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0083 将軍と呼ばれた男 天羅万象 00/07/30



はじめに

 このシナリオは、『天羅万象』使用を想定して書かれた。
 しかし、様々なジャンルのRPG用への改造も可能である。

 『天羅万象』を使用の場合、金剛機とヨロイ乗りのアーキタイプは使用を禁止した方が良い。



登場NPCおよび重要事項

鬼の長老 故人。かつて鬼の隠れ里の長老だった男。陰陽術と特殊な神通力を会得している。人間の軍隊の侵略に際して、遺跡の力で民人を遠隔地に逃し、自分は独り残って永続化した式で対抗した。式を指揮する様から、人間は彼を“将軍”と呼んだ。
新しい領主 舞台となる辺境の盆地の支配権を新たに手に入れた男。辺境の盆地からバケモノを追い出して開拓したいと思い、PCを雇って調査をさせる。
バケモノ かつて鬼の長老によって造られた、永続化した式。「武装しているモノだけを襲え」という命令に従って、辺境の盆地内にて多数がうろついている。データ的には、アーキタイプのサムライ(ただし常にサムライ化状態)とする。
学者 辺境の盆地の第1次調査団唯一の生き残り。PCの御目付け役も兼ねて第2次調査団に加わる。実はシノビだが、必要がなければ最期まで正体を明かす事はない。



事前状況

 とある辺境の地では、妖とも永続化した式ともつかないバケモノが跳梁跋扈していて、よほど腕に覚えが無ければ足を踏み入れられない有り様である。周囲を山に囲まれる盆地で木々が生い茂る薄気味の悪い土地だが、地味は豊かと言われている。
 ある領主は、戦争に勝った余録にこのバケモノが住まう辺境の盆地の所有権を手に入れた。今のままでは何の役にも立たない土地だが、「地味が豊か」という話が本当で、バケモノを駆逐する事ができれば大きな収入源になる。そこで人を雇って調査団を派遣した。
 学者とその護衛からなる第1次調査団は、結局、学者1人を残して全滅した。生き残った学者(実はシノビ)の報告で、以下の3つが判明した。

@持ち帰った土などを調べた結果、「地味が豊か」という話はまず間違い無い。開拓民を送り込めば、短期間の内に税収の出る土地になると思われる。

Aバケモノの力と数は半端では無い。仮にバケモノ全てを駆逐するならば、それこそ大隊規模の数のサムライを雇い入れて長期間の遠征に出さなければならず、諸費用を試算するとそんな莫大な投資ができる資金繰りはつかない。

Bバケモノは無差別に襲い掛かっている訳では無い。実は、武装していない丸腰の者は襲わない。ただし、斧や鋤鍬、それに棒切れですら武器と見做される。場合によってはゴテゴテとした服を着ていたり、大きな荷物を背負っている者も襲われる。

 裸に近い格好ならばバケモノに襲われない訳だが、当然ながらそれでは開拓などできない。

 さて、このようなバケモノが住まう土地ができた真相は、以下の通りである。

 その昔、ここには鬼の一族が住んでいた。他からの干渉を受けずに平和に暮らしていたが、あるとき、人間の軍隊が攻めてきた。軍隊は狂信的で、投降を受け入れる様子も無く、鬼たちが気付いたときには既に包囲は完了していた。
 鬼の長老は、陰陽術と特殊な神通力を会得していて、止むを得ずその力を十二分に振るった。まず、心苦しいながらも仲間の墓を暴いて“心珠”を集め、それを元に永続化した式を大量に打った。式に余り複雑な命令はできないので、人間だけを襲わさせる為に「武装した者を攻撃しろ」と命令した。
 大量の永続化した式のお陰で、「人間による一方的な虐殺」だった戦いは膠着状態になった。しかし、軍隊にはシノビもいて何時どんなからめ手を取って来るやもしれなかったし、篭城する立場の鬼は先行きが見えず脅えきっていた。この地に留まる事の限界を悟った鬼の長老は“テレポート・ゲート”の使用を決意した。
 “テレポート・ゲート”とは、一部の鬼だけに伝承されている誰が作ったのかも分からない古の遺跡で、特殊な神通力を注ぐ事で起動する。“テレポート・ゲート”は遠く離れた2ヶ所が一対になっていて、力を注いで“扉”を繋げる事で、一瞬で行き来ができるようになる。そのときまで“テレポート・ゲート”を使用した者はいなかったが、鬼の長老はそれを起動する特殊な神通力を持っていたのだ。
 そうして鬼の民は、秘密裏に遠隔地に移送された。しかし、長老自身は“扉”の入口を閉鎖して独り残った。“扉”が発見されないように守る為という理由もあったが、やはり「仲間の墓を暴く」という呪われた行為に及んだ以上、生き残る気はなかったのである。
 その後も幾度か人間の軍隊が攻撃を仕掛け、鬼の長老は式を率いて頑強に抵抗した。いつしか人間たちは、「ここにいる鬼は独りだけで、残りは式だけだ」という事実を把握し、鬼の長老を“将軍”と呼ぶようになった。そしてとうとう鬼の長老が敵弾に倒れた。率いる“将軍”が死んでも式たちは「武装した者を攻撃する」という命令を実行した。
 その時点で、人間の軍隊はかなり疲弊していた。「鬼は死に絶えたが、それでも式は無差別に襲い掛かって来る」という事実は、兵の士気を著しく下げた。
 何しろ、「汚れた存在である鬼を根絶やしにする」というお題目は達成してしまった。
 また、「“心珠”を得る」という実利面でも、どうやら将軍(=鬼の長老)が全ての“心珠”を式を打つのに使ってしまったようなので期待できないない(一度、サムライに埋め込んだり永続化式に使った“心珠”を掘り出しても再使用できない)。
 野戦を張るのも体力を消耗したし、結局、下からの突き上げもあって軍隊は撤退し、その後も二度と攻めて来る事は無かった。
 長い年月の内にこの辺境の地を治める立場の領主も変遷していき、この事件を正確に伝える記録も失われていた。

 そして今、辺境の土地の新しい領主は、第2次調査団の派遣を計画した。



導入

 PCは、上記“事前状況”の領主に雇われ、第2次調査団員として辺境の盆地に赴いて「バケモノを無力化する方法」ないし「バケモノが丸腰の者を襲わない理由」を探る事になる。第1次調査団の調査結果は全てPCに伝えられ、報酬も結果に応じて十分なだけ貰えると約束される。
 プレイヤーがこの導入に乗れないという場合は、「たまたま辺境の盆地に流れ着いて、興味から他のPCと同道する事になった」というのでも構わない。この場合は、任務に対する責任を全く負わない自由な立場でいられるが、報酬は少なくなるようにする。
 ともかく、辺境の盆地へ行くという事だけは納得してもらう事。

 PCには、第1次調査団員の唯一の生き残りである学者が同行する。この学者の正体はシノビで、PCのお目付け役も兼ねている。ただし、いちいち細かい背任行為までは追求しない。PCが真面目に調査して正直に報告する限りは、正体を明かすような真似はしない。



本編

 領主の元を出発したPCは、辺境の盆地に到着する数日前に、小さな町に到着する。この町は、かつて鬼の村を攻めた軍隊の居城があり栄えたのだが、既に昔日の面影は無く、今では村に毛の生えたような集落に過ぎない。一応は依頼主の領土であり、PCが正体を明かせば物資調達などの便宜が計ってもらえる。これより先に住まう人はいないので、ここで改めて食料などの補充をして旅立つ事になる。
 町長は、かつて城に保管されていた高価では無い物を譲り受け、倉に仕舞っている。全く整理されていないが、バケモノに関する記述のある書類もあると言う。ここでPCが、それを調べるように誘導する。
 書類はまとまった記述がなされている訳では無いが、断片を拾い集めて繋ぎ合わせると、以下の事柄が浮かび上がる。

@当時の領主は、盆地にバケモノが住むと聞き、軍隊を引き連れて退治に向かった。

Aバケモノにはリーダーがいて、当時の領主側はそれを“将軍”と呼んだ。膠着状態に陥っていた為に、“将軍”を暗殺して事態の打開を計るが、“将軍”を失ったバケモノは無差別に人を襲うようになった。

Bついに戦線を維持できず撤退した。以降は国力の低下や外敵に脅かされていた事もあって、二度と派兵される事は無かった。

 “将軍”を暗殺したという場所については、幾つかヒントになる記述がある。現地にて、<追跡/知力>などの適当な難易度の技能判定に成功すればそこへ行く事ができる。

 町を出て数日進むと、カルデラ型の山のような地形の場所に行き着く。余りきつくない山道を登り、高台に至ると、その下に広がる盆地を眺める事ができる。降りるのに適した場所が幾つかあり、すぐに盆地内部に入る事ができる。
 武器を持って行ける限界は、この高台である。ヨロイや金剛機は立ち入るだけで攻撃対象になるし、武器及び武器に準じる物、武器を隠せそうな荷物を持ち込む場合も同様である。
 クナイ、蟲、式紙など小さな物に関しては、袋の奥に仕舞うならば大丈夫である。「咄嗟のときにすぐに取り出せる所」に隠し持つ場合は、式との適当な対抗技能判定に成功する必要がある。ちなみに、NPCの学者(シノビ)は、咄嗟に出す事のできない食料袋の奥にクナイを隠している。

 盆地内では、そこかしこにバケモノがうろついている。陰陽師(陰陽術が仕えるPC)ならば、バケモノとは永続化した式だとすぐに分かる。それ以外のPCでも、適当な判定に成功すればそうと分かる。
 武器を持ち込んだ場合は、休む間の無い波状攻撃を仕掛けられる。足を止めて戦えば、囲まれて力尽き倒れるのは必至である。常に移動しながら戦う場合、バケモノたちの連携の悪さに助けられて相手にするのは1人につき1体だけで済むが、倒しても間断無く次の相手が挑んで来るのでジリ貧となる。PCが「第1次調査団の報告は本当かどうか調べよう」として敢えて武装を持ち込んだ場合は、その正しさを理解した上で安全地帯に逃げ出せるように演出する事。
 また、武器を持たずとも攻撃されればバケモノは応戦する。無力な振りをして術法などで倒すといった「騙し討ち」が上手く行くのは最初だけで、やがて対応され、例えば「式を打つ動作」なども「武器を構える行為」と認識するようになってしまう。

 原則的に、バケモノと戦闘しながら調査活動を行うのは不可能である。以下、PCが非武装でいるものとして進める。
 盆地内を適当に調査すると、昔の戦いで死んだ人間の白骨死体が野晒しになっているのを見付けたり、鬼が葬られている墓を発見したりする。PCが墓を見付けて暴くならば(暴くときに道具を使うとバケモノに襲われる事に注意)、骨格から死体は鬼らしいと分かるが“心珠”は無い。
 “将軍”の暗殺現場を調べて行ってみると、そこには石でできた高さ3メートルくらいのオブジェがある。この石のオブジェこそ、“テレポート・ゲート”である。その周辺をよく探すと鬼の長老の白骨死体が埋まっていて、肋骨の中に通常とは色合いの異なる大きな心珠が収まっているのを見付ける。心珠を手に取ると、どうした作用か、“テレポート・ゲート”が起動する。
 起動した“テレポート・ゲート”を適当な技能で調べれば、おおよその機能を推察する事ができる。「紐を付けた石を投げ入れて、引っ張る」などしても異常はなく、行き来はできそうに思える。中に入るのをPCが躊躇う場合、NPCに「この事を領主に報告したとして、そこで『では、次回は中に入って調査してくれ』と言われるだけですよ」などと言わせても良い。

 “テレポート・ゲート”を潜ると、何処とも知れない痩せた土地に出る。向こう側の“扉”の近くに鬼の末裔が集落を作って暮らしている。PCたちの出現を近くで遊んでいた鬼の子供が目撃して、驚いて走って集落に戻り大人に報告する。やがて大人の鬼がやってきて、警戒心も顕に誰何する。PCが友好的に接して、「遺跡調査をしていたら、急に“テレポート・ゲート”が開いた」といった類の言い訳を使うならば、鬼の方も質問を受け付けてくれる。以下に回答例を挙げるが、あくまでPCが問う事にしか答えない。

 質問例  回答
@  “テレポート・ゲート”の向こう側の場所について何か知っているか?  かつて自分たちの祖先が住んでいた。祖先は、向こうで人間に迫害を受けてこちら側に逃げた。
A  バケモノについて何か知っているか?  祖先が逃げるときに、時間稼ぎの為に造った物が今でも残っているのだと思う。正体はよく分からない。
B  人間の軍隊が“将軍”と呼んだ男について何か知っているか?  “将軍”と呼ばれたかどうかは知らないが、祖先の脱出の時間稼ぎをする為に、当時の長老が独りで残って戦った。
C  祖先が住んでいた土地に帰りたいか?  今の暮らしは苦しいが、幾ら地味が豊かでも人間に襲われる危険の高い以前の土地には帰りたくない。

 長命な種族である鬼たちの何人かは、実は今でも生きて達者で暮らしている。しかし敢えてその事には言及しない。いかにも「先祖の話なので詳細は伝わっていない」といったふうを装うが、実際は当時の事は良く知っている。「当時から生きている者がいる筈だ」という事は、鬼のPCまたは適当な技能判定に成功したPCならば気付く。指摘した場合、動揺の色を見せながら「生き残りもいるが、当時の話をしたがらないので私(交渉担当の大人の鬼)は詳細を知らないのだ」と言い訳する。
 回答Aに関して、PCが「仲間の墓を掘り起こして得た心珠で、永続化した式を造ったのだろう」と指摘すると、鬼たちはムキになって否定する。しかし、筋の通った嘘はつけない。
 鬼の村の今の場所は、砂漠に囲まれた貧しいオアシスで、けっして暮らし易くない。周囲に人影が無く外敵の心配はしなくて良さそうだが、万一にも井戸が干上がりでもしたら、逃げ場も無く乾き死にするしかない。そういう訳で、特に回答Cは、本音では無い。
 鬼たちは、可能ならば昔の“地味豊かな盆地”に帰りたいと考えているが、“テレポート・ゲート”を開く手段を知らない。PCの登場で帰還の見込が生まれたので、その方法(長老の心珠に手を触れるだけで良い)を知りたいと思いつつ、迂闊な言動でPCに弱みを見せないように気を付けている。強がって、「純粋な興味から訊ねるが、どうやって“扉”を開いたのだ?」といった言い回しをするが、心から知りたがっている事は傍目にも明らかである。
 バケモノ(=永続化した式)を休眠状態にする方法は、鬼の長老から聞いて知っている。神通力を使える者ならば、やり方を聞いただけで誰でも可能である。ただし、細かいプログラム変更はできない。
 “地味豊かな盆地”に帰ったら帰ったで、再び外敵に襲われる危険があるが、“テレポート・ゲート”とバケモノがあれば何とでもなると、鬼たちは考えている。



結末

 PCが同情的で全面協力するならば、鬼たちは次第に心を開いて隠していた事を改めて話す。
 この場合、NPCの学者(=シノビ)が敵に回る。表向きはPCと同じ志のように振る舞うが、隙を見て「バケモノを休眠させるやり方を知っている鬼を誘拐する」とか「長老の心珠を盗んで、鬼たちの目論見を崩す」といった行動に出る。この学者への対応でクライマックスを演出して欲しい。

 PCが領主の依頼に忠実で、バケモノを休眠させるやり方を聞き出そうなどとするならば、鬼たちは頑強に抵抗する。村にPC並の戦闘力を持つ鬼はいないので、PCが武器を持っていないというハンデがあっても負ける気遣いはない。結局は「大多数を虐殺した上で、子供を人質にして聞き出す」といったオチになるだろう。
 この場合、NPCの学者は正体を現さない。

 その他、「鬼たちを砂漠の村に残して帰り、そのまま依頼主の元にも戻らず逐電する」といった展開もあるだろう。NPCが何を望んでいるかを考えて、マスターはそれぞれに対応して欲しい。



さいごに

 ある夜に見た夢が元ネタである。
 当初、『ロールマスター』を使用し、“鬼”=“ウォウズ族”、“バケモノ”=“プーケル人”とした。他のシステムを用いる場合は、同様に「支配階級種族から蛮族と蔑まれる人々」と「彼らが操るゴーレム等」に置き換えてもらえば良い。

 「面倒を嫌って答えを出さず原状復帰で終わらせる」という選択をするプレイヤーの対策の為に、「学者の振りをしているシノビ」を登場させた。クライマックスやオチに困るならば、このNPCを上手く利用して欲しい。




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