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0087 最強の理由 天羅万象 00/10/04



はじめに

 このシナリオは、『天羅万象』または『天羅万象・零』専用である。
 蟲使い、傀儡、傀儡師のアーキタイプは向かないと思われる。その他、シナリオの内容を鑑みてマスターの方で適当な制限を設ける事。



登場NPCおよび重要事項

蟲シノビ 蟲術と忍術の双方を使う1つの忍群として活動していたが、3年前に抜け忍が出たときのゴタゴタで隠れ里が滅んでしまった。以降、生き残りがこの抜け忍を追っている。
以下のデータは、リーダーのものである。手下に関しては、サンプルキャラクターのシノビに<蟲入り>のアーキタイプを加えたものを使用すること。
体力 敏捷 知覚 知力 心力 共感 天下
11 11(15)
活力 軽傷 重傷 致命
18(46) 11
忍術(汀流)・蟲術・回避・意志力 上級
その他の技能 無〜中級
伊丹蟲、再生蟲(強度4)、牙爪蟲(強度8)、
甲蟲(強度8)、鋼化結線蟲(強度4)、戦鬼蟲

杜松の国 現在、蟲シノビの生き残りが所属している国。この国には蟲使い組織が存在しなかったので、蟲シノビたちが受け入れられることとなった。領主は、蟲シノビたちを信用しておらず細心の注意を払っているつもりだが、その実、少しずつ影の部分の支配権を握られ始めている。
抜け忍の娘 抜け忍が隠れ里を出るときに連れて来た一人娘(息子でも可)。体内に“最強の蟲”を飼っているが、本人はそうとは知らない。“最強の蟲”の情報を握る者として、蟲シノビたちに追われている。
最強の蟲 「蟲術に対する防御判定として使用でき、判定に成功すると対象とした蟲術を無効化できる。しかし、この蟲を体内に入れた者は、他の蟲を入れることができなくなる」という効果を持つ蟲。“最強”と言うには語弊があるが、詳細な能力を知られない蟲シノビたちはそう呼んで追い求めている。



事前状況

 とある地方に、蟲術と忍術の双方を使う、蟲シノビたちの忍群があった。所属するシノビたちは、必ず同時に“蟲使い”ないし“蟲入り”で、少なからず恐れられた存在だった。
 しかし彼ら蟲シノビも、順風満帆な活動を続けていた訳ではない。そもそも、創立者からして蟲使い社会から追放された“ハズレ”であるため、正式な蟲使い組織からは敵と見做されていた。また、特定の勢力に仕えないフリーランスだったので、権力者たちから目の上のタンコブと思われていた。そういう状況下で隠れ里に潜み、「力さえあればどんな外道でも良い」と考える腹黒い者の依頼を受けたり、野盗同然のことをして糊口を凌いでいたのだった。
 そして3年前、蟲シノビたちの隠れ里は滅亡した。生き甲斐の無い暮らしに絶望していた1人の男が、密かに育てていた“最強の蟲”の力を使って抜け忍となり、その際のゴタゴタから隠れ里の場所が敵対勢力にバレてしまった為だった。抜け忍の思わぬ反撃に浮き足立っていたときに、兵士たちの急襲を受け、ひとたまりも無く次々と討死にしていった。

 しかし、蟲シノビたちも全員が死に絶えた訳では無かった。戦闘頭だった男を含む数人が生き残り、今では“杜松”の国の領主お抱えのシノビとなっていた。その履歴から蟲シノビたちは決して領主に信用されている訳では無かったが、表向きは滅私奉公の態度を取り、その裏では影の支配権を手にしようと暗躍していた。
 そんなとき、蟲シノビたちの耳に、里が滅ぶ原因を作った抜け忍の居所に関する情報が入った。抜け忍は、一人娘と2人で戦争難民を装い、ある農村で暮らしているらしいと言うのだ。蟲シノビのリーダーは、復讐の為、そして抜け忍が持つ“最強の蟲”の力を手に入れる為に、その農村に向かった。

 ところで、件の抜け忍が作った“最強の蟲”とは、脳に寄生させ、フェロモンを放出して他のあらゆる蟲の攻撃を無効化させるというものだった。ルールブックP137にある<忍法・破幻>の蟲術版のようなもので、「蟲術に対する防御判定として使用でき、判定に成功すると対象とした蟲術を無効化できる。しかし、この蟲を体内に入れた者は、他の蟲を入れることができなくなる」という効果を持つ。隠れ里を脱出するときは、追手が蟲術が通じない理由が分からないまま混乱した隙を利用しただけで、それが中途半端に伝わって“最強の蟲”という話になった訳である。
 抜け忍は、娘にもこの“最強の蟲”を仕込んでいた。隠れ里を逃げ出した後で、今後の生活に差し支えると考えて過去の記憶を封じたのだが、その際に「自分が蟲術による致死性の攻撃を受けたとき、記憶と共に“最強の蟲”の封印が解ける」という条件付けをした。

 そして今、蟲シノビたちは抜け忍とその娘がいる農村を襲った。抜け忍は囮となって娘だけは逃がすことはできたが、自らは捕えられ、拷問の末に自害する。蟲シノビたちは村人を皆殺しにすると、“最強の蟲”の情報を握っている筈の娘を追った。



導入(第零幕)

 PCたちは互いに知り合い同士で、一緒に旅をしている。
 あるとき突然、上記“事前状況”にある蟲シノビの手下数名に襲われる。実は、PCの内の1人(適当な外見・アーキタイプのものをマスターが選ぶ)が件の“抜け忍の娘”に似ていて、人違いされたのである。蟲シノビたちは<影縫いの術>を中心に使い、また、“抜け忍の娘”に似たPCにはダメージを与えるような攻撃を加えない。
 数ラウンドの戦闘後、蟲シノビの手下に気絶者が出るくらいのタイミングで、蟲シノビのリーダーが登場する。リーダーは、「よく顔を見ろ。人違いだ。それに“人形”の確保もまだ目処が立っておらん。急ぐぞ」と言って部下を叱責すると、気絶した者を抱きかかえて、PCを無視するかのようにして立ち去ろうとする。攻撃を受けた場合は突き返しを行うが、追い討ちをかけるような真似はしない。
 キャラクター・データに示した通り、気合を全力投入したとしてもPCは絶対に蟲シノビのリーダーには勝てないだろう。ここは運良く見逃してもらえたという形になる筈である。適当な難易度の<追跡/感覚>に成功すれば近くにある農村までは辿れるが、そこから蟲シノビたちは<飛影の術>で空を飛んでしまうので、最終的にはまかれてしまう。
 農村は、抜け忍の父娘がいた所で、全住民が惨殺されている。特に1人の中高年の男(=抜け忍)は、明らかに拷問を受けた跡があり、どうやら自殺で事切れたらしいと分かる。

 戦闘にて手下が再生蟲を使ったことと考え合わせて、<事情通/知力>に難易度1で成功すれば「以前、この地方には蟲術と忍術の双方を使うフリーランスの忍群がいたが、3年前に隣国の軍隊と蟲使い組織の連合軍の攻撃で滅んだ筈だ」ということをPCは思い出す。
 その後、首を捻りながら旅を進めると、1人の行き倒れを見付ける。服装や背格好がPCの1人とそっくりで、うわ言で「知らないよ……最強の蟲なんて知らないよ……父ちゃん……みんな……」と呟いている。この行き倒れた娘(=抜け忍の娘)を、PCが助けるものとして進める。
 落ち着ける場所で介抱すると、やがて娘は意識を取り戻す。理由を聞いても、最初はPCを警戒して口を開かない。しかし農村の惨状や、蟲シノビたちの手段を選ばないさまを指摘すれば、知る限りの事情を説明する。
 娘は、「自分には3年より前の記憶が無い。今回の事件が起こるまで、『戦争に巻き込まれたショックで記憶を失い、難民として父と2人で村に逃れた』と信じていた。しかし実際、父は蟲シノビの抜け忍で、逃げるときに“最強の蟲”を持ち出したらしい。自分は“最強の蟲”の卵の隠し場所や育成方法を知っているらしく、3年より前の記憶と共に父の手で封印されたらしい」と語る。「らしい」という言い方が多いのは、逃げる間際に父親から急いで聞かされた話と、蟲シノビたちの話を隠れていた場所で盗み聞きして知った内容を合わせて類推したからである。
 娘は、命も惜しいが、中途半端に記憶の封印が破れかかった今の状態が生理的に気持ち悪くて仕方が無い。PCたちが今いる杜松の国の都には、そういった心の病を専門に治す医師がいるとのことで、そこでPCに「都までの自分の護衛」「“最強の蟲”のその後の処分」を依頼する。

 PCは、それぞれ「目的:娘の依頼の達成」なり「感情:蟲シノビへの怒り」なり、適当な宿命を持つようにする。



第一幕

 PC一行は、都への旅の途中で宿場町に立ち寄る。人里に出ずに都を目指そうと考えるプレイヤーもいるかもしれないが、関所と街道の関係や、食料調達の問題を考えると全く立ち寄らないのは不可能だと説明すること。

 蟲シノビたちは、抜け忍が使った“記憶の封印”の術法について手の内を知っている。半端に解けかかった者は、完全に解く為に最大限の努力をするに違いないと確信している。そして、精神科医などという希な存在はこの近辺では杜松の都にしかおらず、そうすると上記の宿場町を必ず通ると読み、手下たちで網を張っている。
 同時に、娘を手に入れた暁にはその場で記憶の封印を解こうと考え、予め傀儡を誘拐して手元に置いている。この傀儡を脅迫して<胡蝶の夢>を娘にかけさせ、心の封印の鍵を手に入れようと言うのである。

 PCが宿場町に入ると、「数日前、近隣の富豪の下に嫁ぐ途中だった傀儡が誘拐された」という事件を耳にする。それほどの名品では無いが、腐っても傀儡だけあって価格は莫大なものであり、既に懸賞金付きで情報を求める立て札が出されている。「傀儡を連れての関所破りは難しいだろう」というのが事情通の一致した意見で、宿場町ないしその近辺に犯人が潜んでいるに違いないと、浪人衆などがにわか賞金稼ぎを始めている。
 蟲シノビの手下は、役人、商店主、浪人といったあらゆる階層に変装してPCが来るのを待っている。PCは「<早業>や<芸事>で変装して、<話術>で演技する」といった手段を取るかもしれないが、NPCである“抜け忍の娘”が同道している状況で成功するのはほとんど不可能だろう。ただし、プレイヤー側から非常に良い作戦が出されたり、ダイス判定で奇跡的な成功を示したりした場合は、以下を飛ばして第二幕に進んで構わない。

 PCたちが傀儡誘拐事件に興味を示して聞き込みをするならば、「犯人はかなりの手だれと思われる」「誘拐の後、脅迫の類は一切無い」という話が聞ける。現場はすぐ近くだが、数日過ぎた現在では意味のある痕跡は残っていない。
 PCが町を出て、比較的人気が少ない場所に出ると、傀儡を連れた蟲シノビの手下たち(リーダーはいない)の待ち伏せを受ける。状況によっては、「空を飛んで追い掛けて来る」とか「一般市民NPCが最初に殺される」などの展開になる。
 蟲シノビたちは傀儡を守る陣形を作っていて、自分たちの行動順番をキャンセルすることにより傀儡に対して気合を使った“かばう”と同様の行動がそれぞれ1回だけ取れるものとする。この特別ルールについて、戦闘開始前にプレイヤーによく説明すること。
 傀儡は自分の行動手番(敏捷度5)になったら“抜け忍の娘”に胡蝶の夢を掛けるように指示をされている。数日に渡る拷問を受けた上に、地蜂を体に取り付けられ、逆らう気力を失っている。地蜂の姿はPCからも見え、「敵の攻撃に身を晒して気絶を選んだら止めを刺すぞ」くらい言われているだろうことは容易に想像が付く。ひ弱そうで、一撃食らったら気絶か死亡するしか無さそうである。
 ここで、PCが「傀儡の殺害」を選ぶか、「蟲シノビを全滅させる」を選ぶかで展開が若干変わる。
 どちらにしても、PCの1人と娘が似ていることを利用して何らかの対策が施されているならば、傀儡は最初に間違えてPCに胡蝶の夢を掛けてしまう。よって、2ラウンド目の敏捷度5の順番までは余裕が残されている。
 最初にPCが胡蝶の夢を掛けられた場合、「農村で、実は抜け忍という過去を持つ父と2人暮らししている。穏やかな生活の中で、ふと父が『そう言えば、アレはちゃんと覚えているか?』と問い掛ける。アレとは何かと問い返すと、『何を言っている。蟲……最強の蟲のことだよ』『今の平穏な生活があるのも、思い返せばあの蟲のお陰だ。ときどきはきちんと思い返してやらなければな』と父は答える」という夢を見る。本来ならば、「相手のトラウマを刺激するような場面を無限に繰り返し、耐えられずに出た反応によって修正を加え、最終的に心の扉を開く鍵を手に入れる」という手順を現実時間にして一瞬の内に成し遂げる筈だったのだが、元々、相手を間違えている為にそういった効果は表れず、最初の場面を見せただけで夢は破れてしまう。
 もし、2ラウンド目の敏捷度5の順番を迎えてしまった場合は、“抜け忍の娘”は「平和に暮らす限り蟲の記憶は必要ない。だけど、万一にも再び蟲に襲われるようなことがあれば、父ちゃんの蟲が必要になる。……蟲に襲われたら、そのとき私は思い出すんだ……」と口走る。それを聞けば、蟲シノビたちは四方八方に散って逃亡にかかる。

 展開にもよるが、原則的にこの襲撃を通して娘の精神的な容態は目に見えて悪化する。娘を救う気があるならば、待ち伏せの危険があろうとも都の精神科医にかかるしかないのは明白となる。



第二幕

 PC一行は、取り敢えず都には無事に到着する。しかし、実は蟲シノビのリーダーたちがPCを待ち受けている。町は活気があるが、どうにもPCは不安が拭えない。

 一行が目指していた精神科医とは、傀儡師崩れの医者で、<幻術>を使って心の病を治すということで都での評判は高い。PCが事情を話して治療を依頼すると、「本当は予約で一杯なのだが、お困りのようだから特別にすぐに診療しましょう」と応じてくれる。
 実は、精神科医の家には盗聴装置(式またはカラクリを使ったもの)が仕掛けられている。杜松の国とは、実は蟲シノビたちが仕える国であり、今では悪徳同心やヤクザなどを配下に置くほどに影の支配力を強めている。それらの手管を使って、様々な品を手に入れることができるのである。
 治療が終わり、娘の心の扉の鍵が明らかになると同時に芝居がかった調子でリーダーが現れる。リーダーは既に<憑鬼の術>をかけ、鋼化結線蟲と戦鬼蟲をいつでも使える状態にしている。

 なお、第一幕で娘の心の扉の鍵を聞き出していた場合は、以上の場面を省き、適当な頃合いにリーダーが現れて戦闘を仕掛けるものとする。

 リーダーは、第一幕でのPCの所業を一通り論い(「傀儡を殺さないなんて甘チャンが世の中を渡れる訳がない。大事の前の小事という言葉を知っておるか?」または「善人顔をしておきながら、無垢な傀儡はあっさり見捨てる。お前たちにとって正義とは何だ?」など)、それから「さて、その小娘に蟲術の直接攻撃を加えれば、全ての記憶を取り戻す訳か。ならば死なない程度に痛い思いをさせてやろう」と言って襲い掛かる。

 PCが貯めた気合を使いまくったり、正念場宣言をしたりしても、原理的にリーダーには敵わない筈である。しかし、万一にも倒すことができたならば、ここでシナリオが終わる。後は信用できる蟲使いを探し出し、娘に「死なない程度の攻撃」をしてもらえば良い。
 リーダーは自分の行動順番で、まず娘に<牙爪蟲>で手加減した攻撃を仕掛ける。しかしその瞬間、娘の頭から光る鱗粉が飛び散ると、<牙爪蟲>は狙いを外れてしまう。もう1〜2ラウンド違う蟲での攻撃を繰り返してから、「蟲に対する絶対防御か……期待したほどの能力ではなかったが、蟲使い組織どもへの復讐の切り札にはなるか。何れにしろこれでまた俺の力も増すという訳だ」と言うと、今度は小刀で娘に襲い掛かる。数ラウンドかけて娘を無力化すると、外科医のような精密な手捌きで蟲を穿り出し、それを恐れ気も無く丸呑みしてしまう。
 暫くの間は何の問題も無いように見える。リーダーは、「さて、まだまだこの国への忠誠心を疑われる訳にはいかんのでな。お前たちには死んでもらうよ」と言って<牙爪蟲>を使って攻撃してくる。しかし<牙爪蟲>は、そのままボロッとリーダーの体から剥がれ落ちてしまう。やがて、次々と蟲たちがリーダーの体を突き破って飛び出して来る。後に残るのは、“最強の蟲”以外の全ての蟲を失った只のシノビである。錯乱している為に碌に忍術も使えないので、PCが止めを刺すのは簡単だろう。



最終幕

 娘の記憶の封印を解き、蟲シノビのリーダーを倒せばハッピーエンドである。
 “最強の蟲”を再び娘の体に戻すか、それとも滅ぼすか、PCの選択や場の雰囲気で決めて欲しい。どちらにしろ、娘の未来は明るく見える。

 最期のロールプレイを行ってもらって、幕を閉じること。



さいごに

 元ネタは、羽沢向一『学園秘芸帳』第3巻である。元ネタと言うより「若干だけアイディア借用した」と言う方が正確だし、それにこの歳でこんな小説を読んでいると明かすのは恥ずかしいが、まあ正直に記しておく。

 最期のオチに拘って一本道シナリオにしたが、プレイヤーの反応が悪いようならアドリブで変えた方が良いだろう。その辺りの手直しは、マスター諸氏に委ねたい。




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