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0094 踊る人々 天羅万象 01/05/07



はじめに

 このシナリオは、『天羅万象』または『天羅万象・零』専用である。
 医者か陰陽師のアーキタイプがいる事が望ましい。その他、PCにするには向かないアーキタイプもあるので、シナリオの内容を鑑みてマスターの方で適当な制限を設ける事。



登場NPCおよび重要事項

ヨノイ 南朝エージェントの支援を受けて、人間の脳の研究をしている医者。基本的に前向きで悪意は無い。
カワギシ ヨノイの研究の被験者になって以来、“非・天羅的”な嗜好を持つようになった男。
北朝エージェント 「天羅の人間の脳の秘密」を守る専属任務についている。任務自体の機密性の高さ故に、配下の数は少ない。



事前状況

 天羅は、地球の日本の戦国時代に似た文化風俗を持った世界である。何故そうなったのか? 実は、理由がある。

 天羅やテラがある惑星には、何度か地球から宇宙船に乗った移民船団がやって来ていた。初期の移民たちは、時代が過ぎると共にテクノロジーを忘れ、前近代的な生活を送るようになっていった。最初の移民から千年ほど経った頃、再び地球から宇宙船がやって来た。しかし、千年の間に何があったのか、この第2の移民たちは“人類”と呼ぶには躊躇うほどの変容を遂げていた。
 テラに降り立った第2の移民は“貴族”と名乗り、暴力と恐怖で初期移民たちを支配した。
 しかし、天羅に降り立った第2の移民は、ちょっと毛色の異なる支配方法を取った。

 自分たちが他の惑星から来たという事くらいは覚えていたテラの初期移民と異なり、天羅の初期移民は全く原始的な状態に逆行していた。だから、天羅の第2移民は、“神”として“降臨”した。
 天羅の第2移民は日系民族だったので、“降臨”の演出については、記紀にあるような日本神話をモチーフにした。また、民草の風俗文化を自分たちに倣わせる為に、天羅の初期移民たちの脳構造を“日本人的”に改造した。
 改造の方法として、ある機能を持ったナノマシンが使用された。天羅全土に大量に散布されたナノマシンは、全住人の脳に寄生して、「右脳と左脳で言語中枢と非言語中枢に分かれる」という独特の構造に変えた。そのせいで、例えば、元々の初期住民たちは「月を不吉なもの」として見たが、脳改造の結果、「月見」という習慣が生まれた。
 こうして、第2移民は日本の宮家に倣って“神宮家”と名乗り、天羅に「地球の日本の戦国時代に似た文化風俗を持った世界」を築く事に成功した。

 そして現在、神宮家も南北朝に分かれる時代になった。南朝は、かつての神宮家の技術を完全には持っておらず、補完するために様々な調査を行っていた。その1つに、「天羅の住人の脳構造を“日本人型”にするナノマシン」に関する技術の調査もあった。
 ただ、この調査に関しては、技術解放を標榜する南朝も慎重になった。第一に真実を明らかにする訳には絶対にいかないし、第二に北朝の妨害工作も特に厳しいと予想されるからだ。そこで、目くらましの為に適当な陰陽師に調査を代行させた。

 ヨノイという名の医者がいた。陰陽術も修めていて、南朝のエージェントの技術協力を得て、人間の脳に関する研究を進めていた。
 ヨノイは、“脳の活性化している部分をモニターする機械”と“人に《胡蝶の夢》のような幻を見せる機械”を所持していた。協力してくれる被験者を見つけると、これを使って「人はどういうときに、脳のどの部分を使用するか」という事に関するデータを取った。被験者のタイプは多岐に渡り、将来的には「人間の情動のメカニズムの解析」「人間の脳の分類」「簡単な検診で性格タイプを判定する」「反社会的な性向を、正常にする」といった事にまで研究の手を伸ばそうと考えていた。
 得られたデータは、こまめに南朝のエージェントに渡されていた。研究費の名目で相応の金も得ており、ヨノイは現状に満足していた。しかし、南朝の目的は別のところにあった。

 南朝も、「人間の脳構造に干渉するナノマシン」に関する技術自体は所持していた。ただ、「ナノマシンにどのようなプログラムを与えると“日本人型”の脳になるのか?」といったソフトウェアや運用に関するノウハウの技術が欠けていた。そこでまず、ヨノイを使って「ナノマシンの影響を受けている人間の脳構造の解析データ」を得て、次いで「ナノマシンを機能停止させた場合にどのような脳構造になるか」という実験を行わせた。ヨノイは、全ての被験者に対して同じデータ取りをしているつもりだったが、実は何人かに1人は“ナノマシン”を機能停止させられていたのである。



第零幕

 PCは以下の3つの何れかの導入を振り分ける。場合によってはキャラクター・メイキング時にアーキタイプを制限しても良い。

導入1:被験者A  戦闘系アーキタイプ向け導入。PCは、数ヶ月前にヨノイの被験者になった事がある。ヨノイは善意の熱心な研究者というふうに見えたし、幾ばくかの金ももらえると言うので応じた。なかなか興味深い体験ができたし、抱えていた悩みも解消されたりして、ヨノイには好感を持っている。
導入2:医者仲間  医者や陰陽術アーキタイプ向け導入。PCは、医術や陰陽術その他を通じて、ヨノイと親交を結んだ事がある。最後に会ったのはもう何年も前だが、別れる直前に「予てから考えていた、人の心の研究に協力してくれるという者が現れた」と言って喜んでいるのを覚えている。
導入3:被験者B  戦闘系アーキタイプ向け導入。PCは、数ヶ月前にヨノイの被験者になった事がある。ヨノイは善意の熱心な研究者というふうに見えたし、幾ばくかの金ももらえると言うので応じた。ただ、どうもそれ以降、ストレスを感じて仕方が無い。最初の内は気のせいかとも思っていたのだが、最近は「ヨノイのせいだ」と思えて、クレームをつけに行こうかと考えている。

 それぞれ、ヨノイに関係する宿命を持たせること。
 “導入1”のPCは、脳構造を調べられただけである。ただ、その過程で精神分析を受けたに等しい効果もあったので、悩みが解消された。
 “導入2”のPCは、「ヨノイの研究に協力してくれるという者」の正体が、技術解放を標榜する南朝のエージェントではないかと見当を付けている。
 “導入3”のPCは、脳のナノマシンの機能が停止させられてしまっている。よって、月見や花見といった事が楽しめないし、義理人情という概念もピンと来なくなり、以前ならば「細やかな気配り」と思えた他人の行動が「鬱陶しい」と思えたりするようになった。この辺り、プレイヤーへの説明が難しいようならば、「例えば現実の話でも、アメリカに赴任した日本人が、社会習慣に溶け込めなくてストレスを抱くという事があるけれど、それに似たような精神状態」と比喩の振りをしてズバり真相を伝えてしまって良い。

 さて、ヨノイは、協力者(南朝のエージェント)から「当方のミスで、ヨノイは命を狙われる危険性が高くなった。過去1年間の被験者も狙われる可能性がある」という警告を受けていた。実は、ヨノイとの連絡役を務めていた南朝エージェントが、北朝エージェントに殺され、所持していたデータを奪われたのである。絶対機密であるナノマシンの研究を手伝わせていたヨノイの命は勿論、奪われたデータに載っていた被験者(PCも含む)にも累を及ぼす危険があるので、そのような警告を発したのである。
 ヨノイは“脳の活性化している部分をモニターする機械”と“人に《胡蝶の夢》のような幻を見せる機械”を分解して荷馬車に載せて、かつての被験者の元へ向かった。



第一幕

 ヨノイは、“導入1”→“導入2”→“導入3”の順でPCを訪ねる。“導入2”に関しては、「ひょっとすると昔の医者仲間も危ないのかもしれない」と気を回して警告に行こうと考えたのである。
 “導入1”のPCに関しては、事情を聞いて「そういう話ならば、同道しよう」という方向に話が進む事を期待している。もしプレイヤーが自発的にそのような行動を起こさないようならば、ヨノイの方から護衛を依頼するなどといった誘導をかける。
 “導入2”のPCのいる場所(複数人いる場合は、近所に住んでいるという設定にする)に着いたとき、ヨノイ一行は刺客に襲われる。北朝のエージェントは<神術:オモイカネ>が使用できるのだが、この頃になってようやくヨノイの足取りを掴み、配下を送り込んだ訳である。ヨノイは「やはり“導入2”のPCも狙われていましたか。どうやら私のせいのようですが、一緒に逃げた方が良いと思います」と言って、PCを誘う。
 戦闘には、PCが勝てるレベルの適当なデータの敵を使用すること。“導入3”のPCが望むならば、この段階で気合を使って登場しても構わない。
 “導入3”のPCが登場しなかった場合は、「住んでいる所にヨノイ一行が訪ねてくる」という展開になる。ストレスを訴えると、「危険が及ぶ可能性のある人に警告をし終えて、自分自身が落ち着く隠れ家が定まったら、“脳の活性化している部分をモニターする機械”と“人に《胡蝶の夢》のような幻を見せる機械”を組み立てて治療に専念する」と約束する。

 以上、全PCがヨノイと共に旅をする方向でまとめる。プレイヤーが不満を抱く場合は、適宜、調整して欲しい。場合によっては同行しなくとも良いが、最低でも「後で気合を使って登場する」という余地だけは残すようにして収める事。



第二幕

 PCに続いて、ヨノイ一行はNPCの被験者の元を訪ねる。
 最初のNPC被験者はカワギシという名の男で、ヨノイが聞いていた住所には家族だけが住んでいる。家族の話では、ヨノイの元から戻った頃から性格が変わって、山奥に小屋を作って昼はそこで過ごしていると言う。山奥の小屋に行ってみると、天羅では見られない建築様式で、壁には、けばけばしい色が塗られている。
 カワギシは在宅していて、PCたちに少し警戒の色を見せるが、話を聞くために中に招き入れてくれる。外観にも増して内装は奇妙で、土足のまま上がり、少し高い段に作った万年床(ベッド)で眠り、椅子とそれに合う高さの机を使っている。装飾なども天羅には無い雰囲気の物で、普通の人間は居心地の悪さを感じてしまう。
 ただし、“導入3”のPCだけは例外で、カワギシの家を心地好く感じる。話も合い、共通項を感じる。
 家の様式について訪ねると、「“てら”という土地では、こんな生活を送っているという。旅の人からその話を聞いて、この家を作った」「言わせてもらえば、天羅の他の人間こそが異常な性格をしていると思う。かつてはアレに自分も馴染んでいたのかと思うだけでゾッとする」「そこの人(“導入3”のPC)も私と同じ趣向を持っているようだが、世の中には同好の士が他にもいて、1つの隠れ里を形成して暮らしているそうだ。旅の人から場所を聞いたが、家族は捨てられないので、町の家と山奥の小屋を行ったり来たりする二重生活を送っている」と言う。
 カワギシも狙われているかもしれないという話に関しては、「ヨノイの考え過ぎだ」と一笑に付して取り合わない。「“脳の活性化している部分をモニターする機械”と“人に《胡蝶の夢》のような幻を見せる機械”を用いた治療」に関しても、「昔の自分に戻りたくない」と言って拒否する。

 PCがカワギシ宅を跡にするタイミングで、北朝のエージェントが登場する。北朝のエージェントは仮面を被っており、一見して神宮家の手の者と分かる。金剛機を1体連れていて、自分自身は空中に浮いている。
 北朝のエージェントは、まず唐突に「あそこに奇異な建物がありますが、どう感じますか?」などと聞く。PCがどのように答えるにしろ、「提案が2つあります。飲んでもらえるならば、生かしておいてあげます」と言い放つ。提案とは、以下の2つである。

●ヨノイとその所持品を引渡す。
●PCにある検査を受けてもらう。陽性の者には同行してもらう。陰性ならば解放する。

 ちなみに、“導入3”のPCなど、ナノマシンが機能停止している者は“陽性”と判定される。
 提案を受け入れ無いならば、戦闘になる。金剛機はルールブックP303のものを流用するが、明鏡修正は“+5”として扱う(つまり、【体力:12】【敏捷:14】【感覚:12】となる)。
 北朝のエージェントは戦闘開始直後に上空へ逃れる。事実上、追撃はできない。
 PCが逃亡する場合、金剛機との<運動>の対決に勝てば逃げ切る事ができる。バラバラになる場合は、ヨノイやカワギシが狙われる。



第三幕

 第二幕で逃亡を選択した場合、その後もPCは何度か狙われ続ける。事態を収める為の手掛かりになりそうなネタは、カワギシが言っていた「カワギシや“導入3”のPCと同じ趣向を持つという者が住んでいるという隠れ里」しかない。
 金剛機を倒した場合も、北朝のエージェントの動向が気になるだろう。真相を知りたければ「カワギシや“導入3”のPCと同じ趣向を持つという者が住んでいるという隠れ里」しかネタ元はない。

 “隠れ里”とは、ヨノイと同じように南朝の技術供与を受けて人間の脳を研究していた陰陽師が、“非・天羅的になってしまった人々”の保護と研究を兼ねて作った所で、いわゆる西洋的な開拓村という雰囲気を持っている。
 陰陽師は、「どうも、天羅の住人の脳は、神宮家によって操作を受けたらしい。“非・天羅的になってしまった人々”というのは、むしろ我々の本来の性癖に近い趣向を持っているのではないか」との仮説を聞かせてくれる。

 暫くの間、“隠れ里”で暮らした後、北朝のエージェントの襲撃を受ける。北朝のエージェントは、まず<神術:アマツミカボシ>で“隠れ里”全体を破壊した後で、配下と共に攻撃をしてくる。<神術:アマツミカボシ>の攻撃に対して、PCとヨノイ、カワギシ、陰陽師は影響を受けない。
 北朝のエージェントのデータは、ルールブックP299のものを使用する(これとは別に、<神術:上級>も持っている)。配下のデータは、第二幕で逃亡を選んだ場合は金剛機を、倒していた場合は機面金剛機(P127のデータを使用)を使う。
 危なくなったら北朝のエージェントは逃げようとするが、何者か(南朝のエージェント)に妨害されて逃亡を阻止される。戦闘終了後、南朝のエージェントが現れて、僅かに生き残った者の救護活動などを支援する。



最終幕

 南朝のエージェントは、今回の悲劇的な事件について、素直に詫びる。PCが「真実を教えてくれなければ納得できない」と強く主張すると、「かつて神宮家が、天羅の人間の脳を“日本人型”に改造した」という話をしてくれる。
 また、PCが望むならば、“導入3”のPCの脳内のナノマシンを再起動してくれる。

 南朝のエージェントの話では、「天羅の人間の脳を“日本人型”に改造した」という事実は神宮家でも一部の者しか知らないトップシークレットなので、あの北朝のエージェントを倒した以上、PCの事を知る者はいないだろうと話す。ただし、PC自身が真相を吹聴するような事があれば、再び襲われる事になるだろうとも警告される。

 最後に各PCの行く道を決めてロールプレイを行ってもらい、幕を閉じる。



さいごに

 元ネタは山田正紀の『幻象機械』である。「日本人に特異的な右脳と左脳の機能から、無中枢コンピュータを構想する大学助手。彼が父の遺品に発見した啄木の未発表小説には、日本人の脳に刻印された触れてはならぬ秘密の一端が……」という内容で、引用率は高い。ただし、プレイヤーが元ネタを知っていても問題にならないだろう。

 “事前状況”に書いた内容については、勿論、オフィシャルの設定では無い。ただ、他の設定と矛盾は生じないと思う。




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