No. タイトル システム 登録日 改稿日
0081 狂王の試練場 天羅万象 00/07/23



はじめに

 このシナリオは、『天羅万象』使用を想定して書かれた。
 しかし、様々なジャンルのRPG用への改造も可能である。



登場NPCおよび重要事項

狂王 サムライにして陰陽術師。今は滅んだ国の領主だった男。自らの趣味の為に国家財政も国民感情も無視して、政治的にも戦略的にも意味の無い城を次々と築いた為に、臣下によって城に閉じ込められた。PC全員と同等の戦闘力を持つ。以下にデータ例を示すが、PCの実態と合わない場合は修正する事。

体力 敏捷 知覚 知力 心力 共感
戦闘系技能 上級
意志力 上級
陰陽術 上級
その他の技能 無〜中級
サムライ能力 戦闘能力:7
感知能力:3
再生能力:2
憑依能力:3
消費霊力:4

警備装置 狂王を捕えている城の警備装置。普段は、合戦絵巻を観客に見せる彫刻やカラクリとして使われているが、指令が下ると目標に襲い掛かる。本丸用と、外側用の2系統があり、それぞれがPC全員と同等の戦闘力を持つ。データとしては、アーキタイプの戦闘用傀儡のものを流用するが、演出的なバリエーションとして近接攻撃タイプ、長射程飛行タイプなどが登場する。複数体が波状攻撃を仕掛けて来るので戦闘回数は10回を越え、いちいちサムライ化等をしていては霊力がもたない。なお、PCの実態と合わない場合はデータを修正する事。



事前状況

 百数十年前、とある地方に“狂王”と呼ばれた領主がいた。領国一の使い手であるサムライにして、古今東西の秘術に通じた陰陽術師でもあるというスーパーマンだったが、即位以来その能力を政治に生かそうとせず、ひたすら趣味の道を究めた。
 狂王は築城マニアだった。国家財政も国民感情も無視して、政治的にも戦略的にも意味の無い城を次々と築いた。城その物は、美しく、最新の技術が惜しみなく投入された素晴らしい建築物だったが、とうとう付いていけなくなった臣下たちが狂王の暗殺を決意した。
 しかし、狂王は存外に保身に注意を払っていて、そう簡単に暗殺できそうになかった。
 ある城を築く際に、カラクリの動力兼制御装置として多数の霊魂が用いられた。城のあらゆる設計を自分独りでこなした狂王も、法術に関しては流石に門外漢で、霊魂に刻む“プログラム”は仕様を法術師に渡して実作業に当たらせていた。そこで臣下たちは法術師を抱き込んで、中に入った者は二度と外に出る事ができないように仕込んだ。狂王以外の道連れを伴う非情な罠だが、国の実態を知る法術師は協力した。

 そうして狂王は、落成式の日に、彼にとって最期のとなる城に囚われた。狂王が用意した全ての防犯装置が外へ出ようとする者を攻撃するように働き、然しもの狂王もその全てを押しのける事はできなかった。狂王が事態を把握して落ち着きを取り戻した頃には、一緒に中に入った共の者の大半は自決し、或いは忠実であった者も散発的に脱出を試みて死に絶えていた。
 結局、狂王は「自力での脱出は不可能」と判断した。外へ出る為には、自分と同等の力を持つ者の協力が必要だが、そんな人間がすぐにやって来るとも思えない。狂王は、その場にあった資材を流用して“冬眠装置”を作り、何者かが侵入して来るまで眠りに就く事にした。

 臣下たちは、城の回りに土を盛って隠し、その存在を抹殺した。後に他国に攻められて領国が滅亡したときも、狂王が封ぜられている城は人気の無い山奥にひっそりと佇む事となった。



導入

 上記“事前状況”にある狂王最期の城に関するほとんど全ての記録は抹消されていたが、ごく一部だけ残っているものもあった。「ずっと前に滅んだ国が、辺境の山奥に埋蔵金を隠したらしい」という誤った断片的な情報を掴んだ者たちが、宝捜しのつもりで城を目指した。しかし、辿り着く前に野盗に襲われてしまい、生き残った1人がなんとか近くの宿場町に逃げ込んだ。
 生き残りは瀕死の重傷を負い、気力も萎え、路銀も尽き果てている。城の場所を示す古文書を小額で良いから換金したいと考えている。宿場町にはたまたまPCがいて、この生き残りから話を聞き、後を継いで宝捜しに乗り出すものとする。なお、PC以外には宝捜しに参加する者はいない。



本編

 宿場町や、その近辺の町で下調べをするならば、下記の事が分かる。

@古文書の示す地点は、百年ほど前に滅亡した国の辺境地方で、当時から人はほとんど住んでいなかった。

A古文書に記された時代は、その国が滅亡する2〜3代前の領主の治世で、彼は狂王と呼ばれ領民から酷く恐れられていた。ただ、景気は良かったようで、当時に築かれて今も残る城は非常に豪奢である。

B狂王の最期については記録が残っておらず、暗殺説もある。

C現在はとある大国の領土となっているが、辺境地方に探索隊を出したという話は聞かない。

 古文書は、首都から辺境へ資材を送る為の作業命令書で、その当時に書かれたものであるのは間違いない。ただし、常識のある者ならば埋蔵金の実在を眉唾に感じるのは当然だろう。PCとしても「遊び半分で行く」という事で、プレイヤーに納得してもらう事。

 目的地は、宿場町から1週間ほどかかる所にある。途中で野盗に襲われるが、PCが楽に撃退できる強さに過ぎない。
 そして、PCは古墳のような盛り土のある所に到着する。自然の山には見えず、期待していなかった者でも「ひょっとしたら」と色めきたつに十分な様相を呈している。適当な技能判定に成功して、幾らか掘り進めば、入口らしきものを発見する。
 百年以上も塞がれていたので、扉は固く閉じている。数人がかりで力を合わせて何とか開けると、中に入った瞬間に人工照明がボッと灯り、心地好い温度の風が吹き抜ける。

 元々、用心深い狂王を罠にはめる為の仕掛けなので、PCが通り一遍の注意を払っても「入れるけれども出られない」事には気付く事ができない。例えば、引き返しができなくなる分岐点は入口でなく、少し進んで扉を2つほど通った先の廊下の途中の何の目印も無いところにある。式を先行偵察に出した場合、途中で幾つも鍵のかかった扉があるので、「全域をぐるっと見て回らせる」という事はできない。
 PCが“引き返し不可能点”を過ぎた段階で、狂王は冬眠から目覚める。狂王は、城の監視機器を操る事ができるので、以降はPCを見張る事になる。
 城は和洋取り混ぜた様式の美しい内装で、あちこちに有名な合戦絵巻をモチーフにした絵画、彫刻、ジオラマのような展示品が設えてある。PCが興味を持って近付けば、それを察して物語を再現する仕掛けが動き出す。厨房は西洋風のシステムキッチンで、そこからエレベータを使って食堂に料理を出す仕組みになっている。その他、万事がその調子である。
 全ての機能は今でも生きているが、外部からの補給が必要なものは使用できない。例えば食堂のテーブルにつけば、カラクリ仕掛けの女中が現れて「大変申し訳ありませんが、本日の食材の配達が遅れておりまして、食事の御用意ができません」などと言う。また、入ってきた場所以外の入口に通じる扉は固く閉じている。

 狂王を閉じ込める仕掛けは、二層構造になっている。狂王が囚われている本丸中央に一段目の仕掛けがあり、ここから出ようとすると、本丸に置かれた警備装置やその他のカラクリが攻撃してくる。そこを突破して、次に城自体から外に出ようとすると、城内の警備装置他が動き出す。狂王は、この二段構えの内のどちらか一方だけならば自力で突破できると見込んでいる。
 狂王は、以下のように展開する事を期待して事態を見守っている。

@外側の警備装置他をPCが破壊して、城から去る。

A本丸の中にまで入って来て一蓮托生の運命になる。

 狂王は外界の様子を知らないが、それなりに予想は付けている。城に入って来たPCが味方かもしれないなどと甘い考えは持っておらず、警備装置他と戦った後の弱った状態でPCと対面する気はない。よってできれば@になって欲しいと願っているので、当初はPCの挙動をただ見守っている。本丸への道筋の途中に隠し扉や迷路のような通路は無いので、PCが望めば、どんどん奥に進む事ができる。
 本丸の手前まで来ると、狂王はマイクを通してPCに「この城は、入る者は拒まないが、出ようとする者を攻撃する。今出ようとすれば、まだお前たちの敵うレベルの相手をするだけで済むが、これ以上進めばさらに強力な仕掛けと戦わなければならなくなるぞ」と声を掛ける。PCが、声の主の正体を訊ねれば「城の罠にはまった亡霊」と名乗る。狂王その人かと指摘されれば、「さて、どうかな?」と逸らかす。



結末

 忠告に従い(或いはPCの独自判断で)本丸に進まずに城外に出ようとする場合、城の外側の警備装置他と戦闘になる。PCが本気で当たれば、一戦一戦は危くないレベルだが、確実に霊力・気合が削られ、後半戦は通常の素の状態で戦い抜かねばならなくなり、満身創痍で外へ出れるかどうかというレベルである。
 PCが外へ出ようとするのを止めれば攻撃は中止される。ただし、休息して霊力を回復してから再戦しようとしても、その時間に警備装置他も補修を受けてしまう。その模様をPCが目撃するように演出すると良いだろう。その他、裏技的な対応は、高度な判断能力を有する警備装置他には通じない。

 忠告に従わずに本丸の中までに入れば、狂王に出迎えられる。ここでPCが改めて事情を訊ねれば、狂王本人である事を認める。「狂王と呼ばれたのは、当時の軍事バランスを崩す勢いで周囲に覇を唱えたからで、自分としてはむしろ尊称のつもりで受け取っていた。旧態依然とした慣習を無視した政策を取り国力を上げていったが、それを快く思わない臣下に裏切られてここに閉じ込められた。冬眠装置のお陰で百年の年月を生き延びた」と僅かながら真実を混ぜた嘘でPCを言いくるめようとする。
 PCに共闘を申し入れ、了承してもらう為に手持ちの金品を報酬として渡すといった約束は交わす。しかし、戦いに於いては冷静にPCの余力を見極め、決してそれ以上の力を使おうとはしない。
 狂王と協力しての戦闘は、PCだけのときと比べて警備装置他の“気合”が異なっている。例えば、「最初のダメージを致命傷に入れる」などと言うのは当然で、場合によっては「いきなり死亡に入れる」という戦法すら取り得る。その辺りの違いをプレイヤーに感じてもらえるようにメリハリを演出すると良い。
 最期の警備装置他を倒すと、城に留まっていた霊魂が解放される。しかし、いずれも成仏する事無く、恨めしそうに狂王とPCの回りを力無く漂う。
 原則的に狂王は、城外に出ると態度を豹変させ、力無き怨霊を嘲笑い、PCに襲い掛かる。バランス的には、ここで「成仏できなかった霊魂の絡みで気合を獲得する事でPCが勝利できる」というレベルになるように誘導すればベストである。



さいごに

 バイエルン王国最期の皇帝ルートヴィヒ2世と、彼が築いたノイシュヴァンシュタイン城から思い付いたシナリオ。
 ノイシュヴァンシュタイン城は、ディズニーランドのシンデレラ城のモデルになったと言うだけあって正に御伽の城であり、国庫を破滅させるほどの費用をかけて3つの城を作った情念には、どことなく共感を覚える。考えてみれば、私が好きなアニメやコミックの源流の1つは手塚治虫であり、さらに溯るとディズニー、ノイシュヴァンシュタイン城、ワーグナー、中世騎士物語と繋がる道程に位置するのだから、当然かもしれない。

 シナリオでは特に詳しいマップ等を用意しなかった。しかし、城の内部描写が味気ないものだと面白味が半減するので、プレイヤーを遊園地で遊ばせるような感覚で雰囲気を演出して欲しい。
 ノイシュヴァンシュタイン城に関して、トラベル・ファンという会社にあるシュヴァンガウ村の解説ページに載っているので参考にして欲しい。その他、検索エンジンを使用すれば資料が見付かるだろう。
 このシナリオは、ストレートにソードワールドなどの西洋ファンタジーを背景にしたシステムを用いて、この辺りの資料をプレイヤーに直接ぶつけてしまう方が雰囲気が出てむしろ良いかもしれない。その辺りの変更は、マスター諸氏に委ねたい。

 狂王や警備装置のデータは、PCの人数やアーキタイプによって手を加える必要があるが、それでもセッション開始前に決定してしまう事。戦闘中にデータをいじるようではプレイヤーの興が削げるので望ましくない。




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