No. タイトル システム 登録日 改稿日
0075 こわれたこころ GH 00/05/03



はじめに

 このシナリオは、『ゴーストハンター』の使用を想定して書かれた。
 しかし、『クトゥルフの呼び声』など、恐怖判定ルールのあるホラーRPGならば使用可能である。



登場NPCおよび重要事項

ニューヨークにて、祝祭日に少年男娼を連続して殺している。周囲の人間を無意識の内に自分色に染める特殊能力を持つ。
市長 Xの捜査の為に、汚職だらけの警官を使わず、“名物精神科医”を中心とする特別捜査組織を作った。
名物精神科医 今で言うところのプロファイリングを使用して、連続殺人犯を捕まえようとしている。
大手新聞記者 特別捜査組織の一員。最期には捜査先で行方不明になった。



事前状況

 西暦1896年、アメリカ合衆国ニューヨークにて、連続殺人事件が起こっていた。
 被害者はいずれも遊郭の“あいまい宿”に所属する少年男娼で、恐らくは客を装った犯人の手によって外部に連れ出され、生きたままナイフで切り刻まれ、惨殺されている。しばしば現場に血文字でメッセージが残され、一度など被害者の遺族に挑戦状が投函された事すらある。

 現代であればセンセーショナルな大事件になっているところである。

 しかし、当時のアメリカでは「公式には“あいまい宿”は存在しない」「公式には家族制度の破壊を促すような異常犯罪は存在しない」という見解を固持する社会風潮になっていた。
 また、商売の邪魔をされたくない“あいまい宿”の経営者が警官を買収していたりもした。汚職も最悪だったので、警官は捜査どころか事件隠しに躍起になっている始末だった。

 そんな理由で、少年男娼連続殺人は事件扱いしてもらえず、一般市民は殺人が起こっている事すら碌に知りもしなかった。

 偶然からたまたま事件を知ったニューヨーク市長は、被害者が“物”扱いされている実状を知り、心を痛めた。折りしも市長は警察組織改革を推し進めようとして頑強な抵抗に遭っているところで、この連続殺人事件解決の為に警察組織を頼る事はできなかった。
 市長は、事件を知る切っ掛けになった“名物精神科医”と“大手新聞記者”を代表とする、市長直属の特別捜査組織を作り、極秘裏に捜査に当たらせた。
 “名物精神科医”は犯人を“X”と名付け、自らが提唱する“コンテクスト(=文脈)理論(別称、環境論。現在で言うところのプロファイリング)”を捜査に導入してXの発見に当たった。
 古典的な捜査方法では目撃情報を集めたり、遺留品の持主を探し出す事で犯人を探し出す。
 一方、プロファイリングでは、「少年男娼を殺す動機を持つ人物像」を割り出し、それに適合する人間を探す方法を取る。
 犯行は既に何年も前から行われていたが、資料はほとんど残されていなかった。少ない資料と、特別捜査組織結成後に行われた犯行を手掛かりに、少しずつXの人物像に迫って行った。
 特別捜査組織は、適宜必要な人材を加えつつ捜査を進め、以下の結論を得るに至った。

@  犯行現場に残された文章や、被害者遺族に送られた挑戦状などに使用された書字法はパーマー方式だった。パーマー方式が初等教育で用いられていたのは1880〜1895年である。
 初等教育の終了年齢は12〜15歳である事から考えて、Xの年齢は30歳以下である。
A  Xは従軍経験があると思われる。そして暴動鎮圧任務中の異常行為で陸軍を退役させられたと推察される。
 陸軍はメンツを守る為に異常行為癖のある兵士の存在を認めず、記録も残さない。しかし、周囲の手に余る異常兵士は、例外無くワシントンDCの聖エリザベス病院(陸軍の精神病院)に送られる。
 また、ワシントンDCには“精神病院への強制収容についての追加条項”という法令があり、「ワシントンDCの外で精神病の診断を受けた者は、人身保護令状を申請できる」となっている。よって、原隊で精神異常と診断された兵士は、ワシントンDCに送られた時点で自由の身になる。しかも記録には「ワシントンDCに任地変更の後、除隊した」としか残らない。
 以上から、「元々の任地から、急にワシントンDCに配置転換になり、直後に除隊になった者」の中の1人がXである。
B  被害者遺族に送られた挑戦状に、「(被害者の少年は)汚らしいレッド・インディアンよりも、もっと不潔だ」という文面がある。死体損壊の具合も、白人が言う“インディアンの残虐行為”を連想させる。しかし例えばスー族は、敵が死後の世界で力を持たないように死体を損壊させるのである。よって、「切り取った性器を口に突っ込む」などという“無意味”な真似はしないし、第一、女子供の死体には手を出さない(女子供の力を恐れるなどというのは名誉が傷つけられるので)。
 よって、Xは中途半端にインディアンの死体損壊行為を知っている白人である。
 時期から考えて、最期の対インディアン戦(虐殺)である1890年のウーンデッド・ニー・クリークの戦いに、Xは一兵卒として参加していた可能性が高いと推察される。
 以上から、ウーンデッド・ニー・クリークに参戦した兵士の中の1人がXである。
C  犯行日は、必ずキリスト教の暦で物日に当たる。
 わざわざ祝祭日を犯行日に選ぶ事からして、Xの父親は神父か伝道師であり、一家の生活はキリスト教の暦に従って営まれていたのは間違いない。そして親から虐待を受けていたと推察される。Xは、「祝祭日には特別酷い虐待を受けていた」のか、或いは「日常的に虐待を受けていたが、祝祭日だけは楽しく過ごせていた」のか、そんなところだろうと思われる。

 また、全ての祝祭日に犯行が行われている訳では無い。
 そういった犯行日に選ばれる祝祭日から、Xが育った地を推理する事ができる。
 例えば、2/20(主の五傷祭)は殺人は行われなかったのに、6月第4日曜日(洗礼者聖ヨハネの祝日)には行われているなどの差異がある。
 カトリックでは、主の五傷祭はメジャーな物日だが、洗礼者ヨハネの祝日は超マイナーである。
 しかし、ミネソタ州の一地方に移民したユグノー派(フランス系プロテスタント)の中に「主の五傷祭は祝わないが、洗礼者聖ヨハネの祝日には牧師が特別説教を行う」というものがある。また、一般に改革派は祝祭日に重きを置かないが、ここは例外である。
 以上から、ミネソタ州がXの生地の候補として挙げられる。
D  Xは高層階の窓から被害者を連れ出し、殺人場所に空中庭園が選ばれる事もあった。よって高度な登山技術を持っている。この時代、スポーツ登山はマイナーな趣味である。犯人の住んでいた所の近くに適当な山があり、スイス・ドイツ系の移民から登山技術を教わったと考えられる。
E  被害者を嬲り殺す手口から見て、高度な狩猟技術を身に付けている。これも、登山技術と共に学んだと考えられる。
F  親の虐待以外にも、子供時代にイジメを受けていたと推察される。

 特別捜査組織は@〜Cより、Xの出身地を絞り込む事に成功した。軍の記録など閲覧できない情報もある事から個人名を割り出すまでには至らなかったが、「@Xの年齢」「A除隊記録」「B従軍記録」「C宗派分布」が重なる地点として、ミネソタ州北部の田舎町が重要な候補として挙がった。

 次の殺人の前にXを特定したいという思いから、チームのほとんどがプロファイリングで割り出した地域の捜査に送られた。
 ニューヨークから2千キロも離れた遠隔地の捜査で、また素人故の不手際もあり、色々とあって気が付いたら“名物精神科医”と“大手新聞記者”以外は全員が行方不明になってしまった。そして最期に“大手新聞記者”も彼の地に赴き、とうとう消息を絶ってしまった。

 さて、ここで以下に真相を記す。

 Xの父親は伝道師だったが、支持者が少なく一家の家計は苦しかった。父親は外弁慶で、Xは母親に虐待され不幸な幼少時代を送った。
 ただ、祝祭日だけは父親が威厳を持って特別説教を行ったので、Xは楽しい時間を過ごす事ができた。しかし、母親は祝い事の度に聖書を持ち出してきて「祝祭日を祝う者は儀式偏重の弊に陥っていて、如何に罰せられるべき態度か」と罵り、父親がいない場所でXを叩くなどした。
 父親が変人扱いされていた事もあり、オドオドした態度のX少年は学校でもイジメられていた。
 同時期、X少年は近所に住む中年男性から登山と狩猟を学んでいた。両親や学友の心無い行いに傷ついていたX少年は、スポーツに熱中する事で癒されかけていた。しかしあるとき、この中年男性から性的暴行を受け、心が壊れてしまう。

 性的暴行を受けた事が切っ掛けになったのか、この頃から、X少年は特殊な能力を発揮するようになる。自分の考え方、好み、癖などを、ウィルスのように他人に感染させる能力を持つようになったのだ。
 X少年はその特殊能力のお陰で、瞬く間に周囲の同年代の少年の“カリスマ”になった。一種のクラブが結成され、その間では、「キリスト教の暦に従って生活リズムを刻む」のが格好の良い事と見做され、競って登山や狩猟に打ち込んだ。当然、祝祭日に詳しく、登山・狩猟技術に秀でたX少年がリーダーであり、ちょっと前までイジメられっ子だった事を覚えている者は誰もいなかった。
 X少年の趣向は、すぐに“動物を惨殺する事”へと向かい、それはクラブの他の少年たちにも広がって行った。X少年の「残虐行為へと狩立てる衝動」は日増しに肥大し、同時に両親を疎ましく思う気持ちも膨れ上がっていた。とうとう、Xは強盗の仕業に見せかけて両親を殺し、天涯孤独の身となると陸軍に入隊した。
 ウーンデッド・ニー・クリークの戦いで、Xは思うが侭にインディアンを虐殺して、どんどん心の病が悪化していく。その後も陸軍で暴動鎮圧などに従事するが、任務中の(白人に対する)異常行為が問題視される。そしてとうとう陸軍の精神病院に送られ、即時除隊となる。

 除隊後のXは、放浪中に行きずりの少年を惨殺して、自分が殺人快楽症に罹っていると自覚する。そしてそんな自分を肯定した上で、殺人を犯し易いニューヨークにやってきたのだった。

 そうと知らない特別捜査組織の者は、皆が皆、プロファイリングで割り出したXの出身地であるミネソタ州の小さな田舎町にて聞き込み等の捜査を行ったところ、自分たちのプロファイリングに該当する性格の者が多過ぎる事に戸惑った。Xがいない今でも、町には“Xのウイルス”の保菌者が何人もいて、どうにか人殺しだけはしないで済ませるレベルの精神状態で収めていたのだ。
 特別捜査組織員は、いたずらに時間を費やす内にウィルスに濃密に侵され、さらにプロファイリングを通してXを熟知していた事が悪く働き、短期間で殺人衝動を覚える末期症状に進行していた。症状を自覚した特別捜査員たちは、発狂したり自殺したりで、どちらにしろニューヨークに戻る事は無かった。

 ニューヨークにいる“名物精神科医”は、特別捜査組織員に何が起こったのか理解できないままに、手足を失ってしまったのだった。



導入

 上記“事前状況”の中、“名物精神科医”は追い込まれ、個人的なツテで新たな助力者を探そうとしている。
 以下に、6つの導入案を提示する。PCの経歴に合うように手を加え、最終的に“名物精神科医”の助力者になるように誘導する。

@  PCは警官または私立探偵で、自分の人脈から“名物精神科医”が助力者を求めている事を教えられ、特別捜査組織に雇われる。
A  マフィアや監督教会派(スラム地区に教区を持つ宗派)は、“大手新聞記者”が行った“あいまい宿”の調査が目に余るようになってきたと感じて、手下であるPCに「穏便な処置」を命じる。PCは特別捜査組織の存在を知り、その本部へ赴き“大手新聞記者”の所在を聞き出そうとするが、行方不明と聞かされ、探し出す近道だろうと思い“名物精神科医”に一時的に協力する事になる。
B  あるタブロイド紙では、「最近、“大手新聞記者”が通常業務を離れ、市長の密命で何かしているらしい」と知り、記者であるPCに調査を命じる。その結果、特別捜査組織の本部に行き、何だかんだで“名物精神科医”に協力する事になる。
C  PCと学生時代に同期だった男が行方不明になり、それを知らされた遠隔地に住む彼の親戚に依頼されて行方を捜す事になる。同期の男は特別捜査組織の一員であり、結局は“名物精神科医”に協力する事になる。
D  “名物精神科医”は捜査に当たり、それまで診ていた患者を他の医者に振り替えていた。その事に不満を持ったある患者の家族とPCは知り合いで、「仕事を休んで何をやっているのか調べて、不平を伝える」為に“名物精神科医”に会いに行き、そのまま助力者になる。
E  特別捜査組織の登山担当の捜査員がPCの友人で、その友人が「特別捜査組織に協力する」と言い残したまま行方不明になったので、事情を聞きに来て、そのまま助力者になる。

 “名物精神科医”は、体力的にも立場的にも、ミネソタ州の田舎町への調査に赴く事はできない。エキセントリックな性格だが、言っている事には一本筋が通っている。
 “名物精神科医”は、これまでの捜査チームの活動の経緯を包み隠さず説明した後で、PCにミネソタ州の田舎町に出向いての調査を依頼する。
 導入にて、マスターは凝ったロールプレイを心掛け、プレイヤーが興味を持つように誘導する事。動機はともかく、PCはこの依頼を受けるものとして進める。報酬は、PCが納得できる額が提示される。



本編

 ニューヨークでできる調査項目は、ほとんど無い。希望するならば、モルグで少年男娼の死体を調べるなどできるが、例え判定にクリティカル成功しようとも、特別捜査組織の報告書を追認するに止まる。
 PCがニューヨークのシーンで時間を掛け過ぎるようならば、教会、マフィア、扇動家に操られた暴徒、その他が、有形無形の妨害を仕掛けて来るというようなイベントを起こし、田舎町への調査旅行に出発するように誘導すると良い。

 ミネソタ州の田舎町へは、「鉄道と乗り合い馬車」で赴くのが一般的な方法である。PCが十分な金を持っているならば、全旅程を自前の馬車で移動しても構わない。どちらにしろ、旅には数日かかる。

 目的の田舎町の住人は少なからずウィルスに感染していている。以下に進行度合についてまとめる。

第1段階  キリスト教の暦に従って生活リズムを刻み、登山と狩猟を好意的に考えるようになる。暴力行為に幾らか寛容で、例えば「教育に体罰は必要だ」などの意見を持つようになる。
 住民のほとんどはこのレベルである。
第2段階  日曜日以外にも機会があれば教会へ通い、登山、狩猟を嗜み始める。
 狩猟において、密かに小動物の虐殺を楽しむようになる。
 若い世代ではこのレベルに進む者が増え出している。症状としては、まだ異常とは見做せない。
第3段階  祝祭日の尊重の仕方が病的気質を帯び始める。登山と狩猟に関する技能を持つまでになる。
 暴力行為を好む性癖が際立ち、切っ掛けがあれば殺人を犯しかねない程になっている。言動に注意を払えば、その異常さを察知できる。
 Xが地元少年のヒーローだった時代の仲間たちの多くはこのレベルに進行している。第3段階の症状を持ち、現在も町に住んでいるのは、“宿屋の主人”と“教会の牧師”と“陸軍徴募センターの係員”の3人である。
第4段階  Xのコピーに等しい性癖になる。殺人快楽症に陥り、積極的に“狩り”を始める。
 今のところ、X自身しかこの段階には進行していない。

 田舎町に滞在している人間は、常にウィルスに感染する可能性がある。当初は“第0段階”だが、恐怖判定失敗2回につき、病状が1段階進行する。PCが感染した場合、「何だか、山登りに興味が湧いて来るのを感じた」などと曖昧な言い方で症状が現れた旨を伝える。
 PCに先駆けて調査をしていたNPCたちは、第3段階まで症状が進行した後で異常を自覚して、第4段階に進む直前で自殺したり発狂したりしている。

 PCから見れば、町の人間は「迷信深いくらいに信心深く、ナショナリストで、過激な意見が多い」と映る。典型的な田舎町で、余所者には居心地の悪い独特の常識に支配された僻地という訳である。多くの住民がウィルス感染の第1段階症状を示しているので、“登山”や“狩猟”というキーワードを発すると好意的な反応が返って来るが、異常と決め付けられる程では無い。
 PCは、ここでプロファイリングに適合する人物を探し当てる為に、適当な理由を付けて酒場などで話を聞きだそうとするだろう。適切なロールプレイがなされれば、以下の2つを知る事ができる。

@町を出た二十代後半〜三十歳の男性(Xと同じ年代)は、200人以上いる。それぞれの親元を個別訪問でもしない限り、「何処に移り住んだのか」「プロファイリングに適合する性質を持っていたか」といった事は分からない。

A町に残った二十代後半〜三十歳の男性も多数いるが、こちらは、プロファイリングに適合する名物人間3人の話を聞く事ができる。
 このX候補の3人とは、“宿屋の主人”と“教会の牧師”と“陸軍徴募センターの係員”である。
 いずれも30歳で、キリスト教の暦に従って生活リズムを刻み、登山と狩猟を得意としている。何かに付けて枕詞に「俺が陸軍にいた頃は」と口にするが、従軍中の詳しい話しや除隊理由を聞くと話をはぐらかせるという。
 ちなみに、「普段はこの田舎町で暮らし、ときどきニューヨークに出掛けて殺人を行う」という行動を取る事は不可能では無い。3人は、「狩猟の為に山に入る」と言って1週間以上も姿を消す事がよくあるので、アリバイは無い。

 この辺りで区切りを付け、夜になったとする。町に宿屋は“宿屋の主人”のところしか無いが、PCが望むならば野宿させても良い。
 どちらにしろ、最初の日の夜に、PCは田舎町の近くにある山で雄叫びを上げている者がいる事に気付く。
 調査に赴くと、何者かが小動物を切り刻んで放置していた跡を見付ける。ここで恐怖判定を行う。
 適当な技能判定に成功して足跡を付けるなどすれば、すっかり理性を無くしてしまった“大手新聞記者”が野人のように暮らしているのを見付ける。“大手新聞記者”は、大都会で生まれ育った人間とは思えない程の熟達した登山・狩猟技術を駆使してPCから逃げようとする。捕える事に成功しても、基本的に意味不明な事しか話さない。適当な技能判定に成功して心を落ち着かさせても、「僕はXじゃない」などと言っていると分かるのが精一杯である。展開と雰囲気次第で、ここでも恐怖判定を行う。

 山でのイベントの後、PCが“宿屋の主人”と“教会の牧師”と“陸軍徴募センターの係員”に興味を持って接触するものとして進める。

 3人の内の誰から接触するにしろ、反応は似たり寄ったりである。
 3人とも武器を手近に置き、PCの目の前で手入れを行ったりする。仕掛けに捕まったネズミをいたぶったり、ときどき意図不明な笑みを漏らすなど、どこか歪みを感じさせられる。
 尾行して技能判定に成功すると、人目に付かない場所で彼らが小動物を殺して悦に入る場面を見る事ができる。その他、立ち居振舞いがいちい怪しく、適当なシーンで恐怖判定をさせる事。
 適切なロールプレイを行えば、3人が少年時代に“クラブ”を結成していた話を引き出す事ができる。その際、リーダーだった少年(=X)の本名を聞く事もできる。プレイヤーが「クラブのリーダーだった少年がXだったとして、当時の情報を集めてニューヨークに持ち帰る意味があるのか?」と疑問を持つようならば、「ある程度ならば市長のコネも利用できるし、最低でも顔写真は入手できる。場合によっては、現在の職業や通っている教会なども分かるかもしれない」と答えフォローしておく事。

 Xの身元判明前後に、クライマックスとして「PCの調査が最期の切っ掛けになって、とうとう第4段階に症状が進む者が現れる。PCは、その最初の犯行現場に出くわし、戦いになる」といったようなシーンを付け加えても良いだろう。



結末

 ミネソタ州の田舎町を去るとき、昆虫や小鳥を残酷に殺して遊ぶ子供たちを目撃する。この辺りで、Xの狂気は感染性があるのではないかと嫌でも思わされる描写をしておくと良い。

 ニューヨークに戻ったPCが、“名物精神科医”にXに関する情報を示せば、一定期間の後にXの現在の住所が判明する。
 ただし証拠は無いので、張り込みや尾行を続けて、殺人を実行しようとするところを現行犯逮捕するしか無い。
 最終的には、Xとの戦いになり、PCが勝利するという展開になるだろう。Xは、死の間際(逮捕され連行される間際)に「種は蒔かれた。俺は独りでは無い」と言い残す。
 実は同時刻、他にも殺された少年がいたのである。嫌な余韻を残しつつ終わる。



さいごに

 元ネタはケイレプ・カーの『エイリアニスト−精神科医−』である。これはミステリであり、ホラーやSFでは無い。シナリオ中のホラー的な仕掛けは私の創作である。
 元ネタ小説の序文によると「20世紀に入る以前には、心の病気に苦しむ人は、社会全体から“疎外(エイリアネイト)”されているばかりか、自分の本性からも疎外されているものと考えられていた。そこで心の病気を研究する専門家たちまでが“エイリアニスト”と呼ばれていた」とのことで、タイトルはそこから付けられている。

 基本的に単純なシナリオとなっている。シナリオに書いた大半の文章は、元ネタ小説から孫引きした“本物らしさ”に関するウンチクである。これらは、プレイヤーを幻惑して引き込ませる小道具として使って欲しい。
 元ネタの小説をプレイヤーが読んでいたとしても問題にはならない。むしろ、“本物らしい仕掛け”をより“本物”と思ってくれる可能性すらある。




シナリオ書庫に戻る

TOPページに戻る