No. タイトル システム 登録日 改稿日
0085 イノセント・ワールド N◎VA 00/08/20 02/11/10



はじめに

 このシナリオは、『トーキョーN◎VAレボリューション』の使用を想定して書かれた。
 しかし、他のサイバーパンクや他の類する世界背景のRPGでも使用可能である。

 『トーキョーN◎VAレボリューション』を使用の場合、『グランド×クロス』P.135で提案されているPC同士の円構造コネを持ち合う事。



登場NPCおよび重要事項

スプーキー アヤカシ(人形の一族)●=ニューロ=タタラ◎。“生まれ損ない(下記参照)”に世俗界の肉の体を与える為に、人間の少年少女の間に“肉体交換遊び”を流行らせた。如何にも「アヤカシの理想主義者」を装うが、本音は「“生まれ損ない”に恩を売って配下にする」「面白そうだからやる」というところにある。機器の類には非常に通じている。
生まれ損ない 「マンデイン(世俗界)に確固たる肉の体を持って1個の存在として振る舞う」という段階に至っていないアヤカシ。エネルギー体として流され漂っているが、その中には自我を持つ者もいる。自我を持つ“生まれ損ない”の多くは、現状に不満を抱き、マンデイン(世俗界)に肉の体を持ちたいと切望している。スプーキーの誘いに応じて、計画に乗った。
サニワ アヤカシ(夜の一族)◎●=カリスマ=カブキ。アヤカシの将来を憂える真面目な新参者。スプーキーのお題目を信じて、計画に協力している。スプーキーの勧めに従い、体を完全義体《イワサキ“十拳10/Tuka”軍事用全身素体》に変えて(外見は元の姿と同じ)、《G.C.I.“タキオン”神経加速装置》でアクションランクを常に4にしている。<交渉>+<血脈(夜の一族)>+<ゲシュタルト崩壊>+<集団催眠>のコンボによる精神攻撃を得意としており、交渉や戦闘に際して積極的に使用する。敵と仲間が混在した状況でも、<血脈(夜の一族)>の特殊能力を用いれば敵だけを狙い撃ちにする事が事実上可能。状況によっては<集団催眠>の代わりに<忘却>を組み合わせて、敵が何をされたのか忘れてしまうようにする。その他、<コミックヒーロー>と<チェシャ猫>も習得している。実は《レイド&ルーラー“ラスト・テンダー”脳内皮質爆弾》が仕掛けられており、起爆させるリモコンはスプーキーが握っている。



事前状況

 未来のサイバーパンク世界であるトーキョーN◎VAの社会に於いても、人と人の付き合い方は原則的に古来から変わらない。
 幾らウェブが進歩しても、一般社会常識は「直接会って、対話する」という人間関係を正常だとしている。そしてそういう生の付き合いを苦手にする者が特に若年層に多く、社会問題としてよくマスコミに取り上げられている。
 “普通の家庭のまともな子供”は、伝統的な存在である“学校”に通い、“同級生”と共に“先生”から教えを受けている。しかしそういう類の環境を苦痛としか感じない少年少女も少なからずいる。発達したコンピュータ社会である故に、才覚のある子供は一足先に実社会に出て活躍の場を得るが、大多数の凡庸な者は“学校という名のレール”からドロップアウトする勇気を持てない。
 結局、「学校があって、学生がいて、不登校とか孤立とかイジメとか無気力とかモラトリアムとかいったモノが存在する」という状況は、古来から変わらずにトーキョーN◎VAの時代でも続いている訳である。

 ただ、トーキョーN◎VAの時代は科学技術が進歩している点だけが過去と異なる。IANUSU程度のサイバーウェアならば、中・高校生でも埋め込んでいる者は少なくなかった。IANUSU(またはワイア&ワイア)を装備している者は、トロン(コンピュータ)に自分の感覚を直結する事ができる。直結すれば効率的にトロンを操作する事ができて、通常はウェブでの作業や遊戯、自動車などの操作に利用される。これにオートマンというサイバーウェアを付加すれば、トロンに自分の体を動かさせるという事もできる。
 今、サイバーウェアを体に入れている「今の環境に自分の居場所があるように感じられない中・高校生」の間で、1つの“遊び”が流行り始めている。その遊びとは、「IANUSUと特殊仕様のオートマンを介して、他人と肉体を交換する」というものだった。
 如何にして肉体交換に至るかは、人によって幾らか異なる。ここで、タツロウという名の少年の例を挙げる。

 タツロウはウェブサイトで何処の誰とも知らない連中と趣味の話をしたり、世の中や周囲に感じる漠然とした不満をグチり合ったりするのを習慣にしていた。ある晩、たまたま選んだアングラなサイトにタツロウを含めて3人しかいないという状況になり、しかし話が弾んだので深夜遅くまでダベり合っていた。話している内に、1人はタツロウと同年代の少年で、もう1人はもう少し年上で大学生くらいだろうと見当が付いた。大学生らしき男はスプーキーと名乗り、2人の少年に「お互いの肉体を交換して入れ替わってみないか?」と提案した。
 スプーキーは、肉体交換の為に必要な特殊仕様のオートマンとそのドライバの入手方法を教えた。それらを闇医者に持ち込んで体に埋め込み、ドライバをインストールすれば“相棒”とリンクできる。ただし、IANUSUにはファイアー・ウォールが仕組まれているので、リンクしただけでは“会話”しかできない。このファイアー・ウォールを乗り越えるセキュリティ・コードを“相棒”に渡せば(或いはハッキングすれば)、感覚情報を得たり肉体を動かしたりできる。最深部のセキュリティまで解放されたならば、内覚(体の調子の感覚)や表層記憶情報にもアクセスして、完全に入れ代わる事ができる。
 タツロウにしても、当初は「新手の詐欺かもしれない」との疑いは抱いていた。届けられた特殊仕様のオートマンを体に埋め込む手術も、念の為に別口のコネが紹介してくれた闇医者を頼った。ドライバをインストールして、サイバーウェアが言われた通りの機能を持っていると分かった後も、「何らかの危険があるかもしれない」との疑念は捨て切れなかった。だから、いきなり“相棒”と全てのセキュリティ・コードの交換をしたりはせず、様子を見ながら少しずつより深いレベルのコードを交換し合った。
 そうして、タツロウはこの“肉体交換”という遊びにハマった。
 “相棒”の少年はタツロウと同学年で、容姿も能力も特に優れている訳でも無い。マスコミや社会統計学者ならば、タツロウと“相棒”は同じカテゴリーとして一括りに分類してしまうような立場・環境にあった。それにも関わらず、他人の肉体というフィルターを通す事で、灰色だった毎日に彩りがついたように感じる事ができたのだ。
 その後、タツロウはスプーキーと再会した。スプーキーは、タツロウが肉体交換遊びを楽しんでいる事を聞くと、同好の士が集まるアングラ・サイトを紹介した。そこに集まる若者たちと意気投合したタツロウは、様々な相手との肉体交換遊びに興じるようになっていった。
 級友、教師、両親といった周囲の人間は、タツロウの肉体の中に様々な別人格が宿っている事に気付く事は無かった。それだけ以前のタツロウは、背景に埋没してしまうような不幸な人間だったのだ。しかし肉体交換遊びを覚えて以降は、周囲はタツロウを「性格が明るくなった」と評価するように徐々に変わって行った。全ては上手く行っているように思われた。

 このようにして、社会現象と呼べるほどの広がりを“肉体交換遊び”は持つに至った。興じる若者は割合で言えば「クラスに1人いるかどうか」と言う程度だが、トーキョーに住むティーンエイジャーは100万人以上いるのだから、その数は数万人に達する計算になる。
 そして、この数万人の少年少女たちは決して自然発生的に“肉体交換遊び”にのめり込んで行った訳では無い。“仕掛人”がいたのである。

 その“仕掛人”とは、タツロウの前に“スプーキー”と名乗って現れた男で、1人のアヤカシだった。“人形の一族”であり、機械全般の造詣が深く、トロンやサイバーウェアの分野にも通じている。
 このアヤカシ(以降はスプーキーと記す)は、何も善意でタツロウたちの肉体交換遊びをフォローしていた訳では無い。“肉体交換遊び”を通して少年少女の肉体を乗っ取って、仲間のアヤカシに提供しようと考えていたのだ。
 アヤカシの中には、「マンデイン(世俗界)に確固たる肉の体を持って1個の存在として振る舞う」という段階に至っていない、“生まれ損ない”が少なからずいる。“生まれ損ない”は、アストラル(星幽界)をエネルギー体として流され漂っているが、中には自我を持つ者もいる。自我を持つ“生まれ損ない”の多くは、現状に不満を抱き、マンデイン(世俗界)に肉の体を持ちたいと切望している。
 スプーキーは、これら“生まれ損ない”がウェブにイントロンできる装置を作り出し、肉体交換遊びの同好の士が集まるアングラ・サイトに「人間の少年少女である」という振りをさせて潜り込ませた。肉体の持主の方には仮想現実を味わわせておいて、その間に空いた肉体を“生まれ損ない”が占めてしまうのである。“生まれ損ない”たちは人間の肉体を操る事に習熟し、長い時間、そこに居着くようになっていった。

 その後の展開は、スプーキーとしても読み切れていない。可能性として、3つの事態が考えられた。
 1つ目は、現状維持である。ただそれでは、人間と“生まれ損ない”にタダでゲームを提供してやっているようなものなので、スプーキーに利はない。
 2つ目は、ウェブを介した人間とアヤカシの結び付きが呼び水となって、アストラルを介した結び付きに発展する事態である。こうなれば、やがて“生まれ損ない”が人間の肉体を支配下に置くのも時間の問題である。
 3つ目は、アヤカシの精神に肉体を動かされた事が刺激となって、人間の少年少女の奥底に眠っていたアヤカシの血脈が目覚める事態である。

 スプーキーは、2つ目の事態を期待している。そうなる事で“生まれ損ない”に恩を売り、配下にしようと企んでいる。
 仮に3つ目の事態になったとしても、それはそれで「君が社会に馴染めなかったのは、奥底に眠るアヤカシの血脈のせいだったのだ。それを感じたので、君に接触して、目覚めを促したのだ」とか何とか言いくるめて、少年少女を手懐けてしまおうと考えていた。

 計画はスタートから既にかなりの時が経過していた。その間にスプーキーは、サニワという名のアヤカシを仲間に入れて協力させた。
 そしてとうとう、1人の少年(上で例に挙げたタツロウとする)に変化の兆候が現れた。しかし何が悪かったのか、タツロウは自殺してしまった。
 アングラ・サイトに集う少年少女の間に動揺が生まれ、「タツロウは秘密を他人に漏らそうとして殺されたのだ」という噂が流れた。
 そしてさらに、特殊仕様オートマンの製造していた外注業者がスプーキーに疑いを持ち、脅迫して来た為に止む無く殺した。

 こうして、ここまで完璧に保たれていた秘密が破れ始めていた。



導入1:探偵・刑事

 上記“事前状況”にある少年タツロウは、通っている中学校の屋上から飛び降りて死んだ。その死は事故として扱われ、警察の調査も終了した。遅まきながら親としての情愛を抱いたタツロウの両親は、それを不服に思ってPCに真相の調査を依頼する。報酬は相場の額が提示され、これを受けるものとして進める。
 両親は、息子に対して関心が薄かった事を認め、「自分たちが買い与えた覚えの無いサイバーウェアが埋め込まれていた」「父親のトロンを使って頻繁にイントロンしていたらしい」といった事を語る。
 タツロウの遺体はまだ埋葬されずにモルグに保管されている。調べれば、IANUSUと特殊仕様オートマンが埋め込まれている事が分かる。特殊仕様オートマンの具体的な調査に関しては、リサーチ・フェイズにて行ってもらう事とする。



導入2:町工場主

 正体不明の依頼人(=スプーキーに命を受けたサニワ)より、町工場を持つタタラ系のPCに仕事の依頼がされる。該当するPCがいない場合は、適当なPCのコネに町工場主がいて、彼に相談を受けて交渉の場に同席しているものとする。
 オファーされた仕事は「あるサイバーウェアに特殊仕様を施す」というもので、ロットが100個単位だし、歩合も良い。しかし、「引き受けると確約するまで詳細は話せない」などと如何にも胡散臭い。警戒して全く相手にしないならば、依頼人(=サニワ)は大人しく帰って行く。
 引き受けると返答した場合、依頼人(=サニワ)は、念の為に<血脈(夜の一族)>を用いて「裏切らないように」と言い置いてから詳細を話す。生産を依頼するのは、上記“事前状況”にある特殊仕様オートマンである。前に製造を依頼していた業者が金を強請り取ろうとした為に殺したので、代わりの業者を探している訳である。以降、サニワは適当な頻度で様子を見に来る。

 サニワの跡を付けるなどしても、この段階ではスプーキーの元には戻らないので成果はない。また、戦闘などになった場合は原則的に逃亡する。この段階でサニワが殺されたり捕えられたりする訳にはいかないので、そういう危険性がある場合は、このシーンの登場判定を許可しない方が良いだろう。



導入3:退魔師

 マヤカシやバサラなどの退魔師用の導入。該当するPCがいない場合は、退魔師にコネを持つPCでも構わない。或いは、この導入を使用しなくても良い。
 最近、自我を持つタイプのアストラル意識体(現実世界に肉体を持たない、アストラル界だけに存在する生命体)が、自発的に特定のゲートを通じて現実世界に赴いているらしい事に気付く。以降、PCが自発的に興味を持って調査を始めるとする。
 <幽体離脱>や<霊覚>などを用いて、件の“自我を持つタイプのアストラル意識体”を見付け、話を聞こうとすると、ただ「肉の体が欲しい。肉の体をくれる人の所へ行く」とだけ言う。原則的に、意識体たちは「肉の体をくれる人」について詳しい話をする事を渋る。PCが、自分は味方であると納得させるに足るだけのロールプレイをするか、適当な特殊技能を使用するならば、何者か(=スプーキー)の隠れ家を見付ける事ができる。
 何者か(=スプーキー)の隠れ家には、意識体がウェブにイントロンできる特殊なトロン・オプションを備えた複数の端末がある。その端末には、幾つかのアドレスがブックマーク設定してあって、その内の1つは会員制のチャット・ルームで、その他は何か特殊な機器に接続されている。
 隠れ家の主(=スプーキー)は、異常を察知して逃亡しており、ここには戻らない。ちなみに隠れ家は何ヶ所もあるので、1つ2つが潰されても実害は無い。
 この後の具体的な調査に関しては、リサーチ・フェイズにて行ってもらう事とする。



導入4:アヤカシ

 アヤカシ用の導入。該当するPCがいない場合は、「アヤカシたちと友達付き合いしている」という設定の人間のPCでも構わない。或いは、この導入を使用しなくても良い。
 PCの友人にサニワという名の“夜の一族”がいる。ペルソナがアヤカシという人物で、“狩り場”での奉仕活動をたつきの道にして生活しているが、真面目な性格でアヤカシの未来と人間との共存を真剣に悩む理想主義者である。ここ数ヶ月ほど、PCはサニワと連絡が取れず「仕事が忙しいのだろう」と考えていたのだが、勤め先の“狩り場”の上司から「何ヶ月も欠勤しているのだが、何をやっているのか知らないか?」と問い合わせられ、急に心配になる。PCはサニワに2レベルのコネを持っていて、以降、サニワへの友情から自発的に調査を進めるものとする。
 狩り場の近くにあるサニワの部屋に赴くと、いなくなった日からここでは寝泊まりしていないらしい事が分かる。“身代わり符”などの高価な物も持ち出されているらしく見当たらない。ただ、ときどきは戻って掃除や家賃・公共料金の支払いといった事はしているようだ。
 部屋を探すと、机の下にメモ紙が落ちているのに気付く。何やらサイバーウェアの専門用語が書き連ねてある。サニワはそういった類の専門知識は持ち合わせてはいないとPCは知っている。どうやら、何かサイバーウェアを外注業者に製造依頼する為の交渉の仕事をしているらしく、その為に必要な専門用語を暗記する為に、紙に繰り返し書いていたらしい。
 メモの内容についてや、サニワと連絡を付けようとする試みに関しては、リサーチ・フェイズにて行ってもらう事とする。



導入5:借金取り立て

 PCは、知り合いのヤクザから借金取り立てを依頼される。相手は町工場を個人経営しているタタラで、「近い内に大金が入るので、それで返済する」などといっていたが、ここ何日か連絡が無いと言う。町工場はレッドエリアにあり、PCは適当に脅しを掛けるだけで良く、実際に金を回収する事までは求められていない。報酬は相場が提示され、PCはこれを受けるものとして進める。
 件の町工場は、上記“事前状況”の「特殊仕様オートマンの製造をスプーキーに依頼されていたが、その後、脅迫して金を強請ろうとした人物」である。強請り取った金で借金を返そうとしたが、その事からサニワの手で既に殺されている。PCが町工場に行くと、扉の鍵は開いていて、工場主は死んでいる。元々、従業員がいなかった事もあって、死後数日間もそのままにされていた。
 工場主は、<血族(夜の一族)>の影響下にある内に殺されたので、現場に抵抗の跡はない。自殺では無いし、レッドエリアに住む者としては無警戒が過ぎるし、犯人は親しい者と推理するのが妥当な状況である。
 犯人の遺留品は残されていない。ただ、工場には、直前まで生産していた“特殊仕様オートマン”が残されている。サニワは工場主に命じて自分たちに繋がりそうな物を全て処分したつもりだが、何らかの理由(工場主自身も失念していたとか、命令に抵抗する制御判定に限定的に成功していたとか)により、それだけは漏れていたのである。
 依頼主または警察に通報すれば、事後の処理はやってもらえる。町工場は依頼主が差し押さえ、暫くはそのまま保存される事になる。PCが希望すれば、以降も現場に立ち入る事はできる。以降、「純粋な好奇心から調査を始める」としても良いし、または「殺人犯が工場主の得た金を盗んだ可能性もあるとして、ヤクザに引き続きの捜査を依頼される」としても良い。何れにしろ、PCは事件に関わって行くものとして進める。



本編

 リサーチ・フェイズでは、各PC(特にタタラ系)に積極的に登場判定を行わせる事。判定は甘目にして、早い段階で全PCが合流するように誘導する事。

 以下の5つは、同一の物を指している。

●導入1の「タツロウ少年の体に埋め込まれていた特殊仕様オートマン」
●導入2の「謎の人物から製造を依頼されたサイバーウェア」
●導入3の「隠れ家にあった端末にブックマークされていた先の特殊な機器」
●導入4の「サニワが落としたメモから推測されるサイバーウェア」
●導入5の「殺された工場主が製造していたサイバーウェア」

 導入3と導入4の情報のみでは、<究極鑑定>を使用しない限り、“特殊仕様オートマン”の実像を掴む事は不可能である。
 導入1、導入2、導入5で実物または設計図を手に入れたならば、<製作:サイバーウェア>でも調査する事ができる。それらを調べた後ならば、導入2と導入4についての調査も行う事ができる。<超スピード作業>を組み合わせない限り、調査1点につき1シーンかかる。5つ全てが同一の物を指すと確信したいならば、5シーンかかる訳である。
 特殊仕様オートマンとは、ウェブ経由で他人の同型のオートマンと接続して、互いの肉体を交換するサイバーウェアである。導入3にあった端末を用いても肉体交換をする事ができるが、何れの場合もスロットの付いたIANUSが必要である。肉体交換するには、相手のIANUSのアドレスを手に入れた上で、支配下に置くパスワードを手に入れるか、或いはIANUSの電制値を越えるハックをしなければならない。
 肉体交換状態では、自分自身の技能全てを達成値“−5”で、肉体の持主の一般技能を推奨スート(組み合わせ不可)で使用できる。また、肉体の持主の表層的な記憶を知る事もできる。

 PCがサイバーウェアを調べる手段を自前で持っておらず、コネなどに頼った場合、調査1点につき2シーン掛かる上に、PCの行動がスプーキーの耳に入るものとする。この場合、「暗殺者が派遣される」「サニワは<夢魔>も使用できるものとして、舞台裏から精神攻撃を仕掛けて来る」などと展開する。

 以下に、導入別の調査結果を記す。詳細なストーリー展開、シーンの区切り、必要な判定などは、マスターが決定する事。

導入1  タツロウ少年の交友関係を調べても、特に何も分からない。苛められていた訳では無いが、影の薄い存在だったようである。教師も両親から聞いても同じ調子で、誰かに殺されたり自殺するような原因は思い至らない。ただ、今にして思えばここ数ヶ月は性格が明るくなったようにも思えるとの証言もある。
 飛び降りた現場や警察の調査記録を見ると争った様子は無く、自殺と考えるのが妥当にも思えるが、周囲の思惑から事故扱いにされているようである。
 タツロウ少年の体に埋め込まれた特殊仕様オートマンには、肉体交換相手のアドレスが幾つか登録されている。調べるとほとんどのアドレスの相手は似た境遇の子供だが、1つだけ、導入3と同様の隠れ家の端末に繋がっている。
 タツロウ少年が使用していたトロンを調べると、会員制のチャット・ルームのURLが判明する。導入3でも同じサイトのURLがブックマークされていた。ここにアクセスして(タツロウのIDとパスワードでは怪しまれるので、適当な技能判定で新規のIDを手に入れるか、ハッキングする必要があるだろう)、適当なロールプレイを行えば、何人かの少年少女から話を聞く事ができる。それによると、「タツロウは、肉体交換遊びの秘密を他人に漏らしたから殺されたのだ」という事である。頃合いを見計らって、PCの正体がバレた事にして、少年少女たちがアウトロンする事にする。状況によっては、サニワがネットを介して精神攻撃を仕掛ける展開にしても良い。
導入2  PCが警戒して早々と依頼を断っていた場合、特に得られる情報は無い。ただ、導入4のPCに依頼者の外見的特徴を話せば、それがサニワだと分かる。
 製造依頼を受け、さらにサニワの精神支配を受けた場合、1シーンに1回、サニワが<血族(夜の一族)>を掛け直しに来る。その抵抗に成功しない限り、厳密にはプレイヤー・シーンに入る事はできない。サニワが精神支配に来るシーンは、他のPCが登場できないマスター・シーンとして、早い内に「抵抗に成功して、サニワが撤退する」という展開にする事。その後は、特殊仕様オートマンの設計図を手に入れた上に、他のPCのリサーチのフォローに回る事になる。
 最初から精神支配を受けずに設計図を手に入れた場合も、同様に他のPCのリサーチのフォローを主体に動く事になる。
導入3  隠れ家にある端末は、<オーバーテクノロジー>で製作されたもので、意識体がウェブにイントロンする為の装置である。このセッション限りの特殊アイテムで、PCが自分の永続化アイテムにする事はできない。
 意識体は、この端末を通して人間の振りをして、チャット・ルームでお喋りをしたり、肉体交換遊びをしたりしていたと分かる。交換相手の人間が入る仮想現実ソフトの入ったトロンも、隠れ家に備え付けられている。
 特殊技能や神業で調査すれば、スプーキーと呼ばれる“人形の一族”がこのようなアイテムの研究をしていたと分かる。
導入4  サニワとのコネ判定に成功(スートが合うだけで無く、サニワの制御値を越えなければならないが)すれば、接触を取る事ができる。サニワは、原則的に自分のやっている事を秘密にしようとするが、ロールプレイ次第では「アヤカシが闇の存在でいるしかないのは、人間と比較してその数が少ないからだ。世の中には、肉体を持てずに苦しい思いをしている意識体がいて、彼らに実体を与えてやれば、それはアヤカシにとって明るい未来に繋がる。詳しくは言えないが、自分はそういう仕事を手伝っている」と明かす。
 PCがサニワを非難したり、コネを持たない他のPCを会見に連れて来たりすれば、以降は2度とコネ判定で会う事はできなくなる。PCが<トゥルース>や<インタビュー>を使用する場合、サニワは神業を使ってでも打ち消そうとする。
導入5  特殊仕様オートマンの生産数は、恐らくは数千から数万のオーダーに達すると分かる。製造を依頼した者が自分で製品を取りに来て、現金で決済していたらしく、その方面で特に証拠となる物はない。
 工場主の殺害に付いて、サニワのような“夜の一族”の能力を使用した可能性を考慮するならば、状況は肯定的である。

 メインとなるのは、肉体交換遊びをしている少年少女たちの調査である。彼らから上手く話を聞き出せば、「親切ごかして肉体交換遊びを仕掛けた人物=スプーキー」が浮かび上がって来る。特殊仕様オートマンは大幅な原価割れ価格で提供されており、とにかく流行らせる事が主眼だった事が分かる。
 タツロウ少年の特殊仕様オートマンや、導入3の端末に登録されていたアドレスを起点にしていけば、イモずる式に他の少年少女や隠れ家が判明する。プレイヤーに対して、「肉体交換を完全に受け入れて楽しみ、タツロウの死も当然のように自業自得と割り切るような“恐るべき子供”の気味の悪さ」や、「心の奥底では罪悪感を抱きつつ、それでも普通の人間になる事への憧れを抑え切れず、それで人間の体を操る事を堪能している“生まれ損ない”の悲哀」を次々と提示して演出して欲しい。状況によっては、少年少女たちと戦闘になるとしても良い。

 一通りの調査を終え、朧げながらにでも全体像が見えた頃、とある隠れ家でとうとうスプーキー本人と対決する事になる。



結末

 スプーキーは、複数の隠れ家を渡り歩いている。プレイヤーの様子を見て、ダレる前に最期の対決シーンにする。
 対決の場には、それまでに倒されていない限りサニワもいる。原則的に、スプーキーが倒されるまで、サニワは説得には応じない。
 PCの人数に応じて、適当な数のスプーキーの手下を登場させる。彼らは「スプーキーによって肉体を得た、元“生まれ損ない”」または「目覚めた新参者アヤカシ」である。その様子はさながらスプーキーの操り人形で、こういった手下を得る事こそがスプーキーの真の目的だと嫌でも悟らされる。

 旗色が悪くなればスプーキーは、<ディスアペア>を使用して逃げ出そうとする。これを防げなかった場合、「スプーキーの計画は失敗に終わったが、元凶である本人は取り逃がす」という後味の悪いオチを迎える事になる。

 <ディスアペア>を1回使用するだけでは癒せないだけの致死ダメージを与えるなどすれば、スプーキーは見苦しい最期を遂げる。流石にそれを目にした上では、遅まきながらサニワや手下たちも真相を悟らざるを得なくなる。この状態でならば、ロールプレイ次第で説得も可能である。彼らの処分に関しては、PC次第である。



さいごに

 「ある金持ちが、弱みに付け込んで桃売りの美しい妻を奪う。妻は笑う事を忘れ、金持ちは何とか笑わそうとする。あるとき、桃売りの掛け声を聞いて妻が笑ったのを見て、妻を連れて金持ちは外へ飛び出し、桃売りと服を交換する。桃売りの真似をして妻を笑わせ、満足したところで金持ちは屋敷に戻ろうとするが、桃売りの服を来た金持ちを誰も“金持ち本人”だと認めてくれない。結局、金持ちの服を着た桃売りが屋敷の主として認識され、妻と幸せに暮らした」という昔話が元ネタである。
 有名な話だが、たまたま目にした小冊子に乗っていたので、「これをお題にしてシナリオを捻り出そう」と頑張ったのだが、なかなかの難産だった。映画化で話題になった宗田理の『仮面学園』が参考になるかもしれないと思って読んだが、リアリティの無い軽薄な展開に食傷しただけで得るものは少なかった。

 何とか形にしたが、上手く行くかどうかは、設定に対してどれだけプレイヤーがリアリティを感じ、共感してくれるかに掛かっているだろう。その辺り、マスター諸氏が気に入らない点はどんどん手直ししてから使用して欲しい。




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