No. タイトル システム 登録日 改稿日
0100 ガールズ・ライフ Xeno 02/01/23



はじめに

 このシナリオは、『輪廻戦記ゼノスケープ』専用である。

 また、以下の条件を想定している。

●参加プレイヤーは4〜5人。
●PCはキャラクター・メイキングしたばかりで、セッション開始時は未覚醒である。
●PCは若者と称される年齢で貧しい生活を送っている。職業はそういう設定に沿うものを選択させる。その後、任意の技能を2レベル分消して、「<技術:演奏>2レベル」または「<技術:歌唱>2レベル」または「<技術:演奏>1レベル&<技術:歌唱>1レベル」のどれかを習得させる事。



登場NPCおよび重要事項

異世界スバル 超未来とも超古代ともつかないファンタジー異世界。現世とは前世または来世という形で繋がっている。
魔王ギガント 異世界スバルを支配している魔王。絶大な力を持つが、美しい音楽のメロディを弱点としている。
氷室 現世における音楽プロデューサー。以前は自分でバンドを組んでいたがプロデューサーに転身し、今ではトップチャートに入るアーティストの大半を傘下に抱える業界の大物となっている。実はそのアイズ(前世)は異世界の魔王ギガントであり、ギガントから“音楽の才能のある魂”の供給を受けて配下の若者に“移植”している。
セイレーン 異世界スバルにある人間の国の美姫。類まれなる美声と絶対音感の持ち主で、それ故に魔王ギガントは脅威に感じていた。セッション導入部でPCの護衛の甲斐なくさらわれてしまう。
レン 日英クォーターの美少女。アーティスト志望だが、所属事務所から来る仕事は三流雑誌のグラビアのようなものばかりで腐っていた。そんなとき氷室に誘われて不可思議な“儀式”を受け、それからは氷室ファミリーの一員として新進気鋭の歌姫としてトップチャートを登りつめるに至った。実は、氷室によってセイレーン姫のアイズを注入されたのである。



事前状況1:異世界スバル

 超未来とも超古代ともつかないファンタジー異世界スバルは、遠い昔から悪の魔王ギガントの脅威にさらされていた。魔王ギガントとその軍団は絶大な力を持ち、いつスバル全土が支配されてもおかしくなかったのだが、不思議な事にいつも侵略の手は中途半端な所で終わり、致命的な事態に陥る事は無かった。
 実は、それには理由があった。魔王および魔王から力を与えられた者たちは、“美しい音楽”を弱点としていたのだ。美しい歌や演奏が聞こえると体が上手く動かせなくなるし、通常ならば弾き返す攻撃も歌と共に食らうと致命的な一撃になってしまう。
 人間たちに弱点を気付かれない為に、魔王ギガントは積極的な侵略に打って出る事ができず、それで長い間、膠着状態になっていたのだった。

 魔王ギガントも、対応策を考えてはいた。試しに、音楽の才能のある者を暗殺してみたりもした。しかし、吟遊詩人や歌姫を殺してもすぐに転生して何年か後には優れた音楽家として成長してしまう。綿密なシミュレーションを何度繰り返しても「スバル全土を完全制覇する前に、魔王の弱点に気付いた人間によって盛り返されて、最終的には敗北してしまう」という結論しか出なかった。
 そんなあるとき、魔王ギガントは1つの打開策を編み出した。
 音楽の才能のある者を暗殺した後、その魂を全く別の世界に“廃棄”してしまえば、「転生して新たな音楽家として成長する」という事態を阻止できる。その前提でシミュレーションしてみると、「音楽と武芸の両方の才能がある者を最初に暗殺&魂の廃棄をしてしまえば、侵略の半ばで弱点に気付かれても最後まで押し切れる」という解答を得た。

 魂の廃棄先として、PCの現世が存在する世界が選ばれた。その世界には、たまたま魔王ギガントと共通の魂を持つ(前世と来世の関係である)存在である氷室という名の男がいて、かつ、「魔王←→氷室」以外には2つの世界を結ぶラインが存在しなかったからである。



事前状況2:現世世界(音楽プロデューサー氷室)

 現世では、氷室という男がいた。
 若い頃はバンドを組んでいてそこそこの人気はあったのだが、才能の限界を感じ、人間関係も含めて色々と悩んでいた。
 そんなあるとき、異世界スバルの魔王ギガントから“交信”を受けた。最初は自分の気が狂ったのかとも疑ったが、心の中から響く魔王の声に耳を傾けるうちに、魔王と自分の利害が一致する事に気付いた。
 魔王は当初、「ギガントと氷室は、前世と来世の関係にある」「スバルから音楽の才能を持つ魂をそちらへ“廃棄”したいので協力して欲しい」「対価として、魔法を教える」という打診を氷室にした。ギガントの言う“魔法”とは、PCが使うレベルの“秘技”や“特技”に準じる程度のもので、氷室にはそれほど魅力には感じなかった。しかし、「音楽の才能を持つ者の魂」という言葉にピンと来た。
 自分が望む者に「音楽の才能を持つ者の魂」を宿らせて、思いのままに操れれば、自分は大物音楽プロデューサーとして業界を牛耳れるのではないか? そう考えた氷室は、いわば“廃品の再利用”を対価として求め、魔王ギガントも了承した。

 そして何年もの月日が流れた。
 今では、氷室も業界で並ぶ者のいない超大物プロデューサーとなっていた。
 適当に見目の良い若者に声を掛け、オカルト儀式でスバル世界から来た魂を封じてデビューさせた。若者たちとスバル世界の魂の関係は「無理矢理に前世と来世の関係にされたもの」であり、若者たちにとってスバル世界の魂は言わば“人工アイズ”である。
 “人工アイズ”を抱えるという不自然な状態でいる上に、「氷室に逆らえば文字通りの意味で“才能を奪われて”しまう」というプレッシャーから、潰れてしまう若者も少なくなかった。しかしそんな事を気にする事も無く、“氷室帝国”は我が世の春を謳歌していた。



事前状況3:現世世界(売れないミュージシャンのPCたち)

 PC全員は、音楽で身を立てたいと夢見る若者であり、バンドを組んでいる。
 音楽では食えないので本業は別に持っているが、暇さえあれば場末のライブハウスや街頭で歌っている。
 生活費を節約する為に、PCは共同で借りた部屋に住んでいる。ここで起きて仕事に出て、夜や休日は何処かで演奏して、深夜には少ない金で買った酒を回し飲みして憂さ晴らしをするという毎日を送っている。
 いつかは自分たちもTVに出演できるようなアーティストになりたいと思っているが、業界の最大派閥“氷室ファミリー”に関する思いは様々である。PCによっては、ああいう大物に擦り寄ってでもメジャーデビューしたいと思っているだろうし、別のPCは胡散臭く思っている。

 そんな中、PCたちは、不思議な夢を見始める。



アイズ:前世または来世

 PCの前世(または来世)は異世界スバルの戦士であり、人間側の勢力に属して魔王軍と戦っている。
 世間的には“期待の若手”という位置付けの、いわゆる勇者パーティーのような存在で小規模な遊軍として様々な任務に使われている。直近では、セイレーン姫の護衛の任を拝命した。
 音楽の才能は全く持ち合わせていないが、セイレーン姫の美しい歌声にはいつも感動している。



導入:はじまりの夢

 PCたちファンタジー世界の勇者であり、PCたちだけでセイレーンという名の姫を護衛しつつ、暗く深い森の中を進んでいる。
 この世界では、最近まで魔王ギガントと人間勢力が均衡を保っていたのだが、急に魔王側の活動が活発になり、それでこんなイレギュラーな事態に陥ったのだった。
 もう少しで友軍の待つ城まで辿り着くというときに、魔王軍の暗殺部隊に追い付かれてしまう。雑魚は簡単に蹴散らすことができたが、魔王から力を与えられた中ボスクラスの敵になるとPCの攻撃が全く通用しない。
 とうとうセイレーン姫を奪われてしまい、「目的は果たした。グズグズしている暇も無いから、お前たちは見逃してやろう」との言葉を残して敵は去って行った。

 そこで現世世界のPCたちは目を覚ます。
 夕べも路上で歌った後で家に帰って酒盛りとなり、そのまま眠ってしまったのだった。共通の夢を見たという話題が出るにしろ出ないにしろ、とにかくいつもの朝を迎えたに過ぎない……とそのときは思っていた。



本編:ミドルゲーム

 以下にスケープカードの並べ方とイベント解説を記す。
 「@小屋」「A雑踏」「B異界」「C劇場」のカードは表に、その他は裏にする。プレイヤーの駒は「@小屋」のカードの上に置く。

 “@PCの家”“A演奏する場所”“B異世界スバル”“C街頭TVの前”の4つのスケープの間は、自由に行き来できる。ただし、“B異世界スバル”で起こる出来事はドリーミング・トゥルーであり、他のスケープとの行き来の際は「夢を見た/夢から覚めた」という展開になる。

 “A演奏する場所”“B異世界スバル”“C街頭TVの前”は、下記のイベント解説にそれぞれ「1回目」「2回目」「3回目」という項目が設けてある。
 A〜Cの3つのスケープでは、最初に進入したときに「1回目」のイベントが起こる。そして、3つのスケープ全てで「1回目」のイベントを体験した後、次に進入したスケープで「2回目」のイベントが発生する。
 そうして全ての「2回目」が起これば次に「3回目」のイベントが発生する。3つ全ての「3回目」のイベントを体験したところで、“イベントA”が発生して「D城」のカードが表になり、“D氷室の事務所”への道が開かれる。

 全てのスケープを満遍なく動かなければ先に進めないので、プレイヤーが行動に迷うようならば、「フラグが立ったら裏返しのスケープへ行けるので、何度も@〜Cのスケープに入ってイベントを起こしてくれ」とハッキリ言ってしまっても良い。

@小屋(月)
PCの家
A雑踏(小惑星)
演奏する場所




D城(太陽)
氷室の事務所




E墓地(冥王星)
決着の場
B異界(竜の星)
異世界スバル
C劇場(金星)
街頭TVの前

●イベント解説
  スケープ 場所  イベント
@ PCの家  PCが家賃を出し合って共同で暮らしているアパートの部屋。展開によっては、アルバイト先などの「音楽活動に関係の無い、日常生活の場」の全てを表す。ここでは特にイベントは無い。
A 小惑星 演奏する
場所
 よくPCが演奏をしている、適当な路上または場末のライブハウス。ライブをやる場合は、このスケープに移動する。


 PCが何処で演奏するにしても、余り観客は付かず、収入にもならない。これも、いつもの事であり、習い性になって落胆する気力も湧かない状態である。そうこうする内に、「今日(今夜)は帰ろう」という雰囲気になる。別のスケープへ出て行く事。


 今日(今夜)はこれまでになくノリが良く、観客にも恵まれる。観客の中に、サングラスで変装したレンがいるのにPCは気付く。レンは何か思い詰めた表情でPCのライブを見つめている。
 ここで「ヴィジョンの共有(P127)」のルールをプレイヤーに説明する。レンと「ヴィジョンの共有」を行うならば、「異世界スバルにおいて、セイレーン姫を護衛して旅をする」というイメージを得て、また、レンも驚いた様子を見せているのに気付く。
 「ヴィジョンの共有」を行わないならば、レンはPCの演奏が終わる前に姿を消す。
 「C街頭TVの前」で既に「ヴィジョンの共有」を行っていた場合、二度目の「ヴィジョンの共有」の後で「強制的なドリーミング(P126参照。覚醒しているならば手札の入れ換えもできる)」が起こり、「はじまりの夢」を白昼夢としてもう一度見る。白昼夢から覚めた後、PCのロールプレイ次第によって、「レンとPCで即興のコラボレーションを行う」とか「歌で勝負を行い、最後は微笑み合う」といったようなオチに誘導する。


 PCが演奏を終えて帰り支度をしているとき、大物プロデューサーの氷室が何処からともなく現れる。氷室は挨拶もそこそこに、「自分のプロデュースでメジャーデビューする気は無いか?」といきなりPCに言ってくる。
 PC全員が全く興味を示さない場合は、携帯の電話番号を教えて「気が変わったら連絡しろ」とだけ言って去る。
 PCの全員または一部が、話だけでも聞こうという態度を見せれば、運転手付きのリムジンに乗るように促され、「D氷室の事務所」に連れて行かれる。事務所の中の様子については、「D氷室の事務所」を参照の事。この奥で氷室は「自分は才能のある若者を探している。まず、PCの才能を見せてもらいたい」「才能を開花させる秘密のテクニックを自分は持っている。それは“暗示”をかけるというやり方だ。多くの才能ある若者は、正しく自分の才を理解していないが故に芽が出ない。そこで自分のかける“暗示”で真の才能が表に出てくるのだ。氷室ファミリーの者は皆、このやり方でメジャーデビューを果たした」と説明して、PCに“暗示”を受けるように言う。
 強く拒否すれば、無理には行わない。承知するならば“暗示”を行う。
 この“暗示”とは、実はギガントが氷室に教えた魔法の1つで、スバルから廃棄された音楽の才のある者の魂を現世の人間に宿らせる儀式である。いわば人工的に異世界スバルのアイズを移植する行為な訳だが、PCは既に異世界スバルのアイズを持っているので、儀式による人工的なアイズは受け付けない。
 魔法が失敗したことで、氷室は驚愕する。思わず、「儀式の失敗なんてあり得ない。唯一あるとすれば、こいつら(PC)が既にスバルのアイズを持っている場合だけだが……まさか?」と呟く。
 結局、きちんとした説明の無いまま、PCは事務所から追い出される。
B 竜の星 異世界
スバル
 このスケープはゼノスケープであり、ここでの出来事は全てドリーミング・トゥルーとして扱う(よって、特に注記が無い限り行為判定は行わない)。PCは異世界スバルの勇者としてロールプレイする。


 時は、“はじまりの夢”の場面からそれなりの月日が過ぎた頃。セイレーン姫をさらわれて以来、敗残兵の如く無気力に各地を彷徨っていたPCだったが、「魔王軍が暗殺したり誘拐したりしている人物は、皆、吟遊詩人や歌姫たちらしい」という噂を聞いて活動を再開する。近くにある辺境の村に高名な吟遊詩人がいるというので、護衛を買って出て、ついでに魔王軍の目的を探ろうと考えたのである。暗い森を過ぎ、ようやく目的の村に着くと、既に魔王軍に襲われている。
 PCの行動に関わらず、吟遊詩人は殺されてしまう。行きがけの駄賃にPCや村人たちを皆殺しにしようかと迷った魔王軍リーダーだが、「つまらぬ遊びで、万一にも歌い手の死体を持ち帰るのに失敗したら、魔王様に処刑されてしまう。大事をとって、ここは退くか」と呟くと、「運が良かったな!」との言葉をPCに吐き捨てて撤退する。
 失意の気分で、現世のPCは目を覚ます。


 「魔王ギガントと、魔王から力を与えられた幹部たちは、美しい音楽を弱点とする」という事実が判明する。プレイヤーが気付いた場合は「PCの報告によって人間側はその事実を知るようになった」という展開に、そうでない場合はNPCから教えられたと言う展開にする。
 しかし、現時点では人間側に歌の力を持つ者は少なく、せっかく見付かった対抗手段も空しく、人間側は反攻に転じるまでには至らない。そんな中、PCたちは幹部クラスの魔王軍に襲われる。
 「自分たちに歌の力があれば、こいつらを倒せるのに」と悔しく思ったそのとき、PCは覚醒して(手札6枚を得る)、「強制的なドリーミング(P126)」が起こる。夢の中でPCたちは「コンクリートに囲まれた不思議な世界(現世)で、メジャーデビューを目指すアーティスト」として共同生活を送っていた。我に返ったPCは、夢の中で持っていた歌や演奏の技能がこちらでも使える気がする。
 ここで適当なレベル1のミーレスとの戦闘を行う。ドリーミング・トゥルー中ではあるが、通常通りの戦闘行為判定を行う。
 スバルにおけるPCのデータは、キャラクターシートにある内容に準じるが、一般技能だけは普通には使えない。マスターは、「DTで“現実の能力”を使う(P130)」のルールをプレイヤーに読ませて「この判定に成功して<技術:演奏>や<技術:歌唱>を思い出せば、魔王軍にダメージを与える事ができる」と説明する。「DTで“現実の能力”を使う判定」は、攻撃判定の前には合わせて必ず行わなければならず、失敗した場合は攻撃を行う事ができない。また、「1」が出てしまった場合は戦線離脱となる。
 高揚した気分で、現世のPCは目を覚ます。


 「はじまりの夢」と同じ、セイレーン姫を守って旅をしている場面からドリーミング・トゥルーが始まる。以前の夢では、魔王軍の襲撃を受けて成す術も無くセイレーン姫を誘拐されたが、今回は違う。何故か、現時点で既に「魔王は音楽が弱点」と知っており、さらにPC自身の内側から音楽の才能を借りてくる手段も知っている。
 やがて魔王軍が現れ、上記「2回目」に準じる戦闘を行う。十中八九、PCが勝つだろうが、万一にも「DTで“現実の能力”を使う判定」で「1」が多く出るようならば、日常によるキャンセルを認めても良い。
 PCはセイレーン姫を守り切ったところで目を覚ます。
C 金星 街頭TV
の前
 新宿や渋谷などにある大型テレビや、量販店のショーウィンドウに設置されたTVの前など。演奏以外の目的で街に繰り出すときは、このスケープに移動する。


 PC同士で待ち合わせなどをしていると、街頭にあるTVモニターにレンの姿が映り、歌声が流れる。レンは“氷室ファミリー”の新しい一員で、デビュー以来全ての曲が初登場1位という歌姫である。漫然と歌に耳を傾けているうちに、PCは「強制的なドリーミング(P126参照。ただし未覚醒なので手札の入れ換えはない)」が起こり、“はじまりの夢”をもう一度見た上で「レンとセイレーン姫はどこか似ている」と思う。


 PCが街を歩いていると、路上に止まっていたトレーラーの側壁が突然開いて、そこをステージにしてレンのゲリラ・ライブが始まるのに出くわす。「A演奏する場所」の2回目と同様に、ここで「ヴィジョンの共有(P127)」のルールをプレイヤーに説明して、レンと「ヴィジョンの共有」を行うように誘導する。その後の展開も「A演奏する場所」の2回目に準じる。
 「A演奏する場所」で既に「ヴィジョンの共有」を行っていた場合、二度目の「ヴィジョンの共有」の後で「強制的なドリーミング(P126参照。覚醒しているならば手札の入れ換えもできる)」が起こり、「はじまりの夢」を白昼夢としてもう一度見る。白昼夢から覚めた後、PCのロールプレイ次第によって、「レンとPCで即興のコラボレーションを行う」とか「歌で勝負を行い、最後は微笑み合う」といったようなオチに誘導する。


 PCの立ち回り先で、簡単な変装をしたレンが待ち伏せをしている。前に会ったときの会話をヒントに、PCの居場所を推理して、やっと探し当てたと告白する。レンは、PCたちと共に夜通し飲んで騒いで語り尽くしたいという趣旨の事を、煮え切らない感じでモジモジと言う。レンの態度は、ここまでのセッションの雰囲気によって、「特定のPCに恋をし始めている」といったノリでも、「PC全員に仲間感覚を持ち始めた」といったノリでも構わない。
 PCが拒否するならば、ここでのイベントはこれで終了する。
 PCが応じるならば、レンは「PCの家に行きたい」と希望して、PCについていく。飲み始めて適当な頃合にレンは、問わず語りに「子供の頃から歌が好きで、ミュージシャンになりたかった。しかし芽が出ず、業界の片隅で燻っていたのだが、あるとき氷室さんに声をかけらた」「氷室さんは、芽が出ないのは自信が持て無いせいだと言い、自分に暗示をかけた。それ以降、上手く歌えるようになり、トントン拍子に登りつめた」「しかし、あのとき“暗示”を受けて以来、どうにも落ち着かない。自分の体の中に別の魂が入り、元からある魂と溶け合うこともなく違和感がある気分だ」「そんなこんなで自分に疑問を持ち、心を許せる人もできなかったのだが、何故かPCには自分と同じ匂いを感じた。PCの歌を聴くだけで、懐かしい思いに囚われた」といった話をポツリポツリとする。
 朝になると、スッキリした顔でレンは帰って行く。もし跡をつけるならば、「D氷室の事務所」に入って行く事が確認できる。
イベントA  A〜Cの3つのスケープで全てのイベントが起こると、このイベントAが発生する。
 現世では、レンが失踪したというニュースがマスコミに流れ話題になっている。レンから聞いた携帯の番号にかけても繋がらないし、以前に出会った場所を探しても見付からない。
 夢で見る異世界スバルの状況は不安定で、この前の夢では無事に救った筈のセイレーン姫がやっぱり誘拐されたままという事になっている。その他の吟遊詩人や歌姫の暗殺/誘拐事件も、ある世の夢では「誘拐された」となっていたのに、次の夜の夢では「守った」となり、さらにその次には「やっぱり誘拐された」などとなり、出来事の時系列を行ったり来たりしながらそのときどきで異なる結末を見せられる。
 ここで、「D氷室の事務所」のスケープに進む事ができるようになる。「D氷室の事務所」に入らない限り、この状態が延々と続く。
D 太陽 氷室の
事務所
 このスケープはゼノスケープである。ただし、プレイヤーから聞かれない限りその事は告げない。
 ここは、マスコミには秘密にされている、氷室の事務所である。小さめのビルくらいの大きさのある一軒家で、生活できる十分なスペースがあり、氷室は隠れ家として使っていて、魔王ギガントとの交信や魔法の使用はここで行っている。
 PCが正面から堂々とやって来ると、黙って奥へ通される。忍び込んで来ても、侵入は自動的にバレてしまう。
 PCが入った先では氷室が待っている。些か憔悴した面持ちで、淡々と「異世界スバルの魔王ギガントと契約を結び、向こうの世界から廃棄された音楽家の魂をこちらの世界に固定していた。それによりギガントは弱点を無くし、自分は傘下に才能あるミュージシャンを抱える事ができた」と信じられないような真実を明かす。その後、氷室は「想定では、こちらの世界にはスバルのアイズを持つ者はいない筈だった。しかしPCたちだけが例外で、その為に計画が狂った。PCのアイズが魔王ギガントの手下になるように、アイズを説得しろ。そうすれば万事が上手く行くし、PCたちの芸能界での地位も約束する」と持ちかける。
 レンについて聞くならば、このビルの何処かに監禁してあると教え、TVカメラの映像を見せる。そして、「人工的に移植したセイレーン姫のアイズが不安定になって放っておくとスバルに戻ってしまいそうなので捕らえている。PCが協力するなら、報酬としてあの女もやる」と言う。
 氷室の誘いに応じるならば、PCのアイズが反応して「強制リンケージ判定(P135)」が起こり、その上で人格を乗っ取られなかった場合は、下段“結末”に進む。
 氷室の誘いを断ったり、アイズに人格を乗っ取られた場合は氷室と戦闘になる。氷室のデータは適当なレベル2のミーレスのものを流用する。PCは、「アイズの力をリンケージ判定無しに使える」という状態になり、通常ルール通りに特技と秘技を使って戦う事ができる。
イベントB  「D氷室の事務所」で氷室と戦闘になり、倒すと「E決着の場」に進む事ができる。
E 冥王星 決着の場  このスケープはゼノスケープである。場所は異世界スバルの魔王の城で、「魔王ギガントの弱点が音楽であると知った人間軍は、歌い手たちを先頭に大反攻に転じて、とうとう魔王の城まで追い詰めた。大勇者であるPCたちは、魔王ギガント本人と最終決戦を行おうとする直前だった」という状況である。ここでの出来事は特殊なドリーミング・トゥルーであり、PCは異世界スバルの勇者なのだが、通常通りの判定を行う。ただし、「B異世界スバル」の「2回目」と同様に、ここでも「『DTで“現実の能力”を使う判定』に成功して<技術:演奏>や<技術:歌唱>を思い出せば、魔王ギガントにダメージを与える事ができる」というルールが適用される。「DTで“現実の能力”を使う判定」は、攻撃判定の前には合わせて必ず行わなければならず、失敗した場合は攻撃を行う事ができない。また、「1」が出てしまった場合は戦線離脱となる。
 魔王ギガントは“光の使徒”なので、適当なデータを用意する事。倒したら、下段“結末”に進む。



結末

 「E決着の場」で魔王ギガントを倒すという結果にならなかった場合は、バットエンドである。PCはスバルやレンなどの記憶を失い、いつも「誰かに責め苛まれている気がする」という精神状態でいる。氷室の傘下に入った場合は「業界の端っこでオコボレで食い繋ぐ」という生活を、氷室を倒した場合は「ミュージシャンとして全く芽が出ず、日銭を稼いで何とか糊口をしのぐ」という生活を送る事になる。

 「E決着の場」で魔王ギガントを倒した場合は、ハッピーエンドである。氷室は「事務所のガス爆発で重傷を負って入院。そのときの現場検証で大量の麻薬が発見され、それを切っ掛けに氷室の悪行がどんどん表に出てしまう。そして退院後、芸能界での影響力を完全に失い、破産して失踪する」という末路を迎える。
 囚われていた魂は全て解放され、本来あるべき異世界スバルに転生する。“人工アイズ”を失った“元・氷室ファミリー”たちは、自分自身の力でそれぞれの道を歩み始める。
 レンの行く末に関しては、PCとの関係を参考にしてマスターが決める。「セイレーン姫の魂が、自然な状態でのレンのアイズとして安定する」としても良いし、「他の者と同様にセイレーン姫の魂が去って音楽の才能は失ったが、レンはむしろサッパリして前向きな自分を取り戻す」としても良い。
 PCの行く末は、プレイヤーに決めさせる。



さいごに

 元ネタは木根尚登の『CAROL』である。とは言え、原形を留めないほどの翻案を加えてあるのでネタバレに関しては気にしなくても問題無い。

 『CAROL』は、音楽と物語の融合という趣旨でTMネットワーク(1983年5月結成、1990年8月にTMNと改称、1994年5月解散したグループ。メンバーは小室哲哉(key)、宇都宮隆(vo)、木根尚登(g)の3人)が行ったプロジェクトである。1988年12月から1989年8月にかけてミュージカルとバレエの要素を取り入れたツアーが行われ、1988年12月にミュージック・アルバムが、1989年4月に小説が発売。1990年5月にはアニメ化もされた。その後も続編の企画などがあったようだが、単行本化などはされなかった。
 アルバムについては、音楽遺産音玉屋などを参照していただければ雰囲気は分かるだろう。この『CAROL』を境にしてマイナー臭さが抜けなかったTMはメジャー化し、その後の「TM解散〜プロデューサー小室のブームと凋落」までのムーヴメントの最初の一歩となった気がする。
 『CAROL』自体は、ファンの間でも賛否両論あった。アルバムは良くも悪くもそれ以前の曲との隔たりを感じざるを得なかったし、『CAROL』とは関係無い曲を幾つも含んでいて「?」と思わさせられた。小説は「企画自体がワクワクさせる仕掛けを持っていて、物語構造も綺麗にまとまっていた」と評価できると同時に、「ミヒャエル・エンデの『モモ』や映画『ラビリンス』などのパクリっぽく見え、どうしてもチープに感じてしまう」という面もあった。
 そんな『CAROL』は、評価の高低とは別の次元で、結局はファンの心に残るエポック・メイキングな作品になったのだと思う。

 さて、元ネタの物語は、「1991年4月21日(作品発表当時からすれば近未来。アルバムのサブタイトルも『A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991』となっている。TMは他にもこういう“近未来仕掛け”が多かったが、今ではその“近未来”さえ遠い過去になってしまった。sigh!)、イギリスのバースに住む18歳の平凡な少女“キャロル・ミュー・ダグラス”が、盗まれた“音”を取り戻す為に、異世界“ラ・パス・ル・パス”を支配する魔王“ジャイガンティカ”に立ち向かう」というファンタジー。TMのメンバーをモデルにした“ガボール・スクリーン”なる3人組も登場する。
 小説を読んだとき、何とかRPGのシナリオにしたくて、その当時にメインで使っていた『ロールマスター』でプレイしてみた。「力ある特別な“音”を吸収して魔力に転換するアイテムを魔王が作り出し、それを持って魔王の手下が暗躍する。町から“音”が消える謎を追うPCが手下を見付け出し、戦いの末にアイテムを奪って“音”を取り戻す」というストーリーにしたのだが、狙っていた不可思議な雰囲気は出ず、結局は普通の戦闘シナリオになってしまった。
 長いこと、『CAROL』ネタを使いたいと願っていたのだが、『ゼノスケープ』を使用して「異世界の魔王が現世の“音”を盗むのでは無く、魔王にとって邪魔な“音楽”を現世に“廃棄”する」とプロットを変える事でこのように形にできた。音楽プロデューサー氷室のモデルは、勿論、小室哲哉である。




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