No. タイトル システム 登録日 改稿日
0088 殺ヴァンパイア事件 VTM 00/12/03



はじめに

 このシナリオは、『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』の使用を想定して書かれた。
 キャラクターメイキング時に<コンピュータ>と<科学>を必須技能として習得させる事。<保安>や<調査>もあった方が望ましい。基本的にPC同士は異なるカマリリャ系氏族である方が望ましい。また、地位を“幼童”か“若輩”に限定するなど、その他の背景にも適当な制限を設けておいた方が良い。

 設定を変更すれば、『ゴーストハンター』や『妖魔夜行』用のシナリオに改造も可能だろう。



登場NPCおよび重要事項

サベイジ ホーントの子。本シナリオにおける殺害事件の被害者。氏族はPCが選択しなかったものから適当に決める事。幼童になりたてで、金もコネも無く、力も弱い。人間の友人と遊ぶのが好きな、喩えればフリーターのようなノリのヴァンパイアである。父ホーントの内に秘めた野望も知らず、最近になって父ホーントから“餌場船”の管理を任されて喜んでいた。
そして、船上で不審な死を迎える。
ホーント サベイジの父。頭が良く、様々な訓えにも深く通じ、莫大な資産や人間社会の影響力も持つが、第十二世代でカマリリャの地位も低い。享楽的な性格を装っているが、内に大きな野望を秘めており、ついにメトセラの墓所の探索に乗り出した。最近、自らは失踪して、探索に子のサベイジを利用している。
餌場船 ホーントが作り、後にサベイジが管理を任された船。タンカーを改造した巨大船で、無寄港で永久に大西洋を彷徨い、操船や整備は洗脳された人間が全て行う。表向きは「安全に食事が出来る狩り場」という事になっているが、実はメトセラの墓所を探る為の調査船である。
長老勢力 ホーントの行動を些か胡散臭く思いつつもこれまでは見逃していた。しかし、ホーント本人が失踪して、子のサベイジが“餌場船”で不審な死を迎えた事を知り、PCたちを調査に向かわせた。
敵対勢力 魔狩人や魔術師など、ヴァンパイアに敵対する者たち。最近になってホーントの行動の真意を掴み、マークしていた。



事前状況

 メトセラと呼ばれる第4〜5世代の力あるヴァンパイアは、千年以上の生の末に肉体的・精神的・感情的に重大な変化が降りかかり、人間らしい振る舞いをする事がなくなってしまう。その結果、若いヴァンパイアの飢えた牙を逃れて地中に引きこもって眠りに就く。そして地中から魔法やテレパシーで、自らの深遠な計画を進めていると言われている。
 そうした地中に隠れ潜むメトセラを探し出そうとする者が後を絶たない。
 例えば、ヴァンパイアの中には「メトセラの血を吸って力を得たいと考える野心的な者」や「ゲヘナの恐怖に脅え、メトセラだのアンテデルヴィアンだのといった存在を消し去ろうとする者」がいる。
 魔狩人やメイジなどの他のワールド・オブ・ダークネスの住人たちにも、メトセラの眠る場所を知る為ならば労を惜しまないと言う者は多い。
 それだけ、メトセラの居所に関する情報は重要なのである。

 あるメトセラは、大西洋沖の海底の地下に眠っていた。
 メトセラの墓所は魔法で守られた封鎖空間になっていて、その為に密度が異常に高い状態にあった。
 重力は、地下の密度分布の不均一や地形の影響をうけて場所により異なる。海底地下の密度が高いと、“地球の準拠楕円体”よりも“海抜0メートル位置(ジオイド面)”が高くなる。
 GPS測量を行えば、“地球の準拠楕円体”に基づく緯度・経度・高さが求まる。水準測量を行えば、“海抜0メートル位置(ジオイド面)”が求まる。通常ならばこのジオイド高による補正値はせいぜい数十センチ程度だが、海底地下に異常な高密度地域がある事からこの差が数百メートルに達している。しかも他に水準を求められない大洋上の事なので、その異常さに今まで誰も気付かれずにいる。

 さて、ここにホーントという名のヴァンパイアがいた。力はそれなりに持つものの今一歩のところで長老になれない若輩で、享楽的な性格を装っているが、内に大きな野望を秘めている。
 ホーントは、太古の文献から偶然、大西洋沖の海底地下にメトセラが眠っている事を知った。そして研究を通して上記の真実に至ると、ほぼ全財産を換金して調査船を作る事にした。
 ホーントは単純に高性能なGPSと天体観測機器を積んだ船を仕立てるような真似はしなかった。そんな目立つ行動をしては、調査(早くとも数年はかかる)が終わる前に妨害を受ける事は必死だった。そこでホーントは一計を案じて、この船は“餌場船”であるとした。
 まずホーントは古いタンカーを買い取って改造し、そこに自分を神と信じる宗教結社の人間を訓練して乗り込ませた。人間たちには《支配》や《威厳》などの訓えを利用した強力な洗脳が施されており、どのような行為であっても「これは儀式である」として一切の疑問を抱かないように教育されている。無寄港で永久に大西洋を彷徨っていて、人間社会には「新興宗教の共同生活場」ということに、ヴァンパイア社会には「安全に食事が出来る狩り場」という事にされていて、操船や整備を行う人間の他に「血を吸う器」用の見目良い人間も乗っている。船には複数系統のGPS、コンピュータ、自動航行装置等が積まれていて、ホーントはここでカルトの教祖を気取りながらノンビリと天体観測を行って“海底地下の異常な高密度地域”を調べ上げるつもりだった。

 しかし、またひとつここで問題が起こった。“餌場船”の主がヴァンパイアだと知った魔狩人の襲撃を受けたのだ。幸い、そのときは撃退できたが、危険を感じたホーントは、船の管理を他の者に任せようと考えた。そこでまず、船で執り行われる“儀式”の決まりを以下のように変更した。

@船の主は、原則的にヴァンパイア(接吻によって器に快楽を与える事ができる者)であれば誰でも良い。
A接吻は、船の甲板上にて日の出5分前に行わなければならない。この規則を守らない者は主とは認められない。

 Aの決まりの為に、現在位置での日の出までの残り時間を正確に計算して、船のあらゆる場所に設置された電光掲示板でそれを表示するようにした。これは通常ならば何の問題も無いが、“海底地下の異常な高密度地域”の近海では表示された時刻よりも早く日が昇る事になる。
 “儀式”をこのように変更した後で、ホーントは失踪して、“餌場船”の管理を自分の子のサベイジに任せた。後は船の通信装置を傍受して、サベイジの死を待てば良い。
 サベイジが死んだという事は、すなわちその朝は日の出が早かったという事だからである。


日の出トリック説明


 そうしてある朝、甲板で人間の友人と電話で話している最中、サベイジは朝日を浴びて永遠に滅びてしまったのだった。

 サベイジの永遠の滅びを知り、行動を起こした者(勢力)が3つあった。
 1つ目は、ホーントである。サベイジの死から地下に異常密度がある海域を知り、既に「メトセラの墓所の精密測定と発掘」の準備に取り掛かろうとしている。
 2つ目は、サベイジやホーントが属する領地の長老たちである。長老たちは、“餌場船”について真実は知らないが、表向きにされた通りの存在だとは信じていない。対立する血族の牽制もあって干渉は避けていたが、サベイジの死を知って「調査に立ち寄る良い口実ができた」と考え、部下を派遣する事を決めた。
 3つ目は、アルカナムである。世界で最も超常的知識を持つ人間で構成されるこの秘密結社は、ホーントの計画の大部分を掴んでいる。長老たちが部下(=PC)を派遣した事から“餌場船”の異常を知り、異端審問官やメイジを焚き付けて向かわせ、サベイジがどの海域で滅んだのかの情報を得ようとしている。



導入

 PCたちは自分と同じ氏族の長老に呼び出され、一同に会した所で以下の説明を受ける。

●数年前、ホーントという男がタンカーを改造して、永久に大西洋を航行する“餌場船”を作った。
●最近、ホーントは失踪して、“餌場船”は子のサベイジが受け継いだ。
●昨夜未明、サベイジは永遠の滅びを迎えた。人間の友人と電話で話している最中の事で、謀殺の可能性がある。
●サベイジの友人は、ヴァンパイアについて理解している人間で、第一報は彼からもたらされた。詳しい事情聴取はまだしていない。
●“餌場船”に補給物資を運ぶ定期貨物ヘリコプターが、数時間後に出発する。これに便乗すれば“餌場船”に行く事が出来る。

 PCたちは、サベイジの死の真相を探る為に“餌場船”に赴くように命令される。
 “餌場船”について、「単なるヴァンパイア用のレジャー客船」という説明を長老たちは信じていない。ただ、氏族間の睨み合いもあって、証拠も無いのに強引な調査はできずにいた。今回の「殺害事件調査」を口実にして、長老たちは「“餌場船”の真の用途」をPCに探らせようとしている。ただしハッキリとした物言いではなく、言外に命じる形を取る。
 調査員(=PCたち)は、領地の有力氏族から1人ずつ選ばれている。各勢力が互いを牽制する為で、これについても言外に教えられる。
 既にヘリコプターの出発までに時間は無く、サベイジの友人への事情聴取と、身の回りの物を取りに戻るくらいしかできない。PCはこの命令に従うものとして以降を進める。

 サベイジの友人に会って事情を聞くと、以下の説明をPCにする。嘘を付いている様子は全く無い。

●人間社会において“餌場船”は、「新興カルト宗教の共同生活の場」という事になっている。新興カルト宗教組織は宣伝ホームページを持っているし、批判する有志のホームページもある。それらのURLを教えてもらって、PCが確認する事もできる。構成人員は念入りに洗脳されているし、コネの協力もあるので、大きな問題にはなっていない。
●一連の組織は数年前にホーント(サベイジの父)が独力で手配して作った。持てる資産やコネなどの全てを投入して作ったのだが、最近、ホーントは失踪してしまった。
●サベイジは資産の類は碌に持たず、以前は赤貧生活をしていた。しかし、父から“餌場船”を受け継いで「夢だった贅沢な暮らしが出来る」と喜んでいた。人間の友達も連れて行きたかったようだが、「ヴァンパイア以外のゲストは入れないという規則がある」との事で、独りで行った。船では、見目の良い美女にかしずかれ、インターネットだの衛星放送だのもあり、何より敵に脅えなくて良いので楽しんでいたようだった。
●カルト教団の教義で「接吻(吸血)は、甲板で日の出5分前に行わなければならない」との事だが、「間違いは絶対に無い」と自信満々に言っていた。
●昨日はずっと電話でサベイジと長話をしていた。現地時間で日の出5分前に接吻(吸血)を終え、「そろそろ眠る」と言った直後にサベイジは悲鳴をあげ、その後は何も応答が無かった。「体が焼け落ちる」といったような事を口走っていたし、どうやら滅んでしまったらしい。

 友人は本当の事を隠さず話しているので、上記以上の事は分からない。裏付けを取る時間も無いので、事前捜査はここで終了となる。プレイヤーが強く拘るようならば、マスターは「友人が嘘や隠し事をしていないのは間違い無い」と断言してしまった方が良いだろう。
 その後、PCは身の回りの品(武器やノートパソコンなど)を持ってヘリポートへ向かう事になる。



本編

 ヘリコプターのパイロットや“餌場船”の乗員は、ホーントから強力な洗脳を受けており、短い時間では《支配》などの訓えを使ったとしても、洗脳を覆す事はPCにはできない。
 パイロットは操縦に関係無い事には反応しないので、ヘリコプターに乗っている間、PCは携帯電話やインターネットを使うくらいしかやる事は無い。インターネット上で調べれば、以下の事が分かる。

●カルト教団は、入信者の多くが帰宅しない事から訴えを起こす家族も少なくないと思われるが、意外なほどに社会問題になっていない。コネの協力によって表面化する前に問題が潰されたり、騒ぐ者を1人ずつ丹念に《支配》するという手間をかけたりしたものと思われる。
●“餌場船”自体は勿論、乗員の訓練、補給体制の維持にも莫大な金が掛かっている事が予想できる。「カルト教団の問題を潰してくれるコネ」を作るのにも労力が必要だったろうし、そうそう真似のできる行為では無い。

 そうこうする内に、ヘリコプターは“餌場船”に到着する。PCと貨物を降ろすと、ヘリコプターはすぐに飛び立ってしまう。
 甲板には複数の電光掲示板があり、カウントダウンしている。ちょっと考えれば、それが日の出までの時間を示している事がすぐ分かる。白いローブを纏った見目の良い多数の男女がPCを迎え、“儀式”の説明をする。それによると「日の出5分前になったら好きな者を好きなだけ“接吻”して良い」「甲板から船内の寝所まで移動するのに、どんなにゆっくりしていても1分もかかる事は無い」との事で、PCがそのルールを守るものと信じきっている。
 吸血を行う場合、<餌>の背景が5レベルあるものとして(本来の<餌>は無視する)難易度3で狩り判定を行い、ルール通りに<體血>を得る。その後、PCを正当な主人と認定して、教義の範囲内ならば命令に従う。
 吸血を行った振りを行う為には、それなりの訓えや技能が必要である。吸血される側も快感を覚えるので、ごまかすのは難しいだろう。
 吸血を行わないと、人間たちはPCを主とは認めない。原則的に無視しようとし、例えば「見過ごせばPCが滅んでしまう」というようなときでも助けようとはしない。船上の人間は明らかに普通では無く、全PCが吸血を行わないなどという行動を取ろうものなら、それこそ何をされるか分からないと思わされるだけの迫力が感じられる。
 逆に、定められた時(日の出5分前)以外に吸血を行おうとすると、人間は奥歯に仕込んだ毒薬で素早く自殺する。PCの<人間性>によっては<良心>の判定を行う必要があるだろう。死体の血には猛毒が含まれているので、この血を吸うと3段階の通常ダメージを被る(P259にある通り、この血を体外に排出する事で回復する)。死者の血では<體血>は1ポイントしか回復しないし、全く割に合わない。こうした殺人を行っても、他の人間は「御主人様のおいた」と取るので、致命的な事態にはならない。

 “儀式”が終わると、吸血を行ったPCは船内の寝所に案内される。吸血を行わなかった者も付いていく事は可能だが、人間たちはあからさまに無視する態度を取る。寝所には“儀式”を行ったPCの数だけのベッド用意されている。主人と認められたPCはあらゆるサービスを受けるが、そうでないPCは何かにつけて不快な思いをする事になる。
 甲板と船内を結ぶ出入口は2ヶ所あり、1つはエレベーター、もう1つは階段になっている。エレベータを降りてすぐの所に寝所がある。寝所は広く頑丈な造りで、一ヶ所しか無い出入り口には無骨な内鍵が備え付けられている。船内は日が射さないように密閉されているので、PCが望むならば寝所以外の場所で眠っても構わない。
 正午頃、適当な難易度の知覚判定に成功したPCは、夢うつつに物音を聞く。夜になって思い返してみると、「何者かが“餌場船”に侵入したのではないか」と考え付く。
 以降、PCは船内の探索と調査を行うだろう。以下に行く事のできる場所と、その説明を記す。案内表示や船内図の類は一切存在しないし、人間たちも自分の仕事以外の知識を持ちあわせていないので案内などはできない。ただ、船内の各所にも電光掲示板があり、何処にいても「日の出までの残り時間」が分かるようになっているのがPCの目に付く。

  場所  説明
コンピュータ室  メインフレーム・コンピュータ、端末、GPS、ネットワーク機器といった物がある。GPSで現在位置を確認して、コンピュータ制御による自動航行で船を動かす仕組みになっている。
 「<知性>+<コンピュータ>」で難易度6に成功すると、「同じ機器が複数用意され、お互いをバックアップし合っている」「管理者はおらず、不具合が起こると自動的に問題のあるハードウェアを切り離す事で対応する」「セキュリティは非常に堅牢で、コンピュータやGPSをハッキングして狂わせるのは不可能」だといった事が分かる。
 船の航行を奪うとか、日の出までの残り時間を示す電光掲示板を狂わすとかする為には、一部のハードウェアを取り換えるなどといった作業をしなければならないが、そんな事をした跡は見られない。プレイヤーが望むならば適当な難易度の「<知覚>+<調査>」判定などで追認させても良い。
 また、「<機知>+<コンピュータ>」で難易度8に成功すると、航行記録を出力する事ができる。
通信室  複数の通信機があり、船内の電話を中継している。衛星回線経由でインターネットに繋がったパソコンもあり、人間の管理者がカルト教団の宣伝ホームページの更新をしたり、上記コンピュータ室をモニタしたりしている。
 ここのパソコンならば外部からでも「<機知>+<コンピュータ>」で難易度8に成功すればハッキングできる。内部からならば、管理者を遠ざけた後で難易度5の判定に成功すればハッキングできる。ハッキングすると、“餌場船”の船内・外のあらゆる通信を傍受する事ができる事に気付く。
 ちなみにここは元々、サベイジの動向を知る為の施設である。ちょっと注意していればサベイジが死んだ事は通信内容を聞くだけで分かるし、航行プログラムの中味をホーントは知っているので、それで必要な情報は全て得られる訳である。
機関室  船の推進機関や発電機がある。比較的大勢の人間が常駐して整備などをしている。機関出力をコンピュータでコントロールする仕掛けになっているが、「<敏捷>+<製作>」に難易度3で成功すれば、手動で操作する事もできる。隣接した場所に燃料タンクもあり、船の急所になっている。
人間の部屋  船内の人間の為の部屋。船内で実務を担当する者は四勤三交代で働いているので共同部屋には常に誰かがいる。調理場、食堂、医務室といった施設も一通り揃っている。
空き部屋  ホーントが乗船していた頃は、太古の文献のコピーを納める資料室だった。サベイジに管理を任せるに当たって、ドラム缶を運び込んで室内にて全ての資料が焼却された。そのときの灰が入ったドラム缶や、たくさんの空の本棚が残されていて、些か奇妙な雰囲気を感じさせる。《先覚》の〔魂跡探査〕を使用してドラム缶の中の灰を調べる場合、難易度6で成功すれば、元は古文書のコピーであった事と「メトセラ」ないし「アンテデルヴィアン」に関係した内容が書かれていたと分かる。
 現在、この部屋には異端審問官(ルールブックP303参照。<真の信仰>を3レベル持っている。人数は戦闘系PCよりも少ないものとする)が潜んでいる。PCが眠っている間に侵入したが、成果が上がる前に日が沈んでしまったのでここで隠れる事にした訳である。
 異端審問官は、扉にワイヤーを使った警報が鳴る罠を仕掛けて襲撃に備えている。<真の信仰>も持っているので、不意討ちは不可能である。彼らは、PCの乗ったヘリコプターを追って“餌場船”に辿り着き、“餌場船”の航行記録とサベイジが滅んだ正確な日(まだ2日と経っていないのだが、それを知らない)を知ろうとしている。PCが戦闘を仕掛けないならば、逃げようとする。
 異端審問官はノートパソコンと特別なハッキング・ツールの入った記録媒体(MOとかDVDとか)を持っていて、これらを使えばコンピュータ室で「<知性>+<コンピュータ>」で難易度3に成功するだけで航行記録を出力できる。また、同様にして通信室のパソコンから通信記録を読み出して、サベイジの死亡日を知る事も可能である。この事は、<コンピュータ>技能を持っている者が調べれば分かる。
主人の部屋  PCたちが寝床としてあてがわれた部屋。中世風の豪華な装飾が施され、非常に広く、シャワーなども完備している。頑丈な内鍵もあり、万一の襲撃に備える造りになっている。元々はホーントやサベイジらが使っていたが、掃除が行き届いているのでそうと感じさせられる遺留品などは無い。
エレベータ  船内と甲板を移動する際に使用する。その他に階段もあるが、どちらにしてもそこから陽光が入る事がないように設計されている。
甲板  エレベータ甲板上では、日の入りから日の出までの間、器である見目の良い人間たちがマス・ゲームのようなダンスを続けている。主人であるPCが命じれば、可能な限りの余興を提供してくれるが、やはり接吻だけは拒む。
 時間を掛け、<共感>や《威厳》などを使用すれば、以前の主人の話をしてくれる。最初の主人はホーントであり、失踪直前に「接吻は日の出5分前」という新しいルールを作ったのだと分かる。2番目の主人が死んだサベイジなのだが、最期の朝については「接吻の儀式の前後の記憶が曖昧で、よく覚えていない」と明かす。詳しく追求すれば、どうやら日の出直後は意識が朦朧となるように精神操作を受けているらしいと分かる。

 PCにとって1〜5は未知の場所なので、適当にうろつく場合は、ダイスを振るなりカードを使うなりして、PCが辿り着いた部屋を決める事。
 時間経過に関しては、曖昧に処理して良い。
 コンピュータ室や通信室を調べれば、「GPSや電光掲示板を狂わせて日の出時刻が誤って表示させるようにした訳では無い」と分かる。
 異端審問官を倒して荷物を探れば、「サベイジの死んだ場所に関する情報を知りたがっている者がいる」という事が分かる。
 人間から巧みに話を聞き出せば、「当初は『接吻は日の出5分前』というルールは無く、ホーントが失踪直前にそのように変更した」と分かる。
 ここでプレイヤーから「特定の場所だけ日の出が早まるなどという事があるのだろうか?」という疑問が出されたならば、「<科学:天文学>+<知性>」を適当な難易度で判定させて、成功したならば「重力は、地下の密度分布の不均一や地形の影響をうけて場所により異なる。海底地下の密度が高いと、“地球の準拠楕円体”よりも“海抜0メートル位置(ジオイド面)”が高くなる」という事を教える。プレイヤーが余り背景世界に通じていないならば、アンテデルヴィアンやメトセラの設定も教えた方が良いかもしれない。

 プレイヤーが真相ないしそれに準じる取っ掛かり(「特定の場所だけ日の出が早まるなどという事があるのだろうか?」という疑問)に至らない場合は、クライマックスを盛り上げる狂言回しとして、“科学技術の奇形児”を登場させる。P312にある能力に加えて、水中を高速で移動する能力を持ち、“餌場船”の跡を付けているものとする。PCに「《先覚》+<知覚>」などで判定させ、成功すれば夜の内に見付け出して戦闘を仕掛ける事ができる。
 科学技術の奇形児は、戦いながら勝手に“真相のヒント”を喋ってくれる。会話に応じて、適当な頃合いに「<科学:天文学>+<知性>」の判定をPCに行わせて、真相に至らせる事。



結末

 コンピュータ室の機器の一部を壊して、PCが手持ちのノートパソコンを繋ぐなどした上で「<コンピュータ>+<知性>」に難易度6で成功すれば、自動運航プログラムを任意に設定し直す事ができる。PCが望めば、サベイジが滅んだ地点に行ってそこが準拠楕円体面よりも高くなっている事を確認する事ができる。ただし、そのような“儀式”が継続できなくなる程の変化を“餌場船”に与えてしまうと、人間たちは自殺してしまう。そのときは、<良心>の判定をしなければならない。

 数日後、船に来た迎えのヘリコプターに乗ってPCは帰る事ができる。その頃には、失踪していたホーントも街に現われ、「サベイジを鍛えようと思って身を隠していたのだが、死んだと聞いて慌てて戻った」などと言い訳している。

 オチの付き方はPCの行動による。以下に考えられるものを列記する。

長老に真実を報告する  長老たちは当初は懐疑的で、PCに様々な質問を浴びせるが、やがて納得すると「この秘密を広めてはいけない」と考える。ホーントは「サベイジ殺しの下手人」として咎人狩り(処刑)が宣言される。
 PCも口封じの対象にされる可能性がある。背景として強力な<導師>を持っているとか、生かしておいた方が得だと思わせる適切なアピールを行うなどしなければ、処刑されてしまう。
 PCに対する長老の判決がどう下ったかまでをロールプレイして、結果に応じたエンディングにする。
口をつぐむ  「異端審問官や魔術師の襲撃を受けて、何も分からない内に船内を破壊されてしまった」などと報告するならば、無能と思われるものの身の安全は確保される。ただし、このままホーントを放置しておけば、いずれ不味い立場になる可能性がある。仮にホーントがメトセラの力を手に入れたとしたら、PCが所属する領土は戦国時代に突入するだろう。失敗して全てが判明してしまった場合は、PCは責任を追及されるかもしれない。
 後顧の憂いを断とうとホーントの殺害を計画するにしても、細心の注意を払わなければ、血族殺しの罪に問われる事になる。
 PCには、ホーントをどうするかを決めるところ(殺害する場合は、戦闘が終わるところ)までをロールプレイして、その後の起こりうる未来を語ってエンディングとする。
ホーントに味方する  PCが真相を探り当てた手腕をアピールするなどして売り込めば、ホーントの仲間にしてもらう事も可能である。ホーントにしてもヴァンパイアの仲間は欲しいので、比較的簡単に受け入れてもらえる。ただし気を付けないと、いつの間にか《支配》を受けたり、ホーントの血を飲まされたり、或いは隙を見て暗殺されるという事もあり得る。ホーントと良い関係を築けたとしても、メトセラの墓所探索の段階で敵対勢力に襲われたり、メトセラその人の攻撃を受けてしまう事もあり得る。
 PCがホーントとどのような関係を築けたかまでロールプレイして、その後の起こりうる未来を語ってエンディングとする。
仲間割れする  別にPCが一枚岩で活動してエンディングを迎えなければならない訳では無い。意見が一致しないとか、自分の氏族の長老にだけ真実を報告したいなどというときは、PC同士での戦闘になるだろう。戦闘を船上で行えば、後々、血族殺しの罪を追求される心配も少なくなる。
 PC同士の戦闘の白黒が付くところまでセッションを行い、その後の起こりうる未来(上段3つの何れかに準じたものになるだろう)を語ってエンディングとする。



さいごに

 このシナリオは、上遠野浩平の『殺竜事件』から思い付いた。
 『殺竜事件』は、魔法が発達したファンタジー世界にて、絶対的な力を持つ筈の竜が殺され、その謎を解く為に主人公たちが旅をするというストーリーである。作者は『ブギーポップ』シリーズで有名な人だが、この作品の出来は今ひとつ宜しくない。
 『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』用のシナリオを考えているときに、ふとこの『殺竜事件』を想起して、「ヴァンパイアの死の謎をPCが解く推理物にしよう」というアイディアが浮かんだ。超越存在の殺害という導入以外は影響を受けていないので、プレイヤーが元ネタを知っているかどうかに関しては気にかける必要は全く無い。シナリオのタイトルも、敢えてストレートに“竜”を“ヴァンパイア”に置き換えるという体裁にしてみた。変化球的なシナリオになってしまったので、『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』の初セッションに用いるのは避けた方が良いかもしれない。

 殺害トリックに関しては、やはり陽光絡みしか無いと思い、インターネットの検索エンジンで調べるなどしてアイディアを捻り出した。
 地球を球体として単純に計算してみたが、北緯20°で100メートル高さがあると日の出が2分早まる。520メートルで5分、2100メートルで10分、4700メートルで15分……と計算したが、この計算がどこまで正しいのか余り自信が無い。内容にミスがあるなら、適宜、修正して欲しい。




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