No. タイトル システム 登録日 改稿日
0073 先行偵察任務 SW 00/04/15



はじめに

 このシナリオは、『ソードワールド』の使用を想定して書かれた。2000経験点程度を得たPCを対象とする。
 しかし、汎用ファンタジーとして使用可能である。



登場NPCおよび重要事項

アモフ 科学文明の発達した世界から、フォーセリア世界へ異次元転移してしまった男。自らの持つ科学技術を使って人々を救う内に、いつの間にか教祖に祭り上げられ後戻りできなくなって悩んでいる。
幹部 アモフを教祖と祭り上げるフォーセリア人。どんな些細な事でも「神の御技だ」と持ち上げる。
神官騎士団 辺境を巡回する邪教徒討伐戦ジャンキー。イメージは十字軍騎士。



事前状況

 科学文明の発達した世界から、フォーセリア世界へ異次元転移してしまったアモフという名の男がいた。アモフは天才的な技術者で、多岐に渡るモノの作り方に通じていた。転移した先が辺境の極貧地域であった事もあり、アモフは自分が生きる為に、人々を救う為に、そしてアイデンティティーを保つ為に、様々な機械その他を苦労の末に作り出していた。
 そして数十年が過ぎた。
 かつての極貧地域は、今では窒素肥料のお陰で十分な食料を生産できるようになっていた。その他、幾つか先進的な農業技術や医療技術も取り入れられていたし、アモフが余暇に作った仕掛け時計が人々を楽しませたりもしていた。
 アモフはフォーセリア人に技術を教えたが、「何故そうなのか?」という理論を教える事を怠っていた。ついつい口癖で「まあ、奇跡みたいなものだよ」などと言っていた事もあり、そのせいでフォーセリア人たちは「アモフは神の使いで、科学技術は奇跡である。モノを生産する手順は儀式である」という認識を持つに至った。後になってアモフは、フォーセリア人の勘違いに気付いたが、それはそれで問題が無いだろうと思い放置した。
 やがてアモフも老人になり、体が思うように動かなくなってきた。その頃になると、その辺境地域は新興宗教を中心に据える社会組織としてまとまり、フォーセリア人の幹部らが“司祭”を名乗って「神のお告げ」と称して自分たちの考えを教義とした。そうなってくると、例えば五大神の熱心な信者などが反感を抱くようになり、軋轢が生じた。
 反感を抱く人間は、新興宗教を邪教として、外部に訴えて滅ぼしてもらおうと考えた。これを事前に察知した新興宗教幹部は、反感を抱く人間を襲撃して皆殺しにした。
 その皆殺し作戦に、かつてアモフが作ったマスケット銃が用いられた事もあり、アモフは激しく後悔した。何とか、マスケット銃の使用を禁止する命令だけは通したが、既に確立した“新興宗教組織”を変える事はできなくなっていた。

 一方、その頃、とある地方のファリス神殿では、「神殿所属の神聖騎士団による、邪教徒殲滅ローラー作戦」を行っていた。
 辺境に中隊規模の神官戦士団を派遣して、「サーチ&デストロイ」を行うという単純かつ乱暴なもので、そのフォローの為に、子飼いの冒険者に下調べをさせていた。



導入

 PCは、上記“事前状況”にある神官戦士団の子飼いないしそれに準じる冒険者であるとする。
 その関係で、PCは「辺境の村に邪神教団があるという噂があるので、それを確かめ、真実ならば近くを巡回中の神官騎士団に報告して滅ぼす」という任務を命じられ応じるものとして進める。報酬は前金で多目に出されるので、装備を整え直す事もできる。



本編

 「邪神教団が巣食うと噂される辺境の村」とは、アモフの村である。
 アモフの村は遠く離れているので、出発点となる町で目的地の事を聞き回っても、「かなり貧しい地域らしい」という古い情報しか手に入らない。
 アモフの村を中心とした経済圏は、他の経済圏と孤立しているので、隊商の類も行き来していない。出発点の町の経済圏との間には、徒歩で数日かかる無人の荒野が横たわっている。

 アモフの村を中心とした経済圏に入ったばかりの所で、焼けて立ち枯れた木々をPCは見掛ける。十年以上前に山火事でもあったと思しき様子だが、レンジャー技能で詳しく調べると、「この辺りは、かつて小さな集落だったらしいが、焼き討ちされたらしい」と分かる。

 さらに半日ほど進むと2〜3軒の農家が見付かる。農民たちは冒険者技能を持たないので、接触せずに進む事は難しくない。
 農民たちは極端に排他的なので、PCが姿を現わして接触を求めても冷たくあしらい、しかも後で余所者が来た事を報告する為に何処かへ人を派遣しようとする。派遣された農民をPCが尾行するならば、アモフのいるこの辺境地方の中心の村を発見する事ができる。
 農民を尾行しなくとも、数日間〜1週間程度の時間をかけて住民の動向を観察すれば、ある場所(=アモフの村)を中心に経済が動いている事が分かる。

 これらの活動を通してPCの存在が農民たちにバレれば、アモフの村から捜索部隊が出される。捜索部隊のほとんどが、せいぜいファイター1レベルを持つくらいなので、やり過ごすなり血路を開くなり容易にできるが、PCがノンビリし過ぎるようならば“押し”として活用する事。

 アモフの村は、むしろ町と呼ぶべきほどの規模があり、周囲を丈夫そうな木の柵で囲まれていて、門番が出入りを管理している。
 方法はともかく、調査を進める為にPCは、アモフの村に潜入せざるを得ない。
 村に忍び込んで観察し、セージなどの適当な技能判定に成功すると、「土木工事にクレーンを使用したりしている」「理解できない方法で肥料(実は窒素系化学肥料)を製造している」「古代のドワーフでも作れないような精巧な仕掛け時計がある」など進んだ文明を持っているのが分かる。
 また、半日ほど村人の言動を観察すれば、「1人の老人を教祖と崇めている」と分かる。この際、“セージ+知力”判定で13以上が出れば、「“奇跡”と称しているのは、先進的な科学技術を指すらしい」と分かる。判定に失敗した場合、化学肥料や複雑な機械仕掛けに関してはPCも「魔法か奇跡だろう」と思ってしまうが、それでも「クレーンなどの明らかな技術による品をも“奇跡”と称しているのはおかしい」というくらいの判断は付く。

 アモフは、今でも工場の視察などの為に外出しており、その際、お供に付いている実権を握る幹部たちに「科学技術は奇跡でも魔法でもない」と事ある毎に演説しているが、村人の反応は暖簾に腕押しで何も事態は変わらない。
 PCが、村に2日以上滞在したり、或いは教祖(=アモフ)を探すなどの行動を取ったならば、こういった現場に出くわし会話を耳にする事ができる。また、より積極的にアモフの周囲を探るならば、住居や行動日程を知る事ができる。

 PCが極秘裏にアモフと接触を取ろうとする場合、アモフはできる限りフォローする。他のNPCに邪魔されない会見場所をセッティングしてPCの話を聞き、PCが「何でもかんでも“神の御技”にしたりしない人種」だと分かれば、これまでの経緯を説明する。
 PC側が自分の事情を隠す場合、アモフは「自分の命がある内に何とか事態を修正したい」と愚痴を言うのみである。
 PC側が正直に来た目的を話す場合、アモフは「一般市民の生命財産は絶対に守りたい」「現政治体制の維持はどうでも良い。神官騎士団のメンツを満足させる為に、幾つかの施設を破棄するのは構わない」「ただし、化学肥料工場がなければこの地方は今の人口を支えられないので、これだけは譲れない」と言うと考え込み始める。アモフはPCに知恵を貸して欲しいと頼み、そこで良い提案が出るにしろ出ないにしろ、「よく考えたいので、24時間後(或いは、PCが指定する刻限)に再び会おう」という事になる。
 なお、PCとアモフの会話は、村の幹部によって盗聴されている。方法については、伝声管でも魔法でも何でも良いので、状況的に辻褄の合う言い訳を用意しておく事。
 幹部は、PCが「神官騎士団の先行偵察をしている」事について口にしていた場合、教祖(=アモフ)を裏切り者と見做して、幹部は造反を決意する。幹部は、使用を禁じられていたマスケット銃を持ち出し、教祖(=アモフ)とPC逮捕しようとする。この時点では、「体の弱いアモフには無理だが、PCならば使える脱出口」があるとして、PCは逃亡できるように誘導する。幹部はアモフを軟禁して、神官騎士団との戦いの準備を行う。

 PCが、近くで待機するファリス神官騎士団と接触を取ろうとする場合、村との往復で丸1日かかる。
 神官騎士団の連中は、隊長以下全員が“邪教徒討伐戦ジャンキー”で、PCの報告を首を長くして待っている。アモフの村には五大神殿が無いのだが、それを知っただけでも「邪教徒である」と断定するような人間であり、PCにもすぐにそれが分かる。
 神官騎士団が大人しく待機しているのは、PCが請け負っている事前調査を待つのが義理だと思っているからと、中心地であるアモフの村の場所を知らないからである。



結末

 PCが事前調査任務をサボタージュした場合、痺れを切らした神官騎士団は戦闘行為を始めてしまう。近隣の農民を襲ってアモフの村の場所を吐かせるなど、焦土戦にしてしまう。
 「邪教徒はいなかった」と報告した場合、どうしても戦争がしたい神官戦士たちは、「自分たちの目で確認する」と言い出す。結局は、幹部の戦闘部隊と衝突するので、戦いは避けられない。

 PCが干渉しなかった場合、当初はマスケット銃を持つ幹部の戦闘部隊が押すが、やがて回復魔法が使える神官騎士団が盛り返して勝利する。血に酔った神官騎士は、村に火を放ち、一般市民も含めてほとんどを皆殺しにする。
 PCが積極的に神官騎士団に協力した場合も、同様の結末を迎える。

 PCが幹部たちに味方しようとしても、受け入れられない。
 PCが独力で幹部の戦闘部隊を倒すのも、事実上、不可能である。

 監視が手薄になっているので、アモフを救出する事はPC独力でも可能である。ここで適当にクライマックス戦闘を演出して、PCがアモフを救出する方向に誘導する。マスケット銃は打撃力30の魔法として扱い、再装填には2ラウンドかかるとする。

 救出されたアモフは、「戦闘は神官騎士団の勝利で終わるだろう。頃合いを見計らって自分(=アモフ)が姿を現わして、『村人を騙して邪教を蔓延らせようとしたが、あと一歩で失敗した』と嘘の告白をした末にPCの剣にかかって死ぬ」というお芝居をしようと提案する。

 PCがお芝居に協力するならば、戦闘に勝って一応は満足している神官騎士団は、簡単に騙される。神官騎士たちは、アモフの死体を突ついて生き返らない事を確認すると、後はPCに任せて村を去る。村では化学肥料の生産施設など生存に必要な技術は(原理を知らないままに)残される事になる。



さいごに

 1999年末に話題になった“ライフスペース事件”から発想したシナリオである。
 ハッピーエンド路線で進めると一本道だが、プレイヤーがそれに不満を持つようならば、要所要所で「天邪鬼に行動した場合にどうなるか」を考えさせる事で誘導して欲しい。




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