No. タイトル システム 登録日 改稿日
0080 高過ぎた掛け金 BK 00/07/20



はじめに

 このシナリオは、『Bea−Kid’s』の使用を想定して書かれた。
 しかし、様々なジャンルのRPG用への改造も可能である。



登場NPCおよび重要事項

ギムレット 狐族のファイター。詐欺師にして魔法戦士。狼族武装集団と人間族商人の両方を取り仕切る事で権益を得ている。そろそろそれも潮時だと感じて、最期に双方を裏切って大もうけする気でいる。
狼族武装集団 隣の地方で酷い弾圧を受け、舞台となる町の地方に流れて来た狼族の武装集団。人間族に対する恨みを晴らす為と、生活物資を得る為に略奪を繰り返している。略奪を始めた当初は「どうせ最期には敗北するのだ」という諦観があったのだが、ギムレットを参謀に戴いてからは活気を帯びてきている。
商人たち 神出鬼没の狼族武装集団による略奪の被害に悩まされ、掛け率の高い保険にも入れず悩んでいた所をギムレットに付けこまれ、今では言いなりになっている。



事前状況

 ギムレットという狐族の男がいた。どんな生い立ちなのか、ひねくれた性格をしていて、自分以外の他人は人間族も獣人族も一切信用せず、利用する事しか考えていない。そんなギムレットが、1つの詐欺を思い付いた。
 彼は、狼族武装集団が襲撃・略奪を続ける人間の町に赴いた。その町は鉄道が通り交易地として栄えていたが、経済規模に比べて駐留する軍事・警察力が弱く、郊外に倉庫街が広がり商人たちも警備し切れない。そこへもって、隣の地方で酷い弾圧を受けて流れて来た狼族の武装集団が、主に倉庫を襲って糊口をしのぎ、復讐心を癒していた。
 ギムレットは、この狼族に「同じ獣人族として力を貸したい」と言って近づき、最初は精霊使い兼ファイターとして活躍して信用を得た。
 同時に、人間族に変装した上で商人に「ソースは明かせないが、狼族の襲撃について情報を握っている」と言って近付いた。商人は、ギムレットの勧めに従って「近日中に襲撃を受ける可能性が高い」という倉庫だけに保険を掛けた。狼族による略奪事件の頻発で、この町の保険料は高騰しており、まともに全ての動産・物件に保険を掛けていてはとても採算が合わない。しかし、襲われる物だけに予めスポットで短期保険を掛けるのならば、むしろ在庫整理にもなって大きな利益になった。
 やがてギムレットは商人を通して人間族側の警備情報を入手できるようになった。警備情報を元にして、狼族の襲撃作戦立案にも関わるようになり、そちらでの地位を上げた。それによって、商人に流す襲撃情報の確度も上がり、大きく商う者はこぞってギムレットの助言を受けるようになった。
 終いには「襲う側も、襲われる側も、どちらも全てギムレットが取り仕切る」という状況になった。

 こうなると、損をするのは保険会社である。掛け率を上げるのにも限界があるし、保険が掛けられた対象全てに支払いが要求されるとしたらとても営業が成り立たない。保険会社の本社は、この町から遠く離れた中央にあるので暫くは歪んだ実態が見逃されていた。しかし遅れ馳せながらとうとう本社も気付き、調査が入る事となった。
 その流れを読んでいたギムレットは、この辺りで最期の大仕事をするつもりでいる。ギリギリの瞬間になったら自費で借りた倉庫に無価値な商品を入れて、「高額な品だ」と偽って高い保険を掛け、狼族に襲わせて保険金を騙し取るのである。そして同時に、狼族を裏切って逮捕に力を貸して、懸けられている賞金まで得ようとも考えている。



導入

 導入のパターンとして、以下に3つ挙げる。

@中央にある保険会社の本社に雇われる。
 本社幹部は、ようやく舞台となる町の異常性に気付き、調査員を派遣する事を決定する。しかし、町にある支社の者は信用できないし、そんな危険な場所に行きたがる本社正社員もいない。そこで、PCが調査員として雇われる事になる。“狼族武装集団”という特殊事情があるので、獣人族PCでも構わない。

A狼族武装集団を倒して賞金を稼ごうとする。
 狼族武装集団には、莫大な賞金が懸けられている。賞金の分け前に関する規定が細かく定められているので、有益な情報を流したり、他の賞金稼ぎや保安官との共闘に加わるだけでも一部が貰える事になっている。

Bたまたま町にいる。
 PCは、たまたま町にいて、新聞に書かれている程度の事情は知っている。最近、保険の掛けられ方が異常だとの噂を聞き、好奇心/正義感/騙されているのかもしれない狼族への同情心などから、自発的に事件に関わる。

 どのような導入でも構わないが、PCが事件に関わり合いになるように誘導する。また、その為にPCは知り合い同士としておく方が良いだろう。



本編

 PCが最初から知っている事実は、「直前に保険が掛けられた所ばかりを、狼族武装集団は襲っている」という1点である。それ以上の事は基本的に聞き込みするしか無い。以下に、聞き込みできる場所と、そこで分かる内容に付いて記す。

商人の家  今現在、この町の商人の大半の者がギムレットの“助言”を受けている。ギムレットの助言の的中率が異常に高いという事には、誰もがとっくに気付いているが、今更、受けている利益を放棄する気はない。PCが保険会社の正式な調査員だと明かす場合、表向きは「全面的に協力する」と約束するが、実際は何も教える気はない。よってギムレットの存在も明かさないし、彼から教えられている「次の襲撃地点」も秘密にしたままでいる。
 何件もの商人の家や、下段に記した他の場所を回り、成果も無く疲れ果てた所で、保険会社の調査員であるPCに、商人の家で働く使用人の1人が接触して来る。使用人は「有益な情報がある」と言った上で、前金での謝礼(額はマスターが決定。躊躇いは覚えるが払えない程の額では無いとする。なお、この手の情報料が経費として認められるか否かは、仕事の成否に左右されるのが一般的である)を要求される。使用人は、「流れ者風の人間族の男が屋敷を出入りしていて、主人と話し込んでいる。他の商人とも懇意にしているらしい。話の内容は知らない」と言い、器用に描いた似顔絵を渡してくれる。これはギムレットが変装した姿だが、精霊魔法を使用しているので、帽子やフードは被っていない(耳を衣類や装飾品で隠していない)。
保安官事務所  保安官も、狼族の襲撃目標が不自然である事に気付いている。しかし、高額納税者たちのご機嫌を損ねる訳にも行かないし、そこは目を瞑って、狼族の逮捕・殲滅に専心している。PCが話を聞きに行くと、その辺りの事情を遠回しに説明してくれる。
 PCの身元に怪しい所がないならば、対狼族の共闘メンバーに加わる事ができる。保安官は町の地図を示し、PCの都合を聞いた上で警備のローテーションに組み入れる。なお、保安官は今のところ警備情報がリークしている事にまでは気付いていない。PCがそれを指摘すると、「自分自身で思い至るべきだった妥当な推理だ。わざわざそんな助言をするからには、PCは信用できるだろう」と考え、PCに特別な信頼を寄せるようになる。
鉄道の駅  狼族の襲撃が始まった当初は、目立つ駅や機関車がよく目標として選ばれていたが、ここのところは安全だと言う。実は、駅や機関車を襲撃するのでは「保険金を掛けた商品だけに被害を与える」のが難しいので、ギムレットが作戦立案を任されるようになってからは目標から外されているのである。
 この事を示すヒントとして、駅長に「ありゃ、この便では高価な絹糸が運ばれる筈だったのに、また予定が変わってイモが運ばれているぞ。万一を心配して護衛を雇ったのに、無駄になってしまった。昔からそうだけど、到着時間も平気で何時間も狂うし、やってられないよ」などと言わせるイベントを起こす。
倉庫地帯  町の端にドーナツ状に広がり、すぐ外は荒野になっている。警備の者を下手に散らせば狼族に殺されるだけだし、集中して裏をかかれれば無人の倉庫が襲われる事になる。賞金稼ぎや民間の警備員が、保安官の組んだローテーションに従って巡回をしているが、そう考えると絶対的に数が足りていない。
 とは言え、何十回にも渡る襲撃の全てがローテーションの裏をかく可能性は、確率的にはゼロに近い。この事を示すヒントとして、警備の者に「現状の人数では、狼族の襲撃に即応できる可能性は20%ってところなんだ。自分が知る限りでも、かれこれ20回は裏をかかれていて、本当に嫌になる」などと言わせるイベントを起こす。
町の外の荒野  高難易度の<追跡>に成功した上に、<忍び足>にも成功すれば、荒野を放浪する狼族と接触する事ができる。相手が人間族の場合は問答無用で攻撃を仕掛けて来るが、獣人族ならば一応は話を聞いてくれる。ロールプレイにもよるが、狼族の立場を尊重した物言いで「こんな略奪をいつまでも続けられる訳が無い。もっと自分を大切にして欲しい」などと意見すれば、「確かに最初は自暴自棄になっていて、最期は人間族と戦って散ろうと考えていた。しかし、ある狐族の男が参謀として付いてくれてからは何をやっても上手くいっている。今は略奪した家畜を育てたりもしていて、この荒野を新天地にできるかもしれないという希望を抱いている」と胸の内を語ってくれる。ただし、その“狐族の参謀”について具体的な事は何も話してくれないし、PCが悪く言うものなら激しく怒り出す。

 一通りの聞き込みを終えて、ギムレットがキーパーソンだと睨み、商人の家の前などで張り込みを行えば、人間族に変装したギムレットを見付ける事ができる。対抗技能判定にPCが勝利してそのまま尾行すれば、ギムレットが荒野に出て、変装を解き、狼族に接触するのまで目撃できる。
 また、一通りの聞き込みが終わった後でPCが倉庫地帯にいると、ギムレットがある倉庫に出入りしているのを目撃する。その倉庫に忍び込むと、中にはほとんど無価値の商品が仕舞われていると分かる。保安官に倉庫の持主を調べてもらうと、余所者の人間だと分かる。保険が掛けられていないかについては、本社に電報で問い合わせれば分かる。すると、倉庫の所有者の名前で高額品として保険が掛けられているのが判明する。保険金の支払先は地元の預金口座で、保安官の協力を得て調査すれば、口座を開設した男(倉庫の所有者)は、商人の家に出入りしていた男(=人間に変装したギムレット)だと分かる。



結末

 ギムレットは、まず自分が偽名で所有する倉庫を狼族に襲わせて保険金詐欺を行う。そして保安官に、狼族の逃亡先をタレコミして、後で賞金の分け前に与ろうとする。
 ギムレットを捕えると、倉庫の所有者名義の銀行通帳を持っている。サインの筆跡もギムレットと一致する。狼族の襲撃の前に所有する倉庫の中味が無価値な商品だと暴けば、保険金詐欺を企んでいたとバレ、商人たちの支持を失う。
 狼族の方は、逃亡先が密告された事実を知らせた上で、ギムレットの所業について誠意を持って語れば、PCの言葉に耳を傾けてくれる。ギムレットが人間族に変装して金もうけをしていたと知られれば、狼族の支持を失う。その後、説得次第では人間族と和解させる事も可能である。



さいごに

 保険金詐欺ブームの前に考えたシナリオ。ストーリー的にはステロだし、PCが天邪鬼な行動を取らない限り、一本道に進むと思う。
 結末に関しては、「ギムレットを咎めだてしない」「狼族を助けない」といったバリエーションがあろうが、プレイヤーの希望に添ってオチをつけて欲しい。




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