No. タイトル システム 登録日 改稿日
0072 自殺×株価×殺人鬼 N◎VA 00/04/08



はじめに

 このシナリオは、『トーキョーN◎VAレボリューション』の使用を想定して書かれた。
 しかし、他のサイバーパンクや他の類する世界背景のRPGでも使用可能である。

 『トーキョーN◎VAレボリューション』を使用の場合、『グランド×クロス』P.135で提案されているPC同士の円構造コネを持ち合う事。



登場NPCおよび重要事項

幹部 大手製薬メーカーの岩崎製薬の平取締役。担当していたエイズ治療薬開発プロジェクトが、思わぬ成り行きから会社の屋台骨を揺るがしかねない程のお荷物となってしまい、焦っている。そこで、自分の責任で非人道的な計画を秘密裏に行う事になった。
パット 岩崎製薬に勤める医学研究者。関わっていたエイズ治療薬プロジェクトが重大な欠陥を持つ事と、それによる莫大な損失を補填する為に会社が非人道的な手段を取った事をしり、悩んだ末に外部に訴えようとした。しかし、その前に謀殺されてしまう。PCの友人でもある。
ブラック・ヴァンパイア レッドエリアのX市民ばかりを狙う連続殺人鬼。死体に薬物を注入して被害者の肌を黒く変色させる事から、この名で呼ばれている。実は、岩崎製薬が独自に行った臨床実験の被験者を狙って殺しまわっている。



事前状況

 現代で言えばエイズに相当する病気が、トーキョーN◎VAの世界にも存在する。便宜上、その病気の名を“エイズ”と称する。

 さて、大手製薬メーカーである岩崎製薬は、画期的なエイズ治療薬の開発を進めていた。
 エイズのメカニズムは、レトロ・ウィルスがRNAを書き換え、それがさらにDNAを書き換えてしまう事で患者は免疫不全になる。そこで発想を逆転させて、患者のDNAのうち、エイズ発生には関係するが、生きる上では必要ない“クズDNA”を破壊する事で治療しようと考えた。
 治療方法の理論は完璧で、岩崎製薬は社運を賭けて研究を進めさせた。

 ところで、トーキョーN◎VAと言えども、新しい薬や治療方法を世に広める為には当局の許認可を得なければならない。当局は、段階を踏んで少しずつより本質的な試験を行う。臨床試験(人体実験)はその最終段階に当たる。
 岩崎製薬は、当局の試験を待っていられず、独自に試験を進めた。しかし、動物実験までは完璧な結果を示したのに、極秘裏に行った臨床試験は悲惨なものだった。レッドエリアに住むX市民のエイズ患者を対象に実験を行い、確かに全員がエイズは治ったが、同時に未知の病気にかかってしまったのだ。
 新種の病気のせいで半数が短期間で死亡した。残り半数は陰性だが発病の可能性はあるし、性交渉で他人に感染させてしまうかもしれなかった。

 研究開発費の全てが無駄になり、会社の信用も失われ、後始末にまで金がかかるとなると、岩崎製薬の屋台骨を揺るがしかねない程の損害になる。
 事態を憂えた幹部は、1つの奇策を編み出した。
 幸い、当局による治療薬の試験は未だ半ばだった。当局の試験を1つクリアーする度に、岩崎製薬の株価は上昇し続けるに違いない。最期の臨床試験の結果が出てしまえば株は暴落しようが、それまでにはまだ間がある。
 そこで幹部は、密かに自社株を大量に買い漁ったり、株式の未発行分を増資したりした。電子取り引きが主流の現代では、莫大な株券を一気に売り抜ける事も可能なので、この差益で損失を補填できる。
 幹部はそう考えた。

 こうなると、人体実験に使ったX市民の生き残りは二重の意味で邪魔だった。
 第1に彼らから秘密が漏れれば「自社株を暴落直前に売り抜ける」という計画が頓挫する。
 第2に現在の医学技術をもってしても手に余る新種の病気が広まれば、下手をすると人類存亡の危機にもなりかねない。
 そこでプロの暗殺者を雇い、連続殺人鬼の振りをして被験者を殺し、さらに死体に「DNAを破壊して情報を読み取れなくする薬」を注入させた。

 ちなみに、これらの計画は全てその幹部1人の独断専行という形で進められた。万一にもこんな計画を企んだと世間に知れれば間違いなく岩崎製薬は潰されるので、最悪でもそれだけは食い止める保険だけはかけた訳である。

 岩崎製薬に所属する、パットという名の若き医学研究者がいた。
 パットは、自分が関与したプロジェクトが思わぬ方向に進むのに心を痛め、世間に事実を公表しようと考えた。しかし、挙動を怪しまれ監視されていたので、実行に移す前に暗殺され、「ノイローゼによる自殺」という事にされてしまった。



導入1:パットの友人

 PCの1人は、パットの友人であるとする。このPCは、メディック系タタラである事が望ましいが、そうでなくとも良い。

 導入1のPCとパットは若い頃の親友で、互いに忙しくて1年ほど会っていなかったが、PCには彼が自殺したとは信じられない。
 パットは「会社で重要な仕事を任されている」と満足そうに言っていたし、婚約して数ヶ月後には結婚する予定だったのだ。
 葬式で会ったパットの婚約者も思いは同じで、彼女から依頼された事もあって、導入1のPCは真相の調査に乗り出す事になる。



導入2:千早の証券取引部門の後方処理要員

 PCの1人は、千早(または岩崎製薬とライバル関係にある企業)の証券取引部門に所属する後方処理要員(荒事屋)であるとする。

 岩崎製薬が自社株を買い漁っているとの噂をキャッチした千早は、証券取引所で得られる情報には限界があると考え、導入2のPCに直接行動による情報収集を命じる。



導入3:X市民の依頼

 被害者全員がX市民である事から、警察はレッドエリアの連続殺人事件を捜査していない。死体の首筋に注射針の跡があり、皮膚が一様に黒く変色している事から、この殺人犯は“ブラック・ヴァンパイア”と呼ばれている。
 PCの1人は、X市民有志に雇われ、捜査に乗り出すものとする。依頼者は、X市民の間で顔役的な立場にいて、聞き込みなどX市民相手の捜査には便宜が図られる。



本編

 一見、何の関連性も無い3つの事件が、実は1つの真相に結びついて行くという形式で序盤のストーリーは進行する。
 PCは円構造コネを持ち合っていて、他人の導入シーンにも登場して良い。むしろ、マスターは積極的に登場判定を促すようにすると良い。例えば、導入3のPCが“ブラック・ヴァンパイア”の被害者の死体を調べようとするならば、<メディック>を持つ他のPCが登場して請け負うなどと展開させる。

 最初からPCを1つのパーティーとして扱っても良いが、その場合は序盤が早く展開し過ぎてしまうだろう。合流のタイミングでメリハリが大きく変わるので、調整に気を付けて欲しい。

 パットの住居や遺留品を調べるならば、婚約者から家の鍵などを貸してもらえる。
 パットの住んでいたマンションは、既に何者かによって家捜しがされている。しかし、パットの旧友である導入1のPCで無ければ気付くことができない場所から、正体不明の薬の分子構造データと、30人ほどの人間のリストが入った記録メディアが見付かる。

 正体不明の薬の分子構造データを調べると、それが今、業界内で話題になっている、岩崎製薬の画期的なエイズ治療薬だと分かる。

 リストにある人間の内、15人は“ブラック・ヴァンパイア”の被害者である。
 適当なロールプレイと技能判定を行えば、残り15人の内の何人かを探し出す事ができる。“リストに載っている人間”から話を聞いたり、体を調べる事により、「彼が岩崎製薬らしき会社から薬の臨床試験の人体実験の仕事を内密に引き受けた事」と「彼が患っていたというエイズは完治しているが、別なより性悪な新種の病気にかかっている事」が分かる。
 PCが「ひょっとしてリストに載っている全員がエイズ患者だったのではないか?」と疑うならば、聞き込み調査を行う事で裏付けが取れる。

 “リストに載っている人間”を囮にして、連続殺人犯“ブラック・ヴァンパイア”を罠にはめる事ができる。
 襲って来た犯人と戦い倒すと、携帯電話のメモリーに岩崎製薬のエージェントの窓口が入っていたり、一般では手に入り難い特殊な薬品を持っていたりして、岩崎製薬が背後にいる事を示す状況証拠が手に入る。

 岩崎製薬の株価の上昇について、経済アナリストは「経営実態に合わないバブルだ」という者が多い。
 製薬業界に詳しい者は、エイズ治療薬が過大に評価されていると見做している。また、自社の薬に自信があるならば、当局を急かして早く認可をもらおうとする筈なのに、むしろ試験を引き伸ばそうとしているようにも見えるので訝しまれている。

 導入3のPCならば、“ブラック・ヴァンパイア”被害者の死体を手に入れる事ができる。適当な技能判定に成功したならば、被害者は殺された後でDNAを破壊する薬を注入されたと分かる。



結末

 NPC側から真相が推理される事は決して無い。イベントを通してプレイヤーが真相を推理して正解を教えるならば、千早の協力を得る事もできる。
 千早は、株価暴落前に、手持ちの岩崎製薬株を売り抜けられるならば何の文句も無い。

 真実をすっぱ抜くならば、“幹部”を含む何人かが刑事罰を受ける。岩崎製薬は大ダメージを被るものの倒産だけは免れる。
 その他、PC次第で様々なオチが考えられるだろう。



さいごに

 元ネタはパトリック・ラインケンの『遺伝子封殺』である。RPG向けに内容は変えたが、それでも引用率は高い。
 多分に“真相当てクイズ”的なシナリオなので、プレイヤーが元ネタを知っているならば、セッションが崩壊する可能性もある。その辺り、プレイヤーに確認を取るか、敢えて黙したまま進めるか、マスターが判断して欲しい。




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