出しになることをお勧めいたします。尚、内部電池のみの交換費用は約5,000円です。

注1)対象となる可能性のある方
@MSPを装用なさっている方でマップコラプションが頻発していらっしゃる方
A装用なさっているSPECTRAのシリアル番号(注2)が330000〜345000の方でマップコラプションが頻発していらっしゃる方

注2)シリアル番号はスピーチプロセツサ底部に刻印されている「S/N」で始まる6桁の番号のことです。




株式会社日本コクレア「'00部品カタログ」より
聞こえに異常のある場合
故障かな?と思ったら

病院の先生にご相談になる前に、もう一度スピーチプロセッサをご自分でチェックしてみてください。
1 電池はありますか?
下図に従って電池をチェックしてください。スイッチと感度を設定してMランプが点灯すれば正常。ゆっくり点滅すれば電池が消耗しています。電池を交換するか充電をしてください。
電池のチェックの仕方(Y:はい N:いいえ)
スピーチプロセッサの設定 スイッチ:T 感度設定:0−8

Mランプ点灯?                                
↓Y    ↓N:ゆっくり点滅    ↓N:まったく点灯しない          
正常    電池の消耗(電圧低下)  スピーチプロセッサ(電源)の不良
         ↓            ↓
        電池交換         病院の先生に連絡

2 接続ケーブルは大丈夫ですか?
下図に従って、チェックしてください。まずスイッチと感度を設定して、音に合わせてMランプが点滅するかどうか確認してください。続いてスピーチプロセッサに送信コイルを近づけてCランプの点滅を確認してください。
接続ケーブルなどのチェックの仕方
スピーチプロセッサの設定 スイッチ:N 感度設定:3−5

音に合わせてMランプ点滅?                         
↓Y                     ↓N:まったく点灯しない
スピーチプロセッサの正面上部にコイルを近づける 接続ケーブル(長)の交換  
   ↓                    接続ケーブル(短)の交換  
速い速度でCランプ点滅? N―――――――→  送信コイルの交換      
   ↓Y                   マイクロホンの交換     
  正常                      ↓
                  スピーチプロセッサ(出力、マップ)の不良

                        病院の先生に連絡
3 それでも異常のある場合は
●修理が必要な場合、代替機の貸し出しをいたします。修理調査票と機器を弊社宛にご送付ください。
病院の先生に連絡         
   ↓
修理が必要な場合:代替機の貸し出し
   ↓
修理調査票と機器を日本コクレアへ 

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