No. タイトル システム 登録日 改稿日
0079 砂の果実 BK 00/07/20



はじめに

 このシナリオは、『Bea−Kid’s』の使用を想定して書かれた。
 しかし、様々なジャンルのRPG用への改造も可能である。



登場NPCおよび重要事項

砦の指揮官 獣人族が有利に押している、砂漠地域の最前線の砦の指揮官。撤退したいが、その責任を取らされたくも無くジレンマに悩んでいる。そんな中で謎の行商人の提案に「悪魔の囁きだ」と半ば自覚しつつも乗ってしまう。
謎の行商人 真言魔術師の変装。古の術を使う事ができ、実験の為に砦を利用する。
ベンソン 砦の一兵卒。行商人の提案に乗った指揮官により、生きたまま脳を摘出され、砦の制御コンピュータにされてしまった。起動直後に暴走し、破壊され、そして悪霊化した。
獣人族勢力 舞台となる砂漠地域の先住民である狐族が中心だが、他地方からの様々な民族の獣人が義勇兵として参加している。勝ち戦ムードだが疲弊していて、早く終戦にしたいが、砦は水場にあって通商上の観点からも重要なので、ここを落とさずに戦争に勝利したとは言えない。あと一歩で陥落できそうだったのに、最近になって守備が固くなり、戸惑っている。



事前状況

 人間族は、各地で獣人族に対する戦いを繰り広げているが、ほとんどは人間族優勢ないし均衡を保っている。しかし、ある砂漠地域では珍しい事に獣人族勢力(狐族)が押していて、一度は人間族の領地だった所に狐族が反攻をかけ、今にも奪い返されそうになっていた。
 地勢的に重要度が低い事もあって中央から増援が送られる事も無く、既に町などは無人となり、この地域に残っている人間族は、軍の砦の兵士だけだった。砦の指揮官には撤退命令を下す権限があったが、撤退すればその後で責任を取らされ閑職に追いやられる。逆に任期満了まで守り切れば、少なくともマイナス考査をされる事は無い。獣人族の波状攻撃に脅えながら、指揮官は自分の取るべき道が見出せず、悶々と過ごした。
 そんなとき、怪しげな行商人が砦を訪れ、1つの話を指揮官に持ち掛けた。
 行商人(その正体は、真言魔術を修めた狂的科学者)は、砦を無人機械で守ってはどうかと進言した。「獣人族の戦法は、自分の被害は極小のまま、波状攻撃で兵士を参らせ、時間をかけて駆逐するというものである。だから、兵士は安全な砦の奥に引きこもり、獣人族に対して無人の銃座が攻撃すれば、疲弊するのはむしろ獣人族の方だ。人間の兵士は、戦闘の無いときに機械の整備をするだけで良い」と言うのである。
 指揮官は、勿論、行商人の言う“無人機械”が、法律で禁じられた真言魔術絡みの仕掛けだろうと見当が付いた。しかしそれを考慮してもなお、行商人の提案は魅力的だった。中央の目が届き難い辺境だから、必要な資金は軍費から捻出できるし、兵士たちを高圧的な命令で黙らせる事も可能だった。そうして計画は実行に移された。
 行商人の言うままに、様々な物資や機械部品が購入され運び入れられた。横領に当たる訳だが、躊躇いを覚える余裕は指揮官には無かった。そうして後戻りできないところまで進んだ段階になって、行商人は「実は、部品として人間の生きた脳が必要だ」と囁いた。指揮官は驚き、「話が違う」と行商人を罵ったが、最早、この悪魔の計画に荷担し続けるしかなかった。
 そうして、砦に所属する兵士から無作為にベンソンという名の男が選ばれた。指揮官は子飼いの部下を使い、獣人族にやられたように装ってベンソンを捕え、行商人に引き渡した。行商人は外科手術でベンソンの脳が摘出して砦の自動機器に繋いだ。「これで悪夢は終わり、全ては上手く行く」と指揮官は安堵したが、ここからが真の悪夢の始まりだった。

 砦の無人機械のスイッチが入れられ、動作が確認された日に行商人は姿を消した。これから起こる事を知っていて、逃げたのである。そしてその夜から、生け贄にされた兵士ベンソンの復讐が始まった。
 ベンソンは、自らの能力を駆使して生きとし生ける者を攻撃した。しかし、基本的に砦の外を攻撃する兵装しか持ち合わせない為に、大きな被害が出る前に兵士たちはコントロール・ルームに侵入してベンソンの“脳”を殺す事に成功した。しかしそれで事件は収まらず、ベンソンの“脳”はそのまま悪霊化した。砦と自動機械を自らの体として物理法則を超越した存在になった為に、生き物のように銃身を曲げて射撃したりして、砦の内部も攻撃した。そうして全ての兵士が死に絶え、魂が啜られ、ここに“悪霊の砦”が完成した。
 悪霊が支配する無人砦は、補給が無くとも無限に弾を発射できる銃砲座を備え、被害を受けても自然治癒してしまう。押していた筈の獣人族勢力も、手が余る存在になってしまった。



導入1:人間族

 上記“事前状況”の砦は見捨てられた戦線にあり、砦を管轄する軍司令部としては、増援は勿論、交代要員や救援物資すら消費したくないのが本音である。それでも撤退を指示しないのは、目立つ命令を出して後日に敗戦の責を背負わされる羽目になる事を恐れているからである。軍司令部の参謀たちは、「砦の指揮官が自主的判断で撤退する事」を望んでいる。
 そんな折りに砦からの定時連絡が途絶え、その上に「指揮官が軍費を横領・着服した疑いがある」との噂も流れてきた。正直なところ、軍司令部はこの調査を真面目にやるつもりがないのだが、何もしない訳にもいかない。正規の兵を使うのも勿体無いので、荒事に慣れたチンピラに一時的に軍籍を与えて、調査に当たらせようと考えた。
 こうしてPCが選ばれ、調査が依頼される。
 仕事の内容として、「辺境の砦の司令官が軍費を横領した疑いがある。しかし、現状では調査員を派遣する余裕が無い。そこで補給部隊として砦に入り、指揮官が分不相応な額の現金、貴金属、宝石等を隠し持っていないか調べて来て欲しい」との説明がPCになされる。調査先が最前線である事は言及するが、砦から定時連絡が途絶えた事を明かしては依頼を断られると思い、伏せられる。
 予め噂話の聞き込みなどをすると、砦の司令官が偽名で機械部品や資材を買い入れていたらしいと分かる。それで何を作るつもりだったのかは判然とせず、適当な技能判定に成功しても「政府が秘密裏に開発を進めているという戦車という兵器を連想する」というのが精一杯である。また幾ら調査しても、定時連絡途絶に関してだけは知る事はできない。
 報酬などに関しては、相場以上が提示される。以降、この依頼を受けたものとして進める。



導入2:獣人族

 押している獣人族勢力も、傍目ほどには楽ではない。貧しい砂漠地域なので、元々、戦争という金のかかる無駄を維持できる経済基盤など無く、他地方からの義援物資などでどうにか戦線を維持しているに過ぎない。だから砦を陥落させる為に力押しもできないし、兵糧攻めや補給路完全封鎖などを実施する自力も無い。既に全員の気力・体力ともに限界であり、正に「もう少しで勝利する」のが見えているからこそ、何とか頑張っていられるに過ぎない。
 そんな折りに、急に砦が禍々しいオーラを帯び、実効力のある反撃を行うようになった事で、獣人族の戦意が萎えかけている。まだ致命的な事態には陥っていないが、放っておけば大逆転負けを喫する屈辱を味合わないとも限らない。
 シャーマンや古老たちの協議の結果、砦は古の真言魔術の力を使っているに違いないとの結論を得た。よって、少数の者が人間族に変装して砦に潜入して、魔術中枢を破壊する作戦が立案された。
 特に報酬は無いが、食料、武器、馬、人間族に変装する為に必要な物(行商人に変装するならば売り物と小銭など)、それに真言魔術の<魔術探知>と同じ効果を発揮する薬(飲むと10分間、真言魔術の影響を受けた物が光って見える)を何服かが渡される。また、PCが変装技能を持たない場合は、NPCが「難易度8の判定に成功しないと見抜けない変装」を施してくれる。変装は数日はもつとする。
 PCは、この砂漠地域の出身または支援する他地域出身の獣人族であり、この作戦を引き受けたものとして進める。



本編

 人間族の最寄の町から砦までは、馬車で1週日かかる。特に道と言えるものはないが、水場に沿わなければ旅ができないので、ルートは限られている。また、夜間に移動して、昼間は休むのが一般的である。人間族PCが旅程の中ほどで、獣人族PCに追い付く形で合流する。獣人族PCが民間の行商人だと名乗ったとしても、そういった類の者は少なくないので、特に疑う理由にはならない。

 砦には、朝方に辿り着く。PCが近づくと、固定銃砲座などが反応して動いているのが分かる。ちょっと目には遮蔽物越しに兵士が動かしているように見えるが、適当な難易度の技能判定に成功すれば、銃眼の向こうに人影が無い事に気付く。
 外からPCが用向きを叫ぶと、閂が抜かれる音がして、ゆっくりと門が開く。出迎える者は誰もおらず、馬が中に入りたがらず宥めなければならなかったりする。PCが中に入ると自動的に門が閉まる。そして、PCを招いているかのように外来者用宿舎の扉や厩舎の扉が自然に開き、中に入れば簡単な食事や、馬用の飼葉などが用意されている。<魔術探知>を行うならば、砦全体が光って見える。
 現在、多数の兵士の魂をも啜って砦は1つのアンデットと化している。主要な人格は生きたまま脳を取り出された兵士だが、発狂状態であり、論理的な思考はしていない。今は、言わば症状が落ち着いた状態にあり、それ故に「補給部隊が訪れたならば当然するべき対応」を取っているのである。
 通常、補給部隊員は丸一日休息を取り、報告書、次回補給物資の要望リスト、戦死者遺品などを持って翌日夜に帰還する。よって、それに相応しい行動を取っている限りは、PCに危害は加えられない。PCの目にはあくまで人影は映らないが、席を外している間に「運んできた物資が消えて、受領書にサインされている」とか「食器が片付けられている」とか「風呂の用意がされている」といった静かなる怪異が起こる。
 夜になると、兵舎や食堂から明かりが漏れ、談笑する声が聞こえたりするが、中に入ると真っ暗で誰もいた様子が見られない。
 また、PCの馬車には、いつの間にかブリキの箱がたくさん積み込まれているのに気付く。数えると357個あり、1つ1つに名前が書かれ、中にはその兵士の認識票や、家族の写真、愛用していた小物などが入っている。軍司令部から人間族PCが聞いていた話では、砦には指揮官を含めて359名の兵士がいた筈である。足りない内の1名はベンソンで、もう1名は指揮官である。1つ1つ調べれば、指揮官と誰かもう1人の遺品が無いと分かる。

 砦の捜索を行う場合、兵舎、食堂、広場、資材倉庫、厩舎といった「補給部隊員が立ち寄っても良い場所」へ行く限りは、幾らかの怪異は見聞きするものの妨害される事はない。その代わり、特に発見も無い。
 以下に、イベントの起こる場所と、その内容を記す。

武器庫  火器、弾薬、爆弾などが保管されている。各銃砲座が無限に弾薬を生み出している現状の砦では無用の長物だが、ベンソンの霊は重要施設と認識している。よって、侵入すると置いてある武器が不自然に動き“暴発”してPCを襲う。命中判定値などはマスターが決定する。部屋を出て行けば、それ以上の攻撃は加えられない。
銃砲座  全部で4門あり、砦の四方に配置されている。一見すると砦内部への攻撃はできないようだが、死角(と思われる方向)から近づくと銃砲座が無理のある不自然な動きをしてPCに照準を向ける。なおも近づくと発砲する。原則的に「PCが一方的に銃砲座を狙える位置」は存在しない。データに関してはマスターが決定する。破壊しても、ゆっくりと自己修復を始める。
門や壁  門は閉じてびくともしない。壁を壊そうとすると、何やら嫌な手応えがして血が染み出して来るし、放っておくと自然に治る。門や壁を壊そうとしたり乗り越えようとすると、銃砲座が攻撃してくる。データはマスターが決定する。
指揮官室  拳銃自殺したままミイラ化した指揮官の死体が机に突っ伏している。死体の首には指揮官本人の認識票が掛けられている。
 傍らに日記があり、斜め読みで以下の記述に目が止まる。
「獣人族の波状攻撃に悩まされている。死ぬのも恐いが、撤退して責任を取らされるのも絶対に嫌だ」
「謎の行商人に、砦の無人化計画を持ち掛けられた」
「軍費を横領して計画を実行した」
「生きた人間の“脳”が必要だと言われ、悩んだが言いなりになって1人の兵士を生け贄にした」
「行商人が姿を消した」
「無人機械が暴走した。部下に“脳”の破壊を命令した」
「あの頃の僕らが嘲笑って軽蔑した空っぽの軍人に、気づけばなっていた。生まれて来なければ本当はよかった」
 日記はそこで終わっている。砦の悪霊化の前に死んだので、指揮官の魂は砦に啜られず、遺品が馬車に積まれる事も無かったのである。
 また、砦に所属する兵士のリストも見付かる。この中のベンソンの名のところに震える筆跡で印がつけられている。馬車に積まれた遺品と突き合わせれば、遺品の無いもう1人がベンソンだと分かる。
監視塔  望遠鏡が回転する台座に置かれていて、周囲を見回すような動きをしている。接眼レンズがあるべき部分にはコードがついていて、壁伝いに廊下を経由して地下室に繋がっている。ここでの破壊活動にも、銃砲座は攻撃してくる。
地下室  監視塔からコードを辿って行くと砦の中央にある地下室に辿り着く。扉は1つしか無い。近づくと、廊下の窓の鎧戸が突然開いて、外の銃砲座がPCに銃口を向ける。さらに近づくと発砲する。
 中には、ベンソンの“脳”が収められたガラスケースと、怪しげな機器類がある。

 PCが砦を出ようとすると(或いは、最初から入るのを拒否すると)銃砲座の攻撃を受ける。
 長居した場合、毎日始めに「ベンソンの気分チェック」を行い、50%の確率で攻撃を始める。
 ベンソンがその気になった場合、砦の壁は出鱈目に変形してPCの遮蔽物とならない。よって何処にいても、常に4門の銃砲座から狙われる危険がある。
 戦闘を行う場合、4門の銃砲座からのクロス・ファイアの中、扉を破壊して中に侵入して、“脳”を物理的に破壊しなければならない。“脳”が破壊されると砦は機能を止めるが、ゆっくりと再生を始める。再生できないように完全に破壊するには、火を放ち塵になるまで完全に砦を潰さなければならない。



結末

 砦を破壊し、横領の証拠として指揮官の日記や真言魔術アイテムの残骸を提出すれば、人間族の依頼人である軍司令部は納得して報酬を支払う。軍司令部は、「狂った前線指揮官が呪われた真言魔術を独断で使用した為に、戦線が崩壊した」と中央に報告して決着とする。一般には、真言魔術云々は伏せられ、「指揮官の無能と裏切り」が理由と告げられる。
 獣人族勢力も、砦が破壊されたならば経緯を問わず手放しで喜ぶ。PCが求めれば、砦跡地にてシャーマンがお祓いを行う。

 砦を破壊できなかった場合、人間族PCの報告の仕方によって、依頼人の対応は異なる。指揮官の日記だけでも持ち帰れたならば渋々と報酬は支払うが、あからさまに「ついでに砦を潰してきてくれれば良いのに、この役立たずが!」と言いたげな視線を向ける。何も持ち帰れなかったならば、幾ら怪異に付いて語っても任務失敗と見做される。
 獣人族勢力の方は、失敗の報に落胆こそすれ、PCを責める事は無い。結局、重要な水源を砦に占拠されてしまい、戦争に勝ち切る事ができず、このままでは緩やかな敗北に繋がってしまう。再度、砦潜入作戦を取る事もあろうが、それはまた後日の話となる。



さいごに

 元ネタは、菊地秀行の『ウエスタン武芸帳シリーズ』第2巻『アリゾナ剣銃風』の独立したエピソード(副題『サイボーグ砦』)である。「パラレルワールドの幕末にて、逃亡した坂本竜馬を追ってアメリカにやって来た沖田総司ら新選組が、荒野で難儀していると無人の砦があり……」というストーリーで、引用率は高めだが、プレイヤーが元ネタに気付いた頃には既に“ミッション攻略情報”としては遅いだろうから、問題にはならないと思う。
 ちなみに原作は、話の途中である第3巻で休止している。著者は「ネタ切れ」と言っているが、「新選組マニアからクレームがついた」という噂もある。菊地秀幸作品の中で最も気に入っている小説なので、ぜひ再開して欲しいものである。

 1997年5月3日にこのシナリオを用いたセッションを行ったとき、獣人族PCが早々と変装を解いて共闘を呼び掛けたのだが、それを受け入れない人間族PCと戦闘になってしまった。結局、猫族PC1人が死亡。殺した人間族PCは、熊族PCの反撃で瀕死になり、「キーポイントを使ってイニシアティブを取った上で拳銃自殺する」というオチをつけた。シナリオ本道よりも、この人種間対立の方が盛り上がってしまい、砦の奥の“脳”を目指す事無くPCは撤退してしまった。
 プレイヤーの1人がこのエピソードを掲示板に書き込んだところ、オフィシャルの情報企画の目に止まり、後に「人間と獣人の大半は仲良しだ」との設定を書いたペーパーを配る事となった。
 そういう出来事もあって、私は『Bea−Kid’s』をオフィシャルの背景設定とは大幅に異なる方向性でプレイする切っ掛けとなった。




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