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0082 フランス新幹線襲撃 TORG 00/07/23



はじめに

 このシナリオは、『TORG』専用である。

 PCの内、サイバー教皇領の出身者がいる方が望ましい。



登場NPCおよび重要事項

リュック 表向きは長年に渡り教皇に仕えてきた忠実な司祭だが、心の内は現体制の打破を願っていて、獅子身中の虫として機会があれば反体制派へ無言の便宜を計っている男。今回の事件の依頼者にして黒幕。
ネット生命 ゴッドネットで自然発生した自我を持つプログラム生命体。今はまだ何の力も持たないが、将来、ゴッドネットを通して教皇の支配体制を打ち破ってくれるかもしれないと期待されている。



事前状況

 フランスのサイバー教皇領は、元々は中世暗黒時代風のキリスト教世界だったのだが、ある事件が切っ掛けで高度な科学力を手に入れ、奇跡と科学のレベルの高い世界法則を持つに至った。教皇ジャン・マルローは、全土を覆うサイバーネットワーク網“ゴッドネット”を敷設して、国民を直接管理していた。
 しかし、元々は科学を「悪魔の教え」としていた宗教レムルだったのであり、方針の急変を快く思わない司祭たちも多かった。特に“ゴッドネット”は、しばしば反体制派につけこまれるネタになっていて、“反科学派司祭”の中ではよく槍玉に上げられていた。
 確かに、ゴッドネットの出現で色々と便利になった点もある。また、ネットの上位層のセキュリティは非常に厳しいもので反体制派に突破された事は無い。しかし、科学力が無かったときにも国民の絶対統治をしてきたという実績があり、必要不可欠が故にゴッドネットが取り入れられた訳でも無いのも事実である。
 見方を変えればゴッドネットの存在は、「従来は考えられなかった、納得のいかない思いもよらない経過での敗北」を喫する可能性を持ち込んでしまったとも言えるのだ。
 結局の所、優れているからではなく、教皇が支持しているからこそゴッドネット政策が採られているに過ぎないのである。

 リュックという名のサイバー司祭がいた。表向きは長年に渡り教皇に仕えてきた忠実な司祭だが、心の内は現体制の打破を願っていて、獅子身中の虫として機会があれば反体制派へ無言の便宜を計っている。リュックは、ゴッドネットの特性を正確に理解しており、来るべき日までゴッドネットを守りつつもその弱点を探っていた。
 あるとき、ゴッドネットの一部に自我を持つプログラム……つまりネット生命の萌芽が生まれた。それは一見すると、ゴッドネットにアクセスしている人間のようでも、ただのプログラムのようでもあったが、確実に1つの生きた自我を形成していた。誰が作った訳でもなく自然発生したネット生命の存在を知ったリュックは、これこそが教皇に勝利する鍵だと確信した。しかしネット生命は未だ力弱く、放っておけば消滅させられるか、それとも逆に危険視されてゴッドネット政策が取り止められてしまうかもしれない。
 そこでリュックは、このネット生命を捕獲・保護する事にした。

 ネット生命は、侵略以前は独立した閉鎖回線だったTGV(フランス新幹線)用指揮管制ネットワークを母胎にしていた。そこも今ではゴッドネットの一部に属しているが、その由来から比較的リンクされている枝が少ない。よって、ネット生命のコアが特定のハードウェアに存在している間にそこを繋ぐケーブルを物理的に切り離してしまえば逃げられなくなる。そこをハードウェアごと持ち去るという計画をリュックは立てた。

 リュックには、反体制派の顔としての部下はごく少数だった。その部下たちは、ネット生命のコアの現在位置の把握をするのが精一杯で、「ケーブルを切り離す」という仕事に回せる手駒は無かった。そこで危険はあるが、「全く面識の無い反体制派構成員を真実を告げずに操って、普通のテロ行為と思わせておいてケーブル切断作業をやらせる」という手段を取る事にした。
 ネット生命を閉じ込める場所として、ジュネーブ駅寄りの田舎町が選ばれた。そこならば、切断するケーブルは1ヶ所だけで済むし、中央から離れているので活動し易かったのだ。
 そして、「サイバー司祭であるリュックが、TGVでエタニティー・シャードを輸送する」という偽情報を流した上で、“全く面識の無い反体制派構成員”に「そのエタニティー・シャードの奪取」を依頼した。



導入と本編

 上記“事前状況”にある“全く面識の無い反体制派構成員”として、たまたまフランスに滞在していたPCたちが選ばれる。
 依頼は、以下のようになされる。

「自分は、反体制活動家の1人である」 「教皇は、ナイル帝国のハイロードのDrメビウスと何らかの取り引きをして、代価にエタニティー・シャードを渡そうとしている。ハイロードたちにエタニティー・シャードを渡す訳にはいかないので、ぜひ奪い返したい」
「エタニティー・シャードは、あるサイバー司祭が手ずから運ぶとの事で、リヨンからジュネーブまではTGVを使うという事だけが分かっている。警備状態から考えて、最もチャンスが大きいのはTGVの乗車中である」
「そこで、TGVの送電ケーブルを切断して列車を止め、その隙にサイバー司祭を襲ってエタニティー・シャードを奪う計画を立てた。PCには、その実行部隊となってもらいたい」
 依頼人は、これまで幾つかの反体制活動を成功させた実績を持つ人物を名乗っていて、一応は本人だと思われる。サイバー司祭がTGVに乗る話も裏が取れ、依頼人の説明は筋が通ってはいる。罠でないかと疑えば幾らでも疑いようがあるが、地下活動を行う立場では、これ以上の確証を得る事は無理である。
 ここで、この依頼をPCが受けるものとして進める。PCが求めるならば、“活動資金”という名の報酬を前渡しでもらえる。

 PCには厳密なタイム・スケジュールが渡され、それに従ってケーブルを切断して、止まった列車を襲撃する事が求められる。罠を疑って様々な手段を駆使して裏を取ろうとするだろうが、例えば騙し討ちの為の伏兵などは本当に存在しないのだから、基本的に怪しい情報は何も得られない。
 敢えて不信な点を上げれば、「ケーブルは電力用だけでなく通信用も一緒に束ねられている」という点と「幾ら調べても、Drメビウスとの密約が交わされたという痕跡が見付からない」という点である。PCが事前調査に力を入れるようならば、この2点を伝えても良いが、それで依頼をキャンセルするような方向にならないように気を付ける事。
 ケーブル切断と列車襲撃は、適当な難易度のABCD行為判定をさせて盛り上げる事。最終的にPCは、TGVに乗るリュックの所に辿り着き、彼が所有していたエタニティー・シャード(ポシビリティを何ポイントか貯蔵する能力を持つだけの力の弱い物)を“奪取”する事ができる。
 リュックは、こんな事で死ぬ気はないので無抵抗でいる。PCが見逃すなら良し、捕えられても後で「“依頼人”が利用価値のあるサイバー司祭の引き渡しを求める」とすれば良いと考え、万事上手く行ったと安心する。
 しかしそう思ったとき、サイバーウェアとして内蔵されている通信機を通して部下から「作戦失敗」の報が入る。それによると、ネット生命を捕獲してコアの入ったハードウェアを切り離す所までは上手く行ったのだが、その現場を地元の警官に見咎められ、奪われてしまったと言う。部下たちは逮捕されたり逃亡に手一杯だったりで、とても警察からハードウェアを回収する事までできそうにない。
 リュックは止むを得ず、何もかもをPCに明かして非礼を詫び、ハードウェアの回収を改めて依頼する。



結末

 恐らくリュックの2度目の依頼が断られる事は無いだろう。PCが不信な気持ちを拭えないならば、リュックはそれこそ腹でも切って見せるので、上手く誘導して欲しい。
 PCが納得すれば、次は「サイバー教皇領の命運を分けるかも知れないモノを保管しているとは知らない田舎の警察署」から、ネット生命の入ったハードウェアを奪うミッションに移行する。
 警察署の構造、敵となる警官のデータなどについては、マスター側で用意して欲しい。

 ネット生命を無事に回収すると、リュックは「きちんとした人格を持つまで閉鎖環境で育てる。救世主になるかどうかはコイツ次第だが、希望は大きい」と最期に語る。



さいごに

 山田正紀の『襲撃のメロディ』を読んで思い付いたシナリオだが、元の小説とはほとんど似ていない。
 事実上、一本道の戦闘シナリオだが、プレイヤーの乗り具合を見て調査や交渉の比重を増やすなどの調整をして欲しい。




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